(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタなどの投写型映像表示装置は、水銀ランプ等の光源から発せられた光を液晶パネルなどの表示素子に照射し、表示素子で形成された映像を投写レンズにてスクリーンへ拡大投写するものである。装置の光学系の構成は、光源から出射された光を液晶パネルに照射して映像を形成するまでの光学ユニット(以下、光学エンジンと呼ぶ)と、液晶パネルで形成された映像を投写レンズで拡大投写する投写光学系からなる。カラー映像表示装置の光学エンジンでは、表示素子として3原色(RGB)用の3枚の液晶パネルと、照射光の色分離系と各映像色の色合成系が設けられている。また投写光学系には、スクリーン上の映像表示位置を調整するために、投写レンズを光軸と直角方向に移動させるレンズシフト機構が設けられている。
【0003】
レンズシフト機構は、投写レンズを投写光の光軸に対して直交する2方向、すなわち水平方向と垂直方向に移動させるものであり、小型化と高精度化が要求されている。特許文献1には、レンズシフト機構の小形コンパクト化と操作性の向上を図ることを目的とし、水平方向と垂直方向の操作ツマミの配置を揃えた手動操作部や、レンズシフト限界位置にてクラッチ機構部により伝達力を切断する運動伝達機構部などを備えた構成が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1をはじめとする従来のレンズシフト機構では、投写レンズを2軸方向に移動させるために2枚の可動ベースを組み込んでいる。可動ベースとこれを支持する静止部材の間、及び2枚の可動ベースの間は、対向する接触面を摺動させる構造(面摺動)となっている。その際、両者の位置ずれを防止するため、接触面にはスプリング等で所定以上の圧接力を与える構造としている。そのため、可動ベースの移動時には摩擦力が発生し、摺動負荷が大きくレンズ位置の滑らかな調整が困難となる。一方、摺動負荷を低減するため圧接力を弱めると可動ベースの位置決めが安定せず、レンズ位置の調整精度が悪化する。このように、レンズ移動時の摺動負荷の低減と調整精度の向上は両立し難いものであった。またレンズシフト機構の他の機能として、投写レンズの光軸傾き等を補正する必要がある。その場合、可動ベースを面摺動させる構造では傾き補正機能を組み込むことは困難であり、光軸補正機構を別途設けなければならず装置が大型化してしまう。
【0006】
本発明の目的は、レンズシフト機構において調整精度を維持しつつ摺動負荷を低減する投写型映像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表示素子にて形成された映像を投写レンズにて拡大投写する投写型映像表示装置において、投写レンズを投写光の光軸と直交する方向に移動させるレンズシフト機構を備え、レンズシフト機構は、投写レンズを保持する可動ベースを固定部材側に取り付けたシャフトをガイド部材として摺動させる構成とした。
【0008】
さらに、可動ベースをガイドするシャフトに対し、固定部材の背面側からシャフトに当接するように補正ネジを差し込み、補正ネジの差し込み量を調整することで投写レンズの光軸の傾きと投写レンズの位置ずれを補正する構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レンズシフト機構において調整精度を維持しつつ摺動負荷を低減する投写型映像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本実施例の投写型映像表示装置の全体構成を示す図であり、表示装置の内部構成を示している。筐体1には光学系として、光源から光を出射し表示素子である液晶パネルに照射して映像を形成する光学エンジン2と、液晶パネルで形成された映像を投写レンズで拡大投写する投写光学系3が収納されている。これ以外に、電源ユニット6と冷却ユニット7、図示しない映像信号回路や制御回路などが収納される。
【0013】
図2は光学系の全体構成を示す図である。光学系は光学エンジン2と投写光学系3を有し、両者は共通ベース4に固定されて筐体1に取り付けられる。
【0014】
光学エンジン2は、光源部21、色分離光学系22、色合成光学系23で構成される。光源部21には超高圧水銀ランプ等の光源を使用し、略白色光を出射する。色分離光学系22は略白色光をRGBの3原色光に分離し、対応する各液晶パネルに導く。色合成光学系23は、RGBの液晶パネルとクロスダイクロイックプリズムを有し、RGB信号に基づく各映像を形成し、これら映像の色合成を行う。
【0015】
投写光学系3は、投写レンズ31とレンズシフト機構32で構成される。色合成光学系23から出射した映像光は、投写レンズ31によって拡大されスクリーン等へ投写される。レンズシフト機構32は、投写レンズ31を保持し光軸(投写方向)に直交する2軸方向、すなわち水平方向と垂直方向に移動させる。これにより、スクリーン上に投写される画像位置を水平方向と垂直方向に移動し調整することができる。
【0016】
図3と
図4は投写光学系3およびその分解図であり、
図3は投写光学系3の全体図、
図4は投写レンズ31とレンズシフト機構32に分解した図である。なお、レンズシフト機構32は共通ベース4に保持されてレンズシフト動作を行う。
【0017】
図4(a)のように、投写レンズ31の鏡筒311にはフランジ(突起部)80を有し、このフランジ80をレンズシフト機構32に設けた凹部81に係合させることで投写レンズ31の装着を行う。
図4(b)は投写レンズ31の背面図で、鏡筒311の周囲に例えば3個のフランジ80を有する。同様にレンズシフト機構32にも3箇所に凹部81を設けている。
【0018】
図5と
図6はレンズシフト機構32およびその分解図であり、
図5はレンズシフト機構32の全体図、
図6は共通ベース4と可動ベースアセンブリ33とベースカバー34に分解した状態を示す。以下の説明では、投写光の光軸方向をZ方向とし、これに直交する水平方向をX方向、垂直方向をY方向と記述する。
【0019】
共通ベース4は、中央部に起立した固定枠41とその両側に台座部42、43を有する。可動ベースアセンブリ33は、一方の台座部43に搭載され固定枠41に固定される。なお、他方の台座部42には光学エンジン2が搭載される。
【0020】
可動ベースアセンブリ33は投写レンズ31を保持しながらX方向とY方向に移動する部材で、共通ベース4側に配置されY方向に移動するY軸可動ベース(以下、Yベースと略す)50と、投写レンズ31側に配置されX方向に移動するX軸可動ベース(以下、Xベースと略す)60を重ねたものである。Yベース50は、共通ベース4の側面に取り付けたY軸アクチュエータ51によりY方向に駆動され、Xベース60は、Yベース50の側面に取り付けたX軸アクチュエータ61によりX方向に駆動される。
【0021】
可動ベースアセンブリ33には、本実施例の特徴である、Yベース50をY方向に摺動させるガイド部材として2本のYシャフト52を設けている。このYシャフト52を共通ベース4の固定枠41の両側辺のシャフト取付部521に押え金具522を用いて固定することで、可動ベースアセンブリ33を共通ベース4に取り付ける。固定枠41には、Yベース50の移動位置を検出するポテンショメータ58と、移動終点を検出するエンドセンサ59を設けている。同様にXベース60の移動位置と移動終点の検出のため、Yベース60にもポテンショメータ68とエンドセンサ69を設けている(
図8参照)。
【0022】
ベースカバー34は、可動ベースアセンブリ33の前面に配置し共通ベース4のカバー取付部90に取り付ける。その際、ベースカバー34に設けた板バネ91にて、可動ベースアセンブリ33に対しZ方向への付勢力、すなわち共通ベース4へ押し付ける力を与え、投写レンズ31のZ方向位置のガタをなくしている。
【0023】
図7と
図8は可動ベースアセンブリ33およびその分解図であり、
図7は可動ベースアセンブリ33の全体図、
図8はYベース50とXベース60に分解した状態を示す。Yベース50は共通ベース4に取り付けたY軸アクチュエータ51によりY方向に駆動され、Xベース60はYベース50に取り付けたX軸アクチュエータ61によりX方向に駆動される。そして、各可動ベース50、60の摺動用ガイド部材として円柱状のシャフトを採用することで、従来の面接触摺動に比較して摺動負荷を低減し、かつ各可動ベース50、60の位置決め精度(直線性)を向上させている。
【0024】
Yベース50は、共通ベース4に取り付けた2本のYシャフト52をガイド部材としてY方向に摺動する。Yベース50の両側面には、摺動のためYシャフト52が貫通する2つのシャフト穴53を設けている。2本のYシャフト52のうち、Y軸アクチュエータ51に近接する方(主軸)を符号52a、遠い方(副軸)を符号52bで示し、これらに対応するシャフト穴をそれぞれ符号53a、53bで示す。主軸のシャフト穴53aはYシャフト52aと略同径の正円形状とし、副軸のシャフト穴53bはYシャフト52bの径よりも大きな長円形状として、Yシャフト52bとの間に僅かなガタ(遊び)を持たせている。これにより、2本のYシャフト52の取り付け間隔とYベース50に形成した2つのシャフト穴53の間隔とが完全に一致しなくても、両者の誤差を吸収し、Yベース50を滑らかに低負荷で摺動させることができる。また、Y軸アクチュエータ51からの駆動力を受ける主軸側においてはガタのない摺動とすることで、摺動時のYベース50の位置決め精度(直線性)を維持することができる。
【0025】
一方、Xベース60はYベース50の上下辺に配置した2本のXシャフト62をガイド部材としてX方向に摺動する。Xベース60の上下辺には、摺動のためXシャフト62が貫通する2つのシャフト穴63を設けている。2本のXシャフト62のうち、X軸アクチュエータ61に近接する方(主軸)を符号62a、遠い方(副軸)を符号62bで示し、これらに対応するシャフト穴をそれぞれ符号63a、63bで示す。前記Yベース50の場合と同様に、主軸のシャフト穴63aはXシャフト62aの径に合わせた正円形状とし、副軸のシャフト穴63bはXシャフト62bの径よりも大きな長円形状として、Xシャフト62bとの間に僅かなガタを持たせている。これにより、Xベース60をYベース50に対して滑らかに摺動させ、摺動時のXベース60の位置決め精度(直線性)を維持することができる。Xベース60の移動位置と移動終点の検出のため、Yベース50にはポテンショメータ68とエンドセンサ69を設けている。
【0026】
図9と
図10はアクチュエータの動力伝達構造を示す図で、
図9はアクチュエータの全体図、
図10は可動ベースへの動力伝達を示す図である。
【0027】
図9において、(a)はY軸アクチュエータ51を(b)はX軸アクチュエータ61を示す。それぞれ、電動モータ54、64の回転力をギヤ列55、65にて減速してリードスクリュー56、66に伝達し、これに噛み合う非回転の駆動ナット57、67を推進させる。駆動ナット57、67にはそれぞれYベース50とXベース60が連結されており、Y方向とX方向に移動する。2つの電動モータ54、64はレンズシフト機構32の両側面に配置されるが、外形を小型化するため回転軸をいずれもY方向に向けて配置している。ギヤ列55、65では、ウォームギヤ551、651とウォームホイール552、652を用いて回転を減速するとともに移動時のバックラッシュをなくしている。さらにY軸用ギヤ列55には、回転軸方向を90度変換するためにクラウンギヤ553を追加している。前記したように、本実施例では可動ベース50、60を移動する際の摺動負荷が低減しているので、電動モータ54、64に要求される駆動パワーが低減し小形のモータを採用できる。
【0028】
図10は、可動ベースへの動力伝達を行うリードスクリューと駆動ナットを示している。ここでは、Yベース50駆動用のリードスクリュー56と駆動ナット57を示しているが、Xベース60駆動用のリードスクリュー66と駆動ナット67についても、
図10を90度回転させれば同様である。
図10の(a)(b)(c)では、リードスクリュー56の軸方向に対してYベース50の側面方向が傾斜している場合の動作を比較して示している。
【0029】
まず(a)〜(c)に共通の動作を説明する。ウォームホイール553が回転すると同軸のリードスクリュー56が回転し、これに噛み合う駆動ナット57をY方向に推進させる。一方Yベース50には、駆動ナット57のY方向の両端面(連結面)を挟み込む連結片50aを設けており、駆動ナット57がY方向に移動することで連結片50aを押し進め、Yベース50をY方向に移動させる。ここで、駆動ナット57の連結面の中央部には突起部57aを形成し、Yベース50側の連結片50aとはこの突起部57aにて接触し、突起部57以外の部分では接触しないようにしている。この突起部57aは、Yベース50の姿勢(側面方向)が傾斜してもYベース50を安定に移動させるためのものであり、以下にその説明をする。
【0030】
図10(b)は、リードスクリュー56の軸方向とYベース50の側面方向が平行である場合である。この場合は、駆動ナット57の連結面とYベース50の連結片50aとが平行になるので、突起部57aがなくてもYベース50の滑らかな移動が可能である。これに対し
図10(a)(c)は、リードスクリュー56の軸方向に対しYベース50の側面方向が矢印方向に傾斜している場合である。この場合、Yベース50の連結片50aも一緒に傾斜することになるが、駆動ナット57の姿勢はリードスクリュー56により規制され傾斜することができないので、駆動ナット57の連結面と連結片50aとは非平行になる。もし駆動ナット57の連結面が平坦であるなら、係合部50aとの接触状態が不安定になり(接触位置がエッジ部となる)、摺動負荷が増大してYベース50の滑らかな移動が困難になる。そこで駆動ナット57の連結面に突起部57aを形成することで、常にこの突起部57aが対向する連結片50aと接触するようにして、Yベース50の姿勢に関わらず両者の接触状態を安定化させ、Yベース50の滑らかな移動を可能にしている。
【0031】
図11と
図12は投写レンズの光軸補正を示す図であり、
図11は補正機構を、
図12は補正動作を説明する図である。光軸補正では、レンズ光軸の傾き補正と、光軸方向(Z方向)のレンズ位置補正の2つを行う。前者の傾き補正では焦点アンバランスを抑えるため、シフト機構組み立て後の積み上げ公差により生じた傾きを補正する。後者のレンズ位置補正では、結像面(液晶パネル面)からレンズ後端までの距離(バックフォーカス)を適正化するため、シフト機構組み立て後の積み上げ公差により生じた光軸方向のレンズ位置のずれを補正する。
【0032】
図11は、レンズシフト機構32を搭載した共通ベース4を背面側(光学エンジン2の搭載側)から見た図である。共通ベース4の固定枠41の4隅には、背面側から光軸補正用の4本の補正ネジ70a〜70dを差し込んでいる。このうち補正ネジ70a、70bの取付部近傍を拡大
図A、Bで示す。補正ネジの取り付け位置は、レンズシフト機構32のガイド部材であるYシャフト52の上下端位置に合わせる。なおYシャフト52は、ベースカバー34に設けた板バネ91からZ方向の付勢力を受け、固定枠41側に押し付けられている。これに対し補正ネジ70を押し込み、または引き戻すことで、これに当接するYシャフト52の上端側または下端側を投写方向(Z方向)にずらすことができる。4本の補正ネジ70a〜70dの差し込み量を調整することで、2本のYシャフト52の傾きあるいは変位量を変え、レンズシフト機構32の傾きと位置、すなわちこれに装着される投写レンズ31の光軸傾きとレンズ位置を補正することができる。このように本実施例では、レンズシフト機構32のガイド部材として導入したYシャフト52を利用し、これを補正ネジ70で押し込むという簡単な構成でレンズ光軸の補正を実現している。
【0033】
図12は補正動作の具体例を示す図である。(a)は水平方向の傾き補正の例を示すレンズ上面図で、正常状態に対して投写レンズ31の光軸(Z軸)が水平方向(X方向)に傾いている場合である。この場合はレンズシフト機構32に対し、右端側の補正ネジ70cと70d、あるいは左端側の補正ネジ70aと70bを押し込むことで光軸方向を正常状態に補正する。(b)は垂直方向の傾き補正の例を示すレンズ側面図で、正常状態に対してレンズ光軸(Z軸)が垂直方向(Y方向)に傾いている場合である。この場合は、上端側の補正ネジ70aと70c、あるいは下端側の補正ネジ70aと70bを押し込むことで正常状態に補正する。(c)はレンズ位置補正の例を示すレンズ側面図で、投写レンズ31のレンズ位置が基準位置から光軸方向(Z方向)にずれている場合である。この場合は、4本の補正ネジ70a〜70dを押し込み、あるいは引き戻すことでレンズ位置を正常位置に補正する。
【0034】
レンズ光軸が水平方向と垂直方向の両方向に傾いている場合には、(a)と(b)の操作を組み合わせて行えばよい。またレンズ光軸の傾きとレンズ位置のずれの両方が生じている場合には、(a)と(c)または(b)と(c)の操作を組み合わせて行えばよい。
【0035】
図13は、投写レンズ31の着脱方法を説明する図で、
図8のXベース60をさらに分解したものである。Xベース60は投写レンズ31を保持するため、Xベース本体601、押えリング602、レンズホルダ603に分かれる。投写レンズ31を保持するために、Xベース本体601には凹部81(3箇所)を設け、投写レンズ31の鏡筒311に設けたフランジ80(
図4参照)を係合させる。なお、凹部81のZ方向の深さはフランジ80のZ方向の幅よりも僅かに小さくする。押えリング602とレンズホルダ603には、着脱時にフランジ80を通過させるための切欠部82、83(それぞれ3箇所)を設けている。
【0036】
また押えリング602には、レンズ保持のロック/解除の切替えを行うレバー84を設けている。投写レンズ31の取り付け時は、レバー84により押えリング602を回転させ、切欠部82以外の部分で凹部81に係合されたフランジ80を押えることで、投写レンズ31をXベース60に固定する。投写レンズ31の取り外し時は、レバー84により押えリング602を逆方向に回転させ、切欠部82を凹部81位置に合わせてフランジ80の押えを解放すれば、投写レンズ31をXベース60から取り外すことができる。
【0037】
以上のように本実施例によれば、レンズシフト機構において調整精度を維持しつつ摺動負荷を低減する投写型映像表示装置を提供することができる。また、投写レンズの光軸傾きやレンズ位置のずれを簡単な構成で実現することができる。