【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限られない。
<試験方法>
各種データ測定
以下の方法に従って、本発明の潤滑油組成物および比較例の潤滑油組成物の各種データを測定した。
[1]分離温度
分離温度は、ヒーターとしてCORNING PC-420Dを用いて測定を行った。
(1)100 mlビーカーに試料50 gを採取し、撹拌子100を入れた。
(2)
図2のように実験器具を組み、温度計101を接続した油温計測用に熱電対102を油中に差し込んだ。
(3)ホットスターラー103の撹拌速度を300rpmに設定した。
(4)プレート温度を200℃に設定し、油温が120℃になるまで加熱した。
(5)油温が120℃に達したら加熱をやめ、試料を室温付近まで冷却した。
(6)操作(4)と同様に油温を120℃に加熱した。
(7)油温が120℃に達したら加熱をやめ、ビーカー内のサンプルの状況を観察した。
(8)ビーカー内のサンプルが曇りを生じたら(析出物が見えたら)油温を記録し、分離温度とした。測定方法は目視だが、アニリン点の測定(JIS K 2256)を参考にした。
【0039】
[2]動粘度(40℃)
[1]で分離温度を測定した試料を用いた。動粘度(40℃)の測定は、試験装置としてウベローデを用いて、JIS K 2283に従って行った。測定温度において二相に分離可能であるため、上相(低粘度成分が主成分)の上澄み部分を採取し、粘度測定用の試料とした。
【0040】
[3]動粘度(100℃)
[2]と同様、[1]で分離温度を測定した試料を用いた。動粘度(100℃)の測定は、試験装置としてウベローデを用いて、JIS K 2283に従って行った。試料を予め100℃に加温した状態で粘度管に採取し、温度が低下しないうちに浴に入れ、測定を実施した。
【0041】
[4]見かけ粘度指数(見かけVI)
見かけVI(viscosity index)は、JIS K 2283に従って、上記40℃および100℃の動粘度から計算した。なお、見かけVIは、通常のVIと異なり、40℃動粘度が組成物の一部である上澄みを用いて計測している。
【0042】
[5]密度(15℃)
密度(15℃)の測定は、振動式試験装置(京都電子工業:DA-300)を用いて、JIS K 2249に従って行った。
【0043】
[6]酸素/炭素重率
酸素/炭素重率(炭素重量に対する酸素重量の割合)は、試験装置としてエレメンタール社のvario EL IIIを用いて、JPI-5S-65(石油製品−炭素分、水素分および窒素分試験方法)およびJPI-5S-68(石油製品−酸素分試験方法)に従って行った。
【0044】
実施例および比較例
以下の実施例および比較例において、下記の成分を用いて潤滑剤組成物を製造した。量は特に記載のない場合、重量部で表す。実施例及び比較例に用いられた成分は、以下の通りである。
【0045】
[1] 低粘度成分
低粘度成分としては、以下の基油1〜6を用いた。なお、これらの酸素/炭素重率はいずれも0であった(酸素原子を含まないため)。
(1)「基油1」は、20℃での密度0.8198 g/cm
3、40℃で7.65 mm
2/s、100℃で2.28 mm
2/sの動粘度を有しているG-II鉱油(S-Oil:Ultra S-2として市販)であった。
(2)「基油2」は、20℃での密度0.7972 g/cm
3、40℃で5.75 mm
2/s、100℃で1.85 mm
2/sの動粘度を有しているG-IV合成油(INEOS:Durasyn162として市販)であった(一般名称PAO2)。
(3)「基油3」は、20℃での密度0.8326 g/cm
3、40℃で19.38 mm
2/s、100℃で4.25 mm
2/sの動粘度を有しているG-III鉱油(パラフィン基油)(SKルブリカンツ:Yubase4として市販)であった。
(4)「基油4」は、20℃での密度0.8189 g/cm
3、40℃で17.57 mm
2/s、100℃で3.96 mm
2/sの動粘度を有しているG-IV合成油(エクソンモービルケミカル:Spectra Syn 4として市販)であった(一般名称PAO4)。
(5)「基油5」は、40℃で17.25 mm
2/s、100℃で3.88 mm
2/sの動粘度を有しているG-IV鉱油(モービル:SHF41として市販)であった(一般名称PAO4)。
【0046】
[2] 添加剤
添加剤として、ATF添加剤パッケージをコントロール成分に配合した。「添加剤パッケージ」は伝達流体の特別の性能向上パッケージで、摩擦改良剤、酸化防止剤、抗さび剤、抗摩耗剤、分散剤および清浄剤を含む性能改善用添加剤の組合せを含むものである。
【0047】
[3] コントロール成分
コントロール成分としては、以下のエステル1〜4を用いた。
(1)「エステル1」は、20℃での密度0.924 g/cm
3、酸素/炭素重率0.221、40℃で10.81 mm
2/s、100℃で3.042 mm
2/sの動粘度を有している脂肪酸ジエステル(田岡:DINAとして市販のアジピン酸ジイソノニル)であった。
(2)「エステル2」は、20℃での密度0.8577 g/cm
3、酸素/炭素重率0.0969、40℃で9.701 mm
2/s、100℃で2.928 mm
2/sの動粘度を有している脂肪酸モノエステル(花王:エキセパールEH-Sとして市販のステアリン酸イソオクチル)であった。
(3)「エステル3」は、20℃での密度0.982 g/cm
3、酸素/炭素重率0.219、40℃で45.81 mm
2/s、100℃で7.272 mm
2/sの動粘度を有しているトリメリット酸エステル(花王:トリメックスN-08として市販のトリメリット酸トリノルマルアルキル)であった。
(4)「エステル4」は、20℃での密度0.918 g/cm
3、酸素/炭素重率0.128、40℃で49.21 mm
2/s、100℃で9.816 mm
2/sの動粘度を有している脂肪酸トリエステル(花王:カオールーブ190として市販のオレイン酸トリメチロールプロピル)であった。
【0048】
[4] 高粘度成分
高粘度成分としては、以下のポリアルキレングリコールを用いた。
(1)「PAG1」は、20℃での密度0.995 g/cm
3、酸素/炭素重率0.428、40℃で73.4 mm
2/s、100℃で13.75 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(日油:MB-14として市販)であった。
(2)「PAG2」は、20℃での密度1.000 g/cm
3、酸素/炭素重率0.446、40℃で125 mm
2/s、100℃で22.13 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(日油:MB-22として市販)であった。
(3)「PAG3」は、20℃での密度1.002 g/cm
3、酸素/炭素重率0.451、40℃で227 mm
2/s、100℃で36.28 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:MB-38として市販)であった。
(4)「PAG4」は、20℃での密度1.003 g/cm
3、酸素/炭素重率0.451、40℃で616 mm
2/s、100℃で92.73 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:MB-700として市販)であった。
(5)「PAG5」は、20℃での密度1.006 g/cm
3、酸素/炭素重率0.453、40℃で398 mm
2/s、100℃で62.23 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(ダウケミカル:P4000として市販)であった。
(6)「PAG6」は、20℃での密度1.008 g/cm
3、酸素/炭素重率0.460、40℃で321.4 mm
2/s、100℃で47.17 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:TG-4000として市販)であった。
(7)「PAG7」は、20℃での密度1.019 g/cm
3、酸素/炭素重率0.578、40℃で23 mm
2/s、100℃で3.215 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:D-250として市販)であった。
(8)「PAG8」は、20℃での密度1.058 g/cm
3、酸素/炭素重率0.550、40℃で397 mm
2/s、100℃で71.07 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:50MB-72として市販)であった。
(9)「PAG9」は、20℃での密度1.13 g/cm
3、酸素/炭素重率0.760、40℃で40.6 mm
2/s、100℃で7.316 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(日油:PEG400として市販)であった。
(10)「PAG10」は、75°Fでの密度1.00 g/cm
3、40℃で143 mm
2/s、100℃で22.6 mm
2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(ラインケミー(RheinChemie):Baylube150GLとして市販)であった。
【0049】
実施例1
下記に示すように高粘度成分、添加剤、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表1は、低粘度成分として基油1、高粘度成分としてPAG、コントロール成分としてエステル1を用いた組み合わせの組成および分離温度、動粘度(40℃および100℃)を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例2
実施例1と同様に、下記に示すように高粘度成分、添加剤、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表2および3は、種々の高粘度成分やコントロール成分を用いた組み合わせの組成および分離温度、動粘度(40℃および100℃)を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
比較例1
特許文献1の実施例(特許文献1の28〜29頁、表3、2番目の潤滑油)の開示に従って、潤滑油組成物を調製した。表4は、従来技術である特許文献1記載の低粘度成分、高粘度成分の組み合わせの組成および分離温度、100℃動粘度を示す。なお、特許文献1記載の処方では、本発明におけるコントロール成分を使用していない。
【0055】
【表4】
【0056】
比較例2
実施例1と同様に、下記に示すように高粘度成分、添加剤、コントロール成分、基油の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製し、分離温度および動粘度(40℃および100℃)を測定した。
【0057】
【表5】
【0058】
なお、(2−1)〜(2−3)は25℃で混和したので、混和した成分の40℃、100℃における動粘度を測定した(*印)。(2−4)〜(2−6)では120℃に加熱しても混和せず二相のままであったので、本発明の二相系潤滑油としては不適であると判断して、動粘度を測定しなかった。
【0059】
考察
(1)コントロール成分の有無(実施例1と比較例1)
実施例1の結果より、本発明にかかる二相潤滑油組成物は、低粘度成分と高粘度成分にコントロール成分であるエステル化合物を加えることで、100℃動粘度をほぼ同レベルに保ちつつも、分離温度を変化させることが可能である。例えば、実施例1における(1−1)〜(1−3)は100℃動粘度を6.5 mm
2/s前後に維持しつつ、分離温度を50℃〜69℃の範囲で制御可能であり、実施例1における(1−4)〜(1−5)は100℃動粘度を2.8 mm
2/s前後に維持しつつ、分離温度を69℃〜100℃の範囲で制御可能であり、実施例1における(1−6)〜(1−8)は100℃動粘度を6.0 mm
2/s前後に維持しつつ、分離温度を49℃〜77℃の範囲で制御可能である。すなわち、コントロール成分としてエステル化合物を用いると、分離温度が低下するとともに、その動粘度にはほとんど変化がないことが分かった(
図3参照)。
【0060】
さらに、コントロール成分としてのエステル化合物を増量[実施例1における(1−1)と(1−2)、(1−4)と(1−5)、(1−6)と(1−7)]すると(5%から20%)、エステル化合物の量が多いほど相転移温度(分離温度)の低下度も大きいことが分かった。その場合でも、動粘度にはほとんど変化がなかった。このエステル化合物は、低粘度成分と高粘度成分を混和しやすくするために数多くの種類の中から選択した結果、適度な極性を有するものを見出したものであり、その結果コントロール成分を加えない場合に比べてより低い温度で両成分を混和することができ、かつその動粘度には大きな影響を与えないことが分かった。
【0061】
一方、特許文献1記載の処方[比較例1における(1−2)〜(1−6)]だと、コントロール成分を用いずに、高粘度成分と低粘度成分の比率を変化させるのみである。その場合、
図3に示すように、高粘度成分の割合を増やすことで100℃動粘度が高くなるが、分離温度が高くなったり低くなったりが不確かで大きく変動するため、動粘度と分離温度のコントロールが非常に困難であり、実用に適した潤滑油組成物を得ることが難しい。
【0062】
(2)高粘度成分の比較(実施例1〜2と比較例2)
実施例1および2にあるように、低粘度成分と、PAG3、PAG4、PAG5、PAG6およびPAG7といった高粘度成分に加えてコントロール成分を用いると、40〜100℃の間の温度で混合物が二相から一相に混和するので、低温では二相、高温では一相となり、また一相となった混合物の100℃動粘度が2.5〜15 mm
2/sの間に留まっていることから、高温領域で油膜切れを起こさないという本発明の目的に適う。この効果を奏するのは、密度1.000〜1.050 g/cm
3、酸素/炭素重率0.450〜0.580の高粘度成分であると考えられる。
【0063】
一方、比較例2に示すように、高粘度成分としてPAG1およびPAG2といった低密度かつ酸素/炭素重率の低い成分を用いると[比較例(2−1)〜(2−3)]、加熱する前の25℃の時点ですでに低粘度成分と高粘度成分が混和しており、低温では通常上相にある低粘度成分のみの粘度を利用するという目的に適わない。一方、PAG8およびPAG9といった高密度かつ酸素/炭素重率の高い成分を用いると[比較例(2−4)〜(2−6)]、120℃まで加温しても、低粘度成分と高粘度成分が二相に分離したまま混和しなかったため、100℃付近の高温で低粘度成分と高粘度成分の両者を用いるという目的には適わない。自動車や工業機械などの使用温度域を考慮すると、二相に分離する温度は40℃から100℃の間にあり、分離温度未満では二相、分離温度より高い温度では一相であることが好ましい。比較例2における(2−1)〜(2−6)はこの範囲外に分離温度があることから、これらは本発明の目的には適さない。