【0019】
(1) 18-O-ジメトキシトリチルヘキサエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト{18-O-Dimethoxytritylhexaethyleneglycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite}
(商品名:Spacer Phosphoramidite 18、米国Glen Research社)
(エチレングリコール単位6個から成るリンカー部を結合)
(2) 9-O-ジメトキシトリチルトリエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト
{9-O-Dimethoxytrityl-triethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite}
(商品名:Spacer Phosphoramidite 9、米国Glen Research社)
(エチレングリコール単位3個から成るリンカー部を結合)
(3) 12-O-ジメトキシトリチルテトラエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]ホスホロアミダイト
12-O-Dimethoxytrityl-tetraethyleneglycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]phosphoramidite
(商品名:Spacer 12、米国ChemGenes社)
(エチレングリコール単位4個から成るリンカー部を結合)
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例、比較例及び参考例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各例の説明に先立ち、各特性の測定方法及び評価方法について説明する。
【0025】
1.融解温度(Tm値)測定試験(デコイの二本鎖としての安定性を測定)
Tm解析システム(UV-1650PC/TMSPC-8:SHIMADZU社製)を使用して、PBS溶液中における各デコイの吸光度を1℃〜99℃の範囲で、複数回測定し、各温度における二本鎖の解離をモニターした。温度−吸光度曲線から、微分法で各Tm値(℃)を算出した。
【0026】
2.結合活性試験(マウス血漿に対するデコイの活性安定性を、無細胞系実験で測定)
各デコイ溶液にマウス血漿を添加し(核酸の終濃度10μmol/L、マウス血漿90%)、37℃で0〜24時間反応させた。反応後、市販の転写因子アッセイキット(TransAM(商品名)NF-κB p65:Cat.No.40096:Active Motif, Inc社)を用い、NF-κBコンセンサス配列が固相化されているプレートへ上記核酸反応液と、Jurkat 細胞(ヒトTリンパ腫由来)核抽出液を添加し反応(室温、1時間)させた。洗浄後、一次抗体(抗NF-κB p65抗体)と二次抗体(HRP-抗IgG抗体)をキット説明書に従って添加、洗浄し、化学発光法を用いて測定した。
【0027】
評価方法
各デコイ溶液の濃度値を対数に変換し、横軸を対数に変換した濃度値(0.005〜167nmol/Lの濃度内で5〜10点)、縦軸に各群のパーセンテージ値をプロットし、近似曲線を作成し、各反応時間におけるIC
50(inhibition concentration 50%)を算出した。
【0028】
3.変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動試験(マウス血漿に対するデコイの構造安定性を、ゲル電気泳動を用いて測定)
各デコイ溶液にマウス血漿を添加し(核酸の終濃度10μmol/L、マウス血漿90%)、37℃で0〜24時間反応させた。反応後、20%非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で、100V、100分間分離した。2.5μg/mLエチジウムブロマイド水溶液で20分間染色した後、脱イオン水で15分間脱染色し、UVトランスイルミネーターで蛍光バンドとして可視化した。得られたゲルの画像を、画像解析装置(LAS-3000 UVmini:FUJI FILM社)で撮影すると共に、可視化された完全長のデコイ核酸化合物を装置付属のソウトウェアで定量した。
【0029】
4.細胞内結合活性試験(デコイのNF-κB転写因子結合阻害活性を細胞を用いた実験系で測定)
マウスマクロファージ由来RAW264.7細胞を播種(6ウェルプレート: 6.0〜9.0×10
5細胞/ウェル/2mL)し、37℃、5%CO
2で24時間培養(10%FBS含有RPMI1640)した。各デコイ核酸(最終濃度は比較例1の二本鎖DNA:0.12〜4μmol/L、その他のデコイ:0.00012〜1.2μmol/L)を、DMRIE-C遺伝子導入用試薬(Invitrogen社)により細胞に導入した(4Hr、24Hrともに4時間導入)。24Hrの場合は4時間導入後に洗浄し、RPMI1640培養液で20時間培養した。その後細胞を洗浄し、LPS刺激(100ng/mL、1時間)を加えた。細胞洗浄の後、細胞の核抽出液を調製し、市販の転写因子アッセイキット(TransAM(商品名)NF-κB p65:Cat.No.40096:Active Motif, Inc社)を利用して、各核抽出サンプルにおける結合阻害活性を測定した。(上記結合活性試験参照)
【0030】
評価方法
演算はMicrosoft Excel 2002(商品名、Microsoft社)を使用した。平均値はExcelの関数AVERAGE、標準偏差(S.D.)は関数STDEVを用いて演算した。データは3例の平均値±標準偏差として表した。
【0031】
5.細胞毒性試験
HeLa細胞をTrypsin-EDTA処置により一度剥離させ、播種(96well plate: 1.0×10
4 細胞/ウェル/50μL、10%FBS含有RPMI1640)した。次に、10%FBS MEM培地で調製した6,20,60および200μmol/Lの各デコイを50μLずつ添加し、37℃、5%CO
2で24時間培養した後、WST-1法より生細胞のミトコンドリア代謝活性を指標に、細胞増殖を測った。
【0032】
評価方法
横軸に各デコイの濃度値(3、10、30、100μmol/L)、縦軸に各濃度における無処置群の測定値を100%にした時のパーセンテージ値をプロットし、50%を挟む二点より LC
50(半数致死濃度)を算出し、各群のLC
50値と比較例1のLC
50値との比を求めた。
【0033】
6.紫外吸光分析
NanoDrop ND-1000 Spectrophotometer (商品名、NanoDrop Technologies, LLC)を用い、各サンプルのUV(水)λmaxを測定した。
7.HPLC保持時間
各サンプルを下記条件の逆相イオン対HPLCにて分析し、保持時間を測定した。
装置:SHIMADZU prominence(商品名、島津製作所)
カラム:Waters Xbridge C18(商品名、日本ウォーターズ、2.5μm、4.6×75mm)
カラム温度:50℃
A液:5%アセトニトリル, 0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0)
B液:90%アセトニトリル, 0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0)
グラジエントB液濃度:0%-30%(30min)
流速:1mL/min
検出波長:260nm
【0034】
実施例1 オリゴヌクレオチド誘導体の合成
以下の構造を有する30種類のオリゴヌクレオチド誘導体を後記方法並びに合成例に従って調製した。なお、下記誘導体1〜30のうち、
誘導体5が本発明の有効成分に該当する誘導体であり、その他はヘアピン型構造の安定性等を示すための参考例である。
(1) 5'-ag
sgg
sga
stt
stc
scc
sc-(CH
2CH
2O)
6-gg
sgg
saa
sat
scc
scc
st-3'(誘導体1)
(2) 5'-gg
sgg
saa
sat
scc
scc
st-(CH
2CH
2O)
6-ag
sgg
sga
stt
stc
scc
sc-3'(誘導体2)
(3) 5'-ag
sgg
sga
stt
stc
scc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sgg
sgg
saa
sat
scc
scc
st-3'(誘導体3)
(4) 5'-gg
sgg
saa
sat
scc
scc
st
s-(CH
2CH
2O)
6-
sag
sgg
sga
stt
stc
scc
sc-3'(誘導体4)
(5) 5'-ag
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-(CH
2CH
2O)
6-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc
st-3'(誘導体5)
(6) 5'-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc
st-(CH
2CH
2O)
6-ag
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-3'(誘導体6)
(7) 5'-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc
st
s-(CH
2CH
2O)
6-
sag
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-3'(誘導体7)
(8) 5'-ag
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc-(CH
2CH
2O)
6-ggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc
st-3'(誘導体8)
(9) 5'-ggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc
st-(CH
2CH
2O)
6-ag
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc-3'(誘導体9)
(10) 5'-ag
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc
st-3'(誘導体10)
(11) 5'-ggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc
st
s-(CH
2CH
2O)
6-
sag
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc-3'(誘導体11)
(12) 5'-a
sg
sg
sg
sg
sa
st
st
st
sc
sc
sc
sc-(CH
2CH
2O)
6-g
sg
sg
sg
sa
sa
sa
st
sc
sc
sc
sc
st-3'(誘導体12)
(13) 5'-a
sg
sg
sg
sg
sa
st
st
st
sc
sc
sc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sg
sg
sg
sg
sa
sa
sa
st
sc
sc
sc
sc
st-3'(誘導体13)
(14) 5'-g
sg
sg
sg
sa
sa
sa
st
sc
sc
sc
sc
st-(CH
2CH
2O)
6-a
sg
sg
sg
sg
sa
st
st
st
sc
sc
sc
sc-3'(誘導体14)
(15) 5'-g
sg
sg
sg
sa
sa
sa
st
sc
sc
sc
sc
st
s-(CH
2CH
2O)
6-
sa
sg
sg
sg
sg
sa
st
st
st
sc
sc
sc
sc-3'(誘導体15)
(16) 5'-ag
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc
st-3' (誘導体16)
(17) 5'-g
sgg
sga
stt
stc
scc
sc-(CH
2CH
2O)
6-gg
sgg
saa
sat
scc
scc-3' (誘導体17)
(18) 5'-gg
sgg
saa
sat
scc
scc-(CH
2CH
2O)
6-g
sgg
sga
stt
stc
scc
sc-3' (誘導体18)
(19) 5'-g
sgg
sga
stt
stc
scc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sgg
sgg
saa
sat
scc
scc-3' (誘導体19)
(20) 5'-gg
sgg
saa
sat
scc
scc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sg
sgg
sga
stt
stc
scc
sc-3' (誘導体20)
(21) 5'-g
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-(CH
2CH
2O)
6-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc-3' (誘導体21)
(22) 5'-gg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-(CH
2CH
2O)
6-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
sc
sc-3' (誘導体22)
(23) 5'-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc-(CH
2CH
2O)
6-g
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-3' (誘導体23)
(24) 5'-g
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc-3' (誘導体24)
(25) 5'-ggg
sg
saa
sa
stc
sc
scc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sg
sg
sgg
sa
stt
st
scc
sc
sc-3' (誘導体25)
(26) 5'-g
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc-(CH
2CH
2O)
6-ggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc-3' (誘導体26)
(27) 5'-ggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc-(CH
2CH
2O)
6-g
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc-3' (誘導体27)
(28) 5'-g
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc-3' (誘導体28)
(29) 5'-ggg
sg
sa
saa
st
sc
scc
sc
s-(CH
2CH
2O)
6-
sg
sg
sg
sga
st
st
stc
sc
sc
sc-3' (誘導体29)
(30) 5'-g
sgg
sa
stt
st
scc
sc-(CH
2CH
2O)
6-gg
sg
saa
sa
stc
sc
sc-3' (誘導体30)
((1)〜(30)中、添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士又はsの両隣のヌクレオチドとエチレングリコール単位がホスホロチオエート結合していることを示す)。
【0035】
上記各オリゴヌクレオチド誘導体は、基本的に、市販のDNA合成用固相支持体、DNAシアノエチルホスホロアミダイト、及び適切な反応/修飾試薬を用い、リン酸ジエステル結合を全部又は部分的にホスホロチオエート化修飾を施したオリゴヌクレオチドをDNA自動合成機(商品名:ABI394、米国Applied Biosystems社製)で3'→5'方向に合成した。ポリエチレングリコール鎖を導入したヘアピン型NF-κBデコイの製造に当たっては、まず、3'側配列(その5'末端にリンカーが結合される方の配列)を3'→5'方向に合成し、その5'末端に続けて、18-O-ジメトキシトリチルヘキサエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト(商品名:Spacer Phosphoramidite 18、米国Glen Research社) 1分子をカップリングさせ、さらに、5'側配列(その3'末端にリンカーが結合される方の配列)を3'→5'方向に引き続き合成することで、3'側配列と5'側配列がヘキサエチレングリコールで連結されたオリゴヌクレオチド誘導体を得た。それを加熱、急冷により分子内アニーリングさせて製造した。
【0036】
より具体的には、上記合成は次のように行なった。DMT-デオキシアデノシン(bz)β-シアノエチルホスホロアミダイト、DMT-デオキシシチジン(bz)β-シアノエチルホスホロアミダイト、DMT-デオキシグアノシン(bz)β-シアノエチルホスホロアミダイトおよびDMT-デオキシチミジンβ-シアノエチルホスホロアミダイトをSigma-Aldrich社から、Spacer18 phosphoramidite(商品名)、S化試薬(CPRII、3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン-1,1-ジオキシド)および合成用カラムをGlen Research社から、オリゴDNA合成用の脱保護溶液、活性化溶液、酸化溶液およびキャッピング溶液(CapA溶液およびCapB溶液)を和光純薬からそれぞれ購入した。(bzはベンゾイル基を意味する。)
【0037】
合成例1(誘導体1の合成)
DNA自動合成装置ABI394(Applied Biosystems社製)を用いて、ホスホロアミダイト法により、固相支持体上に所望のオリゴヌクレオチドを以下のように合成した。合成装置に、保護された3’末端ヌクレオチド(dT)を予め結合した多孔性ガラス(Controlled Pore Glass: CPG)を含む合成用カラムを装着し、脱保護溶液、活性化溶液および3'末端の隣に隣接するヌクレオチド(dC)のβ-シアノエチルホスホロアミダイト(アセトニトリル溶液)、酸化溶液、キャッピング溶液(CapA溶液とCapB溶液との1:1混合液)の順に反応溶液を合成用カラムに通し、ヌクレオチド間ホスホジエステル結合を形成させた。ヌクレオチド間連結がホスホロチオエートの場合、酸化溶液の代わりに無水アセトニトリルに溶解したS化試薬を使用した。各試薬の濃度および使用量は、製造元の指示書に従った。以下同様にして、3'→5'方向に順次1塩基ずつ延長合成した。Spacer 18 phosphoramidite(商品名)を、該商品に添付の指示書に従い、合成したオリゴヌクレオチドの5'末端に結合し、次いで、前記と同様に、Spacer 18 phosphoramidite(商品名)の他端側に結合するオリゴヌクレオチドを3'→5'方向に順次1塩基ずつ延長合成した。
【0038】
固相担体からの切り出しおよび脱保護
28%アンモニア水溶液で室温、2時間処理し、オリゴヌクレオチド誘導体をCPGより切り出した。さらに、その溶液を65℃、6時間処理し、塩基部分の保護基およびリン酸部分の保護基を脱離させた。
【0039】
カートリッジ精製
Oligo R3担体(Applied Biosystems社製)を充填した固相抽出カラムに0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0)を加えて平衡化し、そこに精製前のオリゴヌクレオチドを入れて吸着させ、0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0):アセトニトリル(9:1)を添加して不完全なオリゴヌクレオチドを洗い出した後、2%トリフルオロ酢酸水溶液の添加によって完全長のオリゴヌクレオチドから5'末端のジメトキシトリチル基を脱離させ、水を通して1回洗浄した。次に、20%アセトニトリルを添加してオリゴヌクレオチドを溶出させた。次いで、その溶出液から凍結乾燥により溶媒を蒸発させ、オリゴヌクレオチド誘導体を得た。
【0040】
比較例1
以下の構造を有する、S化された通常の二本鎖DNAを常法により合成した(塩基配列は配列番号3に示す。)
【0041】
5'-CsCsTsTsGsAsAsGsGsGsAsTsTsTsCsCsCsTsCsC-3'
3'-GsGsAsAsCsTsTsCsCsCsTsAsAsAsGsGsGsAsGsG-5'
(添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士がホスホロチオエート結合していることを示す)。
【0042】
実施例2
実施例で調製したオリゴヌクレオチド誘導体(誘導体1〜30)及び比較例1の二本鎖DNAについて、上記した測定方法、又は測定方法を先に記載していない特性については常法により、各種特性を測定した。結果を下記表1−1及び表1−2に示す。
【0043】
【表1-1】
【0044】
【表1-2】
【0045】
表1−1及び表1−2に示されている各特性の薬理学的な意味を以下に説明する。
【0046】
(1) 結合活性
(i) 0Hr
無細胞系(セルフリー系)での、マウス血漿90%存在下で反応時間0Hr(0時間、以下同様)における、各化合物のNF-κB結合に対するIC
50値である。実際には、各デコイ溶液にマウス血漿を添加後、3秒以内に測定した値を便宜上0Hrの値とした。
【0047】
(ii) 24Hr 、24Hrs/0Hr 比
無細胞系での、マウス血漿90%存在下で反応時間24Hrにおける、各化合物のNF-κB結合に対するIC
50値である。比較例1のIC
50値が0Hrと24Hrの間で殆ど変わらないのに対し、誘導体1〜16、21および23〜25の各化合物では24HrのIC
50が増加している。これは各化合物がマウス血漿により分解されていることを示す。上記で合成したオリゴヌクレオチド誘導体は生体に適用するのが目的であり、血漿成分に対する耐性と同時に、副作用を考慮すると適度に代謝を受けることも望ましい。生体では、生理活性を有する天然の物質は、いずれも分解と生合成のバランスにより適切な濃度に維持され、生体の恒常性が保たれるようになっている。オリゴヌクレオチド誘導体1〜30は、比較例1と比較し代謝されやすい特長を有することが明らかである。
【0048】
(2) 50%残存時間
同じく無細胞系における上記オリゴヌクレオチド誘導体の核酸としての血漿に対する生化学的安定性を示すデータである。
【0049】
(3) 細胞内結合活性
(i) 4Hrs
培養細胞系でのNF-κB阻害作用を示すデータであり、各化合物の細胞内・外耐性、細胞膜透過性を含んだ値である。上記オリゴヌクレオチド誘導体は、比較例1の二本鎖DNAと比較し約20〜500倍のポテンシャルを有することが明らかである。
【0050】
(ii) 24Hrs
前述のように、上記オリゴヌクレオチド誘導体は比較例1の二本鎖DNAと比較し分解されやすい特長を有するが、24時間後においても、なお比較例1の二本鎖DNAより3〜14倍のポテンシャルを有することが明らかである。
【0051】
(4) 細胞毒性
上記オリゴヌクレオチド誘導体は、比較例1の二本鎖DNAと比較して、LC
50が約1.5〜3.8倍高く優れていた。
【0052】
(5) Tm値
オリゴヌクレオチド誘導体の物理学的(熱力学的)安定性を示すデータである。比較例1の二本鎖DNAは、ヒトを始めとするほ乳類の体温より若干高い程度の熱力学的安定性しか有さず、例えば軟膏等の製剤化工程においてほとんど加熱することができないが、上記オリゴヌクレオチド誘導体は一般的製剤工程における温度条件であれば安定である。
【0053】
(6) UV λmaxおよびHPLC保持時間
各化合物の物性値データである。
【0054】
表1−1及び表1−2に示される通り、上記オリゴヌクレオチド誘導体は、その結合活性が比較例1の二本鎖DNAよりも遥かに高く(0Hrの結合活性)、細胞内での代謝性は比較例1の二本鎖DNAよりも遥かに高いが(24Hrs/0Hr比)、24時間後でもなおオリゴヌクレオチド誘導体の方が結合活性が高い。また、細胞毒性は、オリゴヌクレオチド誘導体の方が低い。特に、全てのヌクレオチド間結合がS化されている誘導体15と比較例1を比較した場合、S化に起因する毒性を等しくして比較することができるが、オリゴヌクレオチド誘導体の細胞毒性は、比較例1の二本鎖DNAの細胞毒性の約57%であった。
【0055】
実施例3 炎症性腸疾患モデルに対するオリゴヌクレオチド誘導体の薬理効果
上記で調製したオリゴヌクレオチド誘導体の炎症性腸疾患に対する薬理効果について、マウスモデルを用いて以下の通り検討した。
【0056】
(炎症性腸疾患モデルの作成)
C57BL/6マウス8週齢を用い、デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sulfate sodium; DSS)を飲水内に混入し5%濃度としたものを自由飲水させ、10日間飼育することによって炎症性腸疾患モデルを作製した。
【0057】
(被験物質の投与)
投与物質;実施例のオリゴヌクレオチド誘導体(誘導体5)若しくは比較例1の二本鎖DNAを生理食塩水100μLに溶解させたもの、または対照として生理食塩水。
投与経路;静脈内投与
投与時期・頻度;炎症惹起(DSS投与開始)の直前。単回投与。
投与方法;27G注射針つきシリンジを用いて覚醒下でマウスの尾静脈より投与した。
【0058】
(実験動物群)
1 無処置群(通常水を飲水させる。健常ラットモデル)n=10
2 DSS群(腸炎モデル群)n=9
3 DSS+実施例の誘導体5(5.0mg/kg体重)群n=6
4 DSS+比較例1の二本鎖DNA(5.0mg/kg体重)群n=6
【0059】
(評価項目)
疾患改善の評価として、DNA投与3,7,10日後の体重の変化率、疾患活動度Disease activity index (DAI)を検討した。
(i) 体重変化率は、炎症惹起直前の体重を100%として計算した。
(ii) DAIは、Clin Exp Immunol. 2000 Apr;120(1):51-8.に従い、以下の項目の点数を合計しスコアを算出した(体重減少率スコア+便性状スコア+血便スコア、最低0〜最大12)。
【0060】
【表2】
【0061】
(結果)
体重変化とDAI変化の結果を下記表3及び表4に示す。実施例のオリゴヌクレオチド誘導体5は、静脈投与により、腸炎モデルマウスの体重の減少とDAIの上昇を顕著に抑制した。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
(組織鏡検)
day10に動物を屠殺し、大腸組織切片の光学顕微鏡検査を行った(撮影倍率:40倍、100倍)。その結果、DSS群においては、杯細胞の消失及び炎症性細胞の浸潤が認められた。一方で、実施例のオリゴヌクレオチド誘導体を投与したDSS+誘導体5群では、大腸組織はほぼ正常構造を保っていた。比較例の二本鎖DNAを投与したDSS+比較例1群では、杯細胞の一部消失及び炎症性細胞の浸潤が認められた。
【0065】
以上の結果は、実施例で合成したオリゴヌクレオチド誘導体5が静注投与で腸管組織炎症を抑制できることを示している。