特許第5731248号(P5731248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731248
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 5/15 20060101AFI20150521BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   F02P5/15 L
   F02D45/00 345Z
   F02D45/00 345B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-64893(P2011-64893)
(22)【出願日】2011年3月23日
(65)【公開番号】特開2012-202235(P2012-202235A)
(43)【公開日】2012年10月22日
【審査請求日】2013年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】染澤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田中 大樹
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−249050(JP,A)
【文献】 特開2001−152844(JP,A)
【文献】 特開2000−002148(JP,A)
【文献】 特開2000−265893(JP,A)
【文献】 特開昭62−228640(JP,A)
【文献】 特開2007−298009(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0221664(US,A1)
【文献】 特開昭63−263242(JP,A)
【文献】 米国特許第05411006(US,A)
【文献】 再公表特許第2010/073369(JP,A1)
【文献】 特開2008−050967(JP,A)
【文献】 特開平04−036067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 5/145―5/155
F02D 43/00―45/00
F02D 41/00―41/40
F02D 13/00―28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に形成された混合気を設定点火時期に点火する点火プラグを備え、前記燃焼室を複数備えた多気筒式エンジンのエンジン制御装置であって、
前記複数の燃焼室が1つの組として複数組に組分けされ、前記燃焼室に新気を供給する給気路として、複数の前記燃焼室の全てに対して共通する単一の給気路が備えられ、前記燃焼室から排ガスを排気する排気路として、各組における複数の前記燃焼室の夫々から排ガスを排気する組毎で各別の排気路が備えられ、
前記給気路から前記燃焼室に供給する新気量を調整自在な新気量調整手段と、エンジン出力が目標出力となるように前記新気量調整手段の作動を制御するエンジン出力制御手段と、前記燃焼室における失火を検出する失火検出手段と、その失火検出手段が失火を検出した場合に、失火が検出された前記燃焼室と同じ組における複数の前記燃焼室について、前記点火プラグにて前記燃焼室に形成された混合気を点火する点火時期を前記設定点火時期よりも進角側に変更させる進角処理を行う点火時期制御手段とを備えているエンジン制御装置。
【請求項2】
前記燃焼室におけるノッキング強度を検出するノッキング強度検出手段を備え、前記点火時期制御手段は、前記進角処理において、前記ノッキング強度検出手段にて検出するノッキング強度が設定閾値に達するまで、前記点火時期を進角側へ変更させている請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記点火時期制御手段は、前記失火検出手段が失火を検出した場合に、前記進角処理と、失火が検出された前記燃焼室と異なる組における複数の前記燃焼室について前記点火時期を前記設定点火時期よりも遅角側に変更させる遅角処理とを併行して行う進角・遅角処理を行うように構成されている請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記燃焼室におけるノッキング強度を検出するノッキング強度検出手段を備え、前記点火時期制御手段は、前記進角・遅角処理において、前記ノッキング強度検出手段にて検出するノッキング強度が閾値に達するまで、失火が検出された前記燃焼室と同じ組における複数の前記燃焼室についての前記点火時期を進角側へ変更させるとともに、失火が検出された前記燃焼室と異なる組における複数の前記燃焼室についての前記点火時期を遅角側へ変更させている請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記失火検出手段は、複数の前記燃焼室のうち、組分けされた複数組のどの組における燃焼室にて失火しているかを検出するように構成されている請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室に形成された混合気を設定点火時期に点火する点火プラグを備え、前記燃焼室を複数備えた多気筒式エンジンのエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなエンジンでは、給気路から燃焼室に供給する混合気(燃料と空気との混合気)の量を調整自在なスロットルバルブと、エンジン出力が目標出力となるようにスロットルバルブの開度を制御するエンジン出力制御手段を備えている。このエンジン出力制御手段にてスロットルバルブの開度を調整することで、要求されている目標出力のエンジン出力を出力するようにしている。
【0003】
そして、エンジンは、点火プラグにて燃焼室の混合気を火花点火する火花点火式に構成されているが、何らかの原因で、燃焼室の混合気を点火することができず、失火が発生する場合がある。複数の燃焼室の何れかにて失火が発生すると、その失火が発生した燃焼室からの出力を得ることができず、エンジン出力が低下する。したがって、エンジン出力制御手段がスロットルバルブの開度を開き側に調整してエンジン出力を増加させるので、失火が発生した燃焼室以外の燃焼室に対して供給される混合気の量が増加することになる。その結果、失火が発生した燃焼室以外の燃焼室では、多量の混合気が供給されて過負荷状態となってしまう。このような過負荷状態となると、ノッキングの発生を招き、エンジンが停止しまう事態に陥ることになる。
【0004】
そこで、従来、複数の燃焼室の何れかにて失火が発生した場合には、エンジン出力を低下させるエンジン出力低下手段を備えることで、失火が発生した燃焼室以外の燃焼室が過負荷状態となるのを抑制しているものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−2303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の装置では、複数の燃焼室の何れかにて失火が発生した場合に、エンジン出力を低下させるので、要求されている目標出力のエンジン出力を維持できなくなる。例えば、発電機を駆動させるためにエンジンを用いるとともに、エンジンの排熱を利用するコージェネレーションシステムでは、エンジン出力が低下すると、発電機の発電量が低下することになり、要求されている電力を供給できなくなる可能性がある。
【0007】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、失火が発生した燃焼室以外の燃焼室が過負荷状態となるのを抑制できながら、要求されている目標出力のエンジン出力を維持できるエンジン制御装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係るエンジン制御装置の特徴構成は、燃焼室に形成された混合気を設定点火時期に点火する点火プラグを備え、前記燃焼室を複数備えた多気筒式エンジンのエンジン制御装置において、
前記複数の燃焼室が1つの組として複数組に組分けされ、前記燃焼室に新気を供給する給気路として、複数の前記燃焼室の全てに対して共通する単一の給気路が備えられ、前記燃焼室から排ガスを排気する排気路として、各組における複数の前記燃焼室の夫々から排ガスを排気する組毎で各別の排気路が備えられ、前記給気路から前記燃焼室に供給する新気量を調整自在な新気量調整手段と、エンジン出力が目標出力となるように前記新気量調整手段の作動を制御するエンジン出力制御手段と、前記燃焼室における失火を検出する失火検出手段と、その失火検出手段が失火を検出した場合に、失火が検出された前記燃焼室と同じ組における複数の前記燃焼室について、前記点火プラグにて前記燃焼室に形成された混合気を点火する点火時期を前記設定点火時期よりも進角側に変更させる進角処理を行う点火時期制御手段とを備えている点にある。
【0009】
本特徴構成によれば、点火時期制御手段は、失火検出手段が失火を検出した場合に、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室について、点火プラグにて燃焼室に形成された混合気を点火する点火時期を設定点火時期よりも進角側に変更させる進角処理を行う。この進角処理を行うことで、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室から得られる出力が増大することになるので、エンジン出力制御手段が新気量調整手段にて燃焼室に供給する新気量を減少側に制御する。その結果、失火が検出された燃焼室と異なる組おける複数の燃焼室に対して供給される新気量が低下することになり、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室に対して多量の新気が供給されて過負荷状態となるのを抑制することができる。
【0010】
そして、失火が発生した燃焼室と同じ組における複数の燃焼室では、失火が発生した燃焼室と異なる組における複数の燃焼室と比べて、排気路における排気圧力が低くなることから、燃焼室に残存する既燃焼ガス等も排気路に排気され易い。これにより、失火が発生した燃焼室と同じ組における複数の燃焼室では、失火が発生した燃焼室と異なる組における複数の燃焼室と比べて、燃焼室内の温度が低くなり、ノッキングの発生に対する許容度が大きくなっている。したがって、失火が発生した燃焼室と同じ組における複数の燃焼室では、進角処理を行うことで、点火時期を設定点火時期よりも進角側に変更させてもノッキングの発生を抑制することができる。
【0011】
このようにして、複数の燃焼室の何れかにて失火が発生した場合には、失火が発生した燃焼室と同じ組における複数の燃焼室に対して進角処理を行うことで、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室から得られる出力を増大させて、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室が過負荷状態となるのを抑制しながら、エンジン出力を目標出力に維持することができる。
【0012】
本発明に係るエンジン制御装置の更なる特徴構成は、前記燃焼室におけるノッキング強度を検出するノッキング強度検出手段を備え、前記点火時期制御手段は、前記進角処理において、前記ノッキング強度検出手段にて検出するノッキング強度が設定閾値に達するまで、前記点火時期を進角側へ変更させている点にある。
【0013】
本特徴構成によれば、進角処理では、点火時期を設定点火時期よりも進角側に変更するのであるが、ノッキング強度検出手段にて検出するノッキング強度が設定閾値に達するまで、点火時期を進角側へ変更させている。これにより、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室でのノッキングの発生を的確に防止しながら、点火時期の調整を行うことができる。
【0014】
本発明に係るエンジン制御装置の更なる特徴構成は、前記点火時期制御手段は、前記失火検出手段が失火を検出した場合に、前記進角処理と、失火が検出された前記燃焼室と異なる組における複数の前記燃焼室について前記点火時期を前記設定点火時期よりも遅角側に変更させる遅角処理とを併行して行う進角・遅角処理を行うように構成されている点にある。
【0015】
本特徴構成によれば、点火時期制御手段は、進角・遅角処理を行うので、失火検出手段が失火を検出した場合に、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室について点火時期を設定点火時期よりも進角側に変更させるだけでなく、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室について点火時期を設定点火時期よりも遅角側に変更させる。これにより、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室では、点火時期を設定点火時期よりも遅角側に変更することで、負荷の軽減を図り、ノッキングの発生を適切に防止することができる。したがって、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室でのノッキングの発生を的確に防止しながら、エンジン出力を目標出力に維持することができる。
【0016】
本発明に係るエンジン制御装置の更なる特徴構成は、前記燃焼室におけるノッキング強度を検出するノッキング強度検出手段を備え、前記点火時期制御手段は、前記進角・遅角処理において、前記ノッキング強度検出手段にて検出するノッキング強度が閾値に達するまで、失火が検出された前記燃焼室と同じ組における複数の前記燃焼室についての前記点火時期を進角側へ変更させるとともに、失火が検出された前記燃焼室と異なる組における複数の前記燃焼室についての前記点火時期を遅角側へ変更させている点にある。
【0017】
本特徴構成によれば、進角・遅角処理では、ノッキング強度検出手段にて検出するノッキング強度が閾値に達するまで、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室については点火時期を進角側へ変更させ、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室については点火時期を遅角側へ変更させている。これにより、失火が検出された燃焼室と同じ組における複数の燃焼室だけでなく、失火が検出された燃焼室と異なる組における複数の燃焼室の両者においてノッキングの発生を的確に防止しながら、点火時期の調整を行うことができる。
【0018】
本発明に係るエンジン制御装置の更なる特徴構成は、前記失火検出手段は、複数の前記燃焼室のうち、組分けされた複数組のどの組における燃焼室にて失火しているかを検出するように構成されている点にある。
【0019】
本特徴構成によれば、失火検出手段は、複数の燃焼室のどの燃焼室にて失火が発生しているのかを検出するのではなく、組分けされた複数組のどの組における燃焼室にて失火しているかを検出している。これにより、失火検出手段は、複数の燃焼室の夫々にて失火を検出する必要がなく、組毎で失火を検出するだけでよく、簡易な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るエンジン制御装置を用いたエンジンの概略構成図
図2】複数の燃焼室のうちの1つの燃焼室における概略構成を示す図
図3】排気温度、排気圧力、及び、エンジン出力の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るエンジン制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
本発明に係るエンジン制御装置にて制御するエンジン100は、図1に示すように、複数の燃焼室1を備えた多気筒式エンジンにて構成されている。このエンジン100では、複数の燃焼室1が1つの組として複数組に組分けされ、燃焼室1に新気A(空気)を供給する給気路2として、複数の燃焼室1の全てに対して共通する単一の給気路2が備えられ、燃焼室1から排ガスBを排気する排気路3として、各組における複数の燃焼室1の夫々から排ガスを排気する組毎で各別の排気路4,5が備えられている。
【0022】
この実施形態では、エンジン100が、一方のバンクに8つの燃焼室(図1中、#1〜#8)を備えるとともに、他方のバンクに8つの燃焼室(図1中、#9〜#16)を備えたV型16気筒式エンジンにて構成されている。そして、複数の燃焼室1の組分けはバンク毎で組分けされており、8つの燃焼室1を1つの組として2組に組分けされている。
【0023】
以下、図1中上側に位置する#1〜#8の燃焼室1を第1組とし、図1中下側に位置する#9〜#16の燃焼室1を第2組として説明する。また、排気路3については、第1組における#1〜#8の燃焼室1からの排ガスBを排気する排気路を第1排気路4とし、第2組における#9〜#16の燃焼室1からの排ガスBを排気する排気路を第2排気路5としている。
【0024】
給気路2は、第1流路部位2aと第2流路部位2bとが合流されて、複数の燃焼室1の全てに対して共通して新気Aを供給するように構成されている。排気路3は、第1排気路4と第2排気路5とがその下流側で合流されて排ガスBを外部等に排気するように構成されている。第1排気路4には、その第1排気路4を通流する排ガスBの温度を検出する第1排ガス温度センサ24が備えられ、第2排気路5には、その第2排気路5を通流する排ガスBの温度を検出する第2排ガス温度センサ25が備えられている。
【0025】
エンジン100には、第1ターボ過給機6と第2ターボ過給機7との2つの過給機が備えられている。第1ターボ過給機6は、第1排気路4を通流する排ガスBにより駆動される第1タービン8と、給気路2の第1流路部位2aを通流する新気A(空気)を加圧する第1コンプレッサ9と、第1タービン8と第1コンプレッサ9とを同軸回転自在に連結する第1回転軸10とから構成されている。第2ターボ過給機7は、第2排気路5を通流する排ガスBにより駆動される第2タービン11と、給気路2の第2流路部位2bを通流する新気A(空気)を加圧する第2コンプレッサ12と、第2タービン11と第2コンプレッサ12とを同軸回転自在に連結する第2回転軸13とから構成されている。
【0026】
このエンジン100では、複数の燃焼室1が備えられているが、複数の燃焼室1の夫々は、同様の構成を備えているので、図2に基づいて、1つの燃焼室1を例示して説明する。図2では、複数の燃焼室1のうち、1つの燃焼室1のみを示している。
【0027】
図2に示すように、エンジン100は、シリンダ14と、シリンダ14の上部に連結されたシリンダヘッド15とを有し、シリンダ14内には、連結棒16を介してクランク軸17に連結されたピストン18が上下方向に往復移動自在に収容されている。燃焼室1は、ピストン18の天面と、シリンダ14の内面と、シリンダヘッド15の下面とによって形成されている。燃焼室1には、給気路2及び排気路3が開口され、燃焼室1の吸気路2側には給気弁19が設けられ、燃焼室1の排気路3側には排気弁20が設けられている。シリンダヘッド15には、その下面の略中央に点火プラグ21が設けられている。
【0028】
このエンジン100は、ピストン18をシリンダ14内で往復運動させるとともに、給気弁19及び排気弁20を開閉動作させて点火プラグ21を所望の時期に作動させることにより、燃焼室1において、吸気行程、圧縮行程、燃焼・膨張行程、排気行程の各行程を順次行う。これにより、ピストン18の往復動を連結棒16によってクランク軸17の回転運動として出力するように構成されている。このような構成は、通常の4ストローク内燃機関と同様の構成である。
【0029】
エンジン100は、例えば都市ガス(13A)等の気体燃料を燃料Gとするものである。給気路2には、コンプレッサ9,12にて加圧された新気A(空気)に燃料Gを供給して混合気Mを形成するミキサ22と、給気路2の通路断面積を調整自在なスロットルバルブ23(新気量調整手段に相当する)とが備えられている。ここで、給気路2は、#1〜#16の複数の燃焼室1の全てに対して共通のものであるので、このスロットルバルブ23の開度を調整することで、#1〜#16の複数の燃焼室1の全てに対する混合気Mの供給量を調整するようにしている。また、エンジン100には、クランク軸17の回転角を計測するクランク角センサ27と、燃焼室1におけるノッキング強度を検出するノックセンサ28(ノッキング強度検出手段に相当する)とが備えられている。ノックセンサ28については、図示は省略するが、#1〜#16の燃焼室1の全てに対して備えられている。
【0030】
エンジン100には、複数の燃焼室1の夫々において点火プラグ21の作動時期等を制御してエンジン100の運転を制御する制御装置26が備えられている。この制御装置26には、クランク角センサ27、及び、ノックセンサ28等の検出信号が入力されるように構成されている。また、図1に示す、第1排ガス温度センサ24や第2排ガス温度センサ25の排ガス温度センサ24,25の検出信号も制御装置26に入力されるように構成されている。エンジン出力とエンジン回転速度との関係が予め設定されており、制御装置26は、負荷の大きさ等からエンジン出力として目標出力を求め、予め設定されているエンジン出力とエンジン回転速度との関係から目標出力を出力するための目標回転速度を求めている。そして、制御装置26は、クランク角センサ27の検出信号による回転速度が求めた目標回転速度になるようにスロットルバルブ23の開度を制御している。このように、制御装置26は、エンジン出力が目標出力となるようにスロットルバルブ23の開度を制御するエンジン出力制御手段29を備えている。
【0031】
(エンジンの動作)
エンジン100は、給気弁19を開動作させた状態でピストン18が上死点TDCから下降することにより、燃焼室1に混合気Mを吸気する吸気行程が行われる。次に、給気弁19を閉動作させた状態でピストン18が上昇することにより、燃焼室1の混合気Mを圧縮する圧縮行程が行われる。
制御装置26は、設定点火時期に点火プラグ21を作動させて、点火プラグ21にて火花点火して燃焼室1の混合気Mに点火させる。設定点火時期は、例えば、上死点TDCよりも点火用設定期間(クランク角度で例えば14°)だけ以前の時期に設定されている。これにより、燃焼室1の混合気Mが燃焼されて燃焼・膨張行程が行われる。次に、エンジン100は、排気弁20を開動作させた状態でピストン18が上昇することにより、燃焼室1の排ガスEを排気路3に排出する排出行程が行われる。
このようにして、エンジン100は、吸気行程、圧縮行程、燃焼・膨張行程、排気行程の順に各行程を行う一連の動作を繰り返し行うように構成されている。
【0032】
本実施形態におけるエンジン100では、失火が発生した燃焼室以外の燃焼室が過負荷状態となるのを抑制しながら、要求されている目標出力のエンジン出力を出力するために、燃焼室1における失火を検出する失火検出手段30と、点火プラグ21にて燃焼室1に形成された混合気Mを点火する点火時期を制御する点火時期制御手段31とを備えている。
【0033】
失火検出手段30について説明する。
排気行程では、燃焼室1の排ガスBが排気路3に排気されるので、燃焼室1において失火が発生していなければ、排気路3での排ガスBの排気温度は高い温度に維持される。それに対して、燃焼室1において失火が発生すると、排気路3での排ガスBの排気温度は低下する。そこで、第1排ガス温度センサ24にて第1排気路4での排ガスBの排気温度を検出しており、第2排ガス温度センサ25にて第2排気路5での排ガスBの排気温度を検出している。そして、制御装置26は、第1排ガス温度センサ24の検出温度T1と第2排ガス温度センサ25の検出温度T2とを比較して、その温度差が設定値(例えば、100℃)以上となっていると、排気温度が低い側の排気路3に排ガスBを排気する複数の燃焼室1の何れかにて失火が発生していると判別している。このようにして、排ガス温度センサ24,25及び制御装置26から構成される失火検出手段30は、複数組の夫々に対応する排気路4,5に備えられた排ガス温度センサ24,25の検出温度を比較することで、複数の燃焼室1のうち、組分けされた複数組のどの組における燃焼室1にて失火しているかを検出するように構成されている。
【0034】
点火時期制御手段31は、失火検出手段30が失火を検出した場合に、失火が検出された燃焼室1と同じ組における複数の燃焼室1について、点火プラグ21にて燃焼室1に形成された混合気Mを点火する点火時期を設定点火時期よりも進角側に変更させる進角処理を行うように構成されている。点火時期制御手段31は、進角処理において、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度が設定閾値(例えば10kPa)に達するまで、点火時期を進角用設定期間(例えば、クランク角度で1°)だけ進角させる処理を繰り返し行って点火時期を進角側へ変更させている。
【0035】
失火検出手段30による失火検出、及び、点火時期制御手段31による進角処理について、図3に基づいて説明する。
図3では、2組に組分けされた燃焼室1のうち、第2組における#11の燃焼室1(図1にて×にて示している)にて失火が発生した場合において、第1排気路4及び第2排気路5の夫々における排気温度、第1排気路4及び第2排気路5の夫々における排気圧力、及び、エンジン出力の変化を示したグラフである。
【0036】
排気温度については、第2組における#11の燃焼室1にて失火が発生すると、第2排ガス温度センサ25の検出温度T2が低下するが、第1組における#1〜#8の燃焼室1では失火が発生していないので、第1排ガス温度センサ24の検出温度T1は高温のまま維持される。失火検出手段30は、第1排ガス温度センサ24の検出温度T1と第2排ガス温度センサ25の検出温度T2とを比較して、その温度差が設定値(例えば、100℃)以上となっていると、第2組における複数の燃焼室1の何れかにて失火が発生していると判別している。
【0037】
失火検出手段30が第2組における複数の燃焼室1の何れかにて失火が発生していることを検出すると、点火時期制御手段31は、進角処理を行い、失火が検出された燃焼室1と同じ組である第2組における複数の燃焼室1について、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度が設定閾値(例えば10kPa)に達するまで、点火時期を進角用設定期間(例えば、クランク角度で1°)だけ進角させる処理を繰り返し行う。
【0038】
ここで、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度については、例えば、第1組における#1〜#8の燃焼室1、及び、第2組において失火を検出した燃焼室以外の#9、#10、#12〜#16の燃焼室1に備えられている複数のノックセンサ28にて検出するノッキング強度の平均値とすることができる。或いは、第2組において失火を検出した燃焼室以外の#9、#10、#12〜#16の燃焼室1に備えられている複数のノックセンサ28にて検出するノッキング強度の平均値を、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度とすることもできる。
【0039】
第2組における#11の燃焼室1にて失火が発生した後には、その#11の燃焼室1からエンジン出力を得られなくなるので、エンジン出力が低下することになる。そこで、エンジン出力制御手段29がスロットルバルブ23の開度を開き側に制御して、エンジン出力を増大させる。このとき、排気圧力については、第1排気路4における排気圧力P1、及び、第2排気路5における排気圧力P2の両者が、第2組における#11の燃焼室1にて失火が発生した後、増大して一定の値に維持される。ここで、第2排気路5における排気圧力P2の増大量は、第1排気路4における排気圧力P1の増大量に対して小さくなっている。したがって、第2排気路5における排気圧力P2は、第1排気路4における排気圧力P1よりも小さくなるので、燃焼室1に残存する既燃焼ガス等も第2排気路P2に排気され易く、第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1は、第1組における#1〜#6の燃焼室1に比べて、燃焼室1内の温度が低くなる。これにより、第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1については、点火時期制御手段31による進角処理によって点火時期を進角側に変更しても、ノッキングの発生を防止することができる。
【0040】
そして、第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1については、点火時期制御手段31が進角処理を行うことで、第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1から得られるエンジン出力を増大させることができ、第2排気路5における排気圧力P2も増大する。第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1から得られるエンジン出力が増大することで、エンジン出力制御手段29がスロットルバルブ23の開度を閉じ側に制御して、エンジン出力を減少させる。その結果、第1組における#1〜#8の燃焼室1に対する混合気Mの供給量が低下することになり、第1排気路4における排気圧力P1も低下して、第1組における#1〜#8の燃焼室1に対して多量の混合気Mが供給されて過負荷状態となるのを抑制することができる。
【0041】
エンジン出力については、第2組における#11の燃焼室1にて失火が発生した直後のごく短期間に多少の変動が生じるものの、ほぼ変化することなく、目標出力に維持することができる。
【0042】
このようにして、第2組における#11の燃焼室1にて失火した場合に、第1組における#1〜#8の燃焼室1について点火時期制御手段31が進角処理を行うことで、第1組における#1〜#8の燃焼室1に対して多量の混合気Mが供給されて過負荷状態となるのを抑制できながら、エンジン出力は目標出力に維持することができる。そして、制御装置26は、点火時期制御手段31が進角処理を行っているという情報を表示装置や警報装置等により外部に出力している。これにより、失火の発生によるエンジン出力の低下を防止しながら、予期せぬタイミングでエンジン100が停止することを防止できるとともに、所望のタイミングでエンジン100を停止させて、失火に対する適切なメンテナンス作業を行うことができる。
【0043】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、失火検出手段30にて失火を検出した場合に、点火時期制御手段31が進角処理を行うようにしている。それに対して、この第2実施形態では、点火時期制御手段31が、進角処理に代えて、進角・遅角処理を行うようにしている。その他の構成については、上記第1実施形態と同様であるので、以下、点火時期制御手段31による進角・遅角処理について説明する。
【0044】
点火時期制御手段31は、失火検出手段30にて失火を検出した場合に、進角処理と、失火が検出された燃焼室1と異なる組における複数の燃焼室1について点火時期を設定点火時期よりも遅角側に変更させる遅角処理とを併行して行う進角・遅角処理を行うように構成されている。点火時期制御手段31は、進角・遅角処理において、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度が設定閾値(例えば10kPa)に達するまで、失火が検出された燃焼室1と同じ組における複数の燃焼室1について点火時期を進角用設定期間(例えば、クランク角度で1°)だけ進角させる処理を繰り返し行って点火時期を進角側へ変更させるとともに、失火が検出された燃焼室1と異なる組における複数の燃焼室1について点火時期を遅角用設定期間(例えば、クランク角度で1°)だけ遅角させる処理を繰り返し行って点火時期を遅角側へ変更させている。
【0045】
例えば、第2組における#11の燃焼室1(図1にて×にて示している)にて失火が発生した場合に、点火時期制御手段31が進角・遅角処理を行うことで、第1排気路4及び第2排気路5の夫々における排気温度、第1排気路4及び第2排気路5の夫々における排気圧力、及び、エンジン出力については、上記第1実施形態における図3と同様の変化を示す。
そこで、図示は省略するが、第2組における#11の燃焼室1(図1にて×にて示している)にて失火が発生した場合の点火時期制御手段31による進角・遅角処理について説明する。
【0046】
第2組における#11の燃焼室1(図1にて×にて示している)にて失火が発生した場合に、点火時期制御手段31が進角・遅角処理を行う。この進角・遅角処理では、点火時期制御手段31が、失火が検出された燃焼室1と同じ組である第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1について、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度が設定閾値(例えば10kPa)に達するまで、点火時期を進角用設定期間(例えば、クランク角度で1°)だけ進角させる処理を繰り返し行う。
【0047】
ここで、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度については、例えば、第1組における#1〜#8の燃焼室1、及び、第2組における失火を検出した燃焼室以外の#9、#10、#12〜#16の燃焼室1に備えられている複数のノックセンサ28にて検出するノッキング強度の平均値とすることができる。或いは、第2組における失火を検出した燃焼室以外の#9、#10、#12〜#16の燃焼室1に備えられている複数のノックセンサ28にて検出するノッキング強度の平均値を、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度とすることもできる。
【0048】
このように、進角・遅角処理では、上記第1実施形態の進角処理と同様に、第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1について点火時期を進角させるのであるが、これに加えて、点火時期制御手段31が、第1組における#1〜#8の燃焼室1について、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度が設定閾値(例えば10kPa)に達するまで、点火時期を遅角用設定期間(例えば、クランク角度で1°)だけ遅角させる処理を繰り返し行う。
【0049】
ここで、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度については、例えば、第1組における#1〜#8の燃焼室1、及び、第2組における失火を検出した燃焼室以外の#9、#10、#12〜#16の燃焼室1に備えられている複数のノックセンサ28にて検出するノッキング強度の平均値とすることができる。或いは、第1組における#1〜#8の燃焼室1に備えられている複数のノックセンサ28にて検出するノッキング強度の平均値を、ノックセンサ28にて検出するノッキング強度とすることもできる。
【0050】
進角・遅角処理では、第2組における#9、#10、#12〜#16の燃焼室1について点火時期を進角させることで、第1組における#1〜#8の燃焼室1に対して多量の混合気Mが供給されて過負荷状態となるのを抑制できながら、エンジン出力は目標出力に維持することができる。そして、第1組における#1〜#8の燃焼室1について点火時期を遅角させるので、負荷の軽減を図り、第1組における#1〜#8の燃焼室1でのノッキングの発生を適切に防止することができる。
【0051】
〔別実施形態〕
(1)上記第1及び第2実施形態では、失火検出手段30が、排ガスEの排気温度に基づいて、失火を検出している。この構成に代えて、例えば、燃焼室6内に燃焼室内圧力を検出する圧力センサを設け、その圧力センサの検出情報を制御装置26に入力自在とする。失火検出手段30を圧力センサ及び制御装置26から構成し、制御装置26が、圧力センサにて検出する燃焼室内圧力に基づいて、失火を検出することもできる。
【0052】
この場合の失火検出について説明する。
失火が発生すると、燃焼圧力が発生しないので、失火が発生していない場合に比べて、燃焼室内圧力が上昇せず、1サイクルの最高圧力が低くなる。そこで、例えば、制御装置26は、圧力センサにて検出した燃焼室内圧力のうち1サイクルの最高圧力が失火検出用圧力以下となると、失火を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、燃焼室に形成された混合気を設定点火時期に点火する点火プラグを備え、前記燃焼室を複数備えた多気筒式エンジンについて、失火が発生した燃焼室以外の燃焼室が過負荷状態となるのを抑制できながら、要求されている目標出力のエンジン出力を維持できる各種のエンジン制御装置に適応することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 燃焼室
2 給気路
3 排気路
4 第1排気路
5 第2排気路
21 点火プラグ
23 スロットルバルブ(新気量調整手段)
28 ノックセンサ(ノッキング強度検出手段)
29 エンジン出力制御手段
30 失火検出手段
31 点火時期制御手段
図1
図2
図3