(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熔解槽の側壁のうち、前記投入側から前記流出口の側に向かう方向に平行な対向する側壁に、熔融ガラスを通電加熱する電極対が複数設けられ、前記加熱制御は、複数の前記電極対によって行われる、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置やプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(以下FPDという)に用いるガラス基板は、例えば、厚さが0.5〜0.7mmで、サイズが300×400mm〜2850〜×3050mmのものが主流である。
【0003】
FPD用ガラス板の製造方法として、オーバーフローダウンドロー法が知られている。オーバーフローダウンドロー法では、成形炉において、熔融ガラスの成形体の上部から熔融ガラスを溢れさせることにより熔融ガラスからシートガラスが成形され、成形されたシートガラスが徐冷され、切断される。その後、切断されたシートガラスは、さらに、顧客の仕様に合わせて所定のサイズに切断され、洗浄、端面研磨などが行われ、FDP用ガラス板として出荷される。
【0004】
FPD用ガラス板のうち、特に液晶表示装置用ガラス板は、その表面に半導体素子が形成されるため、アルカリ金属成分を全く含有しないか、または、含まれていても半導体素子等に影響を及ぼさない程度の微量であることが好ましい。
また、ガラス板中に泡が存在すると表示欠点の原因となるため、泡が存在するガラス板は、FPD用ガラス板として用いることはできない。このため、泡がガラス板に残存しないことが求められている。
【0005】
また、ガラス板中に組成ムラ(組成の不均質)が存在すると、例えば脈理と呼ばれるスジ状の欠陥が発生する。脈理は、組成の不均質に起因する熔融ガラスの粘度の違いから、成形時、熔融ガラスの表面に微細な表面凹凸を発生させる。この表面凹凸により、液晶パネルに組み込んだとき、セルギャップが生じ、これが表示ムラを引き起こす原因となる。
【0006】
例えば、熔解窯において、熔融ガラスのホットスプリングを強調し、熔融ガラスの対流を促進して良く攪拌を行わせると共に、ガラス原料投入端側表層の半熔融状態等の不均質ガラスが導出端側へ早流れすることを阻止し得るガラス熔解窯が知られている(特許文献1)。
上記熔解窯では、ホットスプリング領域に、通電方向を窯の長さ方向とした複数対の第2の電極を適宜間隔で窯の幅方向全長に亘って複数配置することにより、熔融ガラスのホットスプリングを強調する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法について説明する。
図1は、本発明のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0014】
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0015】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解槽では、ガラス原料を、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内側側壁の1つの底部に設けられた流出口から下流工程に向けて熔融ガラスを流す。このとき、熔解槽の底部に位置する熔融ガラスの温度が原料投入側から流出口の側に向かう程上昇するように、さらに、熔解槽の熔融ガラスの底部における最高温度が、ガラス原料の投入される位置における熔融ガラスの表層の温度に対して高くなるように、熔融ガラスを加熱制御する。これにより、流出口の側において、流出口から下流工程に熔融ガラスを流すとともに、下記熔融ガラスの対流を作る。すなわち、上記流出口から流れなかった熔融ガラスの一部が熔解槽の側壁に沿って液面に向かって上昇し、液面に上昇した熔融ガラスの一部が液面に沿って原料投入側の熔解槽の側壁に向かって流れ、原料投入側の熔解槽の側壁に沿って液面から下降し、さらに底面に沿って原料投入側から排出口の側に向かって流れる。
ここで、ガラス原料の投入方法は、ガラス原料を収めたバケットを反転して熔融ガラスにガラス原料を投入する方式、ベルトコンベアを用いてガラス原料を搬送して投入する方式、あるいはスクリューフィーダによりガラス原料を投入する方式でもよい。後述する実施形態では、バケットを用いてガラス原料が投入される。また、熔融ガラスの「表層」とは、液面から熔解槽の底部に向かった深さの10%以下の範囲内の液面を含む領域をいい、熔融ガラスの「下層」とは、表層以外の領域をいう。また、流出口が設けられる「底部」とは、上記下層の一部であって、底面に近い領域をいう。好ましくは、熔解槽の深さ方向において底面からの深さが、液面と熔解槽の底面との間の深さの1/2以下である領域をいう。
熔解槽の熔融ガラスは、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱することで昇温するが、加熱方法は、この通電による熔融ガラスの加熱のほかに、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO
2(酸化錫)を用いることが好ましい。
【0016】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2、空気あるいはSO
2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に泡は浮上して放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程は、減圧雰囲気の空間を清澄槽につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。なお後述する清澄工程では、酸化錫を清澄剤として用いた清澄方法を用いる。
【0017】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。なお、攪拌槽は1つ設けても、2つ設けてもよい。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0018】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバダウンロード法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス基板の洗浄が行われ、さらに、気泡やキズ、汚れ等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。
【0019】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
図2に示す熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われる。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
【0020】
(熔解槽の詳細説明)
図3は、本実施形態の熔解槽101の概略構成を説明する図である。
熔解槽101は、ガラス原料を、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの液面101cに投入することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽101は、熔解槽101の内側側壁のうち、
図3中の左右方向(第1の方向)に向く内側側壁の底部に設けられた流出口104aから下流工程に向けて熔融ガラスMGを流す。
【0021】
熔解槽101は、耐火レンガ等の耐火物により構成された壁110を有する。熔解槽101は、壁110で囲まれた内部空間を有する。熔解槽101の内部空間は、上記空間に投入されたガラス原料が熔解してできた熔融ガラスMGを加熱しながら収容する液槽101aと、熔融ガラスMGの上層に形成され、ガラス原料が投入される、気相である上部空間101bとを有する。
【0022】
熔解槽101の壁110のうち、上部空間101bの上記第1の方向に平行な側壁には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー112が設けられる。ガラス原料は、バーナー112の火炎からの輻射熱および(バーナー112の火炎からの輻射熱によって高温になった)上部空間の耐火物からの輻射熱により、加熱される。
【0023】
図3中の熔解槽101の左側側壁の上部空間101bに接する面には、原料投入窓101fが設けられている。この原料投入窓101fを通して、ガラス原料を収めたバケット101dが上部空間101bに出入りし、後述するコンピュータ118の指示に従って熔融ガラスMGの液面101c上を前後左右に移動するように構成されている。
【0024】
図4は、熔解槽101におけるガラス原料の投入を説明する図である。
図4に示すように、ガラス原料は、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの液面に投入される。
すなわち、熔解槽101は、コンピュータ118の指示によって、バケット101dがガラス原料を収めた状態で、目標とする区域にバケット101dを移動させ、バケット101dの上面を下面に反転させるパケット動作機構を備える。ガラス原料の投入位置は、
図4に示すように、流出口104aのある熔解槽101の側壁に対して対向する側壁の側の領域である。熔解槽101内部では、ガラス原料が熔融ガラスMGの液面に投入されるが、その一部、例えばSiO
2(シリカ)等の熔解性の低い(熔解温度が高い)原料成分が液面上を浮遊してシリカリッチの異質素地120(
図5参照)を作る場合がある。この異質素地120については、後述する。
【0025】
熔解槽101の上記第1の方向に平行で、お互いに対向する液槽101aの内側側壁110a,110bに、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で構成された3対の電極114が設けられている。3対の電極114は、内側側壁110a,110bのうち、熔融ガラスMGの下層に対応する領域に設けられている。3対の電極114はいずれも、液槽101aの外壁の面から内壁の面まで延びている。3対の電極114のそれぞれの対のうち、図中奥側の電極は図示されていない。3対の電極114の各対は、熔融ガラスMGを通してお互いに対向するように、内側壁110a,110bに設けられている。各対の電極114は、電極間に位置する熔融ガラスMGに電流を流す。熔融ガラスMGはこの通電により、ジュール熱を自ら発して熔融ガラスMGを加熱する。熔解槽101では、熔融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104を通して清澄槽102へ送られる。
本実施形態では、熔解槽101には3対の電極114が設けられるが、2対あるいは4対以上の電極が設けられてもよい。
【0026】
熔解槽101の底面には、温度センサ115が3つ設けられている。3つの温度センサ115は、熔解槽101の底部を流れる熔融ガラスMGの温度を計測する。温度センサ115は、それぞれ電極114の設置位置に対応する第1の方向における位置に設けられている。温度センサ115は、例えばアルミ保護管により覆われた熱電対で構成され、アルミ保護管が熔融ガラスMGと接触する。温度センサ115の計測結果は、制御ユニット116を介してコンピュータ118に送られる。
【0027】
図3に示す熔解槽101では、バーナー112が上部空間101bに設けられているが、バーナー112は設けられなくてもよい。比抵抗が大きい熔融ガラスにおいて、バーナー112が補助的に用いられてもよい。
【0028】
電極114、温度センサ115のそれぞれは、制御ユニット116に接続されており、下層における熔融ガラスMGの温度分布を所定の分布にするために、電極114のそれぞれに投入する電力(交流)が、温度センサ115の計測結果に応じて電極114の対毎に制御されている。制御ユニット116は、さらにコンピュータ118と接続されている。コンピュータ118は、温度センサ115による計測結果である温度情報に基いて、3対の電極114のそれぞれの対における熔融ガラスMGの温度が所定の許容範囲内(例えば5℃以内、好ましくは3℃以内の範囲)で所定の温度分布になるように、電極114に投入する電力の指示を制御ユニット116に送る。また、コンピュータ118は、制御ユニット116を通して後述するバケット101dを動作するように、図示されないバケット動作機構に指示をする。
なお、本実施形態では、熔融ガラスMGの温度を計測する手段として、温度センサ115が3つ設けられる例を用いて説明しているが、温度センサ115の数は、3つ以上であってもよい。さらに、熔融ガラスMGの温度を計測する手段は、温度センサ115以外の手段を用いて計測してもよい。例えば、熔融ガラスMGの温度を、各対の電極114における電圧と電流から抵抗、さらには比抵抗を求め、この比抵抗を用いて、各対の電極114間を流れる熔融ガラスMGの温度を計測(推定)することもできる。
【0029】
熔解槽101の流出口104aは、ガラス供給管104を通して、清澄槽102と接続されている。
【0030】
図5は、本実施形態における熔解槽101内部の熔融ガラスの対流を説明する図である。本実施形態では、熔解槽101の内側側壁のうち、第1の方向に向く内側側壁の底部に設けられた流出口104aから清澄工程に向けて熔融ガラスMGを流す。このとき、熔解槽101の底部に位置する熔融ガラスMGの温度が原料投入側から流出口104aの側に向かう程、上昇するように熔融ガラスMGを加熱制御する。これにより、流出口104aの側において、流出口104aから下流工程である清澄工程に熔融ガラスMGを流すとともに、熔融ガラスMGの対流を作る。すなわち、流出口104aから流れなかった熔融ガラスMGの一部が熔解槽101の側壁に沿って液面101cに向かって上昇し、液面101cに上昇した熔融ガラスMGの一部が液面101cに沿って原料投入側の熔解槽101の側壁に向かって流れ、原料投入側の熔解槽101の側壁に沿って液面101cから下降し、さらに底面に沿って原料投入側から排出口104aの側に向かって流れる。
【0031】
このような対流を生じさせる理由は以下の通りである。すなわち、シリカ濃度の高い難熔性のガラスでは、ガラス原料の分解、熔解時に、熱分解温度の低いアルカリ土類金属成分が、周りの熔融ガラスに比べて先に溶け込み、難熔性のシリカ成分の濃度の高い異質素地120が生成し易い。生成した異質素地120が何らかの理由で、熔解槽の流出口側の側壁に漂っていき沈み込んで下流工程に流出すると、周りの熔融ガラスよりシリカ濃度が高く、粘度が高いので、脈理となる。
しかし、本実施形態の熔解槽101では、前述のような熔融ガラスMGの対流を形成しているので、異質素地120が、流出口104a側の側壁付近に漂って来ることはない。さらに、流出口104a側の側壁では、熔融ガラスMGの流れが底面から液面に向けて流れているので、異質素地が沈み込むことも無い。
【0032】
熔解槽101において、
図5に示す矢印で示す対流を形成させるには、
図5における原料投入側から流出口104aの側に向かうにつれて、熔解槽101の底部を流れる熔融ガラスMGの温度が徐々に高くなるように、
図5に示す例では、温度T
1<温度T
2<温度T
3にするとともに、原料投入位置における熔融ガラスMGの表層の温度T
4に対して温度T
3(最高温度)が高くなるように、電極114に供給する電力を制御するとよい。温度T
1は、
図3中の原料投入側に設けられた一対の電極14の位置における熔融ガラスMGの温度であり、温度T
2は、3対の電極14の内、真ん中に位置する一対の電極14の位置における熔融ガラスMGの温度であり、温度T
3は、3対の電極14の内、流出口の側に位置する一対の電極14の位置における熔融ガラスMGの温度である。このような温度分布を形成するように、温度センサ115の計測結果に基づいて電極114へ供給する電力がコンピュータ118及び制御ユニット116を介して制御される。
【0033】
一方、
図6は、従来の方式における熔融ガラスの対流を説明する図である。
熔解槽のほぼ中央付近Aのガラス温度を一番高くすることで、中央付近Aの底部から熔融ガラスが湧上り、ガラス原料の投入口側と、流出口側に分かれて流れる熔融ガラスの対流を形成する。この時、このような対流が強く安定して形成できれば、異質素地120が、流出口側の側壁に漂っていくことは無い。通常のソーダライムガラスでは、ガラスの温度をそれほど上げなくても粘度が下がるので、対流を強く安定して維持することは容易であるが、高温粘性の高いガラスでは、対流を強く安定して維持することが難しい。熔融ガラスの対流が弱くなり、異質素地120が
図6に示すように、流出口側の側壁の前に漂っていけば、異質素地120は、流出口側の側壁に沿って沈み込むガラスの流れに巻き込まれ、下流工程に流出し易くなってしまう。
【0034】
本実施形態では、
図5に示すような対流を形成するように、熔融ガラスMGの場所に応じた加熱を行うので、異質素地120が流出口104の側に流れることを抑制できる。従って、従来のように、異質素地120が対流に沿って流出口から流出する機会が増えることがなく、脈理等のガラス組成のムラの原因が生じにくい。
したがって、粘性の高い熔融ガラス、例えば、10
2.5 poiseにおける温度が1500℃以上(例えば、1500℃以上1650℃以下)であるガラスに対して、本実施形態の製造方法を適用することができ、従来の製造方法の場合に比べて、脈理等のガラス組成のムラを抑制することができる利点が大きい。
【0035】
本実施形態では、従来のように、ホットスプリングを強く安定して維持するために、熔融ガラスの温度を過度に高くする必要が無い。そのため、熔解槽101を構成するレンガの侵食が速まり、熔解槽101の寿命を短くすることがない。さらに、レンガ成分の熔融ガラスMG中への熔解量が増えることで、下流の工程で、ガラス中に失透が生成しやすくなるということも無い。また、泡の除去のために熔融ガラスMG中に含まれる清澄剤の還元反応(酸素放出反応)が清澄槽102ではなく、熔解槽101で促進してしまい、泡品質が悪化するということも起こりにくい。
【0036】
本実施形態では、3対の電極114のそれぞれの対は、
図3中の左右の方向(第1の方向)に直交する方向に向いてお互いに対向しているので、熔融ガラスMGの第1の方向に沿った下層あるいは底部における温度分布を目標どおりの分布にすることができる。
【0037】
(ガラス組成)
本実施形態に用いるガラスの組成については、アルミノシリケートガラスで構成され、SiO
2(シリカ)を55質量%以上含むことができる。このガラス組成を有するアルミノシリケートガラスに適用した本実施形態の製造方法は、従来に比べて効果的にガラス組成のムラを抑制することができる。さらには、SiO
2を60質量%以上含むことができ、さらに、SiO
2を65質量%以上含むこともできる。SiO
2を55質量%含み、シリカリッチの異質素地120ができやすいガラス組成であっても、シリカリッチの異質素地120が流出口104a側の側壁に漂って行くのを、熔融ガラスMGの液面101cの対流が防ぐので、また、流出口104a側の側壁では、ガラスの流れがボトム(底面)の側から素地面(液面)の側に向けて流れているので、シリカリッチの異質素地120が、流出口104aから流出することを防ぐことができる。
また、SiO
2を55質量%以上含み熔融ガラスMGの粘性が高いガラス組成に対して、シリカリッチの異質素地120の流出を防ぐためには、従来は、ホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGの温度を上げる必要があった。このため、熔解槽を構成するレンガの侵食が速くなり、熔解槽の寿命が短くなり易かった。また、熔融ガラス中に含まれる清澄剤の還元反応(酸素放出反応)が清澄槽ではなく、熔解槽で促進してしまうことで、泡品質が悪化し易かった。しかし、本実施形態は、従来のようにホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGの温度を高める必要が無いので、熔解槽101の寿命の短縮や泡品質の悪化を防げることができる。なお、SiO
2のガラス組成における含有率の上限は例えば70質量%である。
【0038】
また、SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含むことができ、このガラス組成を有するアルミノシリケートガラスを適用した本実施形態の製造方法は、従来に比べて効果的にガラス組成のムラを抑制することができる。さらに、SiO
2とAl
2O
3とを合計で75質量%以上含むことができる。
SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含みシリカリッチの異質素地120ができ易いガラス組成であっても、熔融ガラスMGの液面101cの対流が、シリカリッチの異質素地120が流出口104a側の側壁に漂って行くのを防ぐ。また、流出口104a側の側壁では、熔融ガラスMGの流れがボトム(底面)側から素地面(液面)の側に向けて流れているので、シリカリッチの異質素地120が、流出口104aから流出することを防ぐことができる。
また、SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含み、熔融ガラスMGの粘性が高いガラス組成に対して、シリカリッチの異質素地120の流出を防ぐためには、従来は、ホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスの温度を上げる必要があった。このため、熔解槽を構成するレンガの侵食が速くなり、熔解槽の寿命が短くなり易かった。また、熔融ガラス中に含まれる清澄剤の還元反応(酸素放出反応)が清澄槽ではなく、熔解槽で促進してしまうことで、泡品質が悪化し易かった。しかし、本実施形態は、従来のようにホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGの温度を高める必要が無いので、熔解槽101の寿命の短縮や泡品質の悪化を防げることができる。
なお、ガラス組成において、SiO
2とAl
2O
3との合計の含有率の上限は、例えば85質量%である。
【0039】
ガラス基板のガラス組成は例えば以下のものを挙げることができる。
以下示す組成の含有率表示は、質量%である。
SiO
2:50〜70%、
B
2O
3:5〜18%、
Al
2O
3:0〜25%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜20%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)。
【0040】
また、本実施形態に用いることができる難熔性ガラスとして、下記ガラス組成が一例として挙げられる。以下示す組成の含有率表示は、質量%である。
SiO
2:55〜70%、
B
2O
3:6〜12%、
Al
2O
3:12〜20%、
MgO:0〜5%、
CaO:0〜15%、
SrO:0〜12%、
BaO:0〜8%、
RO:6〜17% (ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)。
【0041】
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス基板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10%以上0.5%以下、好ましくは0.20%以上0.5%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10%より低くてもよい。また、As
2O
3、Sb
2O
3およびPbOを実質的に含まないことが好ましい。
【0042】
本実施形態の製造方法は、液晶表示装置用ガラス基板に効果的に適用できる。液晶表示装置用ガラス基板は、上述したように、ガラス組成にアルカリ金属成分(Li、Na及びK)を含ませないか、含ませても微量であることが好ましい。しかし、アルカリ金属成分(Li、Na及びK)を含ませないか、含ませても微量である場合、熔融ガラスMGの高温粘性が高くなるため、従来、強いホットスプリングを作るためには、熔融ガラスMGを高温に加熱する必要がある。本実施形態では、従来のように、熔融ガラスのホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGを高温に加熱する必要がない。したがって、本実施形態の製造方法は、従来のように熔融ガラスの温度を過度に高くしない点で、液晶表示装置用ガラス基板を対象としたガラス原料の熔解方法、さらには製造方法に適している。
【0043】
また、本実施形態では、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO
2を用いるが、SnO
2の清澄作用を効果的に機能させるためには、熔解温度を高くしすぎないことが好ましい。熔融ガラスMGの温度を本実施形態では、従来の公知の製造方法のように、ホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスを過度に加熱する必要がないので、熔解槽101の耐火物からZrO
2(ジルコニア)の溶出を防ぐことができる他、SnO
2の清澄作用を効果的に機能させることができる。
【0044】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。