(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高圧の冷媒が導入される入口ポートと、入口ポートに連通する弁室と、弁室に開口する弁孔と、弁孔の入口に形成される弁座と、弁孔を通過した冷媒が送り出される出口ポートを有する弁本体と、弁座に対向して配設される弁部材と、弁部材を操作する弁棒を駆動する作動ガスを封入した圧力作動室を有するパワーエレメントとを備える膨張弁であって、
前記パワーエレメントは、圧力作動室が形成される上蓋部材と、受け部材と、前記上蓋部材と前記受け部材の間に挟み込まれるダイアフラムとを備え、
前記上蓋部材と前記ダイアフラムと前記受け部材の外周部は、レーザー溶接により形成される溶融部で接合されるとともに、前記上蓋部材と前記受け部材で挟み込まれる前記ダイアフラムの支点位置は、前記溶融部の最も深い溶け込み位置から0.2mm〜1.0mm離れた位置である膨張弁。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等に用いる冷凍サイクルについては、設置スペースや配線を省略するために、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温機構内蔵型の温度膨張弁が使用される。
特許文献1は、本出願人に係るこの種の膨張弁を示す。
膨張弁の弁本体は、高圧の冷媒が導入される入口ポートと、入口ポートに連通する弁室を有する。弁室内に配設される球状の弁部材は、弁室に開口する弁孔の弁座に対向し、パワーエレメントにより駆動される弁棒により操作されて、弁座との間の絞り通路の開度を制御する。
弁孔を通った冷媒は、出口ポートから蒸発器側へ送られる。蒸発器から圧縮機側へ戻る冷媒は、弁本体に設けられた戻り通路を通過する。
弁本体の頂部には、パワーエレメントと称する弁部材の駆動機構が装備される。
パワーエレメントは、圧力作動室を形成する上蓋部材と圧力を受けて弾性変形する薄板のダイアフラムと円盤状の受け部材で構成され、3つの部材を重ね合わせて円周部をTIG溶接手段などにより接合して形成される。
上蓋部材とダイアフラムで形成される圧力作動室には作動ガスが封入される。圧力作動室に作動ガスを封入するために、上蓋部材の頂部に穴を設け、この穴から作動ガスを封入した後に鋼球等で穴を塞ぎプロジェクション溶接手段などによって圧力作動室を封止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような感温機構内蔵型の温度膨張弁は、外形寸法を小さくすることができるという利点があるが、その周囲に多数の部品が密接状態で配置されるため、さらなる小型化が求められている。また、小型化することで製造コストを低減することができるという利点もある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パワーエレメントを小径化することにより、小型化を図った膨張弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の膨張弁は、高圧の冷媒が導入される入口ポートと、入口ポートに連通する弁室と、弁室に開口する弁孔と、弁孔の入口に形成される弁座と、弁孔を通過した冷媒が送り出される出口ポートを有する弁本体と、弁座に対向して配設される弁部材と、弁部材を操作する弁棒を駆動する作動ガスを封入した圧力作動室を有するパワーエレメントとを備える膨張弁であって、
前記パワーエレメントは、圧力作動室が形成される上蓋部材と、受け部材と、
前記上蓋部材と
前記受け部材の間に挟み込まれるダイアフラムとを備え、
前記上蓋部材と
前記ダイアフラムと
前記受け部材の外周部は、レーザー溶接により形成される溶融部で接合されるとともに、
前記上蓋部材と
前記受け部材で挟み込まれる
前記ダイアフラムの支点位
置は、
前記溶融部の
最も深い溶け込み位置から0.2mm〜1.0mm
離れた位置に設定される。
また、
前記弁本体はパワーエレメントが挿入される円筒部を有し、
前記円筒部の上部をカシメ加工することにより
前記パワーエレメントが固定されるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の膨張弁は以上の手段を備えることにより、パワーエレメントを小径化して小型化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の膨張弁の断面図(a)と右側面図(b)を示す。
本発明の膨張弁の弁本体10は、アルミ合金を押出し成形してつくられた素材に機械加工を施して生産されるもので、高圧の冷媒が導入される入口ポート20を有する。
入口ポート20の奥壁には小径穴22が設けられ、弁本体10の長手方向に中心軸を有する弁室24に連通している。弁室24は同軸状に形成される弁孔26を介して冷媒の出口ポート28に連通している。
【0009】
弁室24と弁孔26との間には弁座25が形成され、弁室24内に配設される球状の弁部材40が弁座25に対向する。
弁部材40は支持部材42により支持され、支持部材42は、コイルスプリング44を介して弁室24の開口部を封鎖するプラグ50で支持される。プラグ50はねじ部52により弁本体10の弁室24の開口部に螺合される。プラグ50は有底の六角穴53にレンチを差し込んで回動させることができるので、プラグ50のねじ込み量を調整することにより、弁部材40を支持するコイルスプリング44のばね力を調整することができる。
プラグ50の外周部にはシール部材54が設けられ、これによって弁室24がシールされている。
【0010】
出口ポート28から送り出された冷媒は蒸発器へ送られ、外気と熱交換して蒸発する。蒸発器から圧縮機側へ戻る冷媒は、弁本体10に設けられた戻り通路30を通過する。
弁本体10の頂部にはパワーエレメント100が弁本体10の上部に形成された円筒部12の上部をカシメ加工することにより形成されるカシメ部12aにより取付けられる。パワーエレメント100と弁本体10の間にはシール部材64が配設される。
【0011】
パワーエレメント100は、後述する態様で製造されるものであって、上蓋部材110と、リング状の受け部材120と、上蓋部材110と受け部材120の間に挟み込まれるダイアフラム130とにより構成される。
上蓋部材110とダイアフラム130で構成される圧力作動室112内には作動ガスが封入され、栓114で封止されている。ダイアフラム130の下面にはストッパ部材62が配設され、ストッパ部材62の移動は弁棒60を介して弁部材40に伝達される。弁棒60の外周部にはばね部材66が配設され、弁棒60に摺動抵抗を付加することで、弁部材40の振動を防止する。
弁本体10には、弁本体10を貫通する2本の貫通穴70が設けられ、弁本体10を他の部材に取付けるボルトの挿入穴として利用される。また、弁本体10の中心部には1本の有底のねじ穴80も形成される。
【0012】
図2は、パワーエレメント100の断面図である。
パワーエレメント100は、上蓋部材110とダイアフラム130と受け部材120を重ね合わせ、外周部に対して溶接手段により溶接部Wを形成してユニット化する。上蓋部材110は中央部が凸部に形成されており、その頂部に穴116が設けてある。この穴116からダイアフラム130との間で画成される圧力作動室112内に作動ガスを注入して、穴116を栓114で塞いで溶接等により封止する。
膨張弁の小型化を図るためには、パワーエレメント100の外径寸法Dも小さくすることが必要となる。
【0013】
図3の(a)は、溶接部W
1をTIG溶接により形成する場合を示す。TIG溶接により形成される溶接部W
1の溶融部の長さ寸法L
1により上蓋部材110、ダイアフラム130、受け部材120の重ね合わせ部分に熱影響範囲H
1が発生する。TIG溶接は溶融部W
1を形成する際に投入される熱量が多いので、熱影響範囲H
1も大きくなる。この範囲ではダイアフラム130も焼き鈍し受け、ダイアフラムとしての特性が低下する。
パワーエレメント100が所定の性能を発揮するためには、ダイアフラム支点P
1の内側の有効径D
5を確保する必要がある。
図3の(a)で示すTIG溶接により溶接部W
1を形成する構成にあっては、このダイアフラム130の有効径D
5を確保するために、パワーエレメント100の外径寸法D
1は大きくする必要がある。
【0014】
図3の(b)は、レーザー溶接による溶融部W
2の場合を示す。レーザー溶融では、溶融部W
2は、上蓋部材110及び受け部材120の端面の内側に長さ寸法L
2として形成される。
また、溶融部W
2を形成するのに必要な熱量も少なくて済む。そこで、熱影響範囲H
2も小さくなる。
このレーザー溶融の特性を利用すると、ダイアフラム130の有効径D
5を確保しつつ、パワーエレメント100の外径寸法D
2を小さくすることができる。
【0015】
図4は、パワーエレメント100の外周部をTIG溶接した場合とレーザー溶接した場合のダイアフラム130に対して熱影響を与える範囲を示す説明図である。
TIG溶接にあっては、溶融部Wの溶け込みによる長さ寸法から約1.0mmの範囲までダイアフラム130に焼き鈍しの影響を与えるが、レーザー溶接では、1.0mm以下で済み、0.2mm程度まで小さくすることが可能なことが実験により確認された。
【0016】
上述したレーザー溶接による特性を利用して、
図3の(b)で示すように、ダイアフラム130の支点位置P
1からパワーエレメント100の外周までの距離寸法S
1はレーザー溶融により形成される溶融部W
2の長さ寸法L
2に0.2mm〜1.0mmを加えた距離に設定した。なお、この距離S
1はパワーエレメント100の外径寸法D
2とダイアフラム130の有効径寸法D
5の差の半分となる。なお、熱影響を回避しつつパワーエレメント100の外径寸法をできるだけ小さくするために、L
2に加える距離は0.5±0.2mm程度とするのが好ましい。
以上のように、本発明にあっては、ダイアフラム130の有効径寸法を確保しつつパワーエレメント100の外径寸法を小さくすることができる。
【0017】
図5の(a)は、トーチT
1によりTIG溶接により溶融部W
1を形成する場合を示す。
図3の(a)で説明したように、ダイアフラム130の有効径D
5を確保するために必要なパワーエレメント100の外径寸法D
1は大きくなる。
【0018】
図5の(b)はレーザートーチT
2から照射されるレーザービームB
1により溶融部W
2を形成する場合を示す。
図3の(b)で説明したように、ダイアフラム130の有効径D
5を確保するために必要なパワーエレメント100の外径寸法D
2は小さくすることができる。
【0019】
このパワーエレメント100を弁本体10の上部に形成された円筒部12内に挿入し、カシメ部12aにより固定することにより、小型の膨張弁を得ることができる。
このようなカシメ構造の膨張弁の場合、膨張弁上部の外径が、パワーエレメント100の外径にカシメ部12aの厚みの2倍を加えた寸法となる。従来のTIG溶接によるパワーエレメントの場合、外径寸法が大きいため、かかるカシメ構造を採用しづらいという問題があるが、本発明によれば、パワーエレメント100を小径にすることができるため、カシメ構造を採用しやすくなる。これにより、パワーエレメント100を弁本体10に螺着するためのネジ加工が不要となるため、製造コストの低減を図ることができる。
【0020】
また、本実施例では、弁棒60がストッパ部材62を介してダイアフラム130に接しており、受け部材120がリング状であるとともにその内周部とストッパ部材62の外周部との間に隙間が形成されており、ストッパ部材62は弁本体10に接することで開弁方向への移動が制限されるようになっている。
従来の膨張弁では、
図6に示すように、ストッパ部材62が受け部材120に接することによって開弁方向への移動が制限されるようになっており、これに比べて、本実施例では、膨張弁の高さ方向の寸法を短縮することができる。
また、ストッパ部材62と弁本体10の間に受け部材120が介在しないことで、ストッパ部材62の上下方向の位置が受け部材120の厚みの影響を受けなくなるので、ダイアフラム130の位置が安定し、個々の性能のバラツキが少なくなる。
【0021】
なお、本発明は、
図6に示すような、受け部材120に形成されたねじ部120aと弁本体10に形成されたねじ部10aによりパワーエレメント100を弁本体10に螺着する構造の膨張弁にも適用可能である。
【0022】
その他にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施例に種々の改変を施すことができる。