特許第5731388号(P5731388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5731388-光学ガラス 図000035
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731388
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/062 20060101AFI20150521BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20150521BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20150521BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20150521BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20150521BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C03C3/062
   C03C3/064
   C03C3/066
   C03C3/068
   C03C3/097
   G02B1/00
【請求項の数】16
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2011-525960(P2011-525960)
(86)(22)【出願日】2010年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2010063428
(87)【国際公開番号】WO2011016566
(87)【国際公開日】20110210
【審査請求日】2013年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2009-185322(P2009-185322)
(32)【優先日】2009年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2009-185321(P2009-185321)
(32)【優先日】2009年8月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】上原 進
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/096437(WO,A1)
【文献】 特開平08−175841(JP,A)
【文献】 特開2004−161598(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0026768(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO成分を1.0%以上60.0%以下、Nb分を36.509%以上65.0%以下、NaO成分を6.040%以上30.0%以下、ZrO成分を1.85%以上25.0%以下含有し、質量比(NaO/RnO)が0.40以上であり、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす光学ガラス(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量和(TiO+ZrO+Ta+WO)が1.0%以上30.0%以下である請求項記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜20.0%及び
O成分 0〜20.0%
さらに含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の質量和が1.0%以上30.0%以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
TiO成分 0〜40.0%
成分 0〜20.0%及び
WO成分 0〜20.0%
の各成分を含有する請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜20.0%
CaO成分 0〜30.0%
SrO成分 0〜30.0%
BaO成分 0〜30.0%及び
ZnO成分 0〜30.0%
の各成分をさらに含有する請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が30.0%以下である請求項記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜50.0%
Gd成分 0〜30.0%
成分 0〜30.0%
Yb成分 0〜10.0%及び
Lu成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、Lnは、La、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)の質量和が30.0%以下である請求項記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜40.0%
GeO成分 0〜30.0%
成分 0〜10.0%
Al成分 0〜15.0%
Ga成分 0〜20.0%
TeO成分 0〜50.0%
Bi成分 0〜50.0%
CeO成分 0〜10.0%及び
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
1.78以上2.20以下の屈折率(nd)と、10以上30以下のアッベ数(ν)を有する請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
粉末法による化学的耐久性(耐水性)がクラス1〜3である請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【請求項16】
請求項14又は15記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類され、このうち特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
色収差は、一般に低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせることで補正されるが、この組み合わせを用いた場合、赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできないため、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(ν)を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表されるものであり、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは、光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
ここで、高分散を有するガラスとして、例えば特許文献1に示されるような光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特再公表WO04/110942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の光学ガラスは、部分分散比が小さくなく、前記二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには十分でなかった。すなわち、高分散で且つ部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスが求められている。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分を必須成分として用い、これにNb成分、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかを併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
より具体的には、SiO成分、Nb成分及びNaO成分を併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められることを見出した。
【0012】
一方、SiO成分と、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかと、を併用することによっても、ガラスの高屈折率化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められることを見出した。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1) SiO成分を必須成分として含有し、Nb成分、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかをさらに含有し、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす光学ガラス。
【0014】
(2) SiO成分、Nb成分及びNaO成分を必須成分として含有する(1)記載の光学ガラス。
【0015】
(3) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下含有し、Nb成分の含有量が1.0%以上65.0%以下であり、NaO成分の含有量が1.0%以上30.0%以下である(2)記載の光学ガラス。
【0016】
(4) SiO成分を必須成分として含有し、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかをさらに含有する(1)記載の光学ガラス。
【0017】
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下含有し、質量和(TiO+ZrO+Ta+WO)が1.0%以上30.0%以下である(4)記載の光学ガラス。
【0018】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量和(TiO+ZrO+Ta+WO)が20.0%未満である(5)記載の光学ガラス。
【0019】
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で、Nb成分の含有量が65.0%以下である(4)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(8) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でNaO成分を1.0%以上30.0%以下さらに含有する(4)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(9) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜20.0%、及び/又は
O成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)又は(8)記載の光学ガラス。
【0022】
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLiO成分の含有量が2.0%より多い(9)記載の光学ガラス。
【0023】
(11) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLiO成分の含有量が3.0%より多い(9)記載の光学ガラス。
【0024】
(12) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の質量和が1.0%以上30.0%以下である(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(13) 酸化物換算組成における質量比(NaO/RnO)が0.30以上である(12)記載の光学ガラス。
【0026】
(14) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でTiO成分の含有量が40.0%以下である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(15) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でTiO成分の含有量が12.0%未満である(14)記載の光学ガラス。
【0028】
(16) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
ZrO成分 0〜25.0%、及び/又は
Ta成分 0〜20.0%、及び/又は
WO成分 0〜20.0%
の各成分を含有する(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0029】
(17) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜20.0%、及び/又は
CaO成分 0〜30.0%、及び/又は
SrO成分 0〜30.0%、及び/又は
BaO成分 0〜30.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(16)のいずれか記載の光学ガラス。
【0030】
(18) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が30.0%以下である(17)記載の光学ガラス。
【0031】
(19) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜50.0%、及び/又は
Gd成分 0〜30.0%、及び/又は
成分 0〜30.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%、及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(18)のいずれか記載の光学ガラス。
【0032】
(20) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、Lnは、La、GdY、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)の質量和が30.0%以下である(19)記載の光学ガラス。
【0033】
(21) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜40.0%、及び/又は
GeO成分 0〜30.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Al成分 0〜15.0%、及び/又は
Ga成分 0〜20.0%、及び/又は
TeO成分 0〜50.0%、及び/又は
Bi成分 0〜50.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%、及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(20)のいずれか記載の光学ガラス。
【0034】
(22) 1.78以上2.20以下の屈折率(nd)と、10以上30以下のアッベ数(ν)を有する(1)から(21)のいずれか記載の光学ガラス。
【0035】
(23) 粉末法による化学的耐久性(耐水性)がクラス1〜3である(1)から(22)のいずれか記載の光学ガラス。
【0036】
(24) (1)から(23)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0037】
(25) (1)から(23)のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【0038】
(26) (1)から(23)のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【0039】
(27) (25)又は(26)記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、SiO成分を必須成分として含有し、Nb成分、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかをさらに含有することによって、ガラスの高屈折率化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることができる。
【0041】
より具体的には、SiO成分、Nb成分及びNaO成分を併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つ、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められる。また、SiO成分、Nb成分及びNaO成分を併用することによって、ガラスのガラス転移点(Tg)が低くなり、ガラスの着色が低減される。
【0042】
また、SiO成分と、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかと、を併用することによって、ガラスの高屈折率化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められる。また、SiO成分と、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかと、を併用することによって、ガラスのガラス転移点(Tg)が低くなり、ガラスの着色が低減される。
【0043】
従って、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、モールドプレス成形を行い易く、研磨加工や洗浄による白濁が少なく、色収差が小さく、且つ可視光に対して高い透明性を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でありアッベ数(ν)が横軸である直交座標に表される、ノーマルラインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の第1の光学ガラスは、SiO成分、Nb成分及びNaO成分を必須成分として含有し、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす。SiO成分、Nb成分及びNaO成分を併用することによって、ガラスが高い屈折率を有しながらも、ガラス転移点(Tg)が低くなり、部分分散比(θg,F)がノーマルラインに近付けられ、ガラスの可視光に対する透過率が高められ、且つガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められる。このため、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有しながらも、モールドプレス成形を行い易く、研磨加工や洗浄による白濁が少なく、色収差が小さく、且つ可視光に対して高い透明性を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることができる。
【0046】
また、本発明の第2の光学ガラスは、SiO成分を必須成分として含有し、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかをさらに含有し、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす。SiO成分と、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかと、を併用することによって、ガラスが高い屈折率を有しながらも、ガラス転移点(Tg)が低くなり、部分分散比(θg,F)がノーマルラインに近付けられ、ガラスの可視光に対する透過率が高められ、且つガラスの化学的耐久性、特に耐水性が高められる。このため、1.78以上の屈折率(nd)及び30以下のアッベ数(ν)を有しながらも、モールドプレス成形を行い易く、研磨加工や洗浄による白濁が少なく、且つ色収差が小さい光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォームを得ることができる。
【0047】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0048】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0049】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分である。特に、SiO成分の含有量を1.0%以上にすることで、安定なガラスが得られる程度にガラスの網目構造が増加するため、ガラスの耐失透性を高めることができる。一方、SiO成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなり、所望の屈折率を有する光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは10.0%を下限とし、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、さらに好ましくは40.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0050】
Nb成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Nb成分の含有量を65.0%以下にすることで、耐失透性の低下が抑えられ、且つ所望の分散を有するガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは65.0%、より好ましくは60.0%、最も好ましくは58.0%を上限とする。なお、本発明でNb成分を含有しなくとも、所望の光学特性を有する光学ガラスを得ることはできるが、Nb成分を含有することで、所望の屈折率及び部分分散比(θg,F)を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは15.0%を下限とする。特に、Nb成分を必須成分として含有する第1の光学ガラスでは、Nb成分の含有量を10.0%以上にすることが好ましい。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低下させる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。TiO成分の含有量を40.0%以下にすることで、ガラスへの着色を低減することで、特に可視短波長(500nm以下)における内部透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。特に、λ70(透過率70%時の波長)が500nm以下となるような高い透明性を有するガラスが得られる観点では、TiO成分の含有量を12.0%未満とすることが好ましい。この場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは12.0%未満、より好ましくは11.0%未満、最も好ましくは10.0%未満とする。なお、本発明ではTiO成分を含有しなくとも、所望の光学特性を有する光学ガラスを得ることはできるが、TiO成分を含有することで、ガラスの屈折率をより高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは0.5%を下限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
ZrO成分は、ガラスの液相温度を下げることで耐失透性を高め、且つガラスの化学的耐久性を改善する成分である。また、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させる効果のある任意成分でもある。特に、ZrO成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0053】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を維持することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
WO成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有量を20.0%以下にすることで、特に可視短波長(500nm以下)における透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0055】
本発明の光学ガラスは、Nb成分、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかを必須成分として含有する。これにより、屈折率が高められるため、所望の高屈折率を得易くできる。特に、本発明の第2の光学ガラスでは、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の少なくともいずれかを必須成分として含有する。これにより、屈折率が高められながらも、本発明で所望とされる、ノーマルラインに近付けられた低い部分分散比(θg,F)を得易くできる。一方で、TiO成分、ZrO成分、Ta成分及びWO成分の合計含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が悪化し易くなる。従って、酸化物換算組成の第2の光学ガラスの全質量に対するRO成分の合計含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは4.0%を下限とし、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%を上限とし、さらに好ましくは20.0%未満とし、最も好ましくは18.0%未満とする。
【0056】
NaO成分は、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性を高める成分であるとともに、ガラス転移点(Tg)を低くする成分である。特に、NaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの失透温度の上昇を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。本発明において、NaO成分は含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスは製造することはできるが、NaO成分の含有量を1.0%以上にすることで、ガラスの化学的耐久性を高める効果を奏し易くできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは3.0%を下限とする。特に、NaO成分を必須成分として含有する第1の光学ガラスでは、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性を高めるために、NaO成分の含有量を1.0%ことが好ましい。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
LiO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの失透温度を下げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ソラリゼーションが高まり難くなるため、ソラリゼーションの低減された光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。本発明において、LiO成分を含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスは製造することはできるが、低いガラス転移点(Tg)を確保し、ガラスの屈折率及びアッベ数を所望の値に調整し易くするためには、LiO成分を含有することが好ましい。特に、第1の光学ガラスでは、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは2.0%より多く含有し、より好ましくは3.0%、最も好ましくは4.0%を下限とする。一方、第2の光学ガラスでは、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは3.0%より多く含有し、より好ましくは3.5%、最も好ましくは4.0%を下限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
O成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの失透温度の上昇を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
本発明の光学ガラスは、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、30.0%以下であることが好ましい。この質量和を20.0%以下にすることで、ガラスの失透温度の上昇を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の含有量の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、RnO成分を含有しなくともソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することは可能であるが、RnO成分の合計含有量を1.0%以上にすることで、ガラス転移点(Tg)を低くしてプレス成形を行い易いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の合計含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは4.0%を下限とする。
【0060】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分の質量和に対するNaO成分の含有量の質量比が0.30以上であることが好ましい。これにより、ガラスの化学的耐久性が高められるため、ガラスの加工時及び洗浄時におけるガラスの白濁を低減できる。従って、酸化物換算組成における質量比(NaO/RnO)は、好ましくは0.30、より好ましくは0.40、最も好ましくは0.50を下限とする。なお、質量比(NaO/RnO)の上限は1.00であってもよいが、特にガラスの液相温度を低くしてガラスの耐失透性を高める点では、好ましくは0.95、より好ましくは0.92、最も好ましくは0.90を上限とする。
【0061】
MgO成分は、ガラスの溶融温度を低下する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは7.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0062】
CaO成分は、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。特に、得られるガラスの失透を低減する観点では、CaO成分の含有量をより低減することが好ましい。この場合、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは10.0%未満とし、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0063】
SrO成分は、ガラスの失透温度を下げ、且つガラスの屈折率を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0064】
BaO成分は、ガラスの失透温度を下げ、且つガラスの光学定数を調整する成分である。特に、BaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0065】
ZnO成分は、ガラスの失透温度を下げ、且つガラス転移点(Tg)を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0066】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはZn、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)は、上述のようにガラスの失透温度を下げ、屈折率を調整するために有用な成分である。しかし、これらRO成分の合計含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が悪化し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の合計含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0067】
La成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスのアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、La成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0068】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスのアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Gd成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いることができる。
【0069】
成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Y成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの液相温度の上昇が抑えられるため、溶融状態からガラスを作製したときにガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Y成分は、原料として例えばY、YF等を用いることができる。
【0070】
Yb成分は、高屈折率を実現し、且つ硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Yb成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、且つガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するYb成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0071】
Lu成分は、高屈折率を実現し、且つ硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Lu成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、且つガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLu成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0072】
本発明の光学ガラスでは、Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、30.0%以下であることが好ましい。この質量和を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の含有量の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0073】
成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、B成分の含有量を40.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなり、可視光短波長領域における内部透過率が悪化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0074】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、且つガラスを安定化させて成形時の失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有量を30.0%以下にすることで、高価なGeO成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0075】
成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、P成分の過剰な含有による失透傾向が低減されるため、ガラスの安定性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するP成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0076】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0077】
Ga成分は、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ga成分の含有量を20.0%以下にすることで、高価なGa成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0078】
TeO成分は、ガラスの屈折率を上げ、且つガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TeO成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減することで、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%を上限とし、最も好ましくは10.0%未満とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0079】
Bi成分は、ガラスの屈折率を上げ、且つガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減することで、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%を上限とし、最も好ましくは10.0%未満とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0080】
CeO成分は、ガラスの光学定数を調整し、ガラスのソラリゼーションを改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスのソラリゼーションを低下させることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。但し、CeO成分を含有すると可視域の特定の波長に吸収が生じ易くなるため、ガラスの着色の面では、CeO成分を実質的に含まないことが好ましい。CeO成分は、原料として例えばCeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0081】
Sb成分は、ガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb成分の含有率を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。特に、光学ガラスの環境上の影響を重視する場合には、Sb成分を含有しないことが好ましい。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0082】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0083】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0084】
本発明の光学ガラスには、他の成分をガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0085】
ただし、Ti、Zr、Nbを除く、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0086】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0087】
本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスは、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 1.0〜70.0モル%
並びに
TiO成分 0〜50.0モル%及び/又は
ZrO成分 0〜20.0モル%及び/又は
Ta成分 0〜5.0モル%及び/又は
WO成分 0〜10.0モル%及び/又は
Nb成分 0〜25.0モル%
NaO成分 0〜45.0モル%及び/又は
LiO成分 0〜55.0モル%及び/又は
O成分 0〜20.0モル%及び/又は
MgO成分 0〜45.0モル%及び/又は
CaO成分 0〜55.0モル%及び/又は
SrO成分 0〜30.0モル%及び/又は
BaO成分 0〜20.0モル%及び/又は
ZnO成分 0〜40.0モル%及び/又は
La成分 0〜15.0モル%及び/又は
Gd成分 0〜10.0モル%及び/又は
成分 0〜15.0モル%及び/又は
Yb成分 0〜3.0モル%及び/又は
Lu成分 0〜3.0モル%及び/又は
成分 0〜55.0モル%及び/又は
GeO成分 0〜30.0モル%及び/又は
Al成分 0〜15.0モル%及び/又は
Ga成分 0〜10.0モル%及び/又は
TeO成分 0〜30.0モル%及び/又は
Bi成分 0〜20.0モル%及び/又は
CeO成分 0〜3.0モル%及び/又は
Sb成分 0〜0.3モル%
【0088】
特に、第1の光学ガラスでは、
SiO成分 1.0〜70.0モル%、
Nb成分 3.0〜25.0モル%及び
NaO成分 0.1〜45.0モル%
並びに
LiO成分 0〜55.0モル%及び/又は
O成分 0〜20.0モル%及び/又は
TiO成分 0〜50.0モル%及び/又は
ZrO成分 0〜20.0モル%及び/又は
Ta成分 0〜5.0モル%及び/又は
WO成分 0〜10.0モル%及び/又は
MgO成分 0〜45.0モル%及び/又は
CaO成分 0〜55.0モル%及び/又は
SrO成分 0〜30.0モル%及び/又は
BaO成分 0〜20.0モル%及び/又は
ZnO成分 0〜40.0モル%及び/又は
La成分 0〜15.0モル%及び/又は
Gd成分 0〜10.0モル%及び/又は
成分 0〜15.0モル%及び/又は
Yb成分 0〜3.0モル%及び/又は
Lu成分 0〜3.0モル%及び/又は
成分 0〜55.0モル%及び/又は
GeO成分 0〜30.0モル%及び/又は
Al成分 0〜15.0モル%及び/又は
Ga成分 0〜10.0モル%及び/又は
TeO成分 0〜30.0モル%及び/又は
Bi成分 0〜20.0モル%及び/又は
CeO成分 0〜3.0モル%及び/又は
Sb成分 0〜0.3モル%
の値を取ることが多い。
【0089】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、各成分が所定の含有率の範囲内になるように上記原料を均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融する。その後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1200〜1300℃の温度範囲で2〜4時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1100〜1200℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより、本発明の光学ガラスが作製される。
【0090】
<物性>
本発明の光学ガラスは、所定の屈折率及び分散(アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.78、より好ましくは1.80、最も好ましくは1.82を下限とする。ここで、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は特に限定されないが、概ね2.20以下、より具体的には2.10以下、さらに具体的には2.00以下であることが多い。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは30、より好ましくは29、最も好ましくは28を上限とする。ここで、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されないが、概ね10以上、より具体的には12以上、さらに具体的には15以上であることが多い。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0091】
また、本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、且つ、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす。これにより、ノーマルラインに近付けられた部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子の色収差を低減できる。ここで、ν≦25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(−1.60×10−3×ν+0.6346)、より好ましくは(−1.60×10−3×ν+0.6366)、最も好ましくは(−1.60×10−3×ν+0.6386)を下限とする。また、ν>25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6571)、より好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6591)、最も好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6611)を下限とする。一方で、光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7207)、より好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7187)、さらに好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7177)、最も好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7172)である。なお、特にアッベ数(ν)が小さい領域では、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)はノーマルラインよりも高い値にあるため、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係は曲線で表される。しかしながら、この曲線の近似が困難であるため、本発明では、一般的なガラスよりも部分分散比(θg,F)が低いことを、ν=25を境に異なった傾きを有する直線を用いて表した。
【0092】
また、本発明の光学ガラスは、高い化学的耐久性、特に耐水性を有することが好ましい。具体的には、JOGIS06−1999に準じたガラスの粉末法による化学的耐久性(耐水性)がクラス1〜3であることが好ましい。これにより、光学ガラスを研磨加工する際や洗浄する際に、水性の研磨液や洗浄液によるガラスの曇りが低減されるため、ガラスに対する加工をより行い易くすることができる。ここで「耐水性」とは、水によるガラスの侵食に対する耐久性であり、この耐水性は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1999により測定することができる。また、「粉末法による化学的耐久性(耐水性)がクラス1〜3である」とは、JOGIS06−1999に準じて行った化学的耐久性(耐水性)が、測定前後の試料の質量の減量率で、0.10質量%未満であることを意味する。なお、クラス1は、測定前後の試料の質量の減量率が、0.05質量%未満であり、クラス2は、0.05質量%以上0.10質量%未満であり、クラス3は、0.10質量%以上0.25質量%未満である。
【0093】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が440nm以下であり、より好ましくは420nm以下であり、最も好ましくは400nm以下である。また、分光透過率5%を示す波長(λ)が380nm以下であり、より好ましくは360nm以下であり、最も好ましくは350nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0094】
また、本発明の光学ガラスは、ソラリゼーションが5.0%以下であることが好ましい。これにより、光学ガラスを組み込んだ機器は、長期間の使用によってもカラーバランスが悪くなり難くなる。特に、使用温度が高いほどソラリゼーションはより大きく低減するため、車載用等、高温下で用いられる場合に、本発明の光学ガラスは特に有効である。従って、本発明の光学ガラスのソラリゼーションは、好ましくは5.0%、より好ましくは4.8%、最も好ましくは4.5%を上限とする。なお、本明細書中において「ソラリゼーション」とはガラスに紫外線を照射した場合の450nmにおける分光透過率の劣化量を表すものであり、具体的には、日本光学硝子工業会規格JOGIS04−1994「光学ガラスのソラリゼーションの測定方法」に従い、高圧水銀灯の光を照射した前後の分光透過率をそれぞれ測定することにより求められる。
【0095】
また、本発明の光学ガラスは、650℃以下のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。これにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、モールドプレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは650℃、より好ましくは620℃、最も好ましくは600℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0096】
また、本発明の光学ガラスは、700℃以下の屈伏点(At)を有することが好ましい。屈伏点(At)は、ガラス転移点(Tg)と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点(At)が700℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、より容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは700℃、より好ましくは670℃、最も好ましくは650℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスの屈伏点(At)は、概ね150℃以上、具体的には200℃以上、さらに具体的には250℃以上であることが多い。
【0097】
[レンズプリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のレンズプリフォームを作製し、このレンズプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したレンズプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0098】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に表現でき、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0099】
本発明の実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)の組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、化学的耐久性(耐水性)、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)、分光透過率が70%を示す波長(λ70)、並びにソラリゼーションの結果を表1〜表33に示す。このうち、実施例(No.1〜7、10〜20、22、23、42、43、46、47、58、59、82、86、88、95〜141、144、146、148〜151、153、155〜159、161〜171、173、174、177、178、181、182、184、186、188、194、195、244)は、本発明の参考例である。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0100】
本発明の実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜表33に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200〜1350℃の温度範囲で2〜4時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1100〜1200℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0101】
ここで、実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の値について、関係式(θg,F)=−a×ν+bにおける、傾きaが0.0016、0.0020及び0.00421のときの切片bを求めた。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0102】
また、実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスの化学的耐久性(耐水性)は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1999に準じて測定した。すなわち、粒度425〜600μmに破砕したガラス試料を比重ビンにとり、白金かごの中に入れた。白金かごを純水(pH6.5〜7.5)の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰水浴中で60分間処理した。処理後のガラス試料の減量率(質量%)を算出して、この減量率が0.05未満の場合をクラス1、減量率が0.05〜0.10未満の場合をクラス2、減量率が0.10〜0.25未満の場合をクラス3、減量率が0.25〜0.60未満の場合をクラス4、減量率が0.60〜1.10未満の場合をクラス5、減量率が1.10以上の場合をクラス6とした。このとき、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0103】
また、実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0104】
また、実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスのソラリゼーションは、日本光学硝子工業会規格JOGIS04−1994「光学ガラスのソラリゼーションの測定方法」に準じて、光照射前後における波長450nmの光透過率の変化(%)を測定した。ここで、光の照射は、光学ガラス試料を100℃に加熱し、超高圧水銀灯を用いて波長450nmの光を4時間照射することにより行った。
【0105】
また、実施例(No.1〜No.250)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、示差熱測定装置(ネッチゲレテバウ社製 STA 409 CD)を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプル粒度は425〜600μmとし、昇温速度は10℃/minとした。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
【表10】
【0116】
【表11】
【0117】
【表12】
【0118】
【表13】
【0119】
【表14】
【0120】
【表15】
【0121】
【表16】
【0122】
【表17】
【0123】
【表18】
【0124】
【表19】
【0125】
【表20】
【0126】
【表21】
【0127】
【表22】
【0128】
【表23】
【0129】
【表24】
【0130】
【表25】
【0131】
【表26】
【0132】
【表27】
【0133】
【表28】
【0134】
【表29】
【0135】
【表30】
【0136】
【表31】
【0137】
【表32】
【0138】
【表33】
【0139】
表1〜表33に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、ν≦25のものは部分分散比(θg,F)が(−1.60×10−3×ν+0.6346)以上、より詳細には(−1.60×10−3×ν+0.6497)以上であった。また、ν>25のものは、部分分散比(θg,F)が(−2.50×10−3×ν+0.6571)以上、より詳細には(−2.50×10−3×ν+0.6670)以上であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、(−4.21×10−3×ν+0.7207)以下、より詳細には(−4.21×10−3×ν+0.7187)以下であった。そのため、これらの部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。一方、本発明の比較例のガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)が(−4.21×10−3×ν+0.7187)を超えていた。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例2のガラスに比べ、アッベ数(ν)との関係式において部分分散比(θg,F)が小さいことが明らかになった。
【0140】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも耐水性がクラス1〜3、より具体的にはクラス1〜2であり、所望の範囲内であった。一方で、比較例1及び2のガラスは、耐水性のクラスがクラス3であり、耐水性が低かった。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例1及び2のガラスに比べて耐水性が高いことが明らかになった。
【0141】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、ガラス転移点(Tg)が650℃以下、より詳細には587℃以下であり、且つ、屈伏点(At)が700℃以下、より詳細には630℃以下であり、いずれも所望の範囲内であった。
【0142】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.78以上、より詳細には1.83以上であるとともに、この屈折率(n)は2.20以下、より詳細には1.90以下であり、所望の範囲内であった。
【0143】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が10以上、より詳細には22以上であるとともに、このアッベ数(ν)は30以下、より詳細には27以下であり、所望の範囲内であった。
【0144】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、モールドプレス成形を行い易く、且つ色収差が小さいことが明らかになった。
【0145】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いてリヒートプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で、研削及び研磨を行ってレンズ及びプリズムの形状に加工し、水及び有機溶媒で洗浄を行ってガラス成形体を得た。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、この精密プレス成形用プリフォームに対して精密プレス成形加工を行い、水及び有機溶媒で洗浄を行ってガラス成形体を得た。その結果、本発明の実施例の光学ガラスから得られたガラス成形体には曇りが生じず、レンズ及びプリズムとして用いることが可能なガラス成形体をより確実に得ることができた。一方で、比較例のガラスから得られたガラス成形体には曇りが生じた。このため、本発明の実施例の光学ガラスから作製されるガラス成形体は、比較例のガラスから作製されるガラス成形体に比べて、曇りが低減されることが明らかになった。
【0146】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
図1