特許第5731452号(P5731452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731452新規ベンゾトリアゾール誘導体化合物及びそれを含む水溶性紫外線吸収剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731452
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】新規ベンゾトリアゾール誘導体化合物及びそれを含む水溶性紫外線吸収剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 249/20 20060101AFI20150521BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20150521BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20150521BHJP
   C08G 65/333 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C07D249/20 503
   C07D249/20CSP
   A61Q17/04
   A61K8/49
   C08G65/333
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-178781(P2012-178781)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-37352(P2014-37352A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2014年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301000675
【氏名又は名称】シプロ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104581
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 伊章
(72)【発明者】
【氏名】田中 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 貴文
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−139589(JP,A)
【文献】 特開昭61−192781(JP,A)
【文献】 特開昭50−159484(JP,A)
【文献】 特表2008−510718(JP,A)
【文献】 特許第4463114(JP,B1)
【文献】 特開平7−246773(JP,A)
【文献】 特開2003−26668(JP,A)
【文献】 特開2014−141487(JP,A)
【文献】 特開2012−25681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 249/20
A61K 8/49
A61Q 17/04
C08G 65/333
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される新規ベンゾトリアゾール誘導体化合物。
【化1】
(I)

式中、Rは、水素原子、または塩素原子を示す。Rは、水素原子、またはメチル基を示す。nの数は、8から22の整数である。
【請求項2】
前記一般式(I)において、以下のa)からc)で示される少なくともいずれかの請求項1記載のベンゾトリアゾール誘導体化合物。
a) R=H、R=H、n=22
【化2】


b) R=H、R=H、n=12
【化3】


c) R=H、R=H、n=8
【化4】
【請求項3】
請求項2で示される誘導体化合物を含む紫外線吸収剤。
【請求項4】
請求項1で示される一般式Iの誘導体化合物を含む皮膚外用剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なUV−A領域の紫外線を吸収するベンゾトリアゾール誘導体、それを配合した紫外線吸収剤、特に水溶性のベンゾトリアゾール誘導体、それを用いた紫外線吸収剤、およびそれを配合した皮膚外用剤又は化粧品に関するものである。さらに詳述すればポリエチレングリコールを導入したベンゾトリアゾール−2−イルレゾルシノール誘導体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品には化粧品自体の成分の光に対する安定性をあげるために、あるいは、人体の皮膚を保護するために、紫外線吸収剤が配合されている。
紫外線領域としては、UV−A領域(320〜400nm)、UV−B領域(290〜320nm)、UV−C領域(〜290nm)に分けられるが、このうちUV−C領域の紫外線は、通常、地上に達することはない。またUV−A領域(320〜400nm)の紫外線は皮膚を黒く侵すが、UV−B領域(290〜320nm)の紫外線のようにサンバーンを起こし、皮膚の老化を促進させるものではないと考えられていた。
ところが近年になってUV−B領域の紫外線が比較的、皮膚の表面部分にとどまるのに対して、UV−A領域の紫外線が、皮膚の深部にまで達し、皮膚の老化はもとより皮膚癌を誘発する原因となることがわかってきた。
今日までに使用されている化粧品用紫外線吸収剤は、構造面から分類すると(a)安息香酸誘導体、(b)ケイ皮酸誘導体、(c)ベンゾフェノン誘導体、(d)ジベンゾイルメタン誘導体、(e)サリチル酸誘導体等があり、近年よく使用される紫外線吸収剤としては(b)、(d)があげられる。
【0003】
しかしながら、上記にあげた紫外線吸収剤は、実用面から見ると以下の通りそれぞれに問題がある。
(a)の化合物では、例えばp−ジメチルアミノ安息香酸−2−エチルヘキシルエステルは、液状、透明であり、扱いやすい長所はあるが、これらの誘導体を含めて発ガン性の疑いがあり、近年は使用されていない。また極大吸収波長が290nm付近にあり、UV−B領域のみの紫外線を吸収する。
(b)の化合物では、現在市販されているサンケア化粧品に最もよく使用されている紫外線吸収剤としてp−メトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシルエステルがあるが、極大吸収波長は310nm付近にあり、吸収域がUV−A領域には及ばない。また日光により変質して着色性や紫外線防御効果の持続性に問題がある。
(c)の化合物では、例えば2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンがUV−A、UV−B領域にわたって吸収があり、比較的化粧基材への溶解性も良いが、極大吸収波長がややUV−B領域に近いところにあり、吸光度もあまり大きくない。また近年では基本骨格の構造物(ベンゾフェノン)が環境ホルモンとして指摘されていて、その使用が敬遠されている。
(d)の化合物は、4−tert−ブトキシ−4−メトキシジベンゾイルメタンがよく使用されている。極大吸収が360nm付近にあり、吸光度も大きく、UV−A領域の紫外線吸収剤として優れている。しかしながらUV−B領域での吸収が小さく、光安定性に問題があるといわれている。また化粧基材に対しての相溶性が悪く、少量しか混合できない点においても問題がある。
(e)のサリチル酸誘導体では、サリチル酸オクチルが使われている。UV−B領域に極大吸収波長をもち、オイル状であり、パラフィンオイル等の相溶性に優れるが吸光度が低いため、あまり実用化されていない(以上、非特許文献1参照)。
【0004】
このため、UV−B領域においては、(b)のp−メトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシルエステルが、UV−A領域に関しては(d)の4−tert−ブトキシ−4−メトキシジベンゾイルメタンが使用されることが多い。また全領域をカバーするために両者を併用することが多い。
【0005】
またUV−A領域に関しては、事実上、化粧用途向け紫外線吸収剤としては、先に述べた4−tert−ブトキシ−4−メトキシジベンゾイルメタン(商品名 Parsol1789)以外に良好な紫外線吸収剤が見つかっておらず、特にUV−A領域に関して化粧基材に対する相溶性に優れ、かつ光安定性に優れ、化合物自体が長期にわたって分解、劣化し難い紫外線吸収剤を提供することである。
【0006】
ただし、先に挙げた紫外線吸収剤は、一般に油溶性であり、水性の皮膚外用剤に配合することが非常に困難である。水性の皮膚外用剤以外にも、例えばトイレタリーの分野において、消臭剤、芳香剤、ヘアケアー、ボディーケアー等、工業用分野において、水性塗料や水性ポリマーなどにも必要とされ、汎用すべき用途は多岐にわたる。
しかしながら、現在のところ、十分な性能を有する水溶性の紫外線吸収剤が、研究、開発されていない。現在使用されているものでは、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォキソニウムベンゾフェノンナトリウム(シプロ化成株式会社製)が知られている。しかし、本物質はスルホン酸塩であるために化粧品に配合した際、pHに影響を与え、紫外線吸収領域が変化すること、および、水への溶解度が6%程度(25℃)に過ぎず、製品中への配合量を多くすることが出来ないなどの問題があることが、特許文献1において示唆されている。
また、紫外線吸収剤を皮膚外用剤に配合する場合には、皮膚への感作性がなく、安全性の高い化合物でなければならない。また、その化合物自体が日光曝露によって分解されない、いわゆる耐光性に優れた安定性を有することが重要である。
【0007】
また、先に挙げた2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォキソニウムベンゾフェノンナトリウム以外に、種々の化合物が提案されているが、いずれも実用化されていない、もしくは一部の限られた少量の用途にしか使用されていない。
たとえば、特許文献2、特許文献3では、ケイ皮酸誘導体に糖鎖を導入し、水溶性を持たせているが、紫外線吸収領域が、350nm程度までしかなく、UV−B領域をターゲットとしたものである。また、水への溶解度や溶解性に関しては実施例がなく、全く言及されていない。
特許文献8では、桂皮酸を酸アマイドとしてからアミノ基に糖を導入した配糖体としている。さらに特許文献9では、ベンザルマロネート誘導体に第4級アンモニウム基を導入する試みが報告されている。UV−B領域において耐光性に優れるが、水に対する溶解度が小さい。
特許文献4においては、ベンジリデンヒダントイン誘導体の1位にアルキルカルボン酸を導入し、さらに糖をエステル結合させて、配糖体とした化合物が提案されている。
しかしながら同文献の段落0017の反応スキーム(3)において、NHの官能基が、1位と3位に2つあり、1位に選択的に反応した根拠が明示されていない。NMR、FTIRとUVスペクトルの測定データは記載されているが、これらのデータのみで1位に選択的に反応した構造判断を下すのは不可能であり、文献中の記載構造自体が間違っている可能性さえある。
【0008】
また、一般的に4−ベンジリデン誘導体は、ビニル基とそれに結合する芳香環の連続した共役二重結合の影響で、UV−A領域に大きなモル吸光係数を有するが、本願発明でもある基本構造の2H−ベンゾトリアゾールなどに比べて耐光性が悪く、化合物自体の光に対する安定性において問題があると考えられる。加えて、特許文献4においても、水への溶解度や溶解性に関しては実施例がなく、全く言及されていない。これらは、特許文献5においても同様である。
【0009】
特許文献6においては、2、4−ジヒドロキシベンゾフェノン誘導体の4位の水酸基にアルキル基を介して糖鎖を導入する試みがなされており、UV−B領域に紫外線吸収域を持つ水溶性の紫外線吸収剤が提案されているが、概してベンゾフェノンの吸光度は小さいので、配合量を多くする必要があり、コスト面や製剤としての性能で不利となるほか、ベンゾフェノン自体の安全性にも問題がある。
【0010】
特許文献7においては、2、4−ジヒドロキシベンゾフェノン誘導体、もしくはジベンゾイルメタン誘導体にアルキルオキシ基を介して、無水マレイン酸共重合体と縮合させて、水溶性の紫外線吸収剤としているが、特にUV−A領域における吸光度が非常に小さいので、この領域の紫外線吸収剤としての利用は困難である。
【0011】
また、特許文献10では、2、4−ジヒドロキシベンゾフェノン誘導体にポリエチレングリコールをエーテル結合させた化合物が示唆されている。水溶性のベンゾトリアゾール誘導体としては、特許文献11、特許文献12,特許文献13に記載がある。ただし、特許文献11では、マルクーシュで考え得る一般的なベンゾトリアゾール誘導体で、イオン性基としてスルホン酸、カルボン酸、リン酸等が列挙されているに過ぎず、水酸基へのポリエチレングリコールの導入に関する記述もあるが、本願のカルボン酸を介してポリエチレングリコールを縮合した化合物は含まれていない。また、実際に実施例で使用しているのは、本願化合物の2段階前駆体である4−ベンゾトリアゾール−2−イル−ベンゼン−1,3−ジオール体であり、工業品として容易に入手可能であり、わずかに水に対する溶解性があるに過ぎない。
【0012】
また、特許文献12、特許文献13では、ベンゾトリアゾール−2−イルフェノールにプロピオン酸を介し、ポリエチレングリコールをエステル結合させたものが提案されている。
しかしながら、本願のベンゾトリアゾール−2−イルレゾルシノールとは紫外線吸収域がやや異なり、UV−A領域の吸収域が小さく、特に400nmに近い吸収が、非常に小さいので、UV−A紫外線吸収剤としては問題がある。この違いについては、両者の最も基本的な構造物で比較したデータを(表1)、ならびに(図5)で示す。なお、表1中、εは最大吸収波長(λmax)のときのモル吸光係数(ε)である。
【0013】
【表1】
【0014】
また、原料となるレゾルシノールが入手容易なのに対して、特許文献12、特許文献13のフェノール原料は、一般的に入手が困難な特殊な原料であり、高額であると考えられる。
したがって、これらの化合物を安価で提供することや実用化は非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−332084号
【特許文献2】特開平9−268194号
【特許文献3】特開平9−263596号
【特許文献4】特開平8−127589号
【特許文献5】特開平9−241289号
【特許文献6】特開平9−255696号
【特許文献7】特開平10−231467号
【特許文献8】特開平10−120698号
【特許文献9】特開平7−330693号
【特許文献10】特開平7−109447号
【特許文献11】特許4463114号
【特許文献12】特開平7−246773号
【特許文献13】特開2001−39028号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】市橋正光 他,皮膚の老化とサンケアの科学,フレグランスジャーナル社,.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、低融点であって各種化粧基材、特に精製水との相溶性に優れ、UV−A、UV−Bのほぼ全領域において吸収をもち、かつ光安定性に優れ、化合物自体が長期にわたって分解、劣化し難い水溶性紫外線吸収剤を提供することである。
本発明は、水溶性紫外線吸収剤が必ずしも化粧用途や工業用途において性能、コスト面において満足の出来るものが開発されていない現況に鑑み、低コストで、性能の良い水溶性紫外線吸収剤を設計、開発し、安定的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、ポリカーボネートなど、いわゆるエンジニアリングプラスチックの分野において、過酷な使用条件下でも紫外線を長期にわたって効率的に吸収し、材料の変質を起こしにくく、化合物としてもその安定性に非常に優れ、定評のある2H−ベンゾトリアゾール−2−イルフェノールの誘導体に着目した。
【0019】
しかしながら、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤としての基本構造である、2H−ベンゾトリアゾール−2−イルフェノールは、概して脂溶性が強く、水に対する分配能が極めて小さいことが問題である。微生物による生分解が進まず、環境中においていつまでも存在し続けるからである。結果として、人体を始めとする生物の生体内に取り込まれたときの濃縮性は、高いものであると予想される。また、UV−BからUV−A領域にかけて広く紫外線を吸収するが、UV−A領域における吸収波長領域は、全域をカバーできず吸光度も小さいので、必ずしも満足できるものではない。
【0020】
これに対し、2H−ベンゾトリアゾール−2−イルレゾルシノールは、UV−B領域での紫外線吸収能は2H−ベンゾトリアゾール−2−イルフェノールよりも小さいが、先の2H−ベンゾトリアゾール−2−イルフェノールよりも広範囲のUV−A波長域を吸収し、モル吸光係数も大きい。加えて、わずかながらに水に対する溶解性がある。
【0021】
一方、水溶性を持たせるための側鎖を導入するに際し、先に挙げた先行技術に鑑み、1.スルホン酸塩の導入、2.単糖、または糖鎖の導入、3.ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールの導入、4.第4級アミン塩の導入が考えられた。
【0022】
この中で本発明者は、3を選択することとした。
理由として、コスト面での優位性と、安全性が高く、合成のしやすさ、ならびに高温下においても化合物の安定性が高く、工業製品への添加も容易であると考えたからである。
【0023】
また、特にポリエチレングリコールは、化粧品や皮膚外用剤の原料としての使用実績も多い。
導入方法として、レゾルシノールの3位水酸基にエーテル結合させる、あるいは、カルボキシル基を導入してエステル結合させる2つの方式が考えられた。前者では、一度、ポリアルキレングリコールの水酸基をハロアルキルにして反応させる等の必要があり、後者であれば、ラクトンを開環させて付加させることにより副生成物なく、定量的にターゲットとする中間体のアルキルカルボン酸を得ることが出来るので、次工程のエステル化により容易に最終目的物が得られると考えた。従って後者を採用することにした。具体的にポリアルキレングリコールとして、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルを使用することとした。片側の水酸基がメチル基やエチル基などのアルキル基で封鎖されていることにより反応の選択性が向上し、コストの低減が可能なためである。
【0024】
また、最終目的化合物前駆体のアルキルカルボン酸自体もある程度の水溶性の性質を有し、中間体化合物として非常に有用である。このようにして、化合物の分子設計を行い、実際に合成して評価したところ驚くべき事に、いくつかの化合物が、室温下で30%以上の水への溶解度を有することを発見した。
そこで、さらにこれら新規化合物の精製方法を検討し、実際に低コストで、汎用設備を用いて効率的な製造方法を確立することを目指して種々鋭意工夫を重ねた結果、本発明を完成させるに至ったのである。
【0025】
本発明は下記一般式(I)で示される新規ベンゾトリアゾール誘導体化合物である。
【化1】
(I)

式中、Rは、水素原子または塩素原子を示す。Rは、水素原子またはメチル基を示す。nの数は、8から22の整数である。
【0026】
特に、一般式(I)において、以下のa)からc)で示される少なくともいずれかのベンゾトリアゾール誘導体化合物が好ましい。
a) R=H、R=H、n=22
【化2】


b) R=H、R=H、n=12
【化3】


c) R=H、R=H、n=8
【化4】

【0027】
前記一般式(I)で示される誘導体化合物は、紫外線吸収剤として利用することができる。特に前記a)〜c)の少なくともいずれかの化合物で特定される化合物は紫外線吸収剤として良好に利用することができる。また前記一般式(I)で示される誘導体を含む化合物は、皮膚外用剤としても利用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、水溶性に富み、安定なベンゾトリアゾール構造とUV−A領域に効率的な紫外線吸収域を有する新規紫外線吸収剤を提供することが可能となる。従って、本発明の2H−ベンゾトリアゾール−2−イルレゾルシノール誘導体である水溶性紫外線吸収剤を使用することにより、従来では製造することが出来なかった高性能な水溶性の化粧製剤、特に安価で高性能、かつ安全性の高い原料を求められる皮膚外用剤やヘアケアー製品、ボディケアー製品、消臭剤、芳香剤などのトイレタリー製品に安定して添加することが出来る。また、車の水性塗料や、水性ポリマー用途への添加により、高性能な工業製品を供給することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1で得られた化合物(a)の紫外吸収スペクトルである。
図2】実施例2で得られた化合物(b)の紫外吸収スペクトルである。
図3】実施例3で得られた化合物(c)の紫外吸収スペクトルである。
図4】比較例1で示した2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホニックアシドトリハイドレートの紫外吸収スペクトルである。
図5】最も基本的な構造の2H−ベンゾトリアゾール−2−イルレゾルシノール誘導体(例示化合物1)の紫外吸収スペクトルと2H−ベンゾトリアゾール−2−イルフェノール(例示化合物2)との紫外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に関わる一般式(I)で示される2H−ベンゾトリアゾール−2−イルレゾルシノール誘導体化合物について、好適な製造方法について詳細に記載する。
【化5】
(I)
式中、Rは、水素原子または塩素原子を示す。Rは、水素原子またはメチル基を示す。nの数は、8から22の整数である。
【0031】
以下、スキーム1に従って本発明の化合物を合成することが出来る。
化合物の合成方法の概要については、以下に順を追って説明する。
まず、特開2005−206473、特開2005−290240の合成例を元に4−ベンゾトリアゾール−2−イルベンゼン−1,3−ジオール体(G−1)を合成し、特開平3−139589に記載の方法などを用いてブチリックアシドの中間体化合物(M−1)を得ることが出来る。
【0032】
【化6】

(スキーム1)
【0033】
次いで、トルエン溶媒下、メタンスルホン酸などの酸性触媒を使用して還流脱水による縮合反応を利用して、目的物のポリエチレングリコール誘導体である(G−2)を得ることが出来る。メタンスルホン酸以外の酸性触媒としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸等のブレンステッド酸、あるいは金属錯体などのルイス酸触媒を使用することが出来る。
【0034】
反応における(M−1)と対象となるポリエチレングリコールモノメチルエーテルの比率は、モル比で1:1〜1:3、好ましくは1:2程度が良く、触媒は、(M−1)に対して、0.01〜20重量%、好ましくは、1〜2重量%程度使用することが望ましい。反応温度は、110〜115℃程度の範囲で激しく還流させながら、24〜48時間程度撹拌し、反応して生成する理論量の水が留出するまで行う。その後、水洗浄を繰り返して、未反応の余剰ポリエチレングリコールモノメチルエーテルを除去するが、このときほとんどの目的物はトルエン層に分配される。さらに活性炭処理とカラム処理を数回行った後、水分を含むトルエン溶媒を減圧留去し、60℃の乾燥機で170時間程度乾燥させて目的物の黄色液体を得ることが出来る。この油状物は10℃で保存すると、凝固して黄色のロウ状物質となる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。最終目的物は、HPLCによる純度、融点、吸光度について測定し、評価した。また、実施例の化合物については、H−NMR、FT−IRを測定し、目的物の構造であることを確認した。
【0036】
<吸光度測定条件>
測定装置:UV−2450((株)島津製作所製)
測定波長:250〜500nm
試料濃度:10ppm/クロロホルム
【0037】
<HPLC面百純度測定条件>
測定装置:LC−6A(株)島津製作所製)
カラム:SUMIPAX ODS−A−212 6μm、6mm×15cm
カラム温度:40℃
移動相:アセトニトリル:水=8:2、リン酸0.3%添加(対水)
測定使用波長:254nm
【0038】
<FTIR測定条件>
装置:FTIR−8400S((株)島津製作所製)
検体:液膜法(KBrプレート)
【0039】
H−NMR測定条件>
装置:Varian Mercury-300 (300 MHz) SC-NMR spectrometer
共振周波数:300MHz(H−NMR)
溶媒:DMSO−d6
【0040】
H−NMRの内部標準物質として、テトラメチルシランを用い、ケミカルシフト値はδ値(ppm)、カップリング定数はHertzで示した。またsはsinglet、dはdoublet、tはtriplet、qはquintet、ddはdoublet doublet、br sはbroad singlet、mはmultipletの略とする。
【0041】
[実施例1]
化合物
a)の合成例
500mLの四つ口フラスコに温度計と玉付コンデンサー、水分離器を備え、4−[4−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−3−ヒドロキシフェノキシ]ブチリックアシド 8.146g(0.026mol)、モノメトキシポリエチレングリコールn=22(商品名ユニオックスM−1000:日油株式会社製)52.0g(0.052mol)、トルエン100mLを入れ、撹拌しながら還流温度に達するまで加熱した。113〜114℃で還流温度に達し、水分離器で留出水を除去しながら、24時間反応させた。全体が濃赤色の透明オイルとなり、薄層クロマトで目的物の生成ならびに原料のブチリックアシドが消失したことを確認した後、80℃まで冷却して、温水30mLを加えて撹拌し、静置して下層の水層を分離した。同様に温水30mLで4回(計5回)油層を洗浄し、活性炭1g、アスコルビン酸0.5gを加えて、80℃、0.5時間処理した後、メンブレンフィルターで濾過して、活性炭、ならびに不溶解物を取り除いた。同様に活性炭処理を4回(計5回)行った後、ワコーゲルC−200(和光純薬工業株式会社製)を充填したカラムクロマトグラフィーを通した。得られた黄色の液体をエバポレーターで濃縮し、さらに150℃/20Paの条件で溶媒を留去し、最後、60℃の恒温乾燥機で約170時間乾燥して、淡黄色のオイル18.61gを得た。
【0042】
図1は実施例1で得られた化合物(a)の紫外吸収スペクトルを示す。
HPLC 97.8%; yellowish wax; yield: 55.81% (based on M-1).
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6)δ:10.6,(br s,OH),8.00,(dd,2H,J=6.6Hz,J=3.3Hz,J=3.0Hz, Benzotriazol-H),7.71(d,1H,J=9Hz,Phenol-H),7.50(dd,2H,J=6.6Hz,J=3.0Hz,Benzotriazol-H),6.65(d,2H,J= 2.4Hz,Phenol-H),6.60(dd,2H,J=9.0Hz,J=2.7 Hz,J=2.4Hz,Phenol-H),4.14(t,2H,J=9.3Hz,COO-CH2 -H),4.04(t,2H,J=12.6Hz,Ph-O-CH2-H),3.61-3.58(m,2H,COO-CH2CH2-H),3.50-3.38(m,84H,polyethylene-H),3.22(s,3H,OCH3-H),2.00(q,2H,PhO-CH2CH2-H),.FT-IR(Liquid Thin Film)cm-1;3550(OH),2880(C-H),1730(C=O),1630,1600,1500,1470,(C=C),1350(C-H),1280(Ph-O),1110(C-O),.
【0043】
[実施例2]
化合物
b)の合成例
実施例1において、ユニオックスM−1000の替わりにモノメトキシポリエチレングリコールn=12(商品名 ユニオックスM−550:日油株式会社製)29.15g(0.052mol)を使用して同様に実施した。淡黄色のオイル13.8gを得た。
図2は実施例2で得られた化合物(b)の紫外吸収スペクトルを示す。
HPLC 90.5%; yellowish wax; yield: 62.0% (based on M-1).
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6)δ:10.6,(br s,OH),8.00,(dd,2H,J=6.6Hz,J=3.3Hz,Benzotriazol-H),7.73(d,1H,J=8.7Hz,Phenol-H),7.50(dd,2H,J=6.6Hz,J=3.0Hz,Benzotriazol-H),6.66(d,2H,J=2.7Hz,Phenol-H),6.60(dd,2H,J=9.0Hz,J=2.7Hz,J=2.4Hz,Phenol-H),4.14(t,2H,J=9.3Hz,COO-CH2-H),4.04(t,2H,J=12.9Hz,Ph-O-CH2-H),3.61-3.58(m,2H,COO-CH2CH2-H),3.50-3.30(m,44H,polyethylene-H),3.21(s,3H,OCH3-H),2.00(q,2H,PhO-CH2CH2-H),.
FT-IR(Liquid Thin Film)cm-1;3520(OH),2880(C-H),1730(C=O),1630,1600,1510,1470,1450,(C=C),1350(C-H),1290(Ph-O),1110(C-O),.
【0044】
[実施例3]
化合物
c)の合成例
実施例1において、ユニオックスM−1000の替わりにモノメトキシポリエチレングリコールn=8(商品名 ユニオックスM−400:日油株式会社製)20.0g(0.052mol)を使用して同様に実施した。淡黄色のオイル12.0gを得た。
【0045】
図3は実施例3で得られた化合物(c)の紫外吸収スペクトルを示す。
HPLC 93.5%; yellowish wax; yield: 67.9% (based on M-1).
1H-NMR(300MHz,DMSO-d6)δ:10.6,(br s,OH),8.00,(dd,2H,J=6.6Hz,J=3.3Hz,J=3.0Hz,Benzotriazol-H),7.72(d,1H,J=8.7Hz,Phenol-H),7.50(dd,2H,J=6.6Hz,J=3.0Hz,Benzotriazol-H),6.66(d,2H,J=2.4Hz,Phenol-H),6.61(dd,2H,J=8.7Hz,J=2.7Hz,J=2.4Hz,Phenol-H),4.14(t,2H,J=9.3Hz,COO-CH2-H),4.04(t,2H,J=12.3Hz,Ph-O-CH2-H),3.61-3.58(m,2H,COO-CH2CH2-H),3.53-3.38(m,28H,polyethylene-H),3.21(s,3H,OCH3-H),1.99(q,2H,PhO-CH2CH2-H),.
FT-IR(Liquid Thin Film)cm-1;3520(OH),2880(C-H),1730(C=O),1630,1600,1510,1480,1440(C=C),1350(C-H),1290(Ph-O),1110(C-O),.
【0046】
[実施例4]
実施例1から実施例3で合成した化合物a)からc)について、最大吸収波長(λmax)、そのときのモル吸光係数(ε)、室温(25℃)における水に対する溶解度を測定した。結果をまとめて「表2」に示す。
【0047】
【表2】

備考)* は、一般式Iにおいて、R=H、R=Hであり、そのときのnの数を示す。
【0048】
[比較例1]
既存の水溶性紫外線吸収剤である2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホニックアシドトリハイドレート(シプロ化成株式会社製:(化3))のUV吸収を測定し、λmax、ならびにモル吸光係数を算出した。この結果を(表3)に示す。
【0049】
この結果より紫外線吸収域は、本発明の化合物に比べてUV−A領域をカバーできておらず、加えてモル吸光係数も小さいことがわかる。
水に対する溶解性は非常に良かったが、強酸性を示し、この化合物を配合可能な用途が限定的であることがわかった。
【0050】
【化7】

【0051】
【表3】
測定濃度 5ppm / メタノール
図1
図2
図3
図4
図5