特許第5731441号(P5731441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731441
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】配線設計支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
   G06F17/50 658K
   G06F17/50 650Z
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-107710(P2012-107710)
(22)【出願日】2012年5月9日
(65)【公開番号】特開2013-235440(P2013-235440A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504373093
【氏名又は名称】日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博司
【審査官】 早川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−238048(JP,A)
【文献】 特開2006−195544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気装置の配線構造を設計する作業を支援するシステムであって、
前記電気装置の形状を記述した座標系、前記電気装置内の電気部品の配置、および各前記電気部品間の配線に関する設計情報を取得する設計情報取得部と、
前記配線の起点座標と方向ベクトルを記述した配線起点/方向データベースと、
前記配線起点/方向データベースが記述している前記起点座標および前記方向ベクトルと、前記設計情報が記述している前記座標に関する情報とを用いて、前記座標系における前記配線の起点座標と方向ベクトルを生成する、配線起点/方向生成部と、
前記座標系における前記配線の起点座標と方向ベクトルを用いて前記電気装置内の前記電気部品間の配線経路を生成する配線経路生成部と、
前記電気装置内における前記配線の集約度に応じて採用すべき配線手段を指定する配線手段情報を格納した集約度/配線手段データベースと、
前記配線経路生成部が生成した配線経路と前記配線手段情報を用いて、前記集約度をさらに上げる配線経路およびその配線手段を生成して提示する、配線改善部と、
を備えたことを特徴とする配線設計支援システム。
【請求項2】
前記配線手段情報は、
前記集約度の高低に応じてその値を実現するのに適した配線手段を記述しており、
前記配線改善部は、
前記配線経路生成部が生成した配線経路の集約度を算出し、算出した集約度に対応する前記配線手段を前記配線手段情報から取得して提示する
ことを特徴とする請求項1記載の配線設計支援システム。
【請求項3】
前記配線経路生成部は、
前記配線経路を前記座標系における座標軸毎の成分に分割し、前記成分毎に前記配線経路を生成し、
前記配線改善部は、
前記配線経路生成部が生成した配線経路の集約度を前記成分毎に算出し、
算出した前記成分毎の集約度に対応する前記配線手段を前記配線手段情報から取得して前記成分毎に提示する
ことを特徴とする請求項2記載の配線設計支援システム。
【請求項4】
前記電気部品が提供する機能の起点座標と方向ベクトルを記述した機能起点/方向データベースと、
前記機能起点/方向データベースが記述している前記起点座標および前記方向ベクトルと、前記設計情報が記述している前記座標に関する情報とを用いて、前記座標系における前記機能の起点座標と方向ベクトルを生成する、機能起点/方向生成部と、
前記配線改善部が生成した前記配線経路と、前記機能起点/方向生成部が生成した前記起点座標および前記方向ベクトルとを用いて、前記配線改善部が生成した前記配線経路の集約度をさらに上げる前記電気部品の配置を生成して提示する、部品配置改善部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載の配線設計支援システム。
【請求項5】
前記機能起点/方向データベースは、
配置を移動させても同等の機能を発揮することができる前記電気部品について、その機能の起点座標、方向ベクトル、および移動させても前記同等の機能を発揮することができる移動先方向を記述しており、
前記部品配置改善部は、
前記機能起点/方向データベースが記述している前記移動先方向を前記電気部品の配置移動先の候補として採用し、その候補を用いて、前記配線改善部が生成した前記配線経路の集約度をさらに上げる前記電気部品の配置を生成する
ことを特徴とする請求項4記載の配線設計支援システム。
【請求項6】
前記機能起点/方向データベースは、
前記電気部品として、光学センサ、ソレノイドアクチュエータ、またはモータの少なくともいずれかを記述しており、
光学センサについては、前記光学センサが対象物を検出するために用いる光線を出射する方向を前記移動先方向として記述しており、
ソレノイドアクチュエータについては、その可動方向を前記移動先方向として記述しており、
モータについては、その回転軸を前記移動先方向として記述している
ことを特徴とする請求項5記載の配線設計支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気装置が備える電気部品間を接続する配線経路を設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気装置が備える電気部品間を接続する配線経路を自動的に設計する試みがなされている。下記特許文献1には、3D−CAD(Computer Aided Design)図面から取得した設計情報を元に、配線作業に係る時間を最短にする配線経路、配線動作/時間を自動生成する技術が記載されている。同文献においては、電気部品の配線起点/終点にしたがって定義した配線空間と経由点候補のなかから、配線長が最短となる配線経路を探索し、その中から配線時間が最短となる経路を選択している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−242961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されている方法では、配線ケーブルの配線時間を最短とする経路を選択しているが、配線ケーブルの本数を固定した上で最適経路を探索しているため、誤配線のリスクがある。また、配線の集約度を高めることについては格別に言及されていない。
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、配線ケーブルの本数を柔軟に設定しつつ配線の集約度を高めることができる、配線設計支援技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る配線設計支援システムは、配線起点/方向を記述したデータベースにしたがって配線経路を生成し、その結果得られる配線集約度に適した配線手段を提示する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る配線設計支援システムによれば、配線本数と配線集約度の観点で、配線経路を最適化することができる。
上記した以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1に係る配線設計支援システム100の機能ブロック図である。
図2】設計情報取得部110が取得する3D−CADモデル200が記述している設計情報を3D表示した例を示す図である。
図3】3D−CADモデル200に含まれる配線表201を示す図である。
図4】設計情報取得部110が3D−CADモデル200から取得した設計情報111の例を示す図である。
図5】配線起点/方向DB121に格納されているデータの例とその3Dモデルの一例を示す図である。
図6】配線起点/方向生成部120が生成する、ワールド座標系における電気部品の配線起点座標と配線方向ベクトルを例示する図である。
図7】配線設計支援システム100の配線経路生成部130が配線経路を生成する処理を説明するフローチャートである。
図8】ステップS131〜S132で配線経路生成部130が生成する配線空間とnodeの例を示す図である。
図9】集約度/配線手段DB131が格納しているデータの例を示す図である。
図10】ステップS133において配線経路生成部130が配線経路を生成する処理を説明する概念図である。
図11】機能起点/方向DB141に格納されているデータの例とその3Dモデルの一例を示す図である。
図12】機能起点/方向生成部140が生成する、ワールド座標系における電気部品の機能起点座標と機能方向ベクトルを例示する図である。
図13】部品移動方向DB151に格納されているデータの例とその3Dモデルの一例を示す図である。
図14】部品配置改善部150が生成した部品配置の例を示す図である。
図15】配線経路生成部130と部品配置改善部150がそれぞれ提示する配置結果を示す図である。
図16】部品配置改善部150が生成した、集約度改善後の構造モデル300の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施の形態1:システム構成>
図1は、本発明の実施形態1に係る配線設計支援システム100の機能ブロック図である。配線設計支援システム100は、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)などのメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置、キーボード/マウスなどの入力装置、ディスプレイ/プリンタなどの出力装置、通信インタフェース、これらを接続するバスなどを備える、汎用のコンピュータシステムを用いて構成することができる。メモリと記憶装置には、下記の構成要素および機能を実現するためのプログラムが格納されている。下記の構成要素および機能は、CPUがメモリにロードされたプログラムを実行することにより実現される。
【0009】
配線設計支援システム100は、設計情報取得部110、配線起点/方向生成部120、配線起点/方向DB121、配線経路生成部130、集約度/配線手段DB131、機能起点/方向生成部140、機能起点/方向DB141、部品配置改善部150、部品移動方向DB151を備える。
【0010】
設計情報取得部110は、3D−CADモデルから、設計対象である電気装置が搭載する電気部品の部品名、型式、ワールド座標系における原点座標、x,y,z軸ベクトルなどの設計情報を取得する。また配線表から、電気部品同士の接続関係などの設計情報を取得する。これらの設計情報については図3図4を用いて改めて説明する。
【0011】
ワールド座標系とは、電気部品を搭載する電気装置から見た座標系であり、電気装置のいずれかの箇所を原点として各座標軸を設定したものである。各電気部品自身の座標系は、必ずしもワールド座標系と同じではない。
【0012】
配線起点/方向DB(データベース、以下同じ)121は、電気部品自身の座標系における配線起点座標と配線方向ベクトルを格納している。配線起点/方向DB121の詳細については後述の図5で改めて説明する。
【0013】
配線起点/方向生成部120は、設計情報取得部110が取得した電気部品の設計情報と、配線起点/方向DB121に格納されている配線起点座標および配線方向ベクトルとを用いて、ワールド座標系における電気部品の配線起点座標と配線方向ベクトルを生成する。
【0014】
集約度/配線手段DB131は、配線経路の集約度毎に、その集約度を実現するのに適した配線手段を記述している。ここでいう配線手段とは、配線をケーブルによって実現するのか、それとも基板上に形成したプリント配線によって実現するのか、といった実装手段のことである。集約度/配線手段DB131の詳細については後述の図9で改めて説明する。
【0015】
配線経路生成部130は、配線起点/方向生成部120が生成したワールド座標系における電気部品の配線起点座標と配線方向ベクトルから、電気部品の起点座標を含む配線空間を定義する。そして、その配線空間内に格子点(node)を想定し、電気接続する電気部品の起点座標同士を繋ぐnodeを通る配線経路の中から、配線集約度を最大にする配線経路を生成する。さらに、生成した配線経路の集約度と、集約度/配線手段DB131に格納されている情報とを照合して、採用可能な配線手段を決定する。配線経路生成部130が決定した配線経路と配線手段は、出力装置を介して出力することができる。
【0016】
機能起点/方向DB141は、電気部品の座標系における機能起点座標と機能方向ベクトルを記述している。機能起点とは、当該電気部品が提供する機能が方向性を有する場合において、その開始点をいう。機能方向ベクトルとは、その機能が方向性を有する場合において、その方向を電気部品自身の座標系において記述した単位ベクトルである。機能起点/方向DB141の詳細については後述の図11で改めて説明する。
【0017】
機能起点/方向生成部140は、設計情報取得部110が取得した電気部品の設計情報と、機能起点/方向DB141に格納されている電気部品の機能起点座標および機能方向ベクトルとを用いて、ワールド座標系における電気部品の機能起点座標と機能方向ベクトルを生成する。
【0018】
部品移動方向DB151は、電気部品の配置を移動させても当該電気部品が提供する機能が等価である場合において、機能の等価性を維持しつつ当該電気部品を移動させることができる方向を記述している。部品移動方向DB151の詳細については後述の図13で改めて説明する。
【0019】
部品配置改善部150は、機能起点/方向生成部140が生成したワールド座標系における電気部品の機能起点座標/機能方向ベクトルと、部品移動方向DB151に格納されている電気部品の移動方向とを用いて、配線集約度を改善することができる電気部品の配置を生成する。部品配置改善部150が決定した部品配置は、出力装置を介して出力することができる。
【0020】
設計者は、提示された配線経路、配線手段、部品配置を参照し、電気装置や装置内の電気回路を設計することができる。また提示された配線経路等では十分な改善効果が期待できない場合、提示結果を参照しながら配線経路や電気部品の配置を再検討し、さらなる効率化を図ることができる。
【0021】
<実施の形態1:配線経路の最適化>
図2は、設計情報取得部110が取得する3D−CADモデル200が記述している設計情報を3D表示した例を示す図である。図2において、筐体260上には、電気部品の例として、光学センサ(1)210、光学センサ(2)220、光学センサ(3)230、光学センサ(4)240が配置されており、さらに各光学センサの検出結果を他の電気部品へ中継するための中継基板250が取付けられている。中継基板250には端子台251が取付けられている。
【0022】
電気装置のなかには、筐体内部において電気部品が必ずしも平面上に配置されるのみならず、立体的に配置されるものもある。例えば現金自動預払機(Automatic Teller Machine)においては、筐体上方から現金が投入され、筐体内部下方に向かって搬送される構造を有しているため、現金の位置を検出する光学センサは筐体内部において必ずしも平面上に配置されるのみならず、上下方向にも分散して配置されている。図2は、これと同様の配置例を示したものである。
【0023】
図3は、3D−CADモデル200に含まれる配線表201を示す図である。配線表201は、図2に示す光学センサ(1)210、光学センサ(2)220、光学センサ(3)230、光学センサ(4)240がそれぞれ備える2本のケーブルと、端子台251の接続端子番号との間の接続関係を記載した表である。配線表201の記述にしたがって、各電気部品間の接続関係を把握することができる。
【0024】
図4は、設計情報取得部110が3D−CADモデル200から取得した設計情報111の例を示す図である。ここでは図2に示した各光学センサと端子台251を例示した。設計情報取得部110は、3D−CADモデル200から各光学センサと端子台251それぞれの部品名、型式、ワールド座標系における原点座標、およびx,y,z軸として設定している方向を示す単位ベクトルを取得する。また配線表201から各光学センサと端子台251の間の接続関係を取得する。
【0025】
図5は、配線起点/方向DB121に格納されているデータの例とその3Dモデルの一例を示す図である。ここでは図2に示す光学センサ(2)220の例を示した。
【0026】
図5において、光学センサ(2)220の形状モデルとして、正極および負極それぞれに単位長さのケーブル221とケーブル222を取り付けたものを想定する。配線起点/方向DB121は、各光学センサ自身の座標系を基準として、ケーブル221と222が開始する座標と方向を配線起点座標と配線方向ベクトルとし、各光学センサの型式とともに保持する。
【0027】
図6は、配線起点/方向生成部120が生成する、ワールド座標系における電気部品の配線起点座標と配線方向ベクトルを例示する図である。図6上図は、図2に示す光学センサ(2)220について生成した計算例を示す。図6下図は、各光学センサについての計算結果をまとめた表である。
【0028】
配線起点座標は、配線起点/方向DB121が格納している配線起点座標に、設計情報取得部110が3D−CADモデル200から取得した設計情報111の原点座標およびx,y,z軸ベクトルから作成した4×4の座標変換行列を掛けることにより、算出することができる。配線方向ベクトルは、配線起点/方向DB121が格納している配線方向ベクトルに、設計情報取得部110が3D−CADモデル200から取得した設計情報111のx,y,z軸ベクトルから作成した座標変換行列を掛けることにより、算出することができる。
【0029】
図7は、配線設計支援システム100の配線経路生成部130が配線経路を生成する処理を説明するフローチャートである。以下、図7の各ステップについて説明する。
【0030】
図7:ステップS131〜S132)
配線経路生成部130は、電気部品の起点座標を含む配線空間を定義し(S131)、その配線空間上に格子点(node)を想定する(S132)。配線空間と格子点の具体例については図8を用いて後述する。
【0031】
図7:ステップS133〜S134)
配線経路生成部130は、互いに電気接続する電気部品の起点座標同士を繋ぐnodeを通る配線経路の中から、配線集約度を最大にする配線経路を生成する(S133)。ステップS133の処理イメージについては図10を用いて後述する。配線経路生成部130は、生成した配線経路の集約度を算出し、これを集約度/配線手段DB131が格納している情報と照らし合わせて、その集約度を実現するのに適した配線手段を決定する(S134)。ステップS134の処理イメージについては図9で改めて説明する。
【0032】
図8は、ステップS131〜S132で配線経路生成部130が生成する配線空間とnodeの例を示す図である。ここでは図2の各光学センサをXY平面上に配置した配線空間を例示した。
【0033】
配線経路生成部130は、配線起点/方向生成部120が生成したワールド座標系において、各光学センサおよび端子台251それぞれの配線起点座標を含む配線空間を定義する。次に配線経路生成部130は、生成した配線空間上にメッシュを切り、メッシュの交点にnodeを想定する。
【0034】
図9は、集約度/配線手段DB131が格納しているデータの例を示す図である。集約度/配線手段DB131は、配線集約度とこれを実現するのに適した配線手段との間の対応関係をあらかじめ定義しておくためのデータベースである。配線手段として、ここでは配線ケーブル/プリント基板配線/樹脂モールド基板上の配線を想定する。
【0035】
配線ケーブルの配線コストCcは配線本数nにほぼ比例し、プリント基板配線の配線コストCpは配線空間の面積Sにほぼ比例する。そこでそれぞれの比例定数をα、βとして下記式1を得る。
【0036】
Cc=αn、Cp=βSとおくと、Cc=Cpのとき、
(n/S)=(β/α) ・・・(式1)
よって、(n/S)が閾値(β/α)より小さいときは配線ケーブルによる配線の方が低コストとなり、大きいときはプリント基板配線による配線の方が低コストとなる。そこで、配線本数nを配線空間の面積Sで除した値を集約度I(本/m)と定義し、製造現場における実績に基づき、閾値I=(β/α)を求め、配線手段を選択する際の判定基準とする。ここでは実績値に基づく閾値I=1000とした。同様に、樹脂モールド基板上の配線を採用すべきか否かについての実績値に基づく閾値を2000とした。
【0037】
配線経路生成部130は、ステップS133で生成した配線経路の集約度を実現するのに適した配線手段を、集約度/配線手段DB131の記述にしたがって、ステップS134において決定する。
【0038】
図10は、ステップS133において配線経路生成部130が配線経路を生成する処理を説明する概念図である。ここでは図8に示す格子点を用いて説明する。配線経路生成部130は、互いに電気接続する電気部品の起点座標間を繋ぐnodeを通る配線経路の中から、配線集約度を最大にする配線経路を生成する。このとき配線経路生成部130は、配線経路をX成分とY成分に分割し、成分毎に配線集約度を最大化することを図る。具体的な計算例について以下に説明する。
【0039】
配線空間203の面積Sは、X方向のサイズとY方向のサイズを乗算し、S=0.30(m)×0.16(m)=0.048(m)となる。図5で説明したように、各光学センサにはそれぞれ2本のケーブルを接続する必要があるので(図10上では記載の便宜上1本のみ示している)、配線本数は最小限でも8本必要である。このときの集約度I=8/0.048=167(本/m)であり、閾値Iを下回っているので、図9に例示した配線手段のなかでは配線ケーブルによる配線しか選択肢がない。
【0040】
そこで配線経路生成部130は、配線経路をX成分とY成分に分割し、成分毎に配線経路を集約して集約度Iを向上させることを図る。具体的には、配線空間203を、配線経路のうちX成分部分を配置する部分配線空間204と、Y成分部分を配置する部分配線空間205とに分割し、部分配線空間毎に集約度を向上させることを図る。
【0041】
部分配線空間204の面積S1は、S1=0.30(m)×0.02(m)=0.006(m)であり、配線本数n1=8(本)であるから、集約度I1=8/0.006=1333(本/m)となる。したがって、図9に例示した配線手段のなかでは、部分配線空間204についてはプリント基板配線を採用することができる。また、コスト面で許容されるのであれば、樹脂モールド基板上の配線を採用することもできる。
【0042】
部分配線空間205の面積S2は、S2=0.18(m)×0.16(m)=0.0288(m)であり、配線本数n2=8(本)であるから、集約度I2=8/0.0288=278(本/m)となる。したがって、図9に例示した配線手段のなかでは、部分配線空間205については配線ケーブル以外に選択肢はない。
なお、部分配線空間204と205を総合した集約度は、8/(0.006+0.0288)=230である。
【0043】
以上のように、配線経路生成部130は、XY成分毎に配線経路の集約度を高めることにより、配線手段の選択肢を増やすことができる。また、配線空間全体を考慮すると集約度が低い場合においても、XY成分いずれかについては集約度を高めることができる。例えば図10に示した例においては、部分配線空間204をプリント配線基板として初めから設計することができる。併せて、配線ケーブルを採用するのはY成分の配線のみに限定することができるので、配線ケーブルの使用量を最小限に留めることもできる。
【0044】
<実施の形態1:部品配置の最適化>
以上の説明では、部品配置を固定した上で、配線経路を最適化することについて説明した。配線設計支援システム100はさらに、いったん最適化した配線経路を前提として、部品配置を移動させることにより、さらに配線経路を改善することを図る。具体的には、配置を移動させても等価な機能を提供できる電気部品については、等価な機能を提供できる範囲内で移動させて配線経路をさらに向上させる。
【0045】
図11は、機能起点/方向DB141に格納されているデータの例とその3Dモデルの一例を示す図である。ここでは図2に示す光学センサ(2)220の例を示した。機能起点/方向DB141は、光学センサ(2)220が発した光線223を単位長さの部品と見なし、各光学センサ自身の座標系を基準として、光線223の発光点と光線方向を機能起点座標と機能方向ベクトルとして、各光学センサの型式とともに保持する。
【0046】
図12は、機能起点/方向生成部140が生成する、ワールド座標系における電気部品の機能起点座標と機能方向ベクトルを例示する図である。図12上図は、図2に示す光学センサ(2)220について生成した計算例を示す。図12下図は、各光学センサについての計算結果をまとめた表である。
【0047】
機能起点座標は、機能起点/方向DB141が格納している機能起点座標に、設計情報取得部110が3D−CADモデル200から取得した設計情報111の原点座標およびx,y,z軸ベクトルから作成した4×4の座標変換行列を掛けることにより算出することができる。機能方向ベクトルは、機能起点/方向DB141が格納している機能方向ベクトルに、設計情報取得部110が3D−CADモデル200から取得した設計情報111のx,y,z軸ベクトルから作成した座標変換行列を掛けることにより算出することができる。
【0048】
図13は、部品移動方向DB151に格納されているデータの例とその3Dモデルの一例を示す図である。ここでは図2に示す光学センサ(2)220の例を示した。光学センサ(2)220の機能は、受光器に向けて光を発し、光学センサ(2)220と受光器との間に物体が存在するか否かを検知することである。よって光学センサ(2)220の機能を等価に維持しつつ配置を移動させることができる範囲は、以下の通りである。部品移動方向DB151は、これらを光学センサの型式とともに保持する。
【0049】
(1)機能方向:光学センサ(2)220の機能起点と受光器の機能起点の間の距離が、光学センサ(2)220の許容範囲内
(2)機能方向回り:機能起点を通り機能方向を軸とする回転移動
(3)機能方向直交平面:機能起点を通り機能方向に直交する平面
配線経路生成部130は、図10で説明したようにXY平面上で配線経路を最適化するが、この時点ではZ方向については考慮していない。しかし、例えば光学センサをZ方向に移動させても機能を等価に維持することができるのであれば、さらに配線集約度を改善できる可能性がある。そこで部品配置改善部150は、部品移動方向DB151の記述にしたがって、電気部品の配置を配線集約度の観点で改善することを図る。
【0050】
具体的には、例えば現金自動預払機においては、筐体内を通過する現金を検出することができればよいので、光学センサは、光線223が現金によって遮られるような配置関係である限り比較的自由に配置できると考えられる。また、先述のように現金は筐体内を立体的に移動するので、光学センサの配置位置はXYZ各軸について移動させ得る。部品移動方向DB151は、このような移動可能範囲をデータベースとして記述したものということができる。
【0051】
図14は、部品配置改善部150が生成した部品配置の例を示す図である。配線接続する電気部品を近接配置することにより、配線集約度を改善することができる。光学センサ(2)220は端子台251に接続するから、移動範囲は以下となる。
【0052】
(1)機能方向の改善配置
光学センサ(2)220の機能方向は−Z方向であるから、これをZ方向に移動することができる。一方、光学センサ(2)220の配線起点座標は(120,10,45)であり、接続する端子台251の配線起点座標は(360,90,105)であるから、Z方向の距離は60mmである。よって、光学センサ(2)220をZ方向に60mm移動させることにより、光学センサ(2)220と端子台251を平面配置して配線集約度を改善することができる。
【0053】
(2)機能方向回りの改善配置
光学センサ(2)220の機能方向は−Z方向であるから、Z方向を軸として回転させることができる。光学センサ(2)220の現行の配線方向は(1,0)である。一方、光学センサ(2)220の配線起点座標(120,10,45)と端子台251の配線起点座標(360,90,105)を考慮すると、両者を結ぶ理想的なな配線方向は(0.95,0.3)である。現行の配線方向と理想的な配線方向の差が大きい場合は、光学センサ(2)220をZ軸回りに回転させて配線方向の最適化を図る。この例においては両者の差は小さいので、修正しなくともよい。
【0054】
(3)機能方向直交平面の改善配置
光学センサ(2)220の機能方向は−Z方向であるから、Z方向に直交するXY平面で移動させることができる。光学センサ(2)220の配線起点座標(120,10,45)と端子台251の配線起点座標(360,90,105)によれば、両者の距離はX方向240、Y方向80である。よって、光学センサ(2)220をXY平面において可能な限り端子台251に近づけることにより、配線集約度を改善することができる。
【0055】
図15は、配線経路生成部130と部品配置改善部150がそれぞれ提示する配置結果を示す図である。配線経路生成部130が提示する結果のみで十分な改善効果が得られる場合にはこれを設計に反映し、不十分な場合はさらに部品配置改善部150が提示する配置結果を設計に反映し、それでも不十分であれば提示結果に基づき改めて最適な配置を検討すればよい。
【0056】
図16は、部品配置改善部150が生成した、集約度改善後の構造モデル300の例を示す図である。構造モデル300は、筐体360を段差がない構造とし、各光学センサを同じXY平面上に配置した上で、中継基板350の位置も−X方向に変更している。構造モデル300を用いて、設計情報取得部110〜部品配置改善部150までの処理を再実施することにより、構造モデル300上で改めて配線集約度を改善した配線経路を生成することができる。
【0057】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る配線設計支援システム100は、XY成分毎に集約度を向上させた配線経路を生成し、各配線経路の集約度に応じて適切な配線手段を提示することができる。
【0058】
また、本実施形態1に係る配線設計支援システム100は、配置を移動させても等価な機能を提供できる電気部品について、機能方向ベクトル等を記述した機能起点/方向DB141を備えており、これを用いて電気部品の配置を配線集約度の観点で最適化する。これにより、いったん最適化した配線経路をさらに改善することができる。
【0059】
<実施の形態2>
実施形態1では、電気部品の例として光学センサを例示したが、配置を移動させても等価な機能を提供できる電気部品のその他の例として、ソレノイドアクチュエータとモータが考えられる。
【0060】
ソレノイドアクチュエータについては、その可動方向にある程度配置を移動させても同等の機能を提供できると考えられるので、これを移動方向として部品移動方向DB151に格納することができる。移動範囲は、少なくともアクチュエータの可動範囲内に収めるべきであろう。
【0061】
モータについては、その回転軸に沿ってある程度配置を移動させても同等の機能を提供できると考えられるので、これを移動方向として部品移動方向DB151に格納することができる。移動範囲は、モータが接続する他の部品との間の配線経路や周辺部材による制限などによって個別に異なると考えられる。
【0062】
<実施の形態3>
実施形態1〜2にしたがって配線設計した電気製品が備える電気回路は、配置を移動させても等価な機能を提供できる電気部品を搭載していると考えられる。また軸成分毎に配線を集約することに鑑みると、その電気部品と他の部品間を接続する配線経路は、その経路長に沿った少なくともいずれかの部位において、プリント基板配線または樹脂モールド基板上の配線などの手段によって集約されていると考えられる。この集約されている部分には、上記電気部品のうち複数に係る配線が集約されていることになるであろう。
【0063】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0064】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0065】
100:配線設計支援システム、110:設計情報取得部、120:配線起点/方向生成部、121:配線起点/方向DB、130:配線経路生成部、131:集約度/配線手段DB、140:機能起点/方向生成部、141:機能起点/方向DB、150:部品配置改善部、151:部品移動方向DB。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16