特許第5730903号(P5730903)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5730903-スパッタリングターゲット 図000005
  • 特許5730903-スパッタリングターゲット 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730903
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20150521BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   G11B5/851
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-546856(P2012-546856)
(86)(22)【出願日】2011年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2011077362
(87)【国際公開番号】WO2012073882
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2013年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-265037(P2010-265037)
(32)【優先日】2010年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】池田 真
【審査官】 植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−313659(JP,A)
【文献】 特開2006−161082(JP,A)
【文献】 特開2008−169464(JP,A)
【文献】 特開2004−152471(JP,A)
【文献】 特開2008−060347(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014504(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/029498(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Pt、AgおよびCを含有する焼結体からなるスパッタリングターゲットであって、該スパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、xが45〜65であり、yが1〜20であり、zが13〜59であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末およびC粉末を含有する原料粉末を焼成して製造されることを特徴とする請求項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
密度が90%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットに関し、さらに詳しくは、Fe、Pt、AgおよびCを含有し、大規模な装置を要することなく磁気記録膜を形成することができる高密度のスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューター等に搭載されるハードディスク等を構成する磁気記録膜として、従来CoPt系薄膜が用いられ、垂直磁気記録方式により高記録密度化が図られてきた。しかし、近年、高記録密度化の要請がますます強まり、CoPt系薄膜ではその要請に応えることが困難になってきている。
【0003】
そこで、CoPt系薄膜に替わる次世代磁気記録膜として、FePt系薄膜が提案されている。FePt系薄膜は、CoPt系薄膜に比較して磁気異方性が高い利点を有する。その一方、FePt系薄膜は、これを構成する粒子が過大になることによって、構造が不規則になり、磁気特性が低下する短所がある。
【0004】
このため、FePt系薄膜に炭素などを添加することにより磁気特性を制御する技術が検討されている。
【0005】
特許文献1には、Fe、PtおよびC単体の他スパッタリングターゲットを同時にスパッタすることにより、磁気特性に優れたFePtC系の磁気記録膜を得る技術が開示されている。
【0006】
しかし、この技術は、3種類のスパッタリングターゲットを用いた三元同時スパッタを行うため、スパッタリングターゲットを設置するためのカソードが3個以上必要になり、装置が大規模になるなどの問題点があった。
【0007】
この問題は、Fe、PtおよびCなど磁気記録膜を構成するすべての元素を含有したスパッタリングターゲットを作製することにより解決することができる。このスパッタリングターゲットを用いれば、1個のスパッタリングターゲットをスパッタすればよいので、スパッタリングターゲットを設置するために複数個のカソードが必要になることはなく、大規模な装置を要することなくFePtC系磁気記録膜を得ることができる。
【0008】
しかし、スパッタリングターゲット中の炭素が高濃度になるとスパッタリングターゲットの密度を高くすることが困難になる。スパッタリングターゲットの密度が低いと、スパッタ時にスパッタリングターゲットを真空雰囲気に設置した際、スパッタリングターゲットから放出されるガスの量が増大し、スパッタにより形成される薄膜の特性を低下させる問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3950838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、炭素を高濃度で含有していても密度が高く、高性能のFePtC系磁気記録膜を得ることのできるスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成する本発明は、Fe、Pt、AgおよびCを含有することを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【0012】
前記スパッタリングターゲットにおいては、Fe、PtおよびAgの含有量の合計に対するAgの含有量の比率が1〜20モル%であることが好ましく、
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末およびC粉末を含有する原料粉末を焼成して製造されることが好ましく、また、
密度が90%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットは、Fe、PtおよびCに加えてAgを含有する。Agを含有することにより本発明のスパッタリングターゲットは高密度になる。その結果、スパッタ時にスパッタリングターゲットを真空雰囲気に設置した際、スパッタリングターゲットから放出されるガスの量を低減させることができ、スパッタにより形成される薄膜の特性を向上させることができる。また、本発明のスパッタリングターゲットは、低温焼結で製造された場合でも高密度になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1〜5で得られたスパッタリングターゲットのX線回折パターンである。
図2図2は、比較例1〜6で得られたスパッタリングターゲットのX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットは、Fe、Pt、AgおよびCを含有する。つまり、本発明のスパッタリングターゲットは、従来検討されていたFePtC系のスパッタリングターゲットに新たにAgを含有させたものである。
【0016】
スパッタリングターゲットに、Fe、PtおよびCに加えてAgを含有させると、スパッタリングターゲットの密度を高くすることができる。Agを含有するとスパッタリングターゲットの密度が高くなる理由は次のように考えられる。Fe粉末およびPt粉末からなる混合粉末を焼成すると、FeとPtとが固溶化していき、成分が密に詰まるため、高密度のスパッタリングターゲットが得られる。一方、Fe粉末、Pt粉末およびC粉末からなる混合粉末を焼成すると、CがFeとPtとの固溶化を阻害し、成分が密に詰まらなくなるため、FePtC系の場合には高密度のスパッタリングターゲットが得られにくいと考えられる。Fe粉末、Pt粉末、C粉末およびAg粉末からなる混合粉末を焼成した場合には、Cが存在していても、AgがFeとPtとの固溶化を促進させるため、成分が密に詰まり、高密度のスパッタリングターゲットが得られると考えられる。以上のことについては、後述の実施例において具体的に詳述する。
【0017】
本発明のスパッタリングターゲットは、Fe、Pt、AgおよびCからなり、その他不可避的不純物が含有される場合がある。
【0018】
Agの含有量は、Fe、PtおよびAgの含有量の合計に対して、1〜20モル%であることが好ましく、5〜17モル%であることがより好ましい。Agの含有量が前記範囲内であると、高密度のスパッタリングターゲットになりやすくなる。一方、Agの含有量が1モル%より少ないと、スパッタリングターゲットが十分には高密度にならない場合があり、20モル%より多いと、本スパッタリングターゲットをスパッタリングすることにより形成される膜の磁気特性が低下する場合がある。
【0019】
本発明のスパッタリングターゲットに含まれるFe、Pt、AgおよびCの比率としては、本発明のスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、xが好ましくは45〜65であり、より好ましくは49〜51であり、yが好ましくは1〜20であり、より好ましくは5〜17であり、Zが好ましくは13〜59であり、より好ましくは32〜59である。Fe、Pt、AgおよびCの比率が前記範囲であれば、このスパッタリングターゲットをスパッタして得られる薄膜は磁気記録膜として有効に使用することができる。
【0020】
本発明のスパッタリングターゲットの相対密度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。相対密度が90%以上であると、スパッタ時にスパッタリングターゲットを真空雰囲気に設置した際、スパッタリングターゲットから放出されるガスの量を低減させることができ、スパッタにより形成される薄膜の特性を向上させることができる。前記相対密度はアルキメデス法に基づき測定された数値である。
【0021】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末およびC粉末を混合して混合粉末を調製し、これを焼結し、さらに必要に応じて焼結体に加工を施すことにより製造することができる。
【0022】
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末およびC粉末のBET(Brunauer-Emmett-Teller)法で測定された平均粒径は、通常それぞれ10〜70μm、1〜4μm、2〜5μmおよび3〜20μmである。
【0023】
混合するFe粉末、Pt粉末、Ag粉末およびC粉末の割合は、得られるスパッタリングターゲット中に含まれるFe、Pt、AgおよびCの比率が前記範囲内になるように決定される。
【0024】
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末およびC粉末の混合方法としては特に制限はなく、例えばボールミル等による混合が挙げられる。
【0025】
混合粉末の焼結方法としては、たとえば通電焼結法による焼結およびホットプレス(HP)法による焼結等が挙げられる。
【0026】
これらの中で、通電焼結法が特に好ましい。通電焼結法では、粒子間の放電によって粒子同士を接合および焼結させるため、必要なエネルギーが少なく、ホットプレス(HP)法などよりも低温での焼結が可能である。このため、密度が高く、細かい粒子からなる焼結体が得られやすくなる。
【0027】
一方、ホットプレス法では、外部からの加熱によって焼結させるため、多くのエネルギーを要し、高温で焼結しないと密度の高い焼結体が得られない。このため、粗大な粒子からなる焼結体が形成される傾向が強い。
【0028】
一般的には、細かい粒子からなるターゲットを用いたほうが、形成される膜の均一性が高くなるというメリットがある。一方、粗大な粒子からなるターゲットを用いると、パーティクル発生などの問題を引き起こす傾向が強い。この点において、通電焼結法はホットプレス法などよりも優れている。
【0029】
上述のとおり、通電焼結法を用いると、ホットプレス法などに比較して相対密度の高い焼結体が得られる。たとえば、通電焼結法を用いると相対密度90%以上の焼結体を得ることは容易であるが、ホットプレス法を用いると相対密度90%以上の焼結体を得ることは困難である。
【0030】
ただし、焼結体に追加工を施すことにより焼結体の相対密度を向上させることができる。したがって、混合粉末を焼結して得られた焼結体の相対密度が90%未満であったとしても、その焼結体に追加工を施すことにより相対密度が90%以上であるターゲットを得ることは可能である。
【0031】
前記追加工としては熱間静水圧プレス(HIP)等が挙げられる。熱間静水圧プレスで焼結体に追加工を行うことにより,微細組織を保ちながら密度を向上させることができる。たとえば、ホットプレス法により得られた焼結体に熱間静水圧プレスを施すことにより焼結体の相対密度を高めることができ、焼結体の相対密度90%未満であっても熱間静水圧プレスによる追加工により相対密度90%以上のターゲットを得ることができる。通電焼結法により得られた焼結体に熱間静水圧プレスを施せば、さらに相対密度が高いターゲットを得ることができる。
【0032】
焼結温度としては、通常700〜1200℃であり、好ましくは900〜1100℃である。焼結温度が高いほど密度の高いスパッタリングターゲットが得られるが、焼結温度が高すぎると、粗大な粒子からなるターゲットが得られ、成膜時にパーティクル発生などの問題が生じやすくなる。
【0033】
発明のスパッタリングターゲットは、焼結温度が低い場合であっても高密度となる。
【0034】
本発明のスパッタリングターゲットは、従来の磁気記録膜用スパッタリングターゲットと同様にスパッタすることができる。
【0035】
本発明のスパッタリングターゲットを用いてスパッタすることにより、FePtAgC薄膜を形成することができる。このFePtAgC薄膜は磁気記録膜として使用することができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1〜5)
[スパッタリングターゲットの製造]
平均粒径30μmのFe粉末、平均粒径2μmのPt粉末、平均粒径3μmのAg粉末および平均粒径7μmのC粉末を、それぞれの含有比率が18.45モル%、18.45モル%、4.10モル%および59.00モル%となるようにボールミルで1.5時間混合して、混合粉末を調製した。前記各平均粒径はBET法により測定された数値である。
【0037】
得られた混合粉末を、通電焼結装置を用いて下記の条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。実施例1〜5で得られたスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、いずれのスパッタリングターゲットについてもx=50、y=10、z=59であった。
【0038】
<焼結条件>
焼結雰囲気:真空
昇温時間:10min
焼結温度:表1の通り
焼結保持時間:10min
圧力:0.4t/cm2
降温:自然炉冷
[相対密度の測定]
得られたスパッタリングターゲットの相対密度をアルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲットの空中重量を、体積(=スパッタリングターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比重)で除し、下記式(X)に基づく理論密度ρ(g/cm3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。結果を表1に示した。
【0039】
【数1】

(式(X)中、C1〜Ciはそれぞれターゲット焼結体の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ1〜ρiはC1〜Ciに対応する各構成物質の密度(g/cm3)を示す。)。
【0040】
[スパッタリングターゲットの成形後の状態の評価]
得られたスパッタリングターゲットの状態を肉眼で観察し、スパッタリングターゲットの成形後の状態を評価した。
【0041】
結果を表1に示した。表1中、「溶け出し」とは、昇温時に粒子が溶融し、型の隙間から漏れ出して、固まったことを意味する。「端部欠け」とは、スパッタリングターゲットに指で力を加えたときに、スパッタリングターゲットの端部が欠けたことを意味する。「溶け出し」および「端部欠け」がなかった場合には空欄とした。
【0042】
[X線回折測定]
得られたスパッタリングターゲットに対し、以下の条件でX線回折測定を行った。
測定方法:2θ/θ法
サンプリング幅:0.02°
スキャンスピード:4°/min
管球:Cu
得られた回折パターンを図1に示した。図1において、下側の5つのチャートは、下からそれぞれC、Ag、Pt、FeおよびFe−Pt(FeとPtとの金属間化合物)のピーク位置を示すチャートである。図1の右側に表示した温度は焼結温度である。図1中、黒丸を付したピークはPtのピークであり、黒三角を付したピークはAgのピークであり、黒四角を付したピークはFe−Ptのピークである。
【0043】
(比較例1〜6)
[スパッタリングターゲットの製造]
平均粒径30μmのFe粉末、平均粒径2μmのPt粉末および平均粒径7μmのC粉末を、それぞれの含有比率が20.5モル%、20.5モル%および59モル%となるようにボールミルで1.5時間混合して、混合粉末を調製した。前記各平均粒径はBET法により測定された数値である。
【0044】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて上記の条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を(FexPt100-x100-y−Cy(x、y:モル%)と表記した場合、x=50、y=59であった。
【0045】
得られたスパッタリングターゲットに対し、上記と同様の方法で相対密度の測定およびスパッタリングターゲットの成形後の状態の評価を行った。結果を表1に示した。
【0046】
得られたスパッタリングターゲットに対し、上記と同様の方法でX線回折測定を行った。
【0047】
得られた回折パターンを図2に示した。図2において、下側の4つのチャートは、下からそれぞれC、Pt、FeおよびFe−Pt(FeとPtとの金属間化合物)のピーク位置を示すチャートである。図2の右側に表示した温度は焼結温度である。図2中、黒丸を付したピークはPtのピークであり、黒四角を付したピークはFe−Ptのピークである。
【0048】
【表1】





表1から、Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲット(実施例1〜5)は、同じ温度で焼結されたFe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲット(比較例1〜6)に比較して、相対密度が高いことがわかる。また、Fe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲットの場合、焼結温度が910℃以上でないと相対密度は90%以上にならないが、Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲットの場合、焼結温度が770℃以上で相対密度が90%以上になる。つまり、FePtC系スパッタリングターゲットにおいてAgを含有させると、より低い焼結温度で高密度のスパッタリングターゲットが得られることがわかる。
【0049】
図1および図2より、スパッタリングターゲット中の各成分の存在状態が確認される。
【0050】
図2において、焼結温度が910℃以下である場合、Ptのピークが確認され、Fe−Pt(FeとPtとの金属間化合物)のピークは小さいことから、FeとPtとの固溶化が十分には進んでいないことがわかる。一方、焼結温度が960℃以上である場合、Ptのピークは確認されず、Fe−Ptの大きなピークが確認されることから、FeとPtとの固溶化が十分に進んでいることがわかる。
【0051】
図1において、焼結温度が770℃である場合、Ptのピークが確認されるが、図1における同じ焼結温度のチャートに比べ、Ptのピークは小さく、Fe−Ptのピークは大きい。一方、焼結温度が910℃以上である場合、Ptのピークは確認されず、FeとPtとの固溶化が十分に進んでいることがわかる。
【0052】
図1および図2において、AgおよびCのピークの大きさは焼結温度には依存せず、各焼結温度のチャートでほぼ同じ大きさのピークが確認される。このことから、AgおよびCは固溶化せず、それぞれ単独で存在しているものと考えられる。
【0053】
以上より、Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲット、Fe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲットとも、焼結温度が高い場合ほどFeとPtとの固溶化が進行し、相対密度が高くなることがわかる。Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲットは、Fe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲットと比較して、低い焼結温度でもFeとPtとの固溶化の進行の程度が大きく、高い相対密度が得られることがわかる。すなわち、AgがFeとPtとの固溶化を促進させ、その結果、スパッタリングターゲットの相対密度を高めているものと考えられる。

(実施例6)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を19.48モル%、19.48モル%、2.05モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0054】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を1000℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=5、z=59であった。
【0055】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例7)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を19.14モル%、19.14モル%、2.73モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0056】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を950℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=6.67、z=59であった。
【0057】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例8)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を17.77モル%、17.77モル%、5.47モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0058】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を900℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=13.33、z=59であった。
【0059】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例9)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を17.09モル%、17.09モル%、6.83モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0060】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を850℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=16.67、z=59であった。
【0061】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。

(実施例10)
実施例8と同様の製法で焼結体を得た。得られた焼結体を、熱間静水圧プレス装置を用い、以下の条件で処理して、スパッタリングターゲットを得た。
<処理条件>
雰囲気:アルゴン
温度: 900℃
圧力:118MPa
このスパッタリングターゲットの組成を[(FexPt100-x100-y−Agy]100-z−Cz(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=13.33、z=59であった。
【0062】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
【0063】
【表2】


表1および表2より、Fe、PtおよびAgの含有量の合計に対するAgの含有量の比率(yモル%)を上記のように変化させた場合にも、焼結温度を適切に設定することにより、相対密度が90%以上のFePtC系スパッタリングターゲットが得られることがわかる。また、Fe、PtおよびAgの含有量の合計に対するAgの含有量の比率(yモル%)を増大させることにより、より低い焼結温度でも高密度のスパッタリングターゲットが得られることがわかる。
【0064】
また、実施例8および実施例10の結果より、FePtC系焼結体に熱間静水圧プレスを施すことにより、スパッタリングターゲットの相対密度を向上させることができることがわかる。
図1
図2