特許第5730967号(P5730967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5730967複合酸化物の製造方法、ならびに、チタン酸リチウムスピネルの製造方法および使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730967
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】複合酸化物の製造方法、ならびに、チタン酸リチウムスピネルの製造方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20150521BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20150521BHJP
【FI】
   C01G23/00 B
   H01M4/485
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-183255(P2013-183255)
(22)【出願日】2013年9月4日
(62)【分割の表示】特願2011-512019(P2011-512019)の分割
【原出願日】2009年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-37345(P2014-37345A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2013年9月5日
(31)【優先権主張番号】102008026580.2
(32)【優先日】2008年6月3日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512226099
【氏名又は名称】ジュート−ヘミー イーペー ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】SUED−CHEMIE IP GMBH & CO. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】ホルツアプフェル ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ラウマン アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヌズプル ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】フェアー カール
(72)【発明者】
【氏名】キーフェル フロリアン
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−137547(JP,A)
【文献】 特開平10−251020(JP,A)
【文献】 M.TOMIHA et al.,"Hydrothermal synthesis of alkali titanates from nano size titania powder",Journal of Materials Science,2002年,Vol.37,p.2341-2344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00 − 23/08
H01M 4/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)LiOHの水溶液を準備するステップと、
b)前記LiOHの水溶液に固体のTiOを加え、100〜250℃で反応させるステップと、
c)b)の反応によって得られた生成物を前記反応後の前記水溶液から分離するステップと
を有する、xモル部の立方相のLiTiOと、yモル部のアナターゼ変性されたTiOと(xおよびyはそれぞれ独立し、0.1〜4の数を意味する)とを含む複合酸化物を製造する方法。
【請求項2】
前記固体のTiOはアナターゼ変性されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)における反応中、前記LiOHの水溶液は、100〜250℃に保たれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)における反応は、10〜30時間行われる、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ステップb)において、Al、Mg、Ga、Fe、Co、Sc、Y、Mn、Ni、Cr、Vまたはこれらの組み合わせを含む化合物をさらに添加する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記複合酸化物の粒径は、100〜300nmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法によって得られ、かつxモル部の立方相のLiTiOと、yモル部のアナターゼ変性されたTiOと、z部の金属酸化物と(xおよびyはそれぞれ独立し、かつ0.1〜4の数を意味し、zは0以上1以下である)、を含む複合酸化物であって、前記金属酸化物は、Al、Mg、Ga、Fe、Co、Sc、Y、Mn、Ni、Cr、Vまたはこれらの組み合わせの酸化物から選択される、複合酸化物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で製造された複合酸化物を850℃以下で焼結する工程を含む、ドープまたは非ドープの純相のチタン酸リチウムLiTi12を製造する方法。
【請求項9】
前記焼結は、1〜20時間行われる、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記焼結は、750℃以下で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の製造方法により製造された純相のドープまたは非ドープのチタン酸リチウムの充電可能なリチウムイオン電池の正極への使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープおよび非ドープのチタン酸リチウム(LiTi12)およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸リチウム(LiTi12)(別名チタン酸リチウムスピネル)は、近年、充電可能なリチウムイオン電池の正極材料であるグラファイトの代用物として提案されている。
【0003】
現在のこのような充電電池の正極材料の概要は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0004】
グラファイトと比較したLiTi12の利点は、高いサイクル安定性(cycle stability)、高い耐熱性および高い操作信頼性(operational reliability)を有することである。LiTi12は、リチウムと比較して、1.55Vの比較的一定の電位差を有する。また、LiTi12を用いることで、容量損失を20%未満に抑えながら、数千回の充放電サイクルを達成することができる。
【0005】
このように、チタン酸リチウムは、従来、通常リチウムイオン充電池の正極として用いられていたグラファイトよりも、明らかに高い陽電位(positive potential)を有する。
【0006】
しかしながら、電位が高くなれば、電圧差が低くなる。そして、容量も、グラファイトの372mAh/g(論理値)と比較して、175mAh/gまで減少する。この結果、グラファイト正極を有するリチウムイオン充電電池と比較して、明らかに低いエネルギ密度を有する。
【0007】
しかしながら、LiTi12は、長い寿命を有し、毒性を有さない。このため、LiTi12は、環境に対する脅威をもたらす化合物に分類されない。
【0008】
近年、LiFePOが、リチウムイオン電池の負極材料として用いられている。LiTi12とLiFePOとを組み合わせた結果、2Vの電圧差が達成される。
【0009】
チタン酸リチウム(LiTi12)の調製の様々な方法が知られている。通常、LiTi12は、チタン化合物(例えばTiO)とリチウム化合物(例えばLiCO)とを750°C以上の温度で固相反応させることで得られる(例えば特許文献1参照)。この高温の焼成工程は、比較的純度が高く、充分に結晶化可能なLiTi12を得るために必要とされる。しかし、この焼成工程は、得られる1次粒子が粗粒度が高くなったり、材料の一部が溶融したりするといったデメリットを有する。したがって、このような方法で得られた生成物は、粉砕工程を経なければならず、生成物に不純物が混入する恐れがあった。また、高い温度は、一般的に、ルチルやアナターゼの残渣など、最終生成物に残留する副産物の生成量を上昇させてしまう(例えば特許文献2参照)。
【0010】
ゾルゲル法でLiTi12を調製する方法も知られている(例えば特許文献3参照)。ゾルゲル法では、例えばチタン酸テトライソプロピルまたはチタン酸テトラブチルなどの有機チタン化合物と、例えば酢酸リチウムやリチウムエトキシドなどとを無水溶媒中で反応させ、LiTi12を調製する。しかしながら、ゾルゲル法では、TiOよりもはるかに高価で、かつTiOよりもチタンの含有量が少ないチタン出発化合物の使用が要求される。このため、チタン酸リチウムスピネルをゾルゲル法で調製する方法は、非経済的である。さらに、ゾルゲル法で調製された生成物は、ゾルゲル工程の後に結晶化のために更に焼成されなければならない。
【0011】
さらに、火炎溶射熱分解を用いた調製方法(例えば非特許文献2参照)および無水溶媒において「熱水法」と呼ばれる方法を利用した調製方法(例えば非特許文献3参照)も提案されている。
【0012】
さらに、特に固相法を用いて、チタン酸リチウムを調製する可能性が、例えば特許文献4および特許文献5に記載されている。しかし、このような方法は、上述したような、例えばルチルやアナターゼの残渣などの不純物およびLiTiOなどの固相反応の中間生成物が混入するというデメリットを有する。
【0013】
さらに、非ドープのLiTi12の調製に加えて、Al、GaおよびCoでドープされたLiTi12の特性および調製方法が記載されている(例えば非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,545,468号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開1722439号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10319464号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0202036号明細書
【特許文献5】米国特許第6,645,673号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Bruce et al., Angew.Chem.Int.Ed. 2008, 47, 2930-2946
【非特許文献2】Ernst, F.O. et al. Materials Chemistry and Physics 2007, 101(2-3) pp. 372-378
【非特許文献3】Kalbac, M. et al., Journal of Solid State Electrochemistry 2003, 8(1) pp. 2-6
【非特許文献4】S. Huang et al. J. Power Sources 165 (2007), pp. 408 - 412
【非特許文献5】Dokko et. al. Elektrochimica Acta 51 (2005) 966-971
【非特許文献6】Jiang et. al. Electrochimica Acta 52 (2007), 6470 - 6475
【非特許文献7】Huang et. al. Electrochem. Comm. 6 (2004), 1093 - 97
【非特許文献8】Hao et. al., J. Alloys and Compounds (2006) doi: 10.1016/j. jallcomm. 2006.08.082
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このため、非ドープおよびドープされた純相のチタン酸リチウムの調製を可能とする、チタン酸リチウムの調製方法の代替案に対するニーズがあった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、本発明者は、ドープおよび非ドープのチタン酸リチウム(LiTi12)が、LiTiOおよびTiOを含む複合酸化物の熱反応によって得られることを見出した。TiO/LiTiOの比は、1.3〜1.85であり、1.41〜1.7であることが好ましく、1.51〜1.7であることがさらに好ましい。
【0018】
純相の生成物を得るための複合酸化物におけるLiTiOに対するTiOのストイキ比は、理論的なストイキ値である1.5の程度である。これは、選択された焼結反応において選択されたリチウム原となる化合物の揮発度に依存する(例えば非特許文献5〜8参照)。
【0019】
リチウム化合物の量は、理論値よりも僅かに過剰(特に理論的な値と比較して4〜10%過剰)にさせることが好ましい。リチウム化合物の量を僅かに不足させることは好ましくないが、具体的な量は、出発物質であるTiOの反応性にも依存し、そして、出発物質であるTiOの反応性は、その製造者によって異なりうる。
【0020】
非ドープのチタン酸リチウムスピネルを調製する場合、複合酸化物はこれらの2つの構成成分(LiTiOおよびTiO)のみから構成される。
【0021】
本発明では「複合酸化物」とは、複合酸化物の構成成分の化学処理および/または熱処理によって得られた完全な均一混合物を意味する。したがって、本発明における「複合化合物」は、対応する構成成分から純粋に機械的に調製された混合物を意味しない。通常、完全な均一混合物は機械的には得られないからである。
【0022】
本発明によって得られたチタン酸リチウムは、極めて小さい粒径を有する。このため、本発明のチタン酸リチウム材料を含む正極では、電流密度が特に高く、正極のサイクル安定性が高い。
【0023】
「チタン酸リチウム」または「本発明のチタン酸リチウム」は、ドープおよび非ドープ両方の状態のチタン酸リチウムを意味する。
【0024】
本発明のチタン酸リチウムは純相であることが特に好ましい。本発明では、「純相」または「純相のチタン酸リチウム」とは、最終生成物を通常の測定精度でX線回折測定したときにルチル相が検出されないことを意味する。換言すると、本発明の好ましい実施の形態では、チタン酸リチウムはルチル相を含まないことが好ましい。
【0025】
本発明の好ましい実施の形態では、チタン酸リチウムは、少なくとも1つのさらなる金属でドープされている。ドープされたチタン酸リチウムを正極として用いることで、安定性およびサイクル安定性がさらに向上する。これは、金属イオン、より好ましくは、Al、Mg、Ga、Fe、Co、Sc、Y、Mn、Ni、Cr、Vまたはこれらの組み合わせの金属のイオンを結晶格子に追加的に導入することで達成される。導入する金属イオンとしてはアルミニウムイオンが特に好ましい。本発明の好ましい実施の形態では、ドープされたチタン酸リチウムスピネルも、ルチル相を含まないことが好ましい。
【0026】
チタンまたはリチウムの結晶格子導入されうるドーパントである金属イオンの、チタン酸リチウムスピネルの総重量に対する重量比は、0.05〜3%であり、1〜3%であることが好ましい。
【0027】
ドープされたチタン酸リチウムスピネルの調製方法を以下に詳細に説明する。
【0028】
驚くべきことに、本発明によって得られうるドープおよび非ドープのチタン酸リチウムの反応および分離直後(後述)の粉砕されていないサンプルの粒径のd90が25μm以下であることが分かった。そして、生成物のSEM写真を確認しても溶融現象は確認されなかった。サンプルの粒径のd50は1μm以下であることが好ましく、0.3〜0.6μm範囲内にあることが特に好ましい。上述したように、粒径のサイズが小さいと電流密度が高まり、サイクル安定性も高まる。この結果、本発明のチタン酸リチウムは、さらなる機械的粉砕工程を経ることなく、特にリチウムイオン充電電池正極の構成材料として好適に用いられうる。もちろん得られた生成物は、用途の必要性に応じて、粉砕され、より微細化されてもよい。粉砕工程は、当業者に公知の方法を用いて行えばよい。
【0029】
驚くべきことに、本発明で得られたドープおよび非ドープのチタン酸リチウムは、2〜15m/gの比較的大きいBET比表面積(BET surface area)を有することが分かった。
【0030】
上述した特性を有する本発明で得られたドープおよび非ドープのチタン酸リチウムにおいては、反応の開始時に複合酸化物におけるLiTiOが立方相で存在すると、好ましいことが証明された。また、複合酸化物におけるTiOは、ルチル相でなくアナターゼ変性された状態で存在することが好ましい。
【0031】
本発明の目的は、さらにxモル部のLiTiOおよびyモル部のTiOを含む(0.1≦x、y≦4)複合酸化物の調製方法を提供することで達成される。ここで、LiTiOは立方相で存在し、TiOはアナターゼ変性された状態で存在する。複合酸化物は、好ましくは、本発明のチタン酸リチウムの出発原料として用いられることが好ましい。
【0032】
この場合、複合酸化物の構成要素は、もちろん化学量論量に応じて存在する。後のチタン酸リチウムを製造する熱反応のために、複合酸化物は、例えば、2モル部のLiTiOと3モル部のTiO2,とを有する。後の反応に用いられる複合酸化物におけるLiTiOに対するTiOのモル比は、上述したように、1.3〜1.85の範囲内に収まることが好ましく、1.4〜1.7の範囲内に収まることが好ましい。
【0033】
基本的に、その後に続く熱反応(後述)で、空間群Fd3m(space group Fd3m)の全てのタイプのチタン酸リチウムスピネル(Li1+xTi2−x;0≦x≦1/3)および、一般式LiTiO(0<x、y<1)で表わされる任意の酸リチウムの混合物が得られるように複合酸化物の成分比を設定することも可能である。
【0034】
ドープされたスピネルを調製する場合、ドーパント金属の金属酸化物を複合酸化物内に追加することが好ましい。
【0035】
本発明の複合酸化物を調製する方法は、
a)LiOHの水溶液を準備するステップと、
b)LiOHの水溶液に固体のTiOを加え、LiOHの水溶液を100〜250℃で反応させるステップと、を有する。
また本発明の複合酸化物を調製する方法は、任意に
c)b)の反応によって得られた生成物を分離するステップを有する。
【0036】
例えば、ろ過などによる任意の分離工程の代わりに、反応生成物または、ステップb)における反応生成物を含む懸濁液は、スプレー熱分解法や他の当業者に公知の単離工程を経てもよい。
【0037】
本発明では、アナターゼ変性されたTiOが好ましく用いられる。
【0038】
後に続く複合酸化物の熱反応によってドープされたチタン酸リチウムスピネルを調製する場合、対応する金属化合物、特にAl、Mg、Ga、Fe、Co、ScおよびY、Mn、Ni、Cr、Vの化合物がTiOの添加前およびTiOの添加と同時に添加されてもよい。
【0039】
金属化合物をTiOの添加と同時に添加する場合、対応する金属酸化物が用いられることが好ましい。TiOの添加前に既に溶液中に金属化合物がLiOHと共に存在している場合、水酸化物または酸化物を生成する硝酸塩や酢酸塩などの水溶性の金属化合物または対応する金属酸化物の懸濁液を金属化合物とすることが好ましい。混合ドープ(mixed doped)されたチタン酸リチウムスピネルを得るために、上述した金属の様々な金属酸化物または金属化合物も添加されてよい。この場合、本発明の複合酸化物は、上述した2つの主な構成成分であるLiTiOおよびTiOに加えて、他の適切な金属化合物、特に上述したドーパント金属の酸化物を含む。
【0040】
LiOH水溶液は、ステップb)の反応中100〜250℃に保たれることが特に好ましい。LiTiOおよびTiOを含む本発明の複合酸化物を生成する析出反応が促進されるからである。温度が低すぎる場合、最終生成物に不純物が混入する。
【0041】
析出反応は、1〜30時間行われることが好ましく、15〜25時間行われることが特に好ましい。
【0042】
驚くべきことに、本発明の方法によって得られ、かつLiTiOおよびTiOを含む複合酸化物の粒径は、100〜300nmの範囲内に収まり、均一であることが分かった。LiTiOおよびTiOは、ステップc)において、例えばろ過によって分離される。分離された複合酸化物は、70〜120℃の環境下で乾燥され、例えば乾式ジェットミルによって粉砕される。本発明では得られた複合酸化物の粒子の凝集が極めて少ないので、粉砕工程が特に容易である。
【0043】
本発明の目的は、本発明の複合酸化物を850℃以下の温度で焼結し、本発明の複合酸化物を出発原料として得られたドープまたは非ドープのチタン酸リチウムの調製方法を提供することでも達成される。焼結工程は、700℃以下の低温で行われることが特に好ましい。
【0044】
驚くべきことに、本発明の方法は、従来の全てのチタン酸リチウムの固相合成(solid-state synthesis)と異なり、極めて低温かつ、極めて短時間で行えることがわかった。さらに、本発明によれば、例えば、副産物の混入などの従来の技術のデメリットを抑えつつ、チタン酸リチウムが得られることがわかった。
【0045】
ドープされたチタン酸リチウムを調製するには、ドーパント金属化合物またはドーパント金属酸化物を既に含む複合酸化物を本発明の方法で反応させるだけでなく、ドープされていないチタン酸リチウムスピネルの合成後、または固体または液状(例えば懸濁液)の複合酸化物の合成後、ドーパント金属化合物を添加し、再び加熱して焼成してもよい。
【0046】
一方、LiTiOおよびTiOからなる純粋な機械的混合物は、800〜850℃超の温度で焼結されなければならならず、異なる相および副産物が混入してしまう。
【0047】
通常、本発明の方法によれば、焼結時間に0.5〜20時間しか要さず、例えば、LiTiOおよびTiOの2つの出発化合物の純粋な機械的量論混合物を用いた従来の固相プロセスと比較して明らかに短い。
【0048】
本発明によれば、チタン酸リチウムの全合成中に強塩基を追加することを省略することができるので好ましい。本発明の複合酸化物を調製する際の合成の第1ステップで用いられるLiOHが、塩基または活性剤として機能するからである。
【0049】
このため、NaOHまたはKOHなどの強いそして腐食性の塩基を用いることなくドープまたは非ドープのチタン酸リチウムの全合成を行える。このような塩基は、ほとんどの上述した従来の湿式化学合成プロセスまた熱水プロセスにおいて必須である。さらに、塩基の添加を省略することで、最終生成物においてナトリウムまたはカリウムの不純物が混入することを防止できる。
【0050】
上述したように、純相チタン酸リチウムLiTi12を合成するための本発明の焼成工程において必要な温度は、従来技術と比較して著しく低温であることが見出された。従来技術で必要であった800〜850℃超の温度と比較して、本発明では750℃未満、好ましくは700℃未満の温度しか必要としない。例えば、わずか700℃の温度で、15時間の反応時間後に純粋な生成物が得られる(後述)。
【0051】
通常の固体合成ルートのチタン酸リチウムスピネルの調製方法と比較した本発明の方法のさらなる利点は、LiOH・HOまたはLiCOとの焼結の必要がないことである。これらの通常用いられる化合物は、850℃超の高温において高い反応性および腐食性を有する。このため、焼結工程が進行する反応炉の壁面が強く損なわれる。これに対し、本発明で用いられるLiTiOは、反応炉の材料と反応することはない。
【0052】
好ましくは、本発明のドープまたは非ドープのチタン酸リチウムは充電可能なリチウムイオン電池の正極材料として用いられることが好ましい。
【0053】
このため、本発明は、正極、負極および電解質を有し、正極が本発明のチタン酸リチウムLiTi12を含む充電可能なリチウムイオン電池にも関する。
【0054】
本発明の正極は、放電条件が20Cのときに、少なくとも90%、特に好ましくは95%の保持能力(capacity retention)を有し、160Ah/kg超の充電/放電容量を有する。
【0055】
以下図面および実施の形態を参照しながら本発明について詳細に説明する。しかし、以下の図面および実施の形態は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明のチタン酸リチウムのX線回折図形
図2】本発明の複合酸化物LiTiO/TiOのSEM写真
図3】異なる焼結温度で得られた本発明の純相チタン酸リチウムのSEM写真
図4】850℃で焼結された本発明のチタン酸リチウムのSEM写真
図5】本発明のチタン酸リチウムの粒径サイズの分布図
図6】正極材料としての本発明のチタン酸リチウムのサイクル安定性を示すグラフ
図7】正極材料としての本発明のチタン酸リチウムの充電/放電カーブ
【発明を実施するための形態】
【0057】
1.本発明の複合酸化物を調製する方法の一般的説明
xモル部のLiTiO/yモル部のTiO(xおよびyは上述した定義の通りである)を含む複合酸化物の調製のために本発明の方法に用いられる化合物(出発化合物)は、LiOH・HOおよびアナターゼ型のTiOである。対応するドーパントの酸化物が任意に添加されてもよい。市販のLiOH・HO(メルク製)では、含水量がバッチ間で変動する。含水量は、合成の前に決定される。
【0058】
最初にLiOH・HOを蒸留水に溶解し、50〜60℃まで加熱する。水酸化リチウムが完全に溶解したら、50〜60℃まで加熱された溶液に、対応する量の(所望の最終生成物に応じて)固体のアナターゼ型TiOを、攪拌しながら添加する。アナターゼが均一に分散した後、懸濁液をオートクレーブに配置する。そして、攪拌しながら100〜250℃(通常は150〜200℃)で18時間反応を進行させる。
【0059】
2つのスターラとスチール加熱コイルとを有するParr社製のオートクレーブ(Parr4843高圧反応器)をオートクレーブとして用いた。
【0060】
反応の終了後、xモル部のLiTiO/yモル部のTiOを含む複合酸化物をろ取し、SEM写真を撮影した。
【0061】
TiO/LiTiOの比が1.68(図2参照)であるxモル部のLiTiO/yモル部のTiOを含む複合酸化物では、アナターゼ型の出発物質と異なり、熱水反応の間、粒子成長が起きないこと、そして粒径が100〜300nmの範囲の1次粒子(primary particles)の凝集も起きないことが分かった。
【0062】
ろ取したケーキを洗浄した後、ケーキを80℃で乾燥させ粉砕した。粉砕には、例えば、空気ジェットミルを用いる。
【0063】
その後、xモル部のLiTiO/yモル部のTiOを含む本発明の複合酸化物を、焼結した。
【0064】
本発明の複合酸化物は、前述した合成によるチタン酸リチウムへの焼結反応において、極めて反応性が高いことが分かった。例えば、2モル部のLiTiOと3モル部のTiOとからなる純粋な機械的混合物を出発原料とする従来のチタン酸リチウムの調製方法では、反応温度は、通常800〜850℃超であり、反応時間は、15時間超である。
【0065】
さらに、純相の生成物(例えばチタン酸リチウム)が、例えば、650℃の低温で、僅か15時間の反応時間で得られることが見出された。例えば、反応温度が750℃である場合、純相チタン酸リチウムが、前述の複合酸化物から、僅か3時間後に形成される。
【0066】
対応する複合酸化物の出発物質と比較して、純相チタン酸リチウムの合成中、粒子成長は示されなかった。しかしながら、焼結温度が上昇すると粒径が著しく増大した。
【0067】
図3a〜図3cは、焼結温度がチタン酸リチウムの粒径に与える影響を示す。図3aは、焼成温度を700℃としたときのチタン酸リチウムを示し;図3bは、焼成温度を750℃としたときのチタン酸リチウムを示し;図3cは、焼成温度を800℃としたときのチタン酸リチウムを示す。図3a〜図3cに示されるように、焼結温度が高ければ高いほど、粒子が大きくなり、生成物の粉砕が困難になる。
【0068】
図1は、700℃で15時間焼結された本発明の非ドープのチタン酸リチウムのX線回折図形を示す。図1のX線回折図形は、純粋なLiTi12のX線反射(reflexes)のみを示す。特に、本サンプルは、ルチル型のTiOを示唆するX線反射を示さない。
【0069】
図4は、850℃で焼結された非ドープのチタン酸リチウムのSEM写真を示す。図4に示された粒子のサイズは、低温で得られた粒子のそれよりも明らかに大きい(図3a〜図3c参照)。さらに、粒子は互いに凝集し、後に続く粉砕工程が明らかに困難となった。
【0070】
図5は、本発明の複合酸化物2LiTiO/3TiOを出発原料とし、700℃で15時間焼結された本発明の非ドープのチタン酸リチウムの粒径分布の測定結果を示す。図5から、生成物の粒径分布が狭いことが示される。d50値は0.36μmである。粒径が1μm超の粗粒分(coarse fraction)が凝集したが、1次粒子は凝集しなかった。
【0071】
図6は、半電池の正極としての750℃で15時間焼結された本発明の非ドープのチタン酸リチウムのサイクル安定性をリチウム金属のそれと比較したグラフを示す。電極の組成は、本発明の方法で得られたチタン酸リチウム(LiTi12)の重量比が85%であり、Super−Pの重量比が10%であり、KYNARの重量比が5%であった。電極の活性質含有量は、2.2mg/cmであった。
【0072】
C−rateが低いときに165〜170Ah/kgまで達した充電放電容量(charge-discharge capacity)は、理論値に近似した。これに対しTiOおよびLiCOを高温で反応させる従来の固体反応法で得られたチタン酸リチウムLiTi12の値は、130Ah/kgであった。
【0073】
通常の半電池(half cell)における本発明のLiTi12は、C−rateで平均0.03%/サイクルオーダーの減少(フェーディング)を有し、リチウム金属と比較して、顕著に高い容量およびサイクル安定性を有する。
【0074】
図7は、本発明のチタン酸リチウム(図6参照)の充電(図7a)/放電(図7b)カーブを示す。図7に示されるように、本発明の正極は、放電条件が20Cであっても放電中96%の保持能力を示す。試作電池の全てのサイクルは、20℃で、1.0V〜2.0Vの範囲で操作された。

図1
図5
図6
図7
図2
図3
図4