特許第5730508号(P5730508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730508
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患の治療又は予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7125 20060101AFI20150521BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   A61K31/7125
   A61P1/04
   A61P29/00
   A61K48/00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2010-157491(P2010-157491)
(22)【出願日】2010年7月12日
(65)【公開番号】特開2011-32269(P2011-32269A)
(43)【公開日】2011年2月17日
【審査請求日】2013年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2009-164039(P2009-164039)
(32)【優先日】2009年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500409323
【氏名又は名称】アンジェスMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088546
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英次郎
(72)【発明者】
【氏名】牧野 寛史
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 和成
(72)【発明者】
【氏名】森下 竜一
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−142295(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/132204(WO,A1)
【文献】 特表2009−520039(JP,A)
【文献】 特表2009−504190(JP,A)
【文献】 CHEMBIOCHEM,2008年,9,p.50-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるオリゴヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する炎症性腸疾患の治療又は予防剤であって、
5'-aggggatttcccc-(CH2CH2O)n-ggggaaatcccct-3' (I)
(ただし、ヌクレオチド間の結合及びヌクレオチドとエチレングリコール単位との間の結合のうちの少なくとも一部が耐ヌクレアーゼ修飾されていてよい。nは4ないし8の整数を表す)
前記一般式(I)で表されるオリゴヌクレオチド誘導体が、下記式(c)
(c) 5'-agsgsggsasttstsccscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsaasastcscsccst-3'
((c)中、添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士又はsの両隣のヌクレオチドとエチレングリコール単位がホスホロチオエート結合していることを示す)
で表されるオリゴヌクレオチド誘導体である炎症性腸疾患の治療又は予防剤
【請求項2】
静脈内投与用である請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項3】
前記炎症性腸疾患がクローン病又は潰瘍性大腸炎である請求項1又は2記載の治療又は予防剤。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチド誘導体がネイキッドである請求項1ないしのいずれか1項に記載の治療又は予防剤。
【請求項5】
投与量が前記オリゴヌクレオチド誘導体量として5.0 mg/kg以上である請求項1ないしのいずれか1項に記載の治療又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の治療又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
NF-κB(nuclear factor kappa B)は、サイトカインや接着因子等、免疫反応に関する遺伝子の発現を調節する役割を持つ一群の転写因子の総称であり、NF-κBがゲノム遺伝子上の結合部位に結合すると、免疫反応に関する遺伝子が過剰に発現する。このため、NF-κBは、免疫反応が原因となるアトピー性皮膚炎や関節リウマチ等のアレルギー性疾患、自己免疫疾患、さらには心筋梗塞等の虚血性疾患や動脈硬化等の各種疾患に関与することが知られている。
【0003】
NF-κBが関与する疾患の一つに炎症性腸疾患がある。炎症性腸疾患とは、潰瘍性大腸炎とクローン病を二大疾患とする慢性疾患であり、長期に下痢、血便が続く原因不明の難病である。通常の食中毒などと異なり、数日でよくなることはなく、長期にわたり(多くは一生涯)軽快と悪化を繰り返しながら症状が続く。命を落とすことはないが、生活が大きく病気のために犠牲になるのがこの病気の特徴であり、特に若い患者で深刻である。日本での患者数は10万人を超え、なお増加傾向にある。食生活の欧米化や自己免疫などとの関係が検討されているが、いまだに原因究明には至っていない。そのため根治が難しく、早期の緩解導入および長期の緩解維持を目的とした治療が中心となる。
【0004】
一方、転写因子に対するデコイを投与することにより、対象となる転写因子の活性を低下させ、該転写因子に起因して起きる疾患の治療や予防を行なうことが知られている。デコイ(decoy)とは、英語で「おとり」の意味であり、ある物質が本来結合あるいは作用すべきものと似せた構造を有するものをデコイと呼んでいる。転写因子のデコイとしては、主として転写因子のゲノム遺伝子上の結合領域と同じ塩基配列を有する二本鎖オリゴヌクレオチドが用いられている(特許文献1〜3)。このようなオリゴヌクレオチドから成るデコイの共存下では、転写因子の分子のうちの一部は、本来結合すべきゲノム遺伝子上の結合領域に結合せずに、デコイオリゴヌクレオチドに結合する。このため、本来結合すべきゲノム遺伝子上の結合領域に結合する転写因子の分子数が減少し、その結果、転写因子の活性が低下することになる。この場合、オリゴヌクレオチドは、本物のゲノム遺伝子上の結合領域の偽物(おとり)として機能して転写因子を結合するため、デコイと呼ばれる。NF-κBに対するデコイオリゴヌクレオチドも種々知られており、それらの薬理効果も種々知られている(特許文献4〜12)。
【0005】
デコイオリゴヌクレオチドの医薬用途のうち、炎症性腸疾患(IBD)用途に関する報告としては、次のようなものがある。非特許文献11には、デキストラン硫酸ナトリウム投与により作成したマウスIBDモデルに、ウイルスエンベロープを用いず、二本鎖NF-κBデコイを結腸内(intracolonic)投与した効果が開示されている。非特許文献12には、マウスIBDモデルにNF-κB (p65)アンチセンスを結腸内投与した効果が開示されている。特許文献17には、2,4,6-Trinitrobenzene sulphonic acid (TNBS)で惹起したマウス大腸炎(colitis)モデルに、HVJ-Eエンベロープベクターに封入した二本鎖NF-κBデコイを、直腸内(intrarectal)または腹腔内投与した効果が開示されている。しかしながら、これらの文献には二本鎖デコイ以外のデコイに関する記載や示唆はない。また、いずれも結腸内投与や直腸内投与等の投与経路で投与されており、静脈内投与で効果を奏するとの記載や示唆もない。炎症性腸疾患は一度回復しても長期に亘り再発を繰り返す疾患であり、その都度患部に局部投与するのでは患者に対する負担が大き過ぎる。従って、炎症性腸疾患の治療に関しては静脈内投与可能な医薬が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特再表96/035430号公報
【特許文献2】特許3392143号公報
【特許文献3】国際公開公報WO 95/11687号公報
【特許文献4】特開2005-160464号公報
【特許文献5】国際公開公報WO 96/35430
【特許文献6】国際公開公報WO 02/066070
【特許文献7】国際公開公報WO 03/043663
【特許文献8】国際公開公報WO 03/082331
【特許文献9】国際公開公報WO 03/099339
【特許文献10】国際公開公報WO 04/026342
【特許文献11】国際公開公報WO 05/004913
【特許文献12】国際公開公報WO 05/004914
【特許文献13】特表平08−501928号公報
【特許文献14】国際公開公報WO 93/06122
【特許文献15】米国特許第5,495,006号公報
【特許文献16】米国特許第5,556,752号公報
【特許文献17】国際公開公報WO2006/122242
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Milliganら、J.Med.Chem.1993,36,1923
【非特許文献2】Marwick, C.,(1998) J. Am. Med. Assoc., 280, 871
【非特許文献3】Stein & Cheng,Science 1993,261,1004
【非特許文献4】Levinら、Biochem. Biophys. Acta, 1999, 1489, 69
【非特許文献5】Neish ASら、J. Exp. Med. 1992, Vol. 176, 1583-1593.
【非特許文献6】Leung Kら、Nature. 1988 Jun 23;333(6175):776-778.
【非特許文献7】Marina A.ら、The Journal of Biological Chemistry, 1995, Vol.270, Number 6, pp. 2620-2627
【非特許文献8】M. Durandら、Nucleic Acids Res., 1990,18(21),6353-6359
【非特許文献9】P.E. VOROBJEVら、Biopolymers. 1993 Dec;33(12):1765-77
【非特許文献10】Squire Rumney, IVら、J.Am.Chem.Soc., 117(21),5635-5646,1995
【非特許文献11】Gut. 2007 Apr;56(4):524-33.
【非特許文献12】Clin Exp Immunol. 2000 Apr;120(1):51-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、デコイオリゴヌクレオチドを有効成分とし、静脈内投与でも効果を奏する新規な炎症性腸疾患の予防又は治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、特定の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドとその相補鎖とが特定のリンカーで結合された構造を有するヘアピン型の二本鎖オリゴヌクレオチドが、公知のNF-κBデコイよりも高いNF-κB結合親和性を発揮することを見出した。さらに、該オリゴヌクレオチドのうち、特定の構造を有するオリゴヌクレオチドが、ウイルスエンベロープベクター等の特別なデリバリー技術を必要とせず、ネイキッド形態で静脈内投与しても腸管組織炎症を顕著に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、一般式(I)で表されるオリゴヌクレオチド誘導体を有効成分として含有する炎症性腸疾患の治療又は予防剤であって、
5'-aggggatttcccc-(CH2CH2O)n-ggggaaatcccct-3' (I)
(ただし、ヌクレオチド間の結合及びヌクレオチドとエチレングリコール単位との間の結合のうちの少なくとも一部が耐ヌクレアーゼ修飾されていてよい。nは4ないし8の整数を表す)
前記一般式(I)で表されるオリゴヌクレオチド誘導体が、下記式(c)
(c) 5'-agsgsggsasttstsccscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsaasastcscsccst-3'
((c)中、添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士又はsの両隣のヌクレオチドとエチレングリコール単位がホスホロチオエート結合していることを示す)
で表されるオリゴヌクレオチド誘導体である炎症性腸疾患の治療又は予防剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、NF-κBに対する結合親和性が高いオリゴヌクレオチド誘導体を有効成分とする新規な炎症性腸疾患の治療又は予防剤が提供された。本発明の治療又は予防剤は、静脈内投与でも顕著に症状を改善することができる。炎症性腸疾患は一度回復しても長期に亘り再発を繰り返す疾患であり、その都度患部に局部投与するのでは患者に対する負担が大き過ぎる。本発明の治療又は予防剤によれば、静脈内投与という簡便な投与経路で治療及び予防効果を発揮することができるため、患者の負担を軽減できる。また、本発明の治療又は予防剤は、ウイルスエンベロープ等の特別なデリバリー技術を必要とせず、ベクターを用いないネイキッドの形態でオリゴヌクレオチド誘導体を投与することができる。そのため製剤工程も簡略であり、製造コストも低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において有効成分として用いるオリゴヌクレオチド誘導体は、上記一般式(I)で表わされるように、5'-aggggatttcccc-3'(配列番号1)と5'-ggggaaatcccct-3'(配列番号2)がエチレングリコール単位の繰返しから成るリンカー(CH2CH2O)n(nは4〜8の整数)で連結された構造を有する。5'側のaggggatttccccと3'側のggggaaatcccctは互いに相補的であり、リンカーをループ部として二つ折りにした際に二本鎖を形成する。具体的には、下記式(II)に示されるような構造をとる(Lはリンカー(CH2CH2O)nを示す)。なお、このようにリンカーを介して末端が連結された2個の相補的オリゴヌクレオチドが二本鎖を形成している構造を、本明細書において便宜的に「ヘアピン型」と呼ぶことがある。該オリゴヌクレオチド誘導体がヘアピン型構造をとる(すなわち、オリゴヌクレオチド部分が二本鎖になる)ことは、下記実施例に具体的に示される融解温度やNF-κBとの結合活性から明らかである。
【0013】
【化1】
【0014】
リンカー(CH2CH2O)nとしては、n=6のものが特に好ましい。
【0015】
本発明で用いられるオリゴヌクレオチドにおいては、適切な生化学的安定性を与える目的で、ヌクレオチド間結合のすべてあるいは一部にホスホロチオエート化等の耐ヌクレアーゼ修飾を施してもよい。すなわち、該オリゴヌクレオチド誘導体中のオリゴヌクレオチド部分は、基本的にDNAであることが好ましいが、隣接する少なくとも2個のヌクレオチド間の結合(及び/又はリンカー部に隣接するヌクレオチドでは、該ヌクレオチドとリンカー部の間)を、耐ヌクレアーゼ修飾してヌクレアーゼに対する耐性を増大させてもよい。ここで、「耐ヌクレアーゼ修飾」とは、ヌクレアーゼによる分解を天然のDNAよりも受けにくくする修飾のことを意味し、このようなDNAの修飾自体は周知である。耐ヌクレアーゼ修飾の例としては、ホスホロチオエート化(本明細書において「S化」と呼ぶことがある)、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化等を挙げることができる。これらのうち、S化が好ましい。S化は、上記の通り、隣接するヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合を構成するリン原子に結合している2個の非架橋酸素原子のうちの1個をイオウ原子に変換することを意味する。任意の隣接するヌクレオチド間の結合をS化する手法自体は周知であり、例えば、非特許文献7に記載された方法により行なうことができ、S化オリゴヌクレオチドは商業的にも合成されている。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、単なる塩基配列は、そうでないことが文脈上明らかな場合を除き、ヌクレオチド間の結合及びリンカー部とヌクレオチド間の結合の一部又は全部がS化されているものも、全くS化されていないものをも包含する。ただし、1つの配列でS化の部位が明記されている場合には、S化が記載されていない部位はS化されていない。
【0016】
(I)の中でも、ヌクレオチド間の結合及びヌクレオチドとエチレングリコール単位との間の結合のうち少なくとも一部、好ましくは12箇所程度以上、より好ましくは15箇所程度がS化されているものが好ましい。そのような好ましい誘導体の具体例としては、以下の(a)〜(h)を挙げることができる。これらのうちでも特に(c)が好ましい。(c)のオリゴヌクレオチドは、下記実施例において誘導体5として調製されたものである。
(a) 5'-agsggsgasttstcsccsc-(CH2CH2O)6-ggsggsaasatsccsccst-3'
(b) 5'-agsggsgasttstcsccscs-(CH2CH2O)6-sggsggsaasatsccsccst-3'
(c) 5'-agsgsggsasttstsccscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsaasastcscsccst-3'
(d) 5'-agsgsgsgastststcscscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsasaastscsccscst-3'
(e) 5'-agsgsgsgastststcscscscs-(CH2CH2O)6-sgggsgsasaastscsccscst-3'
(f) 5'-asgsgsgsgsastststscscscsc-(CH2CH2O)6-gsgsgsgsasasastscscscscst-3'
(g) 5'-asgsgsgsgsastststscscscscs-(CH2CH2O)6-sgsgsgsgsasasastscscscscst-3'
(h) 5'-agsgsggsasttstsccscscs-(CH2CH2O)6-sgggsgsaasastcscsccst-3'
((a)〜(h)中、添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士又はsの両隣のヌクレオチドとエチレングリコール単位がホスホロチオエート結合していることを示す)。
【0017】
本発明で用いられるオリゴヌクレオチド誘導体は、先ず、その5'末端にリンカーが結合される方の一本鎖オリゴヌクレオチド(すなわちggggaaatcccct)を常法により合成し、その5'末端にリンカーを結合し、さらに、リンカーの他端に5'-aggggatttcccc-3'が連結されるように、リンカーの他端にシトシンの3'位を結合し、さらにこのシトシンに続けて常法により所定のオリゴヌクレオチドを5'側に1個ずつ結合させていくことにより合成することができる。本発明で規定されるこのようなリンカー自体は公知であり、このようなリンカーで相補的なオリゴヌクレオチドの末端同士を連結し、オリゴヌクレオチド部分を二本鎖オリゴヌクレオチドとすることも公知である(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、特許文献14、特許文献15)。また、ヘアピン型の二本鎖オリゴヌクレオチドを調製するための、エチレングリコール単位の繰返しから成るリンカーを導入するための試薬(リンカーの誘導体)が市販されているので、これらの市販のリンカー試薬を用い、その指示書に従って容易にヘアピン型の二本鎖オリゴヌクレオチドを調製することができる。下記実施例にも調製方法の1例が具体的に記載されている。
【0018】
ヘアピン型二本鎖オリゴヌクレオチドを調製するために利用できる、本発明で規定されるエチレングリコール単位の繰返しから成るリンカーを導入するための試薬として市販されているものとして、以下のものを挙げることができる。
【0019】
(1) 18-O-ジメトキシトリチルヘキサエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト{18-O-Dimethoxytritylhexaethyleneglycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite}
(商品名:Spacer Phosphoramidite 18、米国Glen Research社)
(エチレングリコール単位6個から成るリンカー部を結合)
(2) 9-O-ジメトキシトリチルトリエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト
{9-O-Dimethoxytrityl-triethylene glycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite}
(商品名:Spacer Phosphoramidite 9、米国Glen Research社)
(エチレングリコール単位3個から成るリンカー部を結合)
(3) 12-O-ジメトキシトリチルテトラエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]ホスホロアミダイト
12-O-Dimethoxytrityl-tetraethyleneglycol,1-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]phosphoramidite
(商品名:Spacer 12、米国ChemGenes社)
(エチレングリコール単位4個から成るリンカー部を結合)
【0020】
本発明の治療又は予防剤が対象とする疾患は炎症性腸疾患であり、具体例を挙げると潰瘍性大腸炎及びクローン病が包含される。炎症性腸疾患の治療及び予防には、NF-κBデコイが有効成分として用いられる医薬が有効であることがこの分野において認められている。従って、高いNF-κB転写因子結合阻害活性を有する上記ヘアピン型構造のオリゴヌクレオチド誘導体は、いずれも炎症性腸疾患の治療及び予防に有効である。本発明の有効成分であるオリゴヌクレオチド誘導体は、5'側の配列中のggatttccがNF-κBのコンセンサス配列になっているため、NF-κBデコイとして機能するものである。これらの誘導体が、ヘアピン型構造を有しない公知のNF-κBデコイ(下記比較例1)よりもNF-κB阻害作用が高く、約20〜500倍のポテンシャルを有することは、下記実施例に具体的に示される通りである。
【0021】
投与経路は、特に限定されないが、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、対象臓器ないしは組織への直接投与等の非経口投与が好ましい。特に、本発明の治療又は予防剤は、静脈内投与においてもマウス腸炎モデルの腸管組織炎症を有意に抑制できる。また、投与の際には、ウイルスエンベロープ等の特別なデリバリー技術を必要としない。すなわち、上記オリゴヌクレオチド誘導体は、ベクターに組み込むことなくネイキッド形態で製剤して投与することができる。製剤は、常法により行なうことができ、例えば、注射剤の場合には、生理食塩水中に本発明のオリゴヌクレオチドをネイキッドのまま溶解した溶液の形態とすることができる。製剤中には、保存剤、緩衝剤、溶解補助剤、乳化剤、希釈剤、等張化剤などの、製剤分野で常用される添加剤が適宜混合されていてもよい。また、他の薬効成分を含んでいてもよい。
【0022】
投与量は、患者の症状、投与経路等により適宜設定されるが、通常、成人1日当たり2.5 mg/kg体重以上、より好ましくは5.0 mg/kg体重以上を投与することができる。投与量の上限は特に限定されないが、通常10.0 g/kg体重程度である。
【0023】
下記実施例に具体的に示されるように、本発明の有効成分であるオリゴヌクレオチド誘導体は、公知のNF-κBデコイよりもNF-κBに対する結合親和性が一層高いので、従来のNF-κBデコイを有効成分として含有する炎症性腸疾患の治療又は予防剤よりも優れた薬効を発揮する。特に、公知のNF-κBデコイよりも小さい分子構造を有し、より高い結合活性を有するので、投与量が少なくて済み、製造コストも低くなる。また、下記実施例に具体的に記載されるように、本発明の有効成分であるオリゴヌクレオチド誘導体は、公知のNF-κBデコイよりも細胞毒性が低い。さらに、該オリゴヌクレオチド誘導体は、二本鎖オリゴヌクレオチドの末端同士がリンカーにより結合されたヘアピン型の構造をとるため、融解温度が通常の二本鎖オリゴヌクレオチドよりも遥かに高く、製剤工程、保存時及び生体内における安定性が高い。これらの特長に加え、本発明にかかるオリゴヌクレオチド誘導体は優れた耐ヌクレアーゼ特性も合わせ持つため、静脈注射等の全身投与によってもその効果を発揮することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例、比較例及び参考例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各例の説明に先立ち、各特性の測定方法及び評価方法について説明する。
【0025】
1.融解温度(Tm値)測定試験(デコイの二本鎖としての安定性を測定)
Tm解析システム(UV-1650PC/TMSPC-8:SHIMADZU社製)を使用して、PBS溶液中における各デコイの吸光度を1℃〜99℃の範囲で、複数回測定し、各温度における二本鎖の解離をモニターした。温度−吸光度曲線から、微分法で各Tm値(℃)を算出した。
【0026】
2.結合活性試験(マウス血漿に対するデコイの活性安定性を、無細胞系実験で測定)
各デコイ溶液にマウス血漿を添加し(核酸の終濃度10μmol/L、マウス血漿90%)、37℃で0〜24時間反応させた。反応後、市販の転写因子アッセイキット(TransAM(商品名)NF-κB p65:Cat.No.40096:Active Motif, Inc社)を用い、NF-κBコンセンサス配列が固相化されているプレートへ上記核酸反応液と、Jurkat 細胞(ヒトTリンパ腫由来)核抽出液を添加し反応(室温、1時間)させた。洗浄後、一次抗体(抗NF-κB p65抗体)と二次抗体(HRP-抗IgG抗体)をキット説明書に従って添加、洗浄し、化学発光法を用いて測定した。
【0027】
評価方法
各デコイ溶液の濃度値を対数に変換し、横軸を対数に変換した濃度値(0.005〜167nmol/Lの濃度内で5〜10点)、縦軸に各群のパーセンテージ値をプロットし、近似曲線を作成し、各反応時間におけるIC50(inhibition concentration 50%)を算出した。
【0028】
3.変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動試験(マウス血漿に対するデコイの構造安定性を、ゲル電気泳動を用いて測定)
各デコイ溶液にマウス血漿を添加し(核酸の終濃度10μmol/L、マウス血漿90%)、37℃で0〜24時間反応させた。反応後、20%非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で、100V、100分間分離した。2.5μg/mLエチジウムブロマイド水溶液で20分間染色した後、脱イオン水で15分間脱染色し、UVトランスイルミネーターで蛍光バンドとして可視化した。得られたゲルの画像を、画像解析装置(LAS-3000 UVmini:FUJI FILM社)で撮影すると共に、可視化された完全長のデコイ核酸化合物を装置付属のソウトウェアで定量した。
【0029】
4.細胞内結合活性試験(デコイのNF-κB転写因子結合阻害活性を細胞を用いた実験系で測定)
マウスマクロファージ由来RAW264.7細胞を播種(6ウェルプレート: 6.0〜9.0×105細胞/ウェル/2mL)し、37℃、5%CO2で24時間培養(10%FBS含有RPMI1640)した。各デコイ核酸(最終濃度は比較例1の二本鎖DNA:0.12〜4μmol/L、その他のデコイ:0.00012〜1.2μmol/L)を、DMRIE-C遺伝子導入用試薬(Invitrogen社)により細胞に導入した(4Hr、24Hrともに4時間導入)。24Hrの場合は4時間導入後に洗浄し、RPMI1640培養液で20時間培養した。その後細胞を洗浄し、LPS刺激(100ng/mL、1時間)を加えた。細胞洗浄の後、細胞の核抽出液を調製し、市販の転写因子アッセイキット(TransAM(商品名)NF-κB p65:Cat.No.40096:Active Motif, Inc社)を利用して、各核抽出サンプルにおける結合阻害活性を測定した。(上記結合活性試験参照)
【0030】
評価方法
演算はMicrosoft Excel 2002(商品名、Microsoft社)を使用した。平均値はExcelの関数AVERAGE、標準偏差(S.D.)は関数STDEVを用いて演算した。データは3例の平均値±標準偏差として表した。
【0031】
5.細胞毒性試験
HeLa細胞をTrypsin-EDTA処置により一度剥離させ、播種(96well plate: 1.0×104 細胞/ウェル/50μL、10%FBS含有RPMI1640)した。次に、10%FBS MEM培地で調製した6,20,60および200μmol/Lの各デコイを50μLずつ添加し、37℃、5%CO2で24時間培養した後、WST-1法より生細胞のミトコンドリア代謝活性を指標に、細胞増殖を測った。
【0032】
評価方法
横軸に各デコイの濃度値(3、10、30、100μmol/L)、縦軸に各濃度における無処置群の測定値を100%にした時のパーセンテージ値をプロットし、50%を挟む二点より LC50(半数致死濃度)を算出し、各群のLC50値と比較例1のLC50値との比を求めた。
【0033】
6.紫外吸光分析
NanoDrop ND-1000 Spectrophotometer (商品名、NanoDrop Technologies, LLC)を用い、各サンプルのUV(水)λmaxを測定した。
7.HPLC保持時間
各サンプルを下記条件の逆相イオン対HPLCにて分析し、保持時間を測定した。
装置:SHIMADZU prominence(商品名、島津製作所)
カラム:Waters Xbridge C18(商品名、日本ウォーターズ、2.5μm、4.6×75mm)
カラム温度:50℃
A液:5%アセトニトリル, 0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0)
B液:90%アセトニトリル, 0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0)
グラジエントB液濃度:0%-30%(30min)
流速:1mL/min
検出波長:260nm
【0034】
実施例1 オリゴヌクレオチド誘導体の合成
以下の構造を有する30種類のオリゴヌクレオチド誘導体を後記方法並びに合成例に従って調製した。なお、下記誘導体1〜30のうち、誘導体5が本発明の有効成分に該当する誘導体であり、その他はヘアピン型構造の安定性等を示すための参考例である。
(1) 5'-agsggsgasttstcsccsc-(CH2CH2O)6-ggsggsaasatsccsccst-3'(誘導体1)
(2) 5'-ggsggsaasatsccsccst-(CH2CH2O)6-agsggsgasttstcsccsc-3'(誘導体2)
(3) 5'-agsggsgasttstcsccscs-(CH2CH2O)6-sggsggsaasatsccsccst-3'(誘導体3)
(4) 5'-ggsggsaasatsccsccsts-(CH2CH2O)6-sagsggsgasttstcsccsc-3'(誘導体4)
(5) 5'-agsgsggsasttstsccscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsaasastcscsccst-3'(誘導体5)
(6) 5'-gggsgsaasastcscsccst-(CH2CH2O)6-agsgsggsasttstsccscsc-3'(誘導体6)
(7) 5'-gggsgsaasastcscsccsts-(CH2CH2O)6-sagsgsggsasttstsccscsc-3'(誘導体7)
(8) 5'-agsgsgsgastststcscscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsasaastscsccscst-3'(誘導体8)
(9) 5'-gggsgsasaastscsccscst-(CH2CH2O)6-agsgsgsgastststcscscsc-3'(誘導体9)
(10) 5'-agsgsgsgastststcscscscs-(CH2CH2O)6-sgggsgsasaastscsccscst-3'(誘導体10)
(11) 5'-gggsgsasaastscsccscsts-(CH2CH2O)6-sagsgsgsgastststcscscsc-3'(誘導体11)
(12) 5'-asgsgsgsgsastststscscscsc-(CH2CH2O)6-gsgsgsgsasasastscscscscst-3'(誘導体12)
(13) 5'-asgsgsgsgsastststscscscscs-(CH2CH2O)6-sgsgsgsgsasasastscscscscst-3'(誘導体13)
(14) 5'-gsgsgsgsasasastscscscscst-(CH2CH2O)6-asgsgsgsgsastststscscscsc-3'(誘導体14)
(15) 5'-gsgsgsgsasasastscscscscsts-(CH2CH2O)6-sasgsgsgsgsastststscscscsc-3'(誘導体15)
(16) 5'-agsgsggsasttstsccscscs-(CH2CH2O)6-sgggsgsaasastcscsccst-3' (誘導体16)
(17) 5'-gsggsgasttstcsccsc-(CH2CH2O)6-ggsggsaasatsccscc-3' (誘導体17)
(18) 5'-ggsggsaasatsccscc-(CH2CH2O)6-gsggsgasttstcsccsc-3' (誘導体18)
(19) 5'-gsggsgasttstcsccscs-(CH2CH2O)6-sggsggsaasatsccscc-3' (誘導体19)
(20) 5'-ggsggsaasatsccsccs-(CH2CH2O)6-sgsggsgasttstcsccsc-3' (誘導体20)
(21) 5'-gsgsggsasttstsccscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsaasastcscscc-3' (誘導体21)
(22) 5'-ggsggsasttstsccscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsaasastcscscsc-3' (誘導体22)
(23) 5'-gggsgsaasastcscscc-(CH2CH2O)6-gsgsggsasttstsccscsc-3' (誘導体23)
(24) 5'-gsgsggsasttstsccscscs-(CH2CH2O)6-sgggsgsaasastcscscc-3' (誘導体24)
(25) 5'-gggsgsaasastcscsccs-(CH2CH2O)6-sgsgsggsasttstsccscsc-3' (誘導体25)
(26) 5'-gsgsgsgastststcscscsc-(CH2CH2O)6-gggsgsasaastscsccsc-3' (誘導体26)
(27) 5'-gggsgsasaastscsccsc-(CH2CH2O)6-gsgsgsgastststcscscsc-3' (誘導体27)
(28) 5'-gsgsgsgastststcscscscs-(CH2CH2O)6-sgggsgsasaastscsccsc-3' (誘導体28)
(29) 5'-gggsgsasaastscsccscs-(CH2CH2O)6-sgsgsgsgastststcscscsc-3' (誘導体29)
(30) 5'-gsggsasttstsccsc-(CH2CH2O)6-ggsgsaasastcscsc-3' (誘導体30)
((1)〜(30)中、添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士又はsの両隣のヌクレオチドとエチレングリコール単位がホスホロチオエート結合していることを示す)。
【0035】
上記各オリゴヌクレオチド誘導体は、基本的に、市販のDNA合成用固相支持体、DNAシアノエチルホスホロアミダイト、及び適切な反応/修飾試薬を用い、リン酸ジエステル結合を全部又は部分的にホスホロチオエート化修飾を施したオリゴヌクレオチドをDNA自動合成機(商品名:ABI394、米国Applied Biosystems社製)で3'→5'方向に合成した。ポリエチレングリコール鎖を導入したヘアピン型NF-κBデコイの製造に当たっては、まず、3'側配列(その5'末端にリンカーが結合される方の配列)を3'→5'方向に合成し、その5'末端に続けて、18-O-ジメトキシトリチルヘキサエチレングリコール,1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホロアミダイト(商品名:Spacer Phosphoramidite 18、米国Glen Research社) 1分子をカップリングさせ、さらに、5'側配列(その3'末端にリンカーが結合される方の配列)を3'→5'方向に引き続き合成することで、3'側配列と5'側配列がヘキサエチレングリコールで連結されたオリゴヌクレオチド誘導体を得た。それを加熱、急冷により分子内アニーリングさせて製造した。
【0036】
より具体的には、上記合成は次のように行なった。DMT-デオキシアデノシン(bz)β-シアノエチルホスホロアミダイト、DMT-デオキシシチジン(bz)β-シアノエチルホスホロアミダイト、DMT-デオキシグアノシン(bz)β-シアノエチルホスホロアミダイトおよびDMT-デオキシチミジンβ-シアノエチルホスホロアミダイトをSigma-Aldrich社から、Spacer18 phosphoramidite(商品名)、S化試薬(CPRII、3H-1,2-ベンゾジチオール-3-オン-1,1-ジオキシド)および合成用カラムをGlen Research社から、オリゴDNA合成用の脱保護溶液、活性化溶液、酸化溶液およびキャッピング溶液(CapA溶液およびCapB溶液)を和光純薬からそれぞれ購入した。(bzはベンゾイル基を意味する。)
【0037】
合成例1(誘導体1の合成)
DNA自動合成装置ABI394(Applied Biosystems社製)を用いて、ホスホロアミダイト法により、固相支持体上に所望のオリゴヌクレオチドを以下のように合成した。合成装置に、保護された3’末端ヌクレオチド(dT)を予め結合した多孔性ガラス(Controlled Pore Glass: CPG)を含む合成用カラムを装着し、脱保護溶液、活性化溶液および3'末端の隣に隣接するヌクレオチド(dC)のβ-シアノエチルホスホロアミダイト(アセトニトリル溶液)、酸化溶液、キャッピング溶液(CapA溶液とCapB溶液との1:1混合液)の順に反応溶液を合成用カラムに通し、ヌクレオチド間ホスホジエステル結合を形成させた。ヌクレオチド間連結がホスホロチオエートの場合、酸化溶液の代わりに無水アセトニトリルに溶解したS化試薬を使用した。各試薬の濃度および使用量は、製造元の指示書に従った。以下同様にして、3'→5'方向に順次1塩基ずつ延長合成した。Spacer 18 phosphoramidite(商品名)を、該商品に添付の指示書に従い、合成したオリゴヌクレオチドの5'末端に結合し、次いで、前記と同様に、Spacer 18 phosphoramidite(商品名)の他端側に結合するオリゴヌクレオチドを3'→5'方向に順次1塩基ずつ延長合成した。
【0038】
固相担体からの切り出しおよび脱保護
28%アンモニア水溶液で室温、2時間処理し、オリゴヌクレオチド誘導体をCPGより切り出した。さらに、その溶液を65℃、6時間処理し、塩基部分の保護基およびリン酸部分の保護基を脱離させた。
【0039】
カートリッジ精製
Oligo R3担体(Applied Biosystems社製)を充填した固相抽出カラムに0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0)を加えて平衡化し、そこに精製前のオリゴヌクレオチドを入れて吸着させ、0.1Mトリエチルアミン酢酸緩衝液(pH7.0):アセトニトリル(9:1)を添加して不完全なオリゴヌクレオチドを洗い出した後、2%トリフルオロ酢酸水溶液の添加によって完全長のオリゴヌクレオチドから5'末端のジメトキシトリチル基を脱離させ、水を通して1回洗浄した。次に、20%アセトニトリルを添加してオリゴヌクレオチドを溶出させた。次いで、その溶出液から凍結乾燥により溶媒を蒸発させ、オリゴヌクレオチド誘導体を得た。
【0040】
比較例1
以下の構造を有する、S化された通常の二本鎖DNAを常法により合成した(塩基配列は配列番号3に示す。)
【0041】
5'-CsCsTsTsGsAsAsGsGsGsAsTsTsTsCsCsCsTsCsC-3'
3'-GsGsAsAsCsTsTsCsCsCsTsAsAsAsGsGsGsAsGsG-5'
(添え字sは、sの両隣のヌクレオチド同士がホスホロチオエート結合していることを示す)。
【0042】
実施例2
実施例で調製したオリゴヌクレオチド誘導体(誘導体1〜30)及び比較例1の二本鎖DNAについて、上記した測定方法、又は測定方法を先に記載していない特性については常法により、各種特性を測定した。結果を下記表1−1及び表1−2に示す。
【0043】
【表1-1】
【0044】
【表1-2】
【0045】
表1−1及び表1−2に示されている各特性の薬理学的な意味を以下に説明する。
【0046】
(1) 結合活性
(i) 0Hr
無細胞系(セルフリー系)での、マウス血漿90%存在下で反応時間0Hr(0時間、以下同様)における、各化合物のNF-κB結合に対するIC50値である。実際には、各デコイ溶液にマウス血漿を添加後、3秒以内に測定した値を便宜上0Hrの値とした。
【0047】
(ii) 24Hr 、24Hrs/0Hr 比
無細胞系での、マウス血漿90%存在下で反応時間24Hrにおける、各化合物のNF-κB結合に対するIC50値である。比較例1のIC50値が0Hrと24Hrの間で殆ど変わらないのに対し、誘導体1〜16、21および23〜25の各化合物では24HrのIC50が増加している。これは各化合物がマウス血漿により分解されていることを示す。上記で合成したオリゴヌクレオチド誘導体は生体に適用するのが目的であり、血漿成分に対する耐性と同時に、副作用を考慮すると適度に代謝を受けることも望ましい。生体では、生理活性を有する天然の物質は、いずれも分解と生合成のバランスにより適切な濃度に維持され、生体の恒常性が保たれるようになっている。オリゴヌクレオチド誘導体1〜30は、比較例1と比較し代謝されやすい特長を有することが明らかである。
【0048】
(2) 50%残存時間
同じく無細胞系における上記オリゴヌクレオチド誘導体の核酸としての血漿に対する生化学的安定性を示すデータである。
【0049】
(3) 細胞内結合活性
(i) 4Hrs
培養細胞系でのNF-κB阻害作用を示すデータであり、各化合物の細胞内・外耐性、細胞膜透過性を含んだ値である。上記オリゴヌクレオチド誘導体は、比較例1の二本鎖DNAと比較し約20〜500倍のポテンシャルを有することが明らかである。
【0050】
(ii) 24Hrs
前述のように、上記オリゴヌクレオチド誘導体は比較例1の二本鎖DNAと比較し分解されやすい特長を有するが、24時間後においても、なお比較例1の二本鎖DNAより3〜14倍のポテンシャルを有することが明らかである。
【0051】
(4) 細胞毒性
上記オリゴヌクレオチド誘導体は、比較例1の二本鎖DNAと比較して、LC50が約1.5〜3.8倍高く優れていた。
【0052】
(5) Tm値
オリゴヌクレオチド誘導体の物理学的(熱力学的)安定性を示すデータである。比較例1の二本鎖DNAは、ヒトを始めとするほ乳類の体温より若干高い程度の熱力学的安定性しか有さず、例えば軟膏等の製剤化工程においてほとんど加熱することができないが、上記オリゴヌクレオチド誘導体は一般的製剤工程における温度条件であれば安定である。
【0053】
(6) UV λmaxおよびHPLC保持時間
各化合物の物性値データである。
【0054】
表1−1及び表1−2に示される通り、上記オリゴヌクレオチド誘導体は、その結合活性が比較例1の二本鎖DNAよりも遥かに高く(0Hrの結合活性)、細胞内での代謝性は比較例1の二本鎖DNAよりも遥かに高いが(24Hrs/0Hr比)、24時間後でもなおオリゴヌクレオチド誘導体の方が結合活性が高い。また、細胞毒性は、オリゴヌクレオチド誘導体の方が低い。特に、全てのヌクレオチド間結合がS化されている誘導体15と比較例1を比較した場合、S化に起因する毒性を等しくして比較することができるが、オリゴヌクレオチド誘導体の細胞毒性は、比較例1の二本鎖DNAの細胞毒性の約57%であった。
【0055】
実施例3 炎症性腸疾患モデルに対するオリゴヌクレオチド誘導体の薬理効果
上記で調製したオリゴヌクレオチド誘導体の炎症性腸疾患に対する薬理効果について、マウスモデルを用いて以下の通り検討した。
【0056】
(炎症性腸疾患モデルの作成)
C57BL/6マウス8週齢を用い、デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sulfate sodium; DSS)を飲水内に混入し5%濃度としたものを自由飲水させ、10日間飼育することによって炎症性腸疾患モデルを作製した。
【0057】
(被験物質の投与)
投与物質;実施例のオリゴヌクレオチド誘導体(誘導体5)若しくは比較例1の二本鎖DNAを生理食塩水100μLに溶解させたもの、または対照として生理食塩水。
投与経路;静脈内投与
投与時期・頻度;炎症惹起(DSS投与開始)の直前。単回投与。
投与方法;27G注射針つきシリンジを用いて覚醒下でマウスの尾静脈より投与した。
【0058】
(実験動物群)
1 無処置群(通常水を飲水させる。健常ラットモデル)n=10
2 DSS群(腸炎モデル群)n=9
3 DSS+実施例の誘導体5(5.0mg/kg体重)群n=6
4 DSS+比較例1の二本鎖DNA(5.0mg/kg体重)群n=6
【0059】
(評価項目)
疾患改善の評価として、DNA投与3,7,10日後の体重の変化率、疾患活動度Disease activity index (DAI)を検討した。
(i) 体重変化率は、炎症惹起直前の体重を100%として計算した。
(ii) DAIは、Clin Exp Immunol. 2000 Apr;120(1):51-8.に従い、以下の項目の点数を合計しスコアを算出した(体重減少率スコア+便性状スコア+血便スコア、最低0〜最大12)。
【0060】
【表2】
【0061】
(結果)
体重変化とDAI変化の結果を下記表3及び表4に示す。実施例のオリゴヌクレオチド誘導体5は、静脈投与により、腸炎モデルマウスの体重の減少とDAIの上昇を顕著に抑制した。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
(組織鏡検)
day10に動物を屠殺し、大腸組織切片の光学顕微鏡検査を行った(撮影倍率:40倍、100倍)。その結果、DSS群においては、杯細胞の消失及び炎症性細胞の浸潤が認められた。一方で、実施例のオリゴヌクレオチド誘導体を投与したDSS+誘導体5群では、大腸組織はほぼ正常構造を保っていた。比較例の二本鎖DNAを投与したDSS+比較例1群では、杯細胞の一部消失及び炎症性細胞の浸潤が認められた。
【0065】
以上の結果は、実施例で合成したオリゴヌクレオチド誘導体5が静注投与で腸管組織炎症を抑制できることを示している。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]