特許第5731237号(P5731237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5731237-バイオガス生産方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731237
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】バイオガス生産方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20150521BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20150521BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20150521BHJP
   C02F 1/00 20060101ALI20150521BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150521BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20150521BHJP
   C10L 3/06 20060101ALI20150521BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C02F3/28 BZAB
   C12P5/02
   C02F11/04 A
   C02F1/00 P
   B09B3/00 304Z
   C02F11/02
   C10L3/06
   C02F3/00 D
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-43835(P2011-43835)
(22)【出願日】2011年3月1日
(65)【公開番号】特開2012-179546(P2012-179546A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2013年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】松下 功
【審査官】 長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−155778(JP,A)
【文献】 特開2004−050143(JP,A)
【文献】 特開2003−213584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28
C12P 1/00−41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスを主成分として含有する排水に、エンドセルラーゼを主成分とするセルラーゼ混合品を添加する酵素処理工程を行った後、メタン発酵させるメタン発酵工程を行ってバイオガスを生成するバイオガス生産方法であって、
前記木質系バイオマスが茶葉廃棄物であり、
前記セルラーゼ混合品がトリコデルマ由来のエンドセルラーゼを主成分とするものであり、
前記酵素処理工程を、供給されるバイオマスに対して前記セルラーゼ混合品を0.2〜5質量%添加して行うとともに、
前記メタン発酵工程をUASB法により行い、
さらに、前記木質系バイオマスを前記メタン発酵工程の排水で希釈して前記酵素処理工程を行うバイオガス生産方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオガス生産方法に関し、具体的には木質系バイオマスからバイオガスを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の消費や大量の廃棄物焼却による二酸化炭素ガスの排出等により、地球温暖化が問題になっている。この問題を解決するために、種々廃棄物を再資源化する技術の開発がすすめられている。中でも、上記廃棄物として木質系バイオマスを対象として再資源化を行う技術が研究されている。
【0003】
ところが、通常のバイオマスとは異なり、木質系バイオマスは微生物分解困難なリグニン、ヘミセルロース等の高次構造を形成する成分を大量に含んでいる。そのため、このバイオマスを生分解させるための前処理として、上記バイオマスを酵素で分解し、その後エタノール発酵する方法も報告されている(たとえば、特許文献1参照)。しかし、このような酵素分解を行う場合、後続のエタノール発酵を良好に行うためには、エキソセルラーゼによりセルロースを単糖類まで分解する必要があり、セルロースの糖鎖の各端部より順次糖単位で切断するために、反応時間を要するとともに、相当量の酵素を必要とする。そのため、このような方法は、経済的にあまり実用的なものとはいえず、また、得られるバイオエタノールは、利用形態が限られるため需要が少なく、大規模に利用するまでに至っていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−115116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、メタンガスは、都市ガス等の主成分であるため、需要が高く、バイオマスを再資源化する際に望ましい形態である。しかし、リグニン、ヘミセルロース等の高次構造を含む木質系バイオマスをそのまま通常のメタン発酵処理に供しても、バイオガス化効率は低い。
【0006】
そこで、本発明の目的は、木質系バイオマスから効率よくバイオガスを生産する技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の特徴構成は、
木質系バイオマスを主成分として含有する排水に、エンドセルラーゼを主成分とするセルラーゼ混合品を添加する酵素処理工程を行った後、メタン発酵させるメタン発酵工程を行ってバイオガスを生成するバイオガス生産方法であって、
前記木質系バイオマスが茶葉廃棄物であり、
前記セルラーゼ混合品がトリコデルマ由来のエンドセルラーゼを主成分とするものであり、
前記酵素処理工程を、供給されるバイオマスに対して前記セルラーゼ混合品を0.2〜5質量%添加して行うとともに、
前記メタン発酵工程をUASB法により行い、
さらに、前記木質系バイオマスを前記メタン発酵工程の排水で希釈して前記酵素処理工程を行う点にある。
【0008】
〔作用効果1〕
木質系バイオマスを主成分として含有する排水に、エンドセルラーゼを主成分とするセルラーゼ混合品を添加する酵素処理工程を行うと、まず、前記木質系バイオマスに含まれるリグニン、ヘミセルロース等の高次構造が直鎖のセルロースに分解される。このセルロースはメタン発酵工程においてメタン発酵され、メタンガスに変換される。
【0009】
このとき、エンドセルラーゼが前記バイオマスを単糖類まで分解しなくても、前記メタン発酵を行うメタン発酵細菌はセルロースを資化して、メタンを生産することができる。そのため、前記酵素処理工程は、バイオマスをエキソセルラーゼにより単糖類にまで分解するのに比べて、少量の酵素によって短時間でメタン発酵細菌が資化可能な状態にまで分解することができる。従って、木質系バイオマスを効率よくメタン発酵させることができるようになり、木質系バイオマスから効率よくバイオガスを生産することができるようになった。
【0010】
上記構成において、前記メタン発酵工程をUASB法により行う。
【0011】
通常、UASB法によるメタン発酵は、高負荷な処理液を短時間で効率よくメタン発酵して、バイオガスを生成することができるために、有用であるとされている。しかし、UASB法によるメタン発酵を行うには、処理液中の固形成分を十分に可溶化し、メタン発酵処理期間中に固形成分が沈殿することなく流動することが要求される。この点、上記酵素処理工程を行えば、エンドセルラーゼがバイオマスに含まれるセルロースの糖鎖をランダムに切断するために、比較的短時間でバイオマスは可溶化する程度に低分子化され、沈殿することなく流動するようになる。そのため、従来木質系バイオマスのメタン発酵には適用することが困難であったUASB法を適用することができ、さらに効率よくバイオガスを生産ができるようになった。
【0012】
また、上記構成において、前記木質系バイオマスが茶葉廃棄物とする。
【0013】
上記木質系バイオマスとして、微生物分解困難なものとしては、茶葉廃棄物が知られている。茶葉廃棄物は、葉脈、茎等、硬質でリグニン、ヘミセルロース等の高次構造を備えた成分が大きな割合を占め、廃棄処分に困難を要している代表的なものである。このような廃棄物をエネルギー変換してバイオガスとして再利用することができれば、廃棄物の減容化および再資源化を同時に効率よく達成することができるので好ましい。
【0014】
また、前記木質系バイオマスをメタン発酵工程の排水で希釈して前記酵素処理工程を行う。
【0015】
上記構成において酵素処理工程を経た排水は、通常、静置された上澄液などとして固液分離して後続のメタン発酵工程に供されるが、メタン発酵工程に供される排水には、前記酵素処理工程で用いられた酵素がともに流入することになる。すると、前記酵素は前記メタン発酵工程においてもバイオマスの分解処理を行い、メタン発酵効率の向上に寄与する。その後、前記酵素は、メタン発酵工程の排水に含まれた状態で、その排水とともに処理されることになる。
【0016】
しかし、メタン発酵工程の排水に含まれた状態の酵素の活性は高く、酵素処理工程においても利用可能な程度の活性を維持していることが、本発明者らの実験によって明らかになった。そこで、メタン発酵工程の排水を前記木質系バイオマスを含む排水の希釈に用いることによって、メタン発酵工程の排水に含まれた状態の酵素を、有効に再利用することができる。
【0017】
これにより、前記酵素処理工程で使用する酵素量を低減して、低コスト高効率でバイオガスを生産することができる。
【0018】
また、前記エンドセルラーゼがトリコデルマ由来のエンドセルラーゼである。
【0019】
前記トリコデルマ由来のエンドセルラーゼは、上記メタン発酵工程における排水の性状において、安定に高い活性を保ち、酵素処理工程を高効率で行うことができる。
【0020】
また、前記酵素処理工程は、供給されるバイオマスに対して前記セルラーゼ混合品を0.2〜5質量%添加して行う。
【0021】
前記酵素処理工程は、バイオマスの重量に対して所定量のセルラーゼ混合品を用いて行われ、少なすぎると十分な活性が維持できず酵素処理に多大な時間を要することとなるので0.2質量%以上用いることが好ましい。また、酵素処理工程においてバイオマスが可溶化すればメタン発酵工程において十分なバイオガス生産が可能となるので、前記バイオマスが可溶化する十分量の5質量%以下のセルラーゼ混合品を添加して行うことにより、効率の良い酵素処理工程が行える。
【発明の効果】
【0022】
本発明のバイオガス生産方法によれば、従来は廃棄困難であった木質系バイオマスであっても効率よく再資源化することができるようになり、環境問題、エネルギー問題のいずれの点からも有益である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のバイオガス生産方法のフローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明のバイオガス生産方法の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0025】
本発明のバイオガス生産方法に用いられるバイオガス生産装置は、図1に示すように、
木質系バイオマスを主成分として含有する排水に、エンドセルラーゼを添加する酵素処理工程を行い、その排水を所定時間酵素分解処理する酵素処理槽1を備える。また、酵素処理された排水をメタン発酵させるメタン発酵工程を行うUASB反応槽2を備える。
【0026】
前記酵素処理槽1は、酵素処理槽本体10に、木質系バイオマスを主成分として含有する排水を受け入れる排水供給路L1を接続して設けるとともに、前記酵素処理槽本体10の内部で酵素処理されて可溶化した上澄液画分をUASB反応槽2に導く移送路L2を接続して設けてある。また、前記酵素処理槽本体10上部には、前記酵素処理槽本体10内部に排水を酵素分解処理するためのエンドセルラーゼを添加する酵素添加部L3を設け、前記酵素処理槽本体10下部には、酵素処理によっても可溶化しないおもにリグニン成分からなる残渣を引き抜くための引抜路L4を設けて構成してある。
【0027】
前記UASB反応槽2は、下部に嫌気性微生物(UASB菌)を主体とする汚泥のグラニュール2aを充填されるスラッジベッドを備えるとともに、酵素処理槽1から排出された処理液を供給する移送路L2を接続して設ける。これにより、導入される処理液の上向流が前記UASB反応槽2内に形成されるとともに、処理液の循環を促し、流動するグラニュール2aにより有機物をメタン発酵するメタン発酵工程が行われる。前記スラッジベッドの上部には、グラニュール2aの流失を防止するとともに処理済みの上澄液および生成したメタンガスを上方に移流させる分離板21を設けてある。分離板21上方に移流した処理済みの処理液は、オーバーフロー部に接続される排水路L5よりUASB反応槽2外へ取出されるとともに、生成したメタンガスは、UASB反応槽2外に取出される構成となっている。また、排水路L5には処理液の一部を前記移送路L2に循環させる処理液循環路L6を分岐して設けて、必要な滞留時間を維持しながら、塔内の液線速度を適切な値に設定できる構成としている。塔内の液線速度は、速すぎるとグラニュール2aが磨耗し、遅すぎるとグラニュール以外の懸濁物質が蓄積されやすくなるため、3m/h程度とすることが好ましい。
【0028】
なお、上記嫌気性微生物(UASB菌)は、一般の下水処理場の消化汚泥や食品残渣のメタン発酵汚泥等種々の環境から採取して、メタン発酵に適した性状に馴養されたものが汎用されており、適宜使用することができる。
【0029】
また、前記排水路L5には、メタン発酵済みの排水を、前記排水供給路L1に返送する返送路L7を分岐して設けてあり、排水供給路L1に供給される高濃度の木質系バイオマス含有排水を、酵素処理工程およびメタン発酵工程において、効率よく処理可能な濃度に希釈するとともに、活性を保ったまま排出される酵素を酵素処理工程にて再利用することができるように構成してある。
【0030】
これにより、おもに茶滓からなる木質系バイオマスを主成分として含有する排水を処理する場合には、たとえば、容量80m3の酵素処理槽1を用い、排水供給路L1に供給される排水10t/日に対し、前記返送路L7から供給される返送排水30t/日を混合して酵素処理工程を行うことができる。ここで酵素処理により可溶化した可溶化排水を容量200m3、処理負荷20kg/m3・日の前記UASB反応槽2にてメタン発酵することにより、メタンガス換算1000m3/日のバイオガスを生産することができる。このUASB反応槽2にて処理済みの処理済み排水は、7t/日で、系外に放流させられる。
【0031】
前記木質系バイオマスを主成分として含有する排水としては、茶飲料抽出後の茶滓を前記返送路L7からの返送排水で希釈し、COD1,000〜300,000mg/L、好ましくはCOD10,000〜200,000mg/L、もっとも好ましくはCOD50,000〜150,000mg/L程度の供給排水として前記酵素処理槽1に供給する。
【0032】
前記供給排水は、前記酵素処理槽1にて、酵素処理工程が行われる。前記酵素処理槽では前記酵素添加部L3より、酵素処理槽1に投入バイオマスの乾燥重量の0.1〜5%程度となるように酵素が添加される。前記供給排水は、酵素処理槽内で1〜48時間、好ましくは12〜24時間滞留して、溶解性COD5,000〜20,000mg/L程度の可溶化排水として移送路L2に排出される。また、このとき、リグニンを主成分とする残渣3t/日がL4から系外に引き抜き処理される。
【0033】
前記酵素処理槽からの可溶化排水は、前記UASB反応槽にて、COD100〜1,000mg/L程度の処理済排水となる。ここでの処理済排水中の酵素活性は、初期の酵素活性の95%〜97%と、ほとんど低下しておらず、前記供給排水を前記返送排水で希釈することにより、前記酵素添加部L3より、添加する酵素量を節約することができる。
【0034】
実施例
茶滓(TS5.71%、VS5.38%、tCOD463,500mg/L、sCOD37,050mg/L)にNovozymes社のエンドセルラーゼを主成分とするセルラーゼ混合品(#NS22074)を0.2〜5%w/w(バイオマス原料の1〜5%酵素液添加)添加し、50℃で、48時間、穏やかに攪拌した。酵素処理懸濁液を4000rpm、20分間の遠心分離を行った。上澄みのCOD濃度を測定し、各酵素濃度での可溶化率(Δ溶解性COD/茶滓tCOD)を求めた。また、上澄み100mlに対し、UASBグラニュールを10gを添加して、24時間後のバイオガス発生量を測定することにより茶滓のバイオガス転換率を求めた(発生バイオガスのCOD当量/茶滓tCOD(リグニン分除く))。結果を表1に示す。
【0035】
酵素添加量0%(水添加)の場合は、バイオガス化率は24%であったが、本酵素の推奨添加量(5%)を添加することにより、59%バイオガス化することができた。これに対し、酵素添加量を1/25まで低下させた場合(0.20%)でも、バイオガス化量は推奨濃度時の76.8%(バイオガス化率45%)までバイオガス化することができた。本酵素は木質リグノセルロースのバイオエタノール化で一般的に使われるトリコデルマ由来のエンドセルラーゼであり、基質をオリゴセルロースまで分解する必要があるバイオエタノール化の場合は、規定濃度以下では、溶解してもオリゴセルロースまで分解していないものはバイオエタノール化できない。しかし、バイオガス化の場合はメタン発酵汚泥に含まれるクロストリジウム属細菌が溶解セルロースを分解するため、低い基質濃度でも同等のバイオガス化効率が得られたものと推測される。
【0036】
【表1】
【0037】
また、本酵素の希釈液を滞留時間6時間のUASB装置(体積10ml)に通過させたところ、通過物は95〜97%の酵素活性を有していた。このことから、茶滓の酵素処理物の上澄みをUASB処理し、セルロース分解物がUASBでバイオガス化したものを酵素処理槽1に返送すると、残存活性を再利用することができ、さらに酵素添加量を削減することができる。
【0038】
酵素処理物をすべてメタン発酵槽に投入すると、非分解物はメタン発酵汚泥として排出されるため、臭気等の観点から乾燥や二次利用が制限を受ける。本法では酵素処理後の非溶解物はメタン発酵槽(UASB槽)投入前に残渣として排出されるため、臭気がなく、乾燥や二次利用が容易である。
【符号の説明】
【0039】
1 :酵素処理槽
10 :酵素処理槽本体
2 :UASB反応槽
2a :グラニュール
21 :分離板
L1 :排水供給路
L2 :移送路
L3 :酵素添加部
L4 :引抜路
L5 :排水路
L6 :処理液循環路
L7 :返送路
図1