【実施例1】
【0015】
実施例1は、超音波を送受信する探触子から検査対象に第1、第2、第3の超音波を送受信する送受信部と、検査対象から得られる受信データを処理する処理部を備え、処理部は、第1の超音波を送受信して得た受信データから形成した画像情報に基づき計測領域を判定し、判定した計測領域に第2の超音波を送信して、せん断波を発生し、計測領域に第3の超音波を送受信して得られる受信データにより、せん断波速度を算出し、せん断波速度と、計測領域の弾性評価値を出力可能な超音波診断装置、及び弾性評価方法の実施例である。
【0016】
また、本実施例においては、画像情報から算出した検査対象の輝度分布に基づき、弾性評価に適正な領域を示す指標を算出し、指標に基づき計測領域を判定する超音波診断装置、及び弾性評価方法の実施例である。
【0017】
第1の実施例である超音波診断装置、及びせん断波速度の計測方法の構成例について、
図1のブロック図を用いて説明する。本実施例の超音波診断装置の構成において、せん断波速度の計測を実施する計測領域はROI(Region of Interest)と称し、上記の信号処理部23は、後で詳述するように、受信データから形成した画像情報に基づき計測領域を判定するため、画像情報の輝度分布に基づき、弾性評価に適正な領域を示す指標を算出し、算出した当該指標に基づいて計測領域を検出するROI評価部21と、計測領域で計測したせん断波速度等を用いて、計測領域の組織の弾性を評価する弾性評価部22を含んでおり、RF(Radio Frequency)データに基づく信号処理を行なうモジュールの総称である。ここで、弾性評価に適正な領域を示す指標とは、後で数式を用いて説明するように、受信データから生成した画像情報の輝度分布に基づき算出される、組織構造が少ない均質で、せん断波の計測に充分な輝度を備えている領域であることを客観的に示す距離指標である。
【0018】
まず本実施例で利用するRFデータおよび画像データの生成に関わる構成について説明する。
図1に記載の検査対象の体表面に設置させた、超音波を送受信する探触子11に対して、超音波信号を生成する送信ビームフォーマ(BF)13から送信パルス用の電気信号が、図示を省略したデジタルアナログ(D/A)変換器を経て探触子11に送られる。探触子11に入力された電気信号は内部に設置されたセラミック素子にて、電気信号から音響信号に変換され、被検体内に送信される。送信は複数のセラミック素子で行ない、被検体内の所定の深度で集束するように、各素子には所定の時間遅延が掛けられる。
【0019】
検査対象の内部を伝播する過程で反射した音響信号は再び探触子11にて受信され、送信時とは逆に電気信号に変換され、図示を省略したアナログデジタル(A/D)変換器を経て、受信した超音波信号から複素のRFデータを生成する受信ビームフォーマ(受信BF)14に受信データとして送られる。送受信の切替は、処理部である制御部15の制御に基づき、送受切替SW12で行なわれる。受信BF14では、複数の素子で受信した信号に対して、送信時に掛けた時間遅延を考慮した加算処理(整相加算)が行なわれ、減衰補正等の処理がなされた後、複素のRFデータとして、処理部である信号処理部23の血流の速度や方向を示すドプラ画像を生成するドプラ画像生成部16、またはRFデータから組織の形態情報を示す輝度(B)モード画像(以下、B画像と称する)を生成するB画像生成部17に送られる。なお、本明細書において、探触子11、送受切替SW12、送信BF13、受信BF14を含めて、超音波送受信部と呼ぶ。
【0020】
超音波送受信部の受信BF14から信号処理部23に入力されるRFデータは、最終的に表示部20に表示される画像データのうち、超音波の送受信方向に沿った特定の1ラインの要素データとなる。検査対象に対する超音波の送受信を、探触子11を構成するセラミック素子の配列方向に順次切り替えて実施することにより、画像データの構成要素となる全ての受信データとしてRFデータが取得される。
【0021】
超音波送受信部から取得した受信データであるRFデータは信号処理部23のB画像生成部17において、ゲイン制御、対数圧縮、包絡線検波など、普及している超音波診断装置で一般的に用いられている画像生成処理が実施され、検査対象の内部の形態情報を示すB画像が生成される。
【0022】
一方、信号処理部23のドプラ画像生成部16では相関演算により血流情報である速度や方向が算出され、ドプラ画像が生成される。なお、ドプラ画像の生成に関しては超音波の送受シーケンスがB画像の方式と異なるが、技術内容は一般的に既知の内容であるため詳細説明は省略する。B画像およびドプラ画像は、シネメモリ(cine memory)18に記憶される。生成されたB画像やドプラ画像は、スキャンコンバータ19にて探触子の種類に応じた座標変換と画素補間が為され、これらの画像、評価した画像や数値を表示する表示部20に表示される。
【0023】
図1に示すように、信号処理部23は、更に、組織構造が少なく、高輝度な計測領域であるROIを検出するROI検出部21、このROIにおける受信データに基づいてせん断波速度を算出する弾性評価部22を備える。
【0024】
信号処理部23のROI検出部21では、後で図面を用いて詳述するように、受信BF14から受信したRFデータを利用して、せん断波の散乱に影響する組織構造を検出し、更にせん断波の計測に充分な輝度を備えているかを検出する。そして組織構造と輝度の情報である輝度分布を利用して、弾性評価に適正な領域を示す指標、言い替えるなら、せん断波速度の計測に対する適正さを判断するための距離指標を算出する。
【0025】
信号処理部23のROI検出部21は、この距離指標を、検査対象の一定範囲における輝度の統計値、例えば、平均値、標準偏差、分散、エントロピー、固有値、尖度など、一般的に知られる指標に基づき算出する。この距離指標の算出は、弾性評価の候補となる全ての領域で実施され、算出された距離指標の数値に応じた判定用画像を生成する。そして、この判定用画像に基づいて、波面乱れの軽減が期待できる、せん断波速度の計測に最適な計測領域であるROIが自動的に選定される。この判定用画像は、後で説明するように、好適には配色されたカラ−マップとして表示される。すなわち、表示部20に、信号処理部23が算出した距離指標の値に基づき、検査対象の判定用画像として利用するカラ−マップを表示する。
【0026】
なお、
図1に示した超音波診断装置の構成にあっては、ROI検出部21はRFデータを利用して画像の輝度情報から判定用画像を生成しているが、
図2の超音波診断装置の変形構成例に示す通り、シネメモリ18に保存される画像データを用いることによって、同様に画像の輝度情報から判定用画像を生成することもできる。
図2の超音波診断装置の構成における、
図1の構成からの相違点は上記の点のみであり、他の構成は同一である。信号処理部23の弾性評価部22は、ROI検出部21にて判定したROIにて第2の超音波であるバースト波送信と、第3の超音波であるトラックパルスの送受信を行ない、組織弾性に関係する情報を評価する。
【0027】
なお、
図1、2に示した本実施例の超音波診断装置の構成において、装置本体内のデータフローや処理全般を制御する制御部15と信号処理部23は、中央処理部(Central Processing Unit:CPU)とメモリを備える通常のコンピュータ構成によって実現可能である。すなわち、シネメモリ18と、必要に応じてハードウェアで実現されるスキャンコンバータ19を除き、CPUのプログラム処理で実現することができる。そこで、本明細書においては、信号処理部23に制御部15を併せて処理部と呼ぶこととする。なお、通常のコンピュータを利用する場合、表示部20として、コンピュータのディスプレイを利用することができる。
【0028】
次に、
図3のブロック構成図を利用して、
図1、
図2に示した本実施例の構成における信号処理部23の弾性評価部22の構成の詳細について説明する。上述したように、弾性評価部22が備える各機能部は、CPUにおけるプログラム処理によって実現できる。
【0029】
同図に示すように、弾性評価部22は、第2超音波制御部31と、第3超音波制御部32と、変位計測部33と、速度計測部34と、弾性評価部35を備える。ここで、第2超音波制御部31は、ROI検出部21で検出・確定した計測領域であるROI内にて、放射圧を発生させるための超音波バースト波の送波条件である、集束位置、送信角度、バースト長、電圧、周波数、駆動素子数など送波に必要な音響パラメータ等を確定する。また、第3超音波制御部32は、座標情報に基づき、組織の変位を計測するための超音波パルス波であるトラックパルスの送波条件である、集束位置、送信角度、波数、電圧、周波数、送受信回数、駆動素子数など送波に必要な音響パラメータ等を確定する。変位計測部33は、超音波送受信部から出力されるRFデータを利用して組織の変位を計測する。速度計測部34は、変位計測部33の結果を利用してせん断波速度を計測する。弾性評価部35は、速度計測部34の結果を利用して組織の弾性情報を評価する。
【0030】
ここで、組織の弾性評価のための弾性情報とは、歪、せん断波速度、縦波速度、ヤング率、剛性率、体積弾性率、ポアソン比、粘性率など物質の変形や流動に関する物性値全般を指す。なお、せん断波の到来時間(Peak to time:PT)は、変位計測部33において計測した変位の時間変化から、最大値、最小値、最大値と最小値の中間値などの波面特徴量を利用して算出することができる。
【0031】
図3において、まず第2超音波制御部31により、指定された計測領域であるROIの位置座標に基づき、第2超音波としてのプッシュパルスの送波条件が確定される。生体への影響がなく、効果的にせん断波を発生させる送波条件は、概ねFナンバ=1〜2(口径の幅を焦点深度で割った値)の集束条件が適当であり、強度およびバースト長として強度は0.1〜1kW/cm
2、バースト長は100〜1000μsの範囲が適している。
【0032】
ここで口径の幅は、実際には駆動するセラミック素子の範囲であり、素子間隔の離散的な値を取る。そして理想的な焦点領域を形成するため、各素子への印加電圧には口径重みを掛けるアポダイゼーション(Apodization)が行われ、口径の中心から隅にかけて重みを減らすことにより、回折の影響による焦点領域の乱れを抑制する。但し、口径重みは強度を低下させる短所もあるため、評価位置が深部で減衰の影響が大きい場合には、領域形成よりも強度を優先させ、口径重みを軽くする場合もある。また、送信周波数は探触子11の感度帯域の中心周波数近傍とするのが効果的である。第2超音波制御部31が確定したプッシュパルスの送波条件は直ちに制御部15を介して送信BF13に送られ、探触子11から生体内に照射される。
【0033】
続いて、第3超音波制御部32により、第3超音波であるトラックパルスの送波条件が確定される。周波数、波数、Fナンバなどの音響パラメータは画像データを生成する時の条件とほぼ同じとなる。検査対象が腹部の場合、周波数は1〜5MHz、波数は1〜3波、Fナンバは1〜2の条件が利用される。
【0034】
トラックパルスの送信により取得される生体からの反射信号は、探触子11を介して受信BF14に送られ、複素のRFデータが生成される。RFデータは変位計測部33に入力され、せん断波の伝搬に伴う組織変位が計測される。変位計測部33は、パルス繰り返し周期(Pulse Repetition Time:PRT)の時間間隔で取得したRFデータ間による複素相関演算により実施される。本実施例の変位計測部33においては、単位時間における変位として粒子速度を算出する。プッシュパルスの送波前のRFデータを基準に、変位の絶対値を算出する方式もあるが、変位の絶対値に比較し、粒子速度は、探触子の振れや生体組織の自然な動きに伴う低周波成分を除去し、せん断波を高感度に計測する効果がある。
【0035】
変位計測部33における上記の演算は、超音波送受信部で取得した全てのRF信号に対して行なわれ、算出された変位情報である粒子速度に基づいて、速度計測部34にてせん断波速度が算出される。
【0036】
最後に弾性評価部35にて、計測したせん断波の速度に基づき、組織の弾性情報、すなわち、歪、せん断波速度、縦波速度、ヤング率、剛性率、体積弾性率、ポアソン比、粘性率などの組織の物性値が評価される。
【0037】
次に、
図4のフローチャートに基づいて、本実施例の装置の信号処理部23の計測領域であるROIを検出するROI検出部21における、検査対象の輝度分布に基づく、弾性評価に適正な領域を示す指標である、距離指標の算出と、距離指標に基づくROIの判定、に至る詳細内容を説明する。距離指標は、先に説明したとおり、一定範囲における輝度分布の統計値、例えば、平均値、標準偏差、分散、エントロピー、固有値、尖度など、一般的に知られる指標に基づき算出する。距離指標算出の目的は、輝度分布に基づき、せん断波計測による弾性評価に適正な領域であるROIを判定することにある。その判定条件は、波面乱れの要因となる組織構造が無いこと、変位計測の演算に充分な信号強度があること、である。そこで、本実施例の構成にあっては、前者は輝度分布の標準偏差、後者は輝度分布の平均輝度で評価し、両者を単一的に評価する数値として、距離指標を定義する。
【0038】
図4に示すように、ROI検出部21は、まず、工程41でパルス信号である第1超音波の送受信により取得するB画像のデータから、せん断波計測を実施する候補領域としてのROIを抽出する。
【0039】
工程42では、
図11に示す数式1により、抽出したROIの平均輝度を算出する。更に工程43にて、算出した輝度に対する輝度調整を加える。輝度調整は、S字形状関数が好適である。言い替えるなら、代表的な統計値として、S字形状関数による調整処理を行なった輝度の平均値である平均輝度を用いる。この平均輝度は、計測感度の指標となる。
【0040】
図5には、256階調の画像に対して、シグモイド関数(数式2)を利用して輝度調整を行なう場合の関数の一例のグラフ51を示した。同図において、横軸は0〜256階調の入力輝度、縦軸に出力値を示す。同図のシグモイド関数の形状から判るように、輝度調整の結果は、中輝度と高輝度の差異を軽減し、更に、低輝度との区別を明確化するものである。前述のように、入力輝度は変位計測に関係する指標である。変位計測に充分な数値であれば、輝度に関する条件は満たしているため、中輝度と高輝度に差異を設ける必要性がない。逆に、表在領域や結節を含む領域など、輝度分布が不均一だが,高輝度の領域を誤検出する可能性がある。
【0041】
工程44では、抽出した候補領域であるROIの標準偏差を算出する(数式3)。この標準偏差は、波面乱れの指標となる。以上の平均輝度と標準偏差の算出を、画像全体で行なう。尚、候補領域として抽出するROIは、画像上の全ピクセルに対して行なう。工程45では標準偏差の正規化を行なう(数式4)。この処理により、画像全体で算出した母集団の標準偏差が、0から1の範囲に調整される。
【0042】
工程46では数式5に従い、平均輝度と標準偏差に基づく距離指標が算出される。
図6にこの距離指標の一例をグラフ61として模式的示した。
図6に見るように、距離指標の数値が小さいROI程、組織構造が均質であり、高輝度を持つ領域と判断される。即ち、波面乱れが少なく、変位計測を高感度に実施でいる領域であり、高い信頼性でせん断波速度の計測が期待できる領域である。距離指標の数値が0に近いほど、弾性評価に好適、適正な領域を示し、距離指標の数値が1に近いほど、弾性評価に不適、適正でない領域を示している。後で説明するように、この距離指標の数値は、各計測領域であるROIの信頼性指標である弾性評価値を示す値の一つとしても利用される。
【0043】
図7に、肝臓を対象にしたB画像71、判定用画像72、判定結果であるROI設置画像73の一例を
図7に示す。判定用画像72は、距離指標の数値に応じて配色したカラ−マップで表示され、判定用画像72には距離指標の数値に対応したカラースケールも表示される。図示の都合上、
図7はモノクロで表示されているが、図に示す通り、B画像71で確認できる、血管、低輝度になるシャドウ領域、高輝度な表在領域に対して、判定用画像72では、計測に不適であることを示す配色となっている。弾性評価のためのせん断波計測の実施に適正なROIは、ROI設置画像73に示したように、算出された距離指標の数値に従って自動的に設置する。当然ながら、ディスプレイ等に表示された判定用画像72の数値と配色を参考に、ユーザである術者が手動で設置してもよい。
【0044】
弾性評価のためのせん断波計測を実施する計測領域であるROI判定が完了すると、当該ROI内にて、せん断波を発生させるための第2超音波であるバースト波の照射と、変位計測を行なうための第3超音波であるトラックパルスの照射が実行される。第2超音波であるバースト波の照射位置は、ROI検出に利用した判定用画像72を利用して決定する。すなわち、判定用画像72は、距離指標の数値に応じて配色したカラ−マップで表示されるため、第2超音波であるバースト波の照射位置は、距離指標に基づいて決定される。
【0045】
図8を用いて、第2超音波であるバースト波の照射位置の決定法について説明する。
図8に判定用画像71に相当する判定用画像81と、判定用画像81に基づいて抽出したROIにおいて、距離指標の表示レンジを狭めて拡大したROI内判定用画像82を示す。判定用画像81では視覚的判断が難しいROI内の配色が、拡大されたROI内判定用画像82では明確に視認できる。
【0046】
せん断波を発生させるためのバースト波は、可能な限り均質な領域に照射する必要がある。さもなければ、せん断波の発生時点で波面乱れが含まれ、その影響は伝搬と共に拡大するためである。また、せん断波は、周波数依存性を持つ減衰を受ける。即ち、組織構造、構造物による回折や屈折の影響は、高周波成分を含む上流で強く受ける。したがって、波面乱れの影響を軽減したせん断波速度計測のためには、上述した距離指標が小さい領域に対してバースト波を照射するのが望ましい。よって、本実施例において、第2超音波であるバースト波の照射位置は、ROI検出部21で算出された距離指標に基づいて決定すると好適である。この決定は、距離指標の数値(0〜1)を用いて自動的に行うことができる。また、ディスプレイ等に表示された、
図8に例示した拡大されたROI内判定用画像82を用いて、ユーザである術者が手動で、バースト波の照射位置を設定することも可能である。
【0047】
以上説明した、ROI検出部21で判定された各ROIにおいて、せん断波速度の算出、及びせん断波速度に基づく弾性評価が実施される。すなわち、本実施例の超音波診断装置においては、画像データの輝度分布に基づき算出した、弾性評価に適正な領域を客観的に示す指標を用いて判定することで、計測領域であるROIを自動的に設定することができる。そのため、信頼性が高い弾性評価が実現するだけでなく、ROI設定の操作性を改善する効果も期待できる。
【0048】
図9に、本実施例の超音波診断装置において、複数のROIを設定する場合を想定し、各ROIが有する距離指標の数値の相対的な違いを表示部に示す表示形態の一例を示す。同図のディスプレイ上の第1表示形態91はROIを示す枠線の太さを、第2表示形態92はROIを示す枠線の種類である線種、第3表示形態93はROIを示す枠線の配色、第4表示形態94はROIを示す枠のサイズで、距離指標の相対的な違いを示している。すなわち、距離指標は、表示部20に表示される計測領域であるROIの枠線のサイズ、枠線の線種、枠線のカラ−、枠のサイズ、などの視覚的に判断できる形態で表示される。このような視覚的な区別は、弾性評価の結果に対しても反映することで、診断情報として利用しやすい形態となる。
【0049】
続いて、
図10に、本実施例の超音波診断装置において、弾性評価の結果の信頼性指標である弾性評価値を、配色を利用して表示部に表示する表示形態の一例を示す。ここでも図示の都合上、配色のカラーはモノクロパターンで示した。同図においては、各計測領域ROI1、ROI2、PORI3、ROI4にて算出した距離指標の数値を配色に置換し、弾性評価の結果を示すグラフ101に弾性評価値、すなわち信頼性指標として表示した。また、グラフ101には、結果の信頼性指標である信頼度のカラ−スケールを同時に表示している。この信頼度のカラ−スケールは、距離指標の数値に対応して、信頼度の高〜低の各色が決められる。信号処理部23は、弾性評価の結果の信頼性指標である弾性評価値を表示部20に表示する。これにより、各計測領域ROIでの弾性評価の結果の信頼度を視覚的に確認できるため、診断に利用する情報を迅速かつ的確に抽出することができる。
【0050】
また、信頼性が高いと判定されたROIに限定して、弾性評価値の平均値や分散を“全ROI”の弾性評価値として提示することにより、組織全体の弾性の不均一さを評価し得る。通常、計測結果の分散は精度を示すものである。しかし、予め信頼性を評価したROIに基づき、空間的に異なる場所に設置された複数のROIを用いて算出し、“全ROI”として表示される弾性評価値の分散は、精度よりも、同一組織内における弾性の不均一さを示すので、例えば疾患の進行速度や発生場所の分布等の診断情報として利用することが出来る。
【0051】
以上、詳述した実施例1の構成によれば、弾性評価に適正な計測領域としてROIを判定し自動設置する手法により、信頼性が高い高精度な弾性評価と、操作性改善を兼ね備えた超音波診断装置を提供することができる。なお、上述した超音波診断装置の構成は一例に過ぎず、様々な変形例が含まれる。例えば、
図1の構成と
図2の構成を合わせ持つRFデータと、シネメモリに記憶された画像データとを用いる信号処理部を利用することができることは言うまでもない。
【実施例2】
【0052】
実施例2は、実施例1で決定した計測領域であるROIにおける、せん断波速度等の他の算出法に関する実施例である。すなわち、実施例2は、超音波診断装置、及びその方法であって、超音波を送受信する探触子から検査対象に第1、第2、第3の超音波を送受信する送受信部と、検査対象から得られる受信データを処理する処理部を備え、処理部は、第1の超音波を送受信して得た受信データから形成した画像情報に基づき計測領域を判定し、判定した計測領域に第2の超音波を送信して、せん断波を発生し、計測領域に第3の超音波を送受信して得られる受信データにより、せん断波の波面特徴量を、第1計測地点、及び第2計測地点で計測し、第1計測地点、及び第2計測地点におけるせん断波の到来時間のヒストグラムを算出し、ヒストグラムの相関演算により、せん断波速度と、計測領域の弾性評価値を算出する超音波診断装置、及び弾性評価方法の実施例である。
【0053】
実施例2に係る装置の構成要素自体は、実施例1で提示した
図1ないし
図2の構成要素と同じである。また、設定したROIにて第2超音波および第3超音波を照射し、せん断波の伝搬方向に予め設置する計測位置にて、せん断波の波面の到来時間を計測するまでの処理内容も、実施例1の処理と同じであるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0054】
図12に、実施例2の超音波診断装置において、予め設置する複数の計測位置にて算出した到来時間(Peak to time:PT)を利用して、せん断波速度の算出、および信頼性を示す指標の算出に至る処理のフローチャートを示す。本実施例の説明においては、せん断波の伝搬方向に沿って、超音波伝搬の上流側から第1計測地点、第2計測地点の計2点の計測地点の設置を仮定する。各計測地点において計測する到来時間を、PT
tr1、PT
tr2とする。
【0055】
図13に、第1計測地点、第2計測地点における変位計測結果の一例を、第1計測地点における波面131、第2計測地点における波面132として示した。第1超音波により発生するせん断波は、深度方向の一定の範囲に広がりを持つ。この波面の伝搬を変位計測により計測した結果は、
図13に示す通り、縦軸に深度、横軸に時間の形で取得される。実施例1で説明した通り、波面の到来時間は、変位計測の結果である、変位の時間変化から、最大値、最小値、最大値と最小値の中間値などの波面特徴量を利用して算出する。
【0056】
本実施例では、その内の最小値を波面特徴量として利用する方法で説明を続ける。まず工程122にて、深度方向の各点において到来時間を算出し、各計測地点に対応するヒストグラムhist
tr1(t)、hist
tr2(t)を算出する。
図13のヒストグラム133のビンの間隔は、変位計測の時間間隔に合わせて調整する。
【0057】
続いて、工程123にてノイズ除去を行なう。除去の方法は、信号処理の分野で一般的に扱われる手法に準じて行なわれ、例えば有意水準0.3%や有意水準5%として外れ値の除去を行なう。続いてヒストグラム133を多項式関数と見なして平滑化フィルタを適用する(工程124)。平滑化フィルタの種類は特に限定されないが、サイズに関してはせん断波の波長を考慮して決定する必要があり、基本的には波長/4のサイズを超えない範囲で設定する。
図13には、各計測地点にて算出したヒストグラム133と平滑化フィルタを適用した結果のグラフ134を示す。ここでは一例としてガウシアンフィルタによる結果を示した。
【0058】
工程125では、平滑化フィルタを適用したヒストグラムを利用して相互相関演算を行なう(数式6)。ヒストグラムの横軸は時間軸であり、相関性が高い位置の同定は、計測地点間におけるせん断波の伝搬時間の算出に他ならない。したがって、相関演算の結果と計測地点間の距離を利用して、せん断波の速度が算出される。同時に、ヒストグラムの整合性を示す相関値も算出される(工程126)。
【0059】
各計測地点のヒストグラムは、その位置における波面形状を示すものである。例えば、伝搬に伴い波面が大きく乱れる場合、各ヒストグラムの形状は大きく変化し、そのため算出される相関値は小さくなる。つまり、ヒストグラム同士の相互相関演算により算出される相関値は、速度計測結果の信頼性を、波面乱れの観点で直接的に評価した結果となる。そこで本実施例の超音波診断装置にあっては、以下に説明するように、信号処理部23は、ヒストグラムの相関演算により算出される相関値を、せん断波速度の信頼性指標としての弾性評価値として、表示部20に表示する。
【0060】
図14に、実施例2の超音波診断装置による弾性評価の際の弾性評価値、そなわち信頼性指標として上記の相関値を利用した場合の、表示形態の一例を示す。
図10と同様、相関値の値を配色の違いで表現し、各ROI1、ROI2、ROI3、ROI4における計測結果に反映させている。本表示形態により、術者は、信頼性が高い弾性評価値を視覚的に判断し、正確な診断情報として活用できる。
【0061】
更に、
図10の場合と同様に、信頼性が高い弾性評価値が得られたROIに限定し、全ROIの弾性評価値の平均値や分散、標準偏差等の統計的解釈を与える数値指標を併せて表示することにより、新たな診断情報が術者に提供される。すなわち、本実施例の超音波診断装置において、信号処理部23は、複数の計測領域であるROIにて算出した弾性評価値の分散ないし標準偏差を、計測対象の弾性の不均一性を判断する指標、“全ROI”として、表示部20に表示する。
【0062】
通常、計測結果の標準偏差は統計誤差や系統誤差の影響を示すものである。しかし、上述の全ROIにおける数値指標は、計測自体の信頼性が既に評価された結果に基づき算定されるものであり、計測誤差よりも同一組織内における弾性評価値の違いを示す。即ち、
図14に示す全ROIにおける弾性評価値の統計的な数値指標は、疾患の進行や発生場所の不均一さを示す診断情報として提示される。
【0063】
本実施例は、実施例1で詳述した、輝度分布に基づき、弾性評価に適正な領域を示す指標を算出し、算出した指標に基づいて計測領域を検出するROI検出手法と組み合わせることで、その効果が増強される。高精度な弾性評価は、適正な領域にせん断波を発生させ、せん断波速度を高精度に検出し、その結果の妥当性を判定する、全プロセスの結果で実現する。すなわち、輝度情報に基づく、弾性評価に適正な領域を示す指標によるROI検出手法と、ヒストグラムに基づく相互相関演算による速度検出と信頼性指標である弾性評価値の算出を行なう弾性評価手法とを利用することにより、信頼性が高い組織弾性評価部を備えた超音波診断装置が実現する。
【0064】
以上、本発明の種々の実施の形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることが可能である。例えは、
図1の構成と
図2の構成を合わせ持つ信号処理部を利用することができる。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0065】
更に、上述した各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を中心に説明したが、例えばスキャンコンバータなど、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。