特許第5731051号(P5731051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731051沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5731051
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20150521BHJP
   F01K 27/02 20060101ALI20150521BHJP
   F01K 25/10 20060101ALI20150521BHJP
   F28D 7/12 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   F03G4/00 501
   F03G4/00 531
   F01K27/02 Z
   F01K25/10 R
   F28D7/12
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-202713(P2014-202713)
(22)【出願日】2014年10月1日
【審査請求日】2014年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-117043(P2014-117043)
(32)【優先日】2014年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514143002
【氏名又は名称】田原 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田原 俊一
【審査官】 西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−103122(JP,A)
【文献】 特開平01−232175(JP,A)
【文献】 特表2004−510920(JP,A)
【文献】 特表2012−500925(JP,A)
【文献】 特公昭64−007227(JP,B2)
【文献】 特開2014−084857(JP,A)
【文献】 特開2014−047676(JP,A)
【文献】 特開2011−169188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 4/00
F01K 23/00−27/02
F28D 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられ地上から水が供給される水注入管と、前記水注入管に接するように地中に設けられ、複数の噴出口を有する蒸気取出管とを備え、前記蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される沸騰水型地熱交換器であって、地表面に近い低温地帯に接する領域に対して断熱部が形成されており、前記断熱部は、前記水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、前記水注入管の上部に空気層が形成されることによるものであることを特徴とする沸騰水型地熱交換器。
【請求項2】
前記水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されていることを特徴とする請求項記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項3】
前記水注入管が前記蒸気取出管の外側に配置される場合において、前記水注入管は前記蒸気取出管の外周に沿って前記蒸気取出管の周方向に複数配置されており、それぞれの水注入管に注入された水は、前記蒸気取出管の下方に設けられた底層部へ流れ込む構造であり、水注入管の前記底層部と前記蒸気取出管との境界に噴出口が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項4】
少なくとも1つの前記水注入管と少なくとも1つの前記蒸気取出管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、前記蒸気取出管の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項5】
前記地熱井は、既存の設備に付帯するものであることを特徴とする請求項に記載の沸騰水型地熱交換器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の沸騰水型地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする沸騰水型地熱発電装置。
【請求項7】
前記発電は、バイナリー方式によるものであることを特徴とする請求項記載の沸騰水型地熱発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱エネルギーを効率よく取り出すことが可能な沸騰水型地熱発電方法、沸騰水型地熱交換器および沸騰水型地熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地熱エネルギーを利用して発電する地熱発電は、高温のマグマ層を熱源とするものであり、半永久的な熱エネルギーとすることができるとともに、発電の過程において温室効果ガスを発生しないことから、化石燃料の代替手段として近年注目されている。
【0003】
従来の地熱発電は、地熱帯をボーリングし、地熱帯に存在する自然の蒸気や熱水を自然の圧力を利用して取り出し発電を行っている。そのため、取り出された蒸気と熱水には、地熱帯特有の硫黄その他の不純物が多量に含まれている。この不純物はスケールとなって、熱井戸や配管類、あるいはタービン等に付着する。スケールが付着すると、経年的に発電出力が減少し長期間の使用が困難となる。
【0004】
このスケールによる問題を解決するために、地上から水を送り、地熱帯から供給される熱によって加熱して熱水を取り出す方式を採用した技術が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−52621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この技術は、地下に設置された地熱交換器で取出した高圧単相流を、地上に設置された気水分離器で蒸気として取出す方法のものであり、スケールによる問題を解決しつつ地熱を有効利用できる点で大きな効果を有するものである。
【0007】
地熱交換に関してはさらに、以下のような問題点が考えられる。第一に、地下に送り込まれる水と、地熱の供給を得て取り出される熱水の、配管内における圧損のため、高圧ポンプの動力を大きくしなければならす、ポンプ動力を低く抑えて発電効率を上げるためには、地熱交換器の径を大きくする必要があるという問題点がある。
【0008】
第二に、地熱交換器を出ていく熱水と送り込まれる水および地下低温地帯との間で、熱の受け渡しが行われ、熱ロスが発生するという問題点がある。このため、地熱交換器における熱ロスが発生する箇所を断熱処理する必要があり、断熱処理するスペースを確保するためにも、地熱交換器の径を大きく設計しなければならず、これによってボーリング工事費用と地熱交換器製作費用のアップ要因となる。
【0009】
第三に、特許文献1による利点の一つに、既存の抗井のリプレイスがあるが、地熱交換器の径が制限されることによって、リプレイスが適用される抗井が限定されるという問題点がある。既存抗井のリプレイスの他に、地熱探査用抗井、休止中の抗井のリプレイス等を検討する場合においても、地熱交換器の径の大きさが障害となりうる。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れた沸騰水型地熱交換器と、沸騰水型地熱発電装置および沸騰水型地熱発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、本発明の沸騰水型地熱発電方法は、地中に設けられた水注入管に対して地上から給水し、前記水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水を、地中に設けられ減圧された蒸気取出管に噴出させて地中にて蒸気単相流に変換し、この蒸気単相流を地上に取出して発電を行うことを特徴とする。
【0012】
地中に設けられた水注入管に対して地上から給水することで、水注入管下部において、地上からの深さにほぼ比例した圧力水を作り、この圧力水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高温圧力水を、地中に設けられ減圧された蒸気取出管に噴出させて地中の蒸気取出管内にて蒸気単相流に変換する方法を採っているため、熱水よりも熱伝導率が低い蒸気として地上に取り出されることとなり、低温地帯を通過する際に生じる熱ロスを極めて低く抑えることができる。そのため、地熱によって得られたエネルギーが損失を受けることを有効に抑制することができる。
【0013】
また、熱水を地上に取り出す場合と比較して、蒸気が蒸気取出管を上昇するため、管表面を通る際の摩擦による管ロスが極めて小さい。また、蒸気は熱水よりも質量が軽いため、熱水を取り出すために必要な大きな動力も不要である。
また、蒸気として気化させるに必要な分量の水を地中に注入すればよく、循環させる水の削減が可能である。
【0014】
本発明の沸騰水型地熱発電方法においては、前記水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧することができる。
【0015】
大容量の発電を行う場合には、循環水量が大きくなることにより、外管部の損失水頭が大きくなるが、水注入管に供給される水に対して地上にて加圧することにより、損失水頭分を補うことができ、自然水圧による場合よりも大きな圧力が得られるため、大容量の発電を実現することが可能となる。また、水注入管に供給される水に対して地上にて加圧することにより、蒸気圧力を高くすることができるため、未利用の全国の高温度の地熱帯に本発明の沸騰水型地熱発電方法を広く適用することができる。
【0016】
本発明の沸騰水型地熱交換器は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管と、前記水注入管に接するように地中に設けられ、複数の噴出口を有する蒸気取出管とを備え、前記蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されており、前記水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水が前記噴出口を介して地中に存在する蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出されることを特徴とする。
【0017】
水注入管に供給された水は、水注入管下部において、地上からの深さにほぼ比例した高温圧力水となる。蒸気取出管内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されているため、高温圧力水はその水圧によって蒸気取出管に設けられた噴出口を介して蒸気取出管へ噴出し、減圧された蒸気取出管内で蒸気単相流に変換され、この蒸気単相流が地上に取出される。
【0018】
蒸気取出管内での蒸気は、圧力勾配があるタービンへ移動したのち、タービン内で膨張してタービンを回す動力となる。タービンを出た蒸気は復水器にて水に戻り、再び水注入管に送り込まれる。循環する水量はタービンが必要とする蒸気量に等しいため、循環水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことにより、効率的に連続して地熱を取り出すことができる。
また、特許文献1に記載の方式では、加圧水を地上に取り出して減圧気化するが、発電出力を60kWとし、蒸気温度、蒸気圧力を同じとした同一条件の場合、加圧水に含まれる蒸気量は約5%以下である。これに対し本発明では、必要蒸気量分だけ循環させればよいため、特許文献1の方式の約1/20の水を循環させればよい。
【0019】
このような方式により地熱交換を行うことにより、低温地帯を通過する際に生じる熱ロスが小さく、管表面を通る際の摩擦による管ロスが小さく、循環させる水の量を削減することができる熱交換が可能となる。
【0020】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることができる。
【0021】
大容量の発電を行う場合には、循環水量が大きくなることにより、外管部の損失水頭が大きくなるが、水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることにより、損失水頭分を補うことができ、自然水圧による場合よりも大きな圧力が得られるため、大容量の発電を実現することが可能となる。また、水注入管に供給される水に加圧するための加圧ポンプが地上に配置されている構成とすることにより、蒸気圧力を高くすることができるため、未利用の全国の高温度の地熱帯に本発明の沸騰水型地熱交換器を広く適用することができる。
【0022】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記水注入管が前記蒸気取出管の外側に配置される場合において、前記水注入管は前記蒸気取出管の外周に沿って前記蒸気取出管の周方向に複数配置されており、それぞれの水注入管に注入された水は、前記蒸気取出管の下方に設けられた底層部へ流れ込む構造であり、水注入管の前記底層部と前記蒸気取出管との境界に噴出口が設けられている構成とすることができる。
【0023】
水注入管が蒸気取出管の外周に沿って蒸気取出管の周方向に複数配置されていることにより、外管である水注入管を1本の管で仕上げる場合と比較して、地熱地帯から伝熱される伝熱表面積は約2倍に増大する。そのため、熱伝導性能が向上し、工事費の削減に寄与する。
水注入管が蒸気取出管の外側に沿って周方向に複数配置される場合には、水注入管と蒸気取出管との接触部位が極めて狭い面積となるため、水注入管と蒸気取出管との境界に噴出口を多数設けることが困難であるが、それぞれの水注入管に注入された水が、蒸気取出管の下方に設けられた底層部へ流れ込む構造として、水注入管の底層部と蒸気取出管との境界に噴出口を設ける構成とすることによって、この問題を解決できる。
【0024】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、地表面に近い低温地帯に接する領域に対して断熱部が形成されている構造とすることができる。
【0025】
地表面に近い低温地帯を通過する際に生じる熱損失を抑制するために、断熱性の高い材料で形成された断熱部を形成すると、地熱エネルギーの採取効率がさらに高まる。
【0026】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記断熱部は、前記水注入管に供給される水の水位を低くすることによって、前記水注入管の上部に空気層が形成されることによるものであることとすることができる。
【0027】
対象となる地熱層によっては、地中に設置する地熱交換器に供給する水圧が大きすぎる場合がある。この水圧を下げる必要性がある場合、水注入管の水位を下げることで地熱交換器内の圧力調整が可能である。これによって水注入管の上部には空気層が形成されることになり、断熱性の高い空気層によって必然的に断熱効果を得ることができる。特に、抗井の高温地帯の深度が大きい場合、水注入管に供給する高度処理水の水位を低くすることで、地表面に近い低温地帯に接する水注入管に空気層を形成することができる。
【0028】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、少なくとも1つの前記水注入管と少なくとも1つの前記蒸気取出管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、前記蒸気取出管の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えている構成とすることができる。
【0029】
ボーリングする場所によって、温度・圧力ともそれぞれ異なるため、発電に利用した場合に、地熱井1つに対する発電出力がそれぞれ違うこととなる。そのため、複数の地熱井に対して、挿入管の蒸気取出管の出口を並列につなぎ、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気を合計して採集することで、タービン・復水器・発電機・変圧器等の容量を大きく設計することができ、発電所全体の効率がアップするという利点がある。また、蒸気ヘッダーを配置することにより、採集された蒸気の圧力の均一化を図ることができる。
【0030】
本発明の沸騰水型地熱交換器においては、前記地熱井は、既存の設備に付帯するものであることとすることができる。
【0031】
既存の設備に付帯する空の地熱井や休止中の地熱井に対して、水注入管と蒸気取出管とが組み合わされて構成される挿入管を挿入して用いることにより、新たにボーリングを行うことなく、熱水によるエネルギーを取出すことができる。特に、蒸気単相流として地中から取出すことにより、挿入管の径を小さくすることができるため、使用できる地熱井の自由度が高まる。
【0032】
本発明の沸騰水型地熱発電装置は、本発明の沸騰水型地熱交換器を用いて発電を行うことを特徴とする。
また、本発明の沸騰水型地熱発電装置は、前記発電をバイナリー方式によって行うことができる。
【0033】
本発明の沸騰水型地熱交換器は、配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れたものであるため、この地熱交換器を用いることによって、既存の設備に付帯する地熱井を有効に利用して、効率の良い地熱発電を行うことができるため、利便性の高い地熱発電装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によると、配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れた沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置および沸騰水型地熱発電方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る沸騰水型地熱交換器のフローと圧力勾配を示す図である。
図3】水の相図と減圧の仕組みを示す図である。
図4】本発明の沸騰水型地熱交換器をバイナリー方式の発電に適用した沸騰水型地熱発電装置の構成を示す図である。
図5】水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す図である。
図6】水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態に係る沸騰水型地熱交換器のフローと圧力勾配を示す図である。
図7】水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態に係る水の相図と減圧の仕組みを示す図である。
図8】水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧するタイプの沸騰水型地熱交換器をバイナリー方式の発電に適用した沸騰水型地熱発電装置の構成を示す図である。
図9】水注入管を蒸気取出管の周方向に複数配置した地熱交換器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明の沸騰水型地熱交換器、沸騰水型地熱発電装置および沸騰水型地熱発電方法を、その実施形態に基づいて説明する。
本発明の沸騰水型地熱発電方法は、地中に設けられた水注入管に対して地上から給水し、水注入管内の水に対して地熱帯から熱が供給されて生成される高圧熱水を、地中に設けられ減圧された蒸気取出管に噴出させて地中にて蒸気単相流に変換し、この蒸気単相流を地上に取出して発電を行うものであり、この沸騰水型地熱発電方法を具体的に実現するために用いられる本発明の実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を図1に示す。
【0037】
図1において、地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管2と、水注入管2に接するように地中に設けられた蒸気取出管3とを備えている。図1においては、水注入管2を地熱帯4側に近い外管とし、蒸気取出管3を水注入管2の内側に設けた内管とした2重管構造としているが、その逆に、蒸気取出管3を外管とし、水注入管2を内管としてもよい。
【0038】
蒸気取出管3には、その下部領域に、複数の噴出口5が設けられており、水注入管2と蒸気取出管3とは、この噴出口5によって開口状態となっている。すなわち、噴出口5は、水注入管2と蒸気取出管3との境界に設けられている。蒸気取出管3はタービン6に接続されており、蒸気取出管3内の圧力は、タービン6が必要とする圧力近くに減圧されている。
【0039】
水注入管2に自然の落差を利用して供給された水は、水注入管2の底部付近において、地上からの深さにほぼ比例した圧力が加えられ、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。蒸気取出管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は矢印で示すように、噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、タービン6が必要とする圧力と、水注入管2の底部との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、蒸気取出管3とタービン6との圧力差でタービン6へ移動したのち、タービン6内で膨張してタービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0040】
タービン6を出た蒸気はその後、復水器8にて冷却水9により冷却されて水に戻り、再び水注入管2に供給される。循環する水量はタービン6が必要とする蒸気量に等しいため、循環させる水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことによって、連続して地熱を取り出す。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。補給水11の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気調節弁15が設けられている。その他、圧力調節弁17が設けられている。
【0041】
タービン6や発電機7等の主要機器の事故または送電系統の事故が起こった場合には、発電機7の遮断器が作動するが、この場合は、地熱交換器1内の圧力が急激に上昇することを防ぐため、緊急減圧弁16を作動させて、地熱交換器1内の急激な圧力上昇を防ぐことができる。通常の発電機の負荷変動には、地熱交換器1が自動的に対応することができる。発電機負荷が増えた場合には、地熱交換器1内部の圧力が下がるため、蒸気発生量が増える。発電機負荷が減少した場合は、地熱交換器1内部の圧力が上昇するため蒸気発生量が減少する。このように一連の自動発電量制御機能が備わっていることも一つの特徴である。
【0042】
図2に、本発明の実施形態に係る沸騰水型地熱交換器のフローと圧力勾配を示す。また、図2に示すA〜Gの各点における圧力を、MPa単位で表1に示す。なお、以下に示す数値は、後述するように、深度700mにおける地熱帯の最深部の温度が約180℃である坑井において、60kWの発電を行うことを前提としており、各数値はこれに限定されず、坑井の状況や発電出力に応じて適宜変更して設定されるものである。
【0043】
【表1】
【0044】
図2において、GからAに至る配管は落差をつけて、水注入管部に給水する。水の注入にあたっては、水位調整弁により補給水槽の水位を調整できるようにする。これは、補給水槽と水注入管内の水位を測定しフィードバックすることによって行う。B点で水は最大水圧となり、高温地帯から熱の補給を受ける。B点からC点に噴出した圧力水は、減圧されて気化する。D点では、圧力調整弁で155℃の飽和蒸気圧0.543MPaに設定する。設定の方法は、圧力調整弁の設定で行う。運転開始時は、蒸気調節弁で蒸気をタービンに導入する。E点では、圧力0.5MPaでタービンに供給される。急激な圧力上昇時は、緊急減圧弁で大気解放させる。
【0045】
図3に、水の相図と減圧の仕組みを示す。図3において、横軸は温度(℃)であり、縦軸は深さに伴って生じる地熱交換器の水注入管底部の圧力(MPa)である。
深度700m領域では、6.86MPaの圧力がかかり、深度700mにおける地熱帯の温度が約180℃である坑井において、水注入管底部から蒸気取出管に対して高温圧力水を噴射すると、蒸気取出管内部の圧力は約0.543MPaであるため、水は180℃では1.004MPaで気化することから、高温圧力水は蒸気取出管内で瞬時に気化する。このメカニズムにより、地中に設けられた蒸気取出管内で蒸気単相流を生成し、これを地上に取り出す。タービンが必要とする圧力は0.5MPaであるため、余裕をもって発電を行うことが可能である。
【0046】
このように、本発明の沸騰水型地熱交換器では、水注入管2に自然の落差を利用して供給された水は、周囲の地熱帯4から加熱されながら下降するため、水注入管2下部においては、高温の圧力水となっている。この高温・高圧水を、水注入管2下部から噴出口5を介して蒸気取出管3へ噴霧状態で噴き出す。蒸気取出管3下部では、タービン6が必要とする圧力より少し高めの飽和圧力と、水注入管2底部との圧力差を利用して気化させる。蒸気取出管3上部での圧力は、タービン6が必要とする圧力より少し高く設定されており、タービン6の負荷である発電機7の負荷とつりあって、ほぼ自動的に一定の圧力を維持することができる。水注入管2下部とタービン6との圧力差は非常に大きいため、タービン6が必要とする圧力・流量の蒸気を、連続して生産することが可能となる。蒸気はタービン6を出た後、復水器8で冷却されて水に戻り、再び水注入管2に送り込まれるが、循環する水量はタービン6が必要とする蒸気量に等しいため、循環水量は非常に少なく、水注入管2上部への給水には加圧ポンプは必須ではない。
【0047】
本発明においては、高度処理された水を水注入管2の最下部まで、自然の圧力を利用して送り込むことで、圧力勾配が形成される。蒸気取出管3上部における圧力は、タービン6が必要とする入口圧であり、蒸気取出管3内部および配管類の圧損はこれより一桁少ない数値であるため、理論上抗井の深さは、タービン6が必要とする圧力分があればよく、地熱帯の高温地区での適用が可能である。
【0048】
一般的に、500m以上の深度がある地熱井では、水圧だけで噴き出し圧力を高く設定することができ、加圧ポンプは必須ではない。また、蒸気取出管3内部を上昇するのは気化した蒸気のみであり、熱水を取り出す場合のように、水を押し上げる動力は不要であるため、地下から熱エネルギーを採取するために必要なエネルギーと、採取されるエネルギーの収支の点で、極めて有利である。さらに、図3において、深度が1000mを超え、温度が200℃を超えるような地熱帯では、原理上、圧力1MPa、温度200℃以上の蒸気が生産できるため、大容量の発電が可能であり、再生可能エネルギーとしての位置づけが可能であると考えられる。
【0049】
本発明の沸騰水型地熱交換器では、地中に設けられた蒸気取出管3内で蒸気単相流を生成し、これを地上に取り出す方式であるため、蒸気単相流が地表近くの低温地帯を通過する際の熱損失がどの程度のものであるかを評価する必要がある。表2に、飽和水と飽和水蒸気の熱伝導率(W/mK)の比較を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2からわかるように、対象となる155℃の温度領域では、熱水として取出す場合と比較して、その4.5%の熱ロスしか発生せず、蒸気の取出しに伴う熱損失は極めて小さい。このように、本質的に熱損失は小さく維持されるが、必要に応じて断熱部を設けることもできる。断熱部を設ける部位は、水注入管2が低温地帯と接する部分と、水注入管2と蒸気取出管3との境界部とするのが好ましい。特に、抗井の高温地帯の深度が大きい場合、水注入管2に供給する高度処理水の水位を低くすることにより、地表面に近い低温地帯に接する水注入管2には空気層が形成されるため、より断熱効果を向上することができる。また、水注入管2下部における高温地帯と接する面は、熱伝導特性に優れた材質のものを使用して、地熱を吸収しやすいようにする。
【0052】
蒸気取出管3の下部領域に設けられる、複数の噴出口5は、小径の穴をあけることによって形成されるが、その口径、数および流速は、発電容量、抗井の温度および深さにより個別に設計される。その一例として、水注入管2の径を165.2mm、蒸気取出管3の径を89.1mmとしたときに、2mm径の噴出口5を100個設けることができる。
表3に、この設定による噴出口5の詳細を示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、この設定条件での噴出口5での流速は1.95m/sであり、その他の仕様は汎用高圧洗浄機と大差なく、製作上の困難性は無い。
【0055】
地熱交換器1は、少なくとも1つの水注入管と少なくとも1つの蒸気取出管とが組み合わされてなる挿入管が、複数の地熱井に対して挿入されて構成され、蒸気取出管の出口が並列に接続されて、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気が合計して採集され、採集された蒸気の圧力を均一化する蒸気ヘッダーを備えている構成とすることができる。
【0056】
1つの地熱井に対して1つの挿入管を挿入して使用することも可能であるが、ボーリングする場所によって、温度・圧力ともそれぞれ異なるため、発電に利用した場合に、地熱井1つに対する発電出力がそれぞれ違うこととなる。そのため、複数の地熱井に対して、挿入管の蒸気取出管の出口を並列につなぎ、それぞれの地熱井を用いて得られる蒸気を合計して採集することで、タービン・復水器・発電機・変圧器等の容量を大きく設計することができ、発電所全体の効率がアップするという利点がある。また、蒸気ヘッダーを配置することにより、採集された蒸気の圧力の均一化を図ることができ、圧力が均一化された蒸気を単機のタービンに供給することができる。
【0057】
例えば、3つの地熱井を使用する場合、それぞれの地熱井での熱出力を発電機出力に換算して、1号井500kW、2号井400kW、3号井600kWである場合、3ユニット独立で発電システムを構築するより、これらを合計して、1号井+2号井+3号井=1500kWの1ユニットとして設計すれば、全体の出力は同じでも、タービン・復水器・発電機・変圧器の容量を大きく設計することができ、電気機器の効率は容量によってアップするため、発電に利用した場合には発電所全体の効率がアップすることになる。また、工事費等の建設費を格段に安くすることができる。
【0058】
また、地熱交換器1は、新設の地熱井を用いることができる他、既存の設備、例えば、既存の地熱発電所に付帯する地熱井であって、空の地熱井や休止中の地熱井に対して、水注入管2と蒸気取出管3とが組み合わされて構成される挿入管を挿入して用いることができる。特に、蒸気単相流として地中から取出すことにより、挿入管の径を小さくすることができるため、使用できる地熱井の自由度が高まり、既存の地熱井の有効利用を促進することができる。
【0059】
このように、休坑井を含む既存の坑井をリプレイスすることで、環境アセスに要する時間を大幅に短縮することができ、開発コストを大きく削減することができる。また、従来型の地熱発電で必要な補充坑が不要である。さらに、地熱流体を一切用いないため、スケール腐食は通常の水配管・機器と同レベルになり、一般の工業装置のメンテナンス頻度で済むという利便性があるとともに、温泉源枯渇の懸念は払しょくされ、環境問題は劇的に緩和される。
【0060】
本発明の沸騰水型地熱交換器は、地下で蒸気が生成されるため、通常地上に設置される圧力容器である蒸気発生器は不要である。そのため、蒸気発生器の建設費用が不要であり、システム全体の制御をより簡易な設計とすることができる。また、蒸気発生器を設置する必要がないため、圧力容器の取り扱い技術者が不要であり、保守要員の削減を図ることで運転コスト削減に供することができる。
【0061】
また、本発明の沸騰水型地熱交換器は、地下水を圧送するための加圧ポンプは必須ではなくなるため、加圧ポンプの設置に要する費用を削減することができる。さらに、システム全体の制御をより簡易な設計とすることができる。さらに、蒸気発生器は不要であり、加圧ポンプは必須ではないため、地上設備を設置する用地を少なくすることができる。地熱帯は国立公園内に多く存在しており、発電設備の建設にあたっての環境負荷を軽減することが可能である。
【0062】
本発明では、既存の発電用、温泉用を問わず、坑井の最深部地帯に一定の熱があることを条件として、地上から坑井の最深部へ水を供給することによって、坑井の再生を行うことが可能である。この場合には、水を供給する管は、通常の配管で十分である。
【0063】
表4に、60kWの発電を前提としたときの、特許文献1に記載の加圧水単相流方式と、本発明の蒸気単相流方式との性能比較を示す。
【0064】
【表4】
【0065】
図4に、本発明の沸騰水型地熱交換器をバイナリー方式の発電に適用した沸騰水型地熱発電装置の構成を示す。
図4において、地熱交換器1の機能は図1に基づいて説明したものと同様であり、地熱交換器1の蒸気取出管3から取り出された蒸気単相流は、蒸発器20に送られ、低沸点媒体を加熱する。加熱された低沸点媒体は、低沸点媒体蒸気となってタービン6へ移動して、タービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0066】
タービン6を出た低沸点媒体蒸気はその後、凝縮器21にて冷却水により冷却されて低沸点媒体に戻り、蒸発器20に送られる。この繰り返しにより、継続的に発電がなされる。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。補給水11の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気調節弁15が設けられている。
【0067】
以下に、本発明の沸騰水型地熱交換器における蒸気温度、圧力等の数値設定について説明する。
使用する市販のタービンの仕様を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5において、縦方向に示す給気圧力と、横方向に示す排気圧力とを、記載した数値に設定した場合に得られる発電電力を上段に、蒸気流量を下段に示している。表5に基づくと、給気圧力を0.50MPa、排気圧力を0.15MPaとすると、発電電力は60kW、蒸気流量は2.2t/hとなる。従って、このタービンを用いて60kWの電力を発電するために、タービンが要求する蒸気の仕様は、給気圧力0.50MPa、蒸気流量2.2t/hとなる。
【0070】
表6に、飽和蒸気表の抜粋を示す。
【0071】
【表6】
【0072】
表6によると、上述したタービンが要求する蒸気の仕様を満たすためには、155℃、0.5431MPaの蒸気を生産すればよいことになる。
以上の検討により、蒸気等に関する数値を、表7のように設定した。
【0073】
【表7】
【0074】
この設定によると、発電に必要な水量は、加圧水として取出す場合よりもはるかに少ない量で済む点に、一つの大きな優位性がある。
【0075】
以下に、水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態について説明する。
図5に、この実施形態に係る沸騰水型地熱交換器と沸騰水型地熱発電装置を示す。
【0076】
図5において、地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管2と、水注入管2に接するように地中に設けられた蒸気取出管3とを備えている。図5においては、水注入管2を地熱帯4側に近い外管とし、蒸気取出管3を水注入管2の内側に設けた内管とした2重管構造としているが、その逆に、蒸気取出管3を外管とし、水注入管2を内管としてもよい。
【0077】
蒸気取出管3には、その下部領域に、複数の噴出口5が設けられており、水注入管2と蒸気取出管3とは、この噴出口5によって開口状態となっている。すなわち、噴出口5は、水注入管2と蒸気取出管3との境界に設けられている。蒸気取出管3はタービン6に接続されており、蒸気取出管3内の圧力は、タービン6が必要とする圧力近くに減圧されている。
【0078】
水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプ31が地上に配置されている。水注入管2に供給される水は、地上にて加圧ポンプ31によって加圧されるため、水注入管2の下部においては、この加圧による圧力と、地上からの深さにほぼ比例した圧力を合計した加圧水となる。
【0079】
この加圧水に対して、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。蒸気取出管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は矢印で示すように、噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、タービン6が必要とする圧力と、水注入管2の底部との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、蒸気取出管3とタービン6との圧力差でタービン6へ移動したのち、タービン6内で膨張してタービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0080】
蒸気ヘッダー32は、複数の地熱井から生産された蒸気をまとめて、単機のタービン6に供給するような場合に用いられるもので、これにより、圧力を均一化させることができる。なお、蒸気ヘッダー32は、水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する本実施形態に限らず、図1に示す、加圧ポンプを用いない実施形態についても利用できる。
【0081】
タービン6を出た蒸気はその後、復水器8にて冷却水9により冷却されて水に戻り、再び水注入管2に供給される。循環する水量はタービン6が必要とする蒸気量に等しいため、循環させる水量は非常に少なくて済む。この過程を繰り返すことによって、連続して地熱を取り出す。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。復水器8と補給水槽12との間には引き抜きポンプ30が設けられている。補給水11の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気調節弁15が設けられている。その他、圧力調節弁17が設けられている。
【0082】
図6に、水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧する実施形態に係る沸騰水型地熱交換器のフローと圧力勾配を示す。また、図6に示すA〜Hの各点における圧力を、MPa単位で表8に示す。なお、以下に示す数値は、後述するように、深度700mにおける地熱帯の最深部の温度が約186℃である坑井において、135℃の蒸気を取り出して1000kWの大容量の発電を行うことを前提としており、各数値はこれに限定されず、坑井の状況や発電出力に応じて適宜変更して設定されるものである。
【0083】
【表8】
【0084】
図6において、A点での圧力を大気圧相当の0.1013MPaに設定する。加圧ポンプによって加圧された水注入管入口B点での水の圧力は、1.1161MPaになる。これは、管の水頭損失が0.0148MPaであり、これに1MPaを加えた1.0148MPaを加圧分としているためである。1MPaは、約100mの水圧にあたるため、深度700mの坑井に対してさらに100m分の圧力を加算して、ボーリング深度を約800mとした効果をもたせている。
【0085】
水注入管底部C点では、地上からの深さにほぼ比例した圧力を合計した加圧水とすることができ、その圧力は7.4841MPaとなって、加圧水は高温地帯からの熱の供給を受ける。D点に噴出した加圧水は、減圧されて気化する。E点から蒸気ヘッダー間は、タービン供給圧より少し高めの、0.3130MPaに設定されている。運転開始時は、蒸気調節弁で徐々に蒸気がタービンに導入される。F点で0.1960MPaの圧力でタービンに蒸気が供給される。急激な圧力上昇が生じた際には、圧力調節弁で大気解放させる。タービンを回した蒸気は、復水器で水に戻し、復水器引き抜きポンプで補給水槽に移送される。蒸気ヘッダーは複数の蒸気取出管を合計して蒸気を集める場合に使用される。
【0086】
図7に、水の相図と減圧の仕組みを示す。図7において、横軸は温度(℃)であり、縦軸は深さに伴って生じる地熱交換器の水注入管底部の圧力(MPa)である。
深度700m領域では、水注入管底部には、7.4841MPaの圧力がかかる。この圧力は、大気圧(0.1013MPa)+加圧分(1.0148MPa)+自然水圧(6.3828MPa)−損失水頭(0.0148MPa)によるものである。深度700mにおける地熱帯の温度が約186℃である坑井において、水注入管底部から蒸気取出管に対して高温圧力水を噴射すると、蒸気取出管内部の圧力は約0.3130MPaであるため、水は135℃では0.3130MPaで気化することから、高温圧力水は蒸気取出管内で瞬時に気化する。このメカニズムにより、地中に設けられた蒸気取出管内で蒸気単相流を生成し、これを地上に取り出す。
【0087】
表9に、135℃近傍における飽和圧力を示す。
【0088】
【表9】
【0089】
この数値に基づいて、タービンが要求する、0.1960MPaの圧力に対して圧力の裕度をみて、本実施形態においては、温度135℃、圧力0.3130MPaに設定している。
【0090】
水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧することの利点は、大容量の発電の場合には、循環水量が大きくなり、外管部の損失水頭が大きくなるため、この損失水頭分を加圧により補うことで、自然水圧による場合よりも大きな圧力を得られるため、大容量の発電を実現することが可能となることである。
【0091】
目標発電電力が60kWである小容量型発電の場合と、目標発電電力が1000kWである大容量型発電の場合とについての比較を表10に示す。表10においては、外管の外径を0.1652m、外管の内径を0.1552m、内管の外径を0.0891m、内管の内径を0.0807m、管の長さを700m、流速を0.1657m/sとして損失水頭を算出している。
【0092】
【表10】
【0093】
表10に示すように、大容量の発電を目指す場合、必然的に蒸気量、すなわち必要水量が大きくなり、損失水頭が大きくなる。この対策として、水注入管に供給される水に対して加圧することにより、損失水頭を補うことと蒸気圧を高くすることが重要となる。本実施形態は、この観点から加圧ポンプにより加圧している。表10においては、目標発電電力が1000kWである大容量型発電の場合には、目標発電電力が60kWである小容量型発電の場合と比較して、必要水量は3、2倍となり、これにより損失水頭が大きくなって、約10倍となるが、加圧することによってこれを補償している。
【0094】
なお、一般的な地熱発電では、火力発電と比較して蒸気圧が低いため、出力が低くなるが、加圧することにより高圧蒸気を生産することができれば、大容量化を図ることができる。また、従来から行われている一般的な地熱発電では、蒸気圧が低いためタービンが大型になるが、加圧により蒸気圧を高くすることは、タービンの小型化、高効率化を図ることができる点でさらに優位である。
【0095】
表10に示す数値と、実際に稼働している従来型の地熱発電装置との数値比較を、表11に示す。
【0096】
【表11】
【0097】
九州電力八丁原発電所と九重観光ホテルにおける地熱発電は、従来からの方式である、地下に存在している自然の熱水を利用するものである。表11においては、九州電力八丁原発電所における定格出力が大きく異なるため、1MW単位で比較した。抗井の数、抗井の深度ともに、本実施形態の計算条件とは異なるが、蒸気圧力、蒸気温度、蒸気流量とも、本実施形態の手法により十分達成可能な数値である。
【0098】
上述したように、地下の最下部まで高度処理された水を、加圧ポンプと自然の圧力を利用して送り込むことにより、水注入管下部と水注入管上部で圧力勾配が形成される。水注入管上部における圧力は、タービンが必要とする入口圧であり、水注入管内部および配管類の圧損は一桁少ない数値であるため、原理上は抗井の深さはタービンが必要とする圧力分があればよいが、加圧ポンプによって加圧することによって、高温度の地熱帯の利用および大容量の地熱発電への適用が可能となる。
【0099】
図8に、水注入管に供給される水に対して、地上にて加圧するタイプの沸騰水型地熱交換器をバイナリー方式の発電に適用した沸騰水型地熱発電装置の構成を示す。
図8において、地熱交換器1の機能は図5に基づいて説明したものと同様であり、水注入管2に供給される水に加圧するための加圧ポンプ31が地上に配置されている。水注入管2に供給される水は、地上にて加圧ポンプ31によって加圧されるため、水注入管2の下部においては、この加圧による圧力と、地上からの深さにほぼ比例した圧力を合計した加圧水とすることができる。
【0100】
地熱交換器1の蒸気取出管3から取り出された蒸気単相流は、蒸発器20に送られ、低沸点媒体を加熱する。加熱された低沸点媒体は、低沸点媒体蒸気となってタービン6へ移動して、タービン6を回す動力となる。この動力によって発電機7により発電がなされる。
【0101】
タービン6を出た低沸点媒体蒸気はその後、凝縮器21にて冷却水により冷却されて低沸点媒体に戻り、蒸発器20に送られる。この繰り返しにより、継続的に発電がなされる。必要に応じて、補給水11は水処理装置10を介して補給水槽12から補給される。補給水11の水位は、補給水調節弁13によって調節される。蒸気取出管3とタービン6との間には、蒸気調節弁15が設けられている。
【0102】
図9に、水注入管を蒸気取出管の周方向に複数配置した地熱交換器を示す。図9(a)は、その平面図であり、図9(b)は、その正面図である。
図9に示す地熱交換器1においては、水注入管2が蒸気取出管3の外側に配置される場合を示しており、水注入管2は蒸気取出管3の外周に沿って、蒸気取出管3の周方向に複数配置されている。蒸気取出管3には、その下部領域に、複数の噴出口5が設けられており、水注入管2の底層部33と蒸気取出管3とは、この噴出口5によって開口状態となっている。すなわち、噴出口5は、水注入管2の底層部33と蒸気取出管3との境界に設けられている。それぞれの水注入管2に注入された水は、蒸気取出管3の下方に設けられた底層部33へ流れ込む構造となっており、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となって、噴出口5を介して噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出す。
【0103】
蒸気取出管3はタービンに接続されており、蒸気取出管3内の圧力は、タービンが必要とする圧力近くに減圧されている。設計値の一例として、外管である水注入管2の外径を42.7mm(内径を35.7mm)として8本設置し、内管である蒸気取出管3の外径を89.1mm(内径を80.7mm)とし、水注入管2と蒸気取出管3とからなる全体の仕上がり径を200mmとすることができる。また、蒸気取出管3の深さを950mとし、水注入管2の底層部33の上下方向の寸法を500mmとすることができる。
【0104】
水注入管2に自然の落差を利用して供給された水、あるいは地上に設置された加圧ポンプによって加圧された水は、水注入管2の底層部33において、地上からの深さにほぼ比例した圧力が加えられ、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。蒸気取出管3内は減圧されているため、この圧力差を利用して、高温圧力水は噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、タービンが必要とする圧力と、水注入管2の底層部33との圧力差を利用して気化して蒸気単相流に変換される。地下にて生成された蒸気単相流は、蒸気取出管3とタービンとの圧力差でタービンへ移動したのち、タービン内で膨張してタービンを回す動力となる。この動力によって発電機により発電がなされる。
【0105】
水注入管2の底層部33と蒸気取出管3との境界に噴出口5を設けることとしたのは、水注入管2が蒸気取出管3の外側に沿って周方向に複数配置される場合には、水注入管2と蒸気取出管3との接触部位が極めて狭い面積となるため、水注入管2と蒸気取出管3との境界に噴出口5を多数設けることが困難であるからである。
【0106】
水注入管2は、工事の便宜上、10m程度の長さの管を上下方向に連結しながら埋設され、この連結のためにカップリング34が用いられる。従って、完成された水注入管2の外周には、上下方向に間隔をおいてカップリング34が取り付けられた構造となっている。
【0107】
水注入管2の地表付近の外周側には、空隙部35が形成されるようにセメンティング36が施されている。これは、地表付近は地中に比べて低温であることから、水注入管2に注入される水がこの領域において冷却されることを防止するために、断熱性の高い空気で水注入管2の地表付近の外周領域を覆うようにするためである。
【0108】
このように、水注入管2を蒸気取出管3の周方向に複数配置すると、水注入管2を1本の管で仕上げる場合と比較して、地熱地帯から伝熱される伝熱表面積は約2倍に増大する。そのため、熱伝導性能が向上し、工事費の削減に寄与する。水注入管2は、地熱地帯からの熱伝導性能を高めるために、熱伝導性の高い材料で形成するか、あるいは熱伝導特性の優れた材質のものをメッキ処理して形成してもよい。
【0109】
上述したように、本発明においては、水注入管に自然の落差を利用して水を供給する実施形態と、水注入管に供給される水に対して地上にて加圧する実施形態を示しているが、いずれの実施形態においても、地中に設けられ減圧された蒸気取出管に高温圧力水を噴出させて、地中の蒸気取出管内にて、蒸気のみからなる蒸気単相流に変換する方法を採っている点に大きな特徴があり、これによる大きな利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れた沸騰水型地熱交換器と、沸騰水型地熱発電装置および沸騰水型地熱発電方法として広く利用することができる。特に、既存の坑井を有効利用できることや、発電設備の建設にあたっての環境負荷を軽減できる点等において顕著な優位性があり、原子力発電所の事故により、原子力に多くを依存していた我が国のエネルギー政策が根本から見直すことを余儀なくされている現状を考慮すると、産業上の利用に大きく寄与するものである。
【符号の説明】
【0111】
1 地熱交換器
2 水注入管
3 蒸気取出管
4 地熱帯
5 噴出口
6 タービン
7 発電機
8 復水器
9 冷却水
10 水処理装置
11 補給水
12 補給水槽
13 補給水調節弁
15 蒸気調節弁
16 緊急減圧弁
17 圧力調節弁
20 蒸発器
21 凝縮器
30 引き抜きポンプ
31 加圧ポンプ
32 蒸気ヘッダー
33 底層部
34 カップリング
35 空隙部
36 セメンティング
【要約】
【課題】配管内における圧損や熱ロスの発生を抑制し、地中に埋設される管の径を小さくすることを可能とし、循環させる水の量を削減することができ、熱交換効率に優れた沸騰水型地熱交換器と、沸騰水型地熱発電装置および沸騰水型地熱発電方法を提供する。
【解決手段】地熱交換器1は、地中に設けられて地上から水が供給される水注入管2と、水注入管2に接するように地中に設けられた蒸気取出管3とを備えている。蒸気取出管3には、その下部領域に複数の噴出口5が設けられ、蒸気取出管3内の圧力は、タービン6が必要とする圧力近くに減圧されている。水注入管2に供給された水は、水注入管2の底部付近において、地上からの深さにほぼ比例した圧力が加えられ、地熱帯4から熱が供給されて高温圧力水となる。高温圧力水は噴出口5から噴霧状態で蒸気取出管3内へ噴き出し、蒸気単相流に変換されて、発電機7により発電がなされる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9