(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730744
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】磁石薄帯の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20150521BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
B22D11/06 360B
H01F41/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-239323(P2011-239323)
(22)【出願日】2011年10月31日
(65)【公開番号】特開2013-94811(P2013-94811A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2013年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593001624
【氏名又は名称】株式会社米倉製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】岸本 秀史
(72)【発明者】
【氏名】佐塚 崇
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】大西 康弘
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−320442(JP,A)
【文献】
特開2004−306085(JP,A)
【文献】
特開2013−094810(JP,A)
【文献】
特開平08−283919(JP,A)
【文献】
特開平09−020954(JP,A)
【文献】
特開2000−317590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石合金の溶湯を冷却ロールの表面に吐出して急冷凝固する磁石薄帯の製造方法において、
上記急冷凝固する溶湯の冷却速度を連続的に測定し、所定の凝固組織が生成する範囲内の冷却速度で生成した薄帯を選択的に回収するように、上記冷却速度に連動して、上記薄帯と上記所定の凝固組織が生成する範囲外の冷却速度で生成した薄帯とを別の回収槽に回収することを特徴とする磁石薄帯の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記範囲内の冷却速度が105〜106K/sであることを特徴とする磁石薄帯の製造方法。
【請求項3】
磁石合金の溶湯を冷却ロールの表面に吐出して急冷凝固する磁石薄帯の製造装置において、
上記急冷凝固する溶湯の冷却速度を連続的に測定する冷却速度測定手段と、所定の凝固組織が生成する範囲内の冷却速度で生成した薄帯を選択的に回収するように、上記冷却速度に連動して、上記薄帯と上記所定の凝固組織が生成する範囲外の冷却速度で生成した薄帯とを別の回収槽に回収する手段を有することを特徴とする磁石薄帯の製造装置。
【請求項4】
請求項3において、上記範囲内の冷却速度が105〜106K/sであることを特徴とする磁石薄帯の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急冷凝固による磁石薄帯の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(Nd
2Fe
14B)で代表される希土類磁石は、磁束密度が高く極めて強力な永久磁石として種々の用途に用いられている。優れた磁気特性を得るために、ナノサイズの結晶粒または非晶質から成る微細組織を安定して確保する必要がある。そのため、希土類磁石の組成を有する合金溶湯を単ロール法、双ロール法等により急冷凝固させて薄帯(急冷リボン)を形成する方法が行なわれている。
【0003】
例えば特許文献1には、上記のような急冷凝固により永久磁石を製造する方法が提案されている。
【0004】
しかし、合金溶湯を急冷凝固過程においては、一定した冷却速度を安定して得ることが困難なため、望ましいナノ結晶粒組織または非晶質組織を安定して得ることができず、両者の混在組織となったり、粗大な結晶粒組織が生成したり、これらの3種類の混在組織が生成してしまうため、優れた磁気特性を安定して確保することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第03248942号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、急冷凝固により磁石合金の薄帯を製造する際に、望ましくない冷却速度で生成した薄帯の混在を防止することにより、均一な微細組織とそれによる優れた磁気特性を達成することができる磁石薄帯を製造する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、磁石合金の溶湯を冷却ロールの表面に吐出して急冷凝固する磁石薄帯の製造方法において、
上記急冷凝固する溶湯の冷却速度を連続的に測定し、所定の凝固組織が生成する範囲内の冷却速度で生成した薄帯を選択的に回収することを特徴とする磁石薄帯の製造方法が提供される。
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、磁石合金の溶湯を冷却ロールの表面に吐出して急冷凝固する磁石薄帯の製造装置において、
上記急冷凝固する溶湯の冷却速度を連続的に測定する冷却速度測定手段と、所定の凝固組織が生成する範囲内の冷却速度で生成した薄帯を選択的に回収する回収手段とを有することを特徴とする磁石薄帯の製造装置も提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、望ましい凝固組織が生成する範囲内の冷却速度で生成した薄帯を選択的に回収するので、望ましくない冷却速度で生成した薄帯の混在を防止することができ、均一な微細組織とそれによる優れた磁気特性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、薄帯を製造するための急冷凝固手段を示す。
【
図2】
図2は、本発明の回収機構を備えた薄帯の製造装置を示す。
【
図3】
図3は、本発明の製造方法の基本的なフローチャートを示す。
【
図5】
図5は、
図4において、吐出溶湯と冷却ロール表面との関係を詳細に示す。
【
図6】
図6は、実施例1における吐出時間と冷却速度との関係を示す。
【
図7】
図7は、
図6に示した3水準の冷却速度域I、II、IIIで生成した薄帯の減磁曲線を示す。
【
図8】
図8は、冷却速度が(1)最低域IIIおよび(2)中間域IIの薄帯の厚さ断面についてSEMによる組織写真を示す。
【
図9】
図9は、実施例2および比較例について、焼結体の減磁曲線を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例2および比較例について、焼結体組織のSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、磁石合金の薄帯を製造するための冷却ロールによる急冷凝固手段を示す。
【0012】
冷却ロールRは回転軸Xの周りをV方向に回転する。磁石合金の溶湯MはノズルNから冷却ロールRの表面Sに吐出されて急冷され、凝固して薄帯(急冷リボン)BとなってD方向に生成する。
【0013】
冷却ロールRの表面Sで急冷凝固により生成した合金薄帯Bは、冷却速度の変動に起因して組織が種々に変化している。すなわち、冷却速度が低速度から高速度に変化するの伴って、粗大結晶粒組織→微細結晶粒組織→非晶質組織と変化し、更にそれぞれの中間の冷却速度ではそれぞれ粗大結晶粒/微細結晶粒の混在組織あるいは微細結晶粒/非晶質の混在組織が生成する。一般に、良好な磁気特性を確保するには微細結晶粒組織または非晶質組織であることが必要である。非晶質組織は、後に熱処理で結晶化させて微細結晶粒組織に改質して用いる。従来は、このように冷却速度の変動に応じて種々の組織が生成した薄帯が混在した状態であり、良好な磁気特性を安定して得られないという問題があった。
【0014】
上記従来の問題を解消するための本発明の特徴を、
図2を参照して説明する。
【0015】
図2(1)に、本発明により磁石合金の急冷凝固薄帯を製造する装置の全体を示す。
図1に示した冷却ロールRで急冷凝固により生成した薄帯Bは、ロール回転周速vで左方に飛び出し、片状になって左端の回収機構A内に進入し、案内スリーブ130内を落下して、回収容器100内へ回収される。
【0016】
図2(2)の(A)および(B)に示すように、回収容器100は、2つの回収槽110と回収槽120に分けられている。例えば、適正な冷却速度で生成した薄帯Bは回収槽110へ、不適正な冷却速度で生成した薄帯Bは回収槽120へと分別回収される。2つの回収槽への振り分けは、(A)に示すように振り分け板140が左右に旋回することにより、落下する薄帯Bを振り分けるようにしても良いし、(B)に示すように回収容器100を左右に移動させて薄帯Bを振り分けるようにしても良い。この移動は、図示したように平行移動であってもよいし、回転移動(図示せず)であってもよい。
【0017】
また、説明を簡潔にするために、回収容器100を2つの回収槽110と120に分けた例を述べたが、必要ならば3つ以上の回収槽に分けることもできる。この場合、多数個の回収槽を円形に組み合わせて回転移動させ、冷却速度の区分に応じて振り分けるようにすることができる。
【0018】
このように、適正な冷却速度で生成し望ましい微細組織から成る薄帯Bのみを磁石の素材として用いることにより、優れた磁気特性を安定して確保できる。
【0019】
図3に、本発明の製造方法の基本的なフローチャートを示す。
【0020】
図3(1)は、冷却速度データのフィードバック制御する場合のフローチャートであり、
図3(2)は、フィードバック制御しない場合のフローチャートである。冷却速度のフィードバック制御は、制御パラメータとして溶湯温度、冷却ロール表面温度、冷却ロール周速度を用いて行なうことができる。
【0021】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
〔実施例1〕
組成がNd
14.7Fe
79.03B
5.67Ga
0.3Cu
0.1Al
0.2のネオジム磁石合金をアーク溶解炉にて溶製し、
図2に示した製造装置にて合金薄帯(急冷リボン)を作製した。表1に作製条件を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
図4に示すように、赤外カメラK(NECアビオ製:TS9230H−A01)にて、凝固前後の溶湯温度を測定し、吐出中の急冷速度を評価した。
【0025】
すなわち
図5に示すように、赤外カメラKにて溶湯Mが冷却ロールRに接触する直前の範囲を設定し、その範囲内での最高温度をT1とした。冷却ロール表面上で凝固後に距離L(m)の範囲を設定し、その範囲内での最高温度をT2とした。T1とT2との温度差ΔT(K)から冷却速度を下式により算出した。本実施例においては、L=0.005mとした。vは、冷却ロールRの周速度[m/s]である。
【0026】
冷却速度[K/s]=ΔT・v/L
本実施例では、冷却速度をフィードバック制御しないで、
図6に示すように吐出時間の経過に伴い漸次降下する冷却速度を(I)10
6K/s以上、(II)10
5〜10
6K/s、(III)10
5K/s以下の3水準に区分して、各区分で生成した薄帯を分別して回収した。回収容器として、3槽を円形に組み合わせた回収容器を用い、各冷却速度区間の境目で順次回転させて3水準に振り分け回収した。
【0027】
回収した3種類の薄帯I、II、IIIについて、VSMによる磁気特性の測定と、SEMによる組織観察を行なった。
図7および表2に、測定結果を示す。
【0028】
【表2】
【0029】
上記の結果から、冷却速度が(I)10
6K/s以上、(II)10
5〜10
6K/s、(III)10
5K/s以下と変化するのに伴って保磁力が変化している。保磁力は、冷却速度中間域IIで最も高く、冷却速度最低域IIIでやや低下し、冷却速度最高域Iで最も低い。
【0030】
図8に、冷却速度が(1)最低域IIIおよび(2)中間域IIの薄帯の厚さ断面についてSEMによる組織写真を示す。
図8(1)の冷却速度最低域IIIの薄帯では、ロール面(最高速急冷凝固部)が微細結晶粒組織であるが、フリー面(最低速急冷凝固部)では粗大な結晶粒組織が観察される。
図8(2)の冷却速度中間域IIの薄帯では、ロール面からフリー面にかけて薄帯断面全体が微細結晶粒組織であることが分かる。すなわち、微細結晶粒組織であることにより高い保磁力が得られた。冷却速度最高域Iについては、組織写真を示していないが、薄帯断面全体が非晶質であり、良好な磁性の発現には結晶化熱処理が必要である、と推察される。
【0031】
〔実施例2〕
実施例1と同様の条件および手順により同じ合金組成の薄帯を作製した。冷却速度中間域II(10
5〜10
6K/s)の回収槽から薄帯2gを採取し、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)により、100MPa加圧下にて、570℃加熱、5min保持で焼結した。
【0032】
比較例として、実施例2で作製した3水準の冷却速度域I、II、IIIの回収槽の薄帯を混合して、混合物から無作為に2g採取し、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)により、100MPa加圧下にて、570℃加熱、5min保持で焼結した。
【0033】
実施例2および比較例の焼結体について、VSMによる磁気特性の測定およびSEMによる組織観察を行なった。
【0034】
図9に、実施例2および比較例について、焼結体の減磁曲線を示す。冷却速度中間域II(10
5〜10
6K/s)で生成した薄帯のみを用いた実施例2の焼結体は、3水準の冷却域で生成した薄帯を混合した比較例の焼結体に比べて、高い保磁力が得られた。
【0035】
図10に、実施例2および比較例について、組織のSEM像を示す。
図10(1)に示すように、実施例2の焼結体は均一な微細粒組織が観察された。これに対して、
図10(2)に示すように、比較例の焼結体には粗大粒が混在する組織が観察された。これは冷却速度最低域IIIで生成した薄帯中の粗大粒が混在したためである。また、冷却速度最高域I(10
6K/s以上)で生成した薄帯の非晶質組織と微細結晶組織が混在した薄帯において、焼結時に一部が粗大化した可能性も考えられる。
【0036】
このように、急冷凝固時の冷却速度の変動による種々の組織の混在により磁気特性が劣化する。本発明により、冷却速度に連動して、適正な冷却速度で生成した薄帯を選択的に回収することにより、均一な微細粒組織が得られ、安定して良好な磁気特性が確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、急冷凝固により磁石合金の薄帯を製造する際に、望ましくない冷却速度で生成した薄帯の混在を防止することにより、均一な微細組織とそれによる優れた磁気特性を達成することができる磁石薄帯の製造方法および製造装置が提供される。
【符号の説明】
【0038】
R 冷却ロール
S 冷却ロールRの表面
X 冷却ロールRの回転軸
V 冷却ロールRの回転方向
T 冷却ロールRの往復移動方向
M 磁石合金の溶湯
N ノズル
H 誘導コイル
P 誘導コイルと冷却ロール表面との間に設けた遮蔽板
B 磁石合金の薄帯(急冷リボン)
D 薄帯の生成方向
A 薄帯の回収機構
100 回収容器
110 回収槽(適正薄帯用)
120 回収槽(不適正薄帯用)
130 案内スリーブ
140 振り分け板