【実施例1】
【0014】
図1は、太陽光発電アレイ1の構成図である。太陽電池アレイ1は、太陽電池モジュール2を複数枚直列に並べた太陽電池ストリング3と呼ばれる単位が並列に並べられることによって構成される。各太陽電池モジュール2には、逆バイアスが掛かった時に逆方向電流が流れるのを防止するためのバイパスダイオード4が取り付けられており、各ストリング単位でも、逆方向に電流が流れ込むのを防止するための逆流防止ダイオード5が取り付けられている。スイッチ6を選択することにより、各ストリングの電流経路を選択することも可能である。なお、同一符号は同一構成要素を示す。
【0015】
図2は、太陽光発電システムの機能構成を示すブロック図である。複数の太陽電池ストリング3は、接続箱7の中で、逆流防止ダイオード5とスイッチ6を介して並列接続される。この並列接続によって構成された太陽電池アレイは、集電ラック8にて、スイッチ9を介して、さらに並列接続される。これら複数の太陽電池アレイが並列接続された大規模な単位の両端電極に、パワーコンディショナ10が接続される。パワーコンディショナ10は、複数並列接続された太陽電池アレイから最大電力が取り出せるように直流電力を制御する制御部10aと、制御によって生成された直流電力を交流信号に変換し出力する直流交流変換部10bによって構成される。
【0016】
図3は、パワーコンディショナの直流電力を制御する制御部10aについてのブロック図である。太陽電池アレイから最大電力が取り出せるように直流電力を制御することをMPPT制御(Maximum Power Point Tracking)と呼ぶ。このMPPT制御は、制御部10aにおける電流計20と電圧計21において、計測した直流電力を用いて、DC/DCコンバータ回路を制御することによって達成されるものである。一般に、大規模太陽光発電システムにおいては、MPPT制御中に計測される直流電圧、直流電流と、発電サイトに設置された日射計22によって計測される日射量が、監視モニター10cに送信される。つまり、直流電圧、直流電流に関しては、パワーコンディショナ単位での発電量を監視している。
【0017】
太陽電池モジュール2の故障に関しては、
図4(a)(b)(c)に示すようなメカニズムで進行する。太陽電池モジュール2は、太陽電池セル11が複数個、直列に接続されていることで構成される。セル間の接続ははんだ付けで行われている。このはんだが剥がれてくると、配線の抵抗成分13が大きくなる。この時、
図4(a)の正常状態からホットスポット12bを持った
図4(b)の状態に移行する。ホットスポットとは、はんだ剥がれを起こしているセルが周囲に比べて高温になる現象のことであり、サーモカメラ等を用いた故障診断が一般的な手法として用いられている。
【0018】
さらに、ハンダが剥がれてくると、配線抵抗の値もさらに大きくなり、ホットスポット12bを有する太陽電池モジュール2の電流駆動能力が著しく低下する。この時、バイパスダイオード4が動作する。この状態が、
図4(c)である。この現象は、バイパスダイオード4が搭載されているジャンクションボックスの発熱を観測することによって診断されるのが一般的である。なお、符号12cは断線セルを示す。また、14aは正常なストリングを流れる電流、14bはホットスポットを含むストリングを流れる電流、14cは断線セルを含むストリングを流れる電流を示す。
【0019】
ここで、故障(はんだ剥がれと断線)の主要因である配線抵抗と損失の関係を定量化する。配線抵抗をRsとし、損失をPlossとすると、Plossは、式(1)に示すように、ある損失値P0とRsに対する変化(∂Ploss/∂Rs)によって表すことができる。
Ploss = P0 + (∂Ploss/∂Rs)・ΔRs …(1)
図4に示すように、故障したモジュールの配線抵抗Rsが大きくなると、ある時点から電流はバイパスダイオード4を経由して流れる。
図5に、この時の太陽電池特性の変化を示す。太陽電池の電流−電圧特性は、配線抵抗Rsが大きくなるにつれて、特性15aから15bに変化し、n個のモジュールが直列接続された太陽電池ストリングのうち、m個のモジュールが断線したとすると、
図5に示すように、正常に対して、電流Ipmaxを保ちながら、m/nの割合ほど電圧シフトした特性15cのようになる。この時、損失はm/nであるため、これをP0として設定する。
【0020】
セル数がNcellで構成される太陽電池モジュールの式は、I :出力電流 [A] Is :逆方向飽和電流[A] V :出力電圧 [V] Isc :短絡電流 [A] T :太陽電池素子絶対温度[K] k :ボルツマン定数[J/K] Rs :配線抵抗[Ω] q :電子の電荷量[C] Rsh :並列抵抗[Ω] nf:接合定数 p:日射強度[kW/m
2] のパラメータを用いて、式(2)で表すことができる。
I = Isc ・p − Is・{exp(q・(V/(Ncell) + Rs・I) / (nf・k・T))}
− (V/(Ncell)+Rs・I) / Rsh …(2)
日射強度Ea(1 kW/m
2)、常温(Ta = 298K)におけるIa :出力電流 [A] Va :出力電圧 [V] Isca :短絡電流 [A] とRs:配線抵抗[Ω] 、短絡電流の温度係数α[A/℃]、開放電圧の温度係数β[V/℃]、曲線補正因子Kを用いて、日射強度Eb、温度TbにおけるIb:出力電流 [A] とVb:出力電圧 [V]は、式(3)、式(4)を用いて算出することができる。
Ib = Ia + Isca・(Eb/Ea − 1) + α・(Tb − Ta) …(3)
Vb = Va + β・(Tb − Ta) − Rs・(Ib − Ia) − K・Ib・(Tb − Ta) …(4)
n個のモジュールが直列接続された太陽電池ストリングの正常時でのVpmaxは、正常時のRsが十分小さく、かつ漏れ抵抗Rshが十分に大きく無視できるとすると、式(2)を変形して、式(5)と表すことができる。したがって、Pmax は、VpmaxにIpmaxを掛けた式(5)として表すことができる。
Vpmax = n・{Ncell・(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − Ipmax)/Is)} …(5)
Pmax = n・{Ncell・(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − Ipmax)/Is)}・Ipmax …(6)
一方、n個中、m個のモジュールが断線した太陽電池ストリングの電流Iが流れた時の電圧と電力に関しては、Rs増加による影響が現れるので、式(7)と式(8)として表すことができる。
V = (n−m)・{Ncell・(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − I)/Is)}
− m・Ncell ・Rs・I …(7)
P = (n−m)・{Ncell・(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − I)/Is)}・I − m・Ncell
・Rs・I
2 …(8)
したがって、Plossは、式(9)となり、Rsに対する変化(∂Ploss/∂Rs)は、式(10)として表すことができる。
【0021】
Ploss = P/Pmax
= {(n−m)・{Ncell・(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − I)/Is)}・I − m・Ncell
・Rs・I
2} / {n・{Ncell・(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − Ipmax)/Is)}・Ipmax}
…(9)
(∂Ploss)/∂Rs
= (− m・I
2) / {n・{(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − Ipmax)/Is)}・Ipmax}
…(10)
ここで、式(11)のようにRthを定義して、式(10)に代入すると、式(12)のように表すことができる。
Rth = {(nf・k・T)/q・ln((Isc・p − Ipmax)/Is)}/ Ipmax …(11)
(∂Ploss)/∂Rs = (− (m/n))・(I/ Ipmax)
2・(1/Rth) …(12)
1つ余分に断線した状態を基準とするため、式(1)において、P0=(m+1)/nとし、 さらに、ΔRs=(Rth−Rs)とすると、Plossは、式(13)のように表すことができる。
Ploss = ((m+1)/n) − (m/n)・(I/ Ipmax)
2・(1 − Rs/Rth) …(13)
式(13)において、Rs=Rthとなった時に、P0=(m+1)/nとなる。つまり、RthとはバイパスダイオードがONし始める配線抵抗の閾値であり、バイパスダイオードが動作を開始する地点での損失を基準としたRsについての変化分を算出するによって、直列接続されたパネルの損失を容易に定量化することが可能となる。
【0022】
以上より、式(11)と式(13)を用いることによって、損失に応じたRsを量子化することが可能になる。
【0023】
ここで、
図6に太陽電池アレイ1の計算方法を示す。このアレイの計算をアレイ演算と呼ぶこととする。アレイ演算は、ストリング解析とアレイ解析の組み合わせによって実現される。ストリング解析を行うときは、複数のモジュールに流れる電流は共通であるので、
図6(a)に示すように、ある電流 I が流れている場合における各太陽電池のモジュール電圧 :V[1]、V[2]、V[3]、・・・ V[N−1]、V[N]を式(2)から求め、その和 Vstring を求める。式(2)から電圧を計算する場合、逆関数となるが、ニュートン法などの繰り返し演算を適用することで簡単に求めることが可能である。モジュールに、はんだ剥がれや断線が掛かると、正常時のモジュール電圧に比べて、電圧が下がり、断線の場合には、バイパスダイオードが機能するため、モジュール電圧≒0として考える。アレイ解析を行うときは、複数のストリングに掛かる電圧は共通であるので、
図6(b)に示すように、ある電圧 V が掛かっている場合における各ストリングから取り出される電流: I[1]、I[2]・・・I[N]を式(2)から求め、その和:Iarray を求めればよい。アレイ演算は、ストリング解析とアレイ解析の組み合わせにより太陽電池アレイの電流−電圧特性を求める演算である。
【0024】
診断のために得られる情報は、
図7に示すように、太陽電池アレイ1を制御するパワーコンディショナ10内の制御部10aに搭載された電圧計21と電流計20から得られる最大動作電圧:Vpmax_bと最大動作電流: Ipmax_bのログデータと発電サイト内に設置された日射計22から得られる日射強度: pbのログデータ、太陽電池アレイの温度センサ16から得られる動作温度:Tbのログデータである。これらのデータは、監視モニター10cに送信される。
【0025】
日射計22で計測される日射強度: pbは、式(2)の p:日射強度[kW/m
2] に代入すればよい。
【0026】
温度センサ16で計測される動作温度:Tbに関しては、式(2)の中で、動作温度そのものを示す T :太陽電池素子絶対温度[K] にTbを代入し、温度に対して変化が大きい Isc:短絡電流 [A]、 Is :逆方向飽和電流[A] についての計算を行う。
【0027】
動作温度:Tb における Isc:短絡電流 [A] は、式(3)の変形である式(14)を用いて求めることが可能である。
Isc = Isca + α・(Tb − Ta) …(14)
ここで、Isca は、常温(Ta = 298K)における短絡電流 [A] であり、α[A/℃]は、短絡電流の温度係数である。
【0028】
動作温度:Tb におけるIs :逆方向飽和電流[A]は、開放電圧Voc と開放電圧の温度係数β[V/℃]を介して算出する。まず、常温 Ta における逆方向飽和電流[A]をIsaとして、常温 Ta における開放電圧Voc_a を式(2)から求めると、式(15)のようになる。
Voc_a = n・{Ncell・(nf・k・Ta)/q・ln((Isca・p) /Isa)} …(15)
同様に、アレイの動作温度Tb における開放電圧は、式(16)と式(17)で表される。
Voc = Voc_a + β・(Tb − Ta) …(16)
Voc = n・{Ncell・(nf・k・Tb)/q・ln((Isc・p) /Is)} …(17)
式(15)と(17)を解くことで、常温時の各パラメータ値と計測された動作温度 Tb から、Tbにおける逆方向飽和電流 Is を算出することが可能である。
【0029】
これら、動作温度 Tb におけるIsc:短絡電流 [A]、Is :逆方向飽和電流[A]の値を用いて、アレイ演算を行うことによって、太陽電池アレイの暴露状態(日射量:pb、動作温度:Tb)におけるIpmaxとVpmaxが算出される。さらに、Ipmax は、式(11)で定義したRth の算出にも用いられる。一旦、Rth が算出されれば、式(13)を用いて、故障に応じたRsの量子化が可能となる。
【0030】
以上で述べたアレイ演算、式(2)を構成するパラメータの演算、Rsの量子化、そして、計測した最大動作電圧:Vpmax_bと最大動作電流: Ipmax_bを活用することで、太陽電池アレイ内に存在するモジュール故障数を求めることができる。太陽光発電システムの故障診断方法の手順を示す演算フローを
図8(a)、
図8(b)に示す。
【0031】
太陽電池アレイ内におけるモジュールの故障数の算出は、まず、断線が発生したモジュール数を求め、次に、はんだ剥がれが発生したモジュール数を求めるという順で行っていく。
【0032】
第1段階として、
図8(a)のフローを用いて、断線が発生したモジュール数の求め方を説明する。まず、計測データの日射量:pbと動作温度:Tbを取り込み、暴露条件におけるパラメータを演算する(S801)。次に、アレイ演算を行い、故障がない条件における最大動作電圧Vpmaxを算出する(S802)。ここで、算出したVpmaxから計測した最大動作電圧Vpmax_bを差し引いた値をΔVとする(S803)。次にこのΔVと0とを比較し(S804)、算出値Vpmaxの方が大きければ(ΔV>0)、断線したモジュール数を示すxをインクリメント(S805)、Vpmaxと同じであれば(ΔV=0)、xはそのまま(S806)、Vpmaxの方が小さければ(ΔV<0)、xをデクリメントし(S807)、再度、アレイ演算を行う。アレイ演算において、どのモジュールを断線させるかについては、モンテカルロ法等を用いて無作為に選択する。以上の動作をCountでモニターし(S808)、太陽電池アレイを構成するモジュール数までCountがアップするまで、アレイ演算と断線数の設定を繰り返し行う(S809)。
【0033】
第2段階として、
図8(b)のフローを用いて、はんだ剥がれが発生したモジュール数の求め方を説明する。まず、
図8(a)と同様に、計測データの日射量:pbと動作温度:Tbを取り込み、暴露条件におけるパラメータを演算する(S811)。この演算と同時に、式(11)と式(13)を用いて、モジュール損失が10%となる配線抵抗値 Rs’を設定しておく。次に、
図8(a)で設定した断線数xを取り込み、アレイ演算を行う(S812)。断線させるモジュールに関しては、前述のように、モンテカルロ法等を用いて無作為に抽出する。ここでのアレイ演算では、断線の情報を含んだ太陽電池アレイの最大動作電圧Vpmax と最大動作電流 Ipmaxが算出され、これらを掛け合わせることによって最大電力 Pmax が算出される。算出されたPmaxから計測された最大電力Pmax_bを差し引いた値をΔPとする(S813)。次にこのΔPと0とを比較し(S814)、算出値Pmaxの方が大きければ(ΔP>0)、配線抵抗Rs’を有するモジュール数を示すyをインクリメント(S815)、Pmaxと同じであれば(ΔP=0)、yはそのまま(S816)、Pmaxの方が小さければ(ΔP<0)、yをデクリメントし(S817)、再度、アレイ演算を行う。アレイ演算において、どのモジュールの配線抵抗に Rs’を設定するかについては、モンテカルロ法等を用いて無作為に選択する。以上の動作をCountでモニターし(S818)、太陽電池アレイを構成するモジュール数までCountがアップするまで、繰り返し行う(S819)。なお、本実施例ではモジュール損失を10%としたが、必ずしも10%には限定されない。
【0034】
以上のフローから、太陽電池毎に計測手段や通信手段を付加せずとも、太陽電池アレイ内に存在する太陽電池モジュールの故障数を把握することが可能となる。
【0035】
本フローを
図2の選択スイッチ9が全てオンした状態で適用し、故障数が多いと判断した場合には、選択スイッチ9により、太陽電池アレイ1の単位で故障数のモニタリングを実現することができる。さらに、故障数が多いと判断した太陽電池アレイ1については、
図1の選択スイッチ6を切り替えることで、太陽電池ストリング単位での故障検査を行うことができる。
【実施例2】
【0036】
第2の実施例について
図9、
図10(a)、
図10(b)を用いて説明する。なお、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情が無い限り本実施例にも適用することができる。
【0037】
図9は、診断のために得られる情報として、太陽電池アレイを制御するパワーコンディショナ10内の制御部10aに搭載された電圧計21と電流計20から得られる最大動作電圧:Vpmax_bと最大動作電流: Ipmax_bのログデータと発電サイト内に設置された日射計22から得られる日射強度: pbのログデータのみの場合を示したものである。
【0038】
通常、温度センサには、熱電対といったものが用いられるが、一般的に、計測精度が低い。したがって、本実施例では、Vpmax_b、 Ipmax_bと pbのログデータのみから故障を算出する。
【0039】
まず、開放電圧の温度係数β[V/℃]より、開放電圧:Vocは、常温:Ta における開放電圧をVoc_a とすると、式(18)のように表すことができる。
Voc = Voc_a + β・(Tb − Ta) …(18)
次に、式(2)、式(3)、式(14)により、以下の関係を求めておく。常温:Taの条件においては、
Ipmax_a ≒ j・Isca (j:定数) …(19)
であり、同様に動作温度:Tbの条件においては、
Ipmax ≒ i・Isc (l :定数) …(20)
である。
【0040】
式(5)と式(17)よりIsを消去し、動作温度Tbとすると、式(21)で表すことができる。
(Vpmax−Voc) / Tb = n・{Ncell・(nf・k・Tb)/q}・ln{(Isc・p − Ipmax)/Isc}
…(21)
常温:Taに関しても同様に求めると、式(22)が得られる。
(Vpmax_a−Voc_a) / Ta = n・{Ncell・(nf・k・Ta)/q}・ln{(Isca・p
− Ipmax_a)/Isca} …(22)
ここで、式(19)、式(20)を用いて、式(21)と式(22)の関係性を求めると、式(23)のように、Vpmax を求めることができる。
Vpmax = {ln (1−i)}/ {ln (1−l)}・{(Vpmax_a−Voc_a) / Ta}・Tb + Voc
…(23)
簡単のため、i = j と仮定すると、式(24)を得る。
Vpmax = {(Vpmax_a−Voc_a) / Ta}・Tb + Voc …(24)
Vpmax を計測値 Vpmax_bとして、式(18)を式(24)に代入すると、
Tb = (Vpmax _b − Voc_a +β・Ta) / {((Vpmax_a−Voc_a) / Ta) +β} …(25)
となり、常温(Ta = 298K)における開放電圧:Voc_a 、開放電圧の温度係数β[V/℃] 、最大動作電圧:Vpmax_a と計測したVpmax_bから、太陽電池アレイの動作温度:Tb を求めることが可能となる。
【0041】
Tbを求めた後、式(3)を変形した式(4)より、常温における動作電流Ipmax_a’ が、日射強度:pb、太陽電池アレイの動作温度:Tb、常温:Ta 、常温における短絡電流:Isca 、短絡電流の温度係数αと計測値:Ipmax_b より求まる。
Ipmax_a’= Ipmax_b − Isca・(pb − 1) + α・(Tb − Ta) …(26)
以上の太陽電池アレイの動作温度の計算値 Tb と常温における動作電流の計算値Ipmax_a’を実施例1のフローに組み込む。これにより、パワーコンディショナ内に搭載された電圧計と電流計から得られる最大動作電圧:Vpmax_bと最大動作電流: Ipmax_bのログデータと発電サイト内に設置された日射計から得られる日射強度: pbのログデータのみから太陽電池アレイ内の故障数を算出することが可能になる。太陽光発電システムの故障診断方法の手順を示す演算フローを
図10(a)、
図10(b)に示す。
【0042】
太陽電池アレイ内における故障したモジュール数の算出は、実施例1と同様に、まず、断線が発生したモジュール数を求め、次に、はんだ剥がれが発生したモジュール数を求めるという順で行っていく。
【0043】
第1段階として、
図10(a)のフローを用いて、断線が発生したモジュール数の求め方を説明する。まず、計測データの日射量:pb を取り込み、日射量:pb、常温:Ta におけるパラメータを演算する(S101)。次に、アレイ演算を行い、故障がない条件における最大動作電圧 Vpmax_a と最大動作電流 Ipmax_a を算出する(S102)。ここで、算出したVpmax_aと計測した最大動作電圧Vpmax_b、さらに、式(2)やアレイ演算を用いて算出される常温Ta における開放電圧 Voc_a、開放電圧の温度係数βを用いて、式(25)に代入し、太陽電池アレイの動作温度 Tb を算出する(S103)。算出されたTb と計測された最大動作電流 Ipmax_b を式(26)に代入し、常温における動作電流Ipmax_a’を算出する(S104)。Ipmax_a’とアレイ演算により求まるIpmax_a は、共に常温:Ta、日射強度pb kW/m2 の条件のもとでの算出された値であるが、実測では、断線以外の劣化条件も入っていることを考慮すると、計測値から求まる値は、理論値と同等もしくは小さい値になるので、Ipmax_a ≧ Ipmax_a’が成り立つ。ΔI = Ipmax_a − Ipmax_a’とした時(S105)、ΔI > 0 (S106)を満たし、かつ Ipmax_a ≒ Ipmax_a’ (S108)となるまで、断線数xをUPさせ(S107)、動作温度 Tb算出、Ipmax_a’算出の演算を繰り返し行っていく。ΔI < 0 (S106)となった場合は、繰り返し演算の1つ前の状態にxとTbを戻し(S109)、繰り返し演算を終了させることで、ΔI > 0 、かつ Ipmax_a ≒ Ipmax_a’の条件が満たされる。
【0044】
どのクラスタを断線させるについては、実施例1と同様に、モンテカルロ法等の方法を用いて無作為に選択する。
【0045】
次に、第2段階について
図10(b)のフローを用いて説明する。このフローは、
図8(b)のフローに対して、計測した動作温度:Tbから第1段階で算出した動作温度:Tbに置き換わったのみであり、計算のフローは実施例1と同じである。即ち、
図10(b)に示すステップS111〜ステップS119は、それぞれ
図8(b)に示すステップS811〜ステップS819に対応する。
【0046】
以上のフローから、太陽電池毎に計測手段や通信手段、さらに温度の計測手段を付加せずとも、太陽電池アレイ内に存在する太陽電池モジュールの故障数を把握することが可能となる。
【0047】
実施例1と同様に、本フローを
図2の選択スイッチ9が全てオンした状態で適用し、故障数が多いと判断した場合には、選択スイッチ9により、太陽電池アレイ1の単位で故障数のモニタリングを実現することができる。さらに、故障数が多いと判断した太陽電池アレイ1については、
図1の選択スイッチ6を切り替えることで、どのストリングに故障が多く含まれているかまで絞り込むことができる。
【0048】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。