特許第5730956号(P5730956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許573095611−ベータヒドロキシルステロイドデヒドロゲナーゼタイプ1の阻害剤としてのスピロ環
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730956
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】11−ベータヒドロキシルステロイドデヒドロゲナーゼタイプ1の阻害剤としてのスピロ環
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/10 20060101AFI20150521BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 5/28 20060101ALI20150521BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C07D471/10 101
   C07D471/10CSP
   A61K31/444
   A61P43/00 111
   A61P3/04
   A61P3/06
   A61P3/10
   A61P9/12
   A61P25/28
   A61P25/24
   A61P27/06
   A61P9/00
   A61P19/10
   A61P29/00
   A61P5/28
   A61P15/00
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-148780(P2013-148780)
(22)【出願日】2013年7月17日
(62)【分割の表示】特願2010-513441(P2010-513441)の分割
【原出願日】2008年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-15463(P2014-15463A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2013年8月1日
(31)【優先権主張番号】60/945,487
(32)【優先日】2007年6月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505193450
【氏名又は名称】インサイト・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】INCYTE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】ウェンキン・ヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ジンコン・ジュオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン・コリン
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5364702(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0116382(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/053024(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/067504(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/055752(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

[式中、
はF、Cl、Br、またはIである;および
およびRは、H、C1−6アルキルおよびC3−6シクロアルキルから独立して選択される]
を有する化合物、またはその医薬上許容される塩であって、
5−{3−フルオロ−4−[(5S)−2−(シス−4−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−オキソ−2,7−ジアザスピロ[4.5]デカ−7−イル]フェニル}−N,N−ジメチルピリジン−2−カルボキサミド;
5−{3−フルオロ−4−[(5S)−2−(シス−4−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−オキソ−2,7−ジアザスピロ[4.5]デカ−7−イル]フェニル}−N−メチルピリジン−2−カルボキサミド;
N−エチル−5−{3−フルオロ−4−[(5S)−2−(シス−4−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−オキソ−2,7−ジアザスピロ[4.5]デカ−7−イル]フェニル}ピリジン−2−カルボキサミド;および
5−{3−クロロ−4−[(5S)−2−(シス−4−ヒドロキシシクロヘキシル)−1−オキソ−2,7−ジアザスピロ[4.5]デカ−7−イル]フェニル}−N−エチルピリジン−2−カルボキサミド
およびこの医薬上許容される塩ではない、化合物、またはその医薬上許容される塩
【請求項2】
式II
【化2】
II
を有する請求項1に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項3】
がFである、請求項1または2に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項4】
がClである、請求項1または2に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項5】
およびRが、HおよびC1−4アルキルから独立して選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項6】
およびRが、H、メチルおよびエチルから独立して選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項7】
およびRの少なくとも一方がHではない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項8】
がHまたはC1−4アルキルであり、RがC1−4アルキルから選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項9】
がH、メチルまたはエチルであり、Rがメチルまたはエチルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項10】
がHまたはメチルであり、Rがメチルまたはエチルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩、および少なくとも1種の医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項12】
肥満;糖尿病;グルコース不耐性;インスリン抵抗性;高血糖;高血圧;高脂血症;認知障害;抑鬱;認知症;緑内障;心血管障害;骨粗鬆症;炎症;メタボリックシンドローム;アンドロゲン過剰;または多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を処置するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の化合物、またはその医薬上許容される塩を含む医薬組成物。
【請求項13】
2型糖尿病を処置するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の化合物またはその医薬上許容される塩を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、11-βヒドロキシルステロイドデヒドロゲナーゼタイプ1(11βHSD1)の阻害剤である特定のスピロ環化合物、該スピロ環化合物を含有する組成物、ならびに糖尿病、肥満および他の疾患の処置のために該スピロ環化合物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
糖質コルチコイドの可動域(excursion)の制御における視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸(axis)の重要性は、分泌もしくは作用の過剰または欠損のいずれかによる HPA 軸における恒常性の崩壊が、それぞれクッシング症候群またはアジソン病をもたらすという事実から明白である(Miller and Chrousos (2001) Endocrinology and Metabolism、eds. Felig and Frohman (McGraw-Hill、New York)、4th Ed.: 387-524)。クッシング症候群(副腎または下垂体の腫瘍から起こる全身的な糖質コルチコイド過剰を特徴とする希な疾患)を有する患者または糖質コルチコイド治療を受ける患者は、可逆的な内臓脂肪型肥満を発症する。興味深いことに、クッシング症候群の患者の表現型は、リーブン(Reaven’s)メタボリックシンドローム(シンドローム X またはインスリン抵抗性症候群としても知られる)の表現型と非常に類似しており、その症状は内臓肥満、グルコース不耐性、インスリン抵抗性、高血圧、2型糖尿病および高脂血症を包含する(Reaven (1993) Ann. Rev. Med. 44: 121-131)。しかし、循環する糖質コルチコイドの濃度はメタボリックシンドロームの患者の大部分において上昇しないため、ヒト肥満の多くみられる形態における糖質コルチコイドの役割は未だ不明なままである。実際、標的組織に対する糖質コルチコイドの作用は、循環レベルのみならず細胞内濃度にも依存し、脂肪組織および骨格筋において局所的に増強された糖質コルチコイドの作用が、メタボリックシンドロームにおいて証明されている。活性な糖質コルチコイドを不活性な形態から再生し、細胞内の糖質コルチコイド濃度の調節において中心的な役割を果たす 11βHSD1 の酵素活性が、肥満個体からの蓄積脂肪において一般的に上昇しているという証拠が蓄積してきている。このことは、肥満およびメタボリックシンドロームにおける局所的な糖質コルチコイド再活性化の役割を示唆する。
【0003】
不活性な循環コルチゾンからコルチゾールを再生する 11βHSD1 の能力に鑑み、糖質コルチコイドの機能の増幅におけるその役割についてかなりの注目が注がれている。11βHSD1 は、代謝に非常に重要な組織、例えば肝臓、脂肪および骨格筋を含む多くの重要な GR に富む組織において発現しており、それ自体、インスリン機能の糖質コルチコイドに媒介される拮抗作用の組織特異的増強を補助すると考えられている。a) 糖質コルチコイド過剰(クッシング症候群)とメタボリックシンドロームの表現型が類似しており、後者においては正常な循環糖質コルチコイドを伴うこと、および b) 組織特異的に不活性なコルチゾンから活性なコルチゾールを生成する 11βHSD1 の能力を考慮して、中心性肥満およびシンドローム X における関連する代謝合併症が、脂肪組織内における 11βHSD1 の活性の増大に起因し、‘網の(omentum)クッシング疾患’をもたらすことが示唆されている (Bujalska et al. (1997) Lancet 349: 1210-1213)。実際、11βHSD1 は、肥満のげっ歯類およびヒトの脂肪組織において上方制御されることが示されている (Livingstone et al. (2000) Endocrinology 131: 560-563; Rask et al. (2001) J. Clin. Endocrinol. Metab. 86: 1418-1421; Lindsay et al. (2003) J. Clin. Endocrinol. Metab. 88: 2738-2744; Wake et al. (2003) J. Clin. Endocrinol. Metab. 88: 3983-3988)。
【0004】
この知見のさらなる支持が、マウストランスジェニックモデルにおける研究から得られた。マウスにおける aP2 プロモーターの制御下での 11βHSD1 の脂肪特異的過剰発現は、ヒトのメタボリックシンドロームを顕著に想起させる表現型を生み出す (Masuzaki et al. (2001) Science 294: 2166-2170; Masuzaki et al. (2003) J. Clinical Invest. 112: 83-90)。重要なことに、この表現型は総循環コルチコステロンの増大を伴わずに起こり、むしろ蓄積脂肪内におけるコルチコステロンの局所的産生によって引き起こされる。これらのマウスにおける 11βHSD1 の活性増大(2-3 倍)は、ヒト肥満において観察されるものと非常に類似している (Rask et al. (2001) J. Clin. Endocrinol. Metab. 86: 1418-1421)。この事は、不活性な糖質コルチコイドから活性な糖質コルチコイドへの局所的な 11βHSD1-媒介性変換が、全身のインスリン感受性に顕著な影響をもたらし得ることを示唆する。
【0005】
このデータに基づくと、11βHSD1 の欠失は、活性な糖質コルチコイドレベルの組織特異的欠損に起因するインスリン感受性および耐糖性の増大につながると予測される。これは、実際、相同組換えによって作出された 11βHSD1-欠損マウスを用いた研究において示された通りである (Kotelevstev et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 14924-14929; Morton et al. (2001) J. Biol. Chem. 276: 41293-41300; Morton et al. (2004) Diabetes 53: 931-938)。これらのマウスは 11-ケトレダクターゼ活性を完全に欠いており、11βHSD1 が不活性な 11-デヒドロコルチコステロンから活性なコルチコステロンを生成することができる唯一の活性をコードしていることが確認される。11βHSD1-欠損マウスは、食餌誘導性およびストレス誘導性の高血糖に耐性であり、肝臓の糖新生酵素(PEPCK、G6P)の誘導の減弱を示し、脂肪内におけるインスリン感受性の増大を示し、改善された脂質プロファイルを有する (トリグリセリドの減少および心保護的 HDL の増大)。さらに、これらの動物は高脂肪食に誘導される肥満に対する抵抗性を示す。これらを合わせると、これらのトランスジェニックマウス研究により、肝臓および末梢のインスリン感受性の制御における糖質コルチコイドの局所的再活性化の役割が確認され、11βHSD1 活性の阻害が、肥満、インスリン抵抗性、高血糖および高脂血症を含む多数の糖質コルチコイドに関連する障害を処置する際に有益であり得ることが示唆される。
【0006】
この仮説を支持するデータが公表された。最近、11βHSD1 がヒトにおける中心性肥満の発病およびメタボリックシンドロームの出現において役割を果たすことが報告された。11βHSD1 遺伝子の発現の増大は肥満女性における代謝異常と関連しており、この遺伝子の発現の増大は、肥満個体の脂肪組織におけるコルチゾンからコルチゾールへの局所的変換の増大に寄与すると考えられる (Engeli、et al.、(2004) Obes. Res. 12: 9-17)。
【0007】
新規クラスの 11βHSD1 阻害剤であるアリールスルホンアミドチアゾールは、マウスの高血糖性系統において肝臓のインスリン感受性を改善し、血糖値を減少させることが示された (Barf et al. (2002) J. Med. Chem. 45: 3813-3815; Alberts et al. Endocrinology (2003) 144: 4755-4762)。さらに、11βHSD1 の選択的阻害剤が遺伝的に糖尿病の肥満マウスにおいて重度の高血糖を寛解させ得ることが最近報告された。従って、11βHSD1 は、メタボリックシンドロームの処置のための有望な医薬標的である (Masuzaki、et al.、(2003) Curr. Drug Targets Immune Endocr. Metabol. Disord. 3: 255-62)。
【0008】
A. 肥満およびメタボリックシンドローム
上記の通り、多数の証拠により、11βHSD1 活性の阻害が、肥満および/またはメタボリックシンドローム集団の症状、例えばグルコース不耐性、インスリン抵抗性、高血糖、高血圧および/または高脂血症との戦いにおいて有効であり得ることが示唆されている。糖質コルチコイドはインスリン作用の公知のアンタゴニストであり、細胞内コルチゾンからコルチゾールへの変換の阻害による局所的糖質コルチコイドレベルの減少は、肝臓および/または末梢のインスリン感受性を増大させ、内臓脂肪蓄積を強力に減少させる。上記の通り、11βHSD1 ノックアウトマウスは、高血糖に対して抵抗性であり、重要な肝臓の糖新生酵素の誘導の減弱を示し、脂肪におけるインスリン感受性の顕著な増大を示し、改善された脂質プロファイルを有する。さらに、これらの動物は、高脂肪食に誘導される肥満に対して抵抗性を示す (Kotelevstev et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 14924-14929; Morton et al. (2001) J. Biol. Chem. 276: 41293-41300; Morton et al. (2004) Diabetes 53: 931-938)。従って、11βHSD1 の阻害は、肝臓、脂肪および/または骨格筋において多数の有益な効果を有すると予測され、特にメタボリックシンドロームおよび/または肥満の構成要素の軽減に関連する有益な効果を有すると予測される。
【0009】
B. 膵臓の機能
糖質コルチコイドは、膵臓ベータ細胞からのインスリンのグルコース刺激性(glucose-stimulated)分泌を阻害することが知られている (Billaudel and Sutter (1979) Horm. Metab. Res. 11: 555-560)。クッシング症候群および糖尿病のズッカー fa/fa ラットの両方において、グルコース刺激性インスリン分泌が顕著に減少している (Ogawa et al. (1992) J. Clin. Invest. 90: 497-504)。11βHSD1 の mRNA および活性は ob/ob マウスの膵島細胞において報告されており、11βHSD1 阻害剤であるカルベノキソロンによるこの活性の阻害は、グルコース刺激性インスリン放出を改善する (Davani et al. (2000) J. Biol. Chem. 275: 34841-34844)。従って、11βHSD1 の阻害は、グルコース刺激性インスリン放出の増強を含む、膵臓に対する有益な効果を有すると予測される。
【0010】
C. 認知および認知症
穏やかな認知障害は、老化の一般的な特徴であり、最終的には認知症の進行に関連し得る。老齢の動物およびヒトの両方において、一般的認知機能における個体間の差異は、糖質コルチコイドへの長期曝露における可変性(variability)と関連していた (Lupien et al. (1998) Nat. Neurosci. 1: 69-73)。さらに、特定の脳小領域における糖質コルチコイド過剰への慢性的な曝露をもたらす HPA 軸の調節不全は、認知機能の減退に寄与すると提案されている (McEwen and Sapolsky (1995) Curr. Opin. Neurobiol. 5: 205-216)。11βHSD1 は、脳において豊富であり、海馬、前頭皮質および小脳を含む多数の小領域において発現している (Sandeep et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. Early Edition: 1-6)。11βHSD1 阻害剤であるカルベノキソロンによる初代(primary)海馬細胞の処理は、興奮性アミノ酸神経毒性の糖質コルチコイド媒介性の悪化から細胞を保護する (Rajan et al. (1996) J. Neurosci. 16: 65-70)。さらに、11βHSD1-欠損マウスは、老化と関連する、糖質コルチコイドに関連する海馬機能不全から保護される (Yau et al. (2001) Proc. Natl. Acad. Sci. 98: 4716-4721)。2つの無作為、二重盲験、プラセボ対照クロスオーバー研究において、カルベノキソロンの投与は、言語の流暢性および言語の記憶を改善した (Sandeep et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. Early Edition: 1-6)。従って、11βHSD1 の阻害は、脳における糖質コルチコイドへの曝露を減少させ、神経機能に対する有害な糖質コルチコイドの効果、例えば認知障害、認知症および/または抑鬱からの保護をもたらすと予測される。
【0011】
D. 眼内圧
糖質コルチコイドは、臨床眼科における広範な症状のために、局所的および全身的に用いることができる。これらの処置計画に伴う一つの特定の合併症は、副腎皮質ステロイド誘導性緑内障である。この病理は、眼内圧(IOP)の顕著な増大によって特徴付けられる。その最も進行した未処置の形態において、IOP は部分的な視野喪失につながり得、最終的には失明につながり得る。IOP は、房水の産生と排出(drainage)との関係によって生じる。房水産生は非色素上皮細胞(NPE)において起こり、その排出は線維柱帯(trabecular meshwork)の細胞を介して行われる。11βHSD1 は NPE 細胞に局在化しており (Stokes et al. (2000) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 41: 1629-1683; Rauz et al. (2001) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 42: 2037-2042)、その機能はおそらくこれらの細胞内における糖質コルチコイド活性の増幅と関係している。この知見は、房水中において遊離コルチゾール濃度がコルチゾンの濃度を大幅に上回っている(14:1 の比)という観察により確認された。眼における 11βHSD1 の機能的重要性は、健康なボランティアにおいて、阻害剤であるカルベノキソロンを用いて評価された (Rauz et al. (2001) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 42: 2037-2042)。7日間のカルベノキソロン処置の後、IOP は 18% 減少した。従って、眼における 11βHSD1 の阻害は、局所的糖質コルチコイド濃度および IOP を減少させ、緑内障および他の視覚障害の管理において有益な効果をもたらすと予測される。
【0012】
E. 高血圧
脂肪細胞由来の昇圧物質(hypertensive substance)、例えばレプチンおよびアンジオテンシノーゲンは、肥満に関連する高血圧の発病に関与すると提案されている (Matsuzawa et al. (1999) Ann. N.Y. Acad. Sci. 892: 146-154; Wajchenberg (2000) Endocr. Rev. 21: 697-738)。aP2-11βHSD1 トランスジェニックマウスにおいて過剰に分泌されるレプチンは (Masuzaki et al. (2003) J. Clinical Invest. 112: 83-90)、血圧を調節する経路を含む様々な交感神経系経路を活性化することができる (Matsuzawa et al. (1999) Ann. N.Y. Acad. Sci. 892: 146-154)。さらに、レニン-アンジオテンシン系(RAS)は、血圧の主要な決定因子であることが示された (Walker et al. (1979) Hypertension 1: 287-291)。肝臓および脂肪組織において産生されるアンジオテンシノーゲンは、レニンの重要な基質であり、RAS の活性化を引き起こす。血漿アンジオテンシノーゲンレベルは、aP2-11βHSD1 トランスジェニックマウスにおいて顕著に上昇し、アンジオテンシンII およびアルドステロンも同様である (Masuzaki et al. (2003) J. Clinical Invest. 112: 83-90)。これらの力がおそらく、aP2-11βHSD1 トランスジェニックマウスにおいて観察される血圧上昇を引き起こす。低用量のアンジオテンシン II 受容体アンタゴニストによるこれらのマウスの処理は、この高血圧を解消する (Masuzaki et al. (2003) J. Clinical Invest. 112: 83-90)。このデータは、脂肪組織および肝臓における局所的な糖質コルチコイド再活性化の重要性を例証し、高血圧が 11βHSD1 活性によって引き起こされ得るかまたは悪化し得ることを示唆する。従って、11βHSD1 の阻害ならびに脂肪のおよび/または肝臓の糖質コルチコイドレベルの減少は、高血圧および高血圧に関連する心血管障害に対して有益な効果を有すると予測される。
【0013】
F. 骨疾患
糖質コルチコイドは、骨格組織に対して有害作用を有し得る。中程度の糖質コルチコイド用量への連続的な曝露により、骨粗鬆症がもたらされ得(Cannalis (1996) J. Clin. Endocrinol. Metab. 81: 3441-3447)、骨折の危険が増大する。インビトロの実験により、骨再吸収細胞(破骨細胞としても知られる)および骨形成細胞(骨芽細胞)の両方に対する糖質コルチコイドの有害作用が確認される。11βHSD1 は、ヒト初代(primary)骨芽細胞の培養物中およびおそらく破骨細胞と骨芽細胞との混合物である成体の骨からの細胞の培養物中において存在することが示され(Cooper et al. (2000) Bone 27: 375-381)、11βHSD1 阻害剤であるカルベノキソロンは、骨小結節(bone nodule)形成に対する糖質コルチコイドの負の作用を減弱することが示された (Bellows et al. (1998) Bone 23: 119-125)。従って、11βHSD1 の阻害は、骨芽細胞および破骨細胞内における局所的糖質コルチコイド濃度を減少させ、骨粗鬆症を含む骨疾患の様々な形態において有益な効果をもたらすと予測される。
【0014】
11βHSD1 の低分子阻害剤が、11βHSD1 に関連する疾患、例えば上記の疾患を処置または予防するために、現在開発されつつある。例えば、特定のアミドに基づく阻害剤が WO 2004/089470、WO 2004/089896、WO 2004/056745 および WO 2004/065351 において報告されている。11βHSD1 のさらなる低分子阻害剤が、US 2005/0282858、US 2006/0009471、US 2005/0288338、US 2006/0009491、US 2006/0004049、US 2005/0288317、US 2005/0288329、US 2006/0122197、US 2006/0116382、および US 2006/0122210 において報告されている。
【0015】
11) INCY0035 (US 2007/0066584)
11βHSD1 のアンタゴニストが、ヒト臨床試験において評価された (Kurukulasuriya、et al.、(2003) Curr. Med. Chem. 10: 123-53)。
【0016】
糖質コルチコイドに関連する障害、メタボリックシンドローム、高血圧、肥満、インスリン抵抗性、高血糖、高脂血症、2型糖尿病、アンドロゲン過剰(多毛症、月経不順、高アンドロゲン症)および多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における 11βHSD1 の役割を示す実験データを考慮すると、糖質コルチコイドシグナル伝達を 11βHSD1 のレベルにおいて調節することによりこれらの代謝経路を増強または抑制することを目的とする治療剤が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO 2004/089470
【特許文献2】WO 2004/089896
【特許文献3】WO 2004/056745
【特許文献4】WO 2004/065351
【特許文献5】US 2005/0282858
【特許文献6】US 2006/0009471
【特許文献7】US 2005/0288338
【特許文献8】US 2006/0009491
【特許文献9】US 2006/0004049
【特許文献10】US 2005/0288317
【特許文献11】US 2005/0288329
【特許文献12】US 2006/0122197
【特許文献13】US 2006/0116382
【特許文献14】US 2006/0122210
【特許文献15】US 2007/0066584
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Miller and Chrousos (2001) Endocrinology and Metabolism、eds. Felig and Frohman (McGraw-Hill、New York)、4th Ed.: 387-524
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【非特許文献3】Livingstone et al. (2000) Endocrinology 131: 560-563
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【非特許文献33】Walker et al. (1979) Hypertension 1: 287-291
【非特許文献34】Masuzaki et al. (2003) J. Clinical Invest. 112: 83-90
【非特許文献35】Cannalis (1996) J. Clin. Endocrinol. Metab. 81: 3441-3447
【非特許文献36】Cooper et al. (2000) Bone 27: 375-381
【非特許文献37】Bellows et al. (1998) Bone 23: 119-125
【非特許文献38】Kurukulasuriya、et al.、(2003) Curr. Med. Chem. 10: 123-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本明細書において示した通り、11βHSD1 を標的とする新規かつ改良された薬剤に対する要求が引き続き存在している。本明細書に記載される化合物、組成物および方法は、この要求および他の要求に応える助けとなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の概要
本発明は、とりわけ、式 I を有する 11βHSD1 の阻害剤またはその医薬上許容される塩を提供する:
【化1】
I
[式中、可変部分(variable)は以下に定義する]。
【0021】
本発明は、式 I の化合物またはその医薬上許容される塩および少なくとも1つの医薬上許容される担体を含む組成物をさらに提供する。
【0022】
本発明は、11βHSD1 を式 I の化合物またはその医薬上許容される塩と接触させることにより 11βHSD1 を阻害する方法をさらに提供する。
【0023】
本発明は、11βHSD1 を式 I の化合物またはその医薬上許容される塩と接触させることを含む、11βHSD1 の活性を阻害する方法をさらに提供する。
【0024】
本発明は、細胞を式 I の化合物またはその医薬上許容される塩と接触させることを含む、細胞におけるコルチゾンからコルチゾールへの変換を阻害する方法をさらに提供する。
【0025】
本発明は、細胞を式 I の化合物またはその医薬上許容される塩と接触させることを含む、細胞におけるコルチゾールの産生を阻害する方法をさらに提供する。
【0026】
本発明は、治療上有効量の式 I の化合物またはその医薬上許容される塩を患者へ投与することを含む、患者における以下の障害のいずれか1つまたは以下の障害のうちの2以上のあらゆる組み合わせを含む様々な疾患を処置する方法をさらに提供する: 肥満; 糖尿病; グルコース不耐性; インスリン抵抗性; 高血糖; 高血圧; 高脂血症; 認知障害; 抑鬱; 認知症; 緑内障; 心血管障害; 骨粗鬆症; 炎症; メタボリックシンドローム; アンドロゲン過剰; または多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)。
【0027】
本発明は、治療によるヒトまたは動物の体の処置に使用するための、式 I の化合物またはその医薬上許容される塩をさらに提供する。
【0028】
本発明は、治療に使用するための医薬の調製のための、式 I の化合物またはその医薬上許容される塩の使用をさらに提供する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
本発明は、とりわけ、式 I を有する 11βHSD1 の阻害剤またはその医薬上許容される塩を提供する:
【化2】
I
[式中、
R1 は F、Cl、Br、または I である; および
R2 および R3 は、独立に、H、C1-6 アルキルおよび C3-6 シクロアルキルから選択される]。
【0030】
いくつかの態様において:
R1 は F および Cl である; および
R2 および R3 は、独立に、H および C1-4 アルキルから選択される。
【0031】
いくつかの態様において、R1 は F または Cl である。
【0032】
いくつかの態様において、R1 は F である。
【0033】
いくつかの態様において、R1 は Cl である。
【0034】
いくつかの態様において、R2 および R3 は、独立に、H、メチルおよびエチルから選択される。
【0035】
いくつかの態様において、R2 および R3 の少なくとも1つは、H 以外である。
【0036】
いくつかの態様において、本発明の化合物は、式 II を有する:
【化3】
II。
【0037】
本明細書の様々な部分において、本発明の化合物の置換基は、群または範囲をもって開示される。本発明がかかる群および範囲のメンバーのすべての個々の組み合わせを包含することを特に意図する。例えば、“C1-6 アルキル”の語は、メチル、エチル、C3 アルキル、C4 アルキル、C5 アルキルおよび C6 アルキルを個別に開示することを具体的に意図する。
【0038】
明確性のため、別々の態様との関連において記載される本発明の特定の特徴が、単一の態様において組み合わせて提供され得ることがさらに理解される。逆に、簡潔さのため、単一の態様との関連において記載される本発明の様々な特徴は、別々に、またはあらゆる適切な組み合わせにおいて提供され得る。
【0039】
本明細書において用いる場合、“アルキル”の語は、直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を意味する。アルキル基の例は、メチル(Me)、エチル(Et)、プロピル(例えば、n-プロピルおよびイソプロピル)、ブチル(例えば、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル)、ペンチル(例えば、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル)等を包含する。
【0040】
本明細書において用いる場合、“シクロアルキル”は、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む、非芳香族の 3-7 員の炭素環をいう。
【0041】
本明細書において記載される化合物は、不斉性である (例えば、1以上の立体中心を有する)。すべての立体異性体、例えばエナンチオマーは、他に断りのない限り含まれる。不斉に置換された炭素原子を含有する本発明の化合物は、光学活性形態またはラセミ形態にて単離することができる。光学活性な出発物質から光学活性形態を調製する方法は当該技術分野において公知であり、例えばラセミ混合物の分割または立体選択的合成によるものがある。本発明の化合物のシスおよびトランス異性体が記載され、異性体の混合物または分離された異性体形態として単離され得る。
【0042】
本発明の化合物は、互変異性形態をも包含し得る。互変異性形態は、プロトンの同時転位を伴う、単結合と隣接する二重結合との交換(swapping)によりもたらされる。互変異性形態は、同じ実験式および総電荷を有する異性体プロトン化状態であるプロトン互変異性体(prototropic tautomer)を包含する。プロトン互変異性体の例は、ケトン−エノールの組み合わせ、アミド−イミド酸の組み合わせ、ラクタム−ラクチムの組み合わせ、アミド−イミド酸の組み合わせ、エナミン−イミンの組み合わせ、ならびにプロトンが複素環系の2以上の位置を占有し得る環状形態、例えば、1H- および 3H-イミダゾール、1H-、2H- および 4H- 1,2,4-トリアゾール、1H- および 2H- イソインドールならびに 1H- および 2H-ピラゾールを包含する。互変異性形態は、平衡状態にあるか、または適切な置換によって1つの形態へと立体的に固定(sterically lock)することができる。
【0043】
本発明の化合物は、中間体または最終化合物において生じる、原子のすべての同位体をも包含し得る。同位体は、同じ原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子を包含する。例えば、水素の同位体は、トリチウムおよび重水素を包含する。
【0044】
すべての化合物およびその医薬上許容される塩は、溶媒和または水和した形態を含む様々な固体形態において得られ得る。いくつかの態様において、固体形態は、結晶形態である。異なる固体形態を調製および発見するための方法は、当該技術分野において常套のものであり、例えば、X 線粉末回折、示差走査熱量測定、熱重量分析、動的蒸気吸着、FT-IR、ラマン散乱法、固体 NMR、カール・フィッシャー滴定等を含む。
【0045】
いくつかの態様において、本発明の化合物およびその塩は、実質的に単離される。“実質的に単離される”とは、化合物が、少なくとも部分的に、または実質的に、それが形成されまたは検出された環境から分離されることを意味する。部分的な分離は、例えば、本発明の化合物を豊富にした組成物を包含し得る。実質的な分離は、少なくとも約 50 重量%、少なくとも約 60 重量%、少なくとも約 70 重量%、少なくとも約 80 重量%、少なくとも約 90 重量%、少なくとも約 95 重量%、少なくとも約 97 重量% もしくは少なくとも約 99 重量% の本発明の化合物またはその塩を含有する組成物を包含し得る。化合物およびその塩を単離するための方法は、当該技術分野において常套のものである。
【0046】
本発明はまた、本明細書において記載される化合物の医薬上許容される塩を包含する。本明細書において用いる場合、“医薬上許容される塩”とは、開示される化合物の誘導体であって、親化合物が存在する酸または塩基部分をその塩形態へと変換することによって改変されたものである。医薬上許容される塩の例は、これらに限定されないが、塩基性残基、例えばアミンの鉱酸または有機酸塩; 酸性残基、例えばカルボン酸のアルカリまたは有機塩; 等を包含する。本発明の医薬上許容される塩は、例えば非毒性の無機または有機酸から形成される、親化合物の常套の非毒性塩を包含する。本発明の医薬上許容される塩は、塩基性または酸性の部分を含有する親化合物から、常套の化学的方法によって合成することができる。一般的に、かかる塩は、水または有機溶媒またはこれら2つの混合物中において、これらの化合物の遊離酸または遊離塩基形態を、化学量論量の適当な塩基または酸と反応させることによって調製することができる; 一般的に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリル等の非水性媒体が好ましい。好適な塩の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、17th ed.、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、1985、p.1418 および Journal of Pharmaceutical Science、66、2 (1977) に記載されており、その各々は、引用により全体が本明細書に取り込まれる。
【0047】
本明細書において“医薬上許容される”という表現は、正常な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適しており、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症を伴わず、適切な利益/危険比に見合う、化合物、物質、組成物および/または剤形をいうために採用される。
【0048】
本発明の化合物は、11βHSD1 の活性を変調することができる。“変調する”の語は、酵素または受容体の活性を増大または減少させる能力を意味する。従って、本発明の化合物は、酵素または受容体を本明細書に記載されるいずれかの1以上の化合物または組成物と接触させることにより 11βHSD1 を変調する方法において使用することができる。いくつかの態様において、本発明の化合物は 11βHSD1 の阻害剤として作用し得る。さらなる態様において、本発明の化合物は、変調する量の本発明の化合物を投与することにより、酵素または受容体の変調を必要としている個体における 11βHSD1 の活性を変調するために用いることができる。
【0049】
本発明は、細胞におけるコルチゾンからコルチゾールへの変換または細胞におけるコルチゾールの産生を阻害する方法をさらに提供し、ここで、コルチゾールへの変換またはコルチゾールの産生は少なくとも部分的に 11βHSD1 活性によって媒介される。コルチゾンからコルチゾールへの変換速度およびその逆の変換速度を測定する方法、ならびに細胞におけるコルチゾンおよびコルチゾールのレベルを測定するための方法は、当該技術分野においてありふれたものである。
【0050】
本発明は、細胞を本発明の化合物と接触させることにより細胞のインスリン感受性を増大させる方法をさらに提供する。インスリン感受性を測定する方法は、当該技術分野においてありふれたものである。
【0051】
本発明は、処置を必要としている個体へ治療上有効な量または用量の本発明の化合物もしくはその医薬上許容される塩もしくはその医薬組成物を投与することにより、個体(例えば患者)において 11βHSD1 の活性または発現、例えば 11βHSD1 の異常な活性や過剰な発現に関連する疾患を処置する方法をさらに提供する。疾患の例は、該酵素の発現または活性と直接的または間接的に関連するあらゆる疾患、障害または症状を包含し得る。11βHSD1 に関連する疾患はまた、酵素活性を変調することによって予防、寛解または治療し得るあらゆる疾患、障害または症状を包含し得る。
【0052】
11βHSD1 に関連する疾患の例は、肥満、糖尿病、グルコース不耐性、インスリン抵抗性、高血糖、高血圧、高脂血症、認知障害、認知症、抑鬱(例えば精神病性抑鬱)、緑内障、心血管障害、骨粗鬆症および炎症を包含する。11βHSD1 に関連する疾患のさらなる例は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、アンドロゲン過剰(多毛症、月経不順、高アンドロゲン症)および多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を包含する。
【0053】
本明細書において用いる場合、“細胞”の語は、インビトロ、エキソビボまたはインビボの細胞を意味する。いくつかの態様において、エキソビボの細胞は、生物、例えば哺乳類から切り出された組織サンプルの部分であり得る。いくつかの態様において、インビトロの細胞は、細胞培養における細胞であり得る。いくつかの態様において、インビボの細胞は、生物、例えば哺乳類の中において生きている細胞である。いくつかの態様において、細胞は、脂肪細胞、膵臓細胞、肝細胞、ニューロン、または眼を構成する細胞(眼細胞)である。
【0054】
本明細書において用いる場合、“接触させる”の語は、インビトロの系またはインビボの系において示された部分を一緒にすることをいう。例えば、11βHSD1 酵素を本発明の化合物と“接触させる”ことには、11βHSD1 を有する個体または患者、例えばヒトへの本発明の化合物の投与、および、例えば、11βHSD1 酵素を含有する細胞調製物または精製調製物を含むサンプルへ本発明の化合物を導入することを包含する。
【0055】
本明細書において用いる場合、互換的に用いられる“個体”または“患者”の語は、あらゆる動物をいい、哺乳類、好ましくはマウス、ラット、他のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマまたは霊長類を包含し、最も好ましくはヒトである。
【0056】
本明細書において用いる場合、“処置する”または“処置”の語は、以下の1以上をいう: (1) 疾患を予防すること; 例えば、疾患、症状または障害に罹りやすいが疾患の病態または症状を未だ経験していないかまたは示していない個体において、疾患、症状または障害を予防すること; (2) 疾患を阻害すること; 例えば、疾患、症状または障害の病態または症状を経験しているかまたは示している個体において、疾患、症状または障害を阻害すること; および (3) 疾患を寛解させること; 例えば、疾患、症状または障害の病態または症状を経験しているかまたは示している個体において、疾患、症状または障害を寛解させること(即ち、病態および/または症状を回復させること)、例えば疾患の重篤度を減少させること。
【0057】
医薬として採用される場合、本発明の化合物は、本発明の化合物と少なくとも1つの医薬上許容される担体との組み合わせである医薬組成物の形態において投与することができる。これらの組成物は、医薬分野において周知の方法で調製することができ、局所的または全身的処置のいずれが望ましいか、および処置されるべき領域に応じて、様々な経路で投与することができる。投与は、局所 (経眼(ophthalmic)、ならびに鼻腔内、膣内および直腸送達を含む経粘膜を含む)、肺 (例えば、ネブライザーによるものを含む、粉末またはエアロゾルの吸入または送気(insufflation); 気管内、鼻腔内、上皮および経皮)、眼球、経口または非経口であり得る。眼球送達の方法は、局所投与(点眼)、結膜下、眼窩周囲もしくは硝子体内注射、または結膜嚢の中に外科的に配置されたバルーンカテーテルもしくは眼挿入物による導入を包含し得る。非経口投与は、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内もしくは筋肉内の注射または注入; または頭蓋内、例えばくも膜下腔内または脳室内の投与を含む。非経口投与は、単回ボーラス投与の形態であり得、または、例えば連続的灌流ポンプによるものであってもよい。局所投与のための医薬組成物および製剤は、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ(drop)、坐薬、スプレー、液体および粉末を含み得る。常套の医薬用担体、水性、粉末もしくは油性の基剤、増粘剤等が必要であることや望ましいこともあり得る。
【0058】
本発明は、1以上の医薬上許容される担体と組み合わせて1以上の上記の本発明の化合物を活性成分として含有する医薬組成物をも包含する。本発明の組成物を製造する際、活性成分は、典型的には、賦形剤と混合され、賦形剤によって希釈され、または例えばカプセル、小袋、紙もしくは他の容器の形態においてかかる担体中に封入される。賦形剤が希釈剤として働く場合、それは活性成分のための媒体、担体または媒介物として機能する固体、半固体または液体の物質であり得る。従って、組成物は、錠剤、丸剤、粉末、トローチ剤(lozenge)、小袋、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ、エアロゾル (固体としてまたは液体媒体中において)、例えば 10 重量% までの活性化合物を含有する軟膏、軟および硬ゼラチンカプセル、坐薬、無菌注射可能溶液および無菌包装粉末の形態であり得る。
【0059】
製剤の調製において、活性化合物は、他の成分との混合の前に粉砕されて適切な粒子サイズにすることができる。活性化合物が実質的に不溶性である場合、それは 200 メッシュより小さな粒子サイズまで粉砕することができる。活性化合物が実質的に水溶性である場合、粉砕によって粒子サイズを調整し、例えば約 40 メッシュの製剤における実質的に均一な分布を提供することができる。
【0060】
本発明の化合物は、錠剤の形成および他の剤形にとって適切な粒子サイズを獲得するため、公知の粉砕方法、例えば湿式粉砕を用いて粉砕してもよい。本発明の化合物の微粉化された(finely divided)(ナノ粒子)製剤は、当該技術分野において公知の工程によって調製することができる。例えば国際特許出願第 WO 2002/000196 号を参照されたい。
【0061】
適切な賦形剤のいくつかの例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップおよびメチルセルロースを含む。製剤は、以下をさらに含み得る: 滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイル; 湿潤剤; 乳化剤および懸濁剤; 保存剤、例えば安息香酸メチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピル; 甘味料; および香味料。本発明の組成物は、当該技術分野において公知の手順を採用することにより、患者への投与後に活性成分の迅速、持続または遅延放出を提供するよう製剤することができる。
【0062】
組成物は、単位用量形態にて製剤することができ、各々の用量は約 5 から約 100 mg、より通常には約 10 から約 30 mg の活性成分を含有する。“単位用量形態”とは、ヒト対象および他の哺乳類のための単一の用量として好適な物理的に分離した単位をいい、各々の単位は、適切な医薬用賦形剤と組み合わせて、所望の治療効果をもたらすよう計算された予め決定された量の活性物質を含有する。
【0063】
活性化合物は、広い用量範囲にわたって有効であり得、一般的に医薬上有効量にて投与される。しかし、実際に投与する化合物の量は通常、関連する状況、例えば処置すべき症状、選択される投与経路、実際に投与する化合物、個々の患者の年齢、体重および応答、患者の症状の重篤度等にしたがって、医師によって決定されることが理解されるであろう。
【0064】
固体組成物、例えば錠剤の調製のために、主要な活性成分は、医薬用賦形剤と混合されて、本発明の化合物の均一な混合物を含有する固体の予備処方組成物を形成する。これらの予備処方組成物が均一であるという場合、活性成分は典型的には、組成物を等しく有効な単位用量形態、例えば錠剤、丸剤およびカプセルへ容易にさらに分割できるよう、組成物中に均一に分散している。この固体の予備処方は次いで、例えば 0.1 から約 500 mg の本発明の活性成分を含有する上記の型の単位用量形態へとさらに分割される。
【0065】
本発明の錠剤または丸剤は、持続性作用の利点を与える剤形を提供するよう、被覆されてもよいし、あるいは配合されてもよい。例えば、錠剤または丸剤は、内側用量成分および外側用量成分を含み得、後者は前者の外被の形態をとる。該2つの成分は、腸溶性の層(enteric layer)により分離され得、かかる層は、胃内での崩壊に耐える働きをし、内側成分がインタクトな状態で十二指腸へ移行することを可能にし、または放出を遅らせることを可能にする。かかる腸溶性の層または被覆として様々な材料を用いることができ、かかる材料としては、多数の高分子酸ならびに高分子酸とセラック、セチルアルコールおよびセルロースアセテートなどの材料との混合物が挙げられる。
【0066】
本発明の化合物および組成物が経口または注射による投与のために取り込まれ得る液体の形態は、水溶液、適切に風味付けしたシロップ、水性または油性の懸濁液、および綿実油、ゴマ油、ココナッツ油またはピーナッツ油などの食用油を有する風味付けした乳濁液、およびエリキシル剤および類似の医薬用媒体を包含する。
【0067】
吸入または送気のための組成物は、医薬上許容される 水性または有機溶媒またはそれらの混合物中の溶液および懸濁液ならびに粉末を包含する。液体または固体の組成物は、上記の適切な医薬上許容される賦形剤を含有してもよい。いくつかの態様において、組成物は、局所的または全身的な効果のために経口または経鼻呼吸経路によって投与される。組成物は、不活性ガスの使用によって噴霧しても良い。噴霧される溶液は、噴霧装置から直接的に吸っても良いし、あるいは噴霧装置を顔用マスクのテントに付けても良いし、または間欠的陽圧呼吸機器を用いても良い。溶液、懸濁液または粉末の組成物は、製剤を適切な方法で送達する装置から経口的または経鼻的に投与しても良い。
【0068】
患者に投与される化合物または組成物の量は、投与されるもの、投与の目的、例えば予防または治療、患者の状態、投与の方法等に依存して変動する。治療への適用においては、組成物は、既に疾患に罹患している患者へ、疾患およびその合併症の症状を治癒させるかまたは少なくとも部分的に停止させるのに十分な量を投与することができる。有効用量は、処置される疾患の症状、および例えば、疾患の重篤度、患者の年齢、体重および全身状態等の因子に依存して担当医の判断によって変動する。
【0069】
患者に投与される組成物は、上記の医薬組成物の形態であり得る。これらの組成物は、常套の滅菌技術によって滅菌してもよいし、あるいは滅菌濾過してもよい。水溶液は、そのまま使用するように梱包されてもよく、または凍結乾燥されてもよく、凍結乾燥調製物は、投与の前に無菌の水性担体と混合される。化合物の調製物の pH は典型的には、3 から 11 の間であり、より好ましくは 5 から 9 であり、最も好ましくは 7 から 8 である。特定の上記の賦形剤、担体または安定剤の使用により医薬塩の形成がもたらされることが理解されるであろう。
【0070】
本発明の化合物の治療用量は、例えば、処置が行われる特定の用途、化合物の投与方法、患者の健康状態および症状、ならびに処方する医師の判断にしたがって変動し得る。医薬組成物中における本発明の化合物の割合または濃度は、用量、化学的性質(例えば疎水性)および投与経路を含む多数の因子に依存して変動し得る。例えば、本発明の化合物は、非経口投与のための約 0.1 から約 10% w/v の化合物を含有する生理的緩衝水溶液において提供することができる。典型的な用量範囲は、1日あたり約 1 μg/kg から約 1 g/kg体重である。いくつかの態様において、用量範囲は、1日あたり約 0.01 mg/kg から約 100 mg/kg体重である。用量は、疾患または障害の型および進行の程度、特定の患者の全体的健康状態、選択される化合物の相対的生物学的有効性、賦形剤の剤形、およびその投与経路といった可変条件に依存するであろう。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験の系から得た用量応答曲線から外挿することができる。
【0071】
本発明の化合物は、あらゆる医薬品を包含し得る1以上のさらなる活性成分と組み合わせて製剤することもでき、例えば抗ウイルス剤、ワクチン、抗体、免疫増強剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、鎮痛剤、および糖尿病または肥満、高血糖、高血圧、高脂血症等の処置のための医薬が挙げられる。本発明の化合物と組み合わせることができる代謝障害の処置のための剤は、これらに限定されないが、アミリン類縁体、インクレチン模倣剤(incretin mimetic)、インクレチン分解酵素ジペプチジルペプチダーゼ-IV の阻害剤、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)-a および PPAR-g のアゴニスト、および CB1 カンナビノイド受容体阻害剤を包含する。
【0072】
本発明を、具体的な実施例によってさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示目的で記載されるものであり、決して本発明を限定する意図はない。当業者は、本質的に同じ結果をもたらすよう変化させまたは改変し得る様々な重大でないパラメーターを、容易に認識するであろう。
【実施例】
【0073】
実施例
全ての化合物を、質量指示(mass directed)分画を備える Waters FractionLynx LC-MS system を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィーまたは逆相液体クロマトグラフィーのいずれかによって精製した。カラム: Waters XBridge C18 5 μm、19 x 100 mm; 移動相 A: 水中の 0.15% NH4OH、移動相 B: アセトニトリル中の 0.15% NH4OH;流速は 30ml/m とし、分離勾配を、文献[“Preparative LC-MS Purification: Improved Compound Specific Method Optimization”、K. Blom、B. Glass、R. Sparks、A. Combs、J. Combi. Chem.、2004、6、874-883]に記載される化合物特異的方法最適化プロトコールを用いて、各々の化合物について最適化した。
【0074】
次いで、分離された生産物を通常、純度チェックのために、以下の条件において分析的 LC/MS に供した: 機器; Agilent 1100 series、LC/MSD、カラム: Waters Sunfire(商標) C18 5 μm、2.1 x 5.0 mm、バッファー: 移動相 A: 水中の 0.025% TFA、および移動相 B: アセトニトリル中の 0.025% TFA; 流速 1.5 mL/分で、3 分間でバッファー B の 2% から 80% までの勾配。
【0075】
実施例 1
5-{3-フルオロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}-N-メチルピリジン-2-カルボキサミド
【化4】
【0076】
工程 1: 1-ベンジル 3-エチル ピペリジン-1,3-ジカルボキシラート
【化5】

ベンジルクロロホルメート (Aldrich、cat #:119938) (191 mL、1.34 mol) を、(0℃に)冷却された塩化メチレン(1000 mL)中におけるエチルピペリジン-3-カルボキシラート(Aldrich、cat #:194360)(200 g、1.27 mol)とトリエチルアミン(266 mL、1.91 mol)との混合物にゆっくりと添加した。反応混合物を、周囲温度(ambient temperature)まで徐々に昇温させ、3 時間撹拌した。1N HCl 水溶液の添加によって反応をクエンチ(quench)し、産物を塩化メチレンで数回抽出した。合わせた(combined)抽出物を、水、飽和 NaHCO3 水溶液、水、塩水(brine)で洗浄し、MgSO4 上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮して、油状物として所望の生成物を得た(359.8 g、97%)。LC/MS 292.2 (M + H)+
【0077】
工程 2: 1-ベンジル 3-エチル 3-(3-メチルブト-2-エン-1-イル)ピペリジン-1,3-ジカルボキシラート
【化6】

-78℃に冷却された THF (400 ml) 中の 1-ベンジル 3-エチル ピペリジン-1,3-ジカルボキシラートの溶液(120.0 g、0.412 mol)に、270 mL のナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド溶液 (Aldrich からの、THF 中の 1M 溶液、cat#:245585)を 2 時間にわたって滴下により添加した。混合物を、-78℃においてさらに 1 時間撹拌した。次いで、1-ブロモ-3-メチルブト-2-エン (Aldrich cat #: 249904) (71 mL、0.62 mol) を 1 時間にわたってゆっくりと添加した。混合物を、-78℃で 30 分間撹拌し、室温(r.t.)まで昇温させ、さらに 3 時間撹拌した。反応混合物を、1N HCl 水溶液を用いてクエンチした。減圧下でほとんどの THF を除去した。残留物を、酢酸エチル中を用いて抽出した。合わせた抽出物を、飽和 NaHCO3 水溶液および塩水で洗浄し、次いで MgSO4 上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。粗残留物を、ヘキサン中の 10〜20% の酢酸エチルを用いるシリカゲルカラム上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物を得た (140 g、94%)。 LC/MS: m/e = 332.2 (M+H)+
【0078】
工程 3: 1-ベンジル 3-エチル 3-(2-オキソエチル)ピペリジン-1,3-ジカルボキシラート
【化7】

塩化メチレン(800 mL)中の 1-ベンジル 3-エチル 3-(3-メチルブト-2-エン-1-イル)ピペリジン-1,3-ジカルボキシラートの溶液 (35.2 g、0.0979 mol)に、-78℃において、溶液の色が青に変わるまで、オゾンを通した。次いで、反応混合物を、青色が消失するまで窒素でフラッシュ(flush)した。ジメチルスルフィド (Aldrich、cat #: 274380) (14 mL、0.19 mol) およびトリエチルアミン (26.5 mL、0.19 mol) を添加し、混合物を周囲温度にて終夜撹拌した。揮発性溶媒を減圧下で除去し、ヘキサン中の 20% 酢酸エチルを用いるシリカゲルカラム上でのフラッシュクロマトグラフィーにより直接精製し、定量的な収率で所望の生成物を得た。LC/MS 334.2 (M + H)+
【0079】
工程 4: ベンジル 2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート
【化8】

1,2-ジクロロエタン(250 mL)中の シス-4-アミノシクロヘキサノール塩酸塩 (Available from Sijia Medchem Lab、China) (13.8 g、0.0910 mol) および 1-ベンジル 3-エチル 3-(2-オキソエチル)ピペリジン-1,3-ジカルボキシラート (31.0 g、0.0930 mol) の懸濁液に、トリエチルアミン (23.3 mL、0.167 mol) を室温にて添加した。混合物を、40℃で終夜撹拌した。ナトリウムトリアセトキシボロヒドリド (Aldrich、cat #: 316393) (49.3 g、0.232 mol) を上記混合物に添加し、室温で 1 時間撹拌した。LC/MS データは出発物質が消費されたことを示し、m/e: 433.2 (M+H)+ を有する中間生成物が観察された。
【0080】
次いで、混合物を、4 時間、または中間体アミン(m/e: 433.2)が消費されたことを LC/MS が示すまで、80℃に加熱した。反応混合物を、NaHCO3 水溶液を用いてクエンチした。有機層を塩水で洗浄し、MgSO4 上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。粗物質を、減圧下で終夜乾燥させて、無色の粘稠な油状物を得た (26.9 g、66.8%)。LC/MS m/e 387.2 (M+H)+
【0081】
工程 5: ベンジル (5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート
【化9】

上記の工程から得られたラセミ混合物 (26.9 g) を、Agilent 1100 series preparatory system 上で Chiralcel OD-H カラム (3.0 x 25 cm、粒子サイズ 5 ミクロン、Chiral Technologies) を用い、30% エタノール/ヘキサン(一定組成、22 mL/分)で溶出させて精製した。カラムへのロードはおよそ 150 mg/注射であり、ピークの回収は 220 nM における UV 吸光度によって作動させた。ピーク 1 はおよそ 8.5 分で溶出し、ピーク 2 はおよそ 9.8 分で溶出した。ピーク 2 の画分を合わせ、濃縮して、泡沫状の白色固体として所望の生成物を得た (11.9 g)。ピーク 2 からプールされた物質の光学純度を、Chiralcel OD-H カラム (4.6 x 250 mm、粒子サイズ 5 ミクロン、Chiral Technologies) を備える Agilent 1100 series analytical system を用いて、30% エタノール/ヘキサン(一定組成、0.8 mL/分)で溶出させて決定した。LC/MS m/e 387.2 (M+H)+。ピーク 2 の絶対立体化学を、工程 5a-c に記載される通りに調製された近似の類縁体: ベンジル(5S)-2-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート および (5S)-2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オンの X 線単結晶構造決定に基づいて確立した。
【0082】
工程 5a: ベンジル 2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート
【化10】

室温における、無水 N,N-ジメチルホルムアミド(160 mL)中のベンジル 2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート (60.00 g、155.2 mmol) の撹拌された溶液に、1H-イミダゾール (32.0 g、466 mmol) および tert-ブチルジメチルシリル クロライド (36.2 g、233 mmol) を添加した。反応混合物を室温にて 4 時間撹拌し、水(150 mL)を用いてクエンチし、EtOAc (3 x 150 mL) で抽出した。合わせた有機層を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮して、粗生成物を得た(84 g)。ヘプタンからの粗生成物の再結晶化によって、純粋な生成物 (55.4 g) を得た。母液を濃縮し、AcOEt/ヘキサン(Haxane)を用いて溶出するシリカゲルカラム上でのフラッシュクロマトグラフィーによる精製に供してさらに 14.4 g の生成物を得、総収率は 89.7% であった。
【0083】
工程 5b: 2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン
【化11】

メタノール(150 mL)中のベンジル 2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート (18.0 g、35.9 mmol) の溶液に、窒素雰囲気下で 10% パラジウム炭素(palladium on carbon)(Aldrich、cat #: 520888)(1.8 g、1.5 mmol)を添加した。反応混合物を水素化し、50 psi にて 20 時間振盪した。反応混合物を、セライト(Celite)のパッドを通してろ過し、次いでメタノール(300 mL)で洗浄した。ろ液を減圧下で濃縮して、所望の生成物を白色固体として定量的収率で得た。
【0084】
工程 5c: (5S)-2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン
【化12】

2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン (7.00 g、19.1 mmol) を、室温においてアセトニトリル(50 mL)およびメタノール(7 mL)中に溶解した。出発物質を完全に溶解させた後、該溶液を 70℃まで加熱した。上記の溶液に、アセトニトリル(20 mL)中の (2R)-ヒドロキシ(フェニル)酢酸(1.45 g、9.55 mmol)の溶液を 65-70℃においてゆっくりと添加した。添加後、溶液を 74℃において 10 分間加熱し、終夜室温までゆっくりと冷ました。形成された結晶をろ過により回収し、(2R)-ヒドロキシ(フェニル)酢酸塩として 3.38 g の所望の生成物を得た。得られた塩(3.38 g)を、水(50 mL)に溶解させ、40 mL の K2CO3 水溶液(2.0 M)を用いて pH〜12 に調整した。混合物を、ジクロロメタンを用いて抽出した(3 回)。合わせた有機層を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮して、遊離塩基として所望の生成物を得た(無色の結晶性固体)(2.37 g)。この化合物の絶対立体化学を、(5S)-2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オンの (2R)-ヒドロキシ(フェニル)酢酸塩の X 線単結晶構造決定によって確立した。
【0085】
工程 6: (5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン
【化13】

工程 5 において調製されたベンジル (5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-7-カルボキシラート (0.266 g、0.000688 mol) を、メタノール(5.0 mL)中に溶解し、10% パラジウム炭素(Aldrich、cat #: 520888)(20.0 mg)の存在下、水素雰囲気下で、室温にて 2 時間撹拌した。反応混合物をろ過し、揮発性溶媒を減圧下で除去して、所望の生成物を定量的収率で得た。LC/MS m/e 253.2 (M+H)+
【0086】
工程 7: (5S)-7-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン
【化14】

1-ブタノール(3.90 mL)中における (5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン(1.04 g、0.00412 mol)、4-ブロモ-2-フルオロ-1-ヨードベンゼン (Aldrich、cat #: 283304) (1.85 g、0.00615 mol)、ヨウ化銅(I) (Aldrich、cat #: 215554) (0.122 g、0.000640 mol)、リン酸カリウム (2.63 g、0.0124 mol) および 1,2-エタンジオール(0.48 mL、0.0086 mol)の混合物を、窒素下において 100℃で 2 日間(for 2d)加熱した。水を用いて反応をクエンチし、エーテルを用いて抽出した。有機層を合わせ、水、塩水で洗浄し、Na2SO4 上で乾燥させ、ろ過した。ろ液を減圧下で蒸発させた。残留物を、DCM 中の 0 から 5% のメタノールを用いて溶出させるシリカゲルカラム上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、所望の生成物を得た(950 mg、54.2%)。LC/MS m/e 425.1/427.0 (M+H)+
【0087】
工程 8: 5-3-フルオロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル-N-メチルピリジン-2-カルボキサミド
水 (3.00 mL) 中のリン酸カリウム (637 mg、0.00300 mol) を、1,4-ジオキサン(3.00 mL)中における (5S)-7-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン (425 mg、0.00100 mol)、N-メチル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-カルボキサミド (Frontier Inc.、cat #: M10074) (393 mg、0.00150 mol) およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (Aldrich、cat #: 216666) (35 mg、0.000030 mol) の混合物に添加した。得られた混合物を、120℃で 24 時間加熱した。混合物を、酢酸エチルで希釈し、水および塩水で洗浄した。有機層を Na2SO4 上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮した。残留物を、DCM 中の 5% メタノールを用いて溶出させるシリカゲルカラム上でのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、所望の生成物を得た (285 mg、59.3%)。LC/MS m/e 481.2 (M+H)+1H-NMR (400 MHz、DMSO-d6): 8.89 (1H、dd、J = 2.5、0.6 Hz)、8.76 (1H、q、J = 4.7 Hz)、8.22 (1H、dd、J = 8.4、2.5 Hz)、8.03 (1H、dd、J = 8.4、0.6 Hz)、7.65 (1H、dd、J = 14.2、2.1 Hz)、7.56 (1H、dd、J = 8.5、2.1 Hz)、7.13 (1H、t、J = 8.5 Hz)、4.37 (1 H、d、J = 3.1 Hz)、3.78 (1H、m)、3.71 (1H、m)、3.21-3.38 (3H、m)、3.07 (1H、d、J = 11.4 Hz)、2.81 (3H、d、J = 4.7 Hz)、2.64-2.74 (2H、m)、2.18-2.26 (1H、m)、1.60-1.91 (8H、m)、1.39-1.51 (3H、m)、1.21-1.30 (2H、m)。
【0088】
実施例 2
5-{3-フルオロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}-N,N-ジメチルピリジン-2-カルボキサミド
【化15】
【0089】
工程 1: 5-ブロモ-N,N-ジメチルピリジン-2-カルボキサミド
【化16】

オキサリルクロライド (20.0 mL、0.236 mol) を、室温において塩化メチレン(60 mL)中の 5-ブロモピリジン-2-カルボン酸 (Alfa Aesar、cat #: B25675) (10.1 g、0.0500 mol) の溶液に添加し、その後 DMF を 5 滴添加した。混合物を、室温にて 2 時間撹拌した。揮発性物質を、減圧下で蒸発させた。残留物を、トルエンを用いて2回、共沸蒸発させた(azotropically evaporated)。次いで、残留物を DCM (30 mL) 中に溶解し、その後 30 mL の THF 溶液中のジメチルアミン(2.0 M)(Aldrich、cat #: 391956) およびヒューニッヒ塩基(Hunig's base)(20.0 mL)(Aldrich、cat #: 496219)を添加した。混合物を、室温で 3 時間撹拌した。反応混合物を DCM (100 mL) で希釈し、水、1N HCl および 塩水で洗浄した。有機相を Na2SO4 上で乾燥させ、ろ過し、濃縮して、所望の生成物を得た (10.5 g、91.7%)。
【0090】
工程 2: N,N-ジメチル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-カルボキサミド
【化17】

1,4-ジオキサン(100 mL)中における、5-ブロモ-N,N-ジメチルピリジン-2-カルボキサミド (5.73 g、0.0250 mol)、4,4,5,5,4',4',5',5'-オクタメチル-[2,2']ビ[[1,3,2]ジオキサボロラニル] (6.98 g、0.0275 mol)(Aldrich、cat #: 473294)、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II) ジクロロメタン錯体(complexed with dichloromethane)(1:1) (0.6 g、0.0007 mol) (Aldrich、cat #: 379670)、1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン (0.4 g、0.8 mmol) (Aldrich、cat #: 177261) および酢酸カリウム (7.36 g、0.0750 mol) の混合物を、120℃で 20 時間加熱した。冷却後、混合物を濃縮し、酢酸エチルで希釈し、飽和 NH4Cl 溶液、水、塩水で洗浄し; Na2SO4 上で乾燥させた。ろ過後、ろ液を濃縮し、粗物質を、酢酸エチル/ヘキサンを用いて溶出させるシリカゲルカラム上でさらに精製して、所望の生成物を得た (4.7 g、68%)。
【0091】
工程 3: 5-{3-フルオロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}-N,N-ジメチルピリジン-2-カルボキサミド
この化合物を、N,N-ジメチル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-カルボキサミド および (5S)-7-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オンから出発し、実施例 1、工程 8 の合成について記載される手順と類似の手順を用いて調製した。LC/MS m/e 495.3 (M+H)+1H-NMR (400 MHz、DMSO-d6): 8.86 (1H、d、J = 1.7 Hz)、8.15 (1H、dd、J = 8.1、2.3 Hz)、7.51-7.65 (3H、m)、7.12 (1H、t、J = 8.9 Hz)、4.37 (1 H、d、J = 3.1 Hz)、3.78 (1H、m)、3.71 (1H、m)、3.22-3.38 (3H、m)、3.06 (1H、d、J = 11.7 Hz)、3.00 (3H、s)、2.97 (3H、s)、2.64-2.74 (2H、m)、2.18-2.27 (1H、m)、1.60-1.91 (8H、m)、1.39-1.51 (3H、m)、1.22-1.30 (2H、m)。
【0092】
実施例 3
N-エチル-5-{3-フルオロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}ピリジン-2-カルボキサミド
【化18】
【0093】
工程 1: N-エチル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-カルボキサミド
【化19】

この化合物を、5-ブロモピリジン-2-カルボン酸から出発し、実施例 2、工程 1 および 2 の合成について記載される手順と類似の手順を用いて調製した。
【0094】
工程 2: N-エチル-5-{3-フルオロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}ピリジン-2-カルボキサミド
この化合物を、N-エチル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-カルボキサミド および (5S)-7-(4-ブロモ-2-フルオロフェニル)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オンから出発し、実施例 1、工程 8 の合成について記載される手順と類似の手順を用いて調製した。LC/MS m/e 495.3 (M+H)+
【0095】
実施例 4
5-{3-クロロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}-N-エチルピリジン-2-カルボキサミド
【化20】
【0096】
工程 1: (5S)-7-(4-ブロモ-2-クロロフェニル)-2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン
【化21】

1-ブタノール(0.75 mL)中における、(5S)-2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン (0.282 g、0.000769 mol)、4-ブロモ-2-クロロ-1-ヨードベンゼン (0.293 g、0.000922 mol) (Lancaster、cat #: 19245)、ヨウ化銅(I) (0.015 g、0.000077 mol)、リン酸カリウム (0.490 g、0.00231 mol) および 1,2-エタンジオール (0.0857 mL、0.00154 mol) の混合物を、窒素下において 100℃で 2 日間(for 2d)加熱した。反応混合物をろ過し、減圧下で濃縮し、残留物をシリカゲルカラム上でのフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン中の 0 から 50% の酢酸エチルを用いて溶出させる)によって精製して、所望の生成物を得た。
【0097】
工程 2: 5-{3-クロロ-4-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]フェニル}-N-エチルピリジン-2-カルボキサミド
無水 N,N-ジメチルホルムアミド (1 mL) 中における、(5S)-7-(4-ブロモ-2-クロロフェニル)-2-(シス-4-{[tert-ブチル(ジメチル)シリル]オキシ}シクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン (20 mg、0.00004 mol)、[1,1'-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II) ジクロロメタン錯体(complex with dichloromethane)(1:1)(2.0 mg)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム (1.0 mg) および 炭酸カリウム (14.9 mg、0.000108 mol) の撹拌された混合物に、N-エチル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-カルボキサミド (14.5 mg、0.054 mmol) を添加した。得られた反応混合物を 150℃に加熱し、終夜撹拌し、その後、水(0.10 mL)中における 1.7 M のフルオロケイ酸の添加によって TBS 保護基を除去し、混合物を室温にて終夜撹拌した。次いで、反応混合物を RP-HPLC によって直接的に精製して、所望の生成物を得た。LC/MS m/e 511.2 (M+H)+
【0098】
1H-NMR (400 MHz、DMSO-d6): 8.92 (1H、d、J = 2.3 Hz)、8.84 (1H、t、J = 5.9 Hz)、8.26 (1H、dd、J = 8.2、2.3 Hz)、8.06 (1H、d、J = 8.2 Hz)、7.89 (1H、d、J = 2.2 Hz)、7.74 (1H、dd、J = 8.5、2.2 Hz)、7.30 (1H、t、J = 8.5 Hz)、4.39 (1 H、d、J = 3.1 Hz)、3.80 (1H、m)、3.72 (1H、m)、3.24-3.44 (5H、m)、3.01 (1H、d、J = 11.4 Hz)、2.63-2.74 (2H、m)、2.40-2.53 (1H、m)、1.64-1.91 (8H、m)、1.41-1.53 (3H、m)、1.20-1.32 (2H、m)、1.13 (3H、t、J = 7.2 Hz)。
【0099】
実施例 5
比較データ
本発明の化合物は、類似の化合物 (5S)-7-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカン-1-オン(比較 1) および 3-フルオロ-4-[2-(トランス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]ベンゾニトリル(比較 2)と比較して、イオンチャネル活性(hERG パッチクランプアッセイによって測定される)の阻害が有利に低いことが予期せず見出された; WO 2006/053024 を参照されたい。表 1 は、効力およびイオンチャネル活性の阻害についての以下のデータを比較する。本発明の化合物(実施例 1 および 2 によって代表される)は比較化合物と同様に強力である一方、本発明の化合物は、驚くべき事にイオンチャネル活性の阻害が比較化合物よりも 3-14 倍少なかった。実施例 3 および 4 の化合物は、同様の特性を示した。

【表1】
【0100】
Hamill O.P. et al. “Improved patch clamp techniques for high resolution current recording from cells and cell free membrane patches,” Pflugers Arch. 1981, v. 391, pp. 85-100 の手順に従って、hERG パッチクランプアッセイを行った。以下の実施例 6 および 7 における手順を実行することによって、効力のデータを得た。
【0101】
以下の表 2 は、実施例 2 の化合物および比較 3 (4-{5-クロロ-6-[(5S)-2-(シス-4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-オキソ-2,7-ジアザスピロ[4.5]デカ-7-イル]-ピリジン-3-イル}-N,N-ジメチルベンズアミド; WO 2006/053024 を参照) のさらなる比較データを提供する。

【表2】
【0102】
標準的な操作手順にしたがい、平衡透析によって血漿中の遊離の薬物を結合した薬物から分離することにより、遊離画分を決定した。以下の実施例 7 の手順にしたがって、細胞効力データを得た。細胞効力を遊離画分で除算することによって、標的薬物濃度を算出した。hERG パッチクランプのデータを、上記の手順にしたがって得た。5 mg/kg の単回経口用量を与えられたラットにおいて、ありふれた手順にしたがって薬物動態研究を実施した。WinNonlin(登録商標) version 5.0.1 を用いて標準的な非コンパートメント(non-compartmental)方法によって Cmax および AUC 薬物動態パラメーターを決定するために、血漿濃度-時間データを用いた。
【0103】
この実施例は、特許請求の範囲に記載される化合物の特定の性質を例証する。何が近い構造類似性を構成するのか、および何が関連性のある比較データを構成するのかについては、合理的な知見(reasonable mind)が異なり得、実際に異なるため、比較化合物が本発明の化合物に最も近い構造類似体を代表しているかどうかに関しては示しておらず、かつ、可能性のある全ての比較データが提示されているかどうかに関しては示していない。
【0104】
実施例 6
11βHSD1 の酵素アッセイ
全てのインビトロアッセイを、11βHSD1 活性の源として清澄化された(clarified)ライセートを用いて行った。完全長ヒト 11βHSD1 のエピトープ-タグ化されたバージョン(epitope-tagged version)を発現する HEK-293 の一過性トランスフェクタントを、遠心分離によって回収した。およそ 2 x 107 の細胞を、40 mL の溶解バッファー(pH 7.5 の 25 mM トリス-HCl、0.1 M NaCl、1 mM MgCl2 および 250 mM スクロース)中に再懸濁し、マイクロフルイダイザー(microfluidizer)中で溶解した。ライセートを遠心分離によって清澄化し、上清を分注(aliquote)し、凍結させた。
【0105】
被験化合物による 11βHSD1 の阻害を、シンチレーション近接アッセイ(SPA)によってインビトロで評価した。乾燥した被験化合物を、DMSO 中に 5 mM にて溶解した。これらを、DMSO 中において SPA アッセイに適した濃度まで希釈した。3 対数の化合物濃度が含まれるよう、0.8 μL の化合物の 2 倍段階希釈を DMSO 中において 384 ウェルプレート上に点状に添加(dot)した。20 μL の清澄化されたライセートを各ウェルに添加した。アッセイバッファー(pH 7.5 の 25 mM トリス-HCl、0.1 M NaCl、1 mM MgCl2)中に 20 μL の基質-補因子混合物を、400 μM NADPH、25 nM 3H-コルチゾンおよび 0.007% Triton X-100 の終濃度となるよう添加することによって反応を開始した。プレートを、37℃で1時間インキュベートした。10 μM のカルベノキソロンおよびコルチゾール特異的モノクローナル抗体と共にプレインキュベートされた、抗-マウス被覆された SPA ビーズを 40 μL 添加することによって、反応をクエンチした。Topcount シンチレーションカウンター上での読み取りの前に、クエンチされたプレートを RT にて最低 30 分間インキュベートした。ライセートを含まない対照、阻害されたライセートを含む対照および mAb を含まない対照を、通常通り実行した。これらの条件の下、非阻害の反応において入力コルチゾンのおよそ 30% が 11βHSD1 によって減少した。
【0106】
実施例 7
11βHSD1 活性についての細胞に基づくアッセイ
末梢血単核細胞(PBMC)を、正常なヒトボランティアから Ficoll 密度遠心分離によって単離した。細胞を、96 ウェルプレート中における 200 μL の AIM V (Gibco-BRL) 培地中に 4x105 細胞/ウェルにてプレーティングした。細胞を、50 ng/ml の組換えヒト IL-4 (R&D Systems) を用いて終夜刺激した。翌朝、様々な濃度の化合物の存在または非存在下で、200 nM のコルチゾン (Sigma) を添加した。細胞を 48 時間インキュベートし、その後、上清を回収した。コルチゾンからコルチゾールへの変換を、市販の ELISA (Assay Design) によって決定した。
【0107】
本明細書に記載されるものに加えて、本発明の様々な改変が上記の記載から当業者にとって明白であろう。かかる改変も、添付の請求項の範囲内に含まれると意図される。本願において引用する、全ての特許、特許出願および刊行物を含む各々の参考文献はいずれも、引用によりその全体が本明細書に取り込まれる。