【実施例1】
【0021】
まず、実施例1に係る音場制御システムの構成について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、実施例1では、音場制御装置10によって生成された出力信号L
out_1,R
out_1を車両100の前席側に設けられたスピーカ40a,40bから出力する場合について説明する。
【0022】
図2に示すように、音場制御システムは、音場制御装置10と、音源20と、パワーアンプ30と、左スピーカ40aと、右スピーカ40bとを含む。これらは、車両100内に搭載されるものとする。なお、音場制御システムは、少なくとも音場制御装置10、左スピーカ40aおよび右スピーカ40bを含んでいればよい。
【0023】
音場制御装置10は、音源20から入力された音声信号(左チャネル信号L
inおよび右チャネル信号R
in)の相関を低減させることによって出力信号L
out_1,R
out_1を生成し、パワーアンプ30へ出力する装置である。かかる音場制御装置10の構成については、
図3を用いて説明する。
【0024】
音源20は、たとえば、CDプレーヤーのような音声再生装置あるいはDVDプレーヤーやTVチューナのような映像・音声再生装置などである。音源20は、左チャネル信号L
inおよび右チャネル信号R
inを含む音声信号を音場制御装置10へ出力する。
【0025】
パワーアンプ30は、音場制御装置10から出力された出力信号L
out_1,R
out_1を増幅してスピーカ40a,40bへ出力する音声増幅器である。具体的には、パワーアンプ30は、出力信号L
out_1を増幅して左スピーカ40aへ出力するとともに、出力信号R
out_1を増幅して右スピーカ40bへ出力する。なお、パワーアンプ30の利得は、リスナーである乗車者によって任意に変更可能である。
【0026】
左スピーカ40aおよび右スピーカ40bは、車両100の中央よりも前方側に設けられた前席用のスピーカである。たとえば、左スピーカ40aは、車両100の助手席側のフロントドア下部などに設置され、右スピーカ40bは、車両100の運転席側のフロントドア下部などに設置される。なお、左スピーカ40aおよび右スピーカ40bの設置箇所は、これに限ったものではない。
【0027】
次に、音場制御装置10の構成について
図3を用いて説明する。
図3は、音場制御装置10の構成を示すブロック図である。なお、
図3では、音場制御装置10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0028】
図3に示すように、音場制御装置10は、無相関信号生成装置11と、遅延部12a,12bと、乗算部13a,13bと、加算部14a,14bと、乗算部15a,15bとを備える。ここで、音源20から出力された左チャネル信号L
inは、音場制御装置10内で分岐されて無相関信号生成装置11および加算部14aへ入力される。また、右チャネル信号R
inは、音場制御装置10内で分岐されて無相関信号生成装置11および加算部14bへ入力される。
【0029】
無相関信号生成装置11は、入力されたチャネル信号L
in,R
inからこれらチャネル信号L
in,R
in間の相関成分を抽出し、抽出した相関成分を各チャネル信号L
in,R
inから減算することで、無相関信号を生成する装置である。
【0030】
無相関信号生成装置11は、生成した無相関信号のうち、左チャネル信号L
inに対応する左無相関信号を遅延部12aへ出力し、右チャネル信号R
inに対応する右無相関信号を遅延部12bへ出力する。
【0031】
このように、無相関信号生成装置11へ入力されたチャネル信号L
in,R
inは、無相関信号生成装置11によって相関成分が減算されてそれぞれ左無相関信号および右無相関信号として出力される。なお、かかる無相関信号生成装置11の具体的な構成については、
図5を用いて後述することとする。
【0032】
遅延部12aは、無相関信号生成装置11から入力された左無相関信号を所定時間遅延させたうえで、乗算部13aへ出力する処理部である。また、遅延部12bは、無相関信号生成装置11から入力された右無相関信号を所定時間遅延させたうえで、乗算部13bへ出力する処理部である。これら遅延部12a,12bは、後述するように出力信号L
out_1,R
out_1に対して残響を付加するために設けられた処理部である。
【0033】
ここで、遅延部12a,12bによる信号の遅延時間を、無相関信号生成装置11によって算出される相関係数に基づいて変更することとしてもよい。かかる点については、
図8を用いて後述することとする。なお、音場制御装置10は、これら遅延部12a,12bを備えていなくてもよい。
【0034】
乗算部13aは、遅延部12aから出力された左無相関信号の利得(以下、「ゲイン」と記載する)を調整する処理部である。また、乗算部13bは、遅延部12bから出力された右無相関信号のゲインを調整する処理部である。ここで、これら乗算部13a,13bのゲイン値xは、乗車者により任意に変更可能である。乗算部13a,13bのゲイン値xを変更することにより、出力信号L
out_1,R
out_1中の相関成分の割合を乗車者の好みに応じて変更することができる。
【0035】
なお、ここでは、乗算部13a,13bのゲイン値xが同一の値であるものとするが、乗算部13a,13bのゲイン値を異なる値に設定してもよい。
【0036】
乗算部13aによってゲイン調整された左無相関信号は、加算部14aへ出力される。また、乗算部13bによってゲイン調整された右無相関信号は、加算部14bへ出力される。加算部14aは、音源20から入力された左チャネル信号L
inと乗算部13aから出力された左無相関信号とを加算して乗算部15aへ出力する処理部である。また、加算部14bは、音源20から入力された右チャネル信号R
inと乗算部13bから出力された右無相関信号とを加算して乗算部15bへ出力する処理部である。
【0037】
乗算部15aは、加算部14aから出力された信号のゲインを調整してパワーアンプ30へ出力する処理部である。また、乗算部15bは、加算部14bから出力された信号のゲインを調整してパワーアンプ30へ出力する処理部である。
【0038】
ここで、これら乗算部15a,15bは、出力信号L
out_1,R
out_1の音量を一定に保つ役割を担う。すなわち、乗算部15a,15bのゲイン値は、乗算部13a,13bのゲイン値xに応じて変動する。たとえば、
図3に示すように、乗算部15a,15bのゲイン値は、1/(1+x)であらわされる。これにより、元のチャネル信号L
in,R
inに対して無相関信号を加算することで増加した音量を元のチャネル信号L
in,R
inと同等の音量へ戻すことができる。
【0039】
このように、乗算部15a,15bは、乗算部13a,13bによって調整された無相関信号のゲインに応じて出力信号のゲインを調整することとしたため、出力信号L
out_1,R
out_1を一定の音量で出力することができる。
【0040】
また、音場制御装置10では、遅延部12a,12bによって無相関信号を所定時間遅らせて元のチャネル信号L
in,R
inへ足し込むこととしている。これにより、出力信号L
out_1,R
out_1は、残響が付加された音となるため、乗車者に対して更なる音の拡がり感を与えることができる。
【0041】
次に、音場制御装置10によって得られる音の拡がり感について
図4を用いて説明する。
図4は、音場制御装置10によって生成される出力信号L
out_1,R
out_1と元のチャネル信号L
in,R
inとの両耳間相互相関関数の比較結果の一例を示す図である。
図4では、音場制御装置10によって生成される出力信号L
out_1,R
out_1の両耳間相互相関関数を実線で示し、元のチャネル信号L
in,R
inとの両耳間相互相関関数を一点鎖線で示している。
【0042】
図4に示すグラフの横軸である「遅れ時間」とは、右耳に入ってくる音に対する左耳に入ってくる音の遅れ時間である。また、
図4に示すグラフの縦軸である「両耳間相互相関関数」とは、左右の耳に入る音の相互の関連度合をあらわす関数である。たとえば、左耳および右耳に全く同じ音が入ってきた場合には、両耳間相互相関関数は1となる。また、左耳および右耳に全く関係のない音が入ってきた場合には、両耳間相互相関関数は0となる。
【0043】
音の拡がり感は、両耳間相互相関関数のピーク値である両耳間相互相関度(IACC:Inter Aural Cross-Correlation)が小さいほど高くなることが一般的に知られている。また、音の拡がり感は、両耳間相互相関度が0.1以上低下した場合に感じられるようになることも知られている。
【0044】
図4に示すように、元のチャネル信号L
in,R
inの両耳間相互相関関数のピーク値は0.72であり、音場制御装置10によって生成される出力信号L
out_1,R
out_1の両耳間相互相関関数のピーク値は0.62であった。すなわち、音場制御装置10によって生成される出力信号L
out_1,R
out_1を出力した場合の方が、元のチャネル信号L
in,R
inを出力した場合よりも音の拡がり感が高まることがわかった。
【0045】
なお、
図4に示したグラフは、運転席における両耳間相互相関関数を示している。運転席では、左スピーカ40aから出力された音が、右スピーカ40bから出力された音よりも遅れて到達するため、両耳間相互相関関数のピーク位置が右側へずれている。
【0046】
このように、元のチャネル信号L
in,R
inに対して無相関信号を加算した出力信号L
out_1,R
out_1を左右のスピーカ40a,40bから出力することで、音の拡がり感を高めることができる。すなわち、音場制御装置10では、仮に、遅延部12a,12bによる残響の付加を施さない場合であっても、音の拡がり感を高めることができるため、簡易な構成で音の拡がり感を高めることができる。
【0047】
次に、無相関信号生成装置11の構成の一例について
図5を用いて説明する。
図5は、無相関信号生成装置11の構成の一例を示すブロック図である。なお、
図5では、無相関信号生成装置11の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0048】
図5に示すように、無相関信号生成装置11は、直交化部111a,111bと、相関係数計算部112と、LPF(Low Pass Filter)113と、相関成分生成部114と、シェルビングフィルタ115と、乗算部116と、相関成分減算部117とを備える。
【0049】
直交化部111aは、左チャネル信号L
inを受け取ると、受け取った左チャネル信号L
inを複素信号へ変換して相関係数計算部112へ出力する処理部である。また、直交化部111bは、右チャネル信号R
inを受け取ると、受け取った右チャネル信号R
inを複素信号へ変換して相関係数計算部112へ出力する処理部である。
【0050】
具体的には、直交化部111a,111bは、受け取ったチャネル信号L
in,R
inを実部の成分として出力するとともに、受け取ったチャネル信号L
in,R
inの位相をFIR(Finite Impulse Response)型のヒルベルトフィルタを用いて90度シフトさせた信号を虚部の成分として出力する。そして、直交化部111aは、左チャネル信号L
inに対応する複素信号を相関係数計算部112へ出力し、直交化部111bは、右チャネル信号R
inに対応する複素信号を相関係数計算部112へ出力する。
【0051】
このように、ヒルベルト変換を用いて複素信号を生成することで、FFTのように信号を一旦バッファに貯めたうえで演算を行うといった処理が不要となるため、逐次処理が可能となる。すなわち、ヒルベルト変換を用いることで、リアルタイム性の高い処理を行うことが可能となる。なお、複素信号への変換手法は、ヒルベルト変換に限定されるものではなく、他の変換手法を用いて複素信号を生成してもよい。
【0052】
相関係数計算部112は、直交化部111a,111bから受け取った複素信号に基づいて相関係数(α
1)を算出してLPF113へ出力する処理部である。
【0053】
まず、相関係数計算部112は、直交化部111a,111bから受け取った複素信号に基づいてパワー(P
0)および内積(C
0)を算出するとともに、算出したパワー(P
0)および内積(C
0)を用いて仮相関係数(α
0)を算出する。具体的には、相関係数計算部112は、実部および虚部を座標軸とする複素平面において表現された各チャネル信号に対応するベクトルを用いてP
0,C
0およびα
0を算出する。
【0054】
ここで、左右のチャネル信号L
in,R
inに対応する複素平面上のベクトルについて
図6を用いて説明しておく。
図6は、左右のチャネル信号L
in,R
inに対応する複素平面上のベクトルの一例を示す図である。
【0055】
図6に示すように、実部および虚部を座標軸とする複素平面において、左チャネル信号L
inに対応するベクトルLは、ベクトルL=(L
Re,L
Im)であらわされ、右チャネル信号R
inに対応するベクトルRは、ベクトルR=(R
Re,R
Im)であらわされる。
【0056】
また、これらのベクトルLおよびベクトルRは、相関成分に対応するベクトルCeを含む。かかるベクトルCeは、ベクトルLおよびベクトルRの和に対して相関係数(α
1)を乗じることによって割り出されるものである。
【0057】
なお、ベクトルa
L・lは、ベクトルLからベクトルCeを差し引いたベクトルであり、ベクトルa
R・rは、ベクトルRからベクトルCeを差し引いたベクトルである。また、ベクトルlおよびベクトルrは、単位ベクトルであり、a
Rおよびa
Lは、所定の係数である。これらベクトルa
L・lおよびベクトルa
R・rは、互いに相関がないため直交する。
【0058】
つづいて、パワー(P
0)、内積(C
0)および仮相関係数(α
0)の算出手法について説明する。相関係数計算部112は、まず、ベクトルL=(L
Re,L
Im)およびベクトルR=(R
Re,R
Im)を用いてパワー(P
0)および内積(C
0)を算出する。
【0059】
具体的には、パワー(P
0)は、
【数1】
式(1)のようにあらわされる。また、内積(C
0)は、
【数2】
式(2)のようにあらわされる。
【0060】
そして、相関係数計算部112は、算出したパワー(P
0)および内積(C
0)を用いて仮相関係数(α
0)を算出する。具体的には、仮相関係数(α
0)は、
【数3】
式(3)のようにあらわされる。
【0061】
つづいて、相関係数計算部112は、仮相関係数(α
0)、パワー(P
0)および内積(C
0)に基づいて相関係数(α
1)を決定する。具体的には、相関係数計算部112は、まず、
【数4】
式(4)に示す式を用いてパワー(P
2)を算出する。かかるパワー(P
2)は、パワー(P
0)のうち、虚部の成分(L
2Im+R
2Im)に対して仮相関係数(α
0)を含んだ重み付け係数(1−2α
0)を乗じたものである。
【0062】
そして、相関係数計算部112は、かかるパワー(P
2)および相関係数計算部112から受け取った内積(C
0)を用いて相関係数(α
1)を決定する。具体的には、相関係数(α
1)は、
【数5】
式(5)のようにあらわされる。
【0063】
ここで、ハイブリッド型のパワー(P
2)の内容について説明する。ハイブリッド型のパワー(P
2)は、虚部の成分(L
2Im+R
2Im)が仮相関係数(α
0)の値に応じて0〜(L
2Im+R
2Im)の範囲で変化するように重み付けされている。たとえば、仮相関係数(α
0)が「0」である場合には、パワー(P
2)は「L
2Re+R
2Re+L
2Im+R
2Im」となり、仮相関係数(α
0)が「1/2」である場合には、パワー(P
2)は「L
2Re+R
2Re」となる。
【0064】
このように、パワー(P
2)は、チャネル信号L
in,R
in間の相関が弱い場合には、パワー(P
0)の式に近づき、チャネル信号L
in,R
in間の相関が強い場合にはパワー(P
1)の式に近づく。これにより、音声信号に含まれる相関成分の割合に関係なく、相関成分を精度良く抽出することが可能となる。
【0065】
すなわち、仮相関係数(α
0)が小さい場合には、パワー(P
2)に含まれる虚部の成分の重み付けが大きくなる結果、パワー(P
2)が、チャネル信号L
in,R
in間の相関が弱い場合に有効なパワー(P
0)に近づく。また、仮相関係数(α
0)が大きい場合には、パワー(P
2)に含まれる虚部の成分の重み付けが小さくなる結果、パワー(P
2)が、チャネル信号L
in,R
in間の相関が強い場合に有効なパワー(P
1)に近づく。したがって、音声信号に含まれる相関成分の割合が多い場合であっても少ない場合であっても、相関成分を精度良く抽出することができる。
【0066】
このように、相関係数計算部112は、仮相関係数(α
0)を用いてチャネル信号間の相関の強弱を概括的に特定したうえで、かかる相関の強弱に応じてパワー(P
2)に含まれる虚部の成分の重み付けを変更することとした。具体的には、無相関信号生成装置11では、相関係数計算部112が、各チャネル信号に対応するベクトルの平方和であるパワー(P
0)および内積(C
0)を用いて仮相関係数(α
0)を算出するとともに、相関係数計算部112が、パワー(P
0)に含まれる虚部の成分に対して仮相関係数(α
0)に基づく重み付けを施したパワー(P
2)を算出し、かかるパワー(P
2)および内積(C
0)を用いて相関係数(α
1)を算出することとした。したがって、相関係数の算出精度を更に高めることができ、延いては、相関成分の抽出精度を高めることが可能となる。
【0067】
なお、ここでは、相関係数計算部112によって算出されたパワー(P
0)に含まれる虚部の成分に対して乗じる重み付け係数を(1−2α
0)としたが、重み付け係数は、この値に限定されるものではなく、たとえば、仮相関係数(α
0)の2次式であってもよい。
【0068】
また、相関係数計算部112は、相関係数(α
1)を算出すると、算出した相関係数(α
1)をLPF113へ出力する処理を行う。LPF113は、相関係数計算部112から受け取った相関係数(α
1)を平滑化する処理部である。
【0069】
具体的には、音声信号をヒルベルト変換した場合には、FFTの場合と比較して、音の切り替わりへの追従性も高く、処理速度も速くなる。ところが、追従性が高いことによって、相関係数(α
1)が頻繁に変更されるため、最終的に生成される出力信号に不要なピークが現れ、乗車者にとってノイズとして聞こえてしまうこととなる。
【0070】
そこで、相関係数(α
1)に対してLPF113を用いたフィルタリングを施すことによって、相関係数(α
1)に含まれる高周波成分を除去することとした。具体的には、LPF113は、相関係数(α
1)を、所定の閾値よりも高い周波数信号を減衰させて遮断し、低域周波数のみを信号として通過させる。
【0071】
なお、ここでは、LPF113を用いて相関係数(α
1)のフィルタリングを行う場合の例について説明したが、これに限らず、移動平均手法や法絡線処理等によって相関係数(α
1)の変動を抑制することとしてもよい。また、平滑化後の相関係数(α
1’)は、相関成分生成部114へ出力される。
【0072】
相関成分生成部114は、平滑化後の相関係数(α
1’)に基づいて相関成分を生成する処理部である。具体的には、相関成分生成部114は、
【数6】
式(6)を用いて相関成分(Ce)を算出する。また、相関成分生成部114は、算出した相関成分(Ce)をシェルビングフィルタ115へ出力する処理を行う。
【0073】
シェルビングフィルタ115は、相関成分生成部114から出力された相関成分(Ce)に対して周波数領域に応じた重み付けを行う処理部である。ここで、シェルビングフィルタ115について
図7を用いて説明する。
図7は、シェルビングフィルタ115の説明図である。
【0074】
図7に示すように、シェルビングフィルタ115は、入力された相関成分(Ce)中の低域成分を低減させるローシェルビングフィルタである。すなわち、相関成分(Ce)には、中〜高域成分および低域成分が含まれるが、後述する相関成分減算部117において相関成分(Ce)を単純に減算することとした場合、出力信号L
out_1,R
out_1中の低域成分が減少してバランスの悪い音となる場合がある。
【0075】
このため、無相関信号生成装置11では、シェルビングフィルタ115を用いて相関成分(Ce)中の低域成分だけを低減させることよって、出力信号L
out_1,R
out_1のバランスが崩れることを防止することができる。
【0076】
しかも、シェルビングフィルタ115は、HPF(High Pass Filter)のように低域のレベルを0にするのではなく、所定レベルだけ低減させる。すなわち、HPFを用いた場合には、相関成分(Ce)に含まれる低域成分が全て除去されるため、無相関信号L
in’,R
in’には、低域成分の全てが残存することとなる。この結果、
図3に示した乗算部13a,13b等において無相関信号L
in’,R
in’のゲインを調整した際に、低域成分のレベルが大きくなり過ぎて、出力信号L
out_1,R
out_1のバランスが崩れる場合がある。
【0077】
このため、無相関信号生成装置11では、シェルビングフィルタ115を用いて相関成分(Ce)中の低域成分を所定レベルだけ低減させることで、低域成分のレベルが大きくなり過ぎることが原因で出力信号L
out_1,R
out_1のバランスが崩れることを防止することができる。なお、シェルビングフィルタ115は、たとえば、相関成分(Ce)のうち、低域成分として、例えば200Hz以下の成分のレベルを5dB低減させる。
【0078】
なお、相関成分(Ce)中の低域成分を低減させるフィルタは、シェルビングフィルタ115に限定されるものではなく、HPFを用いることとしてもよい。
【0079】
シェルビングフィルタ115を通過した相関成分(Ce)は、乗算部116へ入力される。乗算部116は、相関成分(Ce)のゲインを調整する処理部である。たとえば、乗算部116のゲイン値を0.5に設定した場合、後述する相関成分減算部117では、元のチャネル信号L
in,R
inから相関成分(Ce)が半分だけ減算される。この結果、相関成分(Ce)が半分だけ残存する無相関信号L
in’,R
in’が出力されることとなる。
【0080】
相関成分減算部117は、元のチャネル信号L
in,R
inから相関成分(Ce)を減算する処理部である。具体的には、相関成分減算部117は、
【数7】
式(7−1)および式(7−2)を用いて元のチャネル信号L
in,R
inから相関成分(Ce)をそれぞれ減算することによって、左無相関信号L
in’および右無相関信号R
in’をそれぞれ算出する。
【0081】
なお、式(7−1)中の「L’」は、左無相関信号L
in’に相当し、「L」は、左チャネル信号L
inに相当する。同様に、式(7−2)中の「R’」は、右無相関信号R
in’に相当し、「R」は、右チャネル信号R
inに相当する。また、左無相関信号L
in’は、
図3に示す遅延部12aに出力され、右無相関信号R
in’は、
図3に示す遅延部12bに出力される。
【0082】
このように、直交化部111a,111bが、音声信号に含まれる左右のチャネル信号を実部および虚部を含んだ複素信号へ変換し、相関係数計算部112が、各チャネル信号に対応するベクトルの平方和であるパワー(P
0)および内積(C
0)を用いて仮相関係数(α
0)を算出するとともに、パワー(α
0)に含まれる虚部の成分に対して仮相関係数(α
0)に基づく重み付けを施したパワー(P
2)を算出し、かかるパワー(P
2)および内積(C
0)を用いて相関係数(α
1)を算出する。そして、相関成分生成部114が、相関係数(α
1)を用いて相関成分(Ce)を生成し、相関成分減算部117が、相関成分(Ce)をチャネル信号L
in,R
inから減算することとした。このため、処理量を削減しつつ相関成分を精度良く抽出することができる。
【0083】
なお、ここでは、ベクトルLおよびベクトルRの平方和であるパワー(P
0)のうちの虚部の成分を使用しない、あるいは、部分的に使用することとしたが、これに限ったものではない。すなわち、複素信号のうち実部の成分がチャネル信号L
in,R
inそのものであり、かかるチャネル信号L
in,R
inから虚部の成分が算出されることからわかる通り、左右のチャネル信号L
in,R
inを複素信号へ変換する場合には、実部の成分の算出と比較して虚部の成分の算出に多くの処理を要する。
【0084】
そこで、算出に要する処理量が多い虚部の成分を一切用いることなくパワーおよび内積を算出することとしてもよい。このように虚部の成分を一切用いないこととした場合には、虚部の成分を用いる場合と比較して、相関成分(Ce)の抽出精度は多少低下するものの、相関低減処理に要する処理量を大幅に削減することができる。
【0085】
かかる場合の無相関信号生成装置11は、直交化部111a,111bが不要となる。すなわち、音源20から出力された左チャネル信号L
inおよび右チャネル信号R
inは、相関係数計算部112、相関成分生成部114および相関成分減算部117へ入力される。
【0086】
相関係数計算部112は、左チャネル信号L
inおよび右チャネル信号R
inを受け取ると、受け取ったチャネル信号L
in,R
inを用いて相関係数(α
2)を算出する。具体的には、相関係数計算部112は、まず、
【数8】
式(8−1)に示した式を用いてパワー(P
3)を算出する。ここで、式(8−1)に示した式は、式(1)に示した式から虚部の成分(L
2Im+R
2Im)を削除したものである。
【0087】
また、相関係数計算部112は、式(8−2)に示した式を用いて内積(C
1)を算出する。ここで、式(8−2)に示した式は、式(2)に示した式から虚部の成分(L
Im×R
Im)を削除したものである。そして、相関係数計算部112は、式(8−3)に示した式を用いて相関係数(α
2)を算出する。
【0088】
このように、チャネル信号L
in,R
inを複素信号へ変換することなく、元のチャネル信号L
in,R
inのみを用いて相関係数(α
2)を算出するため、相関係数(α
2)の算出に要する処理量を大幅に削減できる。
【0089】
相関係数計算部112によって算出された相関係数(α
2)は、LPF113を介して相関成分生成部114へ出力される。相関成分生成部114は、LPF113によって平滑化された相関係数(α
2)および元のチャネル信号L
in,R
inを用いて相関成分(Ce’)を生成する。生成された相関成分(Ce’)は、シェルビングフィルタ115および乗算部116を介して相関成分減算部117へ出力される。
【0090】
相関成分減算部117は、元のチャネル信号L
in,R
inから相関成分(Ce’)を減算し、これによって得られた無相関信号L
in',R
in'をそれぞれ遅延部12a,12bへ出力する。
【0091】
このように、音声信号に含まれる左右のチャネル信号の平方和であるパワー(P
3)および積である内積(C
1)を算出し、算出したパワー(P
3)および内積(C
1)を用いて相関係数(α
2)を算出することで、相関成分の抽出精度の低下を抑えつつ、相関低減処理に要する処理量を大幅に削減することができる。
【0092】
ところで、左右のチャネル信号L
in,R
in間の相関が比較的弱い音声信号、すなわち、相関係数計算部112によって算出される相関係数の値が小さい音声信号には、残響成分が多く含まれる。このため、遅延部12a,12bを用いて残響成分を付与せずとも、元のチャネル信号L
in,R
inに対して無相関信号を加算することで音の拡がり感を高めることができる。
【0093】
一方、左右のチャネル信号L
in,R
in間の相関が比較的強い音声信号、すなわち、相関係数計算部112によって算出される相関係数の値が大きい音声信号には、残響成分の割合が少ない。このため、元のチャネル信号L
in,R
inに対して無相関信号を加算しただけでは、音の拡がり感を十分に高めることができない可能性がある。そこで、左右のチャネル信号L
in,R
in間の相関が比較的強い場合には、遅延部12a,12bによる遅延時間を長く設定して、残響を強調させるようにしてもよい。
【0094】
以下では、かかる場合について
図8を用いて説明する。
図8は、相関係数に応じて遅延時間を変更する場合の例を示す図である。
【0095】
図8に示すように、音場制御装置10では、無相関信号生成装置11の相関係数計算部112によって計算された相関係数(たとえば、相関係数(α
1))が小さいほど遅延部12a,12bの遅延時間を短く設定し、相関係数が大きいほど長く設定する。たとえば、音場制御装置10では、相関係数が所定の閾値未満であれば、遅延時間を0とし、所定の閾値以上であれば、遅延時間を10msecに設定する。なお、所定の閾値以上である場合の遅延時間は、10msecに限らず、0より大きい実数であればよい。
【0096】
これにより、左右のチャネル信号L
in,R
in間の相関が強い音声信号、すなわち、残響成分を付与する必要性が低い音声信号に対しては遅延時間が短く設定され、左右のチャネル信号L
in,R
in間の相関が弱い音声信号、すなわち、残響成分を付与する必要性が高い音声信号に対しては遅延時間が長く設定される。すなわち、相関係数に基づいて無相関信号の遅延時間を決定することとしたため、音声信号に適した残響の付与を行うことができる。なお、上記した遅延時間の決定処理は、遅延部12a,12b自体が行ってもよいし、音場制御装置10の図示しない制御部が行うこととしてもよい。
【0097】
上述してきたように、実施例1では、無相関信号生成装置11が、音声信号に含まれる左右のチャネル信号L
in,R
inから相関成分を低減することによって、左チャネル信号L
inに対応する左無相関信号および右チャネル信号R
inに対応する右無相関信号を生成する。また、実施例1では、加算部14aが、生成された左無相関信号を左チャネル信号L
inへ加算することによって左出力信号L
out_1を生成し、加算部14bが、生成された右無相関信号を右チャネル信号R
inへ加算することによって右出力信号R
out_1を生成することとした。したがって、簡易な構成で音の拡がり感を高めることができる。
【実施例2】
【0098】
ところで、上述してきた実施例1では、車両100の前席側だけにスピーカ40a,40bを設けることとしたが、これに限らず、後席側にもスピーカを設けることとしてもよい。
【0099】
以下では、車両100に対してスピーカを2セット配置する場合の実施例2について
図9〜11を用いて説明する。なお、以下の説明では、既に説明した部分と同様の部分については、既に説明した部分と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0100】
図9に示すように、実施例2に係る音場制御システムは、左スピーカ40cおよび右スピーカ40dをさらに含むとともに、音場制御装置10およびパワーアンプ30に代えてそれぞれ音場制御装置10’およびパワーアンプ30’を含む。なお、実施例2に係る音場制御システムは、少なくとも音場制御装置10’、左スピーカ40a,40cおよび右スピーカ40b,40dを含んでいればよい。
【0101】
左スピーカ40cおよび右スピーカ40dは、車両100の中央よりも後方側に設けられた後席用のスピーカである。たとえば、左スピーカ40cは、車両100の左側のリアドア下部などに設置され、右スピーカ40dは、車両100の右側のリアドア下部などに設置される。なお、左スピーカ40cおよび右スピーカ40dの設置箇所は、これに限ったものではない。
【0102】
パワーアンプ30’は、音場制御装置10’から出力された出力信号L
out_1,R
out_1,L
out_2,R
out_2を増幅してスピーカ40a〜40dへ出力する音声増幅器である。具体的には、パワーアンプ30’は、出力信号L
out_2を増幅して左スピーカ40cへ出力するとともに、出力信号R
out_2を増幅して右スピーカ40dへ出力する。なお、かかるパワーアンプ30’のゲインも、リスナーである乗車者によって任意に変更可能である。
【0103】
次に、音場制御装置10’の構成について
図10を用いて説明する。
図10は、音場制御装置10’の構成を示すブロック図である。なお、
図10では、音場制御装置10’の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0104】
図10に示すように、音場制御装置10’は、音場制御装置10が備える構成要素に加え、遅延部12c,12d、乗算部13c,13d、加算部14c,14d、乗算部15c,15d、分岐部16a,16bをさらに備える。
【0105】
ここで、音場制御装置10’では、乗算部15cが、無相関信号生成装置11、分岐部16a、遅延部12cおよび乗算部13c経由で出力された左無相関信号L
_2’と音源20から出力された左チャネル信号L
inとを加算した出力信号L
out_2を加算部14cから受け取る。そして、乗算部15cは、受け取った出力信号L
out_2をゲイン調整したうえでパワーアンプ30’へ出力する。また、音場制御装置10’では、乗算部15dが、無相関信号生成装置11、分岐部16b、遅延部12dおよび乗算部13d経由で出力された右無相関信号R
_2’と音源20から出力された右チャネル信号R
inとを加算した出力信号R
out_2を加算部14dから受け取る。そして、乗算部15dは、受け取った出力信号R
out_2をゲイン調整したうえでパワーアンプ30’へ出力する。
【0106】
分岐部16aは、無相関信号生成装置11から出力された左無相関信号を分岐させて遅延部12aおよび遅延部12cへ出力する。また、分岐部16bは、無相関信号生成装置11から出力された右無相関信号を分岐させて遅延部12bおよび遅延部12dへ出力する。
【0107】
以下では、分岐部16a,16bによって分岐される系統のうち、遅延部12aを経由する系統(すなわち、出力信号L
out_1を出力する系統)および遅延部12bを経由する系統(すなわち、出力信号R
out_1を出力する系統)を第1の系統と呼ぶ。また、分岐部16a,16bによって分岐される系統のうち、遅延部12cを経由する系統(すなわち、出力信号L
out_2を出力する系統)および遅延部12dを経由する系統(すなわち、出力信号R
out_2を出力する系統)を第2の系統と呼ぶ。
図9に示したように、第1の系統の出力信号L
out_1,R
out_1は、前席側のスピーカ40a,40bへ出力され、第2の系統の出力信号L
out_2,R
out_2は、後席側のスピーカ40c,40dへ出力されることとなる。
【0108】
遅延部12cは、無相関信号生成装置11から分岐部16a経由で入力された左無相関信号を所定時間遅延させたうえで、乗算部13cへ出力する処理部である。また、遅延部12dは、無相関信号生成装置11から分岐部16b経由で入力された右無相関信号を所定時間遅延させたうえで、乗算部13dへ出力する処理部である。
【0109】
なお、
図8を用いて既に説明したように、遅延部12c,12dによる信号の遅延時間を、無相関信号生成装置11によって算出される相関係数に基づいて変更することとしてもよい。
【0110】
乗算部13cは、遅延部12cから出力された左無相関信号のゲインを調整する処理部である。また、乗算部13dは、遅延部12dから出力された右無相関信号のゲインを調整する処理部である。
【0111】
ここで、
図10に示すように、第1の系統に属する乗算部13a,13bのゲイン値はxであり、第2の系統に属する乗算部13c,13dのゲイン値はyである。したがって、乗算部13aから出力される左無相関信号L
_1’および乗算部13cから出力される左無相関信号L
_2’は異なり、また、乗算部13bから出力される右無相関信号R
_1’および乗算部13dから出力される右無相関信号R
_2’も異なる。
【0112】
このように、実施例2では、元のチャネル信号L
in,R
inに対する無相関信号の足し込み量を第1の系統と第2の系統とで異ならせることとしている。かかる点については、
図11を用いて後述する。
【0113】
乗算部13cによってゲイン調整された左無相関信号L
_2’は、加算部14cへ出力される。また、乗算部13dによってゲイン調整された右無相関信号R
_2’は、加算部14dへ出力される。加算部14cは、音源20から入力された左チャネル信号L
inと乗算部13cから出力された左無相関信号L
_2’とを加算して乗算部15cへ出力する処理部である。また、加算部14dは、音源20から入力された右チャネル信号R
inと乗算部13dから出力された右無相関信号R
_2’とを加算して乗算部15dへ出力する処理部である。
【0114】
乗算部15cは、加算部14cから出力された信号のゲインを調整してパワーアンプ30’へ出力する処理部である。また、乗算部15dは、加算部14dから出力された信号のゲインを調整してパワーアンプ30’へ出力する処理部である。
【0115】
ここで、これら乗算部15c,15dは、乗算部15a,15bと同様、出力信号L
out_2,R
out_2の音量を一定に保つために設けられた乗算部である。たとえば、
図10に示すように、乗算部15c,15dのゲイン値は、1/(1+y)であらわされ、乗算部13c,13dのゲイン値yに応じて変動する。これにより、元のチャネル信号L
in,R
inに対して無相関信号L
_2’,R
_2’を加算することによって増加した音量を元のチャネル信号L
in,R
inと同じ音量へ戻すことができる。
【0116】
このように、乗算部15c,15dは、乗算部13c,13dによって調整された無相関信号L
_2’,R
_2’のゲインに応じて出力信号のゲインを調整することとしたため、出力信号を一定の音量で出力することができる。
【0117】
次に、第1の系統と第2の系統とで無相関信号の足し込み量を異ならせる場合の一例について
図11を用いて説明する。
図11は、第1の系統と第2の系統とで無相関信号の足し込み量を異ならせる場合の一例を示す図である。なお、
図11の(A)には、第1の系統のゲイン値xおよび第2の系統のゲイン値yの大小関係について、
図11の(B)には、車両100の車室内に形成される音場について、それぞれ示している。
【0118】
図11の(A)に示すように、音場制御装置10では、たとえば、第1の系統に属する乗算部13a,13bのゲイン値xを第2の系統に属する乗算部13c,13dのゲイン値yよりも小さく設定する(A−1)。これにより、第1の系統の出力信号L
out_1,R
out_1中の相関成分の割合は、第2の系統の出力信号L
out_2,R
out_2中の相関成分の割合よりも多くなる(A−2)。
【0119】
この結果、
図11の(B)に示すように、車両100の車室内では、左右の相関が比較的強く残った相関低減音声Aが前席側のスピーカ40a,40bから出力され、相関低減音声Aよりも左右の相関が弱い相関低減音声Bが後席側のスピーカ40c,40dから出力される。
【0120】
ここで、上述したように、左右の相関が弱いほど音の拡がり感は高まることとなる。一方、左右の相関が強いほど音の拡がり感は低くなるが、逆に、音の定位感が高まることとなる。したがって、
図11の(B)に示した車両100の車室内には、車両100の前方側では定位感が高く、後方側では拡がり感の高い音場が形成されることとなる。
【0121】
このように、左右の相関を比較的強く残した出力信号L
out_1,R
out_1を前席側から出力しつつ、左右の相関が弱い出力信号L
out_2,R
out_2を後席側から出力することで、相関成分(たとえば、ボーカル成分)が車両100の中央よりも前方側で定位する。ボーカル成分などの相関成分は、後方から聴こえるよりも前方から聴こえる方が自然である。したがって、第1の系統のゲイン値xを第2の系統のゲイン値yよりも小さい値に調整することで、乗車者に対してより自然な音場を提供することができる。
【0122】
なお、ここでは、前席側の出力信号L
out_1,R
out_1の相関を後席側の出力信号L
out_2,R
out_2の相関よりも強くする場合の例を示したが、これに限定されるものではない。たとえば、前席側の出力信号L
out_1,R
out_1の相関を後席側の出力信号L
out_2,R
out_2の相関よりも弱くしてもよい。かかる場合、第1の系統のゲイン値xを第2の系統のゲイン値yよりも小さく設定すればよい。また、第1の系統のゲイン値xと第2の系統のゲイン値yとが同一であってもよい。このように、第1の系統のゲイン値xおよび第2の系統のゲイン値yは、乗車者の好みに合わせて乗車者が任意に変更することができる。