(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料ガスとして炭化水素系ガス、酸素系ガスならびに炭酸ガスを触媒と接触反応させ、炭化水素系ガスの燃焼反応および改質反応を生じさせることにより、主として水素と一酸化炭素からなる合成ガスを製造する合成ガスの製造方法であって、
上記改質反応の起動時に、
上記燃焼反応および改質反応を生じさせる改質器内を所定の起動開始温度に昇温したのち、
上記原料ガスを導入する際に、あらかじめ改質器内のカーボン析出が減少するよう、炭酸ガスの導入量を炭化水素系ガス中のCに対してモル比で1.5以上として所定の合成ガスを得る反応に必要な量を超える量に増量しておき、
上記原料ガスの導入により改質器内が700℃以上の起動終了温度まで上昇した後、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量まで減少させることを特徴とする合成ガス製造方法。
原料ガスとして炭化水素系ガス、酸素系ガスならびに炭酸ガスを触媒と接触反応させ、炭化水素系ガスの燃焼反応および改質反応を生じさせることにより、主として水素と一酸化炭素からなる合成ガスを製造する合成ガスの製造装置であって、
上記改質反応の起動時に、
上記燃焼反応および改質反応を生じさせる改質器内を所定の起動開始温度に昇温したのち、
上記原料ガスを導入する際に、あらかじめ改質器内のカーボン析出が減少するよう、炭酸ガスの導入量を炭化水素系ガス中のCに対してモル比で1.5以上として所定の合成ガスを得る反応に必要な量を超える量に増量し、
上記原料ガスの導入により改質器内が700℃以上の起動終了温度まで上昇した後、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量まで減少させるように制御することを特徴とする合成ガス製造装置。
【背景技術】
【0002】
水素と一酸化炭素を主成分とした合成ガスは有機合成の原料用途で使用されており、今後、水素と一酸化炭素を様々な比率で配合した合成ガスの需要が伸びてくると予測される。その中でも、例えばフィッシャー・トロプシュ合成やメタノール合成、ジメチルエーテル合成などの有機合成では、H
2/CO比が1〜2程度と比較的低いものが望まれるケースが増えている。
【0003】
ところで、水素と一酸化炭素を主成分として、H
2/CO比が1〜2程度の合成ガスやCOガスを製造する方法では、下記の式(1)で表されるメタンの炭酸ガス改質法が有用である。
CH
4+CO
2→2H
2+2CO…(1)
【0004】
その中でも、メタンと炭酸ガスに加え、酸素を原料ガスとして反応器に供給し、同一触媒上で燃焼反応と改質反応を進行させる熱中和式炭酸ガス改質プロセスが、設備の縮小やメンテナンス費の低減の面で有利である。
【0005】
下記の特許文献1では、四元系触媒を使用した熱中和式炭酸ガス改質反応に関する記載がある。ところが、本文献は、実施例において「CH
4の部分酸化反応」および「外部加熱方式のCH
4の炭酸ガス/水蒸気共改質反応」についてのみを開示するに止まっている。すなわち、外部からの加熱を行わないで改質を行うことについては実質的に開示されていない。
【0006】
下記の特許文献2では、スチームを含まない外部加熱方式の炭酸ガス改質反応を実施している。ところが、本文献では、反応に必要な炭酸ガス量の12倍もの炭酸ガスを添加している。
【0007】
下記の特許文献3では、熱中和式炭酸ガス改質反応に類似するものとして、内部熱供給式炭酸ガス改質反応が開示されている。ところが、本文献は、実施例において、反応補助用のヒータにより改質反応に必要な熱の一部を外部から補う反応器を開示するに過ぎない。
【0008】
すなわち、いずれの例も、改質触媒の活性を検証することに主眼を置いた基礎研究段階の文献であり、本質的な「外部加熱を行わない改質方法」および「不必要に過度の炭酸ガスを添加しないでカーボンの析出を有効に抑えた改質方法」といった、実用的な条件における熱中和式炭酸ガス改質方法を開示するものではない。このように、いずれの例も、合成ガス製造装置として実用レベルに至るものではないのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、熱中和式炭酸ガス改質反応には、「実用的な条件下における熱中和式炭酸ガス改質方法の確立」および「実用的な条件下での触媒上におけるカーボン析出有無の把握」という2つの問題がある。
【0012】
(1)実用的な条件下における熱中和式炭酸ガス改質方法の確立
熱中和式炭酸ガス改質反応では、炭化水素の燃焼反応と炭酸ガス改質反応のそれぞれに対して高い活性を持つ触媒が必要になる。特許文献1では、上述した四元系触媒が両活性を持つことについて個別の試験により実証しているが、炭化水素、炭酸ガスおよび酸素を同時に反応器に導入する熱中和式炭酸ガス改質反応については、実施されていない。そのため、原料組成や温度、圧力といった効率よく合成ガスを発生させるための改質条件の策定はもとより、外部加熱を全く行わない熱中和式炭酸ガス改質反応が成立することさえ確認はされていない。
【0013】
(2)実用的な条件下での触媒上におけるカーボン析出有無の把握
上記非特許文献1や非特許文献2に記されているように、炭酸ガス改質反応では、熱中和式に限らず、反応の過程で改質触媒上にカーボンが析出し、触媒活性の低下や反応器閉塞等のトラブルの原因になることが知られている。
そこで、カーボンの析出を伴わない改質触媒の研究開発は現在も活発に行われており、例えば上記特許文献1に記載されている改質触媒も高い改質反応活性と高いカーボン析出耐性を併せ持つことを特徴としている。
しかしながら、この特許文献1は、外部加熱によって改質器内の温度を制御した実施例、または酸化剤であるスチームや炭酸ガスを過剰に供給した実施例が開示されているに過ぎない。すなわち、外部加熱を全く行わずにかつ適正な原料ガス組成で熱中和式炭酸ガス改質反応を実施して、カーボンの析出を十分に抑制できることについて、一切の言及がない。
【0014】
ところで、触媒上のカーボン析出を防ぐ手段として、酸化剤(スチーム、炭酸ガス等)を添加する方法が知られている。例えば上記特許文献4では、内部熱供給型炭酸ガス改質方式の原料ガスにスチームを添加している。これにより、改質触媒上では、炭酸ガス改質反応と並行して水蒸気改質反応が進行し、炭化水素の分解反応によるカーボン析出が起こり難くなる。さらに、原料中のスチーム分圧が上がることで、下記の式(2)に示したような析出カーボンのガス化反応が進み、結果、カーボン析出が抑制される。
C+H
2O→CO+H
2…(2)
【0015】
一方で、スチームを添加するためには、純水製造装置、スチーム発生装置等の設備の増設およびメンテナンスが必要となり、結果的に合成ガス製造コストの上昇に繋がる。また、一酸化炭素製造プロセスおよび装置としても、一酸化炭素の発生量が減少するため、スチームの添加は不適当である。さらに、スチームを添加することにより、下記の式(3)に示すメタンの水蒸気改質反応、式(4)に示す一酸化炭素の転化反応が起こりやすくなって、せっかく生成したCOが反応で消費してしまい、発生する合成ガスのH
2/CO比が高くなってしまい、H
2/CO比が1〜2程度の合成ガスを製造するプロセスとしては不適当である。
CH
4+H
2O→3H
2+CO…(3)
CO+H
2O→H
2+CO
2…(4)
【0016】
スチームを添加し、かつH
2/CO比の上昇を抑えるためには、例えば、下記(a)(b)(c)(d)のような手法を用いる必要がある。
(a)原料の酸素を増量する。
(b)原料の炭酸ガスを増量する。
(c)原料の炭酸ガスと酸素をともに増量する。
(d)反応圧力を上昇させる。
【0017】
上記(a)(b)(c)(d)の手法を用いた場合、例えば、それぞれ下記(A)(B)(C)(D)のような変化が付随して起こってしまう。
(A)反応温度の高温化と原料(主に酸素ガス)使用量の増加。
(B)反応効率の低下と原料(主に炭酸ガス)使用量の増加。
(C)原料(すべての原料ガス)使用量の増加。
(D)反応効率の低下と原料使用量の増加、ならびにカーボン析出反応の促進。
反応温度が高温化すると、設備コストの引き上げに繋がり、原料使用量が増加すると、原料コストを引き上げる結果となる。また、反応効率が低下すると、投入する原料使用量に対して製品ガスの発生効率が低下することとなるうえ、不純分として残留するメタンを除去する必要が生じる。さらに、カーボン析出反応が促進すると、触媒の不活性化や改質器の閉塞に繋がる。
【0018】
このように、1〜2程度の低いH
2/CO比の合成ガスを得る場合、原料ガスにスチームを添加することは、高温化、高圧化に伴う設計条件の不利や、原料使用量や反応効率面からの製造コストアップに繋がってしまう。
【0019】
そこで、熱中和式炭酸ガス改質反応において、スチームを添加することなく、1〜2程度の低いH
2/CO比の合成ガスを安定して発生させるためには、高いカーボン析出耐性をもつ四元系触媒を活用し、合成ガスの安定製造が可能な装置の運転条件、運転手法を確立することが必要となっていた。
【0020】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、原料ガスを必要以上に増加させることなく、触媒に対するカーボン析出を大幅に低減し、1〜2程度の低いH
2/CO比の合成ガスを安定して発生させることができる合成ガス製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の合成ガス製造方法は、原料ガスとして炭化水素系ガス、酸素系ガスならびに炭酸ガスを触媒と接触反応させ、炭化水素系ガスの燃焼反応および改質反応を生じさせることにより、主として水素と一酸化炭素からなる合成ガスを製造する合成ガスの製造方法であって、
上記改質反応の起動時に、
上記燃焼反応および改質反応を生じさせる改質器内を所定の起動開始温度に昇温したのち、
上記原料ガスを導入する際に、あらかじめ改質器内のカーボン析出が減少するよう、炭酸ガスの導入量を
炭化水素系ガス中のCに対してモル比で1.5以上として所定の合成ガスを得る反応に必要な量を超える量に増量しておき、
上記原料ガスの導入により改質器内が
700℃以上の起動終了温度まで上昇した後、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量まで減少させることを要旨とする。
【0022】
また、上記目的を達成するため、本発明の合成ガス製造装置は、原料ガスとして炭化水素系ガス、酸素系ガスならびに炭酸ガスを触媒と接触反応させ、炭化水素系ガスの燃焼反応および改質反応を生じさせることにより、主として水素と一酸化炭素からなる合成ガスを製造する合成ガスの製造装置であって、
上記改質反応の起動時に、
上記燃焼反応および改質反応を生じさせる改質器内を所定の起動開始温度に昇温したのち、
上記原料ガスを導入する際に、あらかじめ改質器内のカーボン析出が減少するよう、炭酸ガスの導入量を
炭化水素系ガス中のCに対してモル比で1.5以上として所定の合成ガスを得る反応に必要な量を超える量に増量し、
上記原料ガスの導入により改質器内が
700℃以上の起動終了温度まで上昇した後、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量まで減少させるように制御することを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の合成ガス製造方法および装置では、上記改質反応の起動時に、上記燃焼反応および改質反応を生じさせる改質器内を所定の起動開始温度に昇温したのち、上記原料ガスを導入する際に、あらかじめ改質器内のカーボン析出が減少するよう、炭酸ガスの導入量を
炭化水素系ガス中のCに対してモル比で1.5以上として所定の合成ガスを得る反応に必要な量を超える量に増量しておき、上記原料ガスの導入により改質器内が
700℃以上の起動終了温度まで上昇した後、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量まで減少させる。
【0024】
このようにすることにより、装置起動時の触媒上におけるカーボン析出をごく微量に抑えられ、カーボン析出に伴う圧力損失の上昇、触媒活性の低下、改質器の閉塞といったトラブルを回避できる。また、カーボン析出が起こる工程を特定し、その限られた工程内のみで炭酸ガスを増量することにより、装置全体で使用する炭酸ガス量を必要最小限とし、不要な原料ガスの増量を避けることができる。
【0025】
その結果、熱中和式炭酸ガス改質反応を安定して進行させることが可能となり、反応補助ヒータ等の改質器の外部加熱装置を使用することなく、改質器内で発生する燃焼熱のみを利用して高いCH
4転化率を達成できる。また、スチームや過剰の炭酸ガスを添加することなく、装置起動後(反応安定後)もカーボンの析出を抑制できる。さらに、外部加熱炉、純水製造装置、スチーム発生装置等が不要となり、設備コストを抑えることができる。また、過剰のスチームや炭酸ガスを必要としないため、原料コストも抑えることができる。
【0026】
本発明において、上記炭酸ガスの導入を開始した後、炭化水素系ガスの導入を開始する場合には、特に起動時において、本来は改質反応に供される炭化水素の一部が、分解反応により消費されることを回避でき、原料効率の低下を防止できる。また、炭化水素の分解反応が起こることによるカーボンの析出を有効に防止できる。
【0027】
本発明において、炭化水素系ガスの導入を開始した後、酸素系ガスの導入を開始する場合には、高温の酸素の存在下に炭化水素を導入することで急激に反応が生じてしまうのを回避でき、危険性が高くなるのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0030】
まず、四元系触媒を用いて外部加熱を一切行わない天然ガスの熱中和式炭酸ガス改質反応の運転試験を実施した。
【0031】
図1は、その運転試験に使用した熱中和式炭酸ガス改質装置の概要を示す図である。
【0032】
この装置は、酸素を導入する酸素導入路1、炭酸ガスを導入する炭酸ガス導入路2、炭化水素ガスとして天然ガスを導入する炭化水素導入路3が原料ガス導入路4に合流し、これらの原料ガスが改質器5に導入されるようになっている。
【0033】
上記炭化水素導入路3には、天然ガス中の付臭成分であるイオウ分を除去する脱硫器7が設けられるとともに、上記脱硫器7の前段に脱硫する炭化水素ガスを加熱する炭化水素ヒータ8が設けられている。また、上記炭化水素導入路3には、脱硫用の水素ガスを導入する水素ガス導入路9が合流している。さらに、上記炭化水素導入路3には、パージ用の窒素ガスを導入する窒素ガス導入路18が合流している。
【0034】
一方、上記炭酸ガス導入路2には、導入する炭酸ガスを予熱する炭酸ガスヒータ6が設けられている。また、酸素導入路1、炭酸ガス導入路2、炭化水素導入路3、水素ガス導入路9には、それぞれ流量調節器10が設けられている。
【0035】
また、上記原料ガス導入路4には、合流した酸素ガス、炭酸ガス、天然ガスを予熱する予熱ヒータ17が設けられている。
【0036】
上記改質器5には、四元系の改質触媒が充填されている。
【0037】
上記四元系の改質触媒としては、Rh修飾(Ni−CeO
2)−Pt触媒が使用される。そして、上記Rh修飾(Ni−CeO
2)−Pt触媒を使用することにより、炭化水素系ガスの燃焼反応と改質反応とを同じ反応領域内で同時に行なうようになっている。
【0038】
すなわち、炭化水素の一部を完全燃焼させて炭化水素をCO
2とH
2Oとに変換させる燃焼反応と、この燃焼反応により生成したCO
2とH
2O、および原料ガスとして導入したCO
2を、残余の炭化水素と反応させてH
2とCOとに変換させる改質反応とを、前記触媒上で進行させ、炭化水素をH
2とCOとに変換させる。
【0039】
上記Rh修飾(Ni-CeO
2)-Pt触媒は、例えば、適当な表面積を有するアルミナ担体表面にRhを担持させ、ついでPtを担持させ、さらにNiとCeO
2とを同時担持させることにより得られる。ただし、担体の材質や形状の選択、被覆物形成の有無またはその材質の選択は、種々のバリエーションが可能である。
【0040】
Rhの担持は、Rhの水溶性塩の水溶液を含浸後、乾燥、焼成、水素還元することにより行われる。また、Ptの担持は、Ptの水溶性塩の水溶液を含浸後、乾燥、焼成、水素還元することにより行われる。NiおよびCeO
2の同時担持は、Niの水溶性塩およびCeの水溶性塩の混合水溶液を含浸後、乾燥、焼成、水素還元することにより行われる。
【0041】
上に例示した手順により、目的とするRh修飾(Ni−CeO
2)−Pt触媒が得られる。各成分の組成は重量比で、Rh:Ni:CeO
2:Pt=(0.05−0.5):(3.0−10.0):(2.0−8.0):(0.3−5.0)、望ましくは、Rh:Ni:CeO
2:Pt=(0.1−0.4):(4.0−9.0):(2.0−5.0):(0.3−3.0)に設定することが好ましい。
【0042】
なお、上記における各段階での水素還元処理を省略し、実際の使用に際して触媒を高温で水素還元して用いることもできる。各段階で水素還元処理を行ったときも、さらに使用に際して触媒を高温で水素還元して用いることができる。
【0043】
上記四元系の改質触媒が充填された改質器5で改質されて生成した改質ガス(合成ガス)は、合成ガス取出路11によって取り出され、冷却器12で冷却され、気液分離器13で水分等の液体が除去される。図において、符号14は冷却水導入路14、符号15はドレン管15である。気液分離器13で水分等の液体が除去された合成ガスは、必要に応じて図示しないPSA装置等により精製されたのち、同じく図示しない合成ガス利用設備に送られて利用に供される。
【0044】
この運転試験において用いた天然ガスの組成は、下記のとおりである。
CH
4=89〜90%
C
2H
6=5〜6%
C
3H
8=2〜3%
C
4H
10=1〜2%
【0045】
また、熱中和式炭酸ガス改質反応では、主として前述の式(1)(3)(4)および下記の式(5)の反応が連続的に起こっていると考えられる。
CH
4+2O
2→CO
2+2H
2O…(5)
【0046】
さらに、ガス内の微量成分であるC
2H
6、C
3H
8、C
4H
10については、上述した式(1)(3)(5)とともに、いずれも下記の式(6)に示す反応過程を経るものと考えられる。
C
nH
2n+2+(3n+1)/2O
2→nCO
2+(n+1)H
2O…(6)
(ただし、n=2〜4)
【0047】
この運転試験の条件は、合成ガス中のH
2/CO比が理論上およそ1となるよう、原料ガス組成、改質温度、改質圧力を、上述した天然ガス組成と式(1)および(3)〜(6)からの平衡計算のシュミレーション結果に基づいて設定した。
【0048】
具体的には、CO
2/C=0.9〜1.1、O
2/C=0.55〜0.60、改質触媒入口の原料ガス温度を350〜400℃、改質器の出口圧力は50〜100kPaGである。
ここで、CO
2/C、O
2/Cは、下記を意味する。
CO
2/C=(原料ガス中のCO
2[mol])/(天然ガス中のC[mol])
O
2/C=(原料ガス中のO
2[mol])/(天然ガス中のC[mol])
【0049】
この条件において運転試験を行うと、装置の起動時(反応の開始直後)、触媒上にカーボンが多量に析出した。その理由としては、おそらく、高いカーボン析出耐性を持つ四元系触媒を用いた場合においても、水素と一酸化炭素を等mol量発生させる条件での炭酸ガス改質反応では、装置起動時のカーボン析出を避けることが難しいためであると考えられる。
【0050】
このように、単純に、シュミレーションどおりの条件で運転しようとしても、装置起動時におけるカーボン析出によって、圧力損失の異常増大や改質器等の閉塞の原因となり、装置の起動プロセスを正常に稼動させることができず、前述した「実用的な条件下における熱中和式炭酸ガス改質方法の確立」および「実用的な条件下での触媒上におけるカーボン析出有無の把握」という問題は依然として解決することができない。
【0051】
図2は、この装置における起動プロセスを示すフローチャートである。
【0052】
すなわち、装置の起動開始後、以下の工程1〜工程4を行う。
(工程1)昇温工程において、改質触媒入口の原料ガス温度を350〜400℃まで昇温する。
(工程2)炭酸ガス導入開始工程において、CO
2/C=0.9〜1.1となる流量で炭酸ガスの導入を開始する。
(工程3)炭化水素導入工程で、炭化水素ガスとして天然ガスの導入を開始する。
(工程4)酸素導入工程において、O
2/C=0.55〜0.60となる流量で酸素ガスの導入を開始し、起動を完了する。
【0053】
この起動プロセスでは、工程4の開始から約10分で触媒上にカーボンが多量析出し、それに伴い改質器5内が閉塞してしまった。このため、触媒層における圧力損失は、本来10〜15kPa程度であるところ、250kPa以上にまで異常上昇してしまい、システムの安定操業等の面で不都合となった。
【0054】
この起動プロセスにおいて、装置の起動時にカーボンが析出する原因としては、以下のことが想定される。
【0055】
装置起動の際は、炭酸ガス、炭化水素、酸素の順に原料ガスを改質器5に導入する。今回のように、合成ガス中のH
2/CO比がおよそ1となるような条件では、酸素の導入が開始されると、触媒上で燃焼反応が進行し、およそ400℃であった触媒層の温度が徐々に上昇し、最終的に800℃程度まで到達する。その一方で、カーボン析出反応は、反応ガス温度が700℃以下の場合に起こりやすい。そのため、装置起動時の触媒層の温度が上昇する過程におけるカーボンの析出しやすい温度域に達したときに、カーボンが大量に析出したと考えられる。
【0056】
ここで、上述したカーボン析出反応は、下記の式(7)(8)の反応によって起こると想定される。
2CO→C+CO
2…(7)
CO+H
2→C+H
2O…(8)
【0057】
ここで、上記式(7)(8)は平衡反応であり、カーボンが析出するか否かは反応ガス中のCO、CO
2、H
2、H
2Oの各分圧(pCO)、(pCO
2)、(pH
2)、(pH
2O)と反応ガス温度によって決まると考えられる。
【0058】
したがって、下記の式(9)(10)で示されるカーボン活性値A
1、A
2が1を上回ると式(7)(8)が右に進んでカーボンが析出し、カーボン活性値A
1、A
2が1を下回ると式(7)(8)が左に進んでカーボンはガス化し、析出は起こらないと考えられる。
A
1=K
1×(pCO)
2/(pCO
2)…(9)
A
2=K
2×(pCO)×(pH
2)/(pH
2O)…(10)
A
1:上記式(7)に対するカーボン活性値
A
2:上記式(8)に対するカーボン活性値
K
1、K
2:温度から求められる平衡定数
【0059】
熱中和式炭酸ガス改質反応において、触媒層における反応ガスのカーボン活性値を上記式(9)(10)に基づいて算出すると、下記の表1のようになり、反応ガスがおよそ700℃以下のときにA
1、A
2ともに1以上となって、カーボン析出が起こりうることがわかる。
【0061】
したがって、熱中和式炭酸ガス改質反応が開始した後、反応ガスが400℃から徐々に上昇して700℃に達するまでの間に、触媒層にカーボンが多量に析出すると考えられる。
【0062】
一方、起動初期に最初から700℃以上の高温にしてしまうと、その後の熱中和反応での反応温度が1000℃以上に上がって制御が困難になってしまうおそれがあるうえ、着火や爆発の危険性も生じてしまう。
【0063】
そこで、本発明では、反応開始直後の触媒上におけるカーボン析出を抑制するために、起動初期のみ、原料ガスとして改質器5に導入する炭酸ガスの流量を約1.5〜2倍に増量した。
【0064】
図3は、本発明における装置の起動プロセスを示すフローチャートである。
【0065】
本発明では、上記改質反応の起動時に、上記燃焼反応および改質反応を生じさせる改質器内を所定の起動開始温度に昇温したのち、上記原料ガスを導入する際に、あらかじめ改質器内のカーボン析出が減少するよう、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量を超える量に増量しておき、上記原料ガスの導入により改質器内が所定の起動終了温度まで上昇した後、炭酸ガスの導入量を所定の合成ガスを得る反応に必要な量まで減少させる。
【0066】
すなわち、装置の起動開始後、以下の工程1〜工程5を行う。
(工程1)昇温工程において、窒素ガス導入路18から炭化水素導入路3に窒素ガスを導入して改質器5内を窒素ガスでパージしながら、炭化水素ヒータ8および予熱ヒータ17で窒素ガスを加熱しながら改質器5に導入し、改質触媒入口のガス温度を350〜400℃まで昇温する。
(工程2)炭酸ガス導入開始工程において、定格量の1.5〜2倍であるCO
2/C=1.5〜2.0となる流量で炭酸ガスの導入を開始する。このとき、炭酸ガスは、炭酸ガスヒータ6および予熱ヒータ17で昇温される。
(工程3)炭化水素導入工程において、窒素ガス導入路18からの窒素ガス導入を停止し、炭化水素導入路3より炭化水素ガスとして天然ガスの導入を開始する。
(工程4)酸素導入工程は、改質触媒入口のガス温度が350〜400℃まで昇温されたのち、O
2/C=0.55〜0.60となる流量で酸素ガスの導入を開始する。これにより、熱中和式炭酸ガス改質反応が開始する。
(工程5)炭酸ガス減量工程において、改質触媒入口の原料ガス温度が700℃以上となったことを確認した後、炭酸ガスの減量を開始し、定格量であるCO
2/C=0.9〜1.1となる流量まで炭酸ガスの流量を減らし、起動を完了する。
【0067】
上記の起動プロセスでは、カーボンの析出による急激な圧力上昇は起こらず、本来の正常範囲である10kPa程度の圧力損失に留まり、安定に装置を運転することが可能となった。
【0068】
なお、(工程1)昇温工程は、起動初期に高温にしてしまうと、その後の熱中和反応での反応温度が1000℃以上に上がって制御が困難になってしまうおそれがあるうえ、着火や爆発の危険性も生じるため、改質触媒入口のガス温度で400℃以下とするのが好ましい。
【0069】
また、(工程2)炭酸ガス導入開始工程では、CO
2/Cを1.5以上とすることが好ましく、CO
2/Cを1.5以上、2.0以下とするのがより好ましい。CO
2/Cが1.5未満では、カーボン析出を十分に防止することができず、反対に2.0を超えると、原料ガスの使用量が不必要に増大するので好ましくない。
【0070】
また、(工程4)では、ある程度時間をかけて酸素ガスを導入することにより、熱中和式反応を徐々に安定させるのが好ましく、酸素ガスの導入流量を徐々に多くしてO
2/C=0.55〜0.60となる流量とするのが好ましい。
【0071】
また、例えば、あらかじめ炭酸ガスを導入開始する前に、炭化水素の導入を開始すると、本来は改質反応に供される炭化水素の一部が、分解反応により消費されてしまい、原料効率が大幅に低下してしまうので、あらかじめ炭酸ガスを導入開始してから炭化水素の導入を開始するのが好ましい。
【0072】
また、例えば、炭化水素を導入する前に酸素の導入を開始すると、高温の酸素の存在下に炭化水素を導入することで急激に反応が生じる危険性が高くなるので、炭化水素を導入開始した後に酸素の導入を開始するのが好ましい。
【0073】
つぎに、四元系触媒を使用したときの触媒上におけるカーボンの析出状態について検証した。
【0074】
図4は、本発明を適用した起動プロセスを採用し、かつ上述した条件で改質反応を行った後の使用済み触媒の外観写真である。また、下記の表2は、当該使用済み触媒のカーボン析出量、圧力損失の測定結果を示す。比較として、上述した従来の起動プロセスを比較例として、未使用の触媒を初期サンプルとして示した。
【0076】
図4および表2から明らかなように、比較例では、10重量%以上もの多量のカーボンが析出していたが、実施例では、0.062重量%とごく微量のカーボン析出に留まっている。その結果、比較例では250kPa以上あった圧力損失が、実施例では10kPa程度に抑えられ、触媒活性の低下や反応器閉塞といったトラブルを招かないことがわかる。
【0077】
このような起動プロセスを採用することで、装置を安定的に起動させることが可能となり、「実用的な条件下における熱中和式炭酸ガス改質方法の確立」および「実用的な条件下での触媒上におけるカーボン析出有無の把握」を実現できた。
【0078】
本実施形態で行った下記の反応条件では、改質反応の効率を示すCH
4転化率(反応で消費されるCH
4[mol]/原料ガス中のCH
4[mol])は99%以上の高い数値となり、反応補助ヒータ等の改質器5の外部加熱装置を使用することなく、触媒層で起こる燃焼反応熱のみによって改質反応を進行させることができた。また、合成ガス中のH
2/CO比は0.98とほぼ1に近い値であった。
【0079】
このように、本実施形態では、改質反応が平衡状態に到達していることがわかり、四元系触媒を使用した熱中和式炭酸ガス改質方法が、合成ガス製造方法として極めて有効であることがわかる。
【0080】
また、表2の結果から、装置の起動時だけでなく、その後の安定運転時においても、カーボンの析出量は微量であることが明らかであり、本発明によって、装置起動時、および装置安定運転時にカーボンの析出を伴わない熱中和式炭酸ガス改質方式の合成ガス製造方法を確立することができた。
【0081】
本実施形態の起動プロセスによれば、以下の効果が得られる。
【0082】
装置起動時の触媒上におけるカーボン析出をごく微量に抑えられ、カーボン析出に伴う圧力損失の上昇、触媒活性の低下、改質器5の閉塞といったトラブルを回避できる。
カーボン析出が起こる工程を特定し、その限られた工程内のみで炭酸ガスを増量することにより、装置全体で使用する炭酸ガス量を必要最小限とし、不要な原料ガスの増量を避けることができる。
【0083】
その結果、四元系触媒を使用した熱中和式炭酸ガス改質反応を安定して進行させることが可能となり、以下の効果が得られた。
反応補助ヒータ等の改質器5の外部加熱装置を使用することなく、改質器5内で発生する燃焼熱のみを利用して高いCH
4転化率を達成した。
スチームや過剰の炭酸ガスを添加することなく、装置起動後(反応安定後)もカーボンの析出を抑制できた。
外部加熱炉、純水製造装置、スチーム発生装置等が不要となり、設備コストを抑えることができる。また、過剰のスチームや炭酸ガスを必要としないため、原料コストも抑えることができる。
【0084】
なお、上記各実施形態において、各原料ガスを導入する工程の順序は、上述したものに限定される趣旨ではなく、各原料ガスを導入する際にあらかじめ炭酸ガスの導入量を増量すれば、その他の原料ガスの導入順序を変更しても差し支えない。