(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730356
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ダイカスト用金型及びダイカスト法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20150521BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
B22D17/22 D
B22C9/06 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-153842(P2013-153842)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2015-24413(P2015-24413A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2014年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大本 剛士
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−034695(JP,A)
【文献】
特開2005−152963(JP,A)
【文献】
実開平02−022241(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/22
B22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、該固定型に対して進退可能な可動型と、を備え、該固定型又は該可動型の少なくとも一方には円筒部を備え、該円筒部の内部には、周方向に沿って周方向冷却媒体通路が形成されるダイカスト用金型において、銅又は銅合金からなる冷却用部材が該周方向冷却媒体通路の始点部と終点部を流れる冷却媒体と接触するように配設されていることを特徴とするダイカスト用金型。
【請求項2】
該冷却用部材は、該周方向冷却媒体通路の始点部に冷却媒体を供給する冷却媒体供給路を画成しているともに、該周方向冷却媒体通路の終点部から冷却媒体を排出する冷却媒体排出路を画成していることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト用金型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイカスト用金型を用いてダイカストを行うことを特徴とするダイカスト法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用金型と、このダイカスト用金型を使用したダイカスト法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト用金型の内部にリング状の冷却媒体通路を形成することが下記特許文献1に所載されている。特許文献1においては、冷却媒体入口から導入された冷却水等の冷却媒体がリング状の冷却媒体通路を通って冷却媒体出口から排出されるようにリング状の冷却媒体通路に仕切板を配設するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−79358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイカスト用金型の固定型又は可動型が成形面側に円筒部を備える場合、円筒部の周方向に沿って周方向冷却媒体通路が形成されることがある。しかし、特許文献1のように冷却媒体入口と冷却媒体出口の中間位置に仕切板を配設するようにした場合、仕切板の近傍において冷却媒体が滞留してしまい、仕切板の近傍における冷却効果が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は上述した課題を解決するために成されたものであり、その目的は、金型内部に周方向冷却媒体通路を形成する場合に高い冷却効果を実現できるダイカスト用金型と、このダイカスト用金型を使用したダイカスト法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
本発明は、固定型(10)と、該固定型(10)に対して進退可能な可動型(20)と、を備え、該固定型(10)又は該可動型(20)の少なくとも一方
には円筒部を備え、該円筒部の内部には、周方向に沿って周方向冷却媒体通路が形成されるダイカスト用金型(1)において、銅又は銅合金からなる冷却用部材(54)が該周方向冷却媒体通路(60)の始点部(60A)と終点部(60B)を流れる冷却媒体と接触するように配設されていることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、該冷却用部材(54)は、該周方向冷却媒体通路(60)の始点部(60A)に冷却媒体を供給する冷却媒体供給路(61)を画成しているとともに、該周方向冷却媒体通路(60)の終点部(60B)から冷却媒体を排出する冷却媒体排出路(62)を画成していることが好ましい。
【0009】
なお、本発明に係るダイカスト法は、上述したダイカスト用金型(1)を用いてダイカストを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金型内部に周方向冷却媒体通路を形成する場合に高い冷却効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一般的なダイカスト用金型を備えた鋳造設備の全体構成例を示す断面図であり、特に、溶湯の充填前の状態を示している。
【
図2】一般的なダイカスト用金型を備えた鋳造設備の全体構成例を示す断面図であり、特に、溶湯の充填後の状態を示している。
【
図3】本実施形態に係るダイカスト用金型の可動ダイスの平面図であり、キャビティを画成する成形面側の平面が示されている。
【
図5】本実施形態に係るダイカスト用金型の可動ダイスを構成する第1本体部の背面図であり、円周溝に合金工具鋼と冷却用部材が埋め込まれた後の状態が示されている。
【
図6】
図3のA−A線矢視方向における断面図である。
【
図7】
図3のB−B線矢視方向における展開断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
本実施形態に係るダイカスト用金型及びこのダイカスト用金型を用いるダイカスト法について図面に基づいて説明する。まずは
図1及び
図2に基づいて、本実施形態に係るダイカスト用金型が用いられる一般的な鋳造設備の全体構成についての説明を行う。ここで、
図1および
図2は、一般的な鋳造設備の全体構成例を示す断面図であり、特に、
図1は溶湯の充填前の状態を示しており、
図2は溶湯の充填後の状態を示している。
図1及び
図2に示されるように、ダイカスト用金型1は、ダイカストを行う鋳造設備の主要構成部材として設けられている。
【0014】
例示の一般的なダイカスト用金型1は、固定ダイス12と固定ホルダ11とを備える固定型10と、可動ダイス22と可動ホルダ21とを備える可動型20と有している。可動型20は固定型10に対して進退可能であり、固定ダイス12と可動ダイス22とによってキャビティ1aを画成する。また、ダイカスト用金型1には、スリーブ30が設けられている。スリーブ30は、ビスケット1b、ランナー1c、及びゲート1dを介してキャビティ1aと連通している。また、スリーブ30内には、プランジャチップ31が設けられている。プランジャチップ31は、スリーブ30内を進退可能である。さらに、プランジャチップ31の前進方向対向位置であるビスケット1bの位置には、分流子40が設けられている。プランジャチップ31がスリーブ30内を前進して溶湯を押圧すると、溶湯2はビスケット1b、ランナー1c、及びゲート1dを介してキャビティ1aに充填される。なお、
図1に示される状態から、
図2に示される状態へとプランジャチップ31を前進させることにより、プランジャチップ31によって押圧されてスリーブ30内を送られてきた溶湯2が、分流子40に衝突する。そして、分流子40に衝突した溶湯2は、分流子40によってランナー1c及びゲート1dへと導かれるように構成されている。
【0015】
つぎに、本実施形態に係るダイカスト用金型について、
図3〜
図7を用いて詳細に説明を行う。ここで、
図3は、本実施形態に係るダイカスト用金型の可動ダイス50の平面図であり、キャビティ(1a)を画成する成形面側が示されている。図示される本実施形態に係るダイカスト用金型の可動ダイス50は、不図示の可動ホルダ(21)に固定設置されることにより可動型(20)を構成し、不図示の固定型(10)の固定ダイス(12)と共にキャビティ(1a)を画成するものである。
【0016】
可動ダイス50は、SKD61等の合金工具鋼を母材とし成形面側に円筒部51Aを有する第1本体部51と、同じくSKD61等の合金工具鋼を母材とする第2本体部52(
図4参照)とを備えている。
図5に示すように、第1本体部51の反成形面側には円周溝51Bが形成されており、この円周溝51BにはSKD61等の合金工具鋼53と無酸素銅からなる冷却用部材54とが埋め込まれている。そして、第1本体部51の円周溝51Bに合金工具鋼53と冷却用部材54を埋め込んだ後に、第1本体部51、合金工具鋼53、冷却用部材54及び第2本体部52を拡散接合等の公知の異材接合技術を採用することにより一体接合している。なお、本実施形態の冷却用部材54は、銅又は銅合金のなかでも純度が高く、熱伝導率が非常に高いという性質を有する無酸素銅としているが、冷却用部材54は銅又は銅合金であればよい。
【0017】
図6に示すように、第1本体部51の円周溝51Bの溝底51aは第1本体部51の円筒部51Aの先端部の内部に位置している。円周溝51Bに埋め込まれた合金工具鋼53の先端面53aは第1本体部の円周溝51Bの溝底51aと当接しており、合金工具鋼53の後端面53bは第2本体部52と当接している。合金工具鋼53の先端面53aには溝53cが形成されており、第1本体部51の溝底51aと合金工具鋼53の溝53cとにより、第1本体部51の円筒部51Aの先端部の内部には周方向に沿って周方向冷却媒体通路60が画成されている。
図7に示すように、冷却用部材54の先端面54aも第1本体部51の円周溝51Bの溝底51aと当接するように埋め込まれており、冷却用部材54の後端面54bは第2本体部52と当接している。なお、第1本体部51の円筒部51Aの内部において無酸素銅54が埋め込まれている範囲には周方向冷却媒体通路60が存在しないようになっている。
【0018】
図5に示すように、第1本体部51の円周溝51Bに合金工具鋼53と冷却用部材54が埋め込まれることにより、冷却媒体を周方向冷却媒体通路60に供給するための冷却媒体供給路61と、冷却媒体を周方向冷却媒体通路60から排出するための冷却媒体排出路62とが画成されている。冷却媒体供給路61と冷却媒体排出路62は、冷却用部材54の後端から先端に亘って形成された溝54cを合金工具鋼53で塞ぐことによって画成されている。
図7に示すように、冷却媒体供給路61は、周方向冷却媒体通路60と直交する方向に延びるように画成されており、冷却媒体通路60の始点部60A(冷却媒体通路60における冷却媒体の入口)まで冷却媒体を供給する。また、冷却媒体排出路62は、周方向冷却媒体通路60と直交する方向に延びるように画成されており、冷却媒体通路60の終点部60B(冷却媒体通路60における冷却媒体の出口)から冷却媒体を排出する。
【0019】
図7に示すように、第2本体部52には、第1本体部51内に画成された冷却媒体供給路61と連通する冷却媒体供給孔63と、第1本体部51内に画成された冷却媒体排出路62と連通する冷却媒体排出路孔64が形成されている。
【0020】
本実施形態に係る可動ダイス50によれば、第2本体部52の冷却媒体供給孔63に供給された冷却水等の冷却媒体は、第1本体部51内の冷却媒体供給路61によって周方向冷却媒体通路60の始点部60Aへと導かれる。そして、周方向冷却媒体通路60を流れた冷却媒体は周方向冷却媒体通路60の終点部60Bから第1本体部51内の冷却媒体排出路62を介して第2本体部52の冷却媒体排出孔64へと排出される。
図7に示されるように、周方向冷却媒体通路60の始点部60Aと終点60B部の周方向の延長線上には冷却用部材54が配設されており、冷却用部材54は周方向冷却媒体通路60の始点部60Aと終点部60Bを流れる冷却媒体と接触するようになっている。従って、周方向冷却媒体通路60内において冷却媒体が滞留するようなことはなく、周方向冷却媒体通路60が存在しない部分における溶湯(2)からの熱は冷却用部材54により除去されるので、高い冷却効果を実現することができる。
【0021】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0022】
例えば、上述した実施形態では、本発明を可動型に適用した場合の形態例を示したが、固定型に対しても本発明を適用することが可能である。
【0023】
また、上述した実施形態では、本発明をダイス全体に適用した場合の形態例を示したが、ダイスの一部を構成する埋子に対しても本発明を適用することが可能である。
【0024】
また、上述した実施形態では、本発明を一つの円筒部が設けられるダイスに適用した場合の形態例を示したが、複数の円筒部が連結して設けられるダイスに適用してもよく、例えば、シリンダブロックのウォータジャケット成形用のダイスに適用してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 ダイカスト用金型
1a キャビティ
1b ビスケット
1c ランナー
1d ゲート
2 溶湯
10 固定型
11 固定ホルダ
12 固定ダイス
20 可動型
21 可動ホルダ
22 可動ダイス
30 スリーブ
31 プランジャチップ
40 分流子
50 可動ダイス
51 第1本体部
51A 円筒部
51B 円周溝
52 第2本体部
53 合金工具鋼
54 冷却用部材
60 周方向冷却媒体通路
60A 始点
60B 終点
61 冷却媒体供給路
62 冷却媒体排出路
63 冷却媒体供給孔
64 冷却媒体排出孔