(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工具本体と、該工具本体が備える電動モータと、左右方向に延びる前記電動モータの出力軸と、該出力軸により回転され、左右方向に延びる中間軸と、該中間軸により回転され、左右方向に延びるスピンドルと、該スピンドルに取り付けられる切断刃と、前記工具本体が備え、前記切断刃の上側を覆うブレードケースと、前記工具本体が支持され、切断材に当接されるベースと、使用者が把持するハンドル部と、該ハンドル部が有し、電源としてバッテリパックを取り付けできるバッテリ取り付け台座部と、を備え、前側に切断が進行する携帯マルノコであって、
前記出力軸には、冷却風のファンが取り付けられており、前記ブレードケースの左側には、前記電動モータの冷却風を吹き出すためのブロワ装置が設けられており、
前記出力軸の軸心と、前記スピンドルの軸心とを結ぶ基準線に対して、前記中間軸の軸心と前記ブロワ装置の吹き出し口が前側にずれた位置に配置されており、
前記スピンドルの回転をロックし、前記モータケースに対して移動可能なスピンドルロックレバーとを、有し、該スピンドルロックレバーの重心は、前記基準線に対して前側へずれた位置に配置され、
前記バッテリ取り付け台座部が、前記基準線に対して後ろ側にずれた位置に配置された携帯マルノコ。
請求項1記載の携帯マルノコであって、前記ブレードケースの左側に、前記中間軸を軸受けを介して支持するギヤケースが結合され、該ギヤケースの左側に前記電動モータのモータケースが結合された携帯マルノコ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の充電式切断工具については次のような問題があった。上記の特許文献に開示されているように、通常バッテリは工具本体に設けたハンドル部の後端部(使用者側)に装着する構成となっており、又このバッテリは複数本のバッテリセルをケースに収容した構成を備えるもので比較的大きな重量を占めるものであるので、交流電源式に比して切断工具全体の重心が後部側に変位して重量バランスが悪くなり、その結果当該切断工具を一定の姿勢に支える際の手の負担が大きくなる等してその取り扱い性若しくは操作性が低下する問題があった。
本発明は、充電式バッテリを工具本体の後部側に装着する構成であっても全体の重量バランスを従来よりも前側へ変位させることにより当該切断工具の取り扱い性若しくは操作性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は下記の発明によって解決される。
第1の発明は、切断材の上面に当接させるベースと、このベースの上面に支持された工具本体を備え、この工具本体は、電動モータと、この電動モータの回転出力をギヤの噛み合いにより減速する減速ギヤ部と、この減速ギヤ部のスピンドルに取り付けた円形の切断刃を備えた切断工具であって、減速ギヤ部は、電動モータの出力軸と、スピンドルとの間に中間軸を有する二段減速機構を備えており、この中間軸が、出力軸とスピンドルを通る基準線に対して切断進行方向前側(以下、単に前側とも言う。)に配置された切断工具である。
第1の発明によれば、減速ギヤ部の中間軸が基準線上若しくは基準線より後ろ側に配置された構成に比して当該減速ギヤ部ひいては当該切断工具の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
第2の発明は、第1の発明において、工具本体に、一方の手で把持するメインハンドルが設けられており、このメインハンドルの前部に他方の手で把持するフロントハンドルを備えており、このフロントハンドルが、基準線に対して前側に配置された切断工具である。
第2の発明によれば、メインハンドルの前部にフロントハンドルを設ける場合に、当該切断工具の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
第3の発明は、第1又は第2の発明において、切断部位を照らす照明装置を備えており、この照明装置の照明具が、基準線よりも前側に配置された切断工具である。
第3の発明によれば、工具本体に照明装置を設ける場合に、切断工具の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
第4の発明は、第1〜第3の何れか一つの発明において、電動モータの冷却風をベースの前部に設けたスミ線ガイドに向けて吹き出すブロワ装置を備えており、このブロワ装置の吹き出し口が、基準線の前側に配置された切断工具である。
第4の発明によれば、工具本体に、モータ冷却風を利用したブロワ装置を設ける場合に、切断工具の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
第5の発明は、第1〜第4の何れか一つの発明において、電動モータの出力軸をロックするためのロックレバーを備えており、このロックレバーの重心が基準線よりも前側に設定された切断工具である。
第5の発明によれば、工具本体に、電動モータの出力軸をロックするためのロックレバーを設ける場合に、切断工具の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
第6の発明は、第1〜第5の何れか一つの発明において、工具本体に、切断刃をスピンドルに対して取り付け、取り外しする際に用いるレンチを保持するためのレンチ保持部を備えており、このレンチ保持部が基準線よりも前側に配置された切断工具である。
第6の発明によれば、切断刃の取り付け、取り外し作業に用いるレンチを保持するためのレンチ保持部を工具本体に設ける場合に、切断工具の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態を
図1〜
図14に基づいて説明する。
図1に示すように本図では、切断工具1の一例としていわゆる携帯マルノコ(Circular Saw)と称される切断工具を例示する。この切断工具1は、切断材Wの上面に当接させるベース2と、このベース2の上面に支持した工具本体10を備えている。工具本体10は、図中白抜きの矢印で示す切断進行方向の前側において本体傾動支軸11を介して上下に傾動可能な状態でベース2の上面に支持されている。
図1において切断工具1の左側(後ろ側)に使用者が位置する。以下の説明において部材等の前後方向については、切断が進行する方向を前側、その反対側を後ろ側とする。また、左右方向については使用者を基準にして用いる。なお、切断進行方向に対して右側を正面側、左側を背面側とも言う。
図1〜
図4に示すように工具本体10は、電動モータ12により回転する円形の切断刃13を備えている。切断刃13の上側ほぼ半周の範囲の周囲はブレードケース14で覆われている。切断刃13の下側は、ベース2の下面側に突き出されている。この突き出し部分は、開閉可能な可動カバー15によって覆われている。この可動カバー15の前端部を切断材Wに当接させて当該切断工具1を切断進行方向に移動させることにより、この可動カバー15が
図1において時計回り方向に開かれて切断刃13が露出され、この露出部分が切断材Wに切り込まれて切断加工がなされる。
図2及び
図3に示すようにブレードケース14の背面側に、減速ギヤ部20を介して電動モータ12が取り付けられている。減速ギヤ部20と電動モータ12の結合部付近には、使用者が把持するハンドル部30が設けられている。このハンドル部30は減速ギヤ部20の上面から後面に跨るループ形を有している。このハンドル部30は、使用者が一方の手で把持する後ろ側の第1把持部31と、他方の手で把持する前側の第2把持部32と、第1把持部の後部を減速ギヤ部20の後面に支持するための結合部33と、第1把持部31の後部と結合部33の後部間に設けたバッテリ取り付け台座部34を有している。
図4に示すようにハンドル部の内周側には、使用者が第1把持部31を把持した手の指先(主として人差し指)で引き操作するためのトリガ形式のスイッチレバー35が設けられている。また、ハンドル部30の後部であって上記バッテリ取り付け台座部34には、電源としてのバッテリパック40が装着されている。このバッテリパック40は、バッテリケースに複数本のセルを内装したもので、バッテリ取り付け台座部34から取り外して別途用意した充電器で充電することにより繰り返し電源として利用することができる。本実施形態では、バッテリ取り付け台座部34に対して上下にスライドさせることによりバッテリパック40を取り付け、取り外しすることができる。
ハンドル部30の詳細については後述する。
【0008】
前記したように工具本体10は、その前部において本体傾動支軸11を介して上下に傾動可能に支持されている。工具本体10のベース2に対する上下傾動位置を変更することにより、切断刃13のベース下面側への突き出し寸法を変更することができ、これにより切断材Wに対する切り込み深さを調整することができる。
図2及び
図4に示すようにベース2の上面後部には、デプスガイドと称される案内部材3が取り付けられている。この案内部材3は、
図2に示すように平面的に見てブレードケース14とハンドル部30との間においてブレードケース14の背面側に沿って起立する状態に設けられている。この案内部材3は、本体傾動支軸11を中心とする円弧に沿った円弧形状に湾曲している。この案内部材3には、そのほぼ全長にわたる範囲で円弧形状の長い案内孔3aが形成されている。この案内孔3aには、固定ねじ4が挿通されている。この固定ねじ4は、ブレードケース14の背面に締め込まれている。
図2及び
図4に示すようにこの固定ねじ4はブレードケース14の背面から案内部材3の案内孔3aを経て左方(
図2において上方)へ長く延びている。使用者から見て左方へ長く延びる固定ねじ4の左端部には操作レバー5が取り付けられている。使用者がこの操作レバー5を指先で摘む等して回転操作することにより固定ねじ4を締め付け方向、緩め方向に回転操作することができる。操作レバー5の操作により固定ねじ4を緩めると、工具本体10をベース2に対して上下に傾動可能な状態となる。固定ねじ4を緩めた状態で工具本体10をベース2に対して上下に傾動させ、これにより切断刃13のベース2の下面側への突き出し寸法を変化させて切り込み深さを調整し、目的の切り込み深さに傾動させた状態で操作レバー5を締め込み方向に操作して固定ねじ4を締め込むと、工具本体10の上下傾動位置が固定されて切り込み深さが目的の寸法に固定される。係る切り込み深さ調整機能については従来公知の技術であり、本実施形態において特に変更を要しない。
【0009】
本実施形態に係る切り込み深さ調整機構では、操作レバー5に特徴を有している。本実施形態の操作レバー5が
図8に単独で示されている。この操作レバー5は、内周側に固定ねじ4の左端部が挿入される円環形状の基端部5aと、この基端部5aから放射方向に延びるレバー部5bを有している。円環形状の基端部5aの内周孔5cには、ノコギリ歯状のセレーションが形成されていることにより、当該操作レバー5が回転について固定ねじ4に一体化されている。
基端部5aの周面には、使用者の指先に対する摩擦部M1が設けられている。本実施形態では、基端部5aの周面に、断面台形で軸線方向に延びる突条5d〜5dを周方向に多数並列状態(縦縞模様)に設けて摩擦部M1としている。係る多数の突条5d〜5dの滑り止め作用が指先に対する摩擦部M1として機能する。使用者は、レバー部5bを指先で摘んで操作レバー5を回転操作することができる他、基端部5aの周面に指先を押し当てて回転方向に力を加えることにより当該操作レバー5を回転操作することができ、ひいては固定ねじ4を締め付け方向若しくは緩み方向に回転させることができる。このことから、本実施形態では、上記基端部5aが回転操作部材Sとして機能し、当該回転操作部材Sが操作レバー5に一体に設けられた構成となっている。なお、レバー部5bの先端にも滑り止め用の突条5e〜5eが設けられている。
係る操作レバー5に一体に設けた回転操作部材Sの摩擦部M1(突条5d〜5d)によれば、切り込み深さを調整する際の操作性を高めることができる。
図7では、締め位置に回動操作した操作レバー5が二点鎖線で示され、緩め位置に回動操作した操作レバー5が実線で示されている。操作レバー5を締め位置に回動操作すると固定ねじ4が締め込まれて工具本体10の傾動位置(切断刃13の切り込み深さ)が固定される。操作レバー5を緩め位置に回動操作すると固定ねじ4が緩められて工具本体10を上下に傾動可能な状態となる。
【0010】
操作レバー5を
図7中二点鎖線で示す締め位置から実線で示す緩め位置に回動操作する際には、操作レバー5のレバー部5bの先端を指先で摘んで回動操作することができる。操作レバー5を緩め位置に回動操作することにより工具本体10の上下傾動位置を変化させて切断刃13の切り込み深さを調整することができる。
使用者は一方の手H(例えば左手)でベース2を押え付け、他方の手(例えば右手)で工具本体10を上下に傾動させて切断刃13の切り込み深さが目的の寸法になった時点で、操作レバー5を
図7中二点鎖線で示す締め位置に回動操作することにより切断刃13の切り込み深さを固定することができる。この際に、使用者は一方の手Hでベース2を押え付け、他方の手で工具本体10の上下傾動位置を保持しているため、操作レバー5のレバー部5bの先端にまで指先が届かない場合がある。この場合であっても、
図7に示すように例えばベース2を押え付けている左手Hの人差し指Hfを延ばして操作レバー5のより近い基端部5aの周面(摩擦部M1)に押し当てて周方向に指先を移動させることにより操作レバー5を締め方向に回転させることができ、これにより操作レバー5のレバー部5bの先端を指先が届く手前側の位置まで移動させることができ、若しくは工具本体10の上下傾動位置を仮固定することができる。
このため、ベース2及び工具本体10の位置を保持しつつ摩擦部M1を指先で移動させて操作レバー5を手前に移動させた後、レバー部5bを摘んで締め位置に回転させて固定ねじ4を強固に締め付けることができ、若しくは上記仮固定後に、ベース2若しくは工具本体10から手を離した状態で操作レバー5のレバー部5bを下方へ押し下げるように回動操作して固定ねじ4を強固に締め付けることができる。
このように切断刃13の切り込み深さを調整する作業において、一方の手Hでベース2を押え付け、他方の手で工具本体10の上下傾動位置を保持した状態のままで操作レバー5を確実かつ楽に締め付け方向に回転させることができるので、一旦設定した目的の切り込み深さを位置ずれすることなく確実に固定することができる。
【0011】
本実施形態では、上記したように操作レバー5の基端部5aを回転操作部材Sとして機能させる構成を例示したが、操作レバー5とは別に円筒形状の回転操作部材S2を配置する構成としてよい。操作レバー5とは別体で用意した回転操作部材S2は、例えば平面的に見てブレードケース14とハンドル部30との間(
図2において案内部材3の上側)において固定ねじ4に取り付ける構成とすることができる。操作レバー5を省略して回転操作部材のみによって固定ねじ4を締め付け緩める構成としてもよい。
図9〜
図12では、操作レバー5とは別体で設けた回転操作部材Sが示されている。
また、回転操作部材Sは、例示したように断面が円形の円筒形状とする他、円錐台形状、断面長円形の筒体形状、断面楕円形の筒体形状、断面三角形(おむすび形)又は矩形又は多角形の筒体形状を有する部材、あるいは球体をなす部材の周面に摩擦部M1を設ける構成としてもよい。
さらに、摩擦部M1として断面台形の突条5d〜5dを縦縞模様に設ける構成を例示したが、回転操作部材Sの摩擦部としてはその他の形態に変更することができる。例えば、断面山形又はV字形又は半円形の突条若しくは溝部を、
図9に示すように格子模様に配置した摩擦部M2、
図10及び
図11に示すように波目模様に配置した摩擦部M3,M4としてもよく、あるいは
図12に示すように多数の凸部(ボツボツ)を周面に設けて摩擦部M5としてもよい。また、シボ模様、シャークスキン(鮫肌、ざらざら)を摩擦部としてもよく、周面にビニールを貼り付けて摩擦部としてもよい。さらに、ゴム若しくはシリコンを素材として回転操作部を成形することにより素材自体の特性を摩擦部としてもよい。このように、少なくとも指先に対して十分な摩擦抵抗を有する概ね円筒形状(円柱体形状)の回転操作部材を固定ねじ4に設けることにより、指1本での主として締め付け方向への回転操作を可能として、切り込み深さ調整時の便宜を図ることができる。
【0012】
次に、本実施形態に係る切断工具1は、ハンドル部30に特徴を有している。ハンドル部30の詳細が
図13に示されている。ハンドル部30は、後ろ側の第1把持部31と前側の第2把持部32が山形に連なったループ形を有している。第1把持部31の後部にはバッテリ取り付け台座部34が設けられている。このバッテリ取り付け台座部34を介して第1把持部31の後部には結合部33が設けられている。結合部33の前部は減速ギヤ部20の後面に結合されている。第2把持部32の前部は、減速ギヤ部20の前面側に結合されている。
このハンドル部30の主として上面は、把持する手の起伏(膨らみ)に合わせて僅かな膨らみ部若しくは凹み部が設けられて凸凹(でこぼこ)した形状を有している。ハンドル部30の山形の頂点となる第1把持部31と第2把持部32との結合部には、側面視で上向きに滑らかな凸形状の第3膨らみ部K3が設けられている。第1把持部31はこの第3膨らみ部K3から後方斜め下方に下る向きに延びている。この第1把持部31の後方斜め下向きのベース2に対する傾斜角度θは、切り込み深さを最大にした状態で約20°に設定されている。この第1把持部31のベース2に対する傾斜角度θは、20°〜30°の範囲で設定することが望ましい。この範囲で通常よりも大きく傾斜角度θを持たせることにより、多用する最も大きな切り込み深さで当該切断工具1を切断進行方向へ移動させる際に、使用者の押す操作力を最も効果的に第1把持部31に加えることができ、これにより当該切断工具1の操作性及び作業性を一層高めることができる。
第1把持部31において第3膨らみ部K3の後ろ側には側面視で下向きに滑らかな凸形状の第2凹み部K2が設けられている。第2凹み部K2の後ろ側には側面視で上向きに滑らかな凸形状の第1膨らみ部K1が設けられている。第2把持部32において、第3膨らみ部K3の前側には側面視で上向きに滑らかな凸形状の第4膨らみ部K4が設けられている。この第4膨らみ部K4の前側には側面視で下向きに滑らかな凸形状の第5凹み部K5が設けられている。第5凹み部K5の前側には側面視で上向きに滑らかな凸形状の第6膨らみ部K6が設けられている。第2把持部32にはフロントグリップ部36が前方へ突き出す状態に設けられている。このフロントグリップ部36の上面が第6膨らみ部K6とされ、その基部上面が第5凹み部K5とされている。当該ハンドル部30の前側から第6膨らみ部K6、第5凹み部K5、第4膨らみ部K4、第3膨らみ部K3、第2凹み部K2及び第1膨らみ部K1は、それぞれ相互に連続した滑らかな曲線で連なっている。
また、ハンドル部の前側から第6膨らみ部K6、第5凹み部K5、第4膨らみ部K4、第3膨らみ部K3、第2凹み部K2及び第1膨らみ部K1に至る当該ハンドル部30の上面は全てエラストマが被覆されてその滑り止めがなされるとともに、良好な把持感(手の平及び指先に対するフィット感)が持たされている。特に、本実施形態では、フロントグリップ部36の左右側部を除く全面にエラストマが被覆されている。
さらに、第1把持部31の下面側及び左右側面にもエラストマが被覆されている。また、バッテリ取り付け台座部34の上側半分の範囲についてもエラストマが被覆されている。このようにハンドル部30を片手若しくは両手で把持した場合に、使用者の手が当たるほぼ全ての範囲にエラストマが被覆されて、当該ハンドル部30の滑り止めがなされ、かつ良好な把持感が持たされている。
図13では、エラストマが被覆された範囲には斜線が付されている。
また、本実施形態では、ハンドル部30の上面、下面及び左右側面とバッテリ取り付け台座部34の上面及び左右側面を被覆するエラストマが第1把持部31の後部で繋がった構成となっており、これによりハンドル部30に対するエラストマ被覆工程における成形性が高められている。
【0013】
ハンドル部30は、使用者が片手で移動操作する場合と両手で移動操作する場合の双方について把持性能が高められている。例えば、右手で第1把持部31を把持し、左手で第2把持部を把持する場合に、右手についてはその親指と人差し指と間の付け根部分(股の部分)を第2凹み部K2に嵌り込ませ、手の平に第1膨らみ部K1を押し当てた状態に把持することができる。このように把持することにより、右手の親指と人差し指との間の股の部分の前側に上向きに凸形状の第3膨らみ部K3が位置するため、当該切断工具1を切断進行方向前側へ押す際に、右手の力を効率よくハンドル部30を経て当該切断工具1に加えることができ、これにより当該切断工具1の操作性を高めることができる。
また、側面視で下向きに凸形状の第2凹み部K2の斜め前方下方にスイッチレバー35が配置されている。これにより、スイッチレバー35の引き操作方向(後方斜め上方)の操作線上に第2凹み部K2が位置している。このため、例えば右手の親指と人差し指の間の股の部分を第2凹み部K2に嵌り込ませた状態に第1把持部31を把持すると、人差し指の屈伸方向がスイッチレバー35の移動方向に一致するため、人差し指をスイッチレバー35に引き掛けてその引き操作(オン操作)をし、逆に戻し操作(オフ操作)をする際に人差し指をひねる等して無理な力を加えることなく楽に屈伸させてスイッチレバー35を操作することができ、これにより人差し指の負担が軽減されて当該スイッチレバー35の操作性が高められている。
さらに、第2凹み部K2とスイッチレバー35との間であって、当該スイッチレバー35の操作方向線上に楕円形の窪みである指当て部37が設けられている。この指当て部37は、第1把持部31の下面側に被覆されたエラストマ(エラストマ被覆領域)に設けられている。第1把持部31を把持した手の親指をこの指当て部37に押し当てることによりその滑り止めがより確実になされ、これにより当該第1把持部31ひいてはハンドル部30の把持性能を高めることができる。この指当て部37は、第1把持部31の左右両側部に設けられている。
図13において見えている右側の指当て部37は、第1把持部31を左手で把持した場合にその親指が押し当てられる。
また、上記したように第3膨らみ部K3と第5凹み部K5との間であって、第3膨らみ部K3よりも第5膨らみ部K5に近い部位に第4膨らみ部K4が設けられている。第2把持部32のフロントグリップ部36を例えば左手で把持してその親指の付け根付近を第5凹み部K5に嵌り込ませると、この第4膨らみ部K4によってハンドル部30に対して切断進行方向後ろ向きの力を加えやすくなる。
【0014】
次に、本実施形態に係る切断工具1は、電動モータ12の回転出力を二段階で減速してスピンドル29に出力する減速ギヤ部20について特徴を有している。
図5及び
図6に減速ギヤ部20の詳細が示されている。減速ギヤ部20のギヤケース21はブレードケース14の背面側に一体に設けられている。ギヤケース21の背面側に電動モータ12のモータケース12bが結合されている。このギヤケース21内に電動モータ12の出力軸12aが進入している。出力軸12aに設けた駆動ギヤ部は、中間駆動ギヤ22に噛み合わされている。中間駆動ギヤ22は、中間軸23上に固定されている。中間軸23は、電動モータ12の出力軸12aとスピンドル29との間においてギヤケース21に軸受け23a,23bを介して回転自在に支持されている。この中間軸23上には、上記の中間駆動ギヤ22と中間従動ギヤ24が固定されている。中間従動ギヤ24は、スピンドル29に固定した出力ギヤ26に噛み合わされている。電動モータ12の回転出力は、駆動ギヤ部と中間駆動ギヤ22と噛み合いと中間従動ギヤ24と出力ギヤ26との噛み合いの二段階で減速されてスピンドル29に出力される。スピンドル29は、軸受け25,27を介してギヤケース21に回転自在に支持されている。スピンドル29の先端側(
図5において左端側)は、ブレードケース14内に突き出されており、この突き出し部分に円形の切断刃13が取り付けられている。
電動モータ12の出力軸12aと中間軸23とスピンドル29は同一面上にはなく、中間軸23は、出力軸12aの軸心C1とスピンドル29の軸心C3を結ぶ基準線Jに対して前側へずれた位置に配置されている。この位置関係が
図1及び
図14に示されている。図示するように中間軸23の軸心C2が、出力軸12aの軸心C1とスピンドル29の軸心C3を結ぶ基準線Jに対して切断進行方向前側へ寸法Dだけ変位して配置されている。このため、中間軸23を仮に基準線J上に配置した構成に比して当該減速ギヤ部20が高さ方向にコンパクトに構成されている。また、中間軸23を介して二段に減速される構成であることから、一段減速に比して出力ギヤ26のギヤ径を小さくすることができ、これによりベース2に対して工具本体1をより接近させて大きな切り込み深さを設定することができる。
しかも、中間軸23、駆動側中間ギヤ22及び従動側中間ギヤ24が基準線Jに対して前側に変位していることから、後ろ側に変位させる構成に比して減速ギヤ部20ひいては当該切断工具1の重心を前側に変位させることができる。このため、ハンドル部30の後部に比較的大きな重量を有するバッテリパック40を装着する構成において当該切断工具1の重心を極力前側へ変位させてその重量バランスをとることができ、これによりその操作性若しくは作業性を高めることができる。
【0015】
本実施形態では、二段減速による中間軸23等の他、フロントグリップ部36、照明装置41、ブロワ吹き出し口42、スピンドルロックレバー43及びレンチ保持部44等についても、バッテリパック40との重量バランスを考慮してそれぞれ基準線Jよりも前側に配置されている。
図1に示すように第2把持部32のフロントグリップ部36は、基準線Jよりも前側に配置されている。また、ブレードケース14の背面側には、主として切断部位(切断刃13の切断材Wに対する切り込み部)を明るく照らすための照明措置41が設けられている。この照明装置41を構成する光源としてのLEDやこれを搭載した基板等が基準線Jよりも前側に配置されている。
ブレードケース14の背面側には、電動モータ12の冷却風をベース2の全面に設けたスミ線合わせ用のガイド2aに向けて吹き出すためのブロワ装置が設けられており、その吹き出し口42が基準線Jよりも前側に配置されている。なお、
図5及び
図6に示すように電動モータ12の出力軸12aには冷却風のファン12cが取り付けられている。この冷却ファン12cが出力軸12aと一体で回転することにより、モータケース12bの後部から外気が導入されて当該電動モータ12の冷却がなされる。モータケース12b内に導入されて冷却風がブロワ装置の吹き出し口42からスミ線ガイド2aに向けて吹き出される。吹き出し口42から吹き出された風によってスミ線ガイド2a付近の切断粉が吹き飛ばされてその視認性が確保される。
図4に示すように電動モータ12の前部には、スピンドルロックレバー43が配置されている。このスピンドルロックレバー43をモータケース12bに対して押し込み方向に移動操作すると、電動モータ12の出力軸12aに形成した二面幅部にこのスピンドルロックレバー43が係合されてその回転がロックされ、これによりスピンドル29の回転がロックされて切断刃13の交換時における便宜が図られる。このスピンドルロックレバー43も基準線Jに対して前側に配置されている。
図3及び
図4に示すように電動モータ12の前部には、レンチ保持部44が一体に設けられている。このレンチ保持部44に例えば六角レンチ45を差し込んで保持しておくことができる。この六角レンチ45は、例えば切断刃13の交換作業において切断刃13をスピンドル29に対して固定するための固定ねじの締め付け、緩め作業に用いられる。電動モータ12の前部に沿って六角レンチ45を保持しておくことができるので、切断刃の交換作業にあたって必要な六角レンチをわざわざ探す手間を掛ける必要がなく、これによりこの種の交換作業を迅速に行うことができる。電動モータ12の前部であって基準線Jよりも前側に六角レンチ45が保持されることにより、バッテリパック40に対する重量バランスをとることができる。
このように、本実施形態における充電式の切断工具1において、比較的大きな重量を有するバッテリパック40との重量バランスをとるために減速ギヤ部20の重心が前側へ変位される他、様々な部材について基準線Jよりも前側へ変位させる工夫がなされている。バッテリパック40に対する重量バランスをとることにより、切断作業時において当該切断工具1を支えるための使用者の手の疲労を低減することができる等その取り扱い性及び操作性を良くすることができる。
【0016】
以上のように構成した本実施形態の切断工具1によれば、減速ギヤ部20は、電動モータ12の出力軸12aと、スピンドル29との間に中間軸23を有する二段減速機構を備えており、この中間軸23が、出力軸12aとスピンドル29を通る基準線Jに対して切断進行方向前側に変位した位置に配置された構成となっている。このため、中間軸を基準線J上若しくは基準線Jより後ろ側に配置した構成に比して当該減速ギヤ部20ひいては当該切断工具1の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
また、本実施形態の切断工具1によれば、工具本体10に、一方の手で把持するメインハンドルとしての第1把持部31が設けられており、この第1把持部31の前部に他方の手で把持するフロントハンドルとしてのフロントグリップ部36を備えており、このフロントグリップ部36が、基準線Jに対して前側に配置されていることから、切断工具1の重心を前側へ変位させて一層その重量バランスをとりやすくなる。
さらに、本実施形態の切断工具1は、切断部位を照らす照明装置41を備えており、この照明装置41の照明具が、基準線Jよりも前側に配置されており、この点でも切断工具1の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなっている。
また、電動モータ12の冷却風をベース2の前部に設けたスミ線ガイド2aに向けて吹き出すブロワ装置を備えており、このブロワ装置の吹き出し口42が、基準線Jの前側に配置されていることからこの点でも切断工具1の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなっている。
また、本実施形態の切断工具1は、切断刃13の交換作業の便宜を図るために電動モータ12の出力軸12aをロックするためのスピンドルロックレバー42を備えており、このスピンドルロックレバー43の重心が基準線Jよりも前側に設定されていることから、この点でも切断工具1の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
さらに、本実施形態の切断工具1の工具本体10に、切断刃13をスピンドル29に対して取り付け、取り外しする際に用いる六角レンチ45を保持するためのレンチ保持部44を備えており、このレンチ保持部44が基準線Jよりも前側に配置されている。このため、レンチ保持部44に六角レンチ45を保持した場合に、切断工具1の重心を前側へ変位させてその重量バランスをとりやすくなる。
以上のように、中間軸23及びこれに取り付けられる中間駆動ギヤ22と中間従動ギヤ24、フロントグリップ部36、照明装置41の照明具、ブロワ装置のブロワ吹き出し口42、スピンドルロックレバー42及びレンチ保持部44等の各部材若しくは機構を基準線Jに対して前側へ配置し、これにより切断工具1の重心を極力前側に位置させる構成となっている。このため、ハンドル部30の後部に比較的重量の大きなバッテリパックを装着する本実施形態に係る充電式切断工具についてその重量バランスを適切な部位(例えば基準線J上)に設定してその取り扱い性若しくは操作性が高められている。
以上説明した実施形態には種々変更を加えることができる。例えば、減速ギヤ部20について重量バランス対策を行うことにより、当該切断工具1の重心を適切な部位に設定できる場合には、フロントグリップ部36、照明装置41の照明具、ブロワ装置のブロワ吹き出し口42、スピンドルロックレバー42あるいはレンチ保持部44等のその他の部材若しくは機構についての重量バランス対策を省略することができる。
また、基準線Jに対して中間軸23等を前側へ配置する等の例示した各重量バランス対策を、充電式切断工具ではなく、バッテリパック40を備えない交流電源式の切断工具に用いることもできる。