特許第5731335号(P5731335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 日立産業制御ソリューションズの特許一覧

特許57313352次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム
<>
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000007
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000008
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000009
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000010
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000011
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000012
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000013
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000014
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000015
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000016
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000017
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000018
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000019
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000020
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000021
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000022
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000023
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000024
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000025
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000026
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000027
  • 特許5731335-2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム 図000028
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731335
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   G06F17/50 602J
   G06F17/50 680B
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-197597(P2011-197597)
(22)【出願日】2011年9月9日
(65)【公開番号】特開2013-58173(P2013-58173A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2014年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000153443
【氏名又は名称】株式会社 日立産業制御ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(72)【発明者】
【氏名】秋山 高行
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴志子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 務
【審査官】 合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−149915(JP,A)
【文献】 特開平11−134509(JP,A)
【文献】 特開平06−301736(JP,A)
【文献】 特開2011−107770(JP,A)
【文献】 特開平10−021412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
IEEE Xplore
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
始点座標から指定された長さと角度を有する線分を生成し、生成回数が既定値に達するまで線分角度を増加させながら線分の生成を繰り返して放射状に配された複数の線分を生成する線分生成部と、
2次元CADデータベースに登録されている図形データと前記複数の線分との交点の座標を算出する交点計算部とを有する放射状探索部と、
複数の前記交点を連結し、ポリゴンで表現されるオブジェクトデータを生成するオブジェクト生成部と、
前記オブジェクトデータをオブジェクトデータベースに登録するオブジェクト登録部と
を有することを特徴とする2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システム。
【請求項2】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記線分生成部に対し、前記線分の長さを与える機能部を有する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項3】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記放射状探索部に対し、前記線分の生成回数を与える機能部を有する
ことを特徴とする屋内地図におけるオブジェクト抽出システム。
【請求項4】
請求項3に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記放射状探索部に対して与える線分の前記長さと前記生成回数を、オブジェクトの抽出精度に応じて自動的に設定する機能部を有する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項5】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
オブジェクトの抽出結果を、図形形状を成す交点列の並び方に従って修正する機能部を有する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項6】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記2次元CADデータベースに登録されている図形データが、物品と空間のいずれの構成線分であるかを格納する図形登録情報データベースを更に有し、
前記放射状探索部は、前記図形登録情報データベースを参照し、指定された種別の構成線分についてのみ前記交点の座標を算出する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項7】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記放射状探索部に入力する始点座標を自動生成する始点座標点生成部を有する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項8】
請求項7に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記始点座標点生成部は、複数の始点座標を一度に生成して前記放射状探索部に与え、
前記放射状探索部は、前記複数の始点座標について交点の座標の算出を並列に実行し、
前記オブジェクト生成部は、前記複数のオブジェクトを前記複数の始点座標について並列に抽出する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項9】
請求項7に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記始点座標点生成部は、始点座標を放射探索の実行回毎に生成し、次回の放射探索で使用する始点座標を、前回の放射探索によるオブジェクトの抽出結果を反映して生成する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項10】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
オブジェクトの形状の正しさを評価する情報を格納した図形特徴データベースと、
前記放射状探索部により生成されたオブジェクトの形状の正しさを前記図形特徴データベースに格納された情報に基づいて評価するオブジェクト評価部とを有する
ことを特徴とする屋内地図におけるオブジェクト抽出システム。
【請求項11】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
2次元CAD図面を表示する図面表示部と、前記放射状探索部によるオブジェクトの抽出結果を表示する結果表示部と、ユーザからの操作入力を受付ける操作受付部と、入力モードを管理する入力モード管理部とを有するGUI部と、
前記GUI部を通じて入力された情報に基づいて、2次元CAD図面に対する補助線を生成する補助線生成部と
を有することを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項12】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記放射状探索部が、複数の始点座標を利用して1つのオブジェクトを抽出する入力モードに対応する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項13】
請求項11に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記補助線生成部は、オブジェクトの抽出範囲を分割する補助線を生成する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項14】
請求項1に記載のオブジェクト抽出システムにおいて、
前記放射状探索部によって抽出されたオブジェクトに対してクラス、タイプその他の属性情報を付与し、前記オブジェクトデータベースへ登録する機能部を有する
ことを特徴とするオブジェクト抽出システム。
【請求項15】
オブジェクト抽出システムを構成するコンピュータを、
始点座標から指定された長さと角度を有する線分を生成し、生成回数が既定値に達するまで線分角度を増加させながら線分の生成を繰り返して放射状に配された複数の線分を生成する線分生成部と、
2次元CADデータベースに登録されている図形データと前記複数の線分との交点の座標を算出する交点計算部とを有する放射状探索部、
複数の前記交点を連結し、ポリゴンで表現されるオブジェクトデータを生成するオブジェクト生成部、及び
前記オブジェクトデータをオブジェクトデータベースに登録するオブジェクト登録部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造化されていない2次元CADデータからオブジェクトを抽出するシステム及びプログラムに関する。例えば建築図面としての2次元CADデータから建物情報の構造化に必要なオブジェクトを抽出するシステム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化、グローバル化、低成長化などを背景として、企業においては、建物の維持管理・保全、ライフサイクル管理、日常業務の効率化、経営コスト削減など、建物に係る全てを経営的な観点から効率化することが求められている。そこで、建物および建物内の設備や物品の管理をシステム化し、業務効率化を支援する製品が提供されている。これらの製品による高度な管理機能の実現には、建物の外郭、階、部屋などのオブジェクト単位で構造化された屋内地図を整備する必要がある。
【0003】
一方、建築分野では、立体的な建物を平面図で表現する2次元CAD(Computer Aided Design)図面が、従来の紙図面を電子化した図面との位置づけとして広く用いられている。さらに最近では、BIM(Building Information Model)と呼ばれる3次元モデリングの機能を備えた3次元CAD製品も普及し始めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、実際に入手可能なデータは、未だ、2次元CADデータが主流である。2次元CADデータでは、建物の外郭や部屋がポリゴンではなく、独立した線の集合として入力されていることが多い。また、階ごとのデータは、一つの図面に並べて提供される場合と、別図面として提供される場合があり、階同士の対応関係は明示されていない。さらに、2次元CADデータには、基準線や寸法線などの実際の構造物にはない作図用の補助要素が多数存在し、建物の外郭や部屋との区別自体が困難である。そのため、現在のコンピュータ処理技術では、2次元CADデータからオブジェクトを正しく認識することが困難である。
【0005】
そこで、従来製品には、GUI(Graphical User Interface)を使用し、手作業によりオブジェクトを抽出するものがある。この製品の場合、長方形の部屋を抽出する作業者は、画面上で4点をクリック入力し、それらの4点を結んだ長方形のポリゴンデータを発生する。ただし、この従来製品による入力方式は、部屋の数の4倍のクリック操作が必要であり、多くの作業時間が必要である。
【0006】
この他、「部屋」が閉空間で与えられるものと仮定し、部屋を形成する一つの壁を表す線分を作業者が指定すると、その線分とつながっている全ての線分を探索することにより、部屋を表すオブジェクトを抽出する方式が考えられる。この方式は、完全に閉じた図形であれば(線分により輪(ring)が形成されていれば)、1回のクリック操作だけで目的とする部屋を抽出することができる。しかし、多くの場合、2次元CADデータは、線分同士が重なっていたり、線分と線分の間に隙間があったりする。また、2次元CADデータには、設計者の入力ミスも非常に多い。このため、実用上は、1回のクリック操作により、オブジェクトを抽出できないケースが非常に多い。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、構造化されていない2次元CADデータからオブジェクトを効率的に自動抽出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、2次元CADデータ上で任意に指定された1つ又は複数の始点座標から放射状に生成される複数の線分と、2次元CADデータ内に登録された図形データとの各交点を結んだ領域をオブジェクトデータとして抽出する手法を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既存の2次元CADデータが与えられた場合でも、作業者は、任意の始点座標を1つ指定するだけで、又はオブジェクトの抽出をシステムに対して指示するだけで、始点座標を領域内に含む1つのオブジェクトを自動的に抽出することができる。また、オブジェクトの抽出作業を効率化できる結果、抽出されたオブジェクトを用いた高度な管理等の実用化を促進することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明において明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】放射状探索により、2次元CADデータからポリゴンなどのオブジェクトデータを抽出する実施例システムの機能構成を示す図。
図2】2次元CADデータベースに格納されているデータの構造とそのイメージを説明する図。
図3】オブジェクトデータベースのデータ構造を示す図。
図4】実施例に係る放射状探索の処理手順を示すフローチャート。
図5】実施例に係る放射状探索によるオブジェクトの抽出結果の一例を示す図。
図6】要求精度に応じた線分の長さと生成回数の組み合わせを登録したデータベースのデータ構造を示す図。
図7】放射状探索の際に図形データのクラスを識別し、オブジェクトの抽出結果に反映する機能を備える実施例システムの機能構成を示す図。
図8】図形登録情報データベースのデータ構造を示す図。
図9】図形登録情報データベースを利用したオブジェクトの抽出処理と抽出結果の一例を説明する図。
図10】放射状探索で使用する始点座標を自動生成する機能を有する実施例システムの機能構成を示す図。
図11】放射状探索で使用する始点座標を並列的に自動生成する例と、直前回の放射状探索の結果を反映して次回の始点座標を逐次自動生成する例を説明する図。
図12】抽出されたオブジェクト形状の正しさを自動的に評価する機能を有する実施例システムの機能構成を示す図。
図13】図形特徴データベースのデータ構造例を示す図。
図14】抽出されたオブジェクト形状の正しさの自動評価に使用される処理動作の流れを説明するフローチャート。
図15】オブジェクトの誤抽出例を示す図。
図16】抽出されたオブジェクト形状の正しさの自動評価に使用される他の処理動作の流れを説明するフローチャート。
図17】GUIの利用により、ユーザがオブジェクト抽出結果をインタラクティブに補正可能な実施例システムの機能構成を示す図。
図18】ユーザと、GUIと、オブジェクト抽出機能の間における操作とデータの流れの関係を示すシークエンス図。
図19】GUIを利用した補助線の入力例と、入力された補助線により修整されたオブジェクトの抽出例を示す図。
図20】複数の始点座標を用いた放射状探索により1つのオブジェクトを抽出するモードを説明する図。
図21】ユーザと、GUIと、オブジェクト抽出機能の間における操作とデータの流れの関係を示すシークエンス図。
図22】補助線を用いた放射状探索によるオブジェクトの分割抽出を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明する。特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0012】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ブロックや要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0013】
また、以下の実施の形態において、構成要素(機能部、処理部、処理手段等)は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現することもでき、また例えばプロセッサにおいて実行されるプログラムとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0014】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものとし、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
[実施例1]
(システム構成)
図1に、2次元CADデータのためのオブジェクト抽出システムの実施例を示す。本実施例に係るシステムは、2次元CADデータベース101、オブジェクト生成部102、オブジェクト登録部103、オブジェクトデータベース104及び放射状探索部110により構成される。
【0017】
2次元CADデータベース101には、線分、円弧その他で構成された図形データが登録されている。この実施例の場合、図形データは建物に関する線図データであり、それらの集合により屋内地図が構成される。オブジェクト生成部102は、ポリゴンで表現されるオブジェクトデータを生成するデータ処理部である。オブジェクト登録部103は、生成されたオブジェクトデータをオブジェクトデータベース104に登録するデータ処理部である。オブジェクトデータベース104は、ハードディスクその他の記憶装置で構成され、その記憶領域においてオブジェクトデータが管理される。放射状探索部110は、線分生成部111と交点計算部112で構成される。線分生成部111は、指定された長さと角度を有する線分を、始点座標から放射状に生成するデータ処理部である。交点計算部112は、生成された線分と2次元CADデータを構成する線分との交点座標を算出するデータ処理部である。
【0018】
(データベースの構成)
本明細書において、「オブジェクト」とは、屋内地図上で定義される一定の面積を有する一塊の領域であり、物品か空間かを示すクラスと、部屋やベッドといったより詳細な種別を示すタイプの情報により管理される。
【0019】
図2(a)は、2次元CADデータベース101に格納されている図形データのデータ構造を示している。図2(a)に示すように、図形データは、図形データを一意に識別する図形ID201と、図形の種類(例えば線分、円弧等)を識別する図形タイプ202と、図形を形成する頂点の座標列を表す点列203で構成されている。図2(b)は、既存の2次元CADデータに登録されている図形データの集合により表現される屋内地図の一例を示す。図2(b)に示す屋内地図には、部屋や柱といったオブジェクトは登録されておらず、個々の線分がばらばらに登録されているのみである。
【0020】
図3は、オブジェクトデータベース104に格納されているオブジェクトデータの構造例を示している。オブジェクトデータを一意に識別するオブジェクトID301と、オブジェクトが物品か空間かを示すクラス302と、部屋やベッドといったオブジェクトのより詳細な種別を示すタイプ303と、オブジェクトを形成する頂点の座標列を表す点列304で構成されている。オブジェクトのクラスやタイプは、ユーザが後で入力するものとしてもよいし、事前に設定しておくものとしてもよい。
【0021】
(処理動作の概要)
以下では、図4図5を使用し、2次元CADデータベース101に登録されている図形データからオブジェクトを抽出し、オブジェクトデータベース104に登録するまでの処理の流れを説明する。
【0022】
まず、図4を用い、2次元CADデータベース101に登録された図形データから、オブジェクトを抽出するまでの処理の流れを説明する。図4の処理は、放射状探索部110、オブジェクト生成部102、オブジェクト登録部103が実行する。
【0023】
(ステップS401)
線分生成部111は、放射状探索の地図上における始点の座標と線分の長さの入力を受付ける。始点の座標と線分の長さは、ユーザが手動で入力してもよいし、事前に設定された値を自動的に読み出して使用してもよい。後者の場合、線分生成部111が、不図示の記憶領域から事前に設定された始点の座標と線分の長さを読み出し、処理用のパラメータに入力する。
【0024】
(ステップS402)
初回実行時、線分生成部111は、入力された始点座標から屋内地図座標系のx軸方向(すなわち、x軸との成す角が0°)に、入力された線分の長さを有する線分を生成する。2回目以降では、前回実行時から所定角だけ傾きが増加した線分を生成する。
【0025】
(ステップS403)
交点計算部112は、生成された線分と2次元CADデータベースに登録された全ての図形データとの交点を計算し、その座標を保持する。交点が複数計算された場合には、線分の始点座標からの距離が最も短い交点の座標を保持する。なお、この実施例では、少なくとも1つは交点座標が求まるものとする。
【0026】
(ステップS404)
放射状探索部110は、生成した線分の数が規定値に達したか否かを判定する。肯定的な判定結果が得られた場合(すなわち、線分の生成回数が既定値に達した場合)、放射状探索部110は、保持された交点座標をオブジェクト生成部102に与え、ステップS405に進む。これに対し、否定的な判定結果が得られた場合(すなわち、線分の生成回数が既定値に達しない場合)、放射状探索部110は、ステップS406に進む。この実施例の場合、線分の生成回数を与える既定値は、ユーザが事前に設定しておくものとする。もっとも、その都度、ユーザが入力しても良い。
【0027】
(ステップS406)
放射状探索部110は、交点の探索に使用する次回の線分生成時に使用する、屋内地図座標系のx軸と線分との成す角を所定量だけ増加させる。角度の増加量は、線分生成回数の最大値により、360°を割った値として与えられる。増加後の角度は、線分生成部111に与えられる。新たな角度が与えられた線分生成部111は、前述と同様、始点座標から与えられた角度方向に延びる線分を生成する。同様の処理が、線分生成回数が最大値に達するまで繰り返し実行される。線分生成回数の最大値は、ユーザが手動で入力してもよいし、事前に設定されていてもよい。
【0028】
(ステップS405)
この処理は、オブジェクト生成部102が実行する。オブジェクト生成部102は、放射状に生成された線分の本数分だけ保持された交点座標を頂点とするポリゴンを生成し、当該ポリゴンをオブジェクトデータとしてオブジェクト登録部103に与える。オブジェクト登録部103は、与えられたオブジェクトデータをオブジェクトデータベース104に登録する。この際、登録されるオブジェクトデータには、オブジェクトID301が付与される。オブジェクトデータに対するクラスやタイプは、後述のように、ユーザが付与してもよいし、事前に設定された条件に従って自動的に付与してもよい。
【0029】
(放射状探索の実行イメージ)
図5に、放射状探索の実行イメージを示す。図5は、図2(b)で示す屋内地図(2次元CADデータ)に放射状探索を適用する場合における始点座標と交点座標の配置関係と探索結果とを示している。
【0030】
図5の符号(a)は、線分の生成回数を8回として放射状探索を実行した場合の交点の算出結果例を示している。この実施例の場合、x軸(0°)から反時計周りに45°ずつ角度を増加させながら生成された8本の線分と始点座標に最も近い図形データとの間で8個の交点が算出される。算出された交点をつなぎ合わせると、図5(b)で示すように、六角形のポリゴン(オブジェクト)が生成される。
【0031】
(実施例の効果)
本実施例の場合、ユーザは、屋内地図上の任意の1点を始点座標としてGUI上で指定するだけで、始点座標から線分方向に最も近い図形データとの交点を結んだ図形をオブジェクトとして自動抽出することができる。上述した放射状探索は、屋内地図を構成する線分同士がデータ上は結合していない場合でも、部屋に相当するオブジェクトを自動的に抽出することができる。このため、オブジェクトの抽出効率の向上が期待できる。
【0032】
また、図5に示すように、長方形の部屋は六角形のオブジェクトとして抽出される。このオブジェクトの形状は、部屋の形状と一致しない。しかしながら、登録されたオブジェクトを利用する用途によっては、このような抽出でも十分である。勿論、より部屋の形状に近いオブジェクトを自動抽出したい場合には、放射状に生成する線分の生成回数を増やせば良い。線分の生成回数を増やすほど、一般的には、生成されるオブジェクトの形状を部屋の形状に近づけることができる。ただし、線分の生成回数を増やすほど、信号処理に要する時間が増えるため、オブジェクトの抽出に要する時間が長くなる。
【0033】
本実施例に係る放射状探索を用いれば、既存の2次元CADデータからも効率的にオブジェクトデータを抽出できる。このため、管理業務に必要な構造化された屋内地図の整備を促進することができる。これにより、様々な分野において、既存の2次元CADデータに基づいた高度な管理サービスの提供を促進することができる。
【0034】
[実施例2]
実施例1の場合には、放射状探索において使用する線分の長さと生成回数を手動により又は予め設定されているものとして説明した。例えば屋内地図を構造化したデータを用いて提供される管理サービスが、施設内にある比較的大きな物品(例えばベッドや机)の管理の場合には、部屋の頂点を与える座標に1m程度の誤差が生じたとしても問題は生じない。従って、このような用途での利用が想定される場合には、線分を生成する角度の間隔は必ずしも細かくなくてもよいことになる。その一方で、構造化したデータを施設内にある比較的小さい物品(例えばフロアランプや電話機)の管理に使用する場合には、同じ1m程度の誤差でも問題が生じる可能性がある。
【0035】
そこで、本実施例では、放射状探索において使用する線分の長さと生成回数を、構造化データを用いて提供するサービスの要求精度に応じて最適化することができるオブジェクト抽出システムについて説明する。
【0036】
本実施例の場合、放射状探索部110に、図6に示すようなデータ構造を有するデータベースを格納する又は必要に応じて外部の記憶装置から読み出せるようにする。図6に示すデータベースには、要求精度601に対し、線分の長さ602と、線分の生成回数603を対応付けた状態で保持されている。
【0037】
図6では、例えば要求精度が「1m」である場合に、線分の長さを10mに設定し、線分の生成回数を360回(1°角)に設定する例が示されている。また、例えば要求精度が「5m」である場合に、線分の長さを20mに設定し、線分の生成回数を180回(2°角)に設定する例が示されている。
【0038】
なお、要求精度は、ユーザが指定入力しても良いし、構造化データを使用するソフトウェアから自動的に与えられ又は読み出されるようにしても良い。
【0039】
[実施例3]
実施例1で説明したように、ステップS403においては、線分と図形データとの全ての交点座標が保持される。すなわち、生成されたオブジェクトデータには、線分の生成回数と同じ数の頂点が登録されている。しかし、全てのオブジェクトデータについて、全ての交点座標を頂点座標として登録すると、記憶容量の消費量が大きくなる。
【0040】
そこで、本実施例の場合には、同一の図形データ上に並んでいる交点については、当該図形上の始めと終わり(両端)に位置する交点のみを頂点として保持し、記憶容量の消費量を削減する。また、各頂点座標の前後に位置する頂点座標の平均として与えることにより、頂点座標の急な飛び等を平滑化してもよい。
【0041】
[実施例4]
(システム構成)
本実施例では、オブジェクトデータベースに登録された情報と2次元CADデータベースに登録された図形データの情報を相互に利用することにより、算出された交点が物品上に存在するか空間上に存在するかの自動判別を可能とし、その判定結果を利用してオブジェクトを抽出するオブジェクト抽出システムについて説明する。
【0042】
図7に、本実施例に係るオブジェクト抽出システムの構成例を示す。このシステムの基本構成は実施例1(図1)と同様であり、図形登録情報データベース701を新たに追加する点と、図形登録情報データベース701の情報を追加的に使用して交点の座標を計算する放射状探索部710により放射状探索部110を置換した構成を有している。
【0043】
図形登録情報データベース701には、2次元CADデータベース101に登録された図形データについてオブジェクトデータベース104に登録された情報が関連付けられた状態で格納されている。
【0044】
放射状探索部710は、線分生成部111と交点計算部711で構成されており、交点計算部711が新規の機能を提供する。因みに、交点計算部711は、2次元CADデータベース101と図形登録情報データベース701の登録情報を参照し、屋内地図内に物品の図形データが含まれる場合でも、空間に対応する図形データとの交点のみを選択的に計算する機能を提供する。なお、交点計算部711のその他の機能は交点計算部112と同じである。
【0045】
以下、図8を用い、図形登録情報データベース701の詳細なデータ構造を説明する。図形登録情報データベース701は、2次元CADデータベース101内の図形データを一意に識別するID801と、図形データに関連するオブジェクトが物品か空間かを示すクラス802と、部屋やベッドといったオブジェクトがより詳細な種別を示すタイプ803と、図形データの図形の種類(例えば線分、円弧等)を識別する図形タイプ804と、オブジェクトを形成する頂点の座標列を表す点列805とで構成される。
【0046】
図形登録情報データベース701は、例えばオブジェクトデータベース104に新たなオブジェクトが登録される際に、2次元CADデータベース101から読み出した図形データに紐付けるように自動生成される。
【0047】
(処理動作の概要)
以下では、図9を使用し、図形登録情報データベース701を利用した放射状探索処理を説明する。この実施例も、基本的には図4に示す手順に従い処理が実行される。ただし、この実施例では、ステップS401の実行時(放射状探索の開始前)における始点座標と線分の長さの入力に加え、抽出するクラス802の情報を設定する。例えば抽出対象とするクラス802が「IndoorZone」である場合、交点計算に用いる図形データは、図形登録情報データベース701のクラス802が「IndoorZone」である図形データの中から選択される。
【0048】
図9に、処理結果例を示す。図9(a)で示す図は、抽出するクラス802を「indoorZone」として放射状探索を実行し、線分と図形データとの交点の座標を計算した結果を表している。クラス802が物品(例えばfurniture)に登録された図形データ群は、ステップS403における交点の計算から除外される。このため、部屋に対応する図形データとの交点だけを結んだオブジェクトを抽出することができる。実際、図9(a)では、x軸方向(0°と180°)において、太線で示す物品を構成する図形データではなく、それらよりも外側に位置する図形データとの交点が検出される。
【0049】
この結果、図9(b)に示すように、屋内地図に物品を構成する図形データが含まれる場合でも、物品を構成する図形データを無視し、空間を表す図形データだけでオブジェクトを抽出することができる。抽出されたポリゴンの形状は、実施例1の場合(図5(b))と同じである。
【0050】
(実施例の効果)
本実施例によれば、抽出対象以外のクラスに属する図形データが2次元CADデータ内に混在する場合でも、特定のクラスに属する図形データのみに基づいてオブジェクトを抽出することができる。すなわち、抽出精度を高めることができる。このため、正確かつ効率的にオブジェクトを抽出することができる。また、必要に応じて行うユーザの修正作業の回数も低減することができる。
【0051】
[実施例5]
(システム構成)
本実施例では、始点座標を自動生成し、2次元CADデータベースに登録された大量の図形データ群からオブジェクトデータを効率的に抽出・登録する機能を有するオブジェクト抽出システムについて説明する。
【0052】
図10に、本実施例に係るオブジェクト抽出システムの構成例を示す。このシステムの基本構成は実施例1(図1)と同様であり、新たに始点座標点生成部1005を追加する点で異なっている。始点座標点生成部1005による始点座標の自動生成処理の詳細については後述する。自動生成された始点座標は、始点座標点生成部1005より放射状探索部110に与えられる。
【0053】
(処理動作の概要)
以下では、始点座標点生成部1005による始点座標の自動生成機能を詳細に説明する。なお、始点座標を自動的に生成する手法には幾つかの方法が考えられる。以下では幾つかの代表例を説明する。
【0054】
まず、予め定めた計算式に基づいて始点座標を算出する例を説明する。例えば、始点座標P(n,m)のx座標とy座標の算出には、以下の計算式を使用する。
【0055】
【数1】
【0056】
【数2】
【0057】
ここで、Lは屋内地図におけるx座標の最大値、Lは屋内地図におけるy座標の最大値、Nはx軸方向に設定する始点座標の数、Mはy軸方向に設定する始点座標の数である。従って、屋内地図内に自動設定する始点座標の総数は“N×M”で与えられる。xは屋内地図におけるx座標の初期座標、yは屋内地図におけるy座標の初期座標である。本実施例では、xとyを屋内地図の原点に設定する。
【0058】
この計算式によりN×M個の始点座標を屋内地図上に自動設定した例を、図11(a)に示す。図11(a)では、正方格子状に30個の始点座標が整列して生成されている。なお、計算式は、屋内地図上に多数の始点座標を配置できるものであれば任意である。例えば始点座標が六法格子形状の各頂点や蜂の巣形状の各頂点等に位置するように生成できる他の式でも良い。始点座標点生成部1005は、これら30個の始点座標を一括生成しても良いし、順次生成しても良い。また、放射状探索部110は、これら30個の始点座標を用いた放射状探索を1つずつ順番に実行しても良いし、30個全ての始点座標について並列に実行しても良い。
【0059】
次に、前回実施した放射状探索の結果を反映しながら、次回の放射状探索に使用する始点座標を逐次生成する手法について説明する。初回の始点座標には、事前に定めた座標値を与えても良いし、ランダムに生成した座標を与えても良い。次回以降は、生成されたオブジェクトデータを利用して、当該オブジェクトの外側に次回の始点座標が位置するように線分の長さを選択し、新たな始点座標を算出する。
【0060】
因みに、計算式により自動的に視点座標を与える方法の場合、1つのオブジェクト内に複数の始点座標が含まれる可能性があり、複数の始点座標が設定されたオブジェクトについては重複した演算処理が無駄になる。これに対し、既に抽出されたオブジェクトの情報を用いる方法は、重複した演算処理が発生する可能性を合理的に低減することができる。
【0061】
図11(b)に、この種の始点座標の設定例を示す。図11(b)は、オブジェクトの抽出に使用した始点座標から屋内地図のx軸方向とy軸方向のそれぞれの方向に、いずれの方向に対しても各枝の先端位置がオブジェクトの外側に位置するように枝の長さを定めた例を示している。図11(b)は、各枝の長さが同じ場合、すなわち次回の放射状探索用に設定される4つの始点座標は正方形の各頂点に位置する例である。また、次回の放射状探索用に設定される始点座標は五角形の各頂点に位置しても良い。同様に、次回の放射状探索用に設定される始点座標は他の多角形の各頂点位置を形成するように配置しても良い。
【0062】
なお、先の説明では、前回の放射状探索で使用した始点座標を基準に次回の放射状探索で使用する始点座標を定めたが、抽出されたオブジェクトの重心位置、図形データとの交点座標、頂点座標等を基準に用いても良い。また、前回の放射状探索で使用した始点座標から等距離の位置に次回の放射状探索用の始点座標を定める必要は無く、抽出されたオブジェクトの形状に応じ、設定用の基準点からの方向別に各距離を可変しても良い。
【0063】
(実施例の効果)
本実施例によれば、始点座標の指定入力も半自動化又は完全自動化することができ、2次元CADデータからオブジェクトを抽出する際の作業効率を一段と高めることができる。
【0064】
[実施例6]
本実施例では、抽出されたオブジェクトの評価を自動化し、誤抽出の可能性のあるオブジェクトを検知してユーザに報知する仕組みを有するオブジェクト抽出システムについて説明する。
【0065】
図12に、本実施例に係るオブジェクト抽出システムの構成例を示す。このシステムの基本構成は実施例5(図10)と同様であり、新たにオブジェクト評価部1201と図形特徴データベース1202を追加する点で異なっている。オブジェクト評価部1201は、オブジェクト生成部102とオブジェクト登録部103の間に配置され、生成されたオブジェクトの形状の評価に用いられる。図形特徴データベース1202は、オブジェクトの形状を評価するために必要な図形に関する情報を格納する。
【0066】
図13に、図形特徴データベース1202のデータ構造を示す。図形特徴データベース1202は、図形データを代表する図形1301と、図形の特徴となる交線の連続性の閾値1302と、頂点の数1303で構成される。オブジェクトとして抽出される図形の特徴を記述するものであれば、他のデータを追加して構成してもよい。ここで、「交線」とは、1つの交点から次の交点までの延びる線をいう。従って、交線は交点の数だけ存在する。従って、交線の連続性の閾値1302は、隣接する交線間の変化量の許容範囲を与える。
【0067】
(処理動作1の概要)
以下では、図14を使用し、図形特徴データベース1202を利用したオブジェクトの評価処理を説明する。
【0068】
(ステップS1401)
まず、オブジェクトの抽出処理の実行(すなわち、計算の開始)がGUI等を通じてシステムに与えられる。指示入力は、始点座標点生成部1005に与えられる。
【0069】
(ステップS1402)
始点座標点生成部1005は、前述したように、半自動又は全自動により始点座標を算出し、放射状探索部110に与える。
【0070】
(ステップS1403)
放射状探索部110は、与えられた始点座標について放射状探索を順次又は並列的に実行し、探索用の線分と図形データとの交点の座標を保持する。検出された交点の座標はオブジェクト生成部102に与えられ、オブジェクトが抽出される。抽出されたオブジェクトは、オブジェクト評価部1201に与えられる。
【0071】
(ステップS1404)
オブジェクト評価部1201は、抽出されたオブジェクトの形状(例えばオブジェクトを形成する点列)と図形特徴データベース1202の情報とを用い、生成されたオブジェクトが抽出対象の図形として適しているか否かを評価する。
【0072】
例えば以下の式3により、各交点に対応する交線の変化量を算出し、各変化量が図形特徴データベース1202に登録されている閾値以下か否かを判定する。
【0073】
【数3】
【0074】
ここで、dlは、放射状探索により生成された交点列のn番目の交点に対応する交線の変化量である。Lは、n番目の交線の長さである。θは、n番目の交線が屋内地図座標系のx軸と成す角である。
【0075】
例えば図15の例のように、ある部屋から特異点的に一点だけ遠く外れて位置する交点は、部屋の形状を与える点として用いることには適さない。そこで、この方式で評価すると、特異点の存在を誤抽出として検出することができる。
【0076】
または、以下の式4及び式5を用いて、矩形図形としてのオブジェクトの頂点の数を計算し、その数が図形特徴データベース1202に登録されている閾値以下か否かを判定する。
【0077】
【数4】
【0078】
【数5】
【0079】
ここで、tanθは、放射状探索により生成された交点列のn番目の交点における位相である。yは、n番目の交点のy座標であり、xは、n番目の交点のx座標である。dtanθは、各交点における位相の変化量を表している。位相の変化量が、図形特徴データベース1202に登録された閾値以上であれば、その交点を、オブジェクトの頂点とみなす。さらに、このように検出された頂点の個数が図形特徴データベース1202に登録された閾値以上であれば、誤抽出と判定する。例えば図15の例であれば、頂点の個数の閾値を「6」に設定しておくことにより、頂点が7個検出された抽出結果が誤検出であると判定できる。
【0080】
なお、オブジェクトの形状の正しさの評価に使用する判定方法は、正しさを評価できる方式であれば前述した方式に限らない。また、オブジェクト評価部1201は、適否を判定する際に使用した交線や位相の変化量の平均値、それらの最大値等を各オブジェクトの適応度を表す評価値として保存してもよい。
【0081】
(ステップ1405)
判定基準を満たさない(オブジェクトとしての適応度が低い)と判定した場合、オブジェクト評価部1201は、該当するオブジェクトがオブジェクトデータベース104に登録されないように、その判定結果をユーザに通知する。例えばGUI画面上で判定基準を満たさないと判定されたオブジェクトを強調表示する。強調表示には、例えば着色表示、高輝度表示等を使用すれば良い。この実施例の場合、オブジェクト評価部1201は、該当するオブジェクトデータのオブジェクト登録部103への出力を停止する。
【0082】
(ステップ1406)
一方、判定基準を満たす(オブジェクトとしての適応度が高い)と判定された場合、オブジェクト評価部1201は、抽出されたオブジェクトデータをオブジェクト登録部103に与える。オブジェクト登録部103は、受け取ったオブジェクトデータをオブジェクトデータベース104に登録する。
【0083】
なお、前述した各処理ステップは、始点座標が1つ与えられるたびに一連の処理ステップを順番に繰り返し実行してもよいし、与えられた全ての始点座標に対して各処理ステップを一括に実行してもよい。
【0084】
(処理動作2の概要)
以下では、図16を使用し、図形特徴データベース1202を利用したオブジェクトの評価処理の他の実施例を説明する。なお、基本的な処理動作は、図14に示す処理と同様である。違いは、算出されたオブジェクト評価値を反映し、始点座標を自動的に再生成する機能を搭載する点である。
【0085】
(ステップS1401〜ステップS1403)
前述したように、オブジェクトの抽出処理の実行(すなわち、計算の開始)がGUI等を通じてシステムに与えられると、始点座標点生成部1005は、半自動又は全自動により始点座標を算出し、放射状探索部110に与える。そして、放射状探索部110において、与えられた始点座標についての放射状探索が順次又は並列的に実行され、探索用の線分と図形データとの交点の座標が保持される。なお、検出された交点の座標はオブジェクト生成部102に与えられ、オブジェクトが抽出される。また、抽出されたオブジェクトは、オブジェクト評価部1201に与えられる。
【0086】
(ステップS1601)
オブジェクト評価部1201は、前述した評価手法のいずれかにより、与えられた各始点座標に対して抽出されたオブジェクトの抽出対象の図形としての適否を個別に評価する。この際、交線や位相の変化量の平均値や最大値等を各オブジェクトの適応度を表す評価値とし、1つのオブジェクトにつき1つ保存する。オブジェクト評価部1201は、抽出に使用する1つの屋内地図の全域についてオブジェクトの抽出処理が終了すると、実行回の評価値を算出して保存する。
【0087】
この実施例では、抽出された全てのオブジェクトの評価値の合計値を実行回の評価値とする。もっとも、実行回の評価値は、個々のオブジェクトについて算出された評価値の合計ではなく、例えばそれらの分散値など、生成された始点座標群の評価に妥当な指標であれば、その他の指標を用いてもよい。
【0088】
次に、オブジェクト評価部1201は、抽出されたオブジェクト群の中に誤抽出オブジェクトが存在するか否か判定する。この判定は、新たなオブジェクトが抽出されるたびに実行しても良い。いずれにしても、誤抽出オブジェクトが検出された場合、オブジェクト評価部1201は、ステップS1602に進む。
【0089】
(ステップS1602)
オブジェクト評価部1201は、異なる始点座標の作成ルールの適用を始点座標点作成部1005に指示する。例えばオブジェクト評価部1201は、作成される始点座標の総数が前回実行時よりも1つ少なくなるように、始点座標点作成部1005に指示する。また例えばオブジェクト評価部1201は、作成される始点座標の総数が前回実行時よりも1つ多くなるように、始点座標点作成部1005に指示する。また、オブジェクト評価部1201は、始点座標同士の距離が所定量だけ広がるように又は狭まるように、始点座標点作成部1005に指示する。なお、始点座標の作成ルールの変更は、以上の他、始点座標の初期座標、始点座標点群により形成される格子形状等の変更でもよい。
【0090】
(ステップS1601)
オブジェクト評価部1201では、前回までとは異なる作成ルールにより生成された始点座標群について実行されたオブジェクトの抽出結果につき、実行回の評価値を再度算出する。オブジェクト評価部1201は、この繰り返し処理を、誤抽出オブジェクトが検出されなくなるまで、又は、所定回実行する。図16では、繰り返し処理が実行される条件を「評価値合計最大化未了」で表し、繰り返し処理を終了する条件を「評価値合計最大化完了」で表す。
【0091】
オブジェクト評価部1201は、繰り返し処理の終了時点において、実行回の評価値が最も大きい実行回を選択し、当実行回に抽出されたオブジェクト群を最終出力とする。
【0092】
(ステップS1405〜S1406)
この後、オブジェクト評価部1201は、判定基準を満たさない(オブジェクトとしての適応度が低い)と判定されたオブジェクトについては、その判定結果をユーザに通知する。一方、オブジェクト評価部1201は、判定基準を満たす(オブジェクトとしての適応度が高い)と判定されたオブジェクトについては、オブジェクト登録部103を通じてオブジェクトデータベース104に登録する。
【0093】
(実施例の効果)
本実施例によれば、2次元CADデータから抽出されたオブジェクトの適否を自動的に判定し、不適切と判定されたオブジェクトについては、オブジェクトデータベース104に登録することなくユーザに通知することができる。これにより、構造化データとして不適切なオブジェクトがオブジェクトデータベース104に抽出される事態を排除できる。また、自動判定の結果をユーザに通知することにより、ユーザによる誤抽出の原因の究明を支援することができる。また、ユーザが自動判定の誤りを気付いた場合には、ユーザの判断を優先し、該当するオブジェクトをオブジェクトデータベース104に登録することもできる。
【0094】
また、本実施例の処理動作2のように、屋内地図全体に対する評価を繰り返し実行し、最もオブジェクトの抽出結果の良好なものを用いてオブジェクトの登録と非登録を判定することにより、オブジェクトの抽出漏れや誤判定を減らすことができ、ユーザの確認負担を低減することができる。これにより、オブジェクトの抽出精度を高めることができる。
【0095】
[実施例7]
(システム構成)
本実施例では、上述した各実施例において抽出されたオブジェクトを、ユーザがGUIを通じて補正できる機能を備えるオブジェクト抽出システムについて説明する。当該補正機能の実装により、2次元CADデータベースに登録された大量の図形データ群の中からより多くのオブジェクトデータを効率的に抽出し登録することが可能になる。
【0096】
図17に、本実施例に係るオブジェクト抽出システムの構成例を示す。このシステムの基本構成は実施例1(図1)と同様であり、新たにGUI部1710を追加すると共に、オブジェクト抽出部1720によりオブジェクト抽出部(放射状探索部110、オブジェクト生成部102、オブジェクト登録部103)を置換した構成を有している。
【0097】
GUI部1710は、図面を表示する図面表示部1711と、放射状探索によるオブジェクトの抽出結果を表示する結果表示部1712と、クリックやドラッグなどの操作を受付ける操作受付部1713と、GUI上でのユーザ操作による入力モードを管理する入力モード管理部1714とを有している。この実施例の場合、入力モードは、放射状探索の実行によりオブジェクトの抽出処理を行う「放射状探索モード」、補助線生成操作を取得する「補助線生成モード」、オブジェクトに属性やクラスを付与してオブジェクトデータベースに登録する「オブジェクト登録モード」の中から選択できるものとする。選択可能なモードには、その他のモードを追加してもよい。
【0098】
オブジェクト抽出部1720は、放射状探索部1721と、補助線生成部1722と、オブジェクト生成部102と、オブジェクト登録部103とを有している。補助線生成部1722は、GUI部1710を通じて入力された情報に基づいて放射状探索用の補助線(図形データ)を生成する機能を提供する。オブジェクト生成部102の基本構成は実施例1と同様である。ただし、オブジェクト生成部102は、補充線が入力された場合に、入力された補助線の情報を追加して放射状探索を再実行する機能を有している。
【0099】
(処理動作1の概要)
以下では、図18及び図19を使用し、本実施例における処理動作を説明する。図18に、シーケンス例を示す。
【0100】
ユーザが入力モードの変更を指示すると(ステップ1)、入力モード管理部1714において入力モードの変更(切替)が実行される(ステップ1.1)。ここでは、入力モードが「放射状探索」に切り替えられたものとする。
【0101】
ユーザが屋内地図上の任意の位置をクリックすると(ステップ2)、GUI部1710からオブジェクト抽出部1720に、クリック点の座標値が送信される(ステップ2.1)。このクリック点の座標値は、始点座標として放射状探索部1721に与えられる。放射状探索部1721は、この座標値を始点座標に用い、放射状探索を実行する(ステップ2.1.1)。オブジェクト抽出部1720によるオブジェクトの抽出結果は、GUI部1710に与えられ、画面表示される(ステップ2.2)。ここでは、図15に示すように誤った図形がオブジェクトとして抽出されたものとする。
【0102】
この場合、ユーザは、入力モードの「補助線入力モード」への変更を指示する(ステップ3)。この指示を受信した入力モード管理部1714は、入力モードの変更(切替)を実行する(ステップ3.1)。これにより、GUI画面は、補助線の入力が可能な画面に切り替わる。
【0103】
この状態で、ユーザは、補助線を引く範囲を指定する2点をGUIの画面上で指定する。一例を図19(a)に示す。ユーザは、GUIの画面上で2点P1、P2をクリック入力する(ステップ4)。この情報は、GUI部1710からオブジェクト抽出部1720に与えられる(ステップ4.1)。オブジェクト抽出部1720は、与えられた2点P1、P2に関する情報を補助線生成部1722に与える。補助線生成部1722は、補助線オブジェクト(図形データ)を生成し(4.1.1)、その情報をGUI部1710に出力する。この結果、GUI部1710の画面上には、図19(a)に示すように、部屋の開口部を塞ぐ太線が表示される(ステップ4.2)。
【0104】
補助線が追加された画面を見たユーザは、再度、入力モードを放射状探索モードに切り替える(ステップ5)。
【0105】
この段階で、ユーザが屋内地図上の任意の位置をクリックする(ステップ6)と、GUI部1710からオブジェクト抽出部1720に、クリック点の座標値が送信される(ステップ6.1)。このクリック点の座標値は、始点座標として放射状探索部110に与えられる。放射状探索部110は、この座標値を始点座標に用い、放射状探索を実行する(ステップ6.1.1)。オブジェクト抽出部1720によるオブジェクトの抽出結果は、GUI部1710に与えられ、画面表示される(ステップ6.2)。今回は、ユーザによって追加された補助線と線分との交点が計算される。この結果、図19(b)に示すように、部屋として適切なオブジェクトが抽出される。
【0106】
(処理動作2の概要)
次に、図20を使用し、「廊下抽出モード」がユーザにより選択された場合の処理動作を説明する。「廊下抽出モード」は、廊下等の面積が広い図形をオブジェクトとして抽出するのに適した入力モードである。「廊下抽出モード」では、始点座標を複数受け付けることができるものとする。
【0107】
「廊下抽出モード」が選択された場合、放射状探索部1721は、クリック入力された複数の始点座標について放射状探索を繰り返し、得られた複数の交点列を全て連結し、オブジェクトを抽出する。図20(a)には、L字状に折れ曲がった廊下内で2つの位置がクリックされた場合において、各始点座標を基点として算出される交点列を示す。この際、オブジェクト生成部102は、一群の交点列を、交点列の最初の点から順番に近接している交点同士を連結するようにオブジェクトを生成する。図20(b)に生成されたオブジェクトの例を示す。このように「廊下抽出モード」を用意すれば、非凸の図形(図形内の任意の点を結ぶ線分の一部が図形の外を通過する図形)についても、その図形に近似したオブジェクトを自動的に抽出することができる。
【0108】
(処理動作3の概要)
最後に、補助線の他の使用例を説明する。以下では、図21に示すシーケンス例と図22に示すGUI画面例を使用して説明する。
【0109】
ユーザが入力モードの変更を指示すると(ステップ1)、入力モード管理部1714において入力モードの変更(切替)が実行される(ステップ1.1)。ここでは、入力モードが「廊下抽出モード」に切り替えられたものとする。
【0110】
ユーザが屋内地図上の任意の位置をクリックすると(ステップ2)、GUI部1710からオブジェクト抽出部1720に、クリック点の座標値が送信される(ステップ2.1)。このクリック点の座標値は、始点座標として放射状探索部110に与えられる。放射状探索部110は、この座標値を始点座標に用い、放射状探索を実行する(ステップ2.1.1)。オブジェクト抽出部1720によるオブジェクトの抽出結果は、GUI部1710に与えられ、画面表示される(ステップ2.2)。
【0111】
ここでは、ユーザが、図20(b)に示すように抽出されたL字型の廊下図形を2つに分割したい場合を想定する。この場合、ユーザは、「補助線入力による放射状探索モード」への変更(切替)を指示する(ステップ3)。この指示を受信した入力モード管理部1714は、入力モードの変更(切替)を実行する(ステップ3.1)。これにより、GUI画面は、補助線の入力が可能な画面に切り替わる。
【0112】
この状態で、ユーザは、補助線を引く範囲を指定する2点をGUIの画面上で指定する。一例を図21(a)に示す。ユーザは、GUIの画面上で2点P11、P12をクリック入力する(ステップ4)。この情報は、GUI部1710からオブジェクト抽出部1720に与えられる(ステップ4.1)。オブジェクト抽出部1720は、与えられた2点P11、P12に関する情報を補助線生成部1722に与える。補助線生成部1722は、補助線オブジェクト(図形データ)を生成する(4.1.1)。このとき、画面上には、図22(a)に示すように、廊下を2分する太線が表示される。
【0113】
このように、補助線オブジェクトが入力されると、オブジェクト抽出部1720は、前回のオブジェクト抽出で使用した始点座標を利用し、補助線オブジェクトを追加した条件にて放射状探索を再度実行する(ステップ4.1.2)。この結果、補助線を加味した2つのオブジェクトが抽出される。GUI部1710の画面上には、図22(b)に示すように、廊下を2つに分割する2つのオブジェクトが表示される(ステップ4.2)。
【0114】
(実施例の効果)
本実施例において説明したように補助線の描画機能を追加したことにより、単純な放射状探索だけでは誤った形状となるオブジェクトを正しい形状に補正することができる。また、空間としては1つであっても複数の空間に分割して管理したい場合にも、補助線を追加的に描画することにより、望み通りのオブジェクトを生成することができる。
【0115】
[他の実施例]
前述の実施例においては、屋内地図情報として部屋や廊下等の建物の情報を例示したが、ポリゴンによって定義可能な2次元CADデータから任意形状のオブジェクトを抽出する場合にも広く適用することができる。例えば旅客車両、航空機、船舶等の動産を複数の空間単位で管理する用途にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0116】
101…2次元CADデータベース、102…オブジェクト生成部、103…オブジェクト登録部、104…オブジェクトデータベース、110…放射状探索部、111…線分生成部、112…交点計算部、701…図形登録情報データベース、710…放射状探索部、711…交点計算部、1005…始点座標点生成部、1201…オブジェクト評価部、1202…図形特徴データベース、1710…GUI部、1711…図面表示部、1712…結果表示部、1713…操作受付部、1714…入力モード管理部、1720…オブジェクト抽出部、1721…放射状探索部、1722…補助線生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22