【実施例】
【0036】
(実施例1〜5)
[スパッタリングターゲットの製造]
平均粒径30μmのFe粉末、平均粒径2μmのPt粉末、平均粒径3μmのAg粉末および平均粒径7μmのC粉末を、それぞれの含有比率が18.45モル%、18.45モル%、4.10モル%および59.00モル%となるようにボールミルで1.5時間混合して、混合粉末を調製した。前記各平均粒径はBET法により測定された数値である。
【0037】
得られた混合粉末を、通電焼結装置を用いて下記の条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。実施例1〜5で得られたスパッタリングターゲットの組成を[(Fe
xPt
100-x)
100-y−Ag
y]
100-z−C
z(x、y、z:モル%)と表記した場合、いずれのスパッタリングターゲットについてもx=50、y=10、z=59であった。
【0038】
<焼結条件>
焼結雰囲気:真空
昇温時間:10min
焼結温度:表1の通り
焼結保持時間:10min
圧力:0.4t/cm
2
降温:自然炉冷
[相対密度の測定]
得られたスパッタリングターゲットの相対密度をアルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲットの空中重量を、体積(=スパッタリングターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比重)で除し、下記式(X)に基づく理論密度ρ(g/cm
3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%)とした。結果を表1に示した。
【0039】
【数1】
(式(X)中、C
1〜C
iはそれぞれターゲット焼結体の構成物質の含有量(重量%)を示し、ρ
1〜ρ
iはC
1〜C
iに対応する各構成物質の密度(g/cm
3)を示す。)。
【0040】
[スパッタリングターゲットの成形後の状態の評価]
得られたスパッタリングターゲットの状態を肉眼で観察し、スパッタリングターゲットの成形後の状態を評価した。
【0041】
結果を表1に示した。表1中、「溶け出し」とは、昇温時に粒子が溶融し、型の隙間から漏れ出して、固まったことを意味する。「端部欠け」とは、スパッタリングターゲットに指で力を加えたときに、スパッタリングターゲットの端部が欠けたことを意味する。「溶け出し」および「端部欠け」がなかった場合には空欄とした。
【0042】
[X線回折測定]
得られたスパッタリングターゲットに対し、以下の条件でX線回折測定を行った。
測定方法:2θ/θ法
サンプリング幅:0.02°
スキャンスピード:4°/min
管球:Cu
得られた回折パターンを
図1に示した。
図1において、下側の5つのチャートは、下からそれぞれC、Ag、Pt、FeおよびFe−Pt(FeとPtとの金属間化合物)のピーク位置を示すチャートである。
図1の右側に表示した温度は焼結温度である。
図1中、黒丸を付したピークはPtのピークであり、黒三角を付したピークはAgのピークであり、黒四角を付したピークはFe−Ptのピークである。
【0043】
(比較例1〜6)
[スパッタリングターゲットの製造]
平均粒径30μmのFe粉末、平均粒径2μmのPt粉末および平均粒径7μmのC粉末を、それぞれの含有比率が20.5モル%、20.5モル%および59モル%となるようにボールミルで1.5時間混合して、混合粉末を調製した。前記各平均粒径はBET法により測定された数値である。
【0044】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて上記の条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を(Fe
xPt
100-x)
100-y−C
y(x、y:モル%)と表記した場合、x=50、y=59であった。
【0045】
得られたスパッタリングターゲットに対し、上記と同様の方法で相対密度の測定およびスパッタリングターゲットの成形後の状態の評価を行った。結果を表1に示した。
【0046】
得られたスパッタリングターゲットに対し、上記と同様の方法でX線回折測定を行った。
【0047】
得られた回折パターンを
図2に示した。
図2において、下側の4つのチャートは、下からそれぞれC、Pt、FeおよびFe−Pt(FeとPtとの金属間化合物)のピーク位置を示すチャートである。
図2の右側に表示した温度は焼結温度である。
図2中、黒丸を付したピークはPtのピークであり、黒四角を付したピークはFe−Ptのピークである。
【0048】
【表1】
表1から、Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲット(実施例1〜5)は、同じ温度で焼結されたFe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲット(比較例1〜6)に比較して、相対密度が高いことがわかる。また、Fe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲットの場合、焼結温度が910℃以上でないと相対密度は90%以上にならないが、Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲットの場合、焼結温度が770℃以上で相対密度が90%以上になる。つまり、FePtC系スパッタリングターゲットにおいてAgを含有させると、より低い焼結温度で高密度のスパッタリングターゲットが得られることがわかる。
【0049】
図1および
図2より、スパッタリングターゲット中の各成分の存在状態が確認される。
【0050】
図2において、焼結温度が910℃以下である場合、Ptのピークが確認され、Fe−Pt(FeとPtとの金属間化合物)のピークは小さいことから、FeとPtとの固溶化が十分には進んでいないことがわかる。一方、焼結温度が960℃以上である場合、Ptのピークは確認されず、Fe−Ptの大きなピークが確認されることから、FeとPtとの固溶化が十分に進んでいることがわかる。
【0051】
図1において、焼結温度が770℃である場合、Ptのピークが確認されるが、
図1における同じ焼結温度のチャートに比べ、Ptのピークは小さく、Fe−Ptのピークは大きい。一方、焼結温度が910℃以上である場合、Ptのピークは確認されず、FeとPtとの固溶化が十分に進んでいることがわかる。
【0052】
図1および
図2において、AgおよびCのピークの大きさは焼結温度には依存せず、各焼結温度のチャートでほぼ同じ大きさのピークが確認される。このことから、AgおよびCは固溶化せず、それぞれ単独で存在しているものと考えられる。
【0053】
以上より、Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲット、Fe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲットとも、焼結温度が高い場合ほどFeとPtとの固溶化が進行し、相対密度が高くなることがわかる。Fe、Pt、AgおよびCからなるスパッタリングターゲットは、Fe、PtおよびCからなるスパッタリングターゲットと比較して、低い焼結温度でもFeとPtとの固溶化の進行の程度が大きく、高い相対密度が得られることがわかる。すなわち、AgがFeとPtとの固溶化を促進させ、その結果、スパッタリングターゲットの相対密度を高めているものと考えられる。
(実施例6)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を19.48モル%、19.48モル%、2.05モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0054】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を1000℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(Fe
xPt
100-x)
100-y−Ag
y]
100-z−C
z(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=5、z=59であった。
【0055】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例7)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を19.14モル%、19.14モル%、2.73モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0056】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を950℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(Fe
xPt
100-x)
100-y−Ag
y]
100-z−C
z(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=6.67、z=59であった。
【0057】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例8)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を17.77モル%、17.77モル%、5.47モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0058】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を900℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(Fe
xPt
100-x)
100-y−Ag
y]
100-z−C
z(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=13.33、z=59であった。
【0059】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例9)
Fe粉末、Pt粉末、Ag粉末、C粉末それぞれの含有比率を17.09モル%、17.09モル%、6.83モル%、59.00モル%とした以外は実施例1と同様に行い、混合粉末を調製した。
【0060】
得られた混合粉末を、実施例1と同じ通電焼結装置を用いて、焼結温度を850℃としたこと以外は実施例1と同じ条件で焼結して、直径20mm、厚み5mmの焼結体を得た。この焼結体をスパッタリングターゲットとした。このスパッタリングターゲットの組成を[(Fe
xPt
100-x)
100-y−Ag
y]
100-z−C
z(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=16.67、z=59であった。
【0061】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
(実施例10)
実施例8と同様の製法で焼結体を得た。得られた焼結体を、熱間静水圧プレス装置を用い、以下の条件で処理して、スパッタリングターゲットを得た。
<処理条件>
雰囲気:アルゴン
温度: 900℃
圧力:118MPa
このスパッタリングターゲットの組成を[(Fe
xPt
100-x)
100-y−Ag
y]
100-z−C
z(x、y、z:モル%)と表記した場合、x=50、y=13.33、z=59であった。
【0062】
このスパッタリングターゲットの相対密度を、実施例1と同様の方法で求めた。得られたスパッタリングターゲットの成形後の状態を、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示した。
【0063】
【表2】
表1および表2より、Fe、PtおよびAgの含有量の合計に対するAgの含有量の比率(yモル%)を上記のように変化させた場合にも、焼結温度を適切に設定することにより、相対密度が90%以上のFePtC系スパッタリングターゲットが得られることがわかる。また、Fe、PtおよびAgの含有量の合計に対するAgの含有量の比率(yモル%)を増大させることにより、より低い焼結温度でも高密度のスパッタリングターゲットが得られることがわかる。
【0064】
また、実施例8および実施例10の結果より、FePtC系焼結体に熱間静水圧プレスを施すことにより、スパッタリングターゲットの相対密度を向上させることができることがわかる。