(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5730976
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】耐火性配合物用エコロジカルバインダー系の調製方法
(51)【国際特許分類】
C10C 1/16 20060101AFI20150521BHJP
C10C 3/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
C10C1/16
C10C3/00
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-223647(P2013-223647)
(22)【出願日】2013年10月28日
(62)【分割の表示】特願2010-548991(P2010-548991)の分割
【原出願日】2009年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-40607(P2014-40607A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2013年11月27日
(31)【優先権主張番号】PI0800466-8
(32)【優先日】2008年3月5日
(33)【優先権主張国】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】510051691
【氏名又は名称】サント‐ゴバイン、ド、ブラジル、プロドゥトス、インダストリアイス、エ、パラ、コンストゥルサオ、リミターダ
【氏名又は名称原語表記】SAINT−GOBAIN DO BRASIL PRODUTOS INDUSTRIAIS E PARA CONSTRUCAO LTDA.
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】セルジオ、ムリロ、ジュストゥス
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−125366(JP,A)
【文献】
特表2007−517757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10C 1/16
C10C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性配合物用エコロジカルバインダー系の調製方法であって、
a)ベンゾ(a)ピレン濃度が12,000ppm程度であるコールタールを180℃前後の温度で蒸留してベンゾ(a)ピレン高含量のタールを得る工程と、
b)前記工程a)で得られたタールを、温度470℃±20℃、圧力0.01〜1.5バールで分別蒸留して、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm以下である変性ピッチを得る工程と、
c)アントラセン油を40%〜70%の範囲で添加して、60℃での粘度220〜1,000cps、体積密度1〜1.3、ベンゾ(a)ピレン濃度500ppm未満である材料を得る工程と、
を含み、
前記コールタールの蒸留が下記表に示される蒸留曲線に従って行われる、ことを特徴とする、方法。
【表1】
【請求項2】
前記得られたピッチを、植物オイル、植物性タールおよび有機化合物添加物からなる群より選択される他の原料と混合することからなる、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バインダー系組成物の他の原料が、各0〜70質量%の割合の大豆油、あまに油、ひまし油、ディーゼル油、なたね油、バイオディーゼル、バイオピッチ(植物性タール)、デキストリン(コーンスターチ)、ステアリン、パラフィン、植物性ワックス、植物性ワックス(クプアス(Cupuassu)種子、シアナッツ、ムルムル(Murumuru)パームワックス)、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン、エポキシ、塩化ビニル、ポリエチレン、および、ポリテレフタル酸エチルからなる群より選択される、ことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
環境や労働衛生への影響が低減した原料を使用することだけでなく、より良い性能の耐火性材料に対する需要が、ここ数十年において増加している。このため、耐火性材料製造に使用される一部の原料に存在する健康に有害な化合物の濃度を低下させるために、多大な努力がなされてきた。
【0002】
製鋼用耐火性材料市場において、容易に材料を適用できるバインダー系は、極めて重要であり、このようなバインダー系は、使用に関する種々の要求を満足するのに十分な性能を有するものである。
【0003】
高炉の出湯口を閉鎖するのに使用される耐火性配合物の場合、材料の加工性が、製造中に出湯口を閉鎖するときに材料を効率的に注入できるようにするための品質管理の主要なパラメータとなる。
【0004】
閉鎖用の配合バインダー系は、十分な加工性がある他に、出湯口内に注入直後の機械抵抗値が最小であって、仮硬化または重合反応が生じることにより、銑鉄出湯口から注入ガンを取り除いた後に、高炉の内圧により、注入した配合物がこぼれ出すことなく、出湯口部の操作安全性が確保できる必要がある。
【0005】
閉鎖用配合物に使用される通常のバインダー系は、コールタールとフェノール樹脂を主成分としている。これらの両方の原料は、主に多環式芳香族炭化水素などの発癌性の高い成分を含んでいる。
【0006】
このようなことから、種々の方法を用いて、これらの原料の代わりとなる代替物を開発した。
【0007】
この第一の方法は、従来の方法を変えて、適切な分別蒸留曲線を利用して、コールタールを変性して、発癌性の高い多環式芳香族炭化水素の濃度が低いエコロジカルコールタールを最終製品として得ることを含む。
【0008】
第二の方法は、変性植物油、植物性タールおよび、従来のバインダーに類似の性質を有する有機化合物添加物とともに用いることを含む。
【0009】
第三の方法は、エコロジカルコールタールと変性植物油と、従来のバインダーに類似の性質を有する有機化合物添加物との配合物を用いることを含む。
【0010】
PI7503432−8(出願日:1975年5月30日、出願人:住友金属工業株式会社)は、高炉を修理するための耐火性材料を記載している。この材料は、バインダー化合物である歴青材料(例えば、コールタールピッチ)4〜40質量部と流動剤である液体油10〜35質量部とからなる耐火性材料粉末を主成分とする材料約100質量部から構成されている。この油は、一群の鉱物油、魚油および植物油、例えば、なたね油、大豆油およびあまに油であることができる。この場合、油は機能していない。この公報は、歴青材料により結合されている耐火材料混合物と、流動性を付与するための油とからなる耐火性材料に関するものであるので、本発明とは異なる。本発明は、特定の原料、例えば、変性ピッチ、アントラセン油(AO)、大豆油、バイオピッチ(植物性タール)、パラフィン、ステアリン、デキストリン(コーンスターチ)および植物性バター(クプアス(Cupuassu)種子油[ココアバターと類似している]、シアナッツバター、ムルムル(Murumuru)パームバターからなる新規なバインダー系に関する。
【0011】
PI9908663−8(出願日:1999年12月20日、出願人:カルボデリバドス エス/エー アンド エルネスト モラネル ジュニア)は、誘導体製造および電極ピッチ用コールタールおよび/または石油蒸留プロセスを開示している。このプロセスは、プロセスにおいて材料を加熱するのに、熱源として誘導加熱器を用いることを特徴としている。この公報には、上記公報(PI7503432−8)について述べたことがあてはまる。
【0012】
PI0102355−1(出願日:2001年2月23日、出願人:レプソール ペトローレオ エス・エー)は、電極製造用非汚染石油タールおよび他の黒鉛混合物を得る方法を記載している。この方法は、残留物または石油留分を、好ましくは370〜430℃、60分未満、圧力1.01MPa未満の条件で熱処理することからなる。プロセス中、熱処理をおこなう前に、コールタールを、10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%添加する。これについては、出願がなされている。この公報は、ベンゾ(a)ピレン濃度が400ppm程度である非汚染石油タールを得ることに関するので、本発明とは異なる。本発明は、後で説明する特定の蒸留曲線に従って加熱して最終蒸留温度約470℃に到達させて、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm未満である最終組成物を得ることにより変性コールタールピッチを得て、耐火性材料バインダー系の原料のうちの一つを得ることに関する。
【0013】
PI0507215−8(出願日:2005年2月17日、出願人:インダストリアル クウィミカデル ナローン エス・エー)は、400℃未満および10バール未満の温和な温度および圧力条件で順次3段階工程に付することにより、260℃超〜400℃未満の蒸留域を有するコールタール蒸留分留物、とりわけアントラセン油を得て、タールを製造することに関する。これらの段階工程は、熱酸化処理、不活性雰囲気での熱処理、および分別蒸留である。この公報は、260℃超〜400℃未満の蒸留域のコールタールを蒸留して得られる分留物、とりわけアントラセン油を得てピッチを得ることであるので、本発明とは異なる。本発明は、後記する粗製コールタールの特定の蒸留曲線に従って加熱して最終蒸留温度約470℃に到達させて、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm未満である最終組成物を得ることにより変性コールタールピッチを得て、耐火性材料バインダー系の原料のうちの一つを得ることに関する。
【0014】
米国特許第2868713号は、コールタールの個々の化合物成分を濃縮することを目的とした、コールタールの連続分別蒸留プロセスを記載している。この公報は、コールタールの個々の化合物成分を濃縮することを目的とした、コールタールの連続分別蒸留プロセスに関するので、本発明とは異なる。本発明は、新規な耐火性バインダー系の原料の一つを得ることに関する。この変性コールタールピッチを得るには、まず後で説明する粗製コールタールを特定の蒸留曲線に従って加熱し、その後470℃程度の最終蒸留温度まで到達させて、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm未満である最終化合物を得て、アントラセン油(AO)、大豆油、バイオピッチ(植物性タール)、パラフィン、ステアリン、デキストリン(コーンスターチ)、植物性バター(クプアス(Cupuassu)種子油、シアナッツバター、ムルムル(Murumuru)パームバター)などの、バインダー系の組成物用の他の原料と混合する。
【0015】
カナダ特許第1236789号は、360℃〜400℃の温度域での濃縮による真空分別蒸留で、軟化温度130℃〜140℃での揮発物含量が低く、発癌性化合物濃度が低い、コールタールからピッチバインダーを得ることを記載している。この公報は、360℃〜400℃の温度域での濃縮による真空分別蒸留で、コールタールから、軟化温度130℃〜140℃での揮発物含量が低く、発癌性化合物濃度が低いピッチバインダーを得ることに関するので、本発明とは異なる。本発明は、変性コールタールピッチから耐火性材料バインダー系の原料の一つを得ることに関し、この変性コールタールピッチを得るには、後で説明する粗製コールタールを特定の蒸留曲線に従って加熱し、470℃程度の最終蒸留温度まで到達させて、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm未満である最終組成物を得る。
【0016】
米国特許第5262043号は、コールタールから、発癌性化合物含量の低いピッチに関する発明を開示している。300〜380℃の温度域、圧力1ミリバール未満(真空)下で、2〜10分間、蒸発器で蒸留して、このピッチを得る。得られたピッチのベンゾ(a)ピレン含量は、50ppm未満である。この公報には、上記した公報(カナダ特許第1236789号)について述べたことと同じことが言える。
【0017】
国際特許出願PCT/EP05/00147は、成形炭素結合耐火物に関する。これは、耐火性造粒物と有機バインダーを原料とする。ベンゾ(a)ピレン含量が500ppm未満、コークス値が少なくとも80%である黒鉛化性コールタールピッチ粉末と、周囲温度で液状であり、コークス値が少なくとも15%、ベンゾ(a)ピレン含量が500ppm未満である黒鉛化性バインダーを有機バインダーとして使用し、組成物の残りと混合し、型に移し、その後、150℃〜400℃の温度域で熱処理する。この公報には、上記した公報(カナダ特許第1236789号)について述べたことと同じことが言える。つまり、この公報は、成形材料に関するものであり、材料を、使用前に硬化させる(150℃〜400℃での温度域での前熱処理)本発明のようなモノリシックではない。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、新規な耐火性バインダー系の原料の一つを得ることに関する。この変性コールタールピッチを得るには、まずコールタールを特定の蒸留曲線に従って加熱し、その後470℃程度の最終蒸留温度まで到達させて、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm程度である最終化合物を得て、アントラセン油(AO)、大豆油、あまに油、ひまし油、ディーゼル油、なたね油、バイオディーゼル、バイオピッチ(植物性タール)、パラフィン、デキストリン(コーンスターチ)、ステアリン、パラフィン、植物性ワックス(クプアス(Cupuassu)種子、シアナッツ、ムルムル(Murumuru)パームワックス)、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン、エポキシ、塩化ビニル、ポリエチレンおよびポリテレフタル酸エチル等の、バインダー系組成物用の他の原料と混合する。
【0019】
より詳細には、本発明は、特定の原料、例えば、変性ピッチ、アントラセン油、大豆油、バイオピッチ(植物性タール)、パラフィン、ステアリン、デキストリン(コーンスターチ)および、植物性バター(クプアス(Cupuassu)種子、シアナッツ、ムルムル(Murumuru)パームバター)からなる新規なバインダー系に関する。
【0020】
要するに、本発明は、耐火性配合物用エコロジカルバインダー系の調製方法であって、
a)ベンゾ(a)ピレン濃度が12,000ppm程度であるコールタールを180℃前後の温度で蒸留してベンゾ(a)ピレン高含量のタールを得る工程と、
b)工程a)で得られたタールを、温度470℃+/−20℃、圧力0.01〜1.5バールで分別蒸留して、ベンゾ(a)ピレン濃度が600ppm以下である変性ピッチを得る工程と、
c)アントラセン油を40%〜70%の範囲で添加して、60℃での粘度220〜1,000cps、体積密度1〜1.3、ベンゾ(a)ピレン濃度500ppm未満である材料を得る工程と、
からなる、方法に関する。
【0021】
また、本発明の方法は、上記で得られたピッチを、植物オイル、植物性タールおよび有機化合物添加物などの他の原料と混合することからなる。
【0022】
前記バインダー系組成物の他の原料が、各0〜70質量%の割合の大豆油、あまに油、ひまし油、ディーゼル油、なたね油、バイオディーゼル、バイオピッチ(植物性タール)、デキストリン(コーンスターチ)、ステアリン、パラフィン、植物性ワックス、植物性ワックス(クプアス(Cupuassu)種子、シアナッツ、ムルムル(Murumuru)パームワックス)、フェノール樹脂、フラン樹脂、ウレタン、エポキシ、塩化ビニル、ポリエチレンおよびポリテレフタル酸エチルである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ナフタレート、クレオソート油、アントラセン油、重アントラセン油および変性ピッチを得るための、コールタール蒸留曲線である。
【0024】
添付図面と関連する表を、以下に示す。
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
図1および表1は、コールタールを0.01〜1.5バールの圧力下でアントラセン油および変性ピッチを得るための分留蒸留曲線を示す。
【0029】
図および表2〜4は、主要多環芳香族化合物、とりわけベンゾ(a)ピレンの濃度を示しており、発癌性化合物濃度が12,000ppm程度である従来のコールタールと比較して、発癌性化合物濃度が減少していることが分かる。
【0030】
【表5】
【0031】
表5は、バインダー系に可能な化合物を使用可能な割合とともに示す。