【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)を示す。以下、
図1に基づいて全体システム構成を説明する。
【0011】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、
図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMG(モータ)と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、メカオイルポンプM-O/Pと、サブオイルポンプS-O/Pと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0012】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0013】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づき第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・半締結状態・解放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、完全締結〜完全解放が制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0014】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この動作状態を「力行」と呼ぶ)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギーを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータ/ジェネレータMGのロータは、自動変速機ATの変速機入力軸INに連結されている。
【0015】
前記第2クラッチCL2は、前記モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づき第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・解放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0016】
前記自動変速機ATは、有段階の変速段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機であり、実施例1では前進7速/後退1速の変速段を持つ有段変速機としている。そして、実施例1では、前記第2クラッチCL2として、自動変速機ATとは独立の専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦要素のうち、所定の条件に適合する摩擦要素(クラッチやブレーキ)を選択している。
【0017】
前記自動変速機ATの変速機入力軸IN(=モータ軸)には、変速機入力軸INにより駆動されるメカオイルポンプM-O/Pが設けられている。そして、車両停止時等でメカオイルポンプM-O/Pからの吐出圧が不足するとき、油圧低下を抑えるために電動モータにより駆動されるサブオイルポンプS-O/Pが、モータハウジング等に設けられている。なお、サブオイルポンプS-O/Pの駆動制御は、後述するATコントローラ7により行われる。
【0018】
前記自動変速機ATの変速機出力軸には、プロペラシャフトPSが連結されている。そして、このプロペラシャフトPSは、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0019】
このFRハイブリッド車両は、駆動形態の違いによる走行モードとして、電気自動車走行モード(以下、「EV走行モード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(以下、「HEV走行モード」という。)と、駆動トルクコントロール走行モード(以下、「WSC走行モード」という。)と、を有する。
【0020】
前記「EV走行モード」は、第1クラッチCL1を解放状態とし、モータ/ジェネレータMGの駆動力のみで走行するモードであり、モータ走行モード・回生走行モードを有する。この「EV走行モード」は、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0021】
前記「HEV走行モード」は、第1クラッチCL1を締結状態として走行するモードであり、モータアシスト走行モード・発電走行モード・エンジン走行モードを有し、何れかのモードにより走行する。この「HEV走行モード」は、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0022】
前記「WSC走行モード」は、モータ/ジェネレータMGの回転数制御により、第2クラッチCL2をスリップ締結状態に維持しつつ、クラッチトルク容量をコントロールしながら走行するモードである。第2クラッチCL2のクラッチトルク容量は、第2クラッチCL2を経過して伝達される駆動トルクが、ドライバーのアクセル操作量にあらわれる要求駆動トルクとなるようにコントロールされる。この「WSC走行モード」は、「HEV走行モード」の選択状態での停車時・発進時・減速時等のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回るような走行領域において選択される。
【0023】
次に、FRハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、
図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、各コントローラ1,2,5,7,9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0024】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne,Te)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0025】
前記モータコントローラ2は、モータ/ジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm,Tm)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報を、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給する。
【0026】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・半締結・解放を制御する指令を、AT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0027】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18等からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、
図2に示すシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。前記シフトマップとは、例えば、
図2に示すように、アクセル開度APOと車速VSPに応じてアップ変速線とダウン変速線を書き込んだマップをいう。
この変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2のスリップ締結を制御する指令を、AT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。
なお、ATコントローラ7からのダウン変速要求タイミングと統合コントローラ10からのエンジン始動要求タイミングがズレ許容範囲内にて重なった場合には、所定のプログラム内容にしたがって、エンジン始動制御とダウン変速制御の同時処理が実施される。
【0028】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSにあらわれる要求制動力に対し、回生制動力を優先し、回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0029】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0030】
この統合コントローラ10には、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、
図3に示すEV-HEV選択マップ上で存在する位置により最適な走行モードを検索し、検索した走行モードを目標走行モードとして選択するモード選択部を有する。このEV-HEV選択マップには、EV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「EV走行モード」から「HEV走行モード」へと切り替えるEV⇒HEV切替線と、HEV領域に存在する運転点(APO,VSP)が横切ると「HEV走行モード」から「EV走行モード」へと切り替えるHEV⇒EV切替線と、「HEV走行モード」の選択時に運転点(APO,VSP)がWSC領域に入ると「WSC走行モード」へと切り替えるHEV⇒WSC切替線と、が設定されている。なお、前記HEV⇒EV切替線と前記HEV⇒EV切替線は、EV領域とHEV領域を分ける線としてヒステリシス量を持たせて設定されている。前記HEV⇒WSC切替線は、自動変速機ATが1速段を選択しているときにエンジンEngがアイドル回転数を維持する第1設定車速VSP1に沿って設定される。但し、「EV走行モード」の選択中、バッテリSOCが所定値以下になると、強制的に「HEV走行モード」を目標走行モードとする。
【0031】
前記統合コントローラ10では、「EV走行モード」の選択中、モード選択部が「HEV走行モード」を目標走行モードとして選択すると、エンジン始動制御を経過して「HEV走行モード」に移行する。このエンジン始動制御は、「EV走行モード」で解放されている第1クラッチCL1を半締結状態にし、モータ/ジェネレータMGをスタータモータとしてエンジンEngをクランキングし、燃料供給や点火によりエンジンEngを始動させる。そして、回転同期完了後、第1クラッチCL1を締結する。このエンジン始動制御実行中において、モータ/ジェネレータMGをトルク制御から回転数制御に変更し、差回転を与えて第2クラッチCL2をスリップ締結する。つまり、エンジン始動制御に伴うトルク変動を第2クラッチCL2により吸収し、左右後輪RL,RRへの変動トルクの伝達によるエンジン始動ショックを防止している。
【0032】
また、「HEV走行モード」の選択中、モード選択部が「EV走行モード」を目標走行モードとして選択すると、エンジン停止制御を経過して「EV走行モード」に移行する。このエンジン停止制御は、「HEV走行モード」で締結されている第1クラッチCL1を解放した後、切り離されたエンジンEngを停止させる。このエンジン停止制御実行中において、エンジン始動制御の場合と同様に、モータ/ジェネレータMGをトルク制御から回転数制御に変更し、差回転を与えて第2クラッチCL2をスリップ締結する。つまり、エンジン停止制御に伴うトルク変動を第2クラッチCL2により吸収し、左右後輪RL,RRへの変動トルクの伝達によるエンジン停止ショックを防止している。
【0033】
図4は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATの一例を示す。以下、
図4に基づいて自動変速機ATの構成を説明する。
【0034】
前記自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸Inputから入力され、4つの遊星ギヤと7つの摩擦要素を有する変速ギヤ機構によって、回転速度が変速されて変速機出力軸Outputから出力される。
【0035】
前記変速ギヤ機構としては、変速機入力軸Input側から変速機出力軸Output側までの軸上に、第1遊星ギヤG1および第2遊星ギヤG2による第1遊星ギヤセットGS1と、第3遊星ギヤG3および第4遊星ギヤG4による第2遊星ギヤセットGS2と、が順に配置されている。また、油圧作動の摩擦要素として、第1クラッチC1と、第2クラッチC2と、第3クラッチC3と、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第4ブレーキB4と、が配置されている。また、機械作動の摩擦要素として、第1ワンウェイクラッチF1と、第2ワンウェイクラッチF2と、が配置されている。
【0036】
前記第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリアPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。前記第2遊星ギヤG2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリアPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
【0037】
前記第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリアPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。前記第4遊星ギヤG4は、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリアPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
【0038】
前記変速機入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結され、エンジンEngとモータージェネレータMGの少なくとも一方からの回転駆動力を入力する。前記変速機出力軸Outputは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力を、ファイナルギヤ等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0039】
前記第1リングギヤR1と第2キャリアPC2と第4リングギヤR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。前記第3リングギヤR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。前記第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0040】
前記第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3とによって連結することで、4つの回転要素を有して構成される。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを、第2連結メンバM2によって連結することで、5つの回転要素を有して構成される。
【0041】
前記第1遊星ギヤセットGS1では、トルクが変速機入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力され、入力されたトルクは第1連結メンバM1を介して第2遊星ギヤセットGS2に出力される。前記第2遊星ギヤセットGS2では、トルクが変速機入力軸Inputから直接第2連結メンバM2に入力されると共に、第1連結メンバM1を介して第4リングギヤR4に入力され、入力されたトルクは第3キャリアPC3から変速機出力軸Outputに出力される。
【0042】
前記第1クラッチC1(=インプットクラッチI/C)は、変速機入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。前記第2クラッチC2(=ダイレクトクラッチD/C)は、第4サンギヤS4と第4キャリアPC4とを選択的に断接するクラッチである。前記第3クラッチC3(=H&LRクラッチH&LR/C)は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。
【0043】
また、前記第2ワンウェイクラッチF2(=1&2速ワンウェイクラッチ1&2OWC)は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4の間に配置されている。これにより、第3クラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転速度が大きい時、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とは独立した回転速度を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
【0044】
前記第1ブレーキB1(=フロントブレーキFr/B)は、第1キャリアPC1の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1(=1速ワンウェイクラッチ1stOWC)は、第1ブレーキB1と並列に配置されている。前記第2ブレーキB2(=ローブレーキLOW/B)は、第3サンギヤS3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第3ブレーキB3(=2346ブレーキ2346/B)は、第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2を連結する第3連結メンバM3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。前記第4ブレーキB4(=リバースブレーキR/B)は、第4キャリアPC3の回転をトランスミッションケースCaseに対し選択的に停止させるブレーキである。
【0045】
図5は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両に搭載された自動変速機ATでの変速段ごとの各摩擦要素の締結状態を示す締結作動表である。尚、
図5において、○印はドライブ状態で当該摩擦要素が油圧締結であることを示し、(○)印はコースト状態で当該摩擦要素が油圧締結(ドライブ状態ではワンウェイクラッチ作動)であることを示し、無印は当該摩擦要素が解放状態であることを示す。
【0046】
上記のように構成された変速ギヤ機構に設けられた各摩擦要素のうち、締結していた1つの摩擦要素を解放し、解放していた1つの摩擦要素を締結するという架け替え変速を行うことで、下記のように、前進7速で後退1速の変速段を実現することができる。
すなわち、「1速段」では、第2ブレーキB2のみが締結状態となり、これにより第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「2速段」では、第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が締結状態となり、第2ワンウェイクラッチF2が係合する。「3速段」では、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3及び第2クラッチC2が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1及び第2ワンウェイクラッチF2はいずれも係合しない。「4速段」では、第3ブレーキB3、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「5速段」では、第1クラッチC1、第2クラッチC2及び第3クラッチC3が締結状態となる。「6速段」では、第3ブレーキB3、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となる。「7速段」では、第1ブレーキB1、第1クラッチC1及び第3クラッチC3が締結状態となり、第1ワンウェイクラッチF1が係合する。「後退速段」では、第4ブレーキB4、第1ブレーキB1及び第3クラッチC3が締結状態となる。
【0047】
図6は、実施例1の統合コントローラ10にて実行されるエンジン始動制御とダウン変速制御の同時処理選択制御の構成を示す(同時処理選択制御手段)。以下、
図6の各ステップについて説明する。
【0048】
ステップS1では、「EV走行モード」を選択しての走行中、走行モードを「HEV走行モード」へと切り替える「HEV走行モード」の選択に基づいて出力されるエンジン始動要求が有りか否かを判断する。YES(エンジン始動要求有り)の場合はステップS2へ進み、NO(エンジン始動要求無し)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
【0049】
ステップS2では、ステップS1でのエンジン始動要求有りとの判断に続き、エンジン始動制御を開始すると共に、第2クラッチCL2とする摩擦要素を確定し、ステップS3へ進む。
ここで、エンジン始動制御域でスリップ制御される第2クラッチCL2としては、各変速段にて締結される摩擦要素のうち1つを選択可能であるが、少なくともダウン変速後の変速段にて締結される要素で定義する。より具体的には、エンジン始動制御と変速制御が同時処理されても締結・解放されないで締結が維持される摩擦要素を選択し、これを第2クラッチCL2としている。例えば、現変速段が「1速段」のときには、「2速段」へアップ変速しても締結されたままの第2ブレーキB2を選択する。現変速段が「2速段」のときには、「1速段」へダウン変速しても「2速段」へアップ変速しても締結されたままの第2ブレーキB2を選択する。同様の考え方により、現変速段が「3速段」のとき第3ブレーキB3を選択し、現変速段が「4速段」のとき第2クラッチC2を選択し、現変速段が「5速段」のとき第3クラッチC3を選択し、現変速段が「6速段、7速段」のとき第1クラッチC1または第3クラッチC3を選択する。
【0050】
ステップS3では、ステップS2でのエンジン始動制御開始・CL1,CL2要素作動、あるいは、ステップS6でのエンジン始動制御に続き、自動変速機ATにおいてダウン変速中であるか否かを判断する。YES(ダウン変速中である)の場合はステップS4へ進み、NO(ダウン変速中でない)の場合はステップS5へ進む。
【0051】
ステップS4では、ステップS3でのダウン変速中であるとの判断に続き、ダウン変速進行状況が前処理〜イナーシャフェーズ中であるか否かを判断する。YES(イナーシャフェーズまでのダウン変速中)の場合はステップS8へ進み、NO(フィニッシュフェーズ以降までダウン変速進行)の場合はステップS6へ進む。
【0052】
ステップS5では、ステップS3でのダウン変速中でないとの判断に続き、走行中、運転点(APO,VSP)がダウン変速線を横切ることで出力されるダウン変速要求有りか否かを判断する。YES(ダウン変速要求有り)の場合はステップS7へ進み、NO(ダウン変速要求無し)の場合はステップS6へ進む。
【0053】
ステップS6では、ステップS4でのフィニッシュフェーズ以降までダウン変速が進行しているとの判断、あるいは、ステップS5でのダウン変速要求無しとの判断に続き、第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持させながらエンジンEngを始動するエンジン始動制御を実行し、ステップS3へ戻る。
【0054】
ステップS7では、ステップS5でのダウン変速要求有りとの判断、あるいは、ステップS8での前処理未終了であるとの判断に続き、ダウン変速の締結要素と解放要素の作動(前処理作動)を実行し、ステップS9へ進む。
ここで、ダウン変速締結要素の前処理とは、初期圧の印加によりリターンスプリング力に抗してプレート隙間を埋めるようにピストンを僅かにストロークさせ、クラッチ締結によるトルク容量を出す直前状態にしておく処理をいう。ダウン変速解放要素の前処理は、ライン圧により締結されている締結要素のトルク容量をイナーシャフェーズの開始域まで低下させる処理をいう。例えば、4→3ダウン変速の場合、締結要素が第2ブレーキB2(=ローブレーキLOW/B)であり、解放要素が第3クラッチC3(=H&LRクラッチH&LR/C)である。なお、前処理が終了すると、モータ/ジェネレータMGの制御が、トルク制御から回転数制御へと切り替えられる。
【0055】
ステップS8では、ステップS4でのダウン変速が前処理〜イナーシャフェーズ中であるとの判断に続き、ダウン変速の前処理が終了したか否かを判断する。YES(前処理終了)の場合はステップS9へ進み、NO(前処理未終了)の場合はステップS7へ進む。
【0056】
ステップS9では、ステップS7での前処理の実行、あるいは、ステップS8での前処理終了であるとの判断、あるいは、ステップS10での回転ズレ非検知であるとの判断に続き、ダウン変速後のモータ回転(もしくはダウン変速後のモータトルク)が閾値未満であるか否かを判断する。YES(変速後モータ回転<閾値)の場合にはステップS10へ進み、NO(変速後モータ≧閾値)の場合にはステップS11へ進む。
ここで、変速後モータ回転の閾値は、クランキングに十分なトルクを確保できるモータ回転域の上限値に設定する。
【0057】
ステップS10では、ステップS9での変速後モータ回転<閾値であるとの判断に続き、エンジン始動要求時における変速解放要素のトルク容量(解放クラッチトルク容量)が閾値未満であるか否かを判断する。YES(解放クラッチトルク容量<閾値)の場合はステップS12へ進み、NO(解放クラッチトルク容量≧閾値)の場合はステップS11へ進む。
ここで、解放クラッチトルク容量の閾値は、クランキング中に確保しておきたいドライバー要求駆動力相当の値に設定する。
【0058】
ステップS11では、ステップS9での変速後モータ≧閾値であるとの判断、または、ステップS10での解放クラッチトルク容量≧閾値であるとの判断に続き、第1同時処理制御(
図7)を選択し、第1同時処理制御を実施し、制御終了へ進む。
【0059】
ステップS12では、ステップS9での変速後モータ<閾値であるとの判断、かつ、ステップS10での解放クラッチトルク容量<閾値であるとの判断に続き、第2同時処理制御(
図8)を選択し、第2同時処理制御を実施し、制御終了へ進む。
【0060】
図7は、
図6のステップS11にて実施される先始動⇒後変速の第1同時処理制御の構成および流れを示す(第1同時処理制御手段)。以下、
図7の各ステップについて説明する。
【0061】
ステップS111では、締結クラッチ要素のトルク容量をスタンバイ容量に保ち、解放クラッチ要素のトルク容量を第2クラッチCL2のトルク容量以上に保ち、第2クラッチCL2を目標駆動トルク相当以下とし、ダウン変速制御を進行させないでエンジン始動制御のみを進行させる協調制御を行い、ステップS112へ進む。
【0062】
ステップS112では、ステップS111でのダウン変速制御を進行させないでエンジン始動制御のみを進行させる協調制御に続き、第1クラッチCL1の入出力回転数であるエンジン回転数とモータ回転数が一致(=CL1同期)したか否か、つまり、エンジン始動制御が終了したか否かを判断する。YES(CL1同期有り)の場合はステップS113へ進み、NO(CL1同期無し)の場合はステップS111へ戻る。
【0063】
ステップS113では、ステップS112でのCL1同期有りとの判断、あるいは、ステップS114でのCL2同期判定かつ変速同期判定であるとの終了判断に続き、締結クラッチ要素のトルク容量を第2クラッチCL2のトルク容量以上とし、解放クラッチ要素のトルク容量をスタンバイ容量以下とし、第2クラッチCL2を目標駆動トルク相当とすることで、エンジン始動制御側で車両駆動力を保ちつつ、変速制御を進行させる協調制御を行い、ステップS114へ進む。
【0064】
ステップS114では、ステップS113での駆動力を保ちつつ変速制御を進行させる協調制御に続き、第2クラッチCL2の入出力回転差が収束するCL2同期判定が成立し、かつ、自動変速機ATの実ギヤ比が変速後の目標ギヤ比に収束する変速同期判定が成立したか否かを判断する。YES(協調制御終了条件成立)の場合はステップS115へ進み、NO(協調制御終了条件不成立)の場合はステップS113へ戻る。
【0065】
ステップS115では、ステップS114での協調制御終了条件成立の判断に続き、締結クラッチ要素を完全締結し、解放クラッチ要素を完全解放し、第2クラッチCL2を完全締結し、制御終了へ進む。
【0066】
図8は、
図6のステップS12にて実施される先変速⇒後始動の第2同時処理制御の構成および流れを示す(第2同時処理制御手段)。以下、
図8の各ステップについて説明する。
【0067】
ステップS121では、第1クラッチCL1を半締結状態とする締結作動を開始すると共に、第2クラッチCL2のスリップ締結状態とする解放作動を開始し、ステップS122へ進む。
【0068】
ステップS122では、ステップS121でのCL1,CL2要素作動に続き、第2クラッチCL2のスリップ締結に起因する回転ズレを検知したか否かを判断する。YES(回転ズレ検知)の場合はステップS123へ進み、NO(回転ズレ非検知)の場合はステップS121へ戻る。
ここで、回転ズレ検知は、ダウン変速前の変速段ギヤ比により自動変速機ATの入出力軸回転数の比が決まっているため、この入出力軸回転数関係からの回転ズレ分を検知する。
【0069】
ステップS123では、ステップS122での回転ズレ検知であるとの判断、あるいは、ステップS124での次変速段未到達であるとの判断に続き、次変速段の目標入力回転数に所定回転数αを加えた値を目標回転数とするモータ/ジェネレータMGによる回転数制御を開始し、モータ/ジェネレータMGのモータトルクを使って目標回転数まで回転上昇させ、ステップS124へ進む。つまり、ダウン変速の進行を、油圧の掛け替えに依らず、モータ/ジェネレータMGによる回転数上昇によって進行させる。
【0070】
ステップS124では、ステップS123での次変速段+αまで入力回転数を上昇させる回転上昇制御に続き、次変速段に到達したか否か、つまり、自動変速機ATの入力回転数が次変速段の目標入力回転数に到達したか否かを判断する。YES(次変速段到達)の場合はステップS125へ進み、NO(次変速段未到達)の場合はステップS123へ戻る。
【0071】
ステップS125では、ステップS124での次変速段到達であるとの判断に続き、ダウン変速における締結クラッチのクラッチ締結容量をアップすると共に、解放クラッチのクラッチ締結容量をダウンする。そして、(次変速段の目標入力回転数+α)を目標回転数とするモータ回転数制御を継続したままで、半締結状態の第1クラッチCL1によりエンジンEngのクランキングを進行し、ステップS126へ進む。
すなわち、このステップS125では、入力回転数を上昇させるダウン変速の進行をモータ/ジェネレータMGによる回転数制御に委ねたままで、オン/オフ的な油圧掛け替え制御とエンジン始動制御を行う。なお、エンジンEngのクランキングによりエンジン回転数が所定回転数に達すると、燃料噴射と点火による初爆を経過してエンジンEngを始動し、自立運転状態に移行させる。
【0072】
ステップS126では、ステップS125での締結/解放クラッチの容量制御とモータ回転数制御の継続に続き、第1クラッチCL1の入出力回転数であるエンジン回転数とモータ回転数が一致(=CL1同期)したか否かを判断する。YES(CL1同期有り)の場合はステップS127へ進み、NO(CL1同期無し)の場合はステップS125へ戻る。
【0073】
ステップS127では、ステップS126でのCL1同期有りとの判断に続き、半締結状態の第1クラッチCL1の締結容量をアップして完全締結状態にする。そして、エンジン回転数とモータ回転数の目標回転数を(次変速段の目標入力回転数)とし、(次変速段の目標入力回転数+α)から(次変速段の目標入力回転数)へと回転数を低下させる方向に回転収束させ、ステップS128へ進む。
【0074】
ステップS128では、ステップS127でのエンジン回転数とモータ回転数の回転収束に続き、エンジン回転数とモータ回転数が次変速段の目標入力回転数になり、次変速段で同期が完了したか否かを判断する。NO(次変速段で同期未完)の場合はステップS127へ戻る。YES(次変速段で同期完了)の場合は、制御終了に進み、モータ制御を回転数制御からトルク制御に切り替え、第2クラッチCL2をスリップ締結から完全締結に切り替え、ダウン変速の締結クラッチ油圧をライン圧まで高めて「HEV走行モード」に遷移する。
【0075】
次に、作用を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置における作用を、「エンジン始動の単独制御作用」、「エンジン始動とダウン変速の同時処理制御選択作用」、「第1同時処理制御作用」、「第2同時処理制御作用」に分けて説明する。
【0076】
[エンジン始動単独制御作用]
エンジン始動要求とダウン変速要求が重なり合うタイミングで出される場合には同時処理が必要である。しかし、エンジン始動要求から離れたタイミングでダウン変速要求が出された場合には、エンジン始動要求に応えるエンジン始動制御の処理のみを行う。以下、これを反映するエンジン始動単独制御作用を説明する。
【0077】
「EV走行モード」の選択中、「HEV走行モード」を目標走行モードとして選択されたのに伴いエンジン始動要求があったとき、ダウン変速中でなく、かつ、ダウン変速要求もないとする。この場合、
図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS5→ステップS6へと進み、ステップS2において、エンジン始動制御が開始される。その後、ダウン変速中でなく、かつ、ダウン変速要求もない状態が継続すると、ステップS3→ステップS5→ステップS6へと進む流れを繰り返すことで、エンジン始動の単独制御が行われる。
【0078】
また、「EV走行モード」の選択中、「HEV走行モード」を目標走行モードとして選択されたのに伴いエンジン始動要求があったとき、ダウン変速中であり、しかもフィニッシュフェーズ以降まで変速が進行しているとする。この場合、
図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6へと進み、ステップS2において、エンジン始動制御が開始される。その後、ダウン変速をそのまま進行させる通常のダウン変速制御と、ステップS3→ステップS4→ステップS6へと進む流れを繰り返すことによるエンジン始動の単独制御と、がそれぞれ行われる。
【0079】
このエンジン始動の単独制御では、「EV走行モード」で解放されている第1クラッチCL1を半締結状態にし、モータ/ジェネレータMGをスタータモータとしてエンジンEngをクランキングし、燃料供給や点火によりエンジンEngを始動させ、その後、第1クラッチCL1を締結する。
【0080】
[エンジン始動とダウン変速の同時処理制御選択作用]
エンジン始動要求とダウン変速要求のタイミングが重なって2つの制御を同時処理する場合、処理手順が予め決められた1つのパターンで行うと、ショック性能やラグ性能を満足できないシーンが存在する。よって、同時処理を行う場合、どのようなシーンであってもショック性能やラグ性能を満足すようにすることが必要である。以下、これを反映するエンジン始動とダウン変速の同時処理制御選択作用を説明する。
【0081】
例えば、4→3ダウン変速とエンジン始動の同時処理が行われるときの始動要求タイミングの違いの代表パターン(踏込みタイミングTA,TB,TC)を、
図2および
図9により説明する。
【0082】
(a) 踏込みタイミングTA
踏込みタイミングTAは、車速が高い側で4→3ダウン変速線を横切ってアクセルが踏込まれるシーンである。
例えば、4速段での「EV走行モード」の選択によるドライブ走行中、加速を意図してドライバーがアクセル踏み込み操作を行うと、
図2に示すシフトマップ上で運転点(APO,VSP)がG点からG’点へと移動する。このとき、運転点の移動途中のg点にてEV⇒HEV切替線を横切ることでエンジン始動要求が先に出され、その後、g’点にて4→3ダウン変速線を横切ることで4→3ダウン変速要求(タイミングTD)が出される。
この場合、車速が高い側で4→3ダウン変速線を横切っているため、変速後モータ回転≧閾値になる可能性が高く、第1同時処理制御が選択される。
【0083】
(b) 踏込みタイミングTB
踏込みタイミングTBは、4→3コーストダウンのトルクフェーズであり、解放容量が残っている段階でアクセルが踏込まれるシーンである。
例えば、4速段での「EV走行モード」の選択によるコースト走行中、加速を意図してドライバーがアクセル踏み込み操作を行うと、
図2に示すシフトマップ上で運転点(APO,VSP)がH点からH’点へと移動する。このとき、運転点の移動途中のh’点にて4→3ダウン変速線を横切ることで4→3ダウン変速要求(タイミングTD)が先に出され、その直後、h点にてEV⇒HEV切替線を横切ることでエンジン始動要求が出される。
この場合、4→3コーストダウンであるため、変速後モータ回転<閾値になる可能性が高いが、残っている解放容量が閾値以上のときは第1同時処理制御が選択され、残っている解放容量が閾値未満のときは第2同時処理制御が選択される。
【0084】
(c) 踏込みタイミングTC
踏込みタイミングTCは、4→3コーストダウンのイナーシャフェーズであり、解放容量を抜いた後でアクセルが踏込まれるシーンである。
例えば、4速段での「EV走行モード」の選択によるコースト走行中、加速を意図してドライバーがアクセル踏み込み操作を行うと、
図2に示すシフトマップ上で運転点(APO,VSP)がI点からI’点へと移動する。このとき、運転点の移動途中のi’点にて4→3ダウン変速線を横切ることで4→3ダウン変速要求(タイミングTD)が先に出され、その後、i点にてEV⇒HEV切替線を横切ることでエンジン始動要求が出される。
この場合、4→3コーストダウンであるため、変速後モータ回転<閾値になる可能性が高く、かつ、解放容量を抜いた後であるため、残っている解放容量が閾値未満となり、第2同時処理制御が選択される。
【0085】
(第1同時処理制御の選択)
走行シーンが、車速が高い側で4→3ダウン変速線を横切ってアクセルが踏込まれるシーンであり、エンジン始動要求が先で4→3ダウン変速要求が後に出され、変速後モータ回転≧閾値であるとする。このときには、
図6のフローチャートにおいて、ステップS7またはステップS8から、ステップS9→ステップS11→制御終了へと進む流れになる。
【0086】
また、走行シーンが、4→3コーストダウンのトルクフェーズであり、解放容量が残っている段階でアクセルが踏込まれるシーンであり、4→3ダウン変速要求が先でエンジン始動要求が後に出され、変速後モータ回転<閾値、かつ、解放クラッチトルク容量≧閾値であるとする。このときには、
図6のフローチャートにおいて、ステップS7またはステップS8から、ステップS9→ステップS10→ステップS11→制御終了へと進む流れになる。
【0087】
例えば、車速が高い側で4→3ダウン変速線を横切ってアクセルが踏込まれるシーンのように、変速後のモータ回転が高くなるシーンにおいて、先変速⇒後始動の第2同時処理制御を選択すると、モータトルク稼働範囲が狭くなる。それによりクランキングに十分なモータトルクが確保できなくなり、ショックとなる。これに対し、変速後のモータ回転が高くなるシーンでは、先始動⇒後変速の第1同時処理制御を選択すると、クランキングに十分なモータトルクが確保でき、ショックになることが防止される。
【0088】
例えば、4→3コーストダウンのトルクフェーズであり、解放容量が残っている段階でアクセルが踏込まれるシーンのように、変速後のモータ回転が低くなるシーンは、クランキングに十分なモータトルクが確保できるため、第2同時処理制御の選択が可能である。しかし、残っている解放容量が閾値以上のときは、残っている解放容量により駆動力を確保することができるため、第1同時処理制御を選択することで、モータトルクの消費を低減しながら、ショック性能とラグ性能を満足する。
【0089】
(第2同時処理制御の選択)
走行シーンが、4→3コーストダウンのトルクフェーズであり、解放容量が残っている段階でアクセルが踏込まれるシーン、あるいは、4→3コーストダウンのイナーシャフェーズであり、解放容量を抜いた後でアクセルが踏込まれるシーンである。そして、4→3ダウン変速要求が先でエンジン始動要求が後に出され、変速後モータ回転<閾値、かつ、解放クラッチトルク容量<閾値であるとする。このときには、
図6のフローチャートにおいて、ステップS7またはステップS8から、ステップS9→ステップS10→ステップS12→制御終了へと進む流れになる。
【0090】
例えば、ダウン変速での解放容量が低いシーンにおいて、先始動⇒後変速の第1同時処理制御を選択すると、クランキング時に駆動力を十分に伝達することができず、それによりドライバーにラグ感を与えてしまう。これに対し、ダウン変速での解放容量が低いシーンでは、先変速⇒後始動の第2同時処理制御を選択すると、クランキング時にダウン変速終了状態の自動変速機ATを介して駆動力を十分に伝達でき、ドライバーにラグ感を与えてしまうことが防止される。
【0091】
上記のように、走行中、エンジン始動とダウン変速を同時処理するとき、先始動⇒後変速の第1同時処理制御と、先変速⇒後始動の第2同時処理制御を用意しておき、同時処理開始前のシーン判定に基づいて、何れか一方の制御を選択する構成を採用した。
この構成により、同時処理開始前のシーン判定に応じてショックやラグ感の発生がないように、先始動⇒後変速の第1同時処理制御と、先変速⇒後始動の第2同時処理制御と、の何れか一方の制御が使い分けられる。
したがって、走行中、エンジン始動制御とダウン変速制御を同時処理するとき、あらゆるシーンにおいて、ショック性能とラグ性能が満足される。
【0092】
また、変速後モータ回転が閾値未満であるか否かを判定し、変速後モータ回転≧閾値のとき第1同時処理制御を選択する構成を採用した(ステップS9)。
ここで、変速後モータ回転は、高くなるとモータトルク稼働範囲が狭くなり、エンジン始動(クランキング)に必要なトルクを出力できなくなる。
したがって、変速後モータ回転≧閾値のとき第1同時処理制御を選択することで、エンジン始動に必要なトルクを出力できなくなりショックとなることが防止される。
【0093】
さらに、エンジン始動要求時における解放クラッチトルク容量が閾値未満であるか否かを判定し、解放クラッチトルク容量<閾値のとき第2同時処理制御を選択する構成を採用した(ステップS10)。
ここで、エンジン始動要求時における解放クラッチトルク容量は、低いとクランキング時に駆動力を十分に伝達することができなくなる。
したがって、解放クラッチトルク容量<閾値のとき第2同時処理制御を選択することで、ドライバーにラグ感を与えてしまうことが防止される。
【0094】
[第1同時処理制御作用]
エンジン始動制御とダウン変速制御の同時処理時、ダウン変速の前処理後、ダウン変速制御を停止させたままでクランキングによる始動制御のみを進行させる。そして、第1クラッチCL1の同期が判定された後、締結クラッチと解放クラッチの掛け替え油圧制御によりダウン変速制御を進行させる始動先⇒変速後の第1同時処理制御作用を説明する。
例えば、4→3ダウン変速要求が出された場合には、第2ブレーキB2(LOW/B)が4→3ダウン変速での締結クラッチ要素とされ、第3クラッチC3(H&LR/C)が4→3ダウン変速での解放クラッチ要素とされる。また、第2クラッチC2(D/C)がエンジン始動制御中にスリップ制御する第2クラッチCL2とされる。
【0095】
第1同時処理制御作用を、
図7に示すフローチャートに基づき説明する。
ステップS111では、ステップS112により第1クラッチCL1の同期が判定されるまで、解放クラッチ要素と締結クラッチ要素のうちトルク容量が高い方の要素のトルク容量より下回り、かつ、目標駆動トルク相当以下のトルク容量により第2クラッチCL2のスリップ制御が行われる。
【0096】
ステップS112により第1クラッチCL1の同期が判定されると、ステップS112からステップS113へ進み、ステップS113において、ステップS114のCL2同期と変速同期が判定されるまで、締結クラッチ要素のトルク容量より下回り、かつ、目標駆動トルク相当のトルク容量により第2クラッチCL2のスリップ制御が行われる。
【0097】
すなわち、エンジン始動とダウン変速が共に要求された時、第1クラッチCL1の同期判定前後のスリップ制御中は、継続的に第2クラッチCL2のトルク容量を、変速に関与する解放クラッチ要素と締結クラッチ要素のうちトルク容量が高い方の摩擦要素のトルク容量より下回るように制御している。
したがって、変速時に締結・解放される摩擦要素のトルク容量を考慮して第2クラッチCL2のトルク容量制御を行うことにより、エンジン始動制御中、駆動輪である左右後輪RL,RRへ伝達される駆動トルクが、第2クラッチCL2のトルク容量により規定されるため、第1クラッチCL1の同期判定前後において、確実に第2クラッチCL2のトルク容量により車両駆動力を制御することができる。
【0098】
また、第1クラッチCL1の同期判定前後で第2クラッチCL2のトルク容量を異ならせ、第1クラッチCL1の同期判定前は、目標駆動トルク相当以下のトルク容量により第2クラッチCL2のスリップ制御を行い、第1クラッチCL1の同期判定後は、目標駆動トルク相当のトルク容量により第2クラッチCL2のスリップ制御を行うようにしている。
したがって、第1クラッチCL1の同期判定前のエンジンクランキング領域においては、第2クラッチCL2を目標駆動トルク相当以下のトルク容量にすることより車両駆動力を確保しながら、エンジンクランキング動作に対し第2クラッチCL2のトルク容量を抑えてスリップ締結状態を保つことによりクランキングショックの発生を抑えることができる。そして、駆動力応答要求が高くなる第1クラッチCL1の同期判定後のエンジン始動制御収束領域においては、第2クラッチCL2のスリップ締結を保ちながら目標駆動トルク相当のトルク容量にすることより、ショック吸収機能を発揮しつつ、運転者が意図する車両駆動力の発生が確保される。
【0099】
次に、第1同時処理制御作用を、
図10に示すタイムチャートに基づいて説明する。
この
図10のタイムチャートは、4速段での「EV走行モード」の選択によるドライブ走行中、中間加速を意図してドライバーがアクセル踏み込み操作を行うことで、エンジン始動要求が先に出され、その後、4→3ダウン変速要求が出される場合を示す。
なお、
図10において、時刻t1はエンジン始動要求タイミングを示す。時刻t2はダウン変速要求タイミングを示す。時刻t3はトルク制御による前処理終了時点であると共に回転数制御によるクランキング開始時点を示す。時刻t4はCL1同期時点を示す。時刻t5は掛け替え油圧制御によるダウン変速の開始時点を示す。時刻t6はエンジン始動制御とダウン変速制御の同時処理終了時点を示す。
【0100】
図10のタイムチャートにおいて、時刻t1にてエンジン始動要求があると、第2クラッチ圧(CL2_PRS)の特性に示すように、クラッチ圧の低下により第2クラッチCL2のスリップ制御が開始される。その後、時刻t2にてダウン変速要求があると、締結圧(Apply_PRS)と解放圧(Release_PRS)の特性に示すように、ダウン変速の締結クラッチ要素と解放クラッチ要素に対する前処理(スタンバイフェーズ)が開始される。その後、時刻t3にて前処理が終了すると、モータ/ジェネレータMGをトルク制御から回転数制御へと切り替え、第2クラッチCL2のトルク容量を低下させる時刻t1から時刻t2までの領域Aの制御を終了する。
【0101】
前処理が終了した時刻t3からCL1同期が判定される時刻t4までの領域Bにおいては、締結圧(Apply_PRS)の特性に示すように、締結クラッチ要素のトルク容量をスタンバイ容量に保ち、解放圧(Release_PRS)の特性に示すように、解放クラッチ要素のトルク容量を第2クラッチCL2のトルク容量以上に保つことで、ダウン変速の変速制御を進行させない。そして、第2クラッチCL2のトルク容量を、第2クラッチ圧(CL2_PRS)の特性に示すように、解放クラッチトルク容量未満とし、かつ、目標駆動トルク相当以下とすることで、第2クラッチCL2のトルク容量で駆動力を管理する。つまり、領域Bでは、ダウン変速制御を進行させないで(トルクフェーズを維持)、エンジン回転数(ENGREV)と第1クラッチトルク(CL1_TRQ)の特性に示すように、エンジンクランキングによるエンジン始動制御のみを進行させる。そして、燃料供給と点火によりエンジンを初爆させる制御が行われる。
【0102】
CL1同期が判定される時刻t4からCL2同期が判定される時刻t6までの領域Cにおいては、
図10に示すように、時刻t4から時刻t5において、モータ回転数制御によって変速機入力回転数を変速後ギヤ段の回転数まで増加させる。変速制御側では、時刻t4から時刻t5までトルクフェーズを維持し、時刻t5に達すると、締結圧(Apply_PRS)の特性に示すように、締結圧を急勾配にて立ち上げ、締結クラッチ要素のトルク容量を第2クラッチCL2のトルク容量以上とし、解放圧(Release_PRS)の特性に示すように、解放クラッチ要素のトルク容量をスタンバイ容量以下とし、イナーシャフェーズによりダウン変速を進行させる。そして、第2クラッチCL2のトルク容量を、第2クラッチ圧(CL2_PRS)の特性に示すように、目標駆動トルク相当とすることで、第2クラッチCL2のトルク容量で駆動力を管理する。つまり、領域Cでは、ダウン変速を進行させると共に、始動後のエンジンをアクセル開度相当のトルク制御とすることで、駆動力特性に示すように、加速要求に対応して上昇する車両駆動力を確保する制御が行われる。
【0103】
そして、CL2同期が判定される時刻t6になると、モータ/ジェネレータMGを回転数制御からトルク制御に戻し、締結圧(Apply_PRS)と解放圧(Release_PRS)の特性に示すように、締結クラッチ要素を完全締結とし、解放クラッチ要素を完全解放とし、第2クラッチ圧(CL2_PRS)の特性に示すように、第2クラッチCL2の再締結制御が行われる。
【0104】
このように、エンジン始動+ダウン変速の第1同時処理制御のコンセプトとして、スリップ制御要素である第2クラッチCL2を、トルク遮断効果が最も高くダウン変速から独立したクラッチとし、ダウン変速を第2クラッチCL2のトルク容量制御中にやり切るようにした。そして、時刻t3から時刻t4の「領域Bの考え方」と、時刻t4から時刻t5の「領域Cの考え方」を、下記のようにした。
【0105】
(領域Bの考え方)
インギヤ状態で締結している3つのクラッチ(4速時にはC2,C3,B3)のうち、スリップ制御要素である第2クラッチCL2(第2クラッチC2)と変速解放要素である解放クラッチ要素(第3クラッチC3)の2要素をトルク容量制御する。
ここで、基本的な考え方は、
CL2トルク容量<解放クラッチトルク容量(解放圧(Release_PRS)の特性D)とすることで、第2クラッチCL2をスリップさせ、駆動力をコントロールする(駆動力特性E)。
また、以下の理由により領域Bでは、変速制御を同期判定フェーズには移行させない。
・エンジンEngのクランキング中に締結要素⇔解放要素の架け替えを行わない。
これにより、自動変速機ATの内部状態が変わることによる第2クラッチCL2の分担比、遮断効果の変化を禁止することができる。
・エンジンEngのクランキング中に変速の解放要素を動かさない。
これにより、エンジンEngのクランキング中は、第2クラッチCL2のスリップ締結状態を継続させることができる。
【0106】
(領域Cの考え方)
ダウン変速の締結要素⇔解放要素の架け替えと第2クラッチCL2のトルク容量制御を同時に実施する。そして、駆動力を立ち上げる(駆動力特性F)。
ここで、
・CL2トルク容量<締結クラッチトルク容量
・解放要素はスタンバイ圧以下まで低減
とすることで、確実にダウン変速を進行させることができる。
さらに、ダウン変速後の締結クラッチ要素がロックアップ(完全締結状態)していることを確認するために、
・第2クラッチCL2は差回転収束による同期判定(回転センサ情報から演算)
・変速制御はギヤ比による同期判定
の両方が成立することで、本制御を終了する。
【0107】
[第2同時処理制御作用]
エンジン始動制御とダウン変速制御の同時処理時、ダウン変速の前処理後、ダウン変速制御を進行させ、引き続いて、クランキングによる始動制御を進行させる。そして、第1クラッチCL1の同期が判定する変速先⇒始動後の第2同時処理制御作用を説明する。
例えば、4→3ダウン変速要求が出された場合には、第2ブレーキB2(LOW/B)が4→3ダウン変速での締結クラッチ要素とされ、第3クラッチC3(H&LR/C)が4→3ダウン変速での解放クラッチ要素とされる。また、第2クラッチC2(D/C)がエンジン始動制御中にスリップ制御する第2クラッチCL2とされる。
【0108】
第2同時処理制御作用を、
図8に示すフローチャートに基づき説明する。
ステップS121では、前処理終了後、ステップS122にて回転ズレが検知されるまで、第1クラッチCL1の半締結状態とする締結作動が開始されると共に、第2クラッチCL2のスリップ締結状態とする解放作動が開始される。
【0109】
ステップS122にて回転ズレが検知されると、ステップS123では、次変速段の目標入力回転数に所定回転数αを加えた値を目標回転数とするモータ/ジェネレータMGによる回転数制御が開始される。そして、ステップS124にて次変速段到達と判断されるまで、モータ/ジェネレータMGのモータトルクを使って目標回転数まで回転上昇させる回転数制御が実行される。
【0110】
ステップS124にて次変速段到達と判断されると、ステップS125では、ダウン変速における締結クラッチのクラッチ締結容量が、次変速段でのトルク容量を持つレベルまでアップされると共に、解放クラッチのクラッチ締結容量がダウン(ドレーン)される。そして、ステップS126にて第1クラッチCL1が同期したと判断されるまで、(次変速段の目標入力回転数+α)を目標回転数とするモータ回転数制御を継続したままで、半締結状態の第1クラッチCL1によるエンジンEngのクランキングが進行される。
【0111】
ステップS126にて第1クラッチCL1が同期したと判断されると、ステップS127では、半締結状態の第1クラッチCL1の締結容量をアップして完全締結状態にされる。そして、ステップS128にて次変速段で同期完了と判断されるまで、エンジン回転数とモータ回転数の目標回転数を(次変速段の目標入力回転数)とし、(次変速段の目標入力回転数+α)から(次変速段の目標入力回転数)へと回転数を低下させる方向に回転収束させる制御が行われる。
【0112】
ステップS128にて次変速段で同期完了と判断されると、同時処理の制御を終了し、モータ制御が回転数制御からトルク制御に切り替えられ、第2クラッチCL2がスリップ締結から完全締結状態に切り替えられる。そして、ダウン変速の締結クラッチ油圧がライン圧まで高められて「HEV走行モード」に遷移する。
【0113】
第2同時処理制御作用を、
図11に示すタイムチャートに基づいて説明する。
この
図11のフローチャートは、4速段での「EV走行モード」の選択によるコースト走行中、加速を意図してドライバーがアクセル踏み込み操作を行うことで、4→3ダウン変速要求が先に出され、その後、エンジン始動要求が出される場合を示す。
なお、
図11において、時刻t1は前処理を開始するダウン変速要求タイミングを示す。時刻t2は前処理終了時点であると共にトルク制御から回転数制御への切り替え時点を示す。時刻t3はエンジン始動要求タイミングを示す。時刻t4はモータ回転数制御による入力回転数制御の開始時点を示す。時刻t5は次変速段到達時点を示す。時刻t6はCL1同期時点を示す。時刻t7はエンジン始動制御とダウン変速制御の同時処理終了時点を示す。
【0114】
図11のタイムチャートにおいて、前処理を実行する時刻t1から時刻t2までの領域A’の制御作用を説明する。時刻t1にて時刻t1にてダウン変速要求があると、締結圧(Apply_PRS)と解放圧(Release_PRS)の特性に示すように、ダウン変速の締結クラッチ要素と解放クラッチ要素に対する前処理(スタンバイフェーズ)が開始される。その後、時刻t2にて前処理が終了すると、モータ/ジェネレータMGをトルク制御から回転数制御へと切り替え、同時処理に先行して前処理を実行する領域A’の制御を終了する。
【0115】
前処理終了時刻t2からダウン変速とクランキングを終了する時刻t6までの領域B’の制御作用を説明する。回転数制御への切り替え時刻t2からエンジン始動要求がある時刻t3までは、モータ回転数(Motor_REV)の特性に示すように、モータ回転数(=変速機入力回転数)を目標モータ回転数(Target_REV)に沿って徐々に上げる回転数制御を行う。これにより、モータトルクが加わることで、駆動力特性に示すように、負の駆動力から正の駆動力へ移る。そして、時刻t3にてエンジン始動要求があると、第2クラッチ圧(CL2_PRS)の特性に示すように、クラッチ圧の低下により第2クラッチCL2のスリップ制御が開始される。同時に、第1クラッチトルク(CL1_TRQ)の特性に示すように、第1クラッチCL1のピストンを半締結方向にストロークさせることで、第1クラッチCL1にトルク容量を持たせてゆく。その後、時刻t4にて第2クラッチCL2がスリップ締結状態になったと確認されると、モータ回転数(Motor_REV)の特性に示すように、モータ回転数を、次変速段の入力回転数+αに設定した目標モータ回転数(Target_REV)に向かって一気に上げる回転数制御を行う。その後、時刻t5にてモータ回転数(Motor_REV)が次変速段入力回転数に到達すると、締結圧(Apply_PRS)の特性に示すように、締結クラッチ要素のトルク容量をアップし、解放圧(Release_PRS)の特性に示すように、解放クラッチ要素をドレーン解放する。これによって、時刻t5の直後の締結クラッチ要素のトルク容量が確保された時点にて先にダウン変速が終了域まで進む。そして、第2クラッチCL2のトルク容量を、第2クラッチ圧(CL2_PRS)の特性に示すように、目標駆動トルク相当とすることで、第2クラッチCL2のトルク容量で駆動力を管理する。この時刻t5から時刻t6に向けては、ダウン変速の終了域と重なる進行により、エンジン回転数(ENGREV)と第1クラッチトルク(CL1_TRQ)の特性に示すように、エンジンクランキングによるエンジン始動制御を進行させる。これにより、ダウン変速より後の時刻t6にてエンジン始動制御を終了する。
【0116】
CL1同期が判定される時刻t6から次変速段での同期が完了する時刻t7までの領域C'の制御作用を説明する。時刻t6にてCL1同期が判定されると、第1クラッチトルク(CL1_TRQ)の特性に示すように、第1クラッチCL1のピストンを完全締結方向にストロークさせることで、締結した第1クラッチCL1を介してエンジンEngとモータ/ジェネレータMGを直結する。そして、CL1同期が判定される時刻t6においては、エンジン回転数とモータ回転数が、次変速段の入力回転数+αに設定した目標モータ回転数(Target_REV)にあるため、モータ回転数制御によりエンジン回転数を次変速段の入力回転数まで徐々に低下させる。そして、時刻t7にてエンジン回転数とモータ回転数が、次変速段の入力回転数に収束することで領域C’を終了する。
【0117】
このように、第2同時処理制御のコンセプトとして、第2同時処理制御と同様に、スリップ制御要素である第2クラッチCL2を、トルク遮断効果が最も高くダウン変速から独立したクラッチとした。そして、時刻t2から時刻t6の「領域B’の考え方」として、クランキング中にダウン変速(入力回転上昇)を終了させ、回転上昇後に第1クラッチCL1を同期させるようにした。つまり、変速先⇒始動後による第2同時処理制御を行うようにした。
【0118】
エンジン始動要求は、
図9に示すように、様々なタイミングで介入する。これに対し、エンジン始動制御より先にダウン変速制御を終了させる同時処理を行うことで、ダウン変速制御の終了時点(締結要素がトルク容量を持った時刻t5の少し後の時点)で自動変速機ATの内部状態が次変速段の駆動力伝達状態に変化している。
したがって、クランキング中の駆動力管理を行うに際し、エンジン始動要求タイミングの違いにより異なる高さになるダウン変速制御の解放圧に依存することがない。すなわち、クランキング中の駆動力管理は、自動変速機ATの内部状態が次変速段の駆動力伝達状態に変化すると、
図11の駆動力特性Jに示すように、第2クラッチCL2の容量管理により容易に行える。
【0119】
また、エンジン始動制御より先にダウン変速制御を終了させる同時処理を行うことで、エンジン始動制御の終了後にダウン変速制御を進行する第1同時処理制御に比べ、早期に自動変速機ATの内部が高駆動力を伝達可能なダウン変速後の変速段状態になる。
したがって、
図11の駆動力特性Kに示すように、エンジン始動要求の開始時点t3からドライバーが意図する駆動力に到達する時点(時刻t6の少し後の時点)までの時間が短縮される。
【0120】
さらに、エンジン始動制御に先行してダウン変速制御を行う第2同時処理制御の場合、始動およびダウン変速のショックやラグを、始動要求タイミングに依らず安定化することが必要である。以下、これを反映する回転数制御によるダウン変速作用を説明する。
【0121】
ダウン変速制御は、所要時間の短いダウン変速中、イナーシャが大きい変速機出力軸回転数(=車速)が一定であると考えると、変速機入力軸回転数を上昇させる制御である。この回転数上昇制御を、ダウン変速の締結要素と解放要素の掛け替え制御により行う場合には、解放要素のトルク容量を下げることで解放要素を滑らせ、変速機入力軸回転数をゆっくり上げてゆく。そして、変速機入力軸回転数が次変速段の目標回転数となった瞬間、締結要素をトルク伝達状態として伝達トルクを分担し、解放要素のトルク容量を素早く抜くという微妙な負荷コントロールにより行われる。しかし、変速機入力軸回転数が目標回転数となった瞬間、解放要素のトルク容量を素早く抜けたら良いが、少しでも解放要素にトルク容量が残っていると、駆動系に負のトルクを伝達し、引きショックを招きやすい。
【0122】
これに対し、実施例1では、ダウン変速による入力回転数の上昇を、モータ/ジェネレータMGによるモータトルクを使って目標入力回転数まで上昇させる回転数制御にて実現する構成を採用した。
この構成により、モータ/ジェネレータMGによる回転数上昇により応答良くダウン変速が進行する。また、ダウン変速の締結要素は、入力回転数が上昇した後に掴めば良いというように、油圧掛け替えによるダウン変速制御が簡単になる。
したがって、ダウン変速開始からダウン変速終了までの所要時間の短縮化が図られるばかりでなく、引きショックを防止したダウン変速制御を容易に行える。
【0123】
なお、実施例1では、モータ回転数制御での目標回転数(Target_REV)を、次変速段の目標入力回転数に所定値αを加えたものとしている。このため、エンジン始動制御(クランキング)を行う間は、所定値αを次変速段でのスリップ分とし、第2クラッチCL2のスリップ締結状態が確保される。
【0124】
次に、効果を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0125】
(1) エンジンEngと、
前記エンジンEngから駆動輪(左右後輪RL,RR)への駆動系に設けられ、駆動モータ機能以外にエンジン始動モータ機能を持つモータ(モータ/ジェネレータMG)と、
前記エンジンEngと前記モータ(モータ/ジェネレータMG)の間に介装され、締結によるハイブリッド車走行モード(HEV走行モード)と、解放による電気自動車走行モード(EV走行モード)を切り替える第1クラッチCL1と、
前記モータ(モータ/ジェネレータMG)と前記駆動輪(左右後輪RL,RR)との間に介装され、変速比を自動的に変更する自動変速機ATと、
前記モータ(モータ/ジェネレータMG)から前記駆動輪(左右後輪RL,RR)までの何れかの位置に介装され、エンジン始動制御中、スリップ締結状態を維持する第2クラッチCL2と、
走行中、前記エンジンEngの始動制御と前記自動変速機ATのダウン変速制御を同時処理するとき、エンジン始動制御が先でダウン変速制御が後の第1同時処理制御を実行する第1同時処理制御手段(
図7)と、
走行中、前記エンジンEngの始動制御と前記自動変速機ATのダウン変速制御を同時処理するとき、ダウン変速制御が先でエンジン始動制御が後の第2同時処理制御を実行する第2同時処理制御手段(
図8)と、
同時処理開始前、クランキングに十分なモータトルクが確保できるか否かのシーン判定に基づいて、前記第1同時処理制御と前記第2同時処理制御の何れか一方の制御を選択する同時処理選択制御手段(
図6)と、
を備える。
このため、走行中、エンジン始動制御とダウン変速制御を同時処理するとき、あらゆるシーンにおいて、ショック性能とラグ性能を満足することができる。
【0126】
(2) 前記同時処理選択制御手段(
図6)は、ダウン変速後のモータ回転もしくはモータトルクが閾値未満のシーンであるか否かを判定し(ステップS9)、モータ回転若しくはモータトルクが閾値以上であるというシーン判定時は、前記第1同時処理制御を選択する(ステップS11)。
このため、ダウン変速終了後のモータトルク稼働範囲が狭いシーンのとき、始動先⇒変速後の第1同時処理制御を選択することで、エンジン始動に必要なトルクを出力できなくなりショックとなることを防止することができる。
【0127】
(3) 前記同時処理選択制御手段(
図6)は、エンジン始動要求時における変速解放要素のトルク容量が閾値未満のシーンであるか否かを判定し(ステップS10)、変速解放要素のトルク容量が閾値未満であるというシーン判定時は、前記第2同時処理制御を選択する(ステップS12)。
このため、駆動力を十分に伝達することができないシーンのとき、変速先⇒始動後の第2同時処理制御を選択することで、ドライバーにラグ感を与えてしまうことを防止することができる。
【0128】
(4) 前記同時処理選択制御手段(
図6)は、ダウン変速後のモータ回転もしくはモータトルクが閾値未満のシーンであると判定され(ステップS9でYES)、かつ、変速解放要素のトルク容量が閾値未満のシーンであると判定された場合のみ(ステップS10でYES)、前記第2同時処理制御を選択する(ステップS12)。
このため、ダウン変速終了後のモータトルク稼働範囲が広いシーンであり、かつ、駆動力を十分に伝達することができないシーンのとき、変速先⇒始動後の第2同時処理制御を選択することで、ドライバーにラグ感を与えてしまうことを防止することができる。
【0129】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0130】
実施例1では、第1同時処理制御と第2同時処理制御を選択する判定条件として、ダウン変速後の変速後モータ回転条件と、エンジン始動要求時における解放クラッチトルク容量条件を用いる例を示した。しかし、変速後モータ回転条件に代え、変速後モータトルク条件とする等、変更条件や他の条件を加えるような例としても良い。また、例えば、第1同時処理制御と第2同時処理制御の何れも選択可能であるシーンにおいては、ドライバー要求条件を判定し、例えば、燃費要求が高いときには第1同時処理制御を選択し、加速要求が高いときには第2同時処理制御を選択するような例としても良い。
【0131】
実施例1では、
図6のステップS9にてダウン変速後の変速後モータ回転条件が成立した後、
図6のステップS10にてエンジン始動要求時における解放クラッチトルク容量条件の成立を判断し、両条件が成立したとき第2同時処理制御を選択する例を示した。しかし、2つの条件判断を逆にし、エンジン始動要求時における解放クラッチトルク容量条件が成立した後、ダウン変速後の変速後モータ回転条件の成立を判断し、両条件が成立したとき第2同時処理制御を選択する例としても良い。なお、この場合、2つの条件のうち一方の条件が不成立であるときは、実施例1と同様に第1同時処理制御が選択される。
【0132】
実施例1では、第2同時処理制御時、ダウン変速の進行についてはモータ/ジェネレータMGによる回転数制御にて実現する例を示した。しかし、ダウン変速の進行を掛け替えの油圧制御により行うような例としても良いし、また、ダウン変速の進行を掛け替えの油圧制御とモータ回転数制御の併用により行うような例としても良い。要するに、エンジン始動制御が終了する前(クランキング中)にダウン変速制御を終了させておく同時処理制御であれば良い。
【0133】
実施例1では、エンジン始動制御域でスリップ制御される摩擦要素(第2クラッチCL2)を、有段式の自動変速機ATに内蔵した複数の摩擦要素の中から選択する例を示した。しかし、自動変速機ATとは別に設けた摩擦要素を第2クラッチCL2として選択する場合も本発明は成立する。このため、モータ/ジェネレータMGと変速機入力軸との間に自動変速機ATとは別に設けられ、走行中に締結が維持される摩擦要素を第2クラッチCL2として選択する例としても良い。また、変速機出力軸と駆動輪の間に自動変速機ATとは別に設けられ、走行中に締結が維持される摩擦要素を第2クラッチCL2として選択する例としても良い。
【0134】
実施例1では、自動変速機として、前進7速後退1速の有段式の自動変速機を用いる例を示した。しかし、変速段数はこれに限られるものではなく、変速段として複数の変速段を有する自動変速機であれば良い。さらに、自動変速機として、変速比を自動的に無段階に変更するベルト式無段変速機等を用いるような例としても良い。
【0135】
実施例1では、1モータ2クラッチの駆動系を備えたFRハイブリッド車両への適用例を示した。しかし、1モータ2クラッチの駆動系を備えたFFハイブリッド車両にも適用することができる。