特許第5731003号(P5731003)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731003
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】クメンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 4/18 20060101AFI20150521BHJP
   C07C 15/085 20060101ALI20150521BHJP
   C07C 6/12 20060101ALI20150521BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
   C07C4/18
   C07C15/085
   C07C6/12
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-533886(P2013-533886)
(86)(22)【出願日】2011年10月6日
(65)【公表番号】特表2013-543509(P2013-543509A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】US2011055058
(87)【国際公開番号】WO2012051037
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2013年5月14日
(31)【優先権主張番号】12/903,177
(32)【優先日】2010年10月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598055242
【氏名又は名称】ユーオーピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,デン−ヤン
(72)【発明者】
【氏名】スタンディング,クリストファー・エル
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ジェームズ・エイ
(72)【発明者】
【氏名】スチュワード,マーゴ
(72)【発明者】
【氏名】コルジャック,マタイアス
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−528022(JP,A)
【文献】 特表2010−515746(JP,A)
【文献】 特表2008−544986(JP,A)
【文献】 特開平11−267511(JP,A)
【文献】 特開平04−066543(JP,A)
【文献】 特開平03−181424(JP,A)
【文献】 特開昭58−172327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 4/14
C07C 15/085
C07C 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)トランスアルキル化供給原料流をトランスアルキル化区域に送る工程と、
B)反応生成物を分離区域に送る工程と、
を含む、クメンを製造するためのポリイソプロピルベンゼンの処理方法であって、
前記分離区域は、ジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、及び1種以上の重質化合物を含む流れを生成し、前記流れは、前記流れの中の前記ジイソプロピルベンゼンと前記トリイソプロピルベンゼンと前記1種以上の重質化合物との重量に対して、少なくとも重量で0.7%の前記1種以上の重質化合物を含み、前記流れの少なくとも一部は前記トランスアルキル化区域に再循環され、
前記トランスアルキル化区域が、UZM−8ゼオライトを含む第1成分とβゼオライトを含む第2成分とを含む触媒を含む、
ポリイソプロピルベンゼンの処理方法。
【請求項2】
前記トランスアルキル化供給原料流がベンゼン及び前記再循環流を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1成分の前記第2の成分に対する重量比が1:10〜10:1である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1成分の前記第2成分に対する重量比が1:5〜5:1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記トランスアルキル化区域が、24.34〜24.58Åの単位セル寸法及び6.5〜20のバルクSi/Alモル比を有する酸処理水蒸気改質Y型ゼオライトを含む触媒を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスアルキル化区域が、化学的修飾Y型ゼオライトを含む触媒を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記分離区域が、複数の蒸留区域を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年10月12日に出願された米国特許出願第12/903,177号の優先権を主張する。
本発明は一般にクメンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クメンの合成は、多くの場合、トランスアルキル化と反応生成物を分離するための区域を含むことができる。トランスアルキル化反応器で製造されたジイソプロピルベンゼン(以下、「DIPB」と略記する場合がある)及びトリイソプロピルベンゼン(以下、「TIPB」と略記する場合がある)は回収され、さらにクメンを製造するためにしばしば再利用される。多くの場合、DIPB及びTIPBと比べて同程度又はより高い沸点を有する重質の置換芳香族化合物がこれらの化合物と共に分離される。従って、これらの重質置換芳香族化合物は、望ましくないエチルベンゼン(以下、「EB」と略記する場合がある)生成の前駆体となるため、一部のDIPB及びTIPBと一緒に除去してもよい。特に、EBはクメンと共に分離される可能性があるので、クメン生成物を精製するための後続の分離工程を追加する必要がある。例えば、クメンをフェノールに変換する場合、EBはその反応を阻害する恐れがある。そのために後続の工程が典型的にはEBの除去に利用され、それにより製造コストが増加し、工程の効率を低下させる。
【0003】
多くの場合、DIPBとTIPBの回収は高純度のクメンを得るために制約を受ける。従って、トランスアルキル化区域へのDIPB及びTIPB以外のEBの前駆体となりうる重質置換芳香族化合物の混入を最小限に抑えるために、典型的には、重質流は分離区域から除去される。一般に、EBをクメンから分離するのは、相当な資本とエネルギーコストを要する巧緻なものである。その上、装置からこの重質流を除去することは、回収して追加のクメンに変換できるDIPB及びTIPBの損失をもたらす可能性がある。従って、望ましくないEBを生成させず、クメンからEBを分離するための関連エネルギーや資本コストもかけずに、DIPB及び特にTIPBを回収して、これらの化合物をクメン等の製品に変換する装置の効率を改善することが一般に望まれている。
【発明の概要】
【0004】
例示的な一態様として、クメンを製造するためのポリイソプロピルベンゼンの処理方法が挙げられる。この方法は、トランスアルキル化供給原料流をトランスアルキル化区域に送り、反応生成物を分離区域に送ることを含むことができる。典型的には、分離区域は、ジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、及び1種以上の重質化合物を含む流れを生成する。更に、その流れは、流れの中のジイソプロピルベンゼンとトリイソプロピルベンゼンと1種以上の重質化合物との重量に対して、少なくとも重量で0.7%の1種以上の重質化合物を含んでもよく、また少なくとも流れの一部はトランスアルキル化区域に再循環される。
【0005】
別の例示的な一態様として、クメンを製造するためのポリイソプロピルベンゼンの処理方法が挙げられる。この方法は、トランスアルキル化供給原料流をトランスアルキル化区域に送ること、及び反応生成物を分離区域に送ることを含むことができる。典型的には、分離区域は、ジイソプロピルベンゼンを含む塔側流、並びにトリイソプロピルベンゼン及び1種以上の重質化合物を含む塔底流を生成する。一般に、少なくとも塔底流の一部は塔側流と組み合わされ、トランスアルキル化区域に再循環される。
【0006】
さらに別の例示的な態様として、クメンの製造方法を挙げることができる。この方法はトランスアルキル化供給原料流を送り反応生成物を生成させること、及びその反応生成物を分離区域に送ることを含むことができる。通常、トランスアルキル化供給原料流は、ベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン、及びトランスアルキル化区域への供給原料流の重量に対し、少なくとも重量で0.3%の1種以上の重質化合物を含む。一般に、トランスアルキル化区域はUZM−8ゼオライト及びβゼオライトを有する触媒を含む。また、分離区域は、ベンゼン含む塔頂流を生成する第1の蒸留区域、クメン含む塔頂流を生成する第2の蒸留区域、並びにジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン及び1種以上の重質化合物を含む塔底流を生成する第3の蒸留区域を含むことができる。典型的には、塔底流の少なくとも一部は、トランスアルキル化区域に再循環される。
【0007】
本明細書に開示された態様では、分離区域から塔底流の少なくとも一部を回収するための仕組みを提供することができる。特に、再循環物を受け入れるトランスアルキル化区域は、EB等の不純物の生成を最小限に抑えながら、DIPBだけでなくTIPBも処理することができる。従って、本明細書に開示された態様では、重質成分からTIPBを意図的に分離せずにDIPB及びTIPBを回収できる。その結果、資本及び諸設備コストの大幅な節約を実現できる。
【0008】
特に、トランスアルキル化区域は、EBの生成を低減する任意の適切な触媒を用いて操作することができる。好ましい一態様では、UZM−8ゼオライトをβゼオライトと組み合わせることによって、一定のDIPB変換率を維持して大幅にEB生成を低減し、より良好なクメン生成選択性を提供できる。その結果、本明細書に開示された態様では、重質化合物のパージ流を最小限に抑えながら、分離区域の1種以上の重質流からDIPB及びTIPBを回収し、より多量で高品質なクメンの生成を可能にすることにより、より効率的な方法を提供できる。
【0009】
定義
本明細書で用いられる用語「流れ」は、直鎖状、分岐状若しくは環状のアルカン、アルケン、アルカジエン、及びアルキン等の種々の炭化水素分子、及び、必要に応じて、水素等の気体、又は重金属等の不純物、並びに硫黄化合物及び窒素化合物等のその他の物質を含むことができる。また、「流れ」は、芳香族及び非芳香族の炭化水素を含むこともできる。さらに、炭化水素分子は、C1、C2、C3・・・Cn(式中、「n」は1つ以上の炭化水素分子中の炭素原子の数を表す)と略記してもよい。更に、上付き記号「+」又は、「−」は、略記された1つ以上の炭化水素の表記と共に用いることができ、例えば、C3又はC3であり、これは略記された1つ以上の炭化水素を含む。一例として、「C3」は、3個以上の炭素の1つ以上の炭化水素分子を意味する。
【0010】
本明細書で用いられる用語「区域」は、1つ以上の設備機器及び/又は1つ以上の副区域を含む領域を指すことができる。設備機器としては、1つ以上の反応器または反応容器、加熱器、交換器、配管、ポンプ、圧縮器、及び制御器が挙げられる。さらに、反応器、乾燥器又は容器等の設備装置は、更に1つ以上の区域又は副区域を含むことができる。
【0011】
本明細書で用いられる用語「多量の」は、流れの中の、モルで少なくとも一般に30%、好ましくは50%、より好ましくは70%の量の化合物又は化合物群を意味することができる。
【0012】
本明細書で用いられる用語「実質的に」は、流れの中の、モルで少なくとも一般に80%、好ましくは90%、より好ましくは99%の化合物又は化合物群を意味することができる。
【0013】
本明細書で用いられる用語「クメン」は、1−メチルエチルベンゼン又はイソプロピルベンゼンと交換可能に使用してもよい。
本明細書で用いられる用語ノルマル「プロピルベンゼン」は、「nPB」と略記してもよい。
【0014】
本明細書で用いられる用語「エチルベンゼン」は、「EB」と略記してもよい。
本明細書で用いられる用語「ジイソプロピルベンゼン」は、「DIPB」と略記してもよい。
【0015】
本明細書で用いられる用語「トリイソプロピルベンゼン」は、「TIPB」と略記してもよい。
本明細書で用いられる用語「ポリプロピルベンゼン」は、DIPB及びTIPBを含み、「PIPB」と略記してもよい。
【0016】
本明細書で用いられる用語「重量ppm」は、「wppm」と略記してもよい。
本明細書で用いられる用語「重量毎時空間速度」は、「WHSV」と略記してもよい。
本明細書で用いられる用語「ジエチルジフェニルエタン」は、「DEDPE」と略記してもよい。
【0017】
本明細書で用いられる用語「イソプロジメトテトラ」は、メチル、エチル、プロピル及びブチルの内の1個以上の置換基を有し、置換基の全炭素数が5個である置換テトラリンを表してもよい。
【0018】
本明細書で用いられる用語「ヘキスメトジヒインデン」は、メチル、エチル、プロピル、ブチル及びペンチルの内の1個以上の置換基を有し、置換基の全炭素数が6個である置換インデン又はジヒドロインデンを表してもよい。
【0019】
本明細書で用いられる用語「アミルベンゼン」、「ヘキシルベンゼン」、及び「ヘプチルベンゼン」は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、及びヘプチルの内の1個以上の置換基を有し、置換基の全炭素数がそれぞれ5個、6個及び7個である置換ベンゼンを表してもよい。
【0020】
本明細書で用いられる用語「共通沸騰物(co−boil)」を、DIPB及び/又はTIPBと同様の沸騰温度を有する1種以上の化合物を表してもよい。従って、共通沸騰化合物は、特に、塔側流及び/又は塔底流中で蒸留等の工程でDIPB及び/又はTIPBと共に分離してもよい。DIPBの共通沸騰物には、N−プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、シメン、及びアミルベンゼンが含まれてもよく、TIPBの共通沸騰物には、α−メチルスチレン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、ヘキスメトジヒインデン、イソプロジメトテトラ、2,2−ジフェニルプロパン及びDEDPEが含まれてもよい。
【0021】
本明細書で用いられる用語「重質(の)」は、DIPB及び/又はTIPB以上の沸点を有する芳香族化合物又は化合物を指すために用いてもよい。
本明細書で用いられる用語「重質化合物」は、重質芳香族化合物を含んでよく、例えば、1種以上のn−プロピルベンゼン、アミルベンゼン、シメン、ブチルベンゼン、α−メチルスチレン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、インデン、テトラリン、ヘキスメトジヒインデン、イソプロジメトテトラ、ジフェニルプロパン及びジフェニルエタン(これらは、必要に応じ、或は更に置換されてもよい)、並びに/又は、蒸留等の工程で、塔側流及び/又は塔底流中等のDIPB及び/又はTIPBと共に分離できる以前に言及されていない他の共通沸騰物が挙げられる。
【0022】
本明細書で用いられる用語「流れ」、「供給原料」、「製品」、「塔底液」、「塔頂流出物」、「再循環物」、「線」、及び「配管」は、図面の中の流線を参照する際には、交換可能に使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、例示的な装置の概略図である。
図2図2は、別の例示的な装置の概略図である。
図3図3は、DIPB変換率に対してnPB/クメン比率を描いた実験結果を示すグラフである。
図4図4は、DIPB変換率に対してEB/クメン比率を描いた実験結果を示すグラフである。
図5図5は、DIPB変換率に対してEB/クメン比率を描いた実験結果を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示すように、例示的装置100はトランスアルキル化区域200及び分離区域300を含むことができる。典型的には、分離区域300は、例えば複数の蒸留区域320等の任意の数の蒸留区域を含むことができる。この例示的態様では、複数の蒸留区域320は第1の蒸留区域340、第2の蒸留区域360、及び第3の蒸留区域380を含むことができる。分離区域300には複数の蒸留区域が描かれているが、当然ながら、任意の適切な分離区域又は装置を利用できる。この態様では、蒸留区域340、360及び380は単一の蒸留塔を含むことができるが、任意の適切な数の蒸留塔を使用してもよい。一般に、各蒸留区域340、360、及び380は、それぞれ、塔頂流344、364、及び382を生成することができる。特に、塔頂流344は有効量の又は多量のベンゼンを含み、塔頂流364は有効量の又は多量のクメンを含み、塔頂流382は有効量の又は多量のDIPBを含むことができる。これらの流れ344、364、及び382を以下に更に詳細に記述することができる。
【0025】
一般に、ベンゼン及びDIPBを含む流れ110は後述するように、再循環流114と組み合わせて、トランスアルキル化区域200に供給することができる。混合流110及び114はトランスアルキル化供給原料流120を形成してもよい。典型的には、原料供給流120はクメンを生成するための有効量のベンゼン及びDIPBを含む。通常は、ベンセンのDIPBに対する重量比は、1:5〜5:1、好ましくは1:3〜3:1、最も好ましくは、1.5:1である。さらに、その他の、例えばトルエン、キシレン、nPB、ブチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、TIPB、及び他の置換芳香族環化合物等の芳香族化合物が存在していてもよい。通常、供給原料流120は供給原料流120の重量に対し、TIPBを、少なくとも、重量で、一般に0.1%、好ましくは1%、最も好ましくは2%含有する。さらに、供給原料流120は供給原料流120の重量に対し、少なくとも、重量で、一般に0.3%、好ましくは0.4%、より好ましくは0.5%の1種以上の重質化合物、例えば、n−プロピルベンゼン、アミルベンゼン、シメン、ブチルベンゼン、α−メチルスチレン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、インデン、テトラリン、ヘキスメトジヒインデン、イソプロジメトテトラ、ジフェニルプロパン、及びジフェニルエタン(これらは、必要に応じ、或は更に置換されてもよい、)を含有してもよい。
【0026】
トランスアルキル化区域200は、クメンを生成するための、任意の適切な触媒を含む1つ以上のトランスアルキル化反応器を含むことができる。クメンは適切な条件下、例えば、60〜390℃、好ましくは100〜200℃の温度、100〜14,000kPa、好ましくは2,000〜4,000kPaの圧力、及び0.1〜50hr−1、好ましくは0.5〜5hr−1のWHSVで、生成することができる。
【0027】
さらに、トランスアルキル化区域200は、任意の適切な触媒、又は触媒の組み合わせを含んでもよい。触媒は、単一の触媒ペレット状、又は物理的混合物若しくは積層構成の分離触媒ペレットでもよい。特に、触媒は、第1成分と第2成分を含むことができる。
【0028】
そのような触媒の1つとしてUZM−8ゼオライトを挙げることができる。一般的に、UZM−8は、微孔性結晶ゼオライトで、典型的にはアルミノケイ酸塩である。例示的なUZM−8ゼオライトは、以下の実験式で表される:
p+Al1−xSi
式中、「R」は、プロトン化アミン、プロトン化ジアミン、第4級アンモニウムイオン、ジ第4級アンモニウムイオン、プロトン化アルカノールアミン、及び4級化アルカノールアンモニウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種の有機アンモニウム陽イオンである。好ましい有機アンモニウム陽イオンは、非環式のものか、または1つの置換基として環式の基を含まないものである。これらの中で、置換基として少なくとも2つのメチル基を含むものが、特に好ましい。「R」の(Al+E)に対する比は、0.05から5まで変化する「r」で表される。「R」の加重平均価数である「p」の値は、1から2まで変化する。Siの(Al+E)に対する比は、6.5から35まで変化する「y」で表される。元素のEは、四面体配位であり、骨格中に存在し、ガリウム、鉄、クロム、インジウム、及びホウ素からなる群から選択される。Eのモル比率は「x」で表され、0から0.5までの値を有する。一方、「z」はOの(Al+E)に対するモル比であり、式:
z=(r・p+3+4・y)/2
で表される。
これとその他のUZM−8ゼオライト並びに調製方法は、例えば、米国特許第6,756,030B1号に開示されている。
【0029】
別の触媒としてβゼオライトを挙げることができる。このようなβゼオライトは、例えば、米国特許第7,371,910B2号及び同3,308,069号に開示されている。βゼオライトの組成は、酸化物のモル比として以下のように表される:
(0.1〜0.3)R:(0.7〜1.0)M2/nO:1Al:(2.5〜4.0)SiO・YH
式中、「R」はエチルアンモニウム酸化物、水素酸化物、及びその互いの混合物から成る群から選択され、「M」は金属であり、「n」はその原子価、及び「Y」は3.5〜5.5の値である。
【0030】
触媒材料の適切な組み合わせを使用することができる。例示的一態様では、UZM−8ゼオライトとβゼオライトの組み合わせはあらゆる効果的な重量比で利用することができる。例示的一態様において、UZM−8のβゼオライトに対する重量比は、1:10〜10:1、好ましくは1:5〜5:1の範囲でよい。DIPB及びTIPBを効果的に反応させる触媒を使用することによって、不要なEBの生成を最小限に抑えながら、さらなる量のDIPB及びTIPBの回収が可能となる。理論に束縛されることを望まないが、UZM−8ゼオライトとβゼオライトとの組み合わせによる改善は、インデンやテトラリン等の重質化合物をEBに変換させにくいためであると考えられる。
【0031】
さらに、触媒は、酸処理水蒸気改質Y型ゼオライト、化学的修飾Y型ゼオライト、又はそれらの組み合わせでもよい。酸処理水蒸気改質Y型ゼオライトは、結晶性ゼオライト分子篩でもよく、24.34〜24.58Åの単位セルサイズと6.5〜20のバルクSi/Alモル比を有することができる。化学修飾Y型ゼオライトは、次の式によって酸化物のモル比として表すことができる:
(0.85〜1.1)M2/nO:Al:xSiO
式中、「M」は価数「n」を有するカチオンであり、「x」は5.0〜11.0の値を有する。このようなゼオライトは、例えば、米国特許第2008/0171649A1号、同2008/0171901A1号、及び同2008/0171902A1号に開示されている。
【0032】
その後、反応生成物流220は、トランスアルキル化区域200を出て、分離区域300に入ることができる。分離区域300は1つ以上のC6〜C15の炭化水素を含むアルキル化流出液224を受け入れ、第1蒸留区域340に入る混合流228を形成することができる。一般に、第1の蒸留区域340は、塔頂流344及び塔底流348を形成することができる。塔底流348は、順に塔頂流364及び塔底流368を生成する第2の蒸留区域360に送ることができる。その後、塔底流368は、第3の蒸留区域380に入り、塔頂流382及び塔底流386を生成できる。DIPB及びTIPBを含む塔底流386の少なくとも一部は再循環流114を形成でき、混合されてトランスアルキル化反応を実施するための有効量のベンゼンを含む原料供給流120を形成できる。さらに、塔底流386は、1種以上の重質化合物、例えば、n−プロピルベンゼン、アミルベンゼン、シメン、ブチルベンゼン、α−メチルスチレン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、インデン、テトラリン、ヘキスメトジヒインデン、イソプロジメトテトラ、ジフェニルプロパン、及びジフェニルエタン(これらは、必要に応じ、或は更に置換されてもよい)及びこの流れ386の重量に基づいて、ジイソプロピルベンゼン及び/又はトリイソプロピルベンゼン以上の沸点を有する化合物を含むことができる。一般に、これらの1種以上の重質化合物は、塔底流386等の第3の蒸留区域380から回収したDIPB、TIPB及び重質化合物の合計に対して重量で少なくとも0.7%、0.8%、又は1.0%で含むことができる。更には、これらの1種以上の重質化合物は、塔底流386等の第3の蒸留区域380から回収したDIPB、TIPB及び重質化合物の合計に対して重量で0.7%〜2%で含むことができる。パージ流388は、DIPB及び/又はTIPBと共に分離する可能性のある重質化合物の望ましくない蓄積を防ぐために用いることができる。上述のように、EBはクメンと共に出るため、クメンをフェノール等の望ましい生成物に変換するための下流処理を実施する前にEBを分離することが必要である。このように、本明細書に開示されている態様によって望ましくないEBの生成を最小限に抑えることができる。
【0033】
図2には、別の例示的装置100を描いている。この例示的な装置では、第3の蒸留区域380は、DIPBの共通沸騰物、例えばN−プロピルベンゼン、アミルベンゼン、シメン、及び/又はブチルベンゼン等の少なくとも1%を含有する可能性のある塔頂流382、塔底流386及び塔側流384を供給できる。一般に、塔底流386の一部、即ち分割流390を塔側流384と混合し、再循環流114を形成することができる。パージ流388は、塔底流386から取ることもできる。この例示的な態様において、DIPBをTIPBから分離することができる第3の蒸留区域380は、塔側流384を生成することができる。このように、第3の蒸留区域380は、望ましい生成物、即ちTIPBからのDIPBの更なる分離、及び流れの重量に基づいたトリイソプロピルベンゼン以上の沸点を有する化合物を分離することができ、従って、更に例示的装置100の効率が向上する。
【0034】
実施例
以下の実施例により、さらに対象となる触媒を説明する。本発明の態様のこれらの例示説明によって本発明の特許請求の範囲がこれらの実施例の特定の詳細に限定されるものではない。これらの実施例は、工学的計算及び同様の方法の実地操作経験に基づいている。
【0035】
比較触媒A
米国特許第5,013,699号に開示されている市販の蒸製Y型ゼオライトを重量で15%のNHNO水溶液中でスラリー化する。十分な量の17重量%HNO溶液を30分かけて添加し、余分な枠組みのアルミニウムの一部を除去する。その後、スラリーの温度を79℃まで上昇させて90分間保持する。79℃で90分接触させた後、スラリーを濾過し、濾過ケーキを重量で22%の硝酸アンモニウム溶液で洗浄し、続いて過剰量の温脱イオン水で水洗する。得られる濾過ケーキを適切な水分量まで乾燥し、HNO−解膠アルミナ(商品名CATAPAL Cで販売され、南アフリカのハウテン州のサソールリミテッドの子会社であるサソール北米から入手)と混合し、乾燥基準で、80重量部のゼオライトと20重量部のAl結合剤の混合物を得る。その後、混合物を直径1.59mmの円筒形押出成形品として押出し、乾燥し、600℃で1時間、空気流中で焼成する。触媒の物性は、SiO:65.2重量%(バルクで乾燥基準)、Al:34.7重量%(乾燥基準)、ナトリウム:NaO換算で0.04重量%(乾燥基準)、(NHO:0.1重量%(乾燥基準)、単位格子寸法:24.512Å、及び米国特許第US6,756,030B1号のカラム7〜8記載のX線分析に従って実施した絶対XRD強度:69.7である。
【0036】
触媒B
大きなビーカー中で、1,006.69gの脱イオン水に160.2gの水酸化ジエチルジメチルアンモニウムを加え、続いて、2.1gの重量で50%のNaOH溶液を加える。次に、51.5gの液体アルミン酸ナトリウムをゆっくり添加し、20分間攪拌する。続いて、178.9gのシリカ(ドイツ、フランクフルトのエボニックデグサ(Evonik Degussa GmbH)により、商品名ULTRASIL(登録商標)で販売)を、ゆっくりとゲルに添加し、20分間攪拌する。次いで、36gのUZM−8種結晶(例えば、米国特許6,756,030B1号に従って作製)をゲルに添加し、更に20分間攪拌する。次いで、ゲルを2リットルの攪拌機付き反応器に移し、160℃まで2時間加熱し、115時間かけて結晶化させる。
【0037】
温浸後、材料を濾過して脱イオン水で洗浄し、100℃で乾燥させる。米国特許第6,756,030B1号のカラム7〜8に記載のX線分析に従って行われるX線回折(以後、「XRD」と略記)解析から、実質的に純粋なUZM−8材料であることが分かる。UOP法961−98に従った誘導結合プラズマ原子発光分光法(本明細書では、「ICP−AES」と略記することがある)による元素分析は、すべて重量値で、Si/Al=20.3に対応して、Si=42.2%、Al=4.0%及びNa=1.8%、並びにC=6.5%、H=3.1%、N=1.2%であった。
【0038】
UZM−8ゼオライトを100℃で12時間乾燥し、揮発成分を含まない基準で70%ゼオライトと30%アルミナを含む直径0.159cmの円筒形ペレット押出成形品として押出す。形成した触媒を110℃で2時間乾燥し、600℃で1時間、回転窯の中の空気流で焼成する。焼成された押出物を重量で10%の硝酸アンモニウム溶液を用いて65℃で2時間かけてアンモニウム交換を行い、揮発成分を含まない基準で、ナトリウム含有量をNaO換算で1,000wppm未満に下げる。その後、焼成した押出物を100℃で2時間乾燥し、乾燥イオン交換押出物を生成する。表面積及び細孔容積は、ASTM D4365−95、即ち、触媒の微細孔容積及びゼオライト領域決定のための標準試験法(Standard Test Method for Determining Micropore Volume and Zeolite Area of a Catalyst)、及びS. Brunauerらによる論文であるJ. Am. Chem. Soc., 60(2), 309-319 (1938)に記載の窒素吸着技術を使用するBET(Brunauer-Emmett-Teller)モデル法を用いて、0.03〜0.30の範囲の窒素分圧p/pデータポイントを用いて計算する。
【0039】
触媒C
米国特許第7,371,010号B2に開示されたβゼオライト等の合成βゼオライトを、まず、アンモニウム交換し、揮発性成分を含まない基準でナトリウム含有量をNaO換算で500wppm未満に下げ、100℃で乾燥する。アンモニウム変換し、乾燥したβゼオライトを、揮発性成分を含まない基準で、質量で70%のゼオライト及び30%のアルミナを含む直径0.159cmの円筒形ペレットとして押し出す。形成した触媒を110℃で2時間乾燥し、600℃で1時間、回転窯中の空気流で焼成する。
【0040】
触媒D
触媒Bで上述のとおり調製した合成UZM−8をアンモニウム交換し、揮発性成分を含まない基準でナトリウム含有量をNaO換算で500wppm未満に下げる。アンモニウム交換したUZM−8を触媒Cの調製で述べたアンモニウム交換βゼオライトと混合し、70:30重量比とし、次いで直径0.159cmの円筒形に押し出す。押出物を100℃で2時間乾燥する。次に、押出物を450℃で1時間、次いで550℃で更に1時間、空気流中で焼成する。
【0041】
触媒のトランスアルキル化性能の試験を、ベンゼンとポリアルキル化ベンゼンを含有する供給原料を用いて、次のようにして行う。
【0042】
【表1】
【0043】
同表に示しているように、触媒B及び触媒Cを異なる重量比で組み合わせて、それらの組み合わせをそれぞれ触媒E及び触媒Fと改称する。
供給原料は1つ以上の市販トランスアルキル化装置から得られるポリアルキル化ベンゼンにベンゼンを配合することにより調製される。供給原料は芳香族環基のプロピル基に対するモル比が2.0:1.0である典型的なトランスアルキル化供給原料組成物を表す。
【0044】
3種の供給原料混合物がDIPB及びTIPBを回収する際の工程の流れの効率性の評価に使用される。第1の供給原料混合物は、ベンゼン及びDIPBを含有し、DIPBのみが回収され、TIPBと重質化合物が無視される場合を表す。第2の供給原料混合物は、1種以上のヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、置換又は無置換のインデン、テトラリン、ジフェニルエタン、ジフェニルプロパン、及び他の類似沸点化合物を含む重質化合物を含有する市販のPIPBカラムの塔底液からのTIPBを含有する流れを、第1の供給原料混合物に配合することにより調製される。この供給原料は、重質化合物からの巧緻なTIPB分離をせずにTIPB回収をモデル化するために使用される。第3の供給原料混合物は、シグマ・アルドリッチ社(セントルイス、ミズリー州)から購入した1,3,5−トリイソプロピルベンゼンを第1の供給原料混合物に配合することにより調製し、これは、重質化合物の多くを排除し、「理想的な」TIPB回収をモデル化したものである。ガスクロマトグラフィーで測定した供給原料組成を下記の表2に要約する。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の重質化合物は、N−プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、シメン、アミルベンゼン、α―メチルスチレン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、ヘキスメトジヒインデン、イソプロジメトテトラ、その他、2,2−ジフェニルプロパン、DEDPE、及び未知化合物の合計である。TIPB及び重質化合物の重量比は下記の表3に示すように、TIPB及び重質化合物のそれぞれをDIPB、TIPB及び重質化合物の合計重量で割ることで決定される。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、トランスアルキル化のためベンゼン/DIPB/PIPB塔底液は、DIPB、TIPB及び重質化合物の合計に対して、重量で少なくとも5%のTIPB、重量で少なくとも1%の重質化合物を含むことができる。
【0049】
比較実施例1〜3及び実施例1〜6
触媒及び供給原料を下記の表4に示すように試験する。
【0050】
【表4】
【0051】
試験は、固定床内で、貫流モードで行い、反応条件は、100〜150℃の温度範囲、3,548kPaの反応器圧力、芳香族環基のプロピル基に対するモル比が2.0:1.0、0.8hr−1のDIPB WHSVである。反応器は、各反応温度で本質的に定常状態に到達し、生成物は分析のために採取される。本質的に触媒の不活性化は試験中には起こらない。供給原料を導入する前に、各触媒は水分含量が10wppm未満の窒素流に250℃で6時間、又はベンゼン流に260℃で24〜48時間接触させて乾燥処理が施される。4回の独立した実験を行う。比較実施例1,2の第1の実験及び実施例1〜3の第2の実験の結果を図3図4に、また、比較実施例3の第3の実験及び実施例4〜6の第4の実験の結果を図5に示す。
【0052】
図3に示すように、nPBの含量は、DIPB変換の広い範囲で比較的安定している。図4図5に示すように、生成物中に形成されたEBの含量もまたDIPB変換の広い範囲で比較的安定している。市販のPIPB塔底液を含有する第2の供給原料混合物を用いてTIPBの回収をシミュレートする場合は、nPB及びEBの含量は、DIPB変換の範囲でほぼ純粋なTIPBを含有する供給原料混合物と比べて同程度か、若しくわずかに増加する。理論に束縛されることを望まないが、置換インデン及びテトラリン等の2環芳香族化合物を含むPIPB塔底液中の重質化合物は、大幅に触媒活性を低下させ、一定のDIPB変換ではnPB及びEBの含量を増加させると考えられるので、これは予想外である。データにより、重質化合物からのTIPBの意図的な蒸留/分離は必要としないPIPB回収が図3及び図4に示すように支持される。データから、この工程が、トランスアルキル化反応器に送られる主としてDIPB、TIPB及び少なくとも重量で0.3%の重質化合物を含むポリアルキレート供給原料組成で操作できることが分かる。このように、本明細書に開示された触媒を利用することによって、相当により低い、或はより高いモル供給原料比を有する供給原料を処理する場合でも同じ利点を得ることができる。
【0053】
更に詳述せずとも、当業者であれば、上記の説明を使用して本発明を最大限に活用することができると考えられる。従って、前述の好ましい具体的な態様は、単なる例示として解釈すべきであり、いかなる点でも開示の残りの部分を限定するもと解釈すべきではない。
【0054】
上記において、特に明記しない限り、すべての温度は摂氏で、また全ての部とパーセントは重量基準で明記する。
上記記載から、当業者は容易に本発明の本質的な特徴を見極めることができ、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明を種々の使用法及び条件に適合させるように、本発明の種々の変更及び修正を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5