【実施例】
【0031】
試験例1:一本鎖cDNAの合成反応におけるプライマー終濃度の検討
(1)生体試料からのRNAの抽出
K562細胞から、以下の手順に従ってRNeasy mini kit(QIAGEN社)を用いてトータルRNAを抽出した。なお、用いた試薬およびカラムは、全てRNeasy mini kitに含まれている。
K562細胞(1×10
6 cell)にRLTバッファー693μlと2-メルカプトエタノール7μlを加え、混合した。さらに、100%エタノール500μlを加えて、ピペッティングにより混合した。混合液をカラムにアプライし、10,000×g、25℃で15秒間遠心した後、ろ液を捨てた。このカラムに350μlのRW1をカラムにアプライし、10,000×g、25℃で15秒間の遠心した後、ろ液を捨てた。このカラムにDNase溶液10μlとRDDバッファー70μlとの混合液をカラムにアプライし、室温で20分間静置した。さらに、350μlのRW1をカラムにアプライし、10,000×g、25℃で15秒間の遠心した後、ろ液を捨てた。このカラムにRPEバッファー500μlをアプライし、10,000×g、25℃で15秒間遠心した後、ろ液を捨てた。さらに、カラムにRPEバッファー500μlをアプライし、10,000×g、25℃で5分間遠心した後、カラムを新しいコレクションチューブに移した。カラムの中心にRNaseフリー水を30μlアプライして室温で1分間静置し、14,000 rpm、25℃で1分間遠心した。さらに、カラムの中心にRNaseフリー水を30μlアプライして室温で1分間静置し、14,000 rpm、25℃で1分間遠心してトータルRNA溶液を得た。
【0032】
(2)ビオチン標識cRNAの調製
得られたトータルRNAを鋳型として、T7-オリゴdTプライマーを5pM、500 pM、5nM、50 nM、500 nMおよび5μMの各終濃度で用いて一本鎖cDNAを合成し、該一本鎖cDNAからビオチン標識cRNAを調製した。具体的には、以下の手順に従って、GeneChip One-Cycle Target Labeling and Control Reagents(Affymetrix社製)を用いてビオチン標識cRNAを調製した。
【0033】
(2-1)一本鎖cDNAの合成
PCR用のチューブに、以下の試薬を入れ、70℃にて10分間、次いで4℃にて2分間インキュベートした。なお、T7-オリゴdTプライマーの配列は、配列番号1に示されるとおりである。
トータルRNA(1μg) 3μl
RNaseフリー水 5μl
20倍希釈されたPoly-A RNA Control 2μl
T7-オリゴdTプライマー 2μl
合計 12μl
ここに、以下の試薬をさらに添加してタッピングした。
5×First Strand Reaction Mix 4μl
DTT 0.1M 2μl
dNTP 10 mM 1μl
合計 7μl
42℃にて2分間インキュベートし、Super Script IIを1μl加えて42℃にて1時間、次いで4℃にて2分以上インキュベートして、一本鎖cDNAを合成した。
【0034】
(2-2)二本鎖cDNAの合成
合成された一本鎖cDNAに以下の試薬を添加し、タッピングした。
RNaseフリー水 91μl
5×2
nd Strand Reaction Mix 30μl
dNTP 10mM 3μl
E. coli DNAリガーゼ 1μl
E. coli DNAポリメラーゼI 4μl
RNaseH 1μl
合計 130μl
混合物を16℃にて2時間インキュベートし、T4 DNAポリメラーゼIを2μl加え、16℃にて5分間インキュベートした。その後、0.5M EDTAを10μl加えて、二本鎖cDNAを合成した。
【0035】
(2-3)cDNAの洗浄
合成された二本鎖cDNAを1.5 mLチューブに移し、600μlのcDNA Binding Bufferを加え、ボルテックスにて混和した。500μlを、cDNA Cleanup Spin Columnにいれ、10000 rpmで1分間遠心し、ろ液を捨てた。残りのcDNAもカラムに載せ、同様にして遠心した。カラムを新しい2 mLチューブに移し、750μlのcDNA Wash Bufferをカラムに載せて遠心し、ろ液を捨てた。さらに、このカラムを14000 rpmで5分間遠心した。カラムを新しい1.5 mLチューブに移し、14μlのcDNA Elution Bufferをカラムに載せ、1分間放置した後に、14000 rpmで1分間遠心して、cDNAを洗浄した。
【0036】
(2-4)IVTラベリング
得られたcDNAから、以下の手順によりインビトロ転写(IVT)にてビオチン標識cRNAを合成した。
PCR用チューブに以下の各試薬を入れ、軽く混合して、37℃にて16時間インキュベートして、cRNAを得た。なお、用いた各試薬はOne-Cycle Target Labeling and Control Reagentsキットに含まれる。
工程(2-3)からのcDNA 12μl
RNaseフリー水 8μl
10×IVT Labeling Buffer 4μl
IVT Labeling NTP Mix 12μl
IVT Labeling Enzyme Mix 4μl
合計 40μl
【0037】
(2-5)cRNAの洗浄
得られたcRNAを1.5 mLチューブに移し、60μlのRNaseフリー水を加え、ボルテックスで混合した。350μlのIVT CRNA Binding Bufferを加え、ボルテックスで混合し、250μlの100% EtOHを加えてピペットで混合した。cRNA Cleanup Spin Columnに載せ、1000 rpmで15秒間遠心し、カラムを新しいチューブに移した。500μlのIVT cRNA Wash Bufferをカラムに入れ、10000 rpmで15秒間遠心し、ろ液を捨てた。80% EtOHを500μl入れ、10000 rpmで15秒間遠心し、ろ液を捨てた。14000 rpmで5分間遠心してカラムを乾燥させた後に、新しいチューブにカラムを移し、RNaseフリー水11μlをカラムに載せて1分間放置し、14000 rpmで1分間遠心した。さらに、RNaseフリー水10μlをカラムに載せて1分間放置し、14000 rpmで1分間遠心した。得られたろ液を200倍希釈して吸光度を測定し、cRNAの量を測定した。各プライマー濃度とcRNA収量との関係を、
図1に示した。
【0038】
T7-オリゴdTプライマーの終濃度を調節することによりcRNA収量を一定にするためには、該プライマー濃度が律速になる条件、すなわちmRNA量に対してT7-オリゴdTプライマーが少ない状態を見出さねばならない。さらに、その条件で得られるcRNA量がマイクロアレイによる核酸の検出に十分な量でなければならない。
図1より、適当なT7-オリゴdTプライマーの終濃度は、500 pM〜500 nMであることが明らかとなった。以降の試験では、プライマーの終濃度を5nMに設定した。
【0039】
試験例2:鋳型RNA量とcRNA収量との関係の検討
上記の試験例1(1)と同様にして得たRNA 2.5、5.0または10μgを鋳型とし、T7-オリゴdTプライマーを終濃度5nMまたは5μMで用いて、試験例1(2-1)と同様にして一本鎖cDNAを合成した。そして、得られた一本鎖cDNAから、試験例1(2-2)〜(2-5)と同様にしてビオチン標識cRNAを合成して、その量を測定した。結果を以下の表1に示す。また、2.5μgのRNAを鋳型とした場合のcRNA収量を1とした場合の、cRNAの収量の比を
図2に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1および
図2に示されるように、プライマー濃度が5μMの反応系では、鋳型として用いたRNAの量に比例して得られるcRNA量が増加していた。これに対し、プライマー濃度が5nMの反応系では、いずれの量のRNAを鋳型としてもほぼ一定量のcRNAを得ることができた。
したがって、本発明の一本鎖cDNAの合成方法および検体の調製方法により、鋳型RNA量に依存せずに、ほぼ一定量のcRNAを合成できることが示された。
【0042】
試験例3:鋳型RNA量とマイクロアレイの測定結果との関係の検討
上記の試験例1(1)と同様にして得たRNA 1.0または10μgを鋳型とし、T7-オリゴdTプライマーを終濃度5nMで用いて、試験例1(2-1)と同様にして一本鎖cDNAを合成した。そして、得られた一本鎖cDNAから、試験例1(2-2)〜(2-5)と同様にしてビオチン標識cRNAを合成して、その量を測定した。得られたcRNAと、以下の試薬をチューブに入れ、混合して94℃にて35分間インキュベートしてcRNAをフラグメント化した後に、4℃にて保存した。なお、用いた試薬は、One-Cycle Target Labeling and Control Reagentsキットに含まれるものである。
cRNA 10μl
5×Fragmentation Buffer 8μl
RNaseフリー水 22μl
合計 40μl
【0043】
得られた断片化されたビオチン標識cRNAを用いて、GeneChip (登録商標)でのハイブリダイゼーションにより、遺伝子の発現量の測定を行った。用いた核酸チップは、Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayであった。また、ハイブリダイゼーションの条件は、以下のとおりであった。
<ハイブリダイゼーション溶液>
断片化されたcRNA 15μg
Control Oligo B2 5μl
20×Eukaryotic Hyb control 15μl
2×Hybridization Mix 150μl
DMSO 30μl
ヌクレアーゼフリー水 合計300μlまで
<ハイブリダイゼーション温度条件>
99℃、5分→45℃、5分→14000 rpm、5分
【0044】
チップの染色及び洗浄は、Fluidic Station 450(Affymetrix社)装置を用い、ハイブリッド形成したターゲットcRNAをストレプトアビジン-フィコエリスリンコンジュゲートにより染色するGeneChip Hybridization Wash and Stain kit(Affymetrix社)のキットを使用説明書に従って用いて行った。
スキャニングは、GeneChip Scanner 3000 (Affymetrix)を用いて行った。
【0045】
DNAマイクロアレイ解析ソフトであるGeneChip Operating Software(GCOS;Affymetrix社)を用いて、スキャニングした画像データをCELファイルに変換し、ArrayAssist(Stratagene社)ソフトウェアで正規化し、各鋳型RNA量における測定結果間の相関係数を算出した。正規化のアルゴリズムは、MAS5.0を用いた。結果を表2および
図3に示す。なお、表2において、「SF」とは正規化する際に乗じた係数を示し、「%P」とはDNAチップに搭載されたプローブで検出される遺伝子のうち有意に発現しているとされた遺伝子の割合を示し、「%A」とはDNAチップに搭載されたプローブで検出される遺伝子のうち発現していないとされた遺伝子の割合を示し、「GAPDH3/5比」とはGAPDH遺伝子の配列に対し3'側を検出するプローブのシグナル値と5'側を検出するプローブのシグナル値の比(使用したRNAが分解されていると高い値を示す。基準は3以内)を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
鋳型RNA量1.0μgおよび10μgのデータ間の相関係数は、R
2=0.989と非常に高かった。したがって、本発明の核酸の検出方法では、鋳型として用いたRNA量に関わらず、同程度に検出対象の核酸をマイクロアレイにより検出できることが示唆された。
【0048】
比較例:IVT反応におけるNTPミックスの濃度とcRNA収量との関係の検討
本発明の一本鎖cDNAの合成方法および検体の調製方法においては、用いるプライマー濃度を調節することにより、一定量のcRNAを得るという課題を解決した。他方、本発明者らは、プライマー濃度以外に、RNA合成の基質となるNTPミックスについてもcRNA収量との関係を検討した。すなわち、IVT反応に用いるNTPミックスをある一定量の生成物(cRNA)が得られた時点で枯渇させ、合成反応を終了させることが可能であるかを調べるために実験を行なった。
【0049】
上記の試験例1(1)と同様にして得たRNA0.25μgを鋳型とし、T7-オリゴdTプライマーを終濃度5μMで用いて、試験例1(2-1)と同様にして一本鎖cDNAを合成した。そして、得られた一本鎖cDNAから、IVT Labeling NTP Mixを23.0μM〜3.0mMの終濃度としたこと以外は試験例1(2-2)〜(2-5)と同様にしてビオチン標識cRNAを合成して、その量を測定した。各NTPミックス濃度とcRNA収量との関係を、
図4に示した。
【0050】
NTPミックスの濃度とcRNA収量との間には比例関係があることが分かった。したがって、NTPミックスは飽和状態にないことが示唆された。これはNTPミックスの濃度が反応速度の律速となっている(反応速度がNTP mix濃度に依存している)ためであると予想される。
この点を確認するため終濃度3.0 mMおよび1.5 mMのNTPミックスを用いた場合の反応時間(2時間、4時間、6時間、16時間)とcRNA収量との関係を調べた。結果を
図5に示す。
【0051】
図5より、反応速度はNTPミックスの濃度に依存して変化することが明らかとなった。したがって、NTPミックスの濃度を低くしても反応速度が低下するので、反応中にNTPミックスが枯渇することはないと予想される。よって、NTPミックスの濃度を調整することにより、一定量のcRNAを得るという方法は不可能であると考えられる。