【実施例1】
【0031】
図2は本発明の第1実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する工程図、
図3は第1実施例を説明する手順図である。本実施例では、デッキパネルをガスチューブの上に並べて接合し圧縮ストラットの機能を持たせるようにしている。
図4は、本実施例において使用する折り畳み支持体の1例を示す側面図である。
【0032】
本発明第1実施例に係る仮設橋の架設方法は、初めに、圧縮ストラット、テンションスリング、ガスチューブ、アンカー部を一体に組み上げて、圧縮ストラットをロッドごとに折り畳み支持体10を形成する(S11)。空気を使って膨張させる場合は、ガスチューブを空気チューブと呼んでもよい。空気を膨張媒体として使えば、簡単なポンプを使うことで気軽にガスチューブを膨張させることができ、また大気を汚染することがないから直接大気に放出することにより簡単にガスチューブを痩せさせることができる。
折り畳み支持体は、
図4の側面図に例示したように、圧縮ストラット1をロッド(ここではデッキパネル6)ごとに分解して、ガスチューブ3のガスが抜けた状態にした支持体10をロッド単位で蛇腹状に折り畳むことにより形成される。
【0033】
ガスチューブ3は、ガスが抜けて萎んだ状態で、圧縮ストラット1とテンションスリング2の間に挟まっている。搬送中や展開中にガスチューブ3が垂れないように、適当な間隔で圧縮ストラット1に止めておくことが好ましい。なお、支持体10が折り畳まれているときとガスチューブ3が膨らんでいるときでは、ガスチューブ3が圧縮ストラット1に当たる位置がずれてもよいので、ガスチューブ3と圧縮ストラット1のデッキパネル6とは緩く係合させておけばよい。ガスチューブ3は、搬送中や展開中に垂れないように、ハンガー5を用いて適当な間隔で圧縮ストラット1に止めておくことができる。
【0034】
テンションスリング2は、両端でアンカー部4に結合されたベルトである。テンションスリング5も、搬送中や展開中に垂れないように適宜の間隔で圧縮ストラット1やガスチューブ3に止めておくことが好ましい。また、ハンガー5を利用して、ガスチューブ3と一緒に吊下してもよい。
圧縮ストラット1の端部に配置されるデッキパネル6は1端がアンカー部4に固定される。
【0035】
図2(a)に示したように、折り畳み支持体10は、トラック11などで現場まで運搬され、此岸21の架橋位置に降ろされる(S12)。対岸22にウインチ13を備えた牽引トラック14を配置し、ウインチ13から延ばされた牽引ワイヤ12を対岸22に渡される方のアンカー部4に結びつける(S12)。
図2(b)に示したように、此岸側のアンカー部4を地面に固定する(S13)。さらに、
図2(c)に示すように、対岸用のアンカー部4に掛けた牽引ワイヤ12を対岸22の牽引トラック14のウインチ13で巻き取って、折り畳み支持体10を伸展させる(S14)。
【0036】
図2(d)に示すように、折り畳み支持体10が完全に展開され、対岸側のアンカー部4部分が対岸22の所定位置に到達したら、対岸側のアンカー部4を対岸22の地面に止める(S15)。
アンカー部4は、アンカーボルトなどを使って地面に固定することができるが、予め地面に固定された部材に適宜の方法で係合させることで支持体10の先端部を地面に固定するようにしてもよい。また、支持体の先端に位置するロッドやデッキパネルの端部にボルト孔を設けてアンカー部とすることもできる。
【0037】
アンカー部4を対岸22の地面に止めた状態では、展開された折り畳み支持体10は、デッキパネル6同士が端縁を突き合わせた状態でアンカー部4に挟まれた圧縮ストラット1となり、ガスチューブ3がガスが抜けて薄くなった状態で圧縮ストラット1の下に配置され、ベルト状のテンションスリング2が緊張しないようにハンガー5などによりところどころで支持された状態でアンカー部4の間に渡されている。
【0038】
デッキパネル6同士は、折り畳み支持体10を展開する工程で端縁の面で突き合わせながら連接することにより、一体化した圧縮ストラット1を形成する。圧縮ストラット1の関節部を形成するデッキパネル6の端縁の突き合わせ面は、平面であっても、相互に圧接する凹面と凸面の組み合わせであってもよい。また、ボルトや係合ピンで隣同士を縫い合わせたりして、突き合わせ位置がずれないようにすることもできる。なお、突き合わせ面同士を蝶番で繋いで、折り畳みと展開が円滑にできるようにしてもよい。
【0039】
さらに、圧縮ストラット1は、ロッドあるいはデッキパネル6のそれぞれに橋軸方向に貫通する案内孔を設けて、橋軸方向に並べたロッド等の案内孔にワイヤやチェーンなどの締付綱を直列に通しておいて、締付綱を引き絞ることによりロッド等同士を一体の圧縮ストラット1とすることができ、締付綱を緩めることによりロッド等ごとに折り畳むことができるようにしたものであってもよい。
締付綱を用いて伸屈をするようにした折り畳み支持体についても、折り畳み支持体を展開する時にはアンカー部に結索された牽引ワイヤにより支持体の先端を所望の位置に案内することが好ましい。
【0040】
ここで、図外のガスボンベでガスチューブ3にガスを吹き込むと、
図2(e)に示すように、テンションスリング2の張力により圧縮ストラット1に圧縮力が作用して硬直化し大きな剛性と座屈抵抗力を有するアーチ形の支持体10が形成されて、剛性化した支持体10の上にデッキパネル6を敷設した、大きな荷重に耐えられる橋梁20が完成する(S16)。安全のために、橋の両脇に手すりを設けてもよい。
また、支持体10を形成する圧縮ストラット1として、デッキパネル6を直接利用したが、アルミ合金などでできた細いロッドを連結したより軽量の棒状体を用い、剛性化させた支持体10の上にデッキパネル6を並べて設置することで仮設橋20とするようにしてもよい。
【0041】
本実施例においては、支持体10として、
図13に示した基本的な円柱形の支持体を用いた。円柱型支持体では、支持体端部における上面と底面の高さの差が大きいので、アンカー部に当たる固定部材で傾斜を緩める工夫や、取付道路の路面を支持体の上面に合わせる工夫などが必要になる。また、円柱型支持体を使う場合は、複数の支持体を並列に並べて、その上にデッキパネルを並べるようにすることにより、路面の橋軸直角方向を水平に維持することが好ましい。
【0042】
本実施例の仮設橋の架設方法に使用する支持体は、デッキパネルに掛かる荷重による曲げモーメントを、圧縮ストラットの圧縮力とテンションスリングの引張力に変換して、荷重に対する抗力を発生するもので、軽量ながら大きな荷重に耐えられる。
図5,6に、本発明の仮設橋の架設方法に使用する支持体と、一般的なケーブルトラス桁をモデル的に比較する断面力図を示した。
図5は本発明に適用した円柱型支持体の断面力図、
図6は比較のために示したケーブルトラス桁モデルの断面力図である。
【0043】
共に、長さLの圧縮ストラットの両端にテンションスリングが接続されている。円柱型支持体では2本のテンションスリングが高さDの空気チューブに螺旋状に巻き付けられている。ケーブルトラス桁では、多数の鉛直ストラットの先端にテンションスリングが接続され、吊下されている。
【0044】
橋長Lに対して桁高Dが十分に小さい場合(γ=L/D>>1)、支持体とケーブルトラス桁において、荷重qが印加された場合のテンションスリングにかかる引張力Tは共に下の式(1)で近似できる。
(1) T=1/8・qLγ
【0045】
テンションスリングは両端で圧縮ストラットに接続しているため、引張力Tにより、圧縮ストラットに圧縮力Pが発生する。圧縮力Pが座屈抗力を超えると圧縮ストラットが座屈する。ケーブルトラス桁において、座屈抗力P
bは下の式(2)で示される。
(2) P
b=(n+1)
2π
2EI/L
2
【0046】
ここで、Iは圧縮ストラットの断面2次モーメント、Eは弾性係数、nは鉛直ストラットの本数である。式(2)に表されるように、座屈抗力は鉛直ストラットの設置間隔L/(n+1)の2乗に反比例する。したがって、座屈抗力を増強するためには鉛直ストラットの本数を増やさなくてはならない。しかし、鉛直ストラットの本数を増すと橋梁の自重が大きくなり、荷重に抗する余力が小さくなるジレンマがある。
【0047】
これに対し、流体力を用いた支持体では圧縮ストラットがガスチューブに密着して保持されているため、無数の鉛直ストラットに支持されていると考えることができ、鉛直ストラットの本数nへの依存から解放される。したがって、軽量のガスチューブを配することで、鉛直ストラットが不要になり、橋梁の自重を著しく軽量にすることができる。
【0048】
支持体では、
図7に示すように、圧縮ストラットが連続的なバネに支持されていると仮定すると、バネ定数kを用いて、
(3) P
b=2√(kEI)
と表すことができる。すなわち、ガスチューブが全長に渡って圧縮ストラットを支持するため、圧縮ストラットの座屈抗力は橋長Lにも影響されない。
【0049】
支持体では、仮想バネのバネ定数kはガスチューブのガス圧に依存している。バネ定数kをガスチューブのガス圧pを用いてk=πpとすると、
(4) P
b=2√(πpEI)
となる。
断面2次モーメントIとガス圧pを適切に選択すると、座屈抗力P
bは圧縮ストラットの降伏荷重より大きくなる。したがって、圧縮ストラットに関して、座屈抗力を考慮せず、降伏荷重まで圧縮力をかけることが可能になるため、長手の圧縮ストラットにおいても、材質・形状の自由度が大きくなる。すなわち、圧縮ストラットに掛かる横方向の応力を考慮する必要が無いため、圧縮ストラットの断面積を小さくすることができ、非常に軽量に構成することができる。
【0050】
流体力を用いた支持体では、ガスチューブのガス圧が重要なパラメータとなる。
圧縮ストラットおよびテンションスリングを装着しない単純な円筒形ガスチューブの場合、面積当たりの荷重q
aに対して必要となるガス圧pは式(5)で表される。
(5) p=2/π・q
aγ
2
【0051】
γはガスチューブの太さに対する長さの比を表す(γ=L/D)。ガスチューブに必要となるガス圧pはガスチューブの形状γに強く依存し、橋梁に使用する細長形状においては、ガス圧pを相当程度高くしなければならない。例えば、γ=30のガスチューブにおいては、q
a=1kN/m
2の荷重に耐えるために、約570kN/m
2のガス圧が必要になる。
【0052】
一方、本発明で適用する支持体に使用したガスチューブでは、荷重q
aに抗するために必要なガス圧pは式(6)で与えられる。
(6) p=π
2/2・q
a
【0053】
例えば、q
a=1kN/m
2の荷重に耐えるために必要なガス圧pは約5kN/m
2(50mBar)である。このように、支持体に適用したガスチューブは、スパンによらず、低いガス圧で荷重に抗することができる。流体力を用いた支持体では、荷重に対する抗力を圧縮ストラットとテンションスリングが担っており、ガス圧はテンションスリングにプレテンションを与える作用と、圧縮ストラットを固定する作用を担っているため、細長いガスチューブでも低いガス圧で十分に実用に耐えうる。また、空気ポンプを用いて空気を封入する方法を利用することもできる。
【0054】
必要なガス圧が数100mBarと小さいため、ガスチューブ布素材に機密性が特に高いものを使用する必要が無く、安価に入手できる材質のものでよい。また、ガスチューブが損傷した場合も、破裂のおそれが無く、損傷部位から空気などのガスが漏れるだけである。そのため、ガスチューブは特殊な素材を使用する必要がなく、薄く、軽量、安価に作成することができる。また、損傷した場合も、損傷部分をパッチで塞ぐか、漏れ出すガス量以上のガスをボンベや空気ポンプなどで加給することで対処できる。そのため、安全性が高く、維持が容易である。
【0055】
本実施例に用いた支持体は、アルミ合金の圧縮ストラットと、鋼製ワイヤーロープのテンションスリングと、PVCコーティングポリエステルのガスチューブで形成することができる。本実施例の架設方法で架設する仮設橋は、例えば20mのもので数10〜100ton程度の荷重に耐えることができる。それにもかかわらず、1本の支持体が20mで130kg程度と非常に軽量であり、3本の支持体と床版パネル等を含む橋梁全体の自重も500〜700kgである。同様の最大荷重を持つ従来のトラス橋に比べて10分の1以下の重量でしかない。
【0056】
したがって、本実施例の仮設橋の架設方法は、橋梁の展開を簡単、スムーズに行うことができ、作業環境が劣悪な状況でも速やかに仮設橋を架設することができる。また、使用する部材が軽量であり、必要とするガス圧あるいは空気圧も低いため、橋梁の展開に必要となるウインチや空気ポンプなども小型のもので十分である。したがって、架設に必要な部材、工具の総重量が小さく、運搬が非常に容易であるうえ、複数の橋梁に亘る資材を搬送することも苦にならない。
なお、本実施例の仮設橋の架設方法により、円柱型支持体を用いた仮設橋を架設することもできることはいうまでもない。
【実施例2】
【0057】
図8は本発明の第2実施例の展開工法に係る仮設橋の架設方法の作業手順を示す工程図、
図9はその手順を説明する手順図である。
本実施例の仮設橋の架設方法は、第1実施例の方法と比較すると、折り畳み支持体を空中に支えて両岸から牽引ワイヤを引いて展開することが相違するだけで、折り畳み支持体の準備工程や支持体を展開して両岸に渡した後の工程に異なる点はない。
図8は、第1実施例と異なる部分について図示するものである。
【0058】
本実施例の仮設橋の架設方法は、
図9の手順図に示すように、ロッドで構成される圧縮ストラット、テンションスリング、ガスチューブ、アンカー部を一体に組み上げて、
図4に例示したような、ロッドごとに折り畳んだ折り畳み支持体10を形成する(S21)。
【0059】
折り畳み支持体10は、ヘリコプター31などから輸送用ワイヤ32で吊り下げられ、架設地点に輸送され、
図8(a)に示すように、架橋位置上空に保持される(S22)。このとき、此岸21に設置されたワイヤ巻き揚げ機33から延ばされた牽引ワイヤ34を折り畳み支持体の此岸用アンカー部4に結びつけておく。
なお、折り畳み支持体10は、トラックなどで渡河位置に運搬し、クレーンで吊り下げて架設地点上に支持するようにしてもよい。
【0060】
さらに、対岸用アンカー部4に付けた牽引ワイヤ36を対岸に設置したワイヤ巻き揚げ機35に繋ぐ(S23)。
次に、
図8(b)に示されるように、此岸21と対岸22のワイヤ巻き揚げ機33,35で両側の牽引ワイヤ34,36を巻いて、牽引ワイヤのゆるみを取りながら、ヘリコプター31やクレーンに吊された折り畳み支持体10を架設地点(スパン中央)の上空に移動させる(S24)。
【0061】
輸送ワイヤ32で吊しながら牽引ワイヤ34,36を巻き揚げて、両側からの引張力により折り畳み支持体10が空中に維持できるようになったら、
図8(c)に示すように、輸送ワイヤ32を解除し、さらに
図8(d)に示すように、折り畳み支持体10の両側から牽引ワイヤ34,36を巻き上げて、折り畳み支持体10を展開する(S25)。なお、折り畳み支持体10を展開しきるまで、ヘリコプター31やクレーンで空中に支持するようにしてもよい。
【0062】
展開した折り畳み支持体10を此岸21と対岸22の間を跨ぐように配置した後は、アンカー部4を所定位置の地面に固定する(S26)。
そこで、第1実施例と同じ工程に従い、展開した支持体のガスチューブ3にガスボンベからガスを供給し、あるいは空気ポンプで圧縮空気を吹き込むと、ベルト状のテンションスリング2の張力により圧縮ストラット1に圧縮力が作用して剛性化し、剛性と座屈抵抗を有する支持体が形成され、大きな荷重に耐えられる仮設橋20が完成する(S27)。
【0063】
本実施例においても、第1実施例と同じように、橋の両脇に手すりを設けてもよい。
また、支持体を形成する圧縮ストラット1として、アルミ合金などでできた細いロッドを連結したより軽量の棒状体を用い、剛性化させた支持体の上にデッキパネル6を並べて設置するようにしてもよい。
【0064】
なお、
図16に概念的に表示した扁平舟形形状のアーチ型支持体は、円柱型支持体より耐荷重性能が高く、例えば20mの橋梁で数100tonの荷重に耐えることができる。本発明においても、円柱型支持体に代えてアーチ型支持体を使うことができる。本発明に使用するアーチ型支持体は、支持体のガスチューブ上面にデッキパネルを並べた圧縮ストラットと、下面にテンションスリングが接面しており、長手方向断面が舟形の形状になったものであってよい。アンカー部はそれ自体に傾斜面が設けられており、傾斜面が踏掛け板の役割も果たすことができる。アーチ型支持体を使って形成される仮設橋は、耐荷重性能が高いため、大型重機や主力戦車を渡すことができ利用範囲が広い。