特許第5730775号(P5730775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5730775天然油原料からメタセシス反応を介してジェット燃料を製造する方法
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  • 特許5730775-天然油原料からメタセシス反応を介してジェット燃料を製造する方法 図000019
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730775
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】天然油原料からメタセシス反応を介してジェット燃料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   C10L1/04
【請求項の数】20
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2011-538689(P2011-538689)
(86)(22)【出願日】2009年11月25日
(65)【公表番号】特表2012-509985(P2012-509985A)
(43)【公表日】2012年4月26日
(86)【国際出願番号】US2009065922
(87)【国際公開番号】WO2010062958
(87)【国際公開日】20100603
【審査請求日】2012年11月22日
(31)【優先権主張番号】61/118,338
(32)【優先日】2008年11月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508027970
【氏名又は名称】エレバンス リニューアブル サイエンシズ, インク.
【氏名又は名称原語表記】Elevance Renewable Sciences,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】ルエットケンズ, メルビン, エル.
(72)【発明者】
【氏名】コーエン, スティーブン, エイ.
(72)【発明者】
【氏名】バラクリシュナン, チャンダー
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0229654(US,A1)
【文献】 特表2003−525343(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/008440(WO,A1)
【文献】 特表2005−523931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00−1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含むジェット燃料組成物の製造方法:
(a)植物油、藻類油、獣脂、およびタール油から成る群から選択される不飽和ポリオールエステルを含む天然油、または(b)前記不飽和ポリオールエステルを含む天然油のけん化、エステル化、水素添加、異性化、酸化、もしくは還元、またはこれらの組み合わせにより得られる天然油の誘導体を含む原料を提供すること;
低分子量オレフィンを提供すること;
メタセサイズされた該天然油またはメタセサイズされた該天然油の誘導体を形成するに十分な条件下で、メタセシス触媒の存在下に低分子量オレフィンと前記原料を反応させること;および
ジェット燃料組成物を形成するに十分な条件下で、前記のメタセサイズされた該天然油またはメタセサイズされた該天然油の誘導体を水素化し、パラフィンに転化すること;を含み
該ジェット燃料組成物が5から16の炭素数の間の炭素数分布を有する、方法。
【請求項2】
該ジェット燃料組成物が40MJ/kgよりも大きなエネルギー密度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該ジェット燃料組成物を異性化することをさらに含み、該ジェット燃料組成物における直鎖パラフィン化合物の画分がイソパラフィン化合物に異性化される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該ジェット燃料組成物からC18+化合物と水を分離することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
該C18+化合物が、蒸留、ろ過、または遠心分離の少なくとも1つの方法により除去される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
該分離の後に該ジェット燃料組成物を異性化することをさらに含み、該ジェット燃料組成物における直鎖パラフィン化合物の画分がイソパラフィン化合物に異性化される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
該ジェット燃料組成物が灯油タイプジェット燃料であり、炭素数分布が8から16の炭素数の間である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
該灯油タイプジェット燃料が、
38℃から66℃の間の引火点、210℃の自動点火温度、および−47℃から−40℃の間の凝固点を有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該ジェット燃料組成物がナフサタイプジェット燃料であり、炭素数分布が5から15の炭素数の間である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
該ナフサタイプジェット燃料が、
−23℃から0℃の間の引火点、250℃の自動点火温度、および−65℃の凝固点を有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
該原料が藻類油、キャノーラ油、なたね油、ココナツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、落花生油、サフラワー油、胡麻油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、パーム核油、桐油、ヤトロファ油、ヒマシ油、およびこれらの1以上の天然油のけん化、エステル化、水素添加、異性化、酸化、もしくは還元、またはこれらの組み合わせにより得られる天然油の誘導体から成る群から選択された1以上の油を含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
該原料が大豆油、大豆油の誘導体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
該低分子量オレフィンが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、および2−ブテンから成る群から選択された少なくとも1つの低分子量オレフィンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
該低分子量オレフィンがα−オレフィンである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
該低分子量オレフィンが1−ブテンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
該低分子量オレフィンが4から10の炭素数を有する少なくとも1つの分岐鎖オレフィンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
該ジェット燃料組成物が環状6炭素化合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
該ジェット燃料組成物が20重量%より多いC10化合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
該ジェット燃料組成物が80重量%より多いC−C15アルカンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
以下を含むジェット燃料組成物の製造方法:
(a)植物油、藻類油、獣脂、およびタール油から成る群から選択される不飽和ポリオールエステルを含む天然油、または(b)前記天然油のけん化、エステル化、水素添加、異性化、酸化、または還元、またはこれらの組み合わせにより得られる天然油の誘導体を含む原料を提供すること;
低分子量オレフィンを提供すること;
メタセサイズされた該天然油またはメタセサイズされた該天然油の誘導体を形成するに十分な条件下で、メタセシス触媒の存在下に低分子量オレフィンと前記原料を反応させること;および
ジェット燃料組成物を形成するに十分な条件下で、前記のメタセサイズされた該天然油またはメタセサイズされた該天然油の誘導体を水素化し、パラフィンに転化すること;
該ジェット燃料組成物から水を分離すること;
ここで該ジェット燃料組成物は5から16の炭素数の間の炭素数分布を有する;および
前記の分離の後、該ジェット燃料組成物を異性化することをさらに含み、該ジェット燃料組成物における直鎖パラフィン化合物の画分がイソパラフィン化合物に異性化される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は天然原料のメタセシス反応を介してジェット燃料を製造する方法に関する。
【0002】
発明の背景
メタセシス反応は触媒反応であり、炭素炭素二重結合の形成と分裂を介して1種以上の二重結合を含む化合物(例えば、オレフィン化合物)中でアルキリデンユニットの置き換えを含む、当技術分野で知られている反応である。メタセシスは、2つの類似する分子(しばしば自己メタセシスと呼ばれる)および/または異なる分子の間(しばしば交差メタセシスと呼ばれる)に起こることができる。自己メタセシスは、模式的には式Iのように表すことができる。
【0003】
【化1】
式中、RとRは有機基である。
【0004】
交差メタセシスは、模式的には式IIのように表すことができる。
【0005】
【化2】
式中、R、R、R、およびRは有機基である。
【0006】
近年、石油系ソースから通常得られていた物質を製造するための環境に優しい技術を求める要望があった。例えば、研究者は、天然の原料、たとえば植物油および種子ベースの油などを使用する生物燃料、ワックス、プラスチックなどの製造に関する実現可能性を研究している。1つの例では、メタセシス触媒は、ロウソクの蝋を製造するのに使用される。これはPCT/US2006/000822に記載され、この出願は本明細書に参考として組み込まれる。天然の原料を含むメタセシス反応は、今日および将来に有望な解決策を提供する。
【0007】
対象となる天然の原料としては、たとえば天然油(例えば、植物油、魚油、動物油)と天然油の誘導体、たとえば脂肪酸類および脂肪酸アルキル(例えば、メチル)エステルなどがあげられる。これらの原料はいろいろな異なったメタセシス反応により工業的に有用な化学物質(例えば、ワックス、プラスチック、化粧料、生物燃料など)に変換できる。重要な反応のクラスとしては、例えば自己メタセシス、オレフィンとの交差メタセシス、および開環メタセシス反応があげられる。有用なメタセシス触媒の代表例を以下に提供する。メタセシス触媒は高価である場合がある。したがって、メタセシス触媒の効率を改良することは望ましい。
【0008】
近年、石油系ベースの輸送用燃料に対する増大する需要があった。世界の石油生産が要求について行くことができないだろうという関心が存在している。さらに、石油系ベースの燃料を求める需要の増大は、地球温暖化ガスのより高い発生をもたらした。特に、航空産業は合衆国中で地球温暖化ガスの10%以上を占める。地球温暖化ガスの増加する発生と、燃料に対する増加する需要のため、環境に優しい代替燃料ソースを製造する方法を探索する必要がある。特に、天然の原料から環境に優しいジェット燃料を製造する方法を探索する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際出願番号PCT/US2006/000822
【特許文献2】米国特許第3,150,205
【特許文献3】米国特許第5,095,169
【特許文献4】米国特許第4,210,771
【特許文献5】米国特許第6,214,764
【特許文献6】国際出願番号PCT/EP2007/009668
【特許文献7】米国特許5,312,940
【特許文献8】米国特許番号7,365,140
【特許文献9】国際出願番号PCT/US2008/009635
【特許文献10】米国特許第7,102,047
【特許文献11】米国特許第6,794,534
【特許文献12】米国特許第6,696,597
【特許文献13】米国特許第6,414,097
【特許文献14】米国特許第6,306,988
【特許文献15】米国特許第5,922,863
【特許文献16】米国特許第5,750,815
【特許文献17】米国特許公開2007/0004917A1
【特許文献18】米国特許第3,351,566
【特許文献19】EP0168091
【特許文献20】EP167,201
【特許文献21】米国特許第6,846,772
【特許文献22】米国特許第4,490,480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の簡単な要約
天然油原料と低分子量オレフィンの間のメタセシス反応からジェット燃料を製造する方法が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの実施態様ではこの方法は、大豆油などの天然油を含む原料が、低分子量オレフィンと、メタセシス触媒の存在下で、メタセシス生成物を形成するために十分条件で反応される。この方法はさらに、ジェット燃料組成物を形成するのに十分な条件のもとで、メタセシス反応された生成物を水素化することを含む。
【0012】
異なる実施態様では、本発明の方法はさらにジェット燃料組成物から水を分離することを含み、ここで該ジェット燃料組成物は5から16の炭素数の間の炭素数分布を有する炭化水素を含む。異なる実施態様では、本発明の方法はさらに分離後にジェット燃料組成物を異性化することを含み、ここでジェット燃料組成物中の直鎖パラフィン化合物の一部分がイソパラフィン化合物に異性化される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は天然油からジェット燃料組成物を製造するプロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本願は天然油原料からジェット燃料を製造する方法に関連する。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、文脈からそうでないことが明確に理解される場合を除き、単数表現は複数の該当物を含んでいる。たとえば用語「置換基」は1つの置換基並びに2以上の置換基を包含する。
【0016】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、用語「例えば」、「たとえば」、「のように」あるいは「始めとして」は、一般的な事象についてさらに明瞭な例を示すことを意味する。特記のない限り、これらの例は本発明を理解するための助けとしてのみ提供され、何らかの制限を提供することが目的ではない。
【0017】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「メタセシス触媒」という用語はメタセシス反応を触媒するすべての触媒または触媒システムをいう。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、用語「天然油」、「天然の原料」、または「天然油原料」は、植物または動物ソースから得られた油をいう。別記のない限り、「天然油」という用語は天然油誘導体を含む。天然油の例としては、植物油、藻類油、獣脂、タール油、これらの油の誘導体、これらの油の組み合わせ等を含むが、これらに限定されない。植物油の代表例としては、キャノーラ油、なたね油、ココナツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、落花生油、サフラワー油、胡麻油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、パーム核油、桐油、ヤトロファ油、およびヒマシ油があげられる。動物脂の代表例としてはラード、タロウ、鶏脂、黄色油脂、および魚油があげられる。タール油は木材パルプ製造の副産物である。
【0019】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「天然油誘導体」という用語は、化学技術において公知の方法のいずれかまたはそれらの組み合わせにより得られた化合物または混合物についていう。そのような方法としてはけん化、エステル化、水素添加(部分的または完全な)、異性化、酸化、および還元があげられる。天然油誘導体の代表例としては、ガム、燐脂質、ソーダ油さい、酸化されたソーダ油さい、スラッジ留出液または留出されたスラッジ、天然油の脂肪酸類または脂肪酸アルキル(例えば、メチル)エステルがあげられる。例えば、天然油誘導体は、天然油のグリセリドから誘導される脂肪酸メチルエステル(FAME)であることができる。いくつかの好適な例としては、原料はキャノーラ油または大豆油を含み、たとえば精製、漂白、脱臭された大豆油(すなわち、RBD大豆油)があげられる。大豆油は、約95重量%またはそれ以上(例えば、99重量%以上)の脂肪酸トリグリセリドを典型的に含むグリセロールの不飽和ポリオールエステルである。大豆油のポリオールエステルの中の主要な脂肪酸類は飽和脂肪酸、たとえば、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、およびステアリン酸(オクタデカン酸)、および不飽和脂肪酸類、例えば、オレイン酸(9−オクタデセン酸)、リノール酸(9,12−オクタデカジエン酸)、およびリノレン酸(9,12,15−オクタデカトリエン酸)を含む。
【0020】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「低分子量オレフィン」という用語は、C−C10の範囲の不飽和の、直鎖、分岐鎖、または環状の任意の炭化水素またはこれらの組み合わせをいう。低分子量オレフィンは不飽和の炭素−炭素結合が化合物の末端に存在している「α−オレフィン」または「末端オレフィン」を含む。また、低分子量オレフィンはジエン類またはトリエン類を含むことができる。C−Cの範囲の低分子量オレフィンの例としては:エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、3−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチル−1−ブテン、およびシクロペンテンがあげられるが、これらに制限されるものではない。他の使用可能な低分子量オレフィンとしては、スチレンおよびビニルシクロヘキサンがあげられる。ある実施態様では、オレフィン類の混合物を使用することは望ましく、その混合物はC−C10の範囲内の分岐鎖低分子量オレフィンを含む。
【0021】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、用語「メタセサイズ」および「メタセサイジング」は、メタセシス触媒の存在下で原料を反応させて、新しいオレフィン化合物を含む「メタセサイズされた生成物」を形成することをいう。メタセサイジングは交差メタセシス(通称コ−メタセシス)、自己メタセシス、開環メタセシス、開環メタセシス重合(ROMP)、閉環メタセシス(RCM)、および非環式ジエンメタセシス(ADMET)をいうことができる。例えば、メタセサイジングはメタセシス触媒の存在下での、天然の原料の中に存在している2つのトリグリセリド類の反応(自己メタセシス)をいうことができ、ここでそれぞれのトリグリセリドは不飽和の炭素炭素二重結合を有し、それによりトリグリセリドの二量体を含むことができる2つの新しいオレフィン性の分子類を形成する。そのようなトリグリセリドの二量体は二個以上のオレフィン性結合を有することができ、その結果、より高次のオリゴマーも形成できる。さらに、メタセサイジングはエチレンのようなオレフィン、および少なくとも1つの不飽和の炭素炭素二重結合を有する天然の原料中のトリグリセリドとの反応であり、それにより2つの新しいオレフィン分子類を形成する反応(交差メタセシス)をいうことができる。
【0022】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「異性化」、「異性体」、または「異性化すること」という用語は、直鎖炭化水素物の反応と変換についていい、たとえば、直鎖パラフィンまたは直鎖オレフィンが、分枝鎖炭化水素化合物、たとえばイソパラフィンまたはイソ−オレフィン(また、本明細書ではパラフィン類をアルカン類と呼ぶことがある)になることをいう。例えば、n−ペンタンは異性化されて、n−ペンタン、2−メチルブタン、2,2−ジメチルプロパンの混合物にされることができる。燃料組成物の総合的な特性を改良するために、直鎖パラフィンまたは直鎖オレフィンの異性化を使用できる。
【0023】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「収量」という用語はメタセシスと水素化反応から製造されたジェット燃料の総重量をいう。また、分離工程、そして/または異性化反応に続く、ジェット燃料の総重量をいう。製造されたジェット燃料の総重量を、天然油原料と低分子量オレフィンとの総重量で割ることにより、収量%が定義できる。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「ジェット燃料」または「航空燃料」という用語は灯油、ナフサタイプ燃料カット、または軍用グレードジェット燃料組成物について言う。「灯油タイプ」ジェット燃料(Jet AおよびJet A−1を含む)では、炭素数分布は約8と16の間である。Jet AとJet A−1は、典型的には38℃から66℃の間の引火点、約210℃の自動点火温度、約−47℃から−40℃の間の凝固点、15℃における約0.8g/ccの密度、および約42.8−43.2MJ/kgのエネルギー密度を有する。「ナフサタイプ」または「ワイドカット」ジェット燃料(Jet Bを含む)では、炭素数は約5から15の間である。Jet Bは典型的には約−23℃から0℃の間の引火点、約250℃の自動点火温度、約−65℃の凝固点、およそ0.78g/ccの密度、および約42.8−43.5MJ/kgのエネルギー密度を有する。「軍用グレード」ジェット燃料はJet Propulsionまたは「JP」付番システム(JP−1、JP−2、JP−3、JP−4、JP−5、JP−6、JP−7、JP−8など)により呼ばれる。軍用グレードジェット燃料は、超音速飛行の間に耐えられる熱とストレスに対処するためにJet A、Jet A−1、またはJet Bより高い引火点を持つため、代替のまたは追加の添加剤を含むことができる。さらに、これらの燃料組成物は、一般に要求仕様を満たす材料または燃料組成物の配合に役に立つ混合成分をいうが、燃料のための要求仕様のすべてを満たす必要はない。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「炭素数分布」という用語は、組成物中に存在している化合物の範囲をいい、それぞれの化合物は存在する炭素原子の数によって定義される。例えば、ジェット燃料は典型的には、それらの化合物の大部分が5から16の間の炭素原子を有する炭化水素化合物の分布を含む。5から16の間の炭素原子の炭化水素化合物の同様の炭素数分布はディーゼル燃料を構成することができる。
【0026】
本明細書および特許請求の範囲において使用される時、「エネルギー密度」という用語は、単位質量(MJ/kg)または単位体積(MJ/L)あたりの所定のシステム内に格納されたエネルギー量をいう。例えば、典型的には、ジェット燃料のエネルギー密度は40MJ/kg以上である。
【0027】
本発明によると、ジェット燃料組成物は、メタセシス触媒の存在下で、低分子量オレフィンと天然油を反応させることによって高収率で作られる。
【0028】
図1に示されるように、天然油12がメタセシス反応器20内に投入され、低分子量オレフィン14と混合される。メタセシス触媒の存在下で、天然油12は低分子量オレフィン14との交差メタセシス反応を行う。以下でさらに詳細にメタセシス触媒とメタセシス反応条件について議論する。1つの実施態様では、低分子量オレフィンはCからCの範囲内にある。例えば、1つの実施態様では、望ましくは、低分子量オレフィンは少なくとも以下の1つを含むことができる:エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、3−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチル−1−ブテン、およびシクロペンテン。別の実施態様では、低分子量オレフィンは好ましくは少なくともスチレンとビニルシクロヘキサンの1つを含む。別の実施態様では、低分子量オレフィンは少なくともエチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、およびイソブテンの1つを含むことができる。別の実施態様では、低分子量オレフィンは少なくとも1つのα−オレフィン、またはC−C10の末端オレフィンを含む。
【0029】
別の実施態様では、低分子量オレフィンはCからC10の範囲の少なくとも1つの分岐した低分子量オレフィンを含む。分岐した低分子量オレフィンは、ジェット燃料のために希望の性能特性を獲得するのを助けることができる。分岐した低分子量オレフィンの例としては、イソブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−3−ペンテン、および2,2−ジメチル−3−ペンテンがあげられる。メタセシス反応にこれらの分岐した低分子量オレフィンを使用することによって、メタセサイズされた生成物22は分岐したオレフィンを含み、それは続いて水素化されイソパラフィンにされることができる。
【0030】
希望のメタセシス産物分布を達成するために、反応において様々な低分子量オレフィンの混合物を使用することは可能である。例えば、低分子量オレフィンとしてブテン類(1−ブテン、2−ブテン、およびイソブテン)の混合物を使うことができ、1つの特定のブテンの精製されたソースより低い原料コストを提供することができる。さらに、望ましくは、天然油は、大豆油などの植物油または植物油誘導体である。
【0031】
メタセシス反応器20での交差メタセシス反応はメタセサイズされた生成物22を製造する。1つの実施態様では、メタセサイズされた生成物22の品質に基づき、メタセサイズされた生成物が引火点、凝固点、またはエネルギー密度のようなジェット燃料特性の希望の値を達成するため、メタセサイズされた生成物を異性化することは望ましい。異性化反応は当該技術分野において公知であり、米国特許第3,150,205;4,210,771;5,095,169;6,214,764;に記載されている。これらは本明細書で参照され、組み込まれる。この段階での異性化反応は、C18+の化合物の幾分かをクラックし、望ましい炭素数の5から16の炭素数範囲内のジェット燃料組成物を製造するのを助けることができる。
【0032】
1つの実施態様では、メタセサイズされた生成物22を水素化ユニット30に送る。メタセサイズされた生成物22は、ベンゼンに酸化できるか、または水素化により飽和したシクロヘキサンを形成できる1,4シクロヘキサジエンを含む。これらの6炭素の環化合物は交差メタセシス反応で製造された燃料のためのユニークな成分である。
【0033】
ある実施態様では、水素化ユニット30への導入の前に、メタセサイズされた生成物22から副産物を分離することは、望ましい。特に天然油とC−Cの低分子量オレフィンの間の交差メタセシス反応の間、ほぼ5−18%のC成分が発生する。これらのライトエンド(light-end)炭化水素は、ジェット燃料組成物以外にそれら自身の価値を有しており、この段階では他の有用に使用される組成物のために分離できる。
【0034】
水素化ユニット30では、メタセサイズされた生成物22は水素ガス24と反応される。水素化の間、メタセサイズされた生成物22からの炭素炭素二重結合は水素ガス24によって飽和状態にされる。さらに、天然油エステル類、酸類、およびアルコール類は炭化水素に還元される。結果として得られる水素化生成物32は望ましくは、約C10とC12炭化水素の間に中心を有する炭化水素分布を含んでいる。また水素化生成物32は水素化とメタセシス反応からの、水または重質炭化水素鎖(C18+)をはじめとする副産物を含むことができる。水素化工程のためのプロセス条件は、PCT/EP2007/009668で議論されるように、当技術分野で周知のことである。
【0035】
ジェット燃料組成物として水素化生成物32を使用できる。あるいはまた、希望のジェット燃料組成物42から任意の副産物44(すなわち、水、軽質(C−C)炭化水素、またはC18+)を取り除くために、水素化生成物32を分離ユニット40に送ることができる。1つの実施態様では、水素化生成物32は、この実施態様のための44として示されるように、所望のジェット燃料組成物画分42、ライトエンド画分(図示せず)、およびヘビィエンド(heavy-end)副産物画分に分離されることができる。水素化生成物32は分離工程が水素化工程の前に実行されない場合には、この段階で分離される交差メタセシス反応からの副産物を含むことができる。1つの実施態様では、蒸留は、画分を分離するのに使用される。あるいはまた、所望のジェット燃料組成物画分から、約38から66℃、−47から−40℃、または−65℃に水素化生成物32を冷却して、次に、固体の画分をろ過または遠心沈殿のような当技術分野で知られているテクニックで除去することによって、ヘビィエンド副産物画分を分離できる。
【0036】
異なる実施態様では、水素化生成物32またはジェット燃料組成物42の品質に基づき、引火点、凝固点、またはエネルギー密度のような希望のジェット燃料性状を得るために更なる処理が必要であるかもしれない。例えば、水素化生成物32またはジェット燃料組成物42内でノルマルパラフィン炭化水素を異性化し、ノルマルパラフィンとイソパラフィン化合物の混合物を生成する必要性があるかもしれない。異性化反応は当技術分野で周知であり、米国特許3,150,205;4,210,771;5,095,169;および6,214,764に記載されている。これらは本明細書で参照され、組み込まれる。分離工程がこの実施態様で存在している場合には、ライトおよび/またはヘビィエンドを分離した後に異性化反応を行うことが望ましい。
【0037】
一つまたは複数の低分子量オレフィンが前のメタセシス反応に使用された場合には、異性化工程は避けられるかまたは低減することが可能である。
【0038】
天然油の交差メタセシスは、以下の実施例1の組成物に示されているように、C10化合物を少なくとも20重量%含むジェット燃料組成物42を製造できる。さらに、組成物は30重量%未満のC14+化合物を含むことができる。これらの組成物では、様々な性能パラメータが特定のタイプのジェット燃料のために目標とされる。
【0039】
ある実施態様では、天然油の交差メタセシスはC−C15アルカンなどのC−C15化合物を少なくとも70重量%含むジェット燃料組成物を製造できる。他の実施態様では、天然油の交差メタセシスはC−C15アルカンなどのC−C15化合物を少なくとも80重量%含むジェット燃料組成物を製造できる。
【0040】
1つの実施態様では、天然油は8から16の炭素数の間の炭素数分布を含む灯油タイプジェット燃料に変換される。この灯油タイプジェット燃料分布としてはJet AまたはJet A−1があげられる。この実施態様では、約38℃と66℃の間の引火点を持っていることは、望ましい。また、約210℃の自動点火温度を持っていることも望ましい。また、約−47℃から−40℃の間の凝固点を持っていることも望ましい。Jet A−1型燃料では−47℃により近く、Jet A型燃料では−40℃により近い。また、15℃でおよそ0.8g/ccの密度を持っていることも望ましい。また、40MJ/kg以上のエネルギー密度を持っていることも望ましい。42から48MJ/kgのエネルギー密度を持っていることは、より望ましい。灯油タイプジェット燃料について、約42.8−43.2MJ/kgのエネルギー密度を持っていることは、さらに望ましい。
【0041】
灯油タイプジェット燃料がCとC16の間の分布、および希望のジェット燃料性状を達成することが、低分子量オレフィンと天然油との交差メタセサイズの目標とされる。
【0042】
別の実施態様では、天然油は5から15の炭素数の間の炭素数分布を含むナフサタイプジェット燃料に変換される。このナフサタイプジェット燃料分布はとしてはJet Bがあげられる。この実施態様では、約−23℃と0℃の間の引火点を持っていることは、望ましい。また、約250℃の自動点火温度を持っていることも望ましい。また、約−65℃の凝固点を持っていることも望ましい。また、15℃でおよそ0.78g/ccの密度を持っていることも望ましい。また、40MJ/kg以上のエネルギー密度を持っていることも望ましい。42から48MJ/kgのエネルギー密度を持っていることは、より望ましい。ナフサタイプジェット燃料について、約42.8−43.5MJ/kgのエネルギー密度を持っていることは、さらに望ましい。
【0043】
ナフサタイプジェット燃料がCとC15の間の所望の分布、および所望のジェット燃料性状を達成することが、低分子量オレフィンと天然油との交差メタセサイズの目標とされる。
【0044】
天然油とα−オレフィンの間の交差メタセシスはメタセシス触媒の存在下で起こることに留意すべきである。「メタセシス触媒」という用語はメタセシス反応を触媒するすべての触媒または触媒システムも含む。公知の、または将来開発される任意のメタセシス触媒を、単独または1種以上の追加の触媒類との組み合わせで使用できる。メタセシス触媒の例としては、例えば、ルテニウム、モリブデン、オスミウム、クロム、レニウム、およびタングステンのような遷移金属に基づく金属カルベン触媒類を含む。望ましくは、開示される交差メタセシス反応を行うためのオレフィンメタセシス触媒は、式(III)の構造を有する8属遷移金属錯体である:
【0045】
【化3】
様々な置換基は以下のとおりである、
Mは8族遷移金属である;
、LおよびLは中性の電子供与体配位子である;
nは0または1である。すなわちLは存在することがあるし、存在しないこともある;
mは0、1、あるいは2である;
およびXは陰イオンの配位子である;
およびRは、独立して、水素、ヒドロカルビル、置換されたヒドロカルビル、ヘテロ原子含有ヒドロカルビル、置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビル、および官能基から独立して選択される。
ここでX、X、L、L、L、R、およびRの任意の2つ以上が一緒になって環を形成することができ、X、X、L、L、L、R、およびRの任意の1つ以上は担体に結合することができる。
【0046】
好ましい触媒は、8族遷移金属としてRuまたはOsを含み、Ruが特に好ましい。
【0047】
本明細書に示された反応に有用な触媒の多数の実施態様は、より詳細に以下に記載される。便宜上、触媒は群ごとに記載される。しかし、これらの群は何らの意味においても制限を加えることが目的ではないことが強調されるべきである。すなわち、本発明に有用な触媒の任意のものが、本明細書に記載された群の2つ以上に適合することがある。
【0048】
触媒の第一の群は、一般に第一世代グラブス型触媒と呼ばれる。また、その触媒は式(III)の構造を有する。触媒の第一の群については、Mとmは上の記載の通りであり、n、X、X、L、L、L、RおよびRについては以下に記載される。
【0049】
触媒の第一の群については、nは0である。また、LとLは、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、亜リン酸塩、亜ホスフィン酸塩、亜ホスホン酸塩、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、置換されたピリジン、イミダゾール、置換されたイミダゾール、ピラジンおよびチオエーテルから独立して選ばれる。例示的な配位子はトリ置換ホスフィン類である。
【0050】
とXは陰イオン配位子であり、同じでも異なっていても良く、または一緒になって環状基を形成してもよく、必ずではないが、典型的には5から8員環である。好ましい実施態様では、XとXが各々独立して水素またはハロゲン化物であるか、あるいは以下の1つの基である:C−C20アルキル、C−C24アリール、C−C20アルコキシ、C−C24アリールオキシ、C−C20アルコキシカルボニル、C−C24アリールオキシカルボニル、C−C24アシル、C−C24アシルオキシ、C−C20アルキルスルホナート、C−C24アリールスルホナート、C−C20アルキルスルファニル、C−C24アリールスルファニル、C−C20アルキルスルフィニルあるいはC−C24アリールスルフィニル。任意に、XおよびXは、C−C12アルキル、C−C12アルコキシ、C−C24アリールおよびハロゲン化物から選択される1以上の基で置換されることができ、ハロゲン化物以外の基はさらにハロゲン化物、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、およびフェニル基から選択される1以上の基で置換されることができる。より好ましい実施態様においては、XおよびXはハロゲン化物、ベンゾエート、C−Cアシル、C−Cアルコキシカルボニル、C−Cアルキル、フェノキシ、C−Cアルコキシ、C−Cアルキルスルファニル、アリールあるいはC−Cアルキルスルホニルである。より好ましい実施態様では、XおよびXは、各々ハロゲン化物、CFCO、CHCO、CFHCO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレートあるいはトリフルオロメタンスルホネートである。最も好ましい実施態様では、XおよびXは各々塩素化物である。
【0051】
およびRは独立して、水素、ヒドロカルビル(例えばC−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C24アリール、C−C24アルカリール、C−C24アルアルキルなど)、置換されたヒドロカルビル(例えば置換されたC−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C24アリール、C−C24アルカリール、C−C24アルアルキルなど)、ヘテロ原子含有ヒドロカルビル(例えばヘテロ原子含有のC−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C24アリール、C−C24アルカリール、C−C24アルアルキルなど)、および置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビル(例えば置換されたヘテロ原子含有C−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C24アリール、C−C24アルカリール、C−C24アルアルキルなど)、および官能基から選択される。RとRは結合して、脂肪族または芳香族であることができる環状基を形成することができ、置換基および/またはヘテロ原子を含むことができる。一般に、そのような環状基は、4から12、好ましくは5、6、7、あるいは8個の環原子を含む。
【0052】
好ましい触媒では、Rは水素である。また、RはC−C20アルキル、C−C20アルケニルおよびC−C24アリールから選ばれ、より好ましくはC−Cアルキル、C−Cアルケニル、およびC−C14アリールである。さらに好ましくは、Rはフェニル、ビニル、メチル、イソプロピルまたはt−ブチルであり、これらは任意にC−Cアルキル、C−Cアルコキシ、フェニル基、および本明細書において先に定義された官能基Fnから選ばれた1つ以上の部分で置換されることができる。最も好ましくは、Rは、メチル、エチル、クロロ、ブロモ、ヨード、フルオロ、ニトロ、ジメチルアミノ、メチル、メトキシおよびフェニル基から選ばれた1つ以上の部位で置換されたフェニルあるいはビニルである。任意に、Rはフェニル基または−C=C(CHである。
【0053】
グラブスらの米国特許5,312,940に記載されているように、任意の2以上(典型的には2、3、あるいは4)のX、X、L、L、L、R、およびRは一緒になって環状基を形成することができる。X、X、L、L、L、RおよびRの任意のものが環状基を形成するために結合される場合、それらの環状基は4から12、好ましくは4、5、6、7あるいは8個の原子を含み、あるいは縮合もしくは結合された2又は3個のそのような環を含むことができる。環状基は脂肪族または芳香族であることができ、またヘテロ原子含有および/または置換されていることができる。環状基は、ある場合には、二座配位子または三座配位子を形成することができる。二座配位子の例としては、制限するものではないが、ビスフォスフィン類、ジアルコキシド類、アルキルジケトネート類、およびアリールジケトネート類があげられる。
【0054】
触媒の第二の群は、一般に第二世代グラブスタイプ触媒と呼ばれ、式(III)の構造を有する。ここでLは式(IV)の構造を有するカルベン配位子である。
【0055】
【化4】
錯体は式(V)の構造を有する。
【0056】
【化5】
ここでM、m、n、X、X、L、L、R、およびRは、第1群の触媒において定義されたとおりである。残りの置換基は以下の通りである。
【0057】
XおよびYは、N、O、SおよびPから典型的に選ばれたヘテロ原子である。OとSが二価であるので、XがOまたはSである場合pは必ずゼロである。またYがOまたはSである場合、qは必ずゼロである。しかしながら、XがNまたはPである場合pは1である。YがNまたはPである場合、qは1である。好ましい実施態様では、XとYの両方はNである。
【0058】
、Q、QおよびQは連結基、例えば、ヒドロカルビレン(置換されたヒドロカルビレン、ヘテロ原子含有ヒドロカルビレンおよび置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビレン、たとえば置換されたおよび/またはヘテロ原子含有アルキレンを含む)あるいは−(CO)−であり、w、x、y、zは独立してゼロまたは1である。すなわちそれぞれの連結基は任意である。好ましくは、w、x、yおよびzはすべてゼロである。さらに、Q、Q、QおよびQの内の隣接した原子上の2つ以上の置換基は結合して追加の環状基を形成することができる。
【0059】
、R3A、R、およびR4Aは、水素、ヒドロカルビル、置換されたヒドロカルビル、ヘテロ原子含有ヒドロカルビルおよび置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビルから独立して選ばれる。
【0060】
さらに、X、X、L、L、L、R、R、R、R3A、R、およびR4Aの任意の2つ以上は一緒になって環状基を形成することができ、X、X、L、L、L、R、R、R、R3A、R、およびR4Aの1以上が担体に結合することができる。
【0061】
好ましくは、R3AおよびR4Aは結合して環状基を形成し、カルベン配位子が複素環カルベンであるようにされ、好ましくはたとえば式(VI)の構造を有するN−複素環カルベンのようなN−複素環カルベンとされる。
【0062】
【化6】
ここで、RとRは先に定義されたとおりであり、好ましくはRとRの少なくとも1つ、より好ましくはRとRの両方が、単環ないし5環の脂環式または芳香族環であり、任意に1以上のヘテロ原子および/または置換基を含む。Qは連結基であり、典型的にはヒドロカルビレン結合基であり、たとえば置換されたヒドロカルビレン、ヘテロ原子含有ヒドロカルビレン、および置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビレン結合基であることができ、Q内の隣接した原子上の2つ以上の置換基も結合して追加の環状構造を形成することができ、これは同様に置換されて2環ないし5環の環状基の縮合多環構造を提供することができる。Qはしばしば、必ずではないが、2つの原子の連結基あるいは3つの原子の連結基である。
【0063】
として好適なN−複素環カルベン配位子の例としては以下を含むが、これに限定されるものではない:
【0064】
【化7】
【0065】
Mがルテニウムである場合、好ましい錯体は式(VII)の構造を有する。
【0066】
【化8】
【0067】
より好ましい実施態様では、Qは構造−CR1112−CR1314−あるいは−CR11=CR13である2原子結合であり、好ましくは−CR1112−CR1314−であり、ここでR11、R12、R13およびR14は、水素、ヒドロカルビル、置換されたヒドロカルビル、ヘテロ原子含有ヒドロカルビル、置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビルおよび官能基から独立して選ばれる。官能基の例としては、カルボキシル、C−C20アルコキシ、C−C24アリールオキシ、C−C20アルコキシカルボニル、C−C24アルコキシカルボニル、C−C24アシルオキシ、C−C20アルキルチオ、C−C24アリールチオ、C−C20アルキルスルホニル、およびC−C20アルキルスルフィニルがあげられ、これらは任意にC−C12アルキル、C−C12アルコキシ、C−C14アリール、水酸基、スルフヒドリル、ホルミルおよびハライドから選ばれた1つ以上の部位で置換される。R11、R12、R13およびR14は、好ましくは、水素、C−C12アルキル、置換されたC−C12アルキル、C−C12ヘテロアルキル、置換されたC−C12ヘテロアルキル、フェニル基および置換されたフェニル基から独立して選ばれる。あるいは、R11、R12、R13およびR14の任意の2つが一緒に結合して、置換されたもしくは非置換の、飽和もしくは不飽和の環構造、たとえばC−C12脂環式基またはCまたはCのアリール基、を形成することができる。これらはそれ自体置換されることができ、例えば脂環式もしくは芳香族基と結合しもしくは縮合し、または他の置換基で置換されることができる。
【0068】
およびRが芳香族基の場合、必ずではないが、それらは典型的には1つあるいは2つの芳香族環で構成される。それらは置換されなくてもよいし、置換されてもよく、たとえばRおよびRは、フェニル、置換されたフェニル、ビフェニル、置換されたビフェニルまたは同種のものであることができる。1つの好ましい実施態様においては、RおよびRは同じであり、それぞれ非置換のフェニルであるか、またはC−C20アルキル、置換されたC−C20アルキル、C−C20ヘテロアルキル、置換されたC−C20ヘテロアルキル、C−C24アリール、置換されたC−C24アリール、C−C24ヘテロアリール、C−C24アルアルキル、C−C24アルカリールあるいはハロゲン化物から選ばれた3つまでの置換基で置換されたフェニル基である。好ましくは、存在する任意の置換基は水素、C−C12アルキル、C−C12アルコキシ、C−C14アリール、置換されたC−C14アリールあるいはハロゲン化物である。例として、RおよびRはメシチルである。
【0069】
第3の群の触媒は式(III)の構造を有する。ここでM、m、n、X、X、R、およびRは第1群の触媒において定義されたとおりである。Lは強く配位する中性の電子供与体配位子であり、たとえば第1群および第2群の触媒において記載したようなものである。またLとLは、任意に置換された複素環の形をしている弱く配位する中性の電子供与体配位子である。再び、nはゼロまたは1である。Lは存在することがあるし、存在しないこともある。一般に、第3の群の触媒では、LとLは任意に置換された5または6員の単環であり、1から4、好ましくは1から3、最も好ましくは1から2のヘテロ原子を含むか、あるいは任意に2から5個の5員または6員の単環で構成された、置換された二環もしくは多環構造である。複素環基が置換されている場合、それは配位ヘテロ原子上に置換されるべきでない。また、一般に複素環基の内のすべての環状部分は3を越える置換基で置換されない。
【0070】
第3の群の触媒の群については、LとLの例としては、非制限的に、窒素、硫黄、酸素あるいはそれらの混合物を含む複素環があげられる。
【0071】
およびLに適切な窒素含有複素環の例としてはピリジン、ビピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ビピリダミン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,3トリアジン、ピロール、2H−ピロール、3H−ピロール、ピラゾール、2H−イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、インドール、3H−インドール、1H−イソインドール、シクロペンタ(b)ピリジン、インダゾール、キノリン、ビスキノリン、イソキノリン、ビスイソキノリン、シンノリン、キナゾリン、ナフチリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ピラゾリジン、キヌクリジン、イミダゾリジン、ピコリリミン、プリン、ベンズイミダゾール、ビスイミダゾール、フェナジン、アクリジンおよびカルバゾールがあげられる。
【0072】
およびLに適切な硫黄含有複素環の例としては、チオフェン、1,2−ジチオール、1,3−ジチオール、チエピン、ベンゾ(b)チオフェン、ベンゾ(c)チオフェン、チオナフテン、ジベンゾチオフェン、2H−チオピラン、4H−チオピラン、およびチオアントレンがあげられる。
【0073】
およびLに適切な酸素含有複素環の例としては、2H−ピラン、4H−ピラン、2−ピロン、4−ピロン、1,2−ダイオキシン、1,3−ダイオキシン、オキセピン、フラン、2H−1−ベンゾピラン、クマリン、クマロン、クロメン、クロマン−4−オン、イソクロメン−1−オン、イソクロメン−3−オン、キサンテン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンおよびジベンゾフランがあげられる。
【0074】
およびLに適切な混合複素環の例としては、イソオキサゾール、オキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3,4−オキサトリアゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、3H−l,2,3−ジオキサゾール、3H−l,2−オキサチオール、1,3−オキサチオール、4H−1,2−オキサジン、2H−l,3−オキサジン、1,4−オキサジン、1,2,5−オキサチアジン、o−イソオキサジン、フェノキサジン、フェノチアジン、ピラノ[3,4−b]ピロール、インドキサジン、ベンズオキサゾール、アントラニルおよびモルホリンがあげられる。
【0075】
好ましいLおよびL配位子は、芳香族の窒素含有および酸素含有複素環であり、特に好ましいLおよびL配位子は単環のNヘテロアリール配位子であり、これは任意に1から3、好ましくは1または2の置換基で置換される。特に好ましいLおよびL配位子の特定の例としては、ピリジンおよび置換されたピリジン、たとえば3−ブロモピリジン、4−ブロモピリジン、3,5−ジブロモピリジン、2,4,6−トリブロモピリジン、2,6−ジブロモピリジン、3−クロロピリジン、4−クロロピリジン、3,5−ジクロロピリジン、2,4,6−トリクロロピリジン、2,6−ジクロロピリジン、4−ヨードピリジン、3,5−ジヨードピリジン、3,5−ジブロモ−4−メチルピリジン、3,5−ジクロロ−4−メチルピリジン、3,5−ジメチル−4−ブロモピリジン、3,5−ジメチルピリジン、4−メチルピリジン、3,5−ジイソプロピルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2,4,6−トリイソプロピルピリジン、4−(tert−ブチル)ピリジン、4−フェニルピリジン、3,5−ジフェニルピリジン、3,5−ジクロロ−4−フェニルピリジン、および類似物があげられる。
【0076】
一般に、任意のLおよび/またはL上の置換基は、ハロ、C−C20アルキル、置換されたC−C20アルキル、C−C20ヘテロアルキル、置換されたC−C20ヘテロアルキル、C−C24アリール、置換されたC−C24アリール、C−C24ヘテロアリール、置換されたC−C24ヘテロアリール、C−C24アルカリール、置換されたC−C24アルカリール、C−C24ヘテロアルカリール、置換されたC−C24ヘテロアルカリール、C−C24アルアルキル、置換されたC−C24アルアルキル、C−C24ヘテロアルアルキル、置換されたC−C24ヘテロアルアルキル、および官能基から選択され、これらは非制限的に以下の適当な官能基を有する:C−C20アルコキシ、C−C24アリールオキシ、C−C20アルキルカルボニル、C−C24アリールカルボニル、C−C20アルキルカルボニルオキシ、C−C24アリールカルボニルオキシ、C−C20アルコキシカルボニル、C−C24アリールオキシカルボニル、ハロカルボニル、C−C20アルキルカルボナート、C−C24アリールカルボナート、カルボキシ、カルボキシラート、カルバモイル、モノ−(C−C20アルキル)置換カルバモイル、ジ−(C−C20アルキル)置換カルバモイル、ジ−N−(C−C20アルキル)、N−(C−C24アリール)置換カルバモイル、モノ−(C−C24アリール)置換カルバモイル、ジ−(C−C24アリール)置換カルバモイル、チオカルバモイル、モノ−(C−C20アルキル)置換チオカルバモイル、ジ−(C−C20アルキル)置換チオカルバモイルおよびジ−N−(C−C20アルキル)−N−(C−C24アリール)置換チオカルバモイル、モノ−(C−C24アリール)置換チオカルバモイル、ジ−(C−C24アリール)置換チオカルバモイル、カルバミド、ホルミル、チオホルミル、アミノ、モノ−(C−C20アルキル)置換アミノ、ジ−(C−C20アルキル)置換アミノ、モノ−(C−C24アリール)置換アミノ、ジ−(C−C24アリール)置換アミノ、ジ−N−(C−C20アルキル)、N−(C−C24アリール)置換アミノ、C−C20アルキルアミド、C−C24アリールアミド、イミノ、C−C20アルキルイミノ、C−C24アリールイミノ、ニトロおよびニトロソ。さらに、2つの隣接した置換基は一緒になって、一般には5員または6員の脂肪族環または芳香族環で、任意に1から3個のヘテロ原子および上記の1から3個の置換基を有する環を形成することができる。
【0077】
とL上の好ましい置換基としては、非制限的に、ハロ、C−C12アルキル、置換されたC−C12アルキル、C−C12ヘテロアルキル、置換されたC−C12ヘテロアルキル、C−C14アリール、置換されたC−C14アリール、C−C14ヘテロアリール、置換されたC−C14ヘテロアリール、C−C16アルカリール、置換されたC−C16アルカリール、C−C16ヘテロアルカリール、置換されたC−C16ヘテロアルカリール、C−C16アルアルキル、置換されたC−C16アルアルキル、C−C16ヘテロアルアルキル、置換されたC−C16ヘテロアルアルキル、C−C12アルコキシ、C−C14アリールオキシ、C−C12アルキルカルボニル、C−C14アリールカルボニル、C−C12アルキルカルボニルオキシ、C−C14アリールカルボニルオキシ、C−C12アルコキシカルボニル、C−C14アリールオキシカルボニル、ハロカルボニル、ホルミル、アミノ、モノ−(C−C12アルキル)置換アミノ、ジ−(C−C12アルキル)置換アミノ、モノ−(C−C14アリール)置換アミノ、ジ−(C−C14アリール)置換アミノおよびニトロがあげられる。
【0078】
先のもので、最も好ましい置換基はハロ、C−Cアルキル、C−Cハロアルキル、C−Cアルコキシ、フェニル、置換されたフェニル、ホルミル、N,N−ジ(C−Cアルキル)アミノ、ニトロ、および前記の窒素含有複素環(例えばピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピラジン、ピリミジン、ピリジン、ピリダジンなどを含む)である。
【0079】
とLは一緒になって、N、O、SあるいはPのような配位ヘテロ原子を2またはそれ以上、一般的には2つを有する二座または多座配位子を形成することができる。好ましいそのような配位子はブルックハートタイプのジイミン配位子である。代表的な1つの二座配位子は、式(VIII)の構造を有する。
【0080】
【化9】
ここでR15、R16、R17およびR18は、ヒドロカルビル(例えばC−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C24アリール、C−C24アルカリールあるいはC−C24アルアルキル)、置換されたヒドロカルビル(例えば置換されたC−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C24アリール、C−C24アルカリールあるいはC−C24アルアルキル)、ヘテロ原子含有ヒドロカルビル(例えばC−C20ヘテロアルキル、C−C24ヘテロアリール、ヘテロ原子含有C−C24アルアルキル、あるいはヘテロ原子含有C−C24アルカリール)、あるいは置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビル(例えば置換されたC−C20ヘテロアルキル、C−C24ヘテロアリール、ヘテロ原子含有C−C24アルアルキルあるいはヘテロ原子含有C−C24アルカリール)であるか、または(1)R15およびR16、(2)R17およびR18、(3)R16およびR17、あるいは(4)R15およびR16、およびR17およびR18の両方が一緒になって環、すなわちN含有複素環を形成する。そのような場合での好ましい環状基は5−または6員環であり、典型的には芳香族環である。
【0081】
式(III)の構造を有する触媒の第4の群では、置換基のうちの2つは一緒になって二座配位子または三座配位子を形成する。二座配位子の例としては、非制限的に、ビフォスフィン、ジアルコキシド、アルキルジケトナートおよびアリールジケトナートがあげられる。具体的な例としては、−P(Ph)CHCHP(Ph)−、−As(Ph)CHCHAs(Ph)−、−P(Ph)CHCHC(CF−、ビナフトレートジアニオン、ピナコレートジアニオン、−P(CH(CHP(CH−、および−OC(CH(CHCO−があげられる。好ましい二座配位子は、−P(Ph)CHCHP(Ph)−および−P(CH(CHP(CH−である。三座配位子としては、非制限的に(CHNCHCHP(Ph)CHCHN(CHがあげられる。他の好ましい三座配位子は、X、X、L、L、L、R、およびRの任意の3個(たとえば、X、L、およびL)が一緒になって、シクロペンタジエニル、インデニル、あるいはフルオレニルとなり、それぞれは任意にC−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C20アルキル、C−C20アリール、C−C20アルコキシ、C−C20アルケニルオキシ、C−C20アルキニルオキシ、C−C20アリールオキシ、C−C20アルコキシカルボニル、C−C20アルキルチオ、C−C20アルキルスルホニル、C−C20アルキルスルフィニルで置換され、これらのそれぞれはさらにC−Cアルキル、ハロゲン化物、C−Cアルコキシで置換されるか、またはハロゲン化物、C−CアルキルあるいはC−Cアルコキシで任意に置換されたフェニル基で置換される。より好ましくは、このタイプの化合物では、X、LおよびLは一緒になってシクロペンタジエニルまたはインデニルとなり、それぞれは任意にビニル、C−C10アルキル、C−C20アリール、C−C10カルボン酸塩、C−C10アルコキシカルボニル、C−C10アルコキシ、あるいはC−C20アリールオキシで置換され、これらのそれぞれは任意にC−Cアルキル、ハロゲン化物、C−Cアルコキシで置換され、またはハロゲン化物、C−CアルキルあるいはC−Cアルコキシで任意に置換されたフェニルで置換される。最も好ましくは、X、LおよびLは一緒になってシクロペンタジエニルとなり、任意にビニル、水素、メチルあるいはフェニル基で置換される。四座配位子としては、非制限的に、OC(CHP(Ph)(CHP(Ph)(CHCO、フタロシアニン類およびポルフィリンがあげられる。
【0082】
とRが連結される錯体は触媒の第4の群の例であり、一般に「グラブス−ホベイダ」触媒と呼ばれる。グラブス−ホベイダタイプの触媒の例としては、下記があげられる:
【0083】
【化10】
ここで、L、X、X、およびMは触媒の他の群について記載されたとおりである。
【0084】
式(III)の構造を有する上記触媒に加えて、他の遷移金属カルベン錯体としては、非制限的に以下のものを含む。
【0085】
形式的に+2の酸化状態にある金属中心を有する、中性のルテニウムあるいはオスミウム金属カルベン錯体であり、電子数16で、5座配位子であり、一般式(IX)を有するもの;
【0086】
形式的に+2の酸化状態にある金属中心を有する、中性のルテニウムあるいはオスミウム金属カルベン錯体であり、電子数18で、6座配位子であり、一般式(X)を有するもの;
【0087】
形式的に+2の酸化状態にある金属中心を有する、カチオン性のルテニウムあるいはオスミウム金属カルベン錯体であり、電子数14で、4座配位子であり、一般式(XI)を有するもの;
【0088】
形式的に+2の酸化状態にある金属中心を有する、カチオン性のルテニウムあるいはオスミウム金属カルベン錯体であり、電子数14で、5座配位子であり、一般式(XII)を有するもの;
【0089】
【化11】
ここで、X、X、L、L、n、L、RおよびRは先に4種類の触媒について定義されたとおりである;rとsは独立してゼロまたは1である;tはゼロから5までの整数である;
Yは、任意の非配位アニオン(例えばハロゲン化物イオン、BFなど)である;ZとZは、−O−、−S−、−NR−、−PR−、−P(=O)R、−P(OR)−、−P(=O)(OR)−、−C(=O)−、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OC(=O)O−、−S(=O)−、および−S(=O)−から独立して選ばれる;Zは、−P(Rあるいは−N(Rのような任意のカチオン部位である;また、
、X、L、L、L、n、Z、Z、Z、R、およびRの任意の2つ以上は一緒になって、環状基(例えば多座配位子)を形成することができ、
、X、L、L、L、n、Z、Z、Z、R、およびRの任意の1つ以上は担体に結合することができる。
【0090】
他の適当な錯体は米国特許番号7,365,140(Piersら)で開示されるようなカチオン性置換基を有する8族遷移金属カルベンであって、一般式(XIII)を有するものがあげられる:
【0091】
【化12】
ここで、
Mは8族遷移金属;
およびLは中性電子供与性配位子;
およびXはアニオン性配位子;
は水素、C−C12ヒドロカルビル、または置換されたC−C12ヒドロカルビル;
Wは、任意に置換された、および/またはヘテロ原子含有C−C20ヒドロカルビレン連結基である;
Yは陽電荷を有する15族または16族元素であって、水素、C−C12ヒドロカルビル、置換されたC−C12ヒドロカルビル、ヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビル、または置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビルで置換されたもの;
は陰電荷を有する対イオン;
mは、0または1であり;
nは、ゼロまたは1である。
ここでL、L、X、X、R、W、およびYの任意の二個以上が一緒に環式基を形成することができる。
式(XIII)中のM、L、L、X、およびXは、本明細書で先に定義されたとおりである。
【0092】
Wは、任意に置換された、および/またはヘテロ原子含有C−C20ヒドロカルビレン連結基であり、典型的には任意に置換されたC−C12アルキレン連結基であり、たとえば−(CH−、式中iは1から12の整数であり、任意の水素原子が、本明細書で「置換される」との用語の定義に関して記載されたような、非水素の置換基で置換されることができる。添字nがゼロまたは1であるとは、Wが存在しているか、または存在していないことを意味する。好適な実施例では、nはゼロである。
【0093】
Yは陽電荷を有する15族原子または16族原子であり、水素、C−C12ヒドロカルビル、置換されたC−C12ヒドロカルビル、ヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビル、または置換されたヘテロ原子含有ヒドロカルビルで置換されたものである。
好ましくは、Yは、C−C12ヒドロカルビルで置換された陽電荷を有する15族または16族元素である。Y基の代表例としては、P(R、P(R、As(R、S(R、O(Rがあげられる;ここでRは独立にC−C12ヒドロカルビルから選択される。好ましいY基は、RがC−C12アルキルおよびアリール、したがってたとえばメチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびフェニルから独立して選択される構造式P(Rを有するホスフィンである。また、Yは、陽電荷を有する15族または16族元素を含む複素環基であることができる。例えば、15族または16族元素が窒素であるときに、Yは、任意に置換されたピリジニル、ピラジニル、またはイミダゾリル基であることができる。
【0094】
はカチオン錯体に伴う、陰電荷を有する対イオンであり、陰イオンが錯体の成分、メタセシス触媒反応に使用される反応体と試薬に不活性であれば任意の陰イオンであってよい。好ましいZ部位は例えば、弱配位性アニオン、たとえば[B(C、[BF、[B(C、[CFS(O)、[PF、[SbF、[AlCl、[FSO、[CB11Cl、[CB11Br、および[SOF:SbFがあげられる。Zとして適当な好ましいアニオン類は、式、B(R15、式中R15はフルオロ、アリール、過弗素化アリールであり、典型的にはフルオロまたは過弗素化アリールである、を有するものである。Zとして適当な最も好ましい陰イオンは、BFおよびB(Cであり、最適には後者である。
【0095】
たとえばグラブス他への米国特許番号5,312,940に開示されているように、X、X、L、L、R、W、およびYの任意の二個以上が一緒に環式基を形成できることは強調されるべきである。X、X、L、L、R、W、およびYのいずれかが結合して環式基を形成する時、これらの環式基は5員環または6員環であることができ、または2または3個の5員環または6員環を含むことができ、これらは縮合しても結合しても良い。このセクションの(1)に記載されたように、環式基は脂肪族または芳香族であることができ、ヘテロ原子を含むことができ、および/または置換されることができる。
【0096】
式(XIII)の構造に包含される例示的な触媒の1つの群は、mとnがゼロであるものであり、たとえば錯体は式(XIV)の構造を有する:
【0097】
【化13】
可能で好ましいX、X、およびL配位子は、先の式(I)の錯体に関して記載されたYおよびZ部位と同じである。
Mは、RuまたはOsであり、望ましくはRuであり、Rは水素またはC−C12アルキルであり、好ましくは水素である。
【0098】
式(XIV)タイプの触媒では、Lは好ましくは式(XV)の構造を有するヘテロ原子含有カルベン配位子である:
【0099】
【化14】
錯体(XIV)は式(XVI)の構造を有する:
【0100】
【化15】
式中、X、X、R、R、Y、およびZは先に定義されたとおりであり、残りの置換基は以下の通りである:
【0101】
およびZは、典型的にはN、O、SおよびPから選ばれたヘテロ原子である。OとSが二価であるので、ZがOまたはSである場合jは必ずゼロである。またZがOまたはSである場合、kは必ずゼロである。しかしながら、ZがNまたはPである場合jは1である。ZがNまたはPである場合、kは1である。好ましい実施態様では、ZとZの両方はNである。
【0102】
、Q、QおよびQが連結基である場合、例えば、C−C12ヒドロカルビレン、置換されたC−C12ヒドロカルビレン、ヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビレンおよび置換されたヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビレン、あるいは−(CO)−であり、w、x、y、zは独立してゼロまたは1である。すなわちそれぞれの連結は任意である。好ましくは、w、x、yおよびzはすべてゼロである。
【0103】
、R3A、R、およびR4Aは、水素、C−C20ヒドロカルビル、置換されたC−C20ヒドロカルビル、ヘテロ原子含有C−C20ヒドロカルビルおよび置換されたヘテロ原子含有C−C20ヒドロカルビルから独立して選ばれる。
【0104】
好ましくはw、x、yおよびzはゼロであり、ZとZはNであり、R3AおよびR4Aは結合して−Q−を形成し、錯体は式(XVII)の構造を有するようにされる:
【0105】
【化16】
式中、RおよびRは先に定義されたとおりであり、好ましくはRとRの少なくとも1つ、より好ましくはRとRの両方が、単環ないし5環の脂環式または芳香族環であり、任意に1以上のヘテロ原子および/または置換基を含む。Qは連結基であり、典型的にはヒドロカルビレン結合であり、たとえばC−C12ヒドロカルビレン、置換されたC−C12ヒドロカルビレン、ヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビレン、および置換されたヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビレン結合であることができ、Q内の隣接した原子上の2つ以上の置換基も結合して追加の環状構造を形成することができ、これは同様に置換されて2環ないし5環の環状基の縮合多環構造を提供することができる。Qはしばしば、必ずではないが、2つの原子間の連結基あるいは3つの原子間の連結基であり、たとえば−CH−CH−、−CH(Ph)CH(Ph)−、式中Phはフェニル;=CR−N=であり、非置換(R=水素)または置換(R=水素以外)トリアゾリル基を形成する;または−CH−SiR−CH−(式中、Rは水素、アルキル、アルコキシルなど)である。
【0106】
より多くの好適な実施態様では、Qは以下を含む2原子の連結基である;−CR−CR1011−または−CR=CR10−、好ましくは−CR−CR1011−、式中、R、R、R10、およびR11は、水素、C−C12ヒドロカルビル、置換されたC−C12ヒドロカルビル、ヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビル、置換されたヘテロ原子含有C−C12ヒドロカルビル、およびこのセクションの(1)で定義された官能基である。官能基の例としては、カルボキシル、C−C20アルコキシ、C−C20アリールオキシ、C−C20アルコキシカルボニル、C−C20アルコキシカルボニル、C−C20アシルオキシ、C−C20アルキルチオ、C−C20アリールチオ、C−C20アルキルスルホニル、およびC−C20アルキルスルフィニルがあげられ、これらは任意に1種以上の部位がC−C10アルキル、C−C10アルコキシル、C−C20アリール、ヒドロキシル、スルフヒドリル基(sulfhydryl)、ホルミル、およびハロゲン化物から選択された基で置換されていてもよい。あるいはまた、R、R、R10、およびR11の任意の2つが互いに結合し、置換または非置換の、飽和または不飽和の環状構造、例えば、C−C12脂環状基、CまたはCアリール基を形成することができ、それらはそれ自身置換されることができ、たとえば脂環式基または芳香族基と結合ないし縮合することができ、または他の置換基を有することができる。
【0107】
そのような式(XIII)の錯体、およびその製造法に関する詳細は、本明細書で参照され組み込まれる米国特許第7,365,140から得られることができる。
【0108】
触媒の技術分野における当業者には理解されるように、本明細書に記載された触媒のすべてに対する好適な担体は、合成、半合成、または天然由来の物質であることができる。またそれらは有機または無機物質、たとえばポリマー、セラミック、または金属質であることができる。担体への結合は、必ずではないが、一般には共有結合であり、該共有結合は直接または間接的なものであることができ、間接的である場合には、典型的には担体表面の官能基を通して結合される。
【0109】
この開示の反応に使用できる触媒の非限定的な例はPCT/US2008/009635の38−45頁に詳細に記載される。この特許は本明細書で参照され組み込まれる。
【0110】
メタセシス触媒を使用するための技術は当該技術分野で知られている(たとえば米国特許第7,102,047;6,794,534;6,696,597;6,414,097;6,306,988;5,922,863;5,750,815;および米国特許公開2007/0004917A1のメタセシス触媒と配位子を参照)。これらのすべては、その全体が本明細書で参照され、組み込まれる。示された多くのメタセシス触媒はマテリア インク(Materia,Inc.パサディナ、カリフォルニア)によって製造されている。
【0111】
追加のメタセシス触媒の非制限的な例としては、モリブデン、オスミウム、クロム、レニウム、およびタングステンから成る群から選択された金属カルベン錯体があげられる。「錯体」との用語は、遷移金属原子のような金属と、それに配位または結合する少なくとも1つの配位子または錯化剤とをいう。そのような配位子は典型的には、アルキンまたはアルケンメタセシスに有用な金属カルベン錯体におけるルイス塩基である。
そのような配位子の典型的な例はホスフィン、ハロゲン化物、および安定化されたカルベンである。いくつかのメタセシス触媒は複数の金属または金属助触媒を使用することができる(例えば、タングステンハロゲン化物、テトラアルキルすず化合物、および有機アルミニウム化合物を含む触媒)。
【0112】
メタセシス反応プロセスに固定化触媒を使用することができる。固定化触媒は、触媒および担体を含む系であり、その触媒は担体と会合する。触媒と担体との例示的な会合は、化学結合または弱い相互作用(例えば、水素結合、ドナー・アクセプター相互作用)によって触媒またはその一部と担体またはその一部との間で起こり得る。担体は、触媒を担持するのに適した任意の材料を包含することが意図される。典型的には、固定化触媒は、液相または気相の反応物および生成物に作用する固相触媒である。例示的な担体は、ポリマー、シリカまたはアルミナである。かかる固定化触媒は、流動プロセスで使用することができる。固定化触媒は、生成物の精製および触媒の回収を簡易化することができ、その結果、触媒のリサイクルがより簡便となる。
【0113】
メタセシス反応プロセスは、所望のメタセシス反応生成物を生成するのに適した任意の条件下で行われる。例えば、所望の生成物を生成し、かつ望ましくない副生成物を最小限に抑えるように化学量論、雰囲気、溶媒、温度および圧力が選択される。メタセシス反応プロセスは、不活性雰囲気下で行われ得る。同様に、反応物を気体として供給する場合、不活性気体希釈剤が使用できる。不活性雰囲気または不活性気体希釈剤は一般に、不活性ガスであり、その気体はメタセシス触媒と相互作用せず、触媒作用を実質的に妨げないことを意味する。例えば、特定の不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0114】
同様に、溶媒を使用する場合には、選択される溶媒は、メタセシス触媒に対して実質的に不活性であるように選択される。例えば、実質的に不活性な溶媒としては、限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族溶媒;およびジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の塩素化アルカン類が挙げられる。
【0115】
特定の実施形態において、メタセシス反応混合物に配位子が添加される。配位子を使用する多くの実施形態では、配位子は、触媒を安定化し、したがって触媒のターンオーバー数を増加させる分子であるように選択される。場合によっては、配位子によって、反応選択性および生成物分布が変化する。使用することができる配位子の例としては、限定されないが、例えば、トリシクロヘキシルホスフィンおよびトリブチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン類;トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィン類;ジフェニルシクロヘキシルホスフィンなどのジアリールアルキルホスフィン類;2,6−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジンなどのピリジン類;などのルイス塩基配位子ならびに、ホスフィンオキシド類およびホスフィニット類などの他のルイス塩基配位子が挙げられる。触媒の寿命を延ばす添加剤もまた、メタセシス反応時に存在することができる。
【0116】
メタセシス反応温度は反応速度を制御する変数であり、その温度は、許容可能な速度で所望の生成物が得られるように選択される。メタセシス反応温度は、−40℃を超えることができ、約−20℃を超えることができ、典型的には約0℃を超え、または約20℃を超える。典型的にはメタセシス反応温度は、約150℃未満、典型的には約120℃未満である。メタセシス反応の例示的な温度範囲は、約20℃〜約120℃の範囲である。
【0117】
メタセシス反応は、任意の望ましい圧力下で行うことができる。典型的には溶解状態でクロスメタセシス試薬を維持するのに十分に高い全圧を維持するのが望ましい。したがって、クロスメタセシス試薬の分子量が増加するにしたがって、クロスメタセシス試薬の沸点が高くなることから、圧力範囲の下限が一般に低下する。全圧は、約10kPaを超えるように、一部の実施形態では、約30kPを超えるように、または約100kPaを超えるように選択される。典型的には反応圧力は、約7000kPa以下であり、一部の実施形態では、約3000kPa以下である。メタセシス反応の例示的な圧力範囲は、約100kPa〜約3000kPaである。
【0118】
一部の実施形態において、メタセシス反応は、遷移金属成分および非遷移金属成分の両方を含有する系によって触媒される。最も活性かつ最も多く使用される触媒系は、第VIA族遷移金属、例えば、タングステンおよびモリブデンから誘導される。
【0119】
一部の実施形態において、不飽和ポリオールエステルは、メタセシス反応に供する前に部分水素化される。不飽和ポリオールエステルの部分水素化によって、その後のメタセシス反応において利用可能な二重結合の数が減少する。一部の実施形態では、不飽和ポリオールエステルをメタセシス反応させ、不飽和ポリオールエステルメタセシス反応生成物を形成し、次いで、不飽和ポリオールエステルメタセシス反応生成物を水素化して(例えば、部分または完全水素化して)、水素化不飽和ポリオールエステルメタセシス反応生成物が形成される。いくつかの実施態様では、追加の水素化サイクルが、主としてC−C21パラフィン(アルカン)、望ましくはC−C15パラフィン(アルカン)への不飽和ポリオールエステルの変換を助けるために利用される。
【0120】
水素化は、植物油などの二重結合含有化合物を水素化する公知の方法にしたがって行われる。一部の実施形態では、不飽和ポリオールエステルまたは不飽和ポリオールエステルメタセシス反応生成物は、活性状態まで水素で化学的に還元されたニッケル触媒の存在下で水素化される。担持ニッケル水素化触媒の市販の例としては、商品名「NYSOFACT」、「NYSOSEL」、および「NI5248D」(エンゲルハード社、ニューハンプシャー州アイセリン:Englehard Corporation,Iselin,NH))が挙げられる。その他の担持ニッケル水素化触媒としては、商品名「PRICAT 9910」、「PRICAT 9920」、「PRICAT 9908」、「PRICAT 9936」(ジョンソン・マッセイ キャタリスツ、マサチューセッツ州ウォードヒル:Johnson Matthey Catalysts,Ward Hill,MA)から市販されている触媒が挙げられる。
【0121】
水素化触媒は、例えば、ニッケル、銅、パラジウム、白金、モリブデン、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウムまたはイリジウムを含む。金属の組み合わせも使用することができる。有用な触媒は、不均一系または均一系触媒である。一部の実施形態では、触媒は、担持ルテニウム系触媒である。
【0122】
一部の実施形態において、水素化触媒は、担体上に提供された、活性状態まで水素で化学的に還元されたニッケル(すなわち、還元ニッケル)を含む。担体は、多孔性シリカ(例えば、多孔質珪藻土、滴虫土、珪藻土、または珪質土)またはアルミナを含む。触媒は、ニッケル1g当たりの高ニッケル表面積を特徴とする。
【0123】
担持ニッケル触媒の粒子は、硬化トリアシルグリセリド、食用油または獣脂を含む保護媒質中に分散される。例示的な実施形態において、担持ニッケル触媒は、ニッケル約22重量%のレベルで保護媒質中に分散される。
【0124】
担持ニッケル触媒は、タイラー(Taylor)への米国特許第3,351,566に報告されている種類の触媒である。これらの触媒は、安定化された高ニッケル表面積45〜60平方メートル/gおよび総表面積225〜300平方メートル/gを有する、固体ニッケル・シリカを含む。活性化触媒がニッケル25〜50重量%を含有し、シリカ総含有率30〜90重量%となるような割合で、多孔性シリカ粒子上へのニッケルヒドロシリケートなどのように、溶液からニッケルイオンおよびケイ酸イオンを沈殿させることによって、触媒が製造される。粒子は、空気中で315.6℃から482.2℃(600°F〜900°F)でか焼し、次いで水素で還元することによって活性化される。
【0125】
高ニッケル含有率を有する有用な触媒は、本明細書において参照され組み込まれるEP0168091に記載されており、その触媒は、ニッケル化合物の沈殿によって生成される。可溶性アルミニウム化合物を沈殿ニッケル化合物のスラリーに添加し、沈殿物を熟成させる。得られた触媒前駆物質を還元した後、還元された触媒は典型的には、全ニッケル1g当たり、ニッケル表面積約90〜150平方メートルを有する。その触媒は、範囲2〜10のニッケル/アルミニウム原子比を有し、かつ約66重量%を超えるニッケル総含有率を有する。
【0126】
有用な高活性ニッケル/アルミナ/シリカ触媒が、EP167,201に記載されている。還元された触媒は、触媒中の全ニッケル1g当たりの、高ニッケル表面積を有する。
有用なニッケル/シリカ水素化触媒が、米国特許第6,846,772に記載されている。この触媒は、ニッケルアミン炭酸塩水溶液中の粒状シリカ(例えば、多孔質珪藻土)のスラリーを合計少なくとも200分間、7.5を超えるpHで加熱し、続いて濾過し、洗浄し、乾燥し、任意にか焼することによって生成される。ニッケル/シリカ水素化触媒は、向上した濾過特性を有すると報告されている。米国特許第4,490,480には、ニッケル総含有率5〜40重量%を有する高表面積のニッケル/アルミナ水素化触媒が報告されている。
【0127】
担持ニッケル水素化触媒の市販の例としては、商品名「NYSOFACT」、「NYSOSEL」、および「NI5248D」(エンゲルハード社、ニューハンプシャー州アイセリン)から入手可能な触媒が挙げられる。その他の担持ニッケル水素化触媒としては、商品名「PRICAT 9910」、「PRICAT 9920」、「PRICAT 9908」、「PRICAT 9936」(ジョンソン・マッセイ キャタリスツ)から市販されている触媒が挙げられる。
【0128】
水素化は、バッチプロセスまたは連続プロセスで行うことができ、部分水素化または完全水素化であることができる。代表的なバッチプロセスにおいて、攪拌反応容器のヘッドスペースから真空を引いて、水素化される材料(例えば、RBDダイズ油またはRBDダイズ油メタセシス反応生成物)を反応容器に投入する。次いで、材料を所望の温度に加熱する。典型的には温度は、約50℃〜350℃、例えば、約100℃〜300℃または約150℃〜250℃の範囲である。望ましい温度は、例えば水素ガス圧力によって異なる。典型的にはガス圧力が高くなると、温度を下げる必要がある。別の容器内で、水素化触媒を混合容器に計り入れ、少量の水素化される材料(例えば、RBDダイズ油またはRBDダイズ油メタセシス反応生成物)中にスラリー化する。水素化される材料が所望の温度に達した際に、水素化触媒のスラリーを反応容器に添加する。Hガスが所望の圧力に達するように、水素ガスを反応容器内に注入する。典型的にはHガス圧力は、約15〜3000psig、例えば、約15psig〜90psigの範囲である。ガスの圧力が増加するにしたがって、より特殊な高圧処理装置が必要となる。これらの条件下にて、水素化反応を開始し、温度を所望の水素化温度(例えば、約120℃〜200℃)に上昇させ、例えば冷却コイルで反応物を冷却することによって温度を維持する。所望の水素化度に達した際に、反応物を所望の濾過温度に冷却する。
【0129】
水素化触媒の量は典型的には例えば、使用する水素化触媒の種類、使用する水素化触媒の量、水素化される材料における不飽和度、所望の水素化速度、所望の水素化度(例えば、ヨウ素価(IV)により測定される)、試薬の純度、およびHガス圧力などの多くの因子を考慮して選択される。一部の実施形態において、水素化触媒は、約10重量%以下、例えば約5重量%以下または約1重量%以下の量で使用される。
【0130】
水素化後、水素化触媒は、公知の技術を用いて、例えば濾過によって水素化生成物から除去することができる。一部の実施形態では、水素化触媒は、テキサス州コンローのスパークラーフィルター社、テキサス州コントレ(Sparkler Filters,Inc.,Conroe TX)から市販のフィルターなどのプレート・フレームフィルター(plate and frame filter)を使用して除去される。一部の実施形態では、濾過は、圧力または真空を用いて行われる。濾過性能を向上させるために、濾過助剤を使用してもよい。濾過助剤をメタセシス反応生成物に直接添加してもよく、あるいはフィルターに適用してもよい。濾過助剤の代表的な例としては、珪藻土、シリカ、アルミナ、および炭素が挙げられる。典型的には濾過助剤は、約10重量%以下、例えば約5重量%以下または約1重量%以下の量で使用される。使用された水素化触媒を除去するために、他の濾過技術および濾過助剤も使用することができる。他の実施形態において、水素化触媒は、遠心分離を用い、続いて生成物をデカントすることによって除去される。
【0131】
以下の非限定的な例を参照して本発明について説明する。
【0132】
実施例1
この実施例では、脂肪酸メチルエステルが大豆油から誘導され、メタセシス触媒の存在下で、大豆FAMEをメタセサイズするに十分な条件で1−ブテンと反応させた。それに続いて、メタセサイズ生成物を炭化水素に変換するに十分な条件で水素ガスと反応させた。この反応から得られた炭化水素の分布は以下の表に、化石燃料からの典型的なジェット燃料分布と比較して示されている。
【0133】
【表1】
【0134】
実施例2
この実施例では、ジャケットを有するステンレス製の、5ガロンのParr反応器に、ディップチューブ、オーバーヘッドスターラ、内部冷却/加熱コイル、温度プローブ、試料採取弁、およびヘッドスペースガスの放出弁が取り付けられ、大豆油(6.8kgのSBO、MWn=864.4g/mol、コストコ(Costco)製、ガス・クロマトグラフィーで決定した結果で85%の不飽和)が投入された。大豆油は、窒素パージ(100 mL/分)しながら、1.5時間、200℃で加熱することによって、熱で処理された。Parr反応器内の大豆油は19℃に冷却され、1−ブテン(3.97kg、CPグレード)が加圧された1−ブテンのシリンダからディップチューブを通して加えられた。35gの大豆油内の[1,3−ビス−(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]ジクロロルテニウム(3−メチル−2−ブテニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)(260mg、C827触媒、マテリア社)の懸濁液がフィッシャーポーター圧力容器内で調製され、窒素でおよそ90psigにフィッシャーポーター容器を加圧することによって、ディップチューブを通して室温でParr反応器に加えられた。追加の35gの油が、フィッシャーポーター容器中に残ったC827をすすぎ、Parr反応器に入れるために使用された。反応混合物は2時間60℃で攪拌された。ガス・クロマトグラフィー(gc)で反応進行度がモニターされた。過剰の1−ブテンと他の揮発性ガスの多くをN(100mL/分)流れによってParr反応器のヘッドスペースから排出しつつ、得られたオレフィン/トリグリセリド反応生成物は、一晩冷却され31℃にされた。3首の丸底フラスコに反応混合物を移した。ついでイソプロパノール中のトリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THMP)1.5Mを加えた(30当量 THMP/C827当量)。黄色い混合物は2時間80℃で攪拌され、冷却され、30℃から40℃の間の温度に維持しつつ水で洗浄された。30分後に2つの層に分離した。有機物層の第2の水洗浄は、25℃でエマルションを形成し、一晩分離させた。有機物層は、2時間、無水NaSOの上で分離され、乾燥された。曇った黄色い混合物は濾紙を備えたブフナーろうとで濾過され、透明な黄色い濾液として7.72kgの反応生成物が単離された。反応生成物のアリコートは引き続き60℃、メタノール中で、1%(wt/wt)のNaOMeとエステル交換反応を行い、ガスクロマトグラフ分析された。約15重量%のC−Cオレフィン、約22重量%のC−C18オレフィン、約19重量%のメチル 9−デセノエート、約15重量%のメチル 9−ドデセノエート、約8重量%のC13−C15メチルエステル、および約17重量%のC16−C18メチルエステルが得られた。
【0135】
オレフィン/トリグリセリド反応生成物の325.0gと、炭素触媒上の5%Ru、2.50g(D101002タイプ、51.7%のHO含有量、Johnson−Matthey plc.)を、600mLのステンレス製のParr反応器であって、ディップチューブ、気体飛沫同伴インペラーを有するオーバーヘッドスターラ、内部冷却コイル、温度プローブ、ヘッドスペース弁、および外部加熱マントルを備えた反応器に投入した。反応器はシールされ、内容物は5分間窒素ガスによってパージされた。反応器の漏出が水素ガス500psigで検査され、次いで反応器の圧力が200psigに減少された。システムを80℃まで加熱しつつ、混合物は900rpmで攪拌された。30分の期間にわたって初期の反応が急速に行われ、その間、水素が150から500psigの間の圧力に維持するために反応器に加えられ、温度は153℃に上昇した後、72℃になった。反応器の圧力は水素で500psigに調整された。温度は110℃まで上げられた。反応器内容物はさらに2時間加熱され、周囲温度に冷却され、約50psigにベントされた。液体反応器内容物の濾過されたアリコートのガスクロマトグラフ分析では、アルカンおよび飽和エステルが検出された。これは含んでいた炭素炭素二重結合が水素化されたことを示している。反応器は、21℃で水素で400psigに再充填されて、5.5時間、275から300℃に加熱された。さらに18時間にわたり、追加の水素添加と275−300℃の加熱を4サイクル繰り返し、蓄積された揮発性生成物は、室温で、水素で320psigに反応器に圧力をかけて、100psigでヘッドスペースをベントすることによって、除去された。11の水素添加サイクルにわたる275−300℃での59時間の後、20分間、70℃で蓄積している揮発物の窒素パージを行った。C−C21アルカンは、反応混合物中の有機生成物の半分以上を構成した。その87%が希望のC−C15アルカンであった。ヘキサンとオクタンの少量も見られた。非パラフィン系生産物は、主としてC10−C18の酸、アルコール類、およびエステル類であった。これらはさらなる水素添加サイクルにより、C−C18アルカンへ連続的に転化することが見いだされた。
【0136】
比較例
この例では、大豆油(263g、カルギル、gcによれば10%のC16/90%のC18エステル)と、炭素触媒上の5%Ruの2.51g(D101002タイプ、51.7%のHO含有、ジョンソン−マーシー ピーエルシー(Johnson−Matthey plc)が、600mlのステンレス製のParr反応器で、ディップチューブ、気体飛沫同伴インペラーを有するオーバーヘッドスターラ、内部冷却コイル、温度プローブ、ヘッドスペース弁、および外部加熱マントルを備えた反応器に投入された。反応器はシールされ、内容物は5分間窒素ガスによってパージされた。反応器の漏出が窒素ガス500psigで検査され、次いで反応器は水素で15分間パージされ、反応器は50℃に加熱された。反応器内の水素圧力が200psigに上昇され、システムを110℃まで加熱しつつ、混合物は900rpmで攪拌された。30分の期間にわたって初期の反応が急速に行われ、その間、水素が200から500psigの間の圧力に維持するために反応器に加えられ、温度は115℃に上昇した後、110℃になった。反応器の圧力は水素で500psigに調整された。反応器内容物はさらに3時間撹拌され、反応温度は265℃に上昇し、その温度で3時間保持された。6時間の期間にわたり水素が間歇的に加えられ、反応器圧力は460から510psigの間に維持された。反応器は一晩冷却され、ベントされた。10の水素添加サイクルにわたる275−300℃での67時間の後、反応混合物中の有機生成物は、99重量%以上のC−C21アルカンであり、その18重量%のみが所望のC−C15の範囲であることが見いだされた。
【0137】
1−ブテンと大豆油との反応からの揮発性生成物は、水素炎イオン化検出器(FID)を備えたアジリエント(Agilent)6890ガス・クロマトグラフィー(GC)を使用して分析された。
以下の測定条件と装置が使用された:
カラム:レステック(Restek) Rtx−5、30m×0.25mm(内径
:ID)×0.25μmの膜厚
インジェクター温度:250℃
検出器温度:280℃
オーブン温度:35℃の開始温度、1分の保持時間、8℃/分の速度で80℃まで
の昇温:保持時間:0分、8℃/分の速度で270℃まで昇温、
10分の保持時間:
キャリヤーガス:ヘリウム
平均ガス速度:31.3±3.5%cm/秒(計算値)
分割比:約50:1
【0138】
生成物は、質量スペクトル分析(GCMS−Agilent 5973N)からのサポートデータを利用して、公知の標準とピークを比較することによって、キャラクタライズされた。GCMS分析は、上記と同じ方法により、第2のRtx−5、30m×0.25mm(ID)×0.25μm膜厚のGCカラムを使用して行った。
【0139】
アルカンおよび酸の分析は、アジリエント6850装置と以下の測定条件を使用することで行われた:
カラム:レステック(Restek) Rtx−65、30m×0.32mm(I
D)×0.1μmの膜厚
インジェクター温度:300℃
検出器温度:375℃
オーブン温度:55℃の開始温度、5分の保持時間、20℃/分の速度で350℃
までの昇温:20.25分の保持時間:
キャリヤーガス:水素
流量:1.0mL/分
分割比: 15:1
【0140】
生産物は、公知の標準とピークを比較することによって、キャラクタライズされた。
【0141】
脂肪酸メチルエステル(FAME)分析は、アジリエント6850装置と以下の測定条件を使用することで行われた:
カラム:ジェイ アンド ダブリュ サイエンティフィック(J&W Scientific
)DB-Wax, 30mx0.32mm(ID)x0.5μmの膜厚
インジェクター温度:250℃
検出器温度:300℃
オーブン温度:70℃の開始温度、1分の保持時間、20℃/分の速度で180℃
までの昇温:3℃/分の速度で220℃までの昇温:33.5分の
保持時間:
キャリヤーガス:水素
流量:1.0mL/分
分割比: 50:1
【0142】
上記の実施例は、本発明のプロセスにより得られるC−C15燃料範囲内のアルカンの収量が、公知技術から得られるC−C15燃料範囲内のアルカンに比べて改良されたことを示す。
【0143】
説明された本発明は、改良および別法を有することができ、種々の実施態様が詳細に説明された。さらに、本発明は非限定的な例に基づいて説明されたが、本発明の範囲はそれらに限定されるものではなく、当業者は改良を加えることができ、特に本明細書の開示に基づいて改良を加えることができることが理解される。
図1