【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、本発明者は、ドープおよび非ドープのチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)が、Li
2TiO
3およびTiO
2を含む複合酸化物の熱反応によって得られることを見出した。TiO
2/Li
2TiO
3の比は、1.3〜1.85であり、1.41〜1.7であることが好ましく、1.51〜1.7であることがさらに好ましい。
【0018】
純相の生成物を得るための複合酸化物におけるLi
2TiO
3に対するTiO
2のストイキ比は、理論的なストイキ値である1.5の程度である。これは、選択された焼結反応において選択されたリチウム原となる化合物の揮発度に依存する(例えば非特許文献5〜8参照)。
【0019】
リチウム化合物の量は、理論値よりも僅かに過剰(特に理論的な値と比較して4〜10%過剰)にさせることが好ましい。リチウム化合物の量を僅かに不足させることは好ましくないが、具体的な量は、出発物質であるTiO
2の反応性にも依存し、そして、出発物質であるTiO
2の反応性は、その製造者によって異なりうる。
【0020】
非ドープのチタン酸リチウムスピネルを調製する場合、複合酸化物はこれらの2つの構成成分(Li
2TiO
3およびTiO
2)のみから構成される。
【0021】
本発明では「複合酸化物」とは、複合酸化物の構成成分の化学処理および/または熱処理によって得られた完全な均一混合物を意味する。したがって、本発明における「複合化合物」は、対応する構成成分から純粋に機械的に調製された混合物を意味しない。通常、完全な均一混合物は機械的には得られないからである。
【0022】
本発明によって得られたチタン酸リチウムは、極めて小さい粒径を有する。このため、本発明のチタン酸リチウム材料を含む正極では、電流密度が特に高く、正極のサイクル安定性が高い。
【0023】
「チタン酸リチウム」または「本発明のチタン酸リチウム」は、ドープおよび非ドープ両方の状態のチタン酸リチウムを意味する。
【0024】
本発明のチタン酸リチウムは純相であることが特に好ましい。本発明では、「純相」または「純相のチタン酸リチウム」とは、最終生成物を通常の測定精度でX線回折測定したときにルチル相が検出されないことを意味する。換言すると、本発明の好ましい実施の形態では、チタン酸リチウムはルチル相を含まないことが好ましい。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態では、チタン酸リチウムは、少なくとも1つのさらなる金属でドープされている。ドープされたチタン酸リチウムを正極として用いることで、安定性およびサイクル安定性がさらに向上する。これは、金属イオン、より好ましくは、Al、Mg、Ga、Fe、Co、Sc、Y、Mn、Ni、Cr、Vまたはこれらの組み合わせの金属のイオンを結晶格子に追加的に導入することで達成される。導入する金属イオンとしてはアルミニウムイオンが特に好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、ドープされたチタン酸リチウムスピネルも、ルチル相を含まないことが好ましい。
【0026】
チタンまたはリチウムの結晶格子導入されうるドーパントである金属イオンの、チタン酸リチウムスピネルの総重量に対する重量比は、0.05〜3%であり、1〜3%であることが好ましい。
【0027】
ドープされたチタン酸リチウムスピネルの調製方法を以下に詳細に説明する。
【0028】
驚くべきことに、本発明によって得られうるドープおよび非ドープのチタン酸リチウムの反応および分離直後(後述)の粉砕されていないサンプルの粒径のd
90が25μm以下であることが分かった。そして、生成物のSEM写真を確認しても溶融現象は確認されなかった。サンプルの粒径のd
50は1μm以下であることが好ましく、0.3〜0.6μm範囲内にあることが特に好ましい。上述したように、粒径のサイズが小さいと電流密度が高まり、サイクル安定性も高まる。この結果、本発明のチタン酸リチウムは、さらなる機械的粉砕工程を経ることなく、特にリチウムイオン充電電池正極の構成材料として好適に用いられうる。もちろん得られた生成物は、用途の必要性に応じて、粉砕され、より微細化されてもよい。粉砕工程は、当業者に公知の方法を用いて行えばよい。
【0029】
驚くべきことに、本発明で得られたドープおよび非ドープのチタン酸リチウムは、2〜15m
2/gの比較的大きいBET比表面積(BET surface area)を有することが分かった。
【0030】
上述した特性を有する本発明で得られたドープおよび非ドープのチタン酸リチウムにおいては、反応の開始時に複合酸化物におけるLi
2TiO
3が立方相で存在すると、好ましいことが証明された。また、複合酸化物におけるTiO
2は、ルチル相でなくアナターゼ変性された状態で存在することが好ましい。
【0031】
本発明の目的は、さらにxモル部のLi
2TiO
3およびyモル部のTiO
2を含む(0.1≦x、y≦4)複合酸化物の調製方法を提供することで達成される。ここで、Li
2TiO
3は立方相で存在し、TiO
2はアナターゼ変性された状態で存在する。複合酸化物は、好ましくは、本発明のチタン酸リチウムの出発原料として用いられることが好ましい。
【0032】
この場合、複合酸化物の構成要素は、もちろん化学量論量に応じて存在する。後のチタン酸リチウムを製造する熱反応のために、複合酸化物は、例えば、2モル部のLi
2TiO
3と3モル部のTiO
2,とを有する。後の反応に用いられる複合酸化物におけるLi
2TiO
3に対するTiO
2のモル比は、上述したように、1.3〜1.85の範囲内に収まることが好ましく、1.4〜1.7の範囲内に収まることが好ましい。
【0033】
基本的に、その後に続く熱反応(後述)で、空間群Fd3m(space group Fd3m)の全てのタイプのチタン酸リチウムスピネル(Li
1+xTi
2−xO
4;0≦x≦1/3)および、一般式Li
xTi
yO(0<x、y<1)で表わされる任意の酸リチウムの混合物が得られるように複合酸化物の成分比を設定することも可能である。
【0034】
ドープされたスピネルを調製する場合、ドーパント金属の金属酸化物を複合酸化物内に追加することが好ましい。
【0035】
本発明の複合酸化物を調製する方法は、
a)LiOHの水溶液を準備するステップと、
b)LiOHの水溶液に固体のTiO
2を加え、LiOHの水溶液を100〜250℃で反応させるステップと、を有する。
また本発明の複合酸化物を調製する方法は、任意に
c)b)の反応によって得られた生成物を分離するステップを有する。
【0036】
例えば、ろ過などによる任意の分離工程の代わりに、反応生成物または、ステップb)における反応生成物を含む懸濁液は、スプレー熱分解法や他の当業者に公知の単離工程を経てもよい。
【0037】
本発明では、アナターゼ変性されたTiO
2が好ましく用いられる。
【0038】
後に続く複合酸化物の熱反応によってドープされたチタン酸リチウムスピネルを調製する場合、対応する金属化合物、特にAl、Mg、Ga、Fe、Co、ScおよびY、Mn、Ni、Cr、Vの化合物がTiO
2の添加前およびTiO
2の添加と同時に添加されてもよい。
【0039】
金属化合物をTiO
2の添加と同時に添加する場合、対応する金属酸化物が用いられることが好ましい。TiO
2の添加前に既に溶液中に金属化合物がLiOHと共に存在している場合、水酸化物または酸化物を生成する硝酸塩や酢酸塩などの水溶性の金属化合物または対応する金属酸化物の懸濁液を金属化合物とすることが好ましい。混合ドープ(mixed doped)されたチタン酸リチウムスピネルを得るために、上述した金属の様々な金属酸化物または金属化合物も添加されてよい。この場合、本発明の複合酸化物は、上述した2つの主な構成成分であるLi
2TiO
3およびTiO
2に加えて、他の適切な金属化合物、特に上述したドーパント金属の酸化物を含む。
【0040】
LiOH水溶液は、ステップb)の反応中100〜250℃に保たれることが特に好ましい。Li
2TiO
3およびTiO
2を含む本発明の複合酸化物を生成する析出反応が促進されるからである。温度が低すぎる場合、最終生成物に不純物が混入する。
【0041】
析出反応は、1〜30時間行われることが好ましく、15〜25時間行われることが特に好ましい。
【0042】
驚くべきことに、本発明の方法によって得られ、かつLi
2TiO
3およびTiO
2を含む複合酸化物の粒径は、100〜300nmの範囲内に収まり、均一であることが分かった。Li
2TiO
3およびTiO
2は、ステップc)において、例えばろ過によって分離される。分離された複合酸化物は、70〜120℃の環境下で乾燥され、例えば乾式ジェットミルによって粉砕される。本発明では得られた複合酸化物の粒子の凝集が極めて少ないので、粉砕工程が特に容易である。
【0043】
本発明の目的は、本発明の複合酸化物を850℃以下の温度で焼結し、本発明の複合酸化物を出発原料として得られたドープまたは非ドープのチタン酸リチウムの調製方法を提供することでも達成される。焼結工程は、700℃以下の低温で行われることが特に好ましい。
【0044】
驚くべきことに、本発明の方法は、従来の全てのチタン酸リチウムの固相合成(solid-state synthesis)と異なり、極めて低温かつ、極めて短時間で行えることがわかった。さらに、本発明によれば、例えば、副産物の混入などの従来の技術のデメリットを抑えつつ、チタン酸リチウムが得られることがわかった。
【0045】
ドープされたチタン酸リチウムを調製するには、ドーパント金属化合物またはドーパント金属酸化物を既に含む複合酸化物を本発明の方法で反応させるだけでなく、ドープされていないチタン酸リチウムスピネルの合成後、または固体または液状(例えば懸濁液)の複合酸化物の合成後、ドーパント金属化合物を添加し、再び加熱して焼成してもよい。
【0046】
一方、Li
2TiO
3およびTiO
2からなる純粋な機械的混合物は、800〜850℃超の温度で焼結されなければならならず、異なる相および副産物が混入してしまう。
【0047】
通常、本発明の方法によれば、焼結時間に0.5〜20時間しか要さず、例えば、Li
2TiO
3およびTiO
2の2つの出発化合物の純粋な機械的量論混合物を用いた従来の固相プロセスと比較して明らかに短い。
【0048】
本発明によれば、チタン酸リチウムの全合成中に強塩基を追加することを省略することができるので好ましい。本発明の複合酸化物を調製する際の合成の第1ステップで用いられるLiOHが、塩基または活性剤として機能するからである。
【0049】
このため、NaOHまたはKOHなどの強いそして腐食性の塩基を用いることなくドープまたは非ドープのチタン酸リチウムの全合成を行える。このような塩基は、ほとんどの上述した従来の湿式化学合成プロセスまた熱水プロセスにおいて必須である。さらに、塩基の添加を省略することで、最終生成物においてナトリウムまたはカリウムの不純物が混入することを防止できる。
【0050】
上述したように、純相チタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12を合成するための本発明の焼成工程において必要な温度は、従来技術と比較して著しく低温であることが見出された。従来技術で必要であった800〜850℃超の温度と比較して、本発明では750℃未満、好ましくは700℃未満の温度しか必要としない。例えば、わずか700℃の温度で、15時間の反応時間後に純粋な生成物が得られる(後述)。
【0051】
通常の固体合成ルートのチタン酸リチウムスピネルの調製方法と比較した本発明の方法のさらなる利点は、LiOH・H
2OまたはLi
2CO
3との焼結の必要がないことである。これらの通常用いられる化合物は、850℃超の高温において高い反応性および腐食性を有する。このため、焼結工程が進行する反応炉の壁面が強く損なわれる。これに対し、本発明で用いられるLi
2TiO
3は、反応炉の材料と反応することはない。
【0052】
好ましくは、本発明のドープまたは非ドープのチタン酸リチウムは充電可能なリチウムイオン電池の正極材料として用いられることが好ましい。
【0053】
このため、本発明は、正極、負極および電解質を有し、正極が本発明のチタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12を含む充電可能なリチウムイオン電池にも関する。
【0054】
本発明の正極は、放電条件が20Cのときに、少なくとも90%、特に好ましくは95%の保持能力(capacity retention)を有し、160Ah/kg超の充電/放電容量を有する。
【0055】
以下図面および実施の形態を参照しながら本発明について詳細に説明する。しかし、以下の図面および実施の形態は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。