(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730861
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】位相回復方法及び位相回復装置
(51)【国際特許分類】
H04L 27/38 20060101AFI20150521BHJP
H04L 27/227 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
H04L27/00 G
H04L27/22 B
【請求項の数】22
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-513060(P2012-513060)
(86)(22)【出願日】2010年5月28日
(65)【公表番号】特表2012-528524(P2012-528524A)
(43)【公表日】2012年11月12日
(86)【国際出願番号】US2010001577
(87)【国際公開番号】WO2010138205
(87)【国際公開日】20101202
【審査請求日】2013年5月28日
(31)【優先権主張番号】61/217,333
(32)【優先日】2009年5月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501263810
【氏名又は名称】トムソン ライセンシング
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ナッツォン,ポール,ゴサード
【審査官】
彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−518571(JP,A)
【文献】
特開2006−237819(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0123073(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/38
H04L 27/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データストリームに対するフィードフォワードによる位相回復方法であって、
非データ援用の位相検出器が、受信したデータストリームのブロック各々について、位相推定基点を計算するステップと、
位相補間器が、2つの位相推定基点の間で現在の位相を設定するステップと、
前記位相検出器におけるデータストリームの遅延を位相補間器における遅延と整合させるステップと
を有し、
前記2つの位相推定基点を計算するステップが、のこぎり波装置により行われ、該のこぎり波装置は、式θ”(i)=θ”(i−1)+SAW(θ’(i)−θ”(i−1))により計算を行い、θ’(i−1)、θ’(i)は、(i−1)番目及びi番目のブロックにおける位相オフセットの推定を表し、θ”(i−1)、θ”(i)は、対応するアンラッピング値を表す、
位相回復方法。
【請求項2】
後処理ブロックにより、位相変動を検出及び追跡するステップを更に有する請求項1に記載の位相回復方法。
【請求項3】
位相変動を検出及び追跡するステップは、θ”(i)=θ”(i−1)+α・SAW(θ’(i)−θ”(i−1))の関係を用いて計算され、α≦1.0である、請求項2に記載の位相回復方法。
【請求項4】
周波数推定ブロックが、前記のこぎり波装置の出力の周波数を推定するステップを更に有する請求項3に記載の位相回復方法。
【請求項5】
前記周波数推定ブロックの収束速度は、βパラメータによって調整され、該βの値は、前記周波数推定ブロックによる推定結果を受ける外部の周波数補正回路と、前記後処理ブロックとの間の遅延に依存する、
請求項4に記載の位相回復方法。
【請求項6】
α及びβの値は、取得モード時の値から追跡モード時の値へと切り替えられる、
請求項5に記載の位相回復方法。
【請求項7】
αの追跡モード時の値は、αの取得モード値の値よりも小さい、
請求項6に記載の位相回復方法。
【請求項8】
βの追跡モード時の値は、βの取得モード値の値よりも小さい、
請求項6又は7に記載の位相回復方法。
【請求項9】
取得モード時の値から追跡モード時の値への切り替えは、閾値検出器によって行われる、
請求項6に記載の位相回復方法。
【請求項10】
前記閾値検出器は、前記のこぎり波装置の出力の値に基づき前記切り替えを行う、
請求項9に記載の位相回復方法。
【請求項11】
前記閾値検出器は、前記のこぎり波装置の出力がある時間期間に特定の値を下回る場合に、取得モード時の値から追跡モード時の値へと切り替える、
請求項10に記載の位相回復方法。
【請求項12】
データストリームに対するフィードフォワードによる位相回復装置であって、
受信したデータストリームのブロック各々について、位相推定基点を計算する非データ援用の位相検出器と、
2つの位相推定基点の間で現在の位相を設定する位相補間器と、
前記位相検出器におけるデータストリームの遅延を位相補間器における遅延と整合させる遅延ラインと、
前記2つの位相推定基点を計算するのこぎり波装置と
を有し、
前記のこぎり波装置は、式θ”(i)=θ”(i−1)+SAW(θ’(i)−θ”(i−1))により計算を行い、θ’(i−1)、θ’(i)は、(i−1)番目及びi番目のブロックにおける位相オフセットの推定を表し、θ”(i−1)、θ”(i)は、対応するアンラッピング値を表す、
位相回復装置。
【請求項13】
前記のこぎり波装置の出力から位相変動を検出及び追跡する後処理ブロックを更に有する請求項12に記載の位相回復装置。
【請求項14】
前記後処理ブロックは、式θ”(i)=θ”(i−1)+α・SAW(θ’(i)−θ”(i−1))の関係を用い、α≦1.0である、請求項13に記載の位相回復装置。
【請求項15】
前記のこぎり波装置からの出力の周波数を推定する周波数推定ブロックを更に有する請求項14に記載の位相回復装置。
【請求項16】
前記周波数推定ブロックの収束速度は、βパラメータによって調整され、該βの値は、前記周波数推定ブロックによる推定結果を受ける外部の周波数補正回路と、前記後処理ブロックとの間の遅延に依存する、
請求項15に記載の位相回復装置。
【請求項17】
α及びβの値は、取得モード時の値から追跡モード時の値へと切り替えられる、
請求項16に記載の位相回復装置。
【請求項18】
αの追跡モード時の値は、αの取得モード値の値よりも小さい、
請求項17に記載の位相回復装置。
【請求項19】
βの追跡モード時の値は、βの取得モード値の値よりも小さい、
請求項17又は18に記載の位相回復装置。
【請求項20】
取得モード時の値から追跡モード時の値への切り替えを行う閾値検出器を更に有する請求項17に記載の位相回復装置。
【請求項21】
前記閾値検出器は、前記のこぎり波装置の出力の値に基づき前記切り替えを行う、
請求項20に記載の位相回復装置。
【請求項22】
前記閾値検出器は、前記のこぎり波装置の出力がある時間期間に特定の値を下回る場合に、取得モード時の値から追跡モード時の値へと切り替える、
請求項21に記載の位相回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本原理は、改善されたフィードフォワード型キャリア回復スキームを実施する方法及び装置に係る。
【背景技術】
【0002】
一般的に知られている受信器設計及び実装を用いる、しばしば使用されるフィードフォワード型キャリア回復スキームの例は、Heinrich Meyr等、“Digital communication receivers: synchronization, channel estimation and signal processing”(非特許文献1)において示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Heinrich Meyr等、“Digital communication receivers: synchronization, channel estimation and signal processing”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術の不利な点及び欠点は、衛星システムにおける改善された通信のための高速なサイクルスリップ検出及び補正のための方法及び装置に向けられている本原理によって対処される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本原理の側面に従って、衛星システムにおける改善された通信のための高速なサイクルスリップ検出及び補正のための方法及び装置が提供される。
【0006】
データストリームに対してフィードフォワード位相回復を行う方法及び装置が記載される。位相推定基点は、受信されるデータストリームの夫々のブロックについて、位相検出器で計算される。現在の位相が、2つの位相推定基点の間で、位相補間器で設定される。位相検出器内のデータストリーム遅延は、位相補間器内の遅延と整合される。
【0007】
データストリームは、データブロックに分割されたデータフレームを含んでよい。位相推定基点の計算は、尤度関数の極大化を用いることによって行われてよい。位相推定基点の計算は、夫々のブロックにおいて同期シンボルの数又はパイロットシンボルの数の一方を計算するステップと、整合フィルタで夫々の同期シンボル又はパイロットシンボルを処理するステップと、同期シンボル又はパイロットシンボルのブロックに対して、前記位相検出器で、キャリア位相オフセットを計算するステップとを有する。同期シンボルの数又はパイロットシンボルの数は、式N=64800/(M×1440)によって計算される。Mは変調係数である。キャリア位相オフセットは、次式によって計算される:
【0008】
【数1】
z(nT)は、夫々のパイロット又は同期シンボルについての整合フィルタ出力を表し、a(nT)は、時間nTで予め知られているパイロット又は同期シンボルを表す。
【0009】
キャリア位相オフセットは、位相オフセット推定器で計算されてよい。キャリア位相オフセットは、F(|z(nT)|)e
jargz(nt)Mによって表されるアルゴリズムを用いて計算されてよい。
【0010】
2つの位相推定基点は、|θ(i−1)−θ(i)|<π/Mによって定義される範囲内にあってよい。Mは変調係数を表す。
【0011】
2つの位相推定基点の計算は、のこぎり波装置で行われてよい。のこぎり波装置は、式θ”(i)=θ”(i−1)+SAW(θ’(i)−θ”(i−1))を用いることによって行われてよく、θ’(i−1)、θ’(i)は、(i−1)番目及びi番目のブロックにおける位相オフセットの推定を表し、θ”(i−1)、θ”(i)は、対応するアンラッピング(un-wrapping)値を表す。位相変動の検出及び追跡は、後処理ブロックで行われてよい。位相変動の検出及び追跡は、式θ”(i)=θ”(i−1)+α・SAW(θ’(i)−θ”(i−1))を用いて計算されてよい。なお、α≦1.0である。更に、周波数推定が、周波数推定ブロックで行われてよい。
【0012】
本原理のこれらの及び他の側面、特徴及び利点は、添付の図面とともに読まれるべき以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】フィードフォワード型キャリア回復回路の例を表す図である。
【
図2】DVB−S2規格のFECフレーム構造に従うデータストリームの例を示す。
【
図3】位相推定キャリア回復に基づく位相検出器の例を表すブロック図である。
【
図4】後処理ブロック及び周波数推定ブロックを示す。
【
図5】位相測定インスタンスごとの補間プロセスを示す。
【
図6】遅延ライン入力及び遅延ライン出力の例を示す。
【
図7】20MBaudにおける1kHz周波数オフセットでののこぎり波関数の出力及び後処理ユニットの出力のグラフ表示を示す。
【
図8】αの値が0.1に設定される場合の後処理ユニットの出力結果のグラフ表示を示す。
【
図9】取得時間について選択された大きいα値に基づく位相不一致のグラフ表示を示す。
【
図10】変形された後処理ユニットによる推定周波数オフセット追跡のグラフ表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
記載される実施の特徴及び側面は、他の実施に適合してよい。ここで記載される実施は特定の状況において記載されることがあるが、かかる記載は、特徴及び概念をそのような実施又は状況に制限するよう解釈されるべきではない。
【0015】
ここで記載される実施は、例えば、方法若しくはプロセス、装置、又はソフトウェアプログラムにおいて実施されてよい。たとえ単一の実施形態に関してしか論じられない(例えば、方法としてしか論じられない)としても、論じられる実施又は特徴は、他の形態(例えば、装置又はプログラム)で実施されてもよい。装置は、例えば、適切なハードウェア、ソフトウェア、及びファームウェアにおいて実施されてよい。方法は、例えば、コンピュータ又は他の処理装置等の装置において実施されてよい。更に、方法は、処理装置又は他の装置によって実行される命令によって実施されてよく、かかる命令は、例えば、CD、若しくは他のコンピュータ可読記憶装置、又は集積回路等のコンピュータ可読媒体に記憶されてよい。更に、コンピュータ可読媒体は、実施によって生じるデータ値を記憶してよい。
【0016】
当業者には明らかなように、実施は、例えば、記憶又は伝送される情報を搬送するようフォーマットされている信号を生成してもよい。情報は、例えば、方法を実行する命令、又は記載される実施によって生じるデータを含んでよい。信号は、様々な形態をとることができ、例えば、信号は、アナログ又はデジタルであってよく、信号は、伝送に適したキャリア周波数を変調するベースバンドであってよい。更に、信号は、コンピュータ可読媒体に記録されてよい。
【0017】
更に、多くの実施は、エンコーダ、前置プロセッサ乃至エンコーダ、デコーダ、又はポストプロセッサ乃至らデコーダのうちの1又はそれ以上において実施されてよい。記載される又は考えられる実施は、多種多様な用途及び製品において使用されてよい。用途又は製品の幾つかの例として、セットトップボックス、携帯電話機、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、テレビ受像機、パーソナル記録装置(例えば、PVR、コンピュータ実行記録ソフトウェア、VHS記録装置)、カムコーダ、インターネット若しくは他の通信リンク上のデータのストリーミング、及びビデオオンデマンドがある。
【0018】
更に、他の実施が、本開示によって考えられる。例えば、更なる実施は、開示される実施の様々な特徴を組み合わせ、削除し、変更し、又は補完することによって為されてよい。
【0019】
目下の配置は、しばしば使用されるフィードフォワード型キャリア回復回路の性能を改善するための方法及び装置を提供する。フィードフォワード型キャリア回復は、位相変動に敏感である。目下の配置は、位相回復段階における広範な周波数捕捉と小さなセルフのイズとの間のトレードオフに係る解決法を提供し、このようにして、改善された性能を提供する。従来のフィードバック型位相回復スキームにおいては、広い周波数取得範囲を達成するために、セルフノイズは結果として増大する。セルフノイズの増大は、追跡相の間の位相回復回路の性能に作用する。本原理に用いる、記載されるフィードフォワードシステムにおいては、広い周波数取得範囲が、セルフノイズを最小限としながら、達成され得る。
【0020】
実施形態において、フィードフォワード(FF)位相回復が使用される。受信されるデータはブロックに分けられ、位相推定はブロックごとに行われる。試験又は計算は、個々のブロック間の位相推定が独立していることを確かにするよう、尤度関数の極大化を用いて各ブロックに対して行われる。尤度関数の極大化は、位相オフセットが条件とされているシンボルのブロックの同時確率(joint probability)を表す。このように、サイクルスリップは、安定動作点の変動が受信データのブロックにわたって平均化されることで、その発生が防止される。FFキャリア回復の例が
図1に示されている。シンボルは、整合フィルタ101の出力を表す
z(nT)を得るよう整合フィルタ
(g(nT))101で整合されフィルタリングされる。
その後、z(nT)は位相検出器105へ送られ、位相検出器105は、目的関数(objective function)を極大化すること、すなわち、尤度関数の極大化によって、所与のブロック長さにわたってキャリア位相オフセットを推定する。整合フィルタ101は、受信信号に含まれるノイズを低減するために送信フィルタを整合させようとすることによって機能する。推定される位相θ’は、2つの位相推定基点の間で現在の位相を設定するために、位相検出器105から位相補間器107へ送られる。どのように位相が推定されるのかについてのより詳細な議論は、式(2)に対応する以下の段落において与えられる。遅延ライン103は、位相検出器105及び位相補間器107の夫々における遅延を整合させるために使用される。最大尤度位相オフセットを見つけるために使用される2つの位相検出アプローチが以下で論じられる。位相検出がデータ援用又は非データ援用のいずれであってもよいように、2つのアプローチが必要である。
【0021】
第1の位相検出アプローチは、送信されるデータストリーム内のパイロット又は同期シンボル等の既知のシンボルが位相オフセットを推定するために使用されるデータ援用アプローチである。DVB−S2規格のFECフレーム構造に従うデータストリームの例が
図2に示されている。FECフレームは、1440個のデータシンボルから成るブロック(Data)が後に続く90個のシンボルから成る同期ヘッダ(SYNC)を含む。1440個のデータシンボルの各ブロックの後、ストリーム内には36個のパイロットシンボルから成る任意的なブロック(P)が挿入される。FECフレームは、様々な変調フォーマット(例えば、四相位相偏移変調(QPSK;quadrature phase shift keying)又は16非同期位相偏移変調(APSK;asymmetric phase shift keying))を用いてマッピングされる64800データビットの固定データ長さを有するので、各FECフレームにおけるシンボルの総数は様々である。次式:
N=64800/(M×1440) (1)
は、様々な変調フォーマットに関して各FECフレームにおけるデータブロックの数を計算するために使用される。
【0022】
QPSK又は16APSK変調が使用される場合、1440個のシンボルのうち半分又は4分の1のみが最後のデータブロックにある。Mは、どのような位相変調が使用されるかに依存した変調係数である。例えば、BPSKに関し、M=1であり、QPSKに関し、M=2であり、8PSKに関し、M=3であり、16APSKに関し、M=4である。この事実は、回復される位相及び入力データの整列の間、考慮されるべきである。
【0023】
図1において位相検出器105として表されるDA(データ援用(data-aided))位相検出器は、次式によって表される:
【0024】
【数2】
ここで、Nは、各ブロックにおけるパイロット又は同期シンボルの数を表し、z(nT)は、パイロット又は同期シンボルごとの整合フィルタ出力を表し、a(nT)は、時間ntで予め知られているパイロット又は同期シンボルを表す。パイロット及び同期シンボルは、遅延ライン103へは送られない。
【0025】
第2の位相検出アプローチでは、位相オフセット推定器が使用される。この位相オフセット推定器は、位相検出器105内にあり、
非データ援用位相回復のために使用され、大きさに対して任意関数を用いることによって、計算プロセスを簡単にするとともに、M次位相検出器の性能を改善する。位相検出器アルゴリズムは:
F(|x(nT)|)e
jargz(nt)M (8)
によって表される。ここで、F()は、任意の非線形関数を表す。
【0026】
位相推定キャリア回復に基づく位相検出の例を表すブロック図が、
図3に示されている。FFキャリア回復アプローチを用いて直面する主な問題は、位相ノイズ及び周波数オフセットによる位相ダイナミクスは扱うのが困難である点である。キャリア位相が周波数オフセットに起因して時間において変化している場合に、従来のFFキャリア回復アプローチは、平均化プロセスが長すぎる場合又は位相がインターバル[−π;π]を越えて増大する場合には、この位相動作を追随することができない。検出境界を越えて増大する位相の問題を解消するよう、アンラッピング(un-wrapping)アルゴリズムが使用される。アンラップ(unwrap)アルゴリズムは、また、2つのブロックの間の位相が:
|θ(i−1)−θ(i)|<π/M (9)
によって表されるように、制限される。ここで、Mは、変調フォーマットに依存する。
【0027】
パイロット又は同期シンボルに関し、値Mは、オフセット二位相偏移変調(BPSK;binary phase shift keying)がこれらのシンボルに対して使用されるので、1である。Mが1に等しいとき、アンラップアルゴリズムは、インクリメントが上記所定の境界[−π;π]内にあるように、2つのブロックの間の位相インクリメントをアンラップするために非線形のこぎり波(sawtooth)関数を用いることによって、位相変動追跡の解決法を見つける。
【0028】
上記のこぎり波関数は:
θ”(i)=θ”(i−1)+SAW(θ’(i)−θ”(i−1)) (10)
によって表される。ここで、θ’(i−1)、θ’(i)は、(i−1)番目及びi番目のブロックにおける位相オフセットの推定を表し、θ”(i−1)、θ”(i)は、対応するアンラッピング値を表す。
【0029】
後処理ブロックは、位相変動を検出し追跡するために使用される。後処理ブロックは、更に、フィードフォワード推定の不一致の更なる低減によって位相検出のセルフノイズを低減するよう改善されてよい。従って、のこぎり波出力は、定数αによって重み付けされ、後処理ブロックは、
θ”(i)=θ”(i−1)+α・SAW(θ’(i)−θ”(i−1)) (11)
によって表される。なお、α≦1.0である。
【0030】
α値は、位相変動を計算するための変数に相当し、特定のフィードフォワード型キャリア回復スキームが取得時間期間又は追跡時間期間にあるかどうかに基づき選択される。α値は、1次周波数追跡器を用いることによって選択される。1次周波数追跡器は、周波数オフセットを追跡するために使用される。取得相と追跡相との間を切り替える時間の指示は、閾値検出器及びタイマによって与えられる。係数αは、周波数オフセットに関連して測定される位相インクリメントが係数αに対して線形に小さくなるにつれて、位相ダイナミクスを追跡する後処理能を低下させる。小さいフィードフォワード後処理位相変動をもたらす小さいα値と、高い位相ダイナミクスに寄与する大きいα値との間のトレードオフが必要であり、以下の段落で記載される。
【0031】
図4は、
図1に示されるハードウェア実施に後処理ブロック及び周波数推定ブロックを付加したものを示す。後処理ブロック402は、位相検出器105から、推定される位相を受け取る。のこぎり波装置401の出力は、周波数推定ブロック403へ接続されている。のこぎり波装置401から出力されるのこぎり波は、2つの位相測定ブロックの間の位相インクリメントに直接関係し、のこぎり波出力は、1次周波数追跡器又は周波数推定ブロック403を用いて残留周波数オフセットを追跡するために使用されてよい。次いで、推定される周波数オフセットΩ(n)は、位相補間器405による処理の後、外部の周波数補正回路へ送られる。周波数推定プロセスの収束速度は、βパラメータによって調整されてよい。
【0032】
取得相の間、高周波オフセットが期待され、α値は1.0に設定され、β値もハイ(high)値に設定される。βの値は、外部の周波数補正回路と後処理ユニットとの間の遅延に依存する。βは、発振を回避するよう調整されてよい。のこぎり波出力の変化もβ値を決定するために使用されてよい。取得相の後、α値は、後処理ブロック出力におけるセルフノイズを低減するよう、小さな値に設定されるべきである。β値も、周波数オフセットによる高い位相変動がもはや存在しないので、低減されてよい。周波数推定ブロック403は、非常に大きい時定数を有する小さい周波数ドリフトによる小さな位相変動しか追随する必要がない。取得モードから追跡モードへの移行を示すよう、のこぎり波出力のレベルが使用されてよい。この実施では、単純な閾値検出器が、のこぎり波出力が特定の時間(追跡すべき時間)の間に特定の値を下回る場合を検出するために使用され、α及びβの各係数を取得モード時の値から追跡モード時の値へと切り替える。
【0033】
後処理ブロック402は、最後のパイロット又は同期シンボルが通過した場合に、パイロット又は同期ブロックごとに1つの位相推定を与えるので、線形位相補間器405は、夫々の測定エポックの間でデータシンボルごとに位相を決定するために使用される。線形位相補間器405は状態機械(SM)407によって制御され、状態機械407は、測定期間ごとに、推定される位相及び推定される位相インクリメントを線形位相補間器405にリロードする。次いで、補間位相θ(n)は、遅延シンボルを補正するために、減捻(derotation)ロジックにおいて使用される。
【0034】
図5は、夫々の位相測定インスタンス(P)の間の軌跡を形成する補間プロセスを表す。先に論じられたように、遅延ラインは、入来するシンボルと補間器405によって形成される位相軌跡とを整列させるべきである。
図6は、遅延ライン入力及び遅延ライン出力を示す。遅延ライン出力は、同期フィールドSYNC、2つのデータブロック及び2つのパイロットブロックPのレイテンシーを有する。QPSK及び16APSK変調における問題が生じる場合には、大きなレイテンシーが必要であり、同期シンボルブロックの前のデータシンボルは、各FECフレームにおけるビットの数が一定であるために、より一層短い。
【0035】
図7は、20MBaudにおける1kHz周波数オフセットに関し、後処理ユニット402の出力及びのこぎり波装置401からののこぎり波関数の出力を示す。αの値は、例えば、0.9に設定される。のこぎり波装置401の出力は、SAW(θ’(n))ライン701によって表される。後処理ユニット402の出力は、θ”(n)ライン703によって表される。これは、θ”(n)の変化が〜3.7e
−6ラジアンで極めて高く、一方、のこぎり波関数出力のオフセットが〜0.5ラジアンの平均値を有して極めて小さいことを示す。このような特定のα値設定によれば、後処理ユニットは、のこぎり波関数が[−π;π]から範囲を増減するので、最大で約6kHzの周波数オフセットを扱うことができる。後処理出力の高い分散は、位相において更なるホワイト・セルフノイズを導入し、結果として、位相ノイズフロアを増大させる。
【0036】
図8は、αの値が0.1に設定される場合の後処理ユニット402及びのこぎり波装置401の出力の結果を示す。のこぎり波装置401の出力は、SAW(θ’(n))ライン801によって表される。後処理ユニット402の出力は、θ”(n)ライン803によって表される。のこぎり波関数出力は、より小さいα値の1次因子を補償するために増大すべきである。同じ1kHzの周波数オフセットにおいて、これは、のこぎり波関数を飽和に近づけさせ、扱われ得る最大周波数オフセットを確立する。ピークノイズが位相測定プロセスにおいて与えられ、のこぎり波関数もピークを含むようにする場合に、これは、特に、のこぎり波関数の極大とのこぎり波関数出力の現在の平均レベルとの間にマージンがない場合に、のこぎり波関数においてアンラップを引き起こしうる。より小さいα値は、後処理ユニットの位相出力の変化をより小さくし、結果として、全体でセルフノイズ及び位相ノイズフロアをより小さくする。
【0037】
位相推定を行う時間フレームは2つの時間フレームに分けられる。第1の時間フレーム、すなわち、取得時間の間、大きいα値が選択され、周波数オフセットはのこぎり波関数の後フィードバックを介して外部のキャリア回復へ放出される。これは
図9に示されている。のこぎり波装置401の出力は、SAW(θ’(n))ライン901によって表される。後処理ユニット402の出力は、θ”(n)ライン903によって表される。取得相(t<2e
5)の間、のこぎり波出力は、外部ループへの周波数オフセット漏出によって低減される。この状況において、α値は0.9に設定され、外部ループへの漏れゲインβは0.01に設定される。取得時間後、後処理出力位相θ”(n)は一定レベルのままであり、これは、周波数オフセット全体が追跡されることを意味する。追跡相(t>2e
5)において、α値は0.05に切り替えられ、更なる周波数オフセットは追跡される必要がなく、β値も0.0001に低減される。後処理出力の位相変化は、堅調に〜2.5e
−8ラジアンに低減される。出力位相変化は、取得パラメータから追跡パラメータへの切り替えが、位相変化測定を妨げる極小さな発振を引き起こすので、更に低減される。2e
6個のサンプル後の位相変化の測定は、位相変化がこの状況において1e
−9よりも小さいことを示す。
【0038】
図10は、出力位相θ”(n)と比較して、目下の配置の変形された後処理ユニットにおいて、推定される周波数オフセットΩ(n)がどのように追跡されるのかを示す。推定される周波数オフセットΩ(n)は、Ω(n)ライン1010によって表される。出力位相θ”(n)は、θ”(n)ライン1030によって表される。推定される周波数オフセットは、一極フィルタが周波数追跡器において使用されるので、1次トラッキング特性を有する。更に、
図10は、ロックフラグ(lock flag)によって示される自動追跡モード検出器を示す。ロックフラグは、ロックフラグ(lock flag)ライン1020によって表される。追跡モード検出器に関し、0.1の閾値が選択され、追跡時間は10測定期間に設定される。
【0039】
この明細書は本原理を説明する。従って、当業者は、たとえ本願で明示的に記載又は図示されてないとしても、本原理を具現し且つその技術的範囲内に含まれる様々な配置を想到可能であることは、明らかである。
【0040】
本願で挙げられている全ての例及び条件付き用語は、読む者が当該技術の促進に発明者によって寄与される概念及び本原理を理解するのを助けるという教育的な目的を対象とし、そのような具体的に挙げられている例及び条件に制限することがないと解されるべきである。
【0041】
更に、本原理の原理、側面及び実施形態並びにそれらの具体例を本願で挙げる全ての記述は、それらと構造上及び機能上等価なものを包含するよう意図される。更に、かかる等価なものは、現在知られているもの又は将来開発されるものの両方、すなわち、構造に関わらず同じ機能を実行する開発されたあらゆる要素を含むことが意図される。
【0042】
このように、例えば、当業者には明らかなように、本願で提示されるブロック図は、本原理を具現する具体的な回路の概念図を表す。同様に、明らかなように、如何なるフロー図、フローチャート、状態遷移図、擬似コード等も、実質的にコンピュータ可読媒体において表され、コンピュータ又はプロセッサによって、そのようなコンピュータ又はプロセッサが明示的に示されているかどうかによらず、そのように実行される様々な処理を表す。
【0043】
図に示される様々な要素の機能は、専用のハードウェア、及び適切なソフトウェアと関連してソフトウェアを実行可能なハードウェアの使用を通じて提供されてよい。プロセッサによって提供される場合、機能は単一の専用プロセッサによって、単一の共有プロセッサによって、又は複数の個別プロセッサ(それらの一部は共有されてよい。)によって、提供されてよい。更に、語「プロセッサ」又は「コントローラ」の明示的使用は、もっぱらソフトウェアを実行可能なハードウェアに言及していると解されるべきではなく、暗に、制限なしに、デジタル信号プロセッサ(DSP)ハードウェア、ソフトウェアを記憶する読出専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び不揮発性記憶装置を含んでよい。
【0044】
従来及び/又はカスタムの他のハードウェアも含まれてよい。同様に、図に示される如何なるスイッチも単に概念的である。それらの機能は、プログラムの動作を通じて、専用のロジックを通じて、プログラム制御及び専用のロジックの相互作用を通じて、又は手動で実行されてよく、特定の技術が、文脈からより具体的に理解されるように、実施者によって選択可能である。
【0045】
特許請求の範囲において、特定の機能を実行する手段として表される如何なる要素も、例えば、a)その機能を実行する回路素子の組み合わせ、又はb)如何なる形態であれ、従って、機能を実行するためにそのソフトウェアを実行するための適切な回路と組み合わされたファームウェア、マイクロコード等を含むソフトウェアを含め、その機能を実行するあらゆる方法を包含するよう意図される。特許請求の範囲によって定義される本原理は、様々な列挙される手段によって提供される機能が、特許請求の範囲が要求するように組み合わされ且つまとめられるという事実に属する。従って、そのような機能を提供することができる如何なる手段も本願で示されるものと等価であると考えられる。
【0046】
本原理の「一実施形態」又は「実施形態」との明細書中での言及、及びそれらの様々な変形は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、特性等が本原理の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通して様々な箇所で現れる「一実施形態において」又は「実施形態において」との表現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているわけではない。
【0047】
[関連出願の相互参照]
本願は、その全体を参照により援用される、2009年5月29日付けで出願された米国仮出願番号第61/217333号に基づく優先権を主張する。