(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731380
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】ゲル状物を含有する飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20150521BHJP
A23L 2/70 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
A23L2/00 A
A23L2/00 K
A23L2/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-519857(P2011-519857)
(86)(22)【出願日】2010年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2010060371
(87)【国際公開番号】WO2010147210
(87)【国際公開日】20101223
【審査請求日】2013年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2009-145798(P2009-145798)
(32)【優先日】2009年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畑井 龍一
【審査官】
鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−003773(JP,A)
【文献】
特開平10−099058(JP,A)
【文献】
特開2004−000126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル状物と液体部を含む飲料であって、ゲル状物及び液体部の双方にジェランガムが含まれ、液体部のブリックス値に対するゲル状物のブリックス値の比率(Gel Brix値/Liquid Brix値)が、0.4〜0.85であることを特徴とする、飲料。
【請求項2】
ゲル状物に含まれるジェランガムの濃度が、ゲル状物の総量当たり0.05〜0.5重量%である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
液体部に含まれるジェランガムの濃度が、液体部の総量当たり0.001〜0.05重量%である、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
液体部100重量部当たり、ゲル状物が3〜35重量部の比率で含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の飲料。
【請求項5】
ゲル状物及び液体部に含まれるゲル化剤がジェランガムのみである、請求項1〜4のいずれかに記載の飲料。
【請求項6】
ジェランガムを含むゲル状物と、ジェランガムを含む液体部を混合する工程を含み、前記液体部のブリックス値に対する前記ゲル状物のブリックス値の比率(Gel Brix値/Liquid Brix値)が、0.4〜0.85であることを特徴とする、ゲル状物と液体部を含む飲料の製造方法。
【請求項7】
ゲル状物に含まれるジェランガムの濃度が、ゲル状物の総量当たり0.05〜0.5重量%である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
液体部に含まれるジェランガムの濃度が、液体部の総量当たり0.001〜0.05重量%である、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
液体部100重量部当たり、ゲル状物が3〜35重量部の比率で混合される、請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
ゲル状物及び液体部に含まれるゲル化剤がジェランガムのみである、請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状物を含有する飲料に関する。より具体的には、ゲル状物が飲料中で安定に分散し、ゲル状物自体が視認できない状態で存在している飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消費者の食に対する嗜好性の多様化に対応するために、様々な飲食品が提供されている。中でも、飲料の分野では、独特の食感や喉越し等を呈する飲料として、ゲル状物を含む飲料が開発され、嗜好性に富む飲料として注目を浴びている。ゲル状物を含む飲料には、ゲル状物と液体が分離した状態で含まれているゲル状物分散タイプと、飲料全体がゲル状を呈しているゼリー様タイプのものがある。
【0003】
前者のゲル状物分散タイプの飲料は、ゲル状物が飲料中で沈降し易いという問題点がある。このようにゲル状物が沈降した飲料では、その美的外観を損なわれるだけでなく、たとえ飲食時に撹拌してゲル状物を分散させたとしても、摂取時にゲル状物の沈降が生じて、ゲル状物と液体部分を均一に摂取することができなくなる。そのため、前者のタイプの飲料には、ゲル状物が飲料中で沈降することのないように、安定に浮遊させることが求められている。
【0004】
また、従来、ゲル状物分散タイプの飲料では、美的外観を高めるために、ゲル状物を着色することにより、美的外観を高めたものが開発されている。一方、消費者の嗜好性は多様化しており、従来にない新しいタイプの飲料の開発も望まれている。そこで、例えば、ゲル状物分散タイプの飲料において、飲料中に存在するゲル状物自体を視認できないように浮遊させている場合には、飲食時に初めてゲル状物の存在が感知され、消費者に斬新な印象を与えるため、多様化していく現代人の嗜好性を満足させることが期待される。しかしながら、従来、ゲル状物が視認できない状態で含ませるには、どのような処方が有効であるかについては、一切明らかにされていない。
【0005】
このように、ゲル状物が飲料中で安定に浮遊しており、ゲル状物自体が視認できない状態で存在している飲料は、従来にない斬新なものとして現代人の嗜好性に合致するものとして期待されるものの、このような特性を有する飲料の処方については未だ開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−243779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ゲル状物が飲料中で安定に浮遊でき、更にはゲル状物自体が視認できない状態で存在している飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ゲル状物と液体部を含む飲料において、ジェランガムをゲル化剤として用いてゲル状物を調製すると共に、液体部にもジェランガムを配合し、且つゲル状物のブリックス値を液体部のブリックス値以下に設定することによって、ゲル状物を飲料中で安定に浮遊させることができ、更にはゲル状物自体が視認できない状態で存在させることが可能になることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の飲料を提供する。
項1. ゲル状物と液体部を含む飲料であって、ゲル状物及び液体部の双方にジェランガムが含まれ、ゲル状物のブリックス値が、液体部のブリックス値以下であることを特徴とする、飲料。
項2. 液体部のブリックス値に対するゲル状物のブリックス値の比率が、0.2〜1である、項1に記載の飲料。
項3. ゲル状物に含まれるジェランガムの濃度が、ゲル状物の総量当たり0.05〜0.5重量%である、項1又は2に記載の飲料。
項4. ゲル状物が、1価又は2価のカチオンイオンを含む、項1乃至3のいずれかに記載の飲料。
項5. ゲル状物中の1価又は2価のカチオンイオンの濃度が、カチオン原子換算で0.001〜0.5重量%である、項4に記載の飲料。
項6. ゲル状物が、糖を含む、項1乃至5のいずれかに記載の飲料。
項7. ゲル状物中の糖の濃度が、1〜20重量%である、項6に記載の飲料。
項8. 液体部に含まれるジェランガムの濃度が、液体部の総量当たり0.001〜0.05重量%である、項1乃至7のいずれかに記載の飲料。
項9. 液体部が、1価又は2価のカチオンイオンを含む、項1乃至8のいずれかに記載の飲料。
項10. 液体部中の1価又は2価のカチオンイオンの濃度が、カチオン原子換算で0.0001〜0.1重量%である、項9に記載の飲料。
項11. 液体部が、糖を含む、項1乃至10のいずれかに記載の飲料。
項12. 液体部中の糖の濃度が、3〜25重量%である、項11に記載の飲料。
項13. 液体部100重量部当たり、ゲル状物が3〜35重量部の比率で含まれる、項1乃至12のいずれかに記載の飲料。
項14. ジェランガムを含むゲル状物と、ジェランガムを含む液体部を混合する工程を含み、前記ゲル状物のブリックス値が、前記液体部のブリックス値以下であることを特徴とする、ゲル状物と液体部を含む飲料の製造方法。
項15. 液体部のブリックス値に対するゲル状物のブリックス値の比率が、0.2〜1である、項14に記載の製造方法。
項16. ゲル状物に含まれるジェランガムの濃度が、ゲル状物の総量当たり0.05〜0.5重量%である、項14又は15に記載の製造方法。
項17. 液体部に含まれるジェランガムの濃度が、液体部の総量当たり0.001〜0.05重量%である、項14乃至16のいずれかに記載の製造方法。
項18. 液体部100重量部当たり、ゲル状物が3〜35重量部の比率で混合される、項14乃至17のいずれかに記載の製造方法。
項19. ジェランガムを含むゲル状物と、ジェランガムを含む液体部を混合した後に、加熱滅菌処理に供される、項14乃至18のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の飲料によれば、ゲル状物が飲料中で安定に分散して浮遊できるので、ゲル状物を均一に摂取させることができ、飲食時にゲル状物の独特の食感や喉越し等を均質に知覚させることが可能になっている。
【0011】
また、本発明の飲料によれば、ゲル状物自体が視認できない状態で存在しており、口に含ませた状態で初めてゲル状物が知覚されるため、従来に無い斬新な感覚で飲料の風味を味わうことができる。
【0012】
従来、食品分野のゲル化剤として広く使用されている寒天やゼラチンでは、ゲル状物が熱に対する安定性が低く、高温条件ではゲルの状態が崩壊するため、一般的な食品の製造で採用されている加熱殺菌処理に供することができなかった。これに対して、本発明の飲料に含まれるゲル状物は、高温条件下でも、ゲル状を保持できるので、一般的な食品の製造で採用されている加熱殺菌処理に供することができるという利点がある。
【0013】
更に、本発明の飲料では、ゲル状物と液体部を含んでいるので、本来飲料に配合することが困難であった素材をゲル状物に配合することにより、当該素材の摂取を容易にすることができる。例えば、苦み、渋み等の官能的な観点から液体部への配合が望ましくない素材については、ゲル状物に配合することによって、当該素材の官能的な欠点をマスキングすることができる。また、例えば、液体部中では不安定化されるような素材については、ゲル状物に配合することによって、当該素材の不安定化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例12の飲料の外観(左)、及び実施例12の飲料から液体部を除去した場合の外観(右)を示す図である。
【
図2】オレンジ色に着色させたゲル状物を含む飲料(着色料以外は、実施例9と同処方)を室内で約10ヶ月間静置した後に、外観を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の飲料は、ゲル状物と液体部を含むものであって、ゲル状物及び液体部の双方にジェランガムが含まれ、ゲル状物の糖濃度が液体部の糖濃度に比べて低いことを特徴とするものである。このように、ゲル状物及び液体部の双方にジェランガムを配合し、且つゲル状物の糖濃度を液体部の糖濃度に比べて低く設定することによって、ゲル状物を液体部の中で安定に分散させて浮遊させることができ、更にはゲル状物を視認できない状態で存在させることが可能になっている。以下、本発明の飲料の構成について詳述する。
【0016】
ゲル状物
本発明の飲料に含まれるゲル状物は、ジェランガムをゲル化剤として使用してゲル化されている固形物である。
【0017】
ゲル状物に含まれるジェランガムの濃度については、ゲル化が可能である範囲であれば特に制限されないが、例えば、ゲル状物の総重量当たり、0.05〜0.5重量%、好ましくは0.08〜0.3重量%、更に好ましくは0.1〜0.2重量%が例示される。
【0018】
ゲル状物には、ジェランガムによるゲル強度を向上させる目的で、1価又は2価のカチオンイオンが含まれていてもよい。このようなカチオンイオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等が例示される。1価又は2価のカチオンイオンは、1価又は2価のカチオンイオン遊離する水溶性塩の形態で配合することができ、このような塩としては具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、グルコン酸亜鉛等が挙げられる。これらの1価又は2価のカチオンイオンは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
ゲル状物に1価又は2価のカチオンイオンを配合する場合、その配合割合については、使用するカチオンイオンの種類、ゲル状物のゲル強度等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、ゲル状物の総重量当たり、1価又は2価のカチオン原子の濃度に換算して、0.001〜0.065重量%、好ましくは0.004〜0.05重量%、さらに好ましくは0.0065〜0.04重量%が例示される。
【0020】
また、ゲル状物には、本発明の効果を妨げない限り、ジェランガム以外のゲル化剤を含んでいてもよいが、ジェランガムと併用するゲル化剤の種類によっては、ゲル状物の透明性を損なわせ、ひいてはゲル状物を視認可能な状態にすることがある。また、ジェランガム以外のゲル化剤では、耐熱性を備えることができず、加熱殺菌処理に供することができなくなることもある。そのため、ゲル状物に透明性を備えさせ、飲料中でゲル状物を視認できない状態で存在させるという観点から、ゲル化剤としてジェランガムを単独で使用することが望ましい。
【0021】
ゲル状物の飲料中での浮遊性を確保、良好な呈味の付与、更には所望の糖度ブリックス値を付与するために、ゲル状物は糖を含むことが望ましい。ここで、糖とは、単糖、二糖類、オリゴ糖を含み、具体的には、グルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、スクラロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、デキストリン等が例示される。これらの糖の中でも、好ましくはグルコース、フルクトース、スクラロースが例示される。これらの糖は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ゲル状物に含まれる糖濃度については、ゲル状物に備えさせるブリックス値、使用する糖の種類や呈味等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、ゲル状物の総重量当たり、1〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、更に好ましくは8〜10重量%が例示される。
【0023】
また、ゲル状物には、呈味や食感を調整し、更には所望のブリックス値を備えさせるために、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコールや、ポリデキストロース等の水溶性食物繊維を含んでいてもよい。
【0024】
更に、ゲル状物には、上記成分以外にも、本発明の効果を妨げないことを限度として、果汁、甘味料、着色料、保存料、安定化剤、酸化防止剤、香料、酸味料、調味料、乳化剤、pH調整剤、栄養強化剤等が適宜添加されていてもよい。
【0025】
ゲル状物のブリックス値は、後述する液体部のブリックス値以下であればよいが、飲料においてゲル状物を安定に分散させて浮遊させるという観点から、ゲル状物のブリックス値は、1〜20、好ましくは3〜18、更に好ましくは5〜15が例示される。ここで、ゲル状物のブリックス値は、ゲル状物のゲル固化前の液体(即ち、ゲル状物に配合する全ての成分が配合され、ゲル固化前に液状を呈している組成物)、又はゲル状物を磨り潰して液状にした組成物の糖度屈折率(Brix)を測定することによって求めることができる。ゲル状物のブリックス値は、主として、配合する糖の種類や濃度に影響され、更に糖アルコールや水溶性食物繊維の種類や濃度によっても影響を受ける。ゲル状物のブリックス値は、これらの成分の配合量等を適宜設定することによって調整される。
【0026】
本発明の飲料は、ゲル状物が透明性を備えることによって、ゲル状物が飲料中で視認できない状態で存在しているので、ゲル状物にこのような特性を十分に備えさせるために、ゲル状物は透明性を損なわない範囲で添加成分を選択することが望ましい。ここで、透明性とは、無色透明、有色透明のいずれであってもよい。
【0027】
ゲル状物の形状については、球状、直方状、立方状、円柱状、多面体状等のいずれの形状であってもよい。また、ゲル状物の大きさについては、液体部と共に摂取可能な範囲であればよいが、通常0.001〜8cm
3、好ましくは0.008〜1cm
3、更に好ましくは0.02〜0.75cm
3が挙げられる。
【0028】
液体部
本発明の飲料に含まれる液体部は、ジェランガムを含有し、液状を呈するものである。液体部に含まれるジェランガムの濃度は、液体部をゲル化させない範囲であればよいが、例えば、液体部の総量当たり、0.001〜0.05重量%、好ましくは0.005〜0.03重量%、更に好ましくは0.008〜0.02重量%が例示される。
【0029】
また、液体部には、本発明の効果を妨げない限り、ジェランガム以外のゲル化剤を含んでいてもよいが、ジェランガムと併用するゲル化剤の種類によっては、液体部の透明性、食感等を損なわせ、或いは液状部をゲル化させることもあるので、ジェランガム以外のゲル化剤は配合しないことが望ましい。
【0030】
液体部には、液体部の中でゲル状物を安定に浮遊させるために、ジェランガムをゲル化させない範囲で、1価又は2価のカチオンイオンが含まれていてもよい。液体部に配合される1価又は2価のカチオンイオンの具体例は、ゲル状物に配合される1価又は2価のカチオンイオンと同様である。液体部に配合される1価又は2価のカチオンイオンは1種単独であってもよく、また2種以上の組み合わせであってもよい。液体部に1価又は2価のカチオンイオンを配合する場合、その配合割合については、使用するカチオンイオンの種類等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、液体部の総重量当たり、1価又は2価のカチオン原子の濃度に換算して、0.0001〜0.1重量%、好ましくは0.0007〜0.065重量%、さらに好ましくは0.0013〜0.05重量%が例示される。
【0031】
液体部のブリックス値は、ゲル状物のブリックス値以上になるように設定される。具体的には、液体部のブリックス値(Liquid Brix値)に対するゲル状物のブリックス値(Gel Brix値)の比率(Gel Brix値/Liquid Brix値)が、0.2〜1、好ましくは0.4〜0.85、更に好ましくは0.5〜0.8が例示される。ゲル状物と液体部のブリックス値が、このような比率を充足することにより、飲料中でゲル状物を沈降させることなく、安定に浮遊させることが可能になる。
【0032】
また、液体部のブリックス値については、上記比率を満たす範囲で適宜設定されるが、具体的には、1.5〜25、好ましくは3〜20、更に好ましくは5〜15が例示される。
【0033】
液体部のブリックス値は、主として、配合する糖の種類や濃度に影響され、更に糖アルコールや水溶性食物繊維の種類や濃度によっても影響を受ける。ゲル状物のブリックス値は、これらの成分の配合量等を適宜設定することによって調整される。
【0034】
液体部には、良好な呈味を付与し、更には所望のブリックス値を付与するために、糖を含むことが望ましい。液体部に配合される糖の具体例は、ゲル状物に配合される糖と同様である。液体部に配合される糖は1種単独であってもよく、また2種以上の組み合わせであってもよい。更に、液体部に配合される糖は、ゲル状物に配合される糖と同種のものであってもよく、またゲル状物に配合される糖と異なるものであってもよい。また、液体部に含まれる糖濃度については、液体部に備えさせるブリックス値、使用する糖の種類や呈味等を勘案して適宜設定すればよいが、例えば、液体部の総重量当たり、3〜25重量%、好ましくは7〜20重量%、更に好ましくは10〜15重量%が例示される。
【0035】
また、液体部には、呈味や食感を調整し、更には所望のブリックス値を備えさせるために、糖アルコールや水溶性食物繊維を含んでいてもよい。液体部に配合される糖アルコールや水溶性食物繊維の具体例は、ゲル状物に配合されるものと同様である。
【0036】
更に、液体部には、上記成分以外にも、本発明の効果を妨げないことを限度として、果汁、甘味料、着色料、保存料、安定化剤、酸化防止剤、香料、酸味料、調味料、乳化剤、pH調整剤、栄養強化剤等が適宜添加されていてもよい。
【0037】
本発明の飲料は、ゲル状物が透明性を備え、視認できない状態で存在しているので、かかる特性を十分に発揮させるために、液体部は透明性を備えていることが望ましい。ここで、透明性とは、無色透明のみならず、有色透明であってもよい。また、上記ゲル状物を有色透明にする場合には、液体部もゲル状物と同色で有色透明にすることが望ましい。
【0038】
飲料
本発明の飲料は、上記で規定するゲル状物と液体部を含むものであり、このように特定の組成のゲル状物と液体部を組み合わせることによって、ゲル状物を安定に浮遊させ、且つゲル状物を視認できない状態で存在させることが可能になっている。
【0039】
本発明の飲料において、上記ゲル状物と液体部の配合比については、特に制限される物ではないが、例えば、上記液体部100重量部当たり、上記ゲル状物が3〜35重量部、好ましくは5〜25重量部、更に好ましくは10〜15重量部となる範囲が例示される。このような比率を充足すれば、ゲル状物の食感を液体部の味わいをバランスよく兼ね備えさせることができる。
【0040】
本発明の飲料は、果汁飲料、清涼飲料、炭酸飲料、乳酸菌飲料、スポーツ飲料、スープ、茶飲料等の様々な形態の飲料として提供することができる。
【0041】
また、本発明の飲料を収容する容器は、透明であってもよく、また不透明であってもよい。本発明の飲料は、ゲル状物を安定に浮遊させ、且つゲル状物を視認できない状態で存在しており、卓越した美的外観を備えているので、かかる美的外観を十分に享受させるという観点から、透明容器、好ましくは透明ペットボトル及び透明ガラス容器、更に好ましくは無色透明ペットボトル及び無色透明ガラス容器に収容されることが望ましい。
【0042】
本発明の飲料は、上記ゲル状物と上記液体部を所望量混合することによって製造される。本発明の飲料に配合されるゲル状物は、一般的な飲料の製造で採用されている加熱殺菌処理に供しても、ゲル状を保持できるので、本発明の飲料の製造において、上記ゲル状物と上記液体部を混合した後に、必要に応じて加熱殺菌処理に供することもできる。加熱滅菌処理の条件については、飲料の滅菌が可能な範囲であれば特に制限されないが、例えば、65〜121℃、好ましくは85〜110℃で、1〜600秒間、好ましくは1〜180秒間が例示される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例等を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例
<飲料の調製>
下記の手順で、ゲル状物と液体部をそれぞれ調製し、これらを混合して加熱殺菌処理することによって、ゲル状物と液体部を含む飲料を調製した。
【0044】
1 ゲル状物の調製
表1−2のゲル状物の欄に示す配合成分の内、ジェランガムと酸味料を90℃以上に加熱した精製水に添加して、撹拌溶解させた後、その他の配合成分を順次添加して、配合成分の全てが溶解した混合原料液を調製した。次いで、この混合原料液を所定の容器に入れて4℃にて一晩静置することにより、混合原料液をゲル化させた。得られたゲルを(約5mm角)の形状になるように切断することよって、ゲル状物を調製した。
【0045】
また、ゲル状物のブリックス値の測定は、上記混合原料液のブリックス値をブリックス計測器(HAND REFRACT METER N-1E、株式会社アタゴ)を用いて測定した。
【0046】
2.液体部の調製
表1−2に液体部の欄に示す成分を精製水に添加、混合することにより、液体部を調製した。また、調製した液体部の糖ブリックス値をブリックス計測器(HAND REFRACT METERN-1E、株式会社アタゴ)を用いて測定した。
【0047】
3.ゲル状物と液体部の混合、及び加熱殺菌処理
表1−2に示す比率で、各実施例のゲル状物と液体部をそれぞれ混合し、65℃10分の条件下で加熱殺菌処理を行って、ゲル状物と液体部を含む飲料を調製した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
<飲料の評価>
1.飲料の透明性の評価
上記実施例1−14の飲料を肉眼で観察したところ、いずれの飲料でもゲル状物は視認できず、外観上は、透明な液体であった。この結果の一例として、実施例12の飲料の外観、及び実施例12の飲料から液体部を除去した場合の外観の写真を
図1に示す。
【0051】
2.飲料におけるゲル状物の浮遊性の評価
上記実施例1−14の飲料200gをそれぞれ容器に入れて、60分間静置した後に、飲料を撹拌することなく、そのまま飲用した。その結果、飲用開始の段階、半分程度の飲用した段階、飲用終了の段階のいずれにおいても、均一量のゲル状物が口に含まれた。この結果から、飲料中において、ゲル状物は、沈降することなく、均一に分散して浮遊していることが明らかとなった。
【0052】
更に、長期間のゲル状物の浮遊性を評価するために、ゲル状物にオレンジ色の着色料を配合する以外は、実施例9と同様の処方の飲料を作成し、透明ガラス容器に収容して室内で約10ヶ月間静置した。約10ヶ月経過後の飲料の外観を観察した結果を
図2に示す。
図2から明らかなように、約10ヶ月経過後であっても、飲料中において、ゲル状物が容器底部に沈降することなく、安定に浮遊していることが確認された。
【0053】
また、上記実施例1−14の飲料は、外観は透明な液体であるにも拘わらず、飲用するとゲル状物の存在を認識でき、従来に無い斬新な感覚で飲料の風味を味わうことができた。
【0054】
比較例
上記実施例1−14の処方において、ゲル状物に使用するゲル化剤として、ジェランガムに代えて、適当量の寒天又はゼラチンを使用して、上記実施例1−14と同様の手法で、飲料を作成した。その結果、これらの飲料では、加熱殺菌処理において、ゲル状物が溶解したため、最終的に、ゲル状物を浮遊させた飲料を調製することができなかった。
【0055】
更に、液体部にフルクトース及びマルチトールを配合しないこと以外は、上記実施例5−7の処方で、飲料を作成した。得られた飲料では、ゲル状物が直ぐに沈降してしまい、飲料中にゲル状物を安定に浮遊させることができなかった。