【実施例1】
【0011】
図1において、1は画像形成装置としてのプリンタである。本実施例のプリンタ1は、カラー画像を印刷する電子写真方式のカラープリンタである。
このプリンタ1には、その装置筐体内の下部に、普通紙等の印刷用の媒体としての用紙Pを収容する用紙カセット2が着脱自在に装着され、その外部の上面に、画像が印刷された用紙Pを集積するスタッカ3が配置されており、これらの間は、
図1に破線で示す、概ねS字状に形成された用紙搬送路4(後述する搬送ベルト9の平行部の上面部を含む)で接続されている。
【0012】
用紙搬送路4と用紙カセット2との接続部には、給紙ローラ5a、5bと分離片6からなり、用紙カセット2から用紙Pを1枚ずつに分離して用紙搬送路4へ繰出す給紙機構が設けられ、給紙ローラ5bの用紙Pの搬送方向(用紙搬送方向という。)の下流側には、給紙機構により繰出された用紙Pを挟持して搬送する搬送ローラ7、搬送ローラ7により搬送された用紙Pの斜行を修正して搬送するレジストローラ8が配置されている。
【0013】
レジストローラ8の用紙搬送方向の下流側には、レジストローラ8により搬送された用紙Pを搬送する搬送ベルト9が配置され、その搬送ベルト9の平行部の上面部には、搬送ベルト9に沿って複数の画像形成部11が配置され、各画像形成部11の上方には、静電潜像を形成するための露光ヘッド12が、搬送ベルト9の上面部を挟んだ反対側には、画像形成部11で形成された現像剤像としてのトナー像を用紙P上に転写する転写ローラ13が配置され、搬送ベルト9の用紙搬送方向の下流側には、転写されたトナー像を用紙P上に定着させる定着装置14が配置されている。
また、定着装置14の用紙搬送方向の下流側には、定着装置14から排出された用紙Pを上部カバー15上のスタッカ3へ挟持して搬送する複数の排出ローラ16a、16bが配置されている。
【0014】
本実施例のプリンタ1には、それぞれに設定された設定色、つまりブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の現像剤としてのトナーTを収容した、4つの独立した画像形成部11k、11y、11m、11cが用紙搬送方向に沿ってトナー像を形成する順に配置され、これら4つの画像形成部11はそれぞれ同一の構造であるため、以下に一つの画像形成部11について説明する。
【0015】
画像形成部11は、露光ヘッド12によって静電潜像が形成される感光体ドラム18、感光体ドラム18を一様に帯電させる帯電ローラ19、感光体ドラム18上の静電潜像にトナーTを付着させて現像する現像ローラ20、現像ローラ20にトナーTを供給する供給ローラ21、設定色のトナーTを収容したトナーカートリッジ22、転写後に感光体ドラム18上に残留したトナーTを掻き取って除去するクリーニングブレード23等を備えている。
また、各画像形成部11は、それぞれ一体的に構成されており、プリンタ1に着脱自在に装着されている。このためプリンタ1の上部カバー15は開閉可能に構成されている。
【0016】
露光手段としての露光ヘッド12は、上部カバー15によって支持されて感光体ドラム18の上方に対向配置され、LED(Light Emitting Diode)光やレーザ光等の発光体を備えており、画像情報に基づいて感光体ドラム18の表面上に静電潜像を形成する。
転写手段としての転写ローラ13は、搬送ベルト9を挟んで感光体ドラム18に対向配置され、印加された転写電圧によって、搬送ベルト9により搬送される用紙P上に感光体ドラム18上に形成されたトナー像を転写する。
【0017】
本実施例の定着装置14は、ベルト加熱方式の装置であって、
図2に示すように、加圧ローラ30と定着ベルトユニット31とで構成され、定着ベルトユニット31は、定着ローラ32、定着ベルト33、ヒータ34、定着ベルト33のガイドを兼ねるヒータホルダ35等で構成されている。
【0018】
この加圧ローラ30と、定着ベルトユニット31の定着ローラ32とは、定着ベルト33を介して対向かつ平行に配置され、加圧ローラ30に設けられた図示しない押圧機構により、定着ベルトユニット31を所定の押圧力で押圧している。これにより、定着ベルト33と加圧ローラ30の間には、用紙搬送方向に所定のニップ幅からなるニップ部が形成される。
【0019】
また、定着装置14のヒータ34とニップ部との間の、ニップ部の定着ベルト33の回転方向(
図2において、時計方向)の上流側の近傍には、定着ベルト33の内周面に摺接して定着ベルト33の内周面の温度を検出するサーミスタ等からなるベルト温度検出手段としてのベルト温度センサ36が配置され、加圧ローラ30の、ニップ部の加圧ローラ30の回転方向の上流側の近傍には、加圧ローラ30の外周面に摺接して、加圧ローラ30の表面温度を検出するサーミスタ等からなる加圧ローラ温度検出手段としての加圧ローラ温度センサ37が配置されている。
なお、定着装置14は、プリンタ1に対して一体的に装着されても、プリンタ1から着脱可能に装着されていてもよい。
【0020】
加圧ローラ30は、
図3に示すように、芯金30aと、耐熱性の弾性層30bと、フッ素樹脂等からなる離型層30cから構成され、図示しない軸受によって回転可能に支持されており、芯金30aに設けた図示しない加圧ローラギアに定着モータ38(
図1参照)から伝達される駆動力によって、
図2に矢印で示す用紙搬送方向に用紙Pを搬送する回転方向(
図2において反時計方向、搬送回転方向という。)に回転するように駆動される。
【0021】
本実施例の加圧ローラ30は、芯金30aを、厚さt1(芯金厚さt1ともいう。)、長さ230mmのアルミニウム材料(材質A5052)からなるパイプとし、その外周面に弾性層30bとして厚さt2(弾性層厚さt2ともいう。)のシリコーンゴム層を形成し、その表面に離型層30cとして厚さ40μmの、フッ素樹脂の一つであるパーフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂チューブを被覆した外径36mmのローラである。なお、芯金30aの厚さt1、弾性層30bの厚さt2については、後述する。
【0022】
定着ローラ32は、
図4に示すように、鉄、アルミニウム合金等の金属製のパイプまたはシャフトからなる芯金32aの外周面に、シリコーンゴム、フッ素樹脂等の耐熱性の弾性層32bが設けられ、図示しない軸受によって回転可能に支持されており、加圧ローラ30の回転に伴うニップ部における摩擦力によって従動回転する定着ベルト33の回転に伴って、加圧ローラ30に従動して回転する。
本実施例の定着ローラ32は、芯金32aを、直径26mm、厚さt3=1.5mm(芯金厚さt3ともいう)、長さ230mmのアルミニウム材料(材質A5052)からなるパイプとし、弾性層32bとして厚さt4=5mm(弾性層厚さt4ともいう。)のシリコーンゴム層を形成した外径36mmのローラである。
【0023】
加熱部材としてのヒータ34は、
図5に示すように、ステンレスやセラミック等の基板34a上にガラス等からなる電気絶縁層34bを設け、その上に電極34cを有する抵抗発熱体34dを積層し、それを保護層34eで保護した面状ヒータである。
このような抵抗発熱体34dは、ニッケル−クロム合金、銀−パラジウム合金等の材料を用いることができる。また、保護層34eには、耐圧ガラスによるガラスコーティングを施してある。
【0024】
ヒータホルダ35は、加圧ローラ30の反対側で定着ローラ32から離間して、定着ローラ32に対向して配置され、定着ローラ32とともに定着ベルト33を張架して回転可能に支持する。
このヒータホルダ35は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマ(LCP)等の耐熱性の高い樹脂で構成されており、ヒータ34は、ヒータホルダ35の上面中央部に長手方向に沿って耐熱性接着剤等で固定支持されている。
【0025】
定着ベルト33は、
図6に示すように、ニッケル、ポリイミド、ステンレス等の材料で形成された円筒状のベルト基材33aの外周面に、シリコーンゴム、フッ素樹脂等の耐熱性の弾性層33bが設けられ、弾性層33bの外周面には、フッ素樹脂等からなる離型層33cが形成されている。この定着ベルト33は、加圧ローラ30の回転に伴うニップ部における摩擦力によって加圧ローラ30に従動回転し、ヒータ34によって加熱される。
本実施例の定着ベルト33は、厚さ50μmのステンレス製の筒状部材をベルト基材33aとし、弾性層33bとして厚さ100μmのシリコーンゴム層を設け、離型層33cとして厚さ30μmのPFA樹脂層を形成した無端ベルトである。
【0026】
また、定着ベルト33の内径は、ベルト周長が長くなると昇温時間が長くなり、短いとスペースが不足して、ニップ幅の確保に必要な定着ローラ32の外径が小さくなるため、定着ローラ32の外径36mmに対して、定着ベルト33の内径を45mmとしている。
なお、ヒータ34の出力は900W、加圧ローラ30は、図示しない押圧機構によって片側10kgf、両側で20kgfの総押圧力で定着ベルト33を押圧するように設定されている。
また、本実施例のプリンタ1は、印刷速度A4縦送り30ppm(ページ/分)、ウォーミングアップ時間30秒に設定されている。
【0027】
図7において、40はプリンタ1の制御部であり、図示しない通信回線を介してパーソナルコンピュータ等の上位装置と接続しており、プリンタ1内の各部を制御して印刷処理等を実行する機能、上位装置とのデータ通信を制御する機能等を有している。
41はプリンタ1の記憶部であり、制御部40が実行するプログラムやそれに用いる各種のデータ、制御部40による処理結果等が格納される。
【0028】
42は高圧電源部であり、制御部40からの指令に基づいて、帯電ローラ19、現像ローラ20、供給ローラ21、転写ローラ13等に電圧を印加する。
また、帯電ローラ19、現像ローラ20、供給ローラ21等へは、画像形成部11がプリンタ1に装着されたときに、高圧電源部42と電気的に接続される。
【0029】
43は定着制御部であり、制御部40からの指令に基づいて、図示しない給電回路から、定着装置14のヒータ34へ加熱用の電力を供給すると共に、定着モータ38へ電力を供給して加圧ローラ30を搬送回転方向に回転させる。
【0030】
また、定着制御部43へは、ベルト温度センサ36によって検出された定着ベルト33の表面温度、および加圧ローラ温度センサ37によって検出された加圧ローラ30の表面温度等が入力され、制御部40は、定着制御部43へ入力された定着ベルト33の表面温度を基に、定着制御部43によってヒータ34へ供給する電力をON、OFFさせ、定着ベルト33の表面温度を所定の定着温度に保つように制御する。
【0031】
以下に、本実施例のプリンタ1の印刷動作における各部の動作について説明する。
プリンタ1の制御部40は、上位装置から印刷命令を受信すると、その印刷命令に従った印刷を開始し、まず、用紙カセット2に収容された用紙Pを、給紙ローラ5a、5bおよび分離片6によって1枚ずつに分離して用紙搬送路4へ繰出し、搬送ローラ7、レジストローラ8によって搬送ベルト9へ搬送する。
【0032】
これと並行して、制御部40は、高圧電源部42によって、それぞれの画像形成部11の各ローラおよび転写ローラ13へ予め設定された所定の電圧を印加し、各画像形成部11の帯電ローラ19に印加した帯電電圧によって、各感光体ドラム18の表面を一様に帯電させ、印刷命令に基づく画像情報に従って各露光ヘッド12を発光させ、各感光体ドラム18の表面を露光してそれらの表面上に静電潜像を形成し、供給ローラ21から供給されたトナーTを現像ローラ20によって感光体ドラム18の静電潜像に付着させて現像し、感光体ドラム18の表面上に各色のトナー像を形成する。
【0033】
そして、用紙Pが、搬送ベルト9により画像形成部11まで搬送されてくると、その用紙Pが画像形成部11k、11y、11m、11cの感光体ドラム18と転写ローラ13との間を通過する際に、転写ローラ13に印加されている転写電圧によりブラック、イエロー、マゼンタおよびシアンの各色のトナー像が順次に用紙P上に転写され、カラーのトナー像が形成される。
【0034】
トナー像が転写された用紙Pが定着装置14に搬送されると、定着装置14によってトナー像を用紙P上に定着させ、トナー像が定着された用紙Pは、排出ローラ16aによって搬送された後に排出ローラ16bによって上部カバー15上のスタッカ3へ排出されて集積され、印刷動作が完了する。
【0035】
この場合の定着装置14の定着動作について、以下に説明する。
まず、プリンタ1における印刷開始に伴って、制御部40は、定着制御部43によって定着モータ38を回転させ、定着装置14の加圧ローラ30の加圧ローラギアを、プリンタ1の本体に配設された図示しない駆動ギア列を介して搬送回転方向に回転させると共に、加圧ローラ30の回転に伴うニップ部における摩擦力によって、定着ベルト33および定着ローラ32を従動回転させる。
【0036】
また、制御部40は定着制御部43によって、ヒータ34へ図示しない給電回路から電力を供給して発熱させ、定着ベルト33を内周面側から加熱する。
このヒータ34によって加熱された定着ベルト33の温度は、ベルト温度センサ36により検出されて定着制御部43に入力され、定着制御部43は、検出された定着ベルト33の温度に基づいて、給電回路からヒータ34へ供給する電力をON、OFFして定着ベルト33の表面温度を所定の定着温度に保つように制御する。
【0037】
この定着ベルト33の表面温度が所定の定着温度に保たれた状態において、トナー像が転写された用紙Pが搬送されてくると、その用紙Pは定着ベルト33を介して定着ローラ32と加圧ローラ30とで形成されたニップ部で挟持され、定着ベルト33による所定の定着温度での加熱と、加圧ローラ30による所定の押圧力での加圧によって、トナー像を用紙P上に定着させる。
【0038】
なお、本実施例の加圧ローラ30は発熱体を備えないため、加圧ローラ30の回転開始タイミングは、ヒータ34のONから時間を空けずに回転を開始することが望ましい。このため、本実施例では、ヒータ34のONと同時に加圧ローラ30の回転を開始する設定としている。
また、本実施例の定着ベルト33の目標温度は160℃に設定され、ヒータ34のON後に、定着ベルト33の温度は、定着実行時にこの目標温度を中央値とした所定の温度範囲からなる定着温度となるように制御される。
【0039】
本実施例の構成からなるベルト加熱方式による定着装置14において、逆カール量を抑制するための仕様を検討するために、加圧ローラ30の弾性層30bの厚さt2(
図3参照)を変化させて、以下に示す評価試験を行った。
【0040】
評価の対象とした試験品の加圧ローラ30は、
図8に示すように、その外径を36mm、芯金30a(材質A5052)の厚さt1を1.5mmで同一とし、弾性層30bの厚さt2を2mm、4mm、6mm、8mmに変化させたもの(試験品1〜4)である。
また、各試験品の加圧ローラ30と組合せる定着ローラ32は、外径を36mm、芯金32a(材質A5052)の厚さを1.5mm、弾性層32bの厚さを5mmとした同一品であり、定着ベルト33は上記した構成からなる同一品である。
【0041】
なお、印刷動作においては、定着ベルト33の温度が、室温から定着時の目標温度に到達したときに印刷開始可能となるが、このときに加圧ローラ温度センサ37で検出した加圧ローラ30の表面温度を、立上り時加圧ローラ到達温度という。
【0042】
評価試験は、プリンタ1へ試験品の加圧ローラ30を組込んだ定着装置14を装着し、電源を投入した後のウォーミングアップ終了時に、A4サイズの用紙P(沖データエクセレントペーパ)に、トナーデューティ5%となる印刷パターンを印刷速度A4縦送り30ppmで50枚連続印刷して行い、そのときの1枚目の用紙Pの排出後の逆カール量と、50枚排出後の用紙Pの集積状態を評価項目とした。
また、評価環境は、定着後の用紙Pが逆カールとなり易いHH環境(高温多湿の環境のことをいう。)にて行った。
【0043】
なお、本説明における逆カールとは、トナーTが定着された用紙Pの面を上にして用紙Pが山型に反ることをいう。
上記評価条件による各試験品の加圧ローラ30の評価結果を
図8に示す。
【0044】
図8に示すように、加圧ローラ30の弾性層厚さt2が、定着ローラ32の弾性層厚さt4よりも小さいときに、加圧ローラ30のウォーミングアップ直後の印刷開始時における立上り時加圧ローラ到達温度が、集積不良となる逆カール量が発生しない温度となっていることが判る。
【0045】
これを詳細に説明すると、
図9に示すように、加圧ローラ30の弾性層厚さt2を8mmから2mmへと薄くしていくと、定着ベルト33がウォーミングアップ時に室温から定着時の目標温度となったときの立上り時加圧ローラ到達温度は、70℃から110℃へと高くなっていく。また、
図10に示すように、加圧ローラ30の熱容量を411J/Kから230J/Kへと小さくしていくと、立上り時加圧ローラ到達温度は、70℃から110℃へと高くなっていく。
【0046】
このときの用紙Pの逆カール量は、
図11に示すように、25mmから8mmへと立上り時加圧ローラ到達温度が高くなっていく程、減少していき、50枚印刷後の集積状態は、逆カール量10mm以下のときに、乱れのない集積結果となる。
【0047】
すなわち、加圧ローラ30の弾性層30bと定着ローラ32の弾性層32bの厚さの関係を、
加圧ローラ弾性層厚さt2 < 定着ローラ弾性層厚さt4 ・・・・・・(1)
とすれば、ウォーミングアップ直後の印刷開始時における逆カール量を10mm以下に抑制して、良好な集積状態を得ることができる。
【0048】
また、加圧ローラ30の熱容量と定着ローラ32の熱容量の関係を、
加圧ローラ熱容量 < 定着ローラ熱容量 ・・・・・・・・・・・・・・(2)
とすれば、ウォーミングアップ直後の印刷開始時における逆カール量を10mm以下に抑制して、良好な集積状態を得ることができる。
【0049】
このように、同じ構成であっても、熱容量が大きい場合は、大きな逆カール量が発生するが、加圧ローラ30の熱容量を小さくすれば逆カール量を小さくすることができることが判った。
なお、他の試験によって、定着ローラ32の弾性層厚さt4と定着性との関係を調べると、弾性層厚さt4が1mmのときに定着不良の発生がわずかに見られた。このため、より望ましい定着ローラ32の弾性層厚さt4としては、2mm以上であることが必要である。
【0050】
上記評価試験に加えて、試験品2の加圧ローラ30を基準とし、外径を同一として、加圧ローラ30の芯金厚さt1を弾性層厚さt2に応じて、たわみ強度が等しくなるように芯金厚さt1を設定した試験品5〜7について、上記した定着ローラ32および定着ベルト33と組合せて同様の評価試験を行った。その評価結果を
図12に示す。なお、試験品7の加圧ローラ30の芯金30aは、外径20mmの中実軸である。
【0051】
図12に示すように、加圧ローラ30の熱容量が、定着ローラ32の熱容量よりも小さいときに、加圧ローラ30のウォーミングアップ直後の印刷開始時の立上り時加圧ローラ到達温度が、集積不良となる逆カール量が発生しない温度となっており、
図8に示した試験品の評価結果に対して、芯金30aの熱容量が小さいときに逆カール量の発生が、更に抑制されていることが判る(試験品5参照)。
【0052】
上記のように、本実施例では、定着装置14の加圧ローラ30の弾性層30bの厚さを定着ローラ32の弾性層32bの厚さより薄くしたので、加圧ローラ30の温度上昇が速くなり、ウォーミングアップ時間中に加圧ローラ30の表面温度を印刷開始に必要な温度に上昇させることができ、定着時の定着ユニット31と加圧ローラ30との温度差が小さくなるため、用紙Pの表裏の乾き具合の差が小さくなって逆カール量を低減することができる定着装置14を得ることができる他、加圧ローラ30の温度上昇が早くなるため、印刷開始時のウォーミングアップ時間を短縮することができる。
【0053】
また、この定着装置14を備えることで本実施例のプリンタ1は、電源投入直後やパワーセーブモードからのリカバリー後の定着処理において、良好な搬送性や集積性を確保することができる。
なお、本実施例においては、加熱部材としてのヒータは、面状ヒータであるとして説明したが、ハロゲンヒータ45であってもよい。
【0054】
ハロゲンヒータ45は、
図13に示すように、ヒータカバー45aに、発熱体としてのハロゲンランプ45bを内蔵して構成され、ヒータカバー45aと定着ベルト33との摺接面によって、ハロゲンランプ45bからの熱を定着ベルト33へ伝え、定着ベルト33を内周面側から加熱する。
また、ハロゲンヒータ45のヒータカバー45aは、加圧ローラ30の反対側で定着ローラ32から離間して、定着ローラ32に対向して配置され、ヒータホルダ35と同様に、定着ローラ32とともに定着ベルト33を張架して回転可能に支持する機能も有している。
【0055】
以上説明したように、本実施例では、ベルト加熱方式の定着装置において、加圧ローラの弾性層の厚さを、定着ローラの弾性層の厚さよりも薄くしたことによって、加圧ローラの温度上昇を速くして、ウォーミングアップ時間中に加圧ローラの表面温度を印刷開始に必要な温度に上昇させることができ、定着時における定着ユニットと加圧ローラとの温度差を減少させて、用紙Pに発生する逆カール量を抑制することができると共に、印刷開始時のウォーミングアップ時間を短縮することができる。
【実施例2】
【0056】
以下に、
図14ないし
図19を用いて本実施例の定着装置およびプリンタについて説明する。なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施例の定着装置14は、
図14に示すように、定着ベルト33の内側に、定着ローラ32の定着ベルト33の回転方向(
図14において、時計方向)の上流側に隣接して、押圧部材としてのパッド50が、圧縮コイルスプリング等のバネ部材51によって定着ベルト33を介して加圧ローラ30を押圧する方向に付勢されて設けられており、定着ローラ32と共に加圧ローラ30との間でニップ部を形成するように構成されている。
【0057】
これによって、ニップ幅を上記実施例1よりも長く確保することが可能となり、定着速度を向上させることができる。また、定着ローラ32の外径を小さく構成することが可能となり、定着ベルトユニット31の熱容量を小さくして、ウォーミングアップ時間を短縮することができる。従って、本実施例では、印刷速度をA4縦送り40ppm、ウォーミングアップ時間を20秒に設定している。
なお、本実施例の定着ベルト33は、上記実施例1と同様であり、その内径は45mmである。
【0058】
パッド50は、
図15に示すように、アルミニウム等の金属からなる支持基材50aと、支持基材50aに接着固定された弾性材50bと、弾性材50bの表層に摺動層50cを設けて構成され、弾性材50bは、定着ベルト33を介して加圧ローラ30の曲率と同じとなるように円弧面50dで形成されている。
【0059】
本実施例のパッド50は、支持基材50aをアルミニウム材(材質A6063)として、弾性材50bはシリコーンゴムで形成し、摺動層50cとして厚さ30μmのPFA樹脂をコーティングして構成し、円弧面50dの円弧の長さは5mmに設定されている。
【0060】
本実施例の定着ローラ32の構成は、上記実施例1と同様であるが、芯金32aを直径23mm、厚さt3=0.5mm、長さ230mmの鉄材料(材質STKM)からなるパイプとし、弾性層32bとして厚さt4=1mmのシリコーンゴム層を形成した、外径26mmのローラである点で異なる。
【0061】
本実施例の加圧ローラ30の構成は、上記実施例1と同様であるが、芯金30aを直径28mm、厚さt1=0.5mm、長さ230mmの鉄材料(材質STKM)からなるパイプとし、弾性層30bとして厚さt2のシリコーンゴム層を形成し、その表面に離型層30cとして厚さ40μmのPFA樹脂チューブを被覆した、外径36mmのローラである点で異なる。なお、弾性層30bの厚さt2については、後述する。
【0062】
本実施例のプリンタ1の印刷動作および定着装置14の定着動作については、上記実施例1と同様であるので、その説明を省略する。
本実施例の構成からなるベルト加熱方式による定着装置14において、逆カール量を抑制するための仕様を検討するために、加圧ローラ30の弾性層30bの厚さt2を変化させて、上記実施例1と同様の評価試験を行った。
【0063】
評価の対象とした試験品の加圧ローラ30は、
図16に示すように、その外径を36mm、芯金30a(材質STKM)の厚さt1を0.5mmで同一とし、弾性層30bの厚さt2を0.5mm、1mm、2mm、3mmに変化させたもの(試験品8〜11)である。
なお、各試験品の加圧ローラ30と組合せる定着ローラ32は、上記した本実施例の構成、定着ベルト33は上記実施例1の構成からなる同一品である。また、本実施例の評価試験における印刷速度は、A4縦送り40ppmである。
【0064】
上記評価条件による各試験品の加圧ローラ30の評価結果を
図16に示す。
図16に示すように、加圧ローラ30の弾性層厚さt2が、定着ローラ32の弾性層厚さt4よりも小さいときに、加圧ローラ30のウォーミングアップ直後の印刷開始時における立上り時加圧ローラ到達温度が、集積不良となる逆カール量が発生しない温度となっていることが判る。
【0065】
これを詳細に説明すると、
図17に示すように、加圧ローラ30の弾性層厚さt2を3mmから0.5mmへと薄くしていくと、定着ベルト33がウォーミングアップ時に室温から定着時の目標温度となったときの立上り時加圧ローラ到達温度は、80℃から125℃へと高くなっていく。また、
図18に示すように、加圧ローラ30の熱容量を240J/Kから84J/Kへと小さくしていくと、立上り時加圧ローラ到達温度は、80℃から125℃へと高くなっていく。
【0066】
このときの用紙Pの逆カール量は、
図19に示すように、25mmから5mmへと立上り時加圧ローラ到達温度が高くなっていく程、減少していき、50枚印刷後の集積状態は、逆カール量10mm以下のときに、乱れのない集積結果となる。
【0067】
すなわち、加圧ローラ30の弾性層30bと定着ローラ32の弾性層32bの厚さの関係を、
加圧ローラ弾性層厚さt2 < 定着ローラ弾性層厚さt4 ・・・・・・(3)
とすれば、ウォーミングアップ直後の印刷開始時における逆カール量を10mm以下に抑制して、良好な集積状態を得ることができる。
【0068】
また、加圧ローラ30の熱容量と定着ローラ32の熱容量の関係を、
加圧ローラ熱容量 < 定着ローラ熱容量 ・・・・・・・・・・・・・・(4)
とすれば、ウォーミングアップ直後の印刷開始時における逆カール量を10mm以下に抑制して、良好な集積状態を得ることができる。
【0069】
このように、同じ構成であっても、熱容量が大きい場合は、大きな逆カール量が発生するが、加圧ローラ30の熱容量を小さくすれば逆カール量を小さくすることができることが判った。
なお、他の試験によって、定着ローラ32の弾性層厚さt4と定着性との関係を調べると、弾性層厚さt4が1mmのときに定着不良の発生がわずかに見られた。このため、より望ましい定着ローラ32の弾性層厚さt4としては、2mm以上であることが必要である。
【0070】
上記のように、本実施例では、上記実施例1と同様に、定着装置14の加圧ローラ30の弾性層30bの厚さを定着ローラ32の弾性層32bの厚さより薄くしたので、加圧ローラ30の温度上昇が速くなり、ウォーミングアップ時間中に加圧ローラ30の表面温度を印刷開始に必要な温度に上昇させることができ、定着時の定着ユニット31と加圧ローラ30との温度差が小さくなるため、用紙Pの表裏の乾き具合の差が小さくなって逆カール量を低減することができる定着装置14を得ることができる他、加圧ローラ30の温度上昇が早くなるため、印刷開始時のウォーミングアップ時間を短縮することができる。
【0071】
また、この定着装置14を備えることで本実施例のプリンタ1は、電源投入直後やパワーセーブモードからのリカバリー後の定着処理において、良好な搬送性や集積性を確保することができる。
【0072】
上記に加えて、本実施例では、定着装置14にパッド50を追加した構成としたことによって、ニップ幅を実施例1よりも長く確保して定着速度を向上させることができると共に、定着ローラ32の外径を小さく構成することが可能となり、定着ユニット31の熱容量を更に小さくして、印刷開始時のウォーミングアップ時間を更に短縮することができる。
【0073】
以上説明したように、本実施例では、ベルト加熱方式の定着装置において、加圧ローラの弾性層の厚さを、定着ローラの弾性層の厚さよりも薄くし、定着ローラに隣接して、定着ベルトを介して加圧ローラを押圧するパッドを設けたことによって、加圧ローラの温度上昇を更に速くして、ウォーミングアップ時間中に加圧ローラの表面温度を印刷開始に必要な温度に上昇させることができ、定着時における定着ユニットと加圧ローラとの温度差を減少させて、用紙Pに発生する逆カール量を抑制することができると共に、印刷開始時のウォーミングアップ時間を更に短縮することができる。
【0074】
なお、本発明は、上記各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。また、明細書全文に開示した部材の内容はあくまで例示であって、これらの記載に限定されるものではない。
また、上記各実施例においては、印刷用の媒体は、普通紙であるとして説明したが、媒体は前記に限らず、OHPシート、カード、葉書、秤量が200g/m
2相当以上の厚紙、封筒、熱容量の大きいコート紙等の特殊紙等であってもよい。
【0075】
更に、上記各実施例においては、加熱部材は、面状ヒータまたはハロゲンヒータであるとして説明したが、定着ベルトとの摺接面が定着ベルトと同程度の曲率を有するものであっても、円筒状のヒータであってもよい。要は、加熱部材の種類や形状に限定されるものではない。
更に、上記各実施例においては、ヒータは、定着ベルトの内側に配置するとして説明したが、外側に配置してもよい。
【0076】
更に、上記各実施例においては、画像形成装置はカラープリンタであるとして説明したが、画像形成装置は前記に限らず、電子写真方式を採用したモノクロプリンタ、複写機、ファクシミリ装置、複合機等であってもよい。