(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
本発明の無機酸化物粉体は、表面処理を施すことにより表面改質された無機酸化物粉体であり、
図1に示すように、表面に窒素を含有するオニウム塩を有する。表面に窒素を含有するオニウム塩を有する無機酸化物粉体は、これをゴム部材、合成樹脂部材、帯電防止用フィルム、コート剤等の用途に用いた場合、良好な導電性を付与できることから、優れた帯電防止効果を発現させる。無機酸化物粉体表面に有するオニウム塩は、後述の表面処理に用いるイオン性液体に起因するものであり、無機酸化物粉体とオニウム塩とは、無機酸化物粉体表面の水酸基とイオン性液体を構成するカチオンの反応基との加水分解反応により、強固な共有結合によって結合されている。
【0017】
従来の、イオン性液体を用いた表面処理により表面改質された無機酸化物粉体では、無機酸化物粉体の表面に、単にイオン性液体によるオニウム塩が、物理的に被覆された状態で存在しているため、溶剤等に添加した際に容易に粉体表面からオニウム塩が分離してしまう。このため、この無機酸化物粉体を、例えば半導電材料等の導電性付与剤としての用途に用いた場合、粉体表面からオニウム塩が分離することにより、ブリードが生じる。そのため、長期的に安定した電気抵抗率が得られないという不具合が生じる。
【0018】
一方、本発明の無機酸化物粉体は、上述のように強固な共有結合によって無機酸化物粉体表面にイオン性液体によるオニウム塩が結合しており、非常に高い耐水性、耐溶剤性及び耐久性を示す。このため、溶剤等に添加した場合でもオニウム塩は容易に分離せずに粉体表面に存在しているため、半導電材料等の導電性付与剤としての用途に用いた場合、安定した電気抵抗率が得られる。例えば、合成樹脂やゴム等に添加した場合、十分に導電性を付与し、ホコリ等の付着を防止することができる。
【0019】
本発明の無機酸化物粉体の耐水性、耐溶剤性及び耐久性については、オニウム塩の固定化率によって示される。固定化率は無機酸化物粉体とオニウム塩の結合の度合いをいい、例えば表面処理した無機酸化物粉体を所定の条件で抽出溶剤で処理したとき、抽出処理前の粉体表面に存在するオニウム塩に対する処理後の粉体表面に存在するオニウム塩の割合によって表すことができる。即ち、固定化率が高いほど、無機酸化物粉体表面にオニウム塩がより強固に結合していることを意味する。オニウム塩は、上述のように、無機酸化物粉体の表面処理に用いた窒素を含有するイオン性液体に起因するものであるため、粉体表面における窒素量でもってオニウム塩の固定化率を判断することができる。本明細書において、オニウム塩の固定化率とは、ソックスレー抽出装置(BUCHI社製)により、所定の条件で抽出処理した後、この粉体に残存する窒素量の、抽出前の窒素量に対する割合をいう。
【0020】
本発明の無機酸化物粉体は、オニウム塩の固定化率が50%以上100%以下、好ましくは60%以上100%以下と非常に高い値を示すものである。固定化率が50%未満では、これを半導電材料等の導電性付与剤として用いた場合、安定した電気抵抗率が得られない。一方、上限値を越えるものを実際に得るのは困難である。また、本発明の無機酸化物粉体は、窒素含有量が0.02%以上3.0%以下である。窒素含有量とは、この無機酸化物粉体に残存する窒素量の、無機酸化物粉体に対する割合をいう。窒素含有量が高い無機酸化物粉体ほど、導電性を付与する効果が高いことを意味する。窒素含有量が0.02%未満では、電気抵抗率が高くなり、十分に導電性を付与することができず、優れた帯電防止効果を発現させることができない。一方、上限値を越えると、固定化率が低下する。即ち、過剰なオニウム塩がブリードしてしまうことにより電気抵抗率が変動したり、また、部材等を汚染するといった不具合が生じる。このうち、窒素含有量は、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の表面改質された無機酸化物粉体の母体となる無機酸化物粉体は、シリカ、チタニア及びアルミナからなる群より選ばれた1種の無機酸化物粉体又は2種以上の複合無機酸化物粉体であることが好ましい。シリカ粉は、ハロゲン化ケイ素化合物等の揮発性ケイ素化合物を火炎加水分解して得た、いわゆる乾式法シリカや、珪酸ソーダ水溶液の酸又はアルカリ金属塩による中和により得た、いわゆる湿式シリカが好ましい。また、チタニア粉は、揮発性のチタン化合物を揮発させてガス状態とし、これを可燃性又は不燃性ガスの存在下で高温分解して得られたものが好ましい。また、アルミナ粉は、熱分解法によって得られたものが好ましい。一方、複合無機酸化物粉体は、例えば、次のような方法で得られたシリカとチタニアの複合無機酸化物粉体を好適に用いることができる。先ず、四塩化ケイ素ガスと四塩化チタンガスとを不活性ガスと共に燃焼バーナの混合室に導入して水素及び空気と混合し、所定の比率の混合ガスとする。そして、この混合ガスを反応室で1000〜3000℃の温度で焼成して、シリカとチタニアの複合無機酸化物微粒子を生成させる。最後に、生成した微粒子を冷却してフィルタにて捕集することにより、シリカとチタニアの複合無機酸化物粉体が得られる。また、これらの無機酸化物粉体又は複合無機酸化物粉体に、リチウム、ナトリウム又はカリウム等のアルカリ金属酸化物や、マグネシウム又はカルシウム等のアルカリ土類金属を5質量%の割合で添加混合させた混合粉末を用いてもよい。
【0022】
これら母体となる無機酸化物粉体の1次平均粒径は、7〜100nmであることが好ましく、BET比表面積が30〜400m
2/gであるものが好ましい。BET比表面積が下限値未満のものでは、平均粒径が大きくなりすぎるため、乾式法による製造が困難である。一方、上限値を越えるものは、平均粒径が小さく、現状では工業製品として存在しない。なお、本明細書において1次平均粒径とは、TEM(透過型電子顕微鏡)によって撮影された写真から、任意に選択した微粒子100個についてその粒径を測定し、これらを平均した値である。また、BET比表面積とは、BET法により測定された値である。
【0023】
上記無機酸化物粉体又は複合無機酸化物粉体の表面処理は、イオン性液体を用いて施されるが、一般にイオン性液体は、次の式(2)で示されるカチオン(Q
+)及びアニオン(A
-)からなる常温で液体の溶融塩である。
【0024】
Q
+A
- (2)
カチオンとしては、次の式(3)〜(5)に示す第4級アンモニウムカチオンが挙げられる。
【0025】
【化2】
但し、式(3)中、R
3〜R
6はそれぞれ互いに同じであっても異なっていてもよく、置換されていてもよいアルキル基を示す。
【0026】
【化3】
但し、式(4)中、Q
1は置換されていてもよい含窒素脂肪族環基を示す。R
3及びR
4は上
記に同じ。
【0027】
上記式(4)において、置換されていてもよい含窒素脂肪族環基としては、例えばピロリジル基、2−メチルピロリジル基、3−メチルピロリジル基、2−エチルピロリジル基、3−エチルピロリジル基、2,2−ジメチルピロリジル基、2,3−ジメチルピロリジル基、ピペリジル基、2−メチルピペリジル基、3−メチルピペリジル基、4−メチルピペリジル基、2,6−ジメチルピペリジル基、2,2,6,6−テトラメチルピペリジル基、モルホリノ基、2−メチルモルホリノ基、3−メチルモルホリノ基等が挙げられる。
【0028】
【化4】
但し、式(5)中、Q
2は置換されていてもよい含窒素ヘテロ芳香族環基を示す。R
3は上記に同じ。
【0029】
上記式(5)において、置換されていてもよい含窒素ヘテロ芳香族基としては、例えばピリジル基、2−メチルピリジル基、3−メチルピリジル基、4−メチルピリジル基、2,6−ジメチルピリジル基、2−メチル−6−エチルピリジル基、1−メチルイミダゾリル基、1,2−ジメチルイミダゾリル基、1−エチルイミダゾリル基、1−プロピルイミダゾリル基、1−ブチルイミダゾリル基、1−ペンチルイミダゾリル基、1−へキシルイミダゾリル基等が挙げられる。
【0030】
本発明において、表面処理に用いる上記式
(2)で示されるイオン性液体は、該イオン性液体を構成するカチオンが、上記式(3)〜式(5)に示す第4級アンモニウムカチオンであって、次の式(1)で示される反応基を有するものであることが好ましい。
【0031】
【化5】
但し、式(1)中、Xは1〜3の整数であり、R
1は炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基又はオキシム基であり、R
2は炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基又はトリフルオロプロピル基である。
【0032】
カチオンが、上記式(1)で示される反応基を有することにより、
図1に示すように、無機酸化物粉体表面の水酸基とこの反応基との加水分解反応によって強固な共有結合で結合される。これにより、表面処理後の表面改質された無機酸化物粉体は、上述のような非常に高い固定化率でもってオニウム塩がその表面に存在し、優れた耐水性、耐溶剤性及び耐久性を発現させることができる。具体的には、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシ基、トリアセトキシ基、メチルジアセトキシ基、トリオキシムシリル基又はメチルジオキシムシリル基等が挙げられる。
【0033】
上記式(1)で示される反応基は、上記式(3)〜式(5)で示される第4級アンモニウムカチオンにおけるR
3〜R
6で示される置換されていてもよいアルキル基のいずれかに、該アルキル基の置換基として少なくとも1つ含まれていればよい。即ち、上記式(3)〜式(5)で示される第4級アンモニウムカチオンにおいて、R
3〜R
6で示される置換されていてもよいアルキル基であって、上記式(1)の反応基によって置換されているものの具体例としては、トリメトキシシリルプロピル基等が挙げられる。
【0034】
上記式(1)の反応基を含まない他のR
3〜R
6で示される置換さていてもよいアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状の無置換アルキル基、或いはかかる無置換アルキル基を構成する一つ又は二つ以上水素原子が、例えばフェニル基等のアリール基、例えばジメチルアミノ基等の二置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、例えばホルミル基、アセチル基等のアシル基、例えばメトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、例えばビニル基等のアルケニル基、水酸基等の置換基で置換された、例えば1−メトキシエチル基、2−(ジメチルアミノ)メチル基、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、2−メトキシエチル基、2−(2−メトキシエトキシ)エチル基、アリル基等が挙げられる。
【0035】
本発明において、表面処理に用いられるイオン性液体を構成する上記第4級アンモニウムカチオンの具体例としては、例えば、1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム、N−メチル−N−(トリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム又は1−メチル−3−(トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム等が挙げられる。イオン性液体を構成するアニオンとしては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミデートイオン[N(SO
2CF
3)
2-]、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミデートイオン[N(SO
2C
2F
5)
2-]、トリフルオロメタンスルホン酸イオン又はトリス(トリフルオロメチルスルホニル)炭酸イオン等が挙げられる。
【0036】
本発明において、上記カチオン及びアニオンから選択されるイオン性液体のうち、1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−メチル−N−(トリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又は1−メチル−3−(トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが特に好ましい。
【0037】
表面処理に際し、上記イオン性液体は、これをヘキサン、トルエン、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜8の脂肪族アルコール)又はアセトン等の有機溶媒、場合によっては水等で希釈し、有機溶媒又は水中のイオン性液体の濃度を所定の濃度に調整してから表面処理に用いれば、均一な表面処理ができるため好ましい。
【0038】
また、表面処理は、上記イオン性液体と表面改質剤とを併用した表面処理であってもよい。イオン性液体との併用が可能な表面改質剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザンのようなアルキルシラザン系化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシランのようなアルキルアルコキシシラン系化合物、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランのようなクロロシラン系化合物又はシリコーンオイル系化合物等が挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、或いは目的に応じて2種以上を混合して用いてもよい。上記シリコーンオイル系化合物としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイルや、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、片末端反応性変性シリコーンオイル、両末端反応性変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイルが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。イオン性液体による表面処理を、上記表面改質剤と併用することにより、疎水性を付与した無機酸化物粉体を得ることができる。また、バインダ等の有機材料との親和性、分散性を向上させる。
【0039】
上記イオン性液体又はイオン性液体と上記表面改質剤とを併用する表面処理により、本発明の表面改質された無機酸化物粉体を製造する具体的な方法は、次の通りである。先ず、原料となる無機酸化物粉体100質量部に対して、好ましくは3〜50質量部となる量のイオン性液体を用意する。イオン性液体の使用量が下限値未満では、十分な導電性付与効果を有する粉体が得られず、帯電防止効果に有用であるとされる10
6〜10
9Ωcmという低い電気抵抗率が得られない。一方、上限値を越えると固定化率が低下する。即ち、過剰なオニウム塩がブリードしてしまうため好ましくない。また、イオン性液体は、希釈せずにそのまま使用することもできるが、上述のように有機溶媒又は水で希釈してから使用すれば、無機酸化物粉体における表面改質をより均一に行うことができるため好ましい。この場合の有機溶媒又は水の添加量は、使用するイオン性液体100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部、更に好ましくは100〜1000質量部である。イオン性液体100質量部に対する有機溶媒又は水の添加量が100質量部未満では希釈による上記効果が得られにくく、一方、2000質量部を越えると、有機溶媒又は水の添加量が多くなりすぎて無機酸化物粉体が凝集しやすくなるため好ましくない。
【0040】
表面改質剤を併用する表面処理を行う場合は、上記希釈した又は希釈していないイオン性液体に、無機酸化物粉体100質量部に対して5〜50質量部となる量の表面改質剤を更に添加する。表面改質剤の添加量が下限値未満では、無機酸化物粉体における表面改質が不均一になりやすい。一方、上限値を越えると無機酸化物粉体の凝集が起こるため好ましくない。また、このイオン性液体には、反応を促進するために、触媒等を更に添加してもよい。
【0041】
次に、無機酸化物粉体を反応容器に入れ、窒素等の不活性ガス雰囲気下、粉末を回転羽根等で攪拌しながら上記イオン性液体又は表面改質剤が添加されたイオン性液体を粉末に添加する。窒素等の不活性ガス雰囲気とする理由は、酸化を防止するためである。そして、これを80℃〜300℃の温度で30〜120分間反応容器内で混合する。温度を80℃〜300℃の範囲とする理由は、下限値未満では、無機酸化物粉体における表面改質が不十分になるため、無機酸化物粉体にオニウム塩が固定化されにくく、一方、上限値を越えると表面改質剤が劣化するおそれがあるため好ましくない。このうち、温度は100〜300℃の範囲であることが特に好ましい。また、混合する時間が下限値未満では、無機酸化物粉体における表面改質が不十分になるため、無機酸化物粉体にオニウム塩が固定化されにくく、一方、上限値を越えると表面改質剤が劣化するおそれがあるため好ましくない。このうち、30〜90分間混合するのが特に好ましい。その後、室温に放置又は冷却水等によって粉末を冷却する。
【0042】
以上の工程により、本発明の表面改質された無機酸化物粉体が得られる。このようにして得られた本発明の表面改質された無機酸化物粉体は、合成樹脂・ゴム部材、帯電防止用フィルム、コート材等の各種半導電部材に帯電防止効果を付与するために添加される導電性付与剤として好適に用いることができる。また、本発明の無機酸化物粉体は、樹脂又はゴム等に添加した場合に、非常に安定した電気抵抗率を与えるため、電気抵抗率の精密な制御が求められる半導電部材、例えば画像形成装置における帯電ロール、転写ロール、現像ロール等の形成にも好適に用いることができる。更に、電子写真の現像剤であるトナー等において、流動性改善や帯電性を調整するため、或いはトナーの転写性や耐久性を向上させる目的で添加される外添材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。予め、実施例1〜12又は比較例1,2に用いたイオン性液体について、次の合成例1〜3により合成した。
なお、実施例9〜12は参考例である。
【0044】
<合成例1>
先ず、200mlのフラスコに1−メチルイミダゾール17.4g(0.21モル)と3−クロロプロピルトリメトキシシラン38.0g(0.192モル)を入れ、窒素気流下90℃で72時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応液に酢酸エチル100gを加えてろ過した。分離した固体を酢酸エチルで洗浄し、減圧下にて乾燥し1−メチル−3−(トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム=クロライド66.4g(収率96%)を得た。
【0045】
次に、得られた1−メチル−3−トリメトキシシランプロピルイミダゾリウム=クロライド20g(0.056モル)を200mlのフラスコ中でアセトン70gに溶解させ、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム16.1g(0.056モル)を加えた後、窒素気流下24時間室温で攪拌した。この反応液をろ過した後、得られたろ液を濃縮し酢酸エチル30gを加え放置した。次いで、析出した結晶を分離し、減圧下で揮発成分を除去し1−メチル−3−(トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド35.5g(収率75%)を得た。
【0046】
<合成例2>
先ず、200mlのフラスコにピリジン20g(0.25モル)と3-クロロプロピルトリメトキシシラン38.0g(0.192モル)を入れ、窒素気流下90℃で72時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応液に酢酸エチル100gを加えてろ過した。分離した固体を酢酸エチルで洗浄し、減圧下にて乾燥し1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム=クロライド40.0g(収率75%)を得た。
【0047】
次に、得られた1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム=クロライド20g(0.072モル)を200mlのフラスコ中でアセトン90gに溶解させ、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム20.7g(0.072モル)を加えた後、窒素気流下24時間室温で攪拌した。この反応液をろ過した後、得られたろ液を濃縮し酢酸エチル30gを加え放置した。最後に、析出した結晶を分離し、減圧下で揮発成分を除去し1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド28.0g(収率74%)を得た。
【0048】
<合成例3>
先ず、200mlのフラスコに1-メチルピペリジン20g(0.202モル)と3-クロロプロピルトリメトキシシラン38.0g(0.192モル)を入れ、窒素気流下90℃で48時間攪拌して反応させた。反応終了後、反応液にアセトニトリル90gを加えてろ過した。分離した固体を酢酸エチルで洗浄し、減圧下にて乾燥し1−メチル−1−(トリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム=クロライド18.0g(収率29%)を得た。
【0049】
次に、得られた1−メチル−1−(トリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム=クロライド10g(0.034モル)を200mlのフラスコ中でアセトン60gに溶解させ、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム14.5g(0.034モル)を加えた後、窒素気流下24時間室温で攪拌した。この反応液をろ過した後、得られたろ液を濃縮し酢酸エチル30gを加え放置した。最後に、析出した結晶を分離し、減圧下で揮発成分を除去し1−メチル−1−(トリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド16.3g(収率90%)を得た。
【0050】
<実施例1>
先ず、イオン性液体として、合成例2で得た1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド50gに、有機溶媒としてエタノールを200g添加して希釈させたイオン性液体を用意した。次に、BET比表面積が200m
2/gの気相法で得られたシリカ粉(日本アエロジル社製 商品名:アエロジル200)
100gを反応容器に入れ、この反応容器に窒素雰囲気の下、粉末を回転羽根で撹拌しながら上記希釈させたイオン性液体を添加した。次いで、これを窒素雰囲気の下、100℃の温度で60分間攪拌しながら混合した後、冷却水で冷却し、無機酸化物粉体を得た。この表面処理を施して表面改質された無機酸化物粉体を実施例1とした。
【0051】
<実施例2>
以下の表1に示すように、実施例1と同じイオン性液体20gに有機溶媒としてエタノールを80g添加して希釈させたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例2とした。
【0052】
<実施例3>
以下の表1に示すように、実施例1と同じイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノールを20g添加して希釈させたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例3とした。
【0053】
<実施例4>
以下の表1に示すように、実施例1で用いたイオン性液体の代わりに、合成例1で得た1−メチル−3−(トリメトキシシリルプロピル)イミダゾリウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド3gに有機溶媒としてエタノールを20g添加して希釈させたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例4とした。
【0054】
<実施例5>
以下の表1に示すように、実施例1で用いたイオン性液体の代わりに、合成例3で得た1−メチル−1−(トリメトキシシリルプロピル)ピペリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド3gに有機溶媒としてエタノールを20g添加して希釈させたこと以外は、実施例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例5とした。
【0055】
<実施例6>
以下の表1に示すように、実施例1と同じイオン性液体3gに有機溶媒としてエタノールを20g添加して希釈させたこと、表面改質剤としてジメチルシリコーンオイル(信越化学社製 商品名:KF−96 100cs)20gをヘキサン60gで希釈して更に添加したこと、及び300℃の温度で撹拌したこと以外は、実施例1と同様に表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面を改質させた無機酸化物粉体を実施例6とした。
【0056】
<実施例7>
以下の表1に示すように、表面改質剤としてジメチルシリコーンオイルの代わりにヘキサメチルジシラザンを用いたこと、及び150℃の温度で撹拌したこと以外は、実施例6と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例7とした。
【0057】
<実施例8>
以下の表1に示すように、表面改質剤としてジメチルシリコーンオイルの代わりにオクチルトリメトキシシランを用いたこと、及び150℃の温度で撹拌したこと以外は、実施例6と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例8とした。
【0058】
<実施例9>
シリカ粉末としてアエロジル200の代わりに、BET比表面積が200m
2/gの湿式法で得られたシリカ粉(DSL.ジャパン社製 商品名:CARPLEX#80)を用いたこと以外は、実施例3と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例9とした。
【0059】
<実施例10>
以下の表1に示すように、シリカ粉末としてアエロジル200の代わりに、BET比表面積が200m
2/gの湿式法で得られたシリカ粉(DSL.ジャパン社製 商品名:CARPLEX#80)を用いたこと以外は、実施例7と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例10とした。
【0060】
<実施例11>
以下の表1に示すように、無機酸化物粉体としてチタニア粉(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルP25)を用いたこと、表面改質剤としてヘキサメチルジシラザンの代わりにオクチルトリメトキシシランを用いたこと以外は、実施例7と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例11とした。
【0061】
<実施例12>
以下の表1に示すように、無機酸化物粉体としてアルミナ粉(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルAluC)を用いたこと、表面改質剤としてヘキサメチルジシラザンの代わりにオクチルトリメトキシシランを用いたこと以外は、実施例7と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を実施例12とした。
【0062】
<比較例1>
以下の表2に示すように、実施例1と同じイオン性液体110gに有機溶媒としてエタノールを500g添加して希釈させたこと以外は、実施例1と同様に表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例1とした。
【0063】
<比較例2>
実施例1と同じイオン性液体0.5gに有機溶媒としてエタノールを10g添加して希釈させたこと、以下の表2に示すように、表面改質剤としてジメチルシリコーンオイル(信越化学社製 商品名:KF−96 100cs)20gをヘキサン60gで希釈して更に添加したこと、及び300℃の温度で撹拌したこと以外は、比較例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例1とした。
【0064】
<比較例3>
以下の表2に示すように、イオン性液体として、1−(トリメトキシシリルプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの代わりに、脂肪族アミン系のイオン性液体(広栄化学社製:IL−A2)10gに有機溶媒としてエタノールを40g添加して希釈させたこと以外は、比較例1と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例3とした。
【0065】
<比較例4>
以下の表2に示すように、更に表面改質剤としてジメチルシリコーンオイル(信越化学社製 商品名:KF−96 100cs)20gをヘキサン60gで希釈して更に添加したこと、及び300℃の温度で撹拌したこと以外は、比較例3と同様に表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例4とした。
【0066】
<比較例5>
以下の表2に示すように、表面改質剤としてジメチルシリコーンオイルの代わりにヘキサメチルジシラザンを用いたこと、及び150℃の温度で撹拌したこと以外は、比較例4と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例5とした。
【0067】
<比較例6>
以下の表2に示すように、表面改質剤としてヘキサメチルジシラザンの代わりにオクチルトリメトキシシランを用いたこと以外は、比較例5と同様に、表面処理を施して無機酸化物粉体を得た。この表面改質された無機酸化物粉体を比較例4とした。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
<比較試験及び評価>
実施例1〜12及び比較例1〜6の無機酸化物粉体について、窒素含有量、固定化率及び電気抵抗率を評価した。これらの結果を以下の表3に示す。
【0070】
(1) 窒素含有量:SUMIGRAPH NC−22を用い、所定量の無機酸化物粉体をサンプルとして、上記SUMIGRAPHが備える、秤量を完了した標準試料及び測定試料の入ったボートを装置にセットし、測定した。測定データ処理プログラムにて最終結果まで自動計算される。計算された値は、所定量の無機酸化物粉体中の窒素量の含有量として表される。
【0071】
(2) オニウム塩の固定化率:先ず、無機酸化物粉体0.7gを資料とし、抽出溶媒としてエタノールを用いてソックスレー抽出装置(BUCHI社製)により、抽出時間60分、リンス時間30分とする条件で粉体上の遊離オイルを抽出した。抽出後、粉体における窒素含有量を上記のように測定し、抽出前の粉体における窒素含有量で割ったものの百分率を算出し、これをオニウム塩の固定化率とした。
【0072】
(3) 電気抵抗率: 高抵抗率計(三菱化学社製 Hiresta−UP)を用い、所定量の無機酸化物粉体をサンプルとして、上記高抵抗率計が備えるシリンダー上部から投入しプローブユニットを取り付けた。そして、圧力及び電圧を所定値に設定して測定を開始し、設定時間経過後、測定が終了して表示された抵抗値を読み取った。また、デジタルスケールの表示値をサンプルの厚みとして読み取り、下記式にて比抵抗率を演算した。
【0073】
ρv=49.08×ρ/t (6) 上記式(6)中、ρvは体積比抵抗率(Ωcm)であり、ρは上記読み取った抵抗値(Ω)であり、tはサンプルの厚み(mm)である。
【0074】
(4) ブリード:無機酸化物粉体を導電性付与剤として添加して得られたゴム試験片について、25%圧縮した状態で、70℃の温度で72時間放置した後、その表面のブリードの有無を目視により確認した。表3中、記号「A」は、ブリードが認められなかったことを意味し、記号「B」は、ブリードが少々認められたことを意味し、記号「C」は、ブリードが顕著に認められたことを意味する。
【0075】
【表3】
表1〜表3から明らかなように、本発明の表面改質された無機酸化物粉体は、帯電防止効果に有用であるとされる10
6〜10
9Ωcmという電気抵抗率を示す。更に、粉体表面にイオン性液体によるオニウム塩が高い固定化率で固定されているため、半導電材料の導電性付与剤として添加した場合、イオン性液体のブリードを生じさせること無く、高い評価が得られた。しかもイオン性液体によるオニウム塩が、導電性を付与し、安定した電気抵抗率が得られる。