【実施例】
【0029】
PEG介在形質転換又はエレクトロポレーションのいずれかを用いた標的化突然変異誘発頻度の比較
プロトプラスト単離
タバコ(Nicotiana tabacum)の栽培品種Petit Havana株SR1のin vitroシュート培養を、背の高い(high)ガラスビン中の0.8% Difcoアガーを含むMS20培地において、2000ルクスで16時間/8時間の光周期、25℃、60%RH〜70%RHで維持する。MS20培地は、2%(w/v)スクロース及び0.8% Difcoアガーを含有するホルモン無添加の基本的なムラシゲ−スクーグ培地(Murashige, T. and Skoog, F., Physiologia Plantarum, 15: 473-497, 1962)である。3週齢〜6週齢のシュート培養物の完全に展開した葉を採取する。葉を1mmの細片にスライスし、これを次に、30分間の前原形質分離(preplasmolysis)処理のために、45mlのMDE基本培地を含有する大きな(100mm×100mm)ペトリ皿に移す。MDE基本培地は900mlの全容量中に、0.25gのKCl、1.0gのMgSO
4・7H
2O、0.136gのKH
2PO
4、2.5gのポリビニルピロリドン(分子量10000)、6mgのナフタレン酢酸、及び2mgの6−ベンジルアミノプリンを含有するものであった。溶液のオスモル濃度を、ソルビトールを用いて600mOsm/kgに調節し、pHを5.7とする。次いで5mLの酵素原液SR1を添加する。酵素原液は、100ml当たり750mgのCellulase Onozuka R10、500mgのドリセラーゼ、及び250mgのマセロザイムR10から成り、ワットマン紙で濾過して濾過滅菌したものである。暗所、25℃で一晩消化を進行させる。消化させた葉を50μmのナイロン篩を通して濾過し、滅菌ビーカーに入れる。等量の冷KCl洗浄培地を使用して篩を洗浄し、プロトプラスト懸濁液と共にプールする。KCl洗浄培地は、1L当たり2.0gのCaCl
2・2H
2O、及びオスモル濃度を540mOsm/kgとするのに十分な量のKClから成るものであった。懸濁液を10mL容の試験管に移し、プロトプラストを4℃、85×gで10分間ペレット化する。上清を捨て、プロトプラストペレットを5mLの冷MLm洗浄培地中に慎重に再懸濁する。MLm洗浄培地は、正常濃度の2分の1の量のMS培地(Murashige, T. and Skoog, F., Physiologia Plantarum, 15: 473-497, 1962)の主要栄養素、1L当たり2.2gのCaCl
2・2H
2O、及びオスモル濃度を540mOsm/kgとする量のマンニトールを含むものである。2本の試験管の内容物を合わせ、4℃、85×gで10分間遠心分離する。上清を捨て、プロトプラストペレットを5mLの冷MLs洗浄培地中に慎重に再懸濁する。MLs洗浄培地は、MLm培地のマンニトールをスクロースに置き換えたものである。2本の試験管の内容物をプールし、1mLのKCl洗浄培地を、下相を乱すことのないよう注意しながらスクロース溶液に添加する。プロトプラストを4℃、85×gで10分間遠心分離する。生プロトプラストを含有するスクロースとKCl溶液との間の中間相を慎重に回収する。等量のKCl洗浄培地を添加し、慎重に混合する。プロトプラスト密度を血球計算器を用いて測定する。
【0030】
PEG形質転換
プロトプラスト懸濁液を5℃、85×gで10分間遠心分離する。上清を捨て、プロトプラストペレットをKCl洗浄培地中に、最終濃度が1×10
6個/mLとなるよう再懸濁した。10mL容の試験管中で、250μLのプロトプラスト懸濁液、1.6nmolのss変異原性核酸塩基、及び250μlのPEG溶液を穏やかに且つ十分に混合する。室温で20分間のインキュベーション後、5mLの0.275M 冷Ca(NO
3)
2を滴下する。プロトプラスト懸濁液を4℃、85×gで10分間遠心分離する。上清を捨て、プロトプラストペレットを、50μg/mLのセフォタキシム及び50μg/mLのバンコマイシンを添加した1.25mLのT
0培養培地中に慎重に再懸濁した。ss変異原性核酸塩基培養培地は、950mgのKNO
3、825mgのNH
4NO
3、220mgのCaCl
2・2H
2O、185mgのMgSO
4・7H
2O、85mgのKH
2PO
4、27.85mgのFeSO
4・7H
2O、37.25mgのNa
2EDTA・2H
2O、へラー(Heller's)培地(Heller, R., Ann Sci Nat Bot Biol Veg 14: 1-223, 1953)による主要栄養素、モレル−ウェットモア(Morel and Wetmore's)培地(Morel, G. and R.H. Wetmore, Amer. J. Bot. 38: 138-40, 1951)によるビタミン、2%(w/v)スクロース、3mgのナフタレン酢酸、1mgの6−ベンジルアミノプリン、及びオスモル濃度を540mOsm/kgとする量のマンニトールを含有するものであった(1L当たり、pH5.7)。懸濁液を35mmペトリ皿に移す。等量のT
0アガロース培地を添加し、穏やかに混合する。試料を暗所、25℃でインキュベートし、さらに下記に記載されるように培養する。
【0031】
エレクトロポレーション
プロトプラストを5℃、85×gで10分間遠心分離する。上清を捨て、ペレットを10mM HEPES、80mM NaCl、0.04mM CaCl
2、0.4M マンニトールから成る氷冷エレクトロポレーションバッファー(pH5.7、マンニトールを用いて540mOsm/Kgに調節した)中に、最終濃度が1×10
6個/mLとなるよう再懸濁する。プロトプラストは手順の間中氷上に維持する。0.4cm幅のエレクトロポレーションキュベットに、4.5nmolのss変異原性核酸塩基及び700μLのプロトプラスト懸濁液を添加する。PCモジュール及びCEモジュールを備えるBioradのGenePulser XCellエレクトロポレーションシステムを用いて、以下のパラメータに従って細胞懸濁液に単一の減衰(exponential decay)パルスを送達する:
電界強度 500V/cm
静電容量 950μF
これらの条件下で、試料の抵抗は約30オームであり、得られる時定数は約30msである。これらのパラメータを、エレクトロポレーションの24時間後にタバコプロトプラストにおいて最高レベルのGFPの一時的発現を与えるパラメータとして選択した。パルスを加えた後、プロトプラストをキュベットにおいて室温で30分間回復させる。次いでプロトプラストを1mLのT
0培養培地に回収し、10mL容の試験管に移す。キュベットをさらに5mLのT
0培養培地で洗浄し、プロトプラスト懸濁液と共にプールする。十分に且つ穏やかに混合した後、50μg/mLのセフォタキシム及び50μg/mLのバンコマイシンを添加し、1.25mLのプロトプラスト懸濁液を35mmペトリ皿に移す。等量のT
0アガロース培地を添加し、混合物を穏やかにホモジナイズする。試料を暗所、25℃でインキュベートし、さらに下記に記載されるように培養する。
【0032】
プロトプラスト培養
10日間の培養の後、アガローススラブを6等分し、20nM クロルスルフロンを添加した22.5mLのMAP1AO培地を含有するペトリ皿に移す。この培地は、950mgのKNO
3、825mgのNH
4NO
3、220mgのCaCl
2・2H
2O、185mgのMgSO
4・7H
2O、85mgのKH
2PO
4、27.85mgのFeSO
4・7H
2O、37.25mgのNa
2EDTA・2H
2O、元の濃度の10分の1のムラシゲ−スクーグ培地(Murashige, T. and Skoog, F., Physiologia Plantarum, 15: 473-497, 1962)による主要栄養素、モレル−ウェットモア培地(Morel, G. and R.H. Wetmore, Amer. J. Bot. 38: 138-40, 1951)によるビタミン、6mgのピルビン酸塩、各12mgのリンゴ酸、フマル酸及びクエン酸、3%(w/v)スクロース、6%(w/v)マンニトール、0.03mgのナフタレン酢酸、並びに0.1mgの6−ベンジルアミノプリンから成るものであった(1L当たり、pH5.7)。試料を微光下、25℃で6週間〜8週間インキュベートする。次いで成長中のカルスをMAP1培地に移し、さらに2週間〜3週間発生させる。MAP1培地はMAP1AO培地と同じ組成を有するが、6%ではなく3%(w/v)のマンニトール、及び46.2mg/lのヒスチジンを含む(pH5.7)。MAP1培地は0.8%(w/v)Difcoアガーを用いて凝固させた。カルスを次に滅菌鉗子を用いてRP培地に移す。RP培地は、273mgのKNO
3、416mgのCa(NO
3)
2・4H
2O、392mgのMg(NO
3)
2・6H
2O、57mgのMgSO
4・7H
2O、233mgの(NH
4)
2SO
4、271mgのKH
2PO
4、27.85mgのFeSO
4・7H
2O、37.25mgのNa
2EDTA・2H
2O、公開された濃度の5分の1のムラシゲ−スクーグ培地による主要栄養素、モレル−ウェットモア培地(Morel, G. and R.H. Wetmore, Amer. J. Bot. 38: 138-40, 1951)によるビタミン、0.05%(w/v)スクロース、1.8%(w/v)マンニトール、0.25mgのゼアチン、及び41nM クロルスルフロンから成り(1L当たり、pH5.7)、0.8%(w/v)Difcoアガーを用いて凝固させてある。2週間〜3週間後、成熟した芽を発根培地に移す。
【0033】
ss変異原性核酸塩基
全てのss変異原性核酸塩基は、Eurogentec(Seraing,Belgium)により合成されたものであり、逆相HPLCにより精製し、滅菌ミリQ水中に再懸濁した。使用の前に、ss変異原性核酸塩基を95℃まで5分間加熱した。ss変異原性核酸塩基06Q262は、単一のミスマッチ(下線を引いたヌクレオチド)をタバコALS遺伝子(アクセッション番号:X07644)のコドン位置P194に導入するよう設計したものであり、CCAからCAA(P194Q)への変換をもたらし得る。ss変異原性核酸塩基06Q261は、タバコALS遺伝子配列と完全に一致し、陰性対照とされる。ss変異原性核酸塩基06Q263は、40個のヌクレオチドのランダムな組み合わせから成り、陰性対照とされる。
【0034】
06Q261 5’−TCAGTACCTATCATCCTACGTGGCACTTGACCTGTTATAG[配列番号1]
06Q262 5’−TCAGTACCTATCATCCTACGT
TGCACTTGACCTGTTATAG[配列番号2]
06Q263 5’−ATCGATCGATCGATCGATCGATCGATCGATCGATCGATCG[配列番号3]
【0035】
各処理によるプロトプラスト生存率
PEG形質転換及びエレクトロポレーションの両方の後のプロトプラスト生存率を、形質転換の24時間後に、蛍光生体染色色素フルオレセイン二酢酸(FDA)を用いてエステラーゼ活性により評価する。アセトン中5mg/mLの原液FDA 2μLを、1mLの形質転換プロトプラストに添加する。全集団のうち蛍光プロトプラストの割合を血球計算器を用いて計数する。GFP LP(EX480/40、DM505、BA510)フィルターセットを備える、NikonのEclipse E600正立落射蛍光顕微鏡を用いて観察を行なう。100Wの超高圧水銀ランプによって励起が行なわれる。NIS Elementの画像取得/分析ソフトウェアを実行するPCに取り付けたDS−U1コントローラに接続されたDS−2MBWc CCDカメラを用いて画像を取得する。
【0036】
結果
PEG形質転換及びエレクトロポレーションの両方を用いた形質転換の結果の概要を表1に示す。PEG形質転換を用いた場合、プロトプラスト生存率はエレクトロポレーションと比較して有意に高い。エレクトロポレーション自体の性質は、PEG形質転換よりもプロトプラスト生存率に対する悪影響が大きく、PEG形質転換ははるかに高い回復/生存率と共により高い標的化突然変異誘発効率をもたらす。標的化突然変異誘発効率は、クロルスルフロン存在下でのプロトプラストのインキュベーションの後、スコア付けする。
【0037】
【表1】
【0038】
** 回収されたプロトプラスト集団のうち、FDA染色後の蛍光プロトプラストの百分率として表す。
【0039】
結果は3回の独立した反復試験の平均±SDである。
【0040】
ALSのPCR増幅及びシークエンシング:
クロルスルフロン抵抗性タバコ微小コロニーからDNAをDNeasyキット(Qiagen)を用いて単離し、PCR反応において鋳型として使用する。タバコALS遺伝子における標的コドンの変換を、この遺伝子のコドン194を含む776bpの断片を増幅するプライマー5’−GGTCAAGTGCCACGTAGGAT[配列番号4]及び5’−GGGTGCTTCACTTTCTGCTC[配列番号5]を用いて検出する。除草剤抵抗性タバコカルスにおけるヌクレオチド変換を、PCR産物をpCR2.1::TOPO(Invitrogen)にクローニングし、且つ個々のプラスミドをシークエンシングすることにより確認する。タバコは2つのALSの対立遺伝子(SurA及びSurB)を含有する。これらの遺伝子座のいずれかのP194コドンでのヌクレオチド変換は、クロルスルフロンに対する抵抗性を付与するのに十分である。タバコは異質四倍体種であるため、タバコにおいてはTNEが起こり得る潜在的標的は8つ存在する。これを踏まえると、CCAからCAAへの変換を有する遺伝子を検出するためには、PCR産物を含有するプラスミドクローンを10個超シークエンシングすることが必要であった。このことから、各々の抵抗性カルスにおいて、8つのALS対立遺伝子のうち1つしか標的化突然変異誘発介在ヌクレオチド変換を受けなかったことが示唆される。この
ALSのPCR増幅及びシークエンシングによる研究において作製した全てのカルスについては、期待されるCCAからCAAへのヌクレオチド変換が観察された。