(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の共振周波数を有する第1の物質と第2の共振周波数を有する第2の物質とを有して成る被検体を静磁場中に配置して、該被検体の2次元励起領域を2次元励起するための高周波磁場および傾斜磁場を伴うパルスシーケンスを用いて、前記2次元励起領域から発生するエコー信号の計測を制御する制御部と、
前記第1の共振周波数と前記第2の共振周波数とに基づいて、前記第1の物質と前記第2の物質についてそれぞれ所望の領域が2次元励起されるように、前記高周波磁場の照射周波数を設定する照射周波数設定部と、
前記2次元励起領域の励起角度と、前記照射周波数と前記第1の共振周波数との周波数差と、に基づいて、前記高周波磁場の照射ゲインを設定する照射ゲイン設定部と、
を備えていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
第1の共振周波数を有する第1の物質と第2の共振周波数を有する第2の物質とを有して成る被検体を静磁場中に配置して、該被検体の2次元励起領域を2次元励起するための高周波磁場および傾斜磁場を伴うパルスシーケンスを用いて、前記2次元励起領域から発生するエコー信号の計測を制御する磁気共鳴イメージング装置における2次元励起調整方法であって、
前記2次元励起に係る撮像条件の入力ステップと、
前記第1の共振周波数及び前記第2の共振周波数を算出するステップと、
前記2次元励起に係る撮像条件と、前記第1の共振周波数と前記第2の共振周波数とに基づいて、前記第1の物質と前記第2の物質についてそれぞれ所望の領域が2次元励起されるように、前記高周波磁場の照射周波数を設定するステップと、
前記2次元励起領域の励起角度と、前記照射周波数と前記第1の共振周波数との周波数差と、に基づいて、前記高周波磁場の照射ゲインを設定するステップと、
を有することを特徴とする2次元励起調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置及び2次元励起調整方法の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るMRI装置100の機能ブロック図である。本発明に係るMRI装置100は、磁石102と、傾斜磁場コイル103と、高周波磁場(RF)照射コイル104と、RF受信コイル105と、傾斜磁場電源106と、RF送信部107と、信号検出部108と、信号処理部109と、制御部110と、表示部111と、操作部112と、ベッド113とを備える。
【0016】
磁石102は、被検体101の周囲の領域(検査空間)に静磁場を発生する。傾斜磁場コイル103は、X、Y、Zの3方向のコイルで構成され、傾斜磁場電源106からの信号に応じて、それぞれ、検査空間に傾斜磁場を発生する。RF照射コイル104は、RF送信部107からの信号に応じて検査空間にRFを印加(照射)する。RF受信コイル105は、被検体101が発生するエコー信号を検出する。RF受信コイル105で受信したエコー信号は、信号検出部108で検出され、信号処理部109で信号処理され、制御部110に入力される。制御部110は、入力されたエコー信号から画像を再構成し、表示部111に表示する。また、制御部110は、傾斜磁場電源106、RF送信部107、信号検出部108の動作を、予め保持される制御のタイムチャートおよび操作部112を介して操作者から入力された撮像パラメータに従って、制御する。制御のタイムチャートは一般にパルスシーケンスと呼ばれる。ベッド113は被検体101が横たわった状態で検査空間に搬入・搬出を行なうためのものである。
【0017】
なお、MRI装置100は、検査空間の静磁場不均一を補正するシムコイルと、シムコイルに電流を供給するシム電源とをさらに備えてもよい。
【0018】
現在MRIの撮像対象は、被検体101の主たる構成物質である水や脂肪のプロトンである。プロトン密度の空間分布や、励起されたプロトンの緩和現象の空間分布を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0019】
本発明では、所定の空間領域を選択的に励起するSS(Spectral-Spatial)法を撮像に用いる。ここで、SS法のパルスシーケンスを、従来の励起法のパルスシーケンスと比較して説明する。
図2は、本発明に係るSS法によるパルスシーケンスの一例を従来の励起法によるパルスシーケンスと比較して説明するための図である。
図2(a)は、従来の励起法によるパルスシーケンスを示し、
図2(b)は、本実施形態に用いるSS法によるパルスシーケンスを示す。
【0020】
従来法として、z軸方向の位置のみが特定された任意のスライスを選択的に励起する例を示す。また、SS法では、xy平面上の形状のみが特定された任意の柱状領域を選択的に励起する例を示す。ここでは、xy平面上で特定される形状を円とする。また、本明細書のパルスシーケンス図において、RF、Gx,Gy、Gzは、それぞれ、高周波磁場(RF)パルス、x軸方向の傾斜磁場、y軸方向の傾斜磁場、z方向の傾斜磁場の印加のタイミングチャートである。
【0021】
図2(a)に示すように、従来法では、RF201の印加時に、z軸方向に一定のスライス選択傾斜磁場(Gz)202を与える。これにより、z軸方向の位置のみ特定された所定の平面状領域(スライス)が選択的に励起される。一方、
図2(b)に示すように、SS法では、RF(2DRF)211をx軸方向の振動傾斜磁場(Gx)212およびy軸方向の振動傾斜磁場(Gy)213とともに印加する。これにより、z軸に平行な軸を有するシリンダ形状の領域が選択的に励起される。いずれの手法においても、励起された領域から得られるエコー信号は、位相エンコードが付与され、時系列にサンプリングされ、k空間に配置される。k空間に配置されたエコー信号(データ)にフーリエ変換が施され、画像が取得される。ここで、位相エンコードの数は、通常1枚の画像あたり、128、256、512等の値が択ばれる。また、サンプリング数は、128、256、512、1024といった値が選ばれる。
【0022】
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の概要を説明する。本発明は、共振周波数の異なる第1の物質と第2の物質とを有して成る被検体を静磁場中に配置し、所望の2次元励起を行うための高周波磁場(2DRF)および傾斜磁場を伴うパルスシーケンスを用いて、被検体から発生するエコー信号の計測を行う際に、2次元励起に係る撮像条件と、第1の物質の共振周波数と第2の物質の共振周波数と、に基づいて、第1の物質と第2の物質についてそれぞれ所望の領域が2次元励起されるように、高周波磁場を調整し、調整された高周波磁場を被検体に照射して、エコー信号の計測を行う。
【0023】
そこで、本発明に係るMRI装置100の制御部110は
図3に示す機能ブロックを有して、上記2次元励起用の高周波磁場(2DRF)の調整処理を実現する。つまり、制御部110は、
図3に示すように、予め定められたパルスシーケンスにより、操作者により設定された2次元選択領域を励起するよう撮像パラメータを設定する励起領域設定部320と、パルスシーケンスを実行して2次元選択領域からのエコー信号を得る信号収集部330と、2次元選択領域を励起する2DRF用の照射周波数を調整して設定する照射周波数設定部340と、2次元選択領域を設定するためのUI画面の表示部111への表示を制御するUI制御部350と、2次元選択領域を励起する2DRFの照射ゲイン(つまりRFアンプの増幅率)を調整して設定する照射ゲイン設定部360と、2次元選択領域を励起する2DRFと共に印加する傾斜磁場を調整して設定する傾斜磁場設定部370と、を備える。そして、本発明の制御部110は、CPUとメモリと記憶装置とを備え、記憶装置に格納されたプログラムをメモリにロードしてCPUが実行することにより、上記各機能は実現される。
【0024】
高周波磁場の調整に際しては、被検体の2次元励起する領域から実際にエコー信号を収集し、その結果を用いて当該領域の2次元励起に好適な2DRFを決定して、その決定した2DRFを被検体に照射する。以後、本処理を高周波磁場調整処理と呼ぶ。なお、高周波磁場調整処理におけるエコー信号の収集時に印加するRFの照射周波数は、従来の手法で決定したもの、すなわち、撮像領域全体から得たエコー信号を元に決定した照射周波数を用いる。
【0025】
以下、第1の物質として水のプロトン(以下、単に水ともいう)を、第2の物質として脂肪のプロトン(以下、単に脂肪ともいう)を、例にして本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の各実施形態を説明するが、本発明は、水と脂肪に限らず、共振周波数の異なる2以上の物質の場合にも適用できる。
【0026】
また、2次元励起する所望の領域としては、
図5に示すような2次元シリンダ領域を想定し、その形状を表すパラメータとしてシリンダの直径φ501を指定する。なお、シリンダ領域の長軸方向の長さは任意であり、特に限定しない。また、2次元励起領域のフリップアングルを表すパラメータとしてFA(Flip Angle)を指定する。ただし、本発明に係る2次元励起を行う領域は、2次元シリンダ領域に限定されなく、任意形状の領域が可能である。
【0027】
<<第1の実施形態>>
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の第1の実施形態を説明する。本実施形態は、水のプロトン(第1の物質)の共振周波数と脂肪のプロトン(第2の物質)の共振周波数の平均値を照射周波数とする高周波磁場を用いて2次元励起を行う。なお、本実施形態では、水の励起領域と脂肪の励起領域は共に同じ位置であって同じ直径φを有する2次元シリンダ領域であり、水の励起領域のフリップアングルと脂肪の励起領域のフリップアングルは共に同じ角度FAとする。以下、本実施形態のMRI装置100の構成と処理手順を説明する。
【0028】
最初に、本実施形態の2DRF用の高周波磁場調整処理の処理フローを
図4に基づいて説明する。なお、この照射周波数調整処理に先立ち、従来の手法で、撮像領域全体の信号から全体照射周波数F0を決定しておく。
【0029】
ステップ401で、UI制御部350は、UI画面を表示部111に表示し、操作者が撮像したい領域、及び/又は、2次元励起領域の位置及び形状とフリップアングルFAの設定入力を受け付ける。操作者は、このUI画面上で、撮像したい領域、及び/又は、2次元励起領域の位置及び形状とフリップアングルFAを設定入力する。UI制御部350は、UI画面を介して撮像領域、及び/又は、2次元励起領域の入力を受け付けると、励起領域設定部320に当該領域を通知する。
【0030】
具体的には、UI制御部350は、
図5に示すような、2次元励起領域の位置及び形状を設定するためのUI画面500を表示部111に表示する。
図5に示すUI画面500には、予め取得した位置決め画像510が表示される。そして、この位置決め画像510上には、2次元励起領域であるシリンダ領域の直径φを設定可能とするハンドル501と、2次元励起領域を任意の角度に設定可能とするハンドル502と、2次元励起領域を任意の位置に設定可能とするハンドル503と、が表示される。操作者はこれらのハンドルを操作して所望のシリンダ領域を設定する。なお、2次元励起領域であるシリンダ領域の直径φとそのフリップアングルFAは、MRI装置が予め保持しておいた固定値としても良い。ただし、本実施形態における2次元励起領域の断面形状は任意に設定可能なので、断面形状は円形に限定されない。
【0031】
ステップ402で、ステップ401で設定された2次元励起領域のプリスキャンが行なわれ、その2次元励起領域における共鳴周波数のスペクトル分布が計測される。
【0032】
具体的には、励起領域設定部320は、予め定められたパルスシーケンスにより、ステップ401で設定された2次元励起領域を励起するよう撮像パラメータを設定する。このとき、RFの照射周波数には全体照射周波数F0を用いる。次に、信号収集部330は、設定された撮像パラメータで上記パルスシーケンスを実行(プリスキャン)し、2次元励起領域からのエコー信号を得る。その際、位相エンコードやスライスエンコードを付加せずにエコー信号を得る。そして、照射周波数設定部340は、2次元励起領域からのエコー信号を時間方向にフーリエ変換(FT)して、その2次元励起領域における共振周波数(スペクトル)分布を得る。このスペクトル分布の一例を
図6に示す。プリ
スキャンによる励起を2次元励起領域に限定して行うことにより、静磁場不均一の影響を排除することもできる。
【0033】
ステップ403で、照射周波数設定部340は、ステップ402で作成されたスペクトル分布に基づいて、水と脂肪の共振周波数F0
W、F0
Fを決定する。
【0034】
具体的には、被検体を構成するプロトンの内、撮像で対象となるプロトンは、主に水と脂肪のプロトンであることから、スペクトル分布において、高周波側に存在するピーク601を水のプロトンの共振周波数F0
Wとし、低周波側に存在する602を脂肪のプロトンの共振周波数F0
Fとする。或いは、水のプロトンの磁気回転比γ[Hz/T]と静磁場強度B0[T]からF0
W、F0
Fを決定しても良い。例えば、水のプロトンの共振周波数γB0[Hz]に最も近いスペクトル分布のピークをF0
Wとする。更に、水のプロトンと脂肪のプロトンとのケミカルシフトαは3.5[ppm]なので、F0
W-αγB0[Hz]に最も近いスペクトル分布のピークをF0
Fとする。なお、F0
W、F0
Fの決定は、上記のようにMRI装置が自動で決定しても良いが、照射周波数設定部340が
図6のようなスペクトル分布を表示部111に表示して、操作者の設定入力を受け付けても良い。つまり、操作者が、F0
W、F0
Fを決定しても良い。
【0035】
ステップ404で、照射周波数設定部340は、ステップ401で設定された2次元励起領域の励起を行う高周波磁場(2DRF)の照射周波数を算出する。具体的には、照射周波数設定部340は、ステップ403で決定されたF0
WとF0
Fの平均値F0’を次式で算出し、2DRFの照射周波数に設定する。
F0’=(F0
W+F0
F)/2 (1)
ステップ405で、ステップ404で算出された2DRFの照射周波数F0’に基づいて、ステップ401で設定されたシリンダ直径φを有する2次元励起領域がフリップアングルFAで励起されるように、照射ゲイン設定部360は、そのフリップアングルFAとなるような照射ゲインを計算し、傾斜磁場設定部370は、好適な傾斜磁場強度を算出する。
【0036】
具体的には、水のプロトンの共振周波数F0
Wと2DRFの照射周波数F0’の差をΔFとする。ΔFとフリップアングルFA及びΔFとシリンダ直径φは、それぞれ
図7、
図8に示すような関係にある。
図7、
図8の関係は、2DRFの照射時間(Duration)、FA、φ、及びk空間トラジェクトリに依存して決まる。
図7、
図8に示すように、φとFAの変化は、ΔF=0に対して対称である。F0’はF0
WとF0
Fの平均値なので、照射周波数F0’と水のプロトンの共振周波数F0
Wの差の絶対値、及び、照射周波数F0’と脂肪のプロトンの共振周波数F0
Fの差の絶対値は、共に同じ値である|ΔF|となる。
【0037】
そこで、
図7をΔFに対するフリップアングルFA’の関数FA’(ΔF)、
図8をΔFに対するシリンダ直径φ’’の関数φ’(ΔF)とした場合、ΔFが決定されれば、ΔFだけ共振周波数が変化した場合のシリンダ直径φ’とフリップアングルFA’を決定できる。
【0038】
2DRFの照射周波数としてF0
Wを設定した場合に、2次元励起領域であるシリンダ直径をφとする為に必要な傾斜磁場強度をG
W、フリップアングルをFAとする為に必要な照射ゲインをT
Wとする。そして、2DRFの照射周波数としてF0’を設定した場合に、シリンダ直径をφとするのに必要な傾斜磁場強度G
W’及び、フリップアングルをFAとするのに必要な照射ゲインT
W’は、次式で計算できる。
G
W’= G
W*φ’/φ (2)
T
W’= T
W* FA/FA’ (3)
そこで、傾斜磁場設定部370は上記(2)式に基づいて傾斜磁場強度G
W’を算出し、照射ゲイン設定部360は上記(3)式に基づいて照射ゲインT
W’を算出し、それぞれ信号収集部330に算出結果を通知する。
【0039】
ステップ406で、信号収集部330は、ステップ404で算出された2DRFの照射周波数をF0’に設定し、ステップ405で算出された照射ゲインT
W’及び傾斜磁場強度G
W’を設定したパルスシーケンスを用いて所望の領域の撮像を行う。
【0040】
特に、ステップ401で設定された2次元励起領域がプリパルスとして励起される場合であれば、プリパルス用の高周波磁場の照射周波数をF0’とした2DRFと、傾斜磁場強度G
W’と照射ゲインT
W’で、その2次元励起領域に対してプリパルスシーケンスを実行する。これにより、水領域と脂肪領域が共に、実質的に同じ位置と形状で、且つ、実質的に同じフリップアングルで、それぞれ励起されることになる。なお、プリパルスシーケンスに続く本パルスシーケンスにおける高周波磁場の照射周波数には、撮像領域全体の信号から決定した共振周波数F0を設定する。
以上までが、本実施形態の処理フローの説明である。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び2次元励起調整方法によれば、第1の物質の共振周波数と第2の物質の共振周波数の平均値を照射周波数とする高周波磁場を用いて2次元励起を行う。その際、各物質の共振周波数と実際の照射周波数との差(ΔF)に対応して、各物質の励起領域とフリップアングルとが実質的に同一となるように、照射ゲインと傾斜磁場強度が設定されて、2次元励起が行われる。その結果、共振周波数の異なる複数の物質が混在する被検体の所望の領域を2次元励起する際に、共振周波数の差異に依らずに、各物質の励起領域の位置及び形状とフリップアングルとが実質的に同じ所望の状態で励起されるとこになる。
【0042】
<<第2の実施形態>>
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の第2の実施形態を説明する。本実施形態は、共振周波数の異なる各物質のスペクトル分布の形状に対応して、2次元励起用の高周波磁場(2DRF)の照射周波数を設定する。
【0043】
例えば静磁場不均一の影響により、各物質のスペクトル分布は歪み、そのピーク位置に関して非対称でブロードな分布となる場合がある。このような場合に前述の第1の実施形態のように、各物質の共振周波数の平均値を2DRFの照射周波数とすると、各物質の2次元励起領域の形状(例えばシリンダ直径φ)とフリップアングル(FA)が所望の状態からずれてしまう。このようなずれを軽減するためには、各物質のスペクトル分布の形状に対応して、2DRFの照射周波数を設定する必要がある。そこで、本実施形態は、各物質のスペクトル分布の形状に対応して2DRFの照射周波数を設定する。以下、本実施形態を詳細に説明する。
【0044】
各物質のスペクトル分布が非対称でブロードな分布となった場合の一例を
図9に示す。
図9は、水のプロトンのスペクトル分布と、脂肪のプロトンのスペクトル分布をそれぞれ同じ周波数軸上で示したもので、特に脂肪のプロトンのスペクトル分布が非対称でブロードな分布となっている例である。この場合は、水のプロトンのスペクトル分布はそのピーク位置に関して略対称であるため、
中心周波数とピーク周波数は略一致することになる。一方、脂肪のプロトンのスペクトル分布はそのピーク位置に関して非対称であるため、
中心周波数とピーク周波数は一致しない。
【0045】
そこで、本実施形態は、各物質のスペクトル分布から、その
中心周波数を求め、求めた各物質の
中心周波数の平均値を2DRFの照射周波数とする。以下、前述の
図4に示した第1の実施形態の処理フローに基づいて、本実施形態の処理フローにおける変更箇所のみを説明する。
【0046】
本実施形態におけるステップ403では、照射周波数設定部340は、水と脂肪のプロトンの共振周波数F0
W、F0
Fの決定の際に、各物質のスペクトル分布の
中心周波数を算出して、この
中心周波数を水と脂肪のプロトンの共振周波数F0
W’、F0
F’とする。例えば、照射周波数設定部340は、最初に前述の第1の実施形態におけるステップ403の処理と同様にして、水のプロトンのスペクトル分布におけるピーク周波数F0
Wと脂肪のプロトンのスペクトル分布におけるピーク周波数F0
Fを求める。次に、照射周波数設定部340は、F0
WとF0
Fを中心とした±100[Hz]程度の範囲におけるスペクトルの重心を求め、それぞれF0
W’、F0
F’とする。具体的には、周波数fにおけるスペクトルの強度をSI(f)とした場合、以下の等式が成り立つF0
W’、F0
F’である。
図9の例では、901の水のプロトンのスペクトル分布が実質的に対称な分布であり、902の脂肪のプロトンのスペクトル分布が非対称なブロードであるので、F0
WとF0
W’とは実質的に同一となるが、F0
FとF0
F’ は異なる値となる。
【0047】
本実施形態におけるステップ404では、照射周波数設定部340は、F0
W’とF0
F’の平均値(F0’’)を、ステップ401で設定された2次元励起領域の励起に好適な高周波磁場(2DRF)の照射周波数とする。即ち、
F0’’=(F0
W’+F0
F’)/2 (6)
となる。
【0048】
以降の各ステップでは、
図9に示す様に、F0’’とF0
F’又はF0
Wとの差をΔFとすることにより、同様の処理となるので、詳細な説明は省略する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び2次元励起調整方法によれば、各物質の共振周波数の分布がそのピーク位置に関して非対称でブロードな分布となるような場合であっても、各物質のスペクトル分布の形状に対応して2DRFの照射周波数を設定するので、前述の第1の実施形態の効果と同様に、共振周波数の異なる複数の物質が混在する被検体の所望の領域を2次元励起する際に、静磁場不均一によりスペクトル分布が非対称でブロードな分布になっても、共振周波数の差異に依らずに、各物質の励起領域とフリップアングルとが実質的に同じ所望の状態で励起されるとこになる。
【0050】
<<第3の実施形態>>
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の第3の実施形態を説明する。本実施形態は、各物質の共振周波数と2次元励起用の高周波磁場の照射周波数との差(ΔF)に応じて定まる、2次元励起領域の形状を規定するパラメータ(例えばシリンダ直径φ)やその領域のフリップアングルについての制限値を求めて、求めた制限値の範囲内で高周波磁場調整を行い、所望の2次元励起を行なう。以下、前述の各実施形態と同様に、2次元シリンダ領域を励起する場合を例にして本実施形態を説明する。
【0051】
通常、設定可能なシリンダ領域の最小直径φ
minと最大フリップアングルFA
MAXは、MRI装置が出力できる最大照射ゲインと最大傾斜磁場強度から、予め計算することが可能である。しかし、前述の第1の実施形態と第2の実施形態では、各物質の共振周波数と2次元励起用の高周波磁場(2DRF)の照射周波数との差(ΔF)の決定後に照射ゲインと傾斜磁場強度が決定されるので、予めφ
minとFA
MAXを決定し、この制限値の範囲内で高周波磁場調整を行い、所望の2次元励起を行なうことができない。
【0052】
そこで、本実施形態では、ΔFを決定した後に、φ
minとFA
MAXの値を計算により求め、実際に励起するシリンダ領域の直径φとフリップアングルFAとが、これらの求めた制限値の範囲内となるようにする。以下、
図10に示す本実施形態の処理フローに基づいて、本実施形態を詳細に説明する。
【0053】
ステップ1001で、操作者は表示部111に表示されたパルスシーケンス選択UIを介して、所望のパルスシーケンスを選択する。
【0054】
ステップ1002で、照射周波数設定部340は、前述の
図4におけるステップ401〜403を同様の処理を行い、水のプロトンの共振周波数F0
Wと、脂肪のプロトンの共振周波数F0
Fと、を決定する。なお、ステップ401に相当する、2次元シリンダ領域の直径(φ)とFAの操作者による指定は、各共鳴周波数を求めるための暫定的な設定となる。
【0055】
ステップ1003で、照射周波数設定部340は、前述の
図4におけるステップ404、405を同様の処理を行い、水のプロトンの共振周波数F0
Wと2DRFの照射周波数F0’との差(ΔF)を決定する。
【0056】
ステップ1004で、励起領域設定部320と、照射ゲイン設定部360は、それぞれMRI装置が出力できる最大照射ゲインと最大傾斜磁場強度に基づいて、励起可能なシリンダ領域の最小直径φ
minと最大フリップアングルFA
MAXを求める。
【0057】
ステップ1005で、励起領域設定部320と、照射ゲイン設定部360は、2DRFの照射周波数をΔFシフトさせた場合のシリンダ領域の最小直径φ’
minと最大フリップアングルFA’
MAXとを以下の関係式を用いて求める。そして、求めた結果を、UI制御部350に通知する。
FA’
MAX = FA
MAX * FA’(ΔF) / FA’(0) (7)
φ’
min =φ
min * φ’(ΔF) /φ’(0) (8)
ここで、FA’(ΔF)とφ’(ΔF)は、それぞれ
図7、
図8に示すグラフを表す関数である。
ステップ1006で、UI制御部350は、ステップ1005で求められたシリンダ領域の最小直径φ’
minと最大フリップアングルFA’
MAXとを、前述のステップ401におけるUI画面に、操作者が入力設定可能な範囲を示す上での制限値として表示する。つまり、前述の第1の実施形態における
図4に示す処理フローのステップ401において、操作者によるシリンダ直径φの設定入力がφ’
min以上となるように、フリップアングルFAの設定入力がFA’
MAX以下となるように、UI制御部350はシリンダ直径とフリップアングルの入力設定を制御する。また、ステップ1001で設定されたパルスシーケンスにおいて、FA’
MAXやφ’
minを設定した場合にdB/dtやSARが限界値を超える場合は、限界値を超えないFAとφを操作者に示す。
【0058】
以降は、前述の第1の実施形態における
図4に示す処理フローのステップ402以降と同様の処理を行うことになるので、詳細な説明は省略する。
以上までが、本実施形態の処理フローの説明である。
【0059】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び2次元励起調整方法によれば、操作者は、設定可能な2次元励起領域の最小形状及び最大フリップアングルを、2次元励起領域の形状範囲及びフリップアングルの設定前に事前に知ることができるので、或いは、これら制限値の範囲を超えて2次元励起領域の形状範囲及びフリップアングルを設定することができなくなるので、操作者は無駄なく適切に、2次元励起領域の形状及びフリップアングルを設定することができるようになる。
【0060】
<<第4の実施形態>>
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の第4の実施形態を説明する。前述の各実施形態では、励起領域の形状とフリップアングルが第1の物質と第2の物質とで、実質的に同一となるように、2次元励起用の高周波磁場(2DRF)の照射周波数、照射ゲイン、及び傾斜磁場強度を設定した。これに対して、本実施形態は、撮像目的に応じて、励起領域の形状とフリップアングルの少なくとも一方が、第1の物質と第2の物質とで、異なるよう2DRFの照射周波数、照射ゲイン、及び傾斜磁場強度を設定する。例えば、2DRFの照射周波数を第1の物質と第2の物質の共振周波数の中間値(平均値でない)とする。以下、血液を磁気的にラベル化するArterial Spin Labeling(以下、ASL)法の一種であるIFIR法を例にして、1の物質と第2の物質とで主にフリップアングルを異ならせる場合を説明する。
【0061】
IFIR法では、動脈血流入部に対してスライス選択的に第1の反転パルスを印加し、続いてスライス非選択で第2の反転パルスを印加することで動脈の流入血は強制縦緩和され、背景組織や静脈血は反転される。第2の反転パルスから水のエコー信号が実質的にゼロになるまでの時間であるNull Time後にエコー信号を取得することで動脈血のみの画像が得られる。詳細は非特許文献3に記載されている。
【0062】
図11に、水と脂肪の各縦磁化が反転された直後から縦緩和していく時間変化の様子を示す。
図11(a)は、水と脂肪を同じ角度に励起した場合のそれぞれの縦磁化の緩和の様子を示す。
図11(b)は、本実施形態の水と脂肪を異なる角度に励起した場合のそれぞれの縦磁化の緩和の様子を示す。縦緩和の時定数であるT1は、脂肪のT1が水のT1より小さいため、脂肪の縦磁化の緩和が水の縦磁化の緩和よりも早い。そのため、縦緩和により縦磁化の大きさがゼロとなって、検出されるエコー信号が実質的にゼロとなるNull Timeは、脂肪の方が水よりも早くなる。そして、水のNull Time時には、脂肪の縦磁化が大きく回復して脂肪からのエコー信号が検出されることになる。IFIR法では、
図11(a)に示す様に、水信号のNull Time1101でエコー信号を計測するため、脂肪信号が抑制されず(
図11(a))、第2の反転パルスに先んじて脂肪抑制パルスを印加する必要がある。
【0063】
そこで、本実施形態では、
図11(b)に示す様に、水のフリップアングルFA
Wと脂肪のフリップアングルFA
Fを異ならせて、水のNull Timeと脂肪のNull Timeが同一の1103になる水のFA
Wと脂肪のFA
Fを最適なフリップアングルとし、水と脂肪をこれらのフリップアングルにする第2の反転パルスを用いる。なお、第1の反転パルスのフリップアングルの変更の必要はない。この場合、水と脂肪のシリンダ直径φも異なるがどちらも撮像視野(FOV)に対して十分大きくする必要がある。φがFOVに対して十分に大きい場合、FOVには2DRFの励起プロファイルのプラトー部分(励起プロファイルの平らな部分)が印加されるので、水と脂肪のシリンダ直径φの差が無視でき、非選択のIRパルスとして扱うことができる。好適には、脂肪のFA
Fを180[deg]とした場合に、脂肪のNull Timeは160〜180[ms]となるので、水のNull Timeが160〜180[ms]になる水のFAを最適FA
Wとする。これにより、水と脂肪のエコー信号が同時に抑制されるので脂肪抑制パルスを別途印加する必要が無くなり、撮像時間の短縮が可能になる。
【0064】
撮像目的に応じて、水と脂肪を異なるフリップアングルにする場合、まず目的とする脂肪のFA
Fに対する水のFA
Wの割合を求め、高周波磁場波形により決定する関数FA’(ΔF)から、2DRFの照射周波数F0’を求める。本実施形態における照射周波数設定部340が行う、2DRFの照射周波数F0’の計算方法について、
図12に示す共振周波数のスペクトル分布と2DRFの照射周波数F0’との関係と、
図13に示す処理フローとを用いて以下に説明する。
【0065】
ステップ1301で、前述の第1の実施形態又は第2の実施形態と同様に、水と脂肪のプロトンの共振周波数をF0
W、F0
Fが決定される。即ち、
図4に示す第1の実施形態の処理フローにおけるステップ401〜403を実施して水と脂肪のプロトンの共振周波数をF0
W、F0
Fを決定する。その際、シリンダ領域を指定することなく、FOV全体をプリスキャンして取得したエコー信号を用いる。照射ゲイン設定部360は、それらの周波数差を下式によりF
Cとする。
F
C = F0
W - F0
F (9)
ステップ1302で、照射ゲイン設定部360は、水と脂肪のフリップアングルを設定する。例えば、前述のIFIR法の場合の様に、双方のNull Timeが一致するように、水のフリップアングルを脂肪のフリップアングルより少なく設定する。なお、目的とする水と脂肪のフリップアングルは、UI制御部350が表示するUI画面を介して操作者が入力してもよいし、MRI装置が内部で保持してもよい。
【0066】
目的とする脂肪のフリップアングルをFA
F、水のフリップアングルをFA
Wとし、脂肪に対する水のフリップアングルの割合を下式(10)によりβとする。
β= FA
W / FA
F (10)
ステップ1303で、照射ゲイン設定部360は、(10)式を実現する2DRFの照射周波数F0’を計算する。具体的には、次の通りである。即ち、水と脂肪のフリップアングルFA
W、FA
Fは、関数FA’(ΔF)から、下式で算出できる。
FA
W= FA’(ΔF
W )
FA
F = FA’(ΔF
F )
上式を式(10)に代入すると、式(10A)が得られる。
β= FA’(ΔF
W ) / FA’(ΔF
F ) (10A)
ここで、2DRFの照射周波数F0’と水及び脂肪のプロトンの共振周波数の差をそれぞれΔF
W、ΔF
Fとする。具体的には式(11)で定義する。
ΔF
W= F0
W - F0’ (11-1)
ΔF
F= F0’ - F0
F (11-2)
従って、ΔF
WとΔF
Fは、以下の関係にある。
ΔF
W + ΔF
F = F
C (12)
式(12)を(10A)に代入すると、ΔF
Fの式として(10B)が得られる。
β= FA’(F
C-ΔF
F ) / FA’(ΔF
F ) (10B)
関数(10B)の解が複数ある場合、正の値の最小値をΔF
Fとして式(11-2)から2DRFの照射周波数F0’を計算する。この場合、照射周波数F0’は、水と脂肪のプロトンの共振周波数F0
W、F0
Fの平均値でなく中間値となる。
図12の例では脂肪寄りの中間値となる。また、ΔFが最小になるので、結果として照射ゲインT
Wを最小にすることができる。
【0067】
なお、βや関数FA’(ΔF)により、(10B)の解が無い可能性もある。何故なら、関数FA’(ΔF) は高周波磁場波形により決定するが、高周波磁場波形に関らずFA’(ΔF)の最小値はFA’(0)/2である。つまり、βの最小値は1/2となるのでβの値域が制限されているためである。解がない場合は、照射周波数設定部340はその旨をUI制御部350に通知し、UI制御部350は、フリップアングルの設定値が不可であるサジェスチョンを操作者に示してもよいし、ΔF
WとΔF
F が決定した段階で、解が得られるβ値等を操作者が設定可能な値の制限値としても良い。
【0068】
ステップ1304で、照射ゲイン設定部360は、照射ゲインT
Wを、前述の第1の実施形態のステップ405において、FA’= FA’(ΔF
F)として同様に求めることにより、目的とするフリップアングルFA’を実現できる。
【0069】
以上までが、照射周波数設定部340が行う、2DRFの照射周波数F0’の計算方法の処理フローの説明である。このようにして求められた2DRFの照射周波数F0’を用いて目的とする撮像を行なう。
【0070】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び2次元励起調整方法によれば、撮像目的に応じて、シリンダ直径φとフリップアングルFAの少なくとも一方を、第1の物質の領域と第2の物質の領域とで、異なるように設定するので、所望の撮像目的に適合する画像を取得することが可能になる。
【0071】
<<第5の実施形態>>
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の第5の実施形態を説明する。本実施形態では、静磁場不均一がある静磁場空間内に配置された被検体が含む第1の物質と第2の物質の共振周波数が、その静磁場不均一によってシフトする場合において、静磁場不均一に対応して2次元励起用高周波磁場(2DRF)の照射周波数を設定する。
【0072】
撮像面内には、空間的な静磁場不均一が存在する。この静磁場不均一により撮像面内には撮像対象物質の共振周波数が100〜数10[Hz]程度分散することになる。その為、前述の第1の実施形態〜第4の実施形態における共振周波数のスペクトル分布を撮像面全体から取得した場合、共振周波数の分散を含んだスペクトル分布となる。その結果、スペクトル分布から決定した2DRFの照射周波数が、目的とする2次元励起領域の共振周波数と異なる可能性がある。
【0073】
そこで、本実施形態では、静磁場不均一の影響を受けないように、スペクトル分布を取得する領域を、静磁場が実質的に一定とみなせるような局所領域に限定する。例えば、2次元励起領域として
図5に示すシリンダ領域を励起する場合に、
図14に示す様に、励起するシリンダ領域1401内の一部である局所領域1402を励起して、その局所領域1402からのエコー信号を用いてスペクトル分布を取得する。
【0074】
最初に、局所領域1402の設定について
図14に基づいて説明する。UI画面500には、予め取得した位置決め画像510が表示される。操作者は、この位置決め画像510上で、2次元励起領域1401と局所領域1402とを設定する。ここで、2次元励起領域1401は、SS法で励起するシリンダ型の領域であり、局所領域1402は、2次元励起領域の中の、特に着目する領域である。ここでは、一例として、2次元励起領域1401と同軸で断面の半径が同じシリンダ形状とする。
【0075】
なお、2次元励起領域1401と局所領域1402とはいずれの入力を先に受け付けるよう構成してもよい。例えば、2次元励起領域1401を先に受け付ける場合、2次元励起領域1401は図中矢印で示すように任意の位置と角度とで設定可能とし、その後、局所領域1402は、図中矢印で示すように2次元励起領域1401として設定されたシリンダに沿った領域内で、シリンダの円筒軸方向にスライド可能とする。局所領域1402を先に受け付ける場合、2次元励起領域1401は、設定された局所領域1402と同軸の円筒として受け付ける。
【0076】
また、
図14では、2次元励起領域1401および局所領域1402をともにシリンダ(円柱形状)とし、それらの断面形状を円形としているが、これに限られない。これらの断面形状は、任意に設定可能である。
【0077】
次に、局所領域1402からのエコー信号を収集する方法について説明する。
局所領域1402からのエコー信号を収集する第1の方法は、直交3断面励起法を用いる。
図15に基づいて直交3断面励起法を詳細に説明する。
図15(a)は、直交3断面が交差する共通部分であって励起される局所領域を示し、
図15(b)は、直交3断面励起法に用いるパルスシーケンスを示す。直交3断面励起法では、直交する3断面の交差する直方体の領域(交差領域)1524が励起される。ここでは、シリンダ状の局所領域1402が内接するよう交差領域1524を励起する。このような領域を励起するため、事前に計測した共振周波数を照射周波数F0として、
図15(b)に示すように、90度パルス1511とともにx軸方向(Gx)に第一の傾斜磁場1512を印加し、x軸方向の所定の断面(第一の断面)1521を励起する。90度パルス1511の印加からエコータイム(TE)/4時間後に、第一の180度パルス1513とともにy軸方向(Gy)に第二の傾斜磁場1514を印加し、これにより特定されるy軸方向の断面(第二の断面)1522と第一の断面1521とが交差する領域の核磁化を励起する。第一の180度パルス1513の印加からTE/2時間後に、第二の180度パルス1515とともにz軸方向(Gz)に第三の傾斜磁場1516を印加し、これにより特定されるz軸方向の断面(第三の断面)1523と第一の断面1521と第二の断面1522とが交差する領域1524の核磁化を励起する。そして、第二の180度パルス1515の印加からTE/4時間後のタイミングで、発生するエコー信号1517を収集する。なお、上記パルスシーケンスにおいて、傾斜磁場を印加する印加軸の順は問わない。
【0078】
局所領域1402からのエコー信号を収集する第2の方法は、2次元励起法を用いる。
図16に基づいて2次元励起法を詳細に説明する。2次元励起法は、
図16は、2次元励起と、この2次元励起により励起されるシリンダ状領域の軸に直交する1断面の励起と、を組み合わせる場合(2D直交1D法)の励起領域およびパルスシーケンスを説明するための図である。
図16(a)は、2D直交1D法により励起される領域を説明するための図であり、
図16(b)は、2D直交1D法のパルスシーケンス図である。なお、
図16(a)では、説明のため、断面およびシリンダ領域を透明なものとして示す。
【0079】
2D直交1D法では、まず、90度パルス(2DRF)1531とともにx軸方向(Gx)に第一の振動傾斜磁場1532とy軸方向(Gy)に第二の振動傾斜磁場1533とを印加し、シリンダ状領域1541を励起する。90度パルス(2DRF)1531の印加からTE/2時間後に、180度パルス1534とともにz軸方向(Gz)に傾斜磁場1535を印加し、断面1542とシリンダ状領域1541との交差領域1543の核磁化の位相を戻す。そして、180度パルス1534の印加からTE/2時間後のタイミングで、発生するエコー信号1536を収集する。得られたエコー信号1536への処理、2DRFの照射周波数F0’の算出手法は、前述の各実施形態と同様である。
【0080】
ここでは、交差領域1543が、局所領域1402に合致するよう、撮像パラメータを設定する。また、上記パルスシーケンスの90度パルス1531に用いる照射周波数は、予め従来の手法で決定した全体照射周波数F0である。
【0081】
局所領域1402からのエコー信号を収集する第3の方法は、プリサチュレーション法を用いる。
図17を用いてプリサチュレーション法を詳細に説明する。プリサチュレーション法は、2次元励起とプリサチュレーションパルスとを組み合わせて、この2次元励起により励起されるシリンダ状領域における局所領域1402外の領域からのエコー信号を抑制する。
図17(a)は、2Dプリサチュレーション法により励起される領域を説明するための図であり、x軸方向から見た図である。
図17(b)は、2Dプリサチュレーション法のパルスシーケンス図である。
【0082】
2Dプリサチュレーション法では、まず、第一のプリサチュレーションパルス1551とともにz軸方向(Gz)に第一の傾斜磁場1552を印加し、第一の領域1562内の磁化を消失させる。また、第二のプリサチュレーションパルス1553とともにz軸方向(Gz)に第二の傾斜磁場1554を印加し、第二の領域1563内の磁化を消失させる。第一の領域1562、第二の領域1563のいずれの領域内の磁化を先に消失させてもよい。その後、90度パルス(2DRF)1555とともにx軸方向(Gx)に第一の振動傾斜磁場1556とy軸方向(Gy)に第二の振動傾斜磁場1557とを印加し、シリンダ状領域1561内の第一の領域1562および第二領域1563外の領域(非交差領域)1567を励起する。そして、90度パルス(2DRF)1555の印加からTE時間後のタイミングで発生するエコー信号を収集する。得られたエコー信号への処理、2DRFの照射周波数F0’の算出手法は、前述の各実施形態と同様である。
【0083】
ここでは、非交差領域1567が、局所領域1402に合致するよう、撮像パラメータを設定する。また、上記パルスシーケンスの90度パルス1555に用いる照射周波数は、予め従来の手法で決定した全体照射周波数F0である。
【0084】
以上までが局所領域からのエコー信号を収集する方法の説明である。信号収集部330は、上記いずれかの方法を実行し、エンコード無しでエコー信号を収集する。そして、収集した信号を時間方向にフーリエ変換する。フーリエ変換した結果として、局所領域1402におけるスペクトル分布を得る。以降は、前述の各実施形態と同様の処理を行い、2DRF用の照射周波数F0’及び照射ゲインT
W’と傾斜磁場強度G
W’を求める。
【0085】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び2次元励起調整方法によれば、静磁場不均一の影響を受けないように、静磁場が実質的に一定とみなせるような局所領域からスペクトル分布を取得するので、静磁場不均一によって共振周波数がシフトする場合においても、静磁場不均一に対応して2DRFの照射周波数を適切に設定することができるようになる。その結果、第1の物質と第2の物質の励起領域の位置及び形状とそのフリップアングルとを正確に設定することが可能になる。
【0086】
<<第6の実施形態>>
次に、本発明に係るMRI装置及び2次元励起調整方法の第6の実施形態を説明する。前述の第5の実施形態では、静磁場不均一によるスペクトル分布の分散を排除するため、局所領域のスペクトル分布を取得し、その局所領域の静磁場強度に対応して2次元励起用の高周波磁場(2DRF)の照射周波数を求めた。これに対して、本実施形態は、その局所領域の静磁場不均一を補正して、当該領域の核磁化の共振周波数が予め求めた全体照射周波数F0に合致するよう静磁場を調整する。以下、本実施形態における局所領域の静磁場不均一分布の補正方法について詳細に説明する。
【0087】
図18は、本実施形態の制御部110の機能ブロック図である。本実施形態の機能を実現するため、本実施形態は、局所領域の磁場を調整する磁場調整部380を更に備える。以下、本実施形態について、前述の第5の実施形態と異なる、磁場調整部380による磁場調整処理について説明する。他の構成、他の処理は、前述の第5の実施形態と同様である。
【0088】
本実施形態の磁場調整部380は、局所領域1402における核磁化の共振周波数を全体共振周波数F0に合致させるため、当該領域の静磁場不均一を改善する。具体的には、第5の実施形態同様の手法で信号収集部330が得たボリュームデータまたはシム画像から、局所領域1402の静磁場不均一を是正するシム電流値Isを従来の手法で算出する。なお、シム電流は、計測(スキャン)中に電流値を切り替え可能な軸のみ計算する。そして、磁場調整部380は、2DRF印加中のみ、当該軸方向のシムコイルへの印加電流値を、算出したIsとするようシム電源を制御する。
【0089】
図19および
図20を用い、磁場調整部380による磁場調整処理を説明する。本実施形態の磁場調整処理では、局所領域1402内の静磁場強度B1を、全体周波数F0を実現する静磁場強度B0とするシム電流値Isを算出する。ここでは、局所領域1402が、シリンダ形状で、その軸方向が、検査空間のz軸方向に一致する場合を例にあげて説明する。また、シムコイルは、各軸方向に静磁場強度成分をそれぞれ1次成分まで補正可能とする。すなわち、全体照射周波数F0と静磁場強度B1の0次成分から算出される共振周波数Fとを一致させる電流値を算出する。
【0090】
図19は、局所領域1402の撮像結果である。直径がφで厚みがDのシリンダ形状を有する局所領域1402の、上面および下面の円周上に複数の計測点1901を設定する。なお、複数の計測点1901は、このシリンダの軸に
対称に配置することが望ましい。好適には、計測点1901は軸断方向へ等方的に配置する。
【0091】
各計測点1901の静磁場強度B1から算出される共振周波数Fを、それぞれ、
X軸、
Y軸、
Z軸方向に投影(
FX、FY、FZ)し、プロットした結果を
図20に示す。なお、
図20(a)は、
X軸方向、
図20(b)は、
Y軸方向、
図20(c)は、
Z軸方向に投影した結果である。それぞれ、横軸が各軸方向の位置、縦軸が静磁場強度B1から算出される共振周波数Fである。
【0092】
各軸方向の投影結果を、それぞれ1次式で近似する。ここでは、
X軸方向の投影結果の近似式2001を、
Fx=αxX+βx、
Y軸方向の投影結果の近似式2002を、
Fy=αyY+βy、
Z軸方向の投影結果の近似式2003を、
Fz=αzZ+βxとする。これらが、全て、F0を通り、傾き0となるよう、シム電流値を決定する。すなわち、シム電流値Isは、算出される共振周波数F’のx軸成分、y軸成分、z軸成分それぞれの近似式が
F’x=−αxX−βx+F0、F’y=−αyY−βy+F0、F’z=−αzZ−βz+F0となる傾斜磁場強度を実現する値である。
【0093】
本実施形態では、上述の手法で、磁場調整部380が算出したシム電流値Isを、2DRF印加中のみ印加し、撮像を行う。それ以外は、シム電流値Isを0または撮像領域全体の静磁場不均一を改善するシム電流値を適用し、撮像を行う。これにより、本実施形態によれば、局所領域1402内に静磁場の不均一がある場合であっても、2DRFに関し、所望の励起プロファイルを得ることができる。
【0094】
なお、シムコイルによる静磁場不均一の補正次数は、上記に限らない。各計測点1901の静磁場強度B1の各軸方向への投影結果を、当該軸方向のシムコイルが静磁場強度を補正可能な次数の範囲で近似可能である。また、静磁場均一度を達成するシム電流値の算出手法は上記手法に限られない。一般的な各種の手法を用いることができる。
【0095】
また、静磁場不均一の補正対象次数が1次である場合は、傾斜磁場コイル103による傾斜磁場を用いて静磁場不均一を補正してもよい。すなわち、上記手法で算出したシム電流値Isと同量の電流を、傾斜磁場電源106から2DRF印加中のみ、オフセットとして各傾斜磁場コイル103に供給するよう制御する。静磁場不均一の補正を傾斜磁場コイル103を用いて行うことにより、MRI装置100がシムコイルを備えていない場合でも、2DRF印加中に、局所領域1402の静磁場不均一を補正できる。
【0096】
局所領域1402の静磁場不均一を補正しして所定の静磁場強度に調整した状態で、局所領域1402からエコー信号を計測し、計測したエコー信号からスペクトル分布を求め、求めたスペクトル分布に基づいて2DRF用の照射周波数F0’及び照射ゲインT
W’と傾斜磁場強度G
W’を決定する処理は、前述の第5の実施形態と同様なので詳細な説明は省略する。
【0097】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及び2次元励起調整方法によれば、局所選択領域の核磁化の共振周波数が予め求めた全体照射周波数F0に合致するように、当該局所領域の静磁場不均一を補正するので、局所選択領域から取得されるスペクトル分布がブロードにならずに、第1の物質と第2の物質の励起領域の位置及び形状とそのフリップアングルとを正確に設定することが可能になる。