特許第5731458号(P5731458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731458急速サイクル圧力スイング吸着装置のための防護層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731458
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】急速サイクル圧力スイング吸着装置のための防護層
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20150521BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20150521BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20150521BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   B01D53/04 B
   B01D53/26 101D
   B01D53/28
   B01J20/08 A
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-204527(P2012-204527)
(22)【出願日】2012年9月18日
(62)【分割の表示】特願2009-546622(P2009-546622)の分割
【原出願日】2008年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-13895(P2013-13895A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2012年10月18日
(31)【優先権主張番号】60/886,486
(32)【優先日】2007年1月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591035368
【氏名又は名称】エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ブーレ
(72)【発明者】
【氏名】エイミー チュウ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン ジー セラーズ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア シー ギブス
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−515349(JP,A)
【文献】 特表2005−501688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02−53/12
B01D 53/26−53/28
B01D 53/34−53/85
B01J 20/00−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
急速サイクル圧力スイング吸着(RCPSA:rapid cycle pressure swing adsorption)装置の吸着床であって、この吸着床の供給端部に防護層を備え、この防護層は、防護吸着剤を有する積層シートを備える、該吸着床において、前記防護層のチャネル比率を50%以上とし(ここで、チャネル比率は1から吸着シート分の比率を差し引いたものとして定義され、吸着シート分の比率は積層シートの体積を防護層の体積で除算したものとして定義される)、
前記積層シートの表面をテクスチャード加工し、これによって前記積層シートに表面空所を導入するようにし(ここで、表面空所は、積層シートの最高値から最低値までの厚さTAによって画定される体積から積層シートの包絡線内の体積を差し引いたものとして定義される)、
前記積層シートの表面空所比率は20〜50%であること(ここで、表面空所比率は、表面空所の体積を積層シートの体積と表面空所の体積の合計で除算したものとして定義される)を特徴とする、吸着床。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着床において、前記防護層のチャネル比率を50%〜75%の範囲における値としたことを特徴とする吸着床。
【請求項3】
請求項1に記載の吸着床において、前記防護吸着剤を乾燥剤としたことを特徴とする吸着床。
【請求項4】
請求項3に記載の吸着床において、前記乾燥剤を活性アルミナとしたことを特徴とする吸着床。
【請求項5】
請求項1に記載の吸着床において、前記積層シートの厚さを5〜200マイクロメートルの範囲における値としたことを特徴とする吸着床。
【請求項6】
請求項1に記載の吸着床において、前記積層シートの表面積を防護層体積で除算した値を、単位立方メートル当たり5000平方メートル以上とすることを特徴とする吸着床。
【請求項7】
請求項1に記載の吸着床において、前記積層シートは、ワイヤメッシュを備えるものとしたことを特徴とする吸着床。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の吸着床において、前記防護層は、積層シートおよびスペーサシートを渦巻き状に巻回したものであり、前記スペーサシートはワイヤメッシュを備えることを特徴とする吸着床。
【請求項9】
請求項1の吸着床を少なくとも1つ備える急速サイクル圧力スイング吸着(RCPSA:rapid cycle pressure swing adsorption)装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は2007年1月24日に出願した米国仮出願第60/886,486号、の恩恵を請求する。
【0002】
本発明は、不純物に対する急速サイクルスイング吸着(RCPSA:rapid cycle pressure swing adsorption)装置における吸着床を防護するための装置および方法の実施形態に関する。特に、本発明は吸着床の供給端部において用いる防護層の設計に関する。
【背景技術】
【0003】
圧力スイング吸着(PSA:pressure swing adsorption)装置は、供給混合流体中の少なくとも1つのあまり容易に吸収されない成分から、少なくとも1つの優先的に吸収される成分を分離するために用いられる。PSAによるガスの分離は、供給混合ガス中の優先的に吸着される成分を吸着する1組の吸着床セットを介する同期した圧力循環(圧力サイクリング)およびガスフロー反転によって達成される。各サイクル中、加圧供給混合ガスをまず吸着床の供給端部に導入する。容易に吸着されない成分は吸着床を通過するが、優先的に吸着される成分は吸着される。このようにして、吸着床の供給端部の反対側の端部(つまり生成端部)から得られるガスは、容易に吸着されない成分が濃縮される。吸着床内の吸着剤は、サイクルにおける後段階で再生し、この再生は、加圧供給混合ガスの供給を遮断し、吸着床内の圧力を減少させそれによって優先的に吸着された成分を脱離(脱着)させ、さらにそれらを吸着床から排出または除去することによって行う。
【0004】
シンプルなPSAサイクルは、容易に吸着されない成分に濃縮したガスを吸着床の生成端部から得る単一加圧ステップ、および容易に吸着される成分に濃縮したガスを吸着床の供給端部から排出させる減圧ステップを有することができる。しかし、純度、収率、および効率を改善するために、通常は複雑なPSAサイクルが従来技術で用いられている。これらのより複雑なサイクルは、このサイクルの様々な段階において、吸着床の供給端部と生成端部との間で減圧および再加圧ガスフローを用いている。多重吸着床はこれらのより複雑なPSAサイクルに必要である。
【0005】
従来の市場向けPSA装置は、約1mm〜4mmの大きさのビーズまたはペレット状の固定床吸着剤を現在採用している。よい高いサイクル速度を達成するために、吸着床内のガス速度は、特に多重吸着床を備える装置において、増加させなければならない。しかし、このような従来のビーズ状吸着床PSA装置の最大サイクル速度は、ビーズの流動化、摩耗、およびある程度においてバルブ操作速度およびバルブ耐久性といった要因によって制限されてしまう。
【0006】
近年、急速サイクルPSA(RCPSA:Rapid cycle PSA)装置は、サイクル操作の速度が約2サイクル/分を上回るまで発展してきた。固定化した吸着剤の積層シートを備える構造化吸着床を利用することによって、ビーズの流動化および摩耗の問題を回避し、吸着床中において圧力降下を抑制することもできる。小型高速度回転バルブの利用と組み合わせた、このような積層シート吸着剤の利用は、高効率で達成すべき高PSAサイクル速度を可能とする。
【0007】
特許文献1(米国特許第4,968,329号)および特許文献2(米国特許第5,082,473号)ならびに特許文献3(米国特許出願公開第2002−0170436号)は、1mmまたはそれ以下の厚さの渦巻き状に巻回した吸着シートを備えるRCPSA床の好適な実施形態を開示している。吸着シートは、スペーサシート、例えばワイヤメッシュスペーサシート、と一緒に渦巻き状に巻回し、このスペーサシートが隣接する吸着シート間のフローチャネルを規定するようにする。特許文献2は、チャネル間隙に対するシート吸着厚さの半分の比率(b/t)を望ましくは1に近似する値、または0.5〜2.0の範囲内の値にする、または言い換えると、チャネル間隙は吸着シート厚さの比を0.25〜1の範囲内の値とする、ことを提案している。これは吸着床内のチャネル比(チャネル比は総吸着床体積に対するチャネル容積の比として定義する)を50%以下にすることを意味する。
【0008】
多くのPSA用途において、供給流は、吸着させることを意図した成分よりも吸着剤によって優先的に吸着される少量の不純物を含む。このような不純物は非常に強力であり、しばしば不可逆な吸着特性を示し、吸着剤を不活性化または汚染し、それによってその容量および選択性、そしてその適切に働く能力を劣化させてしまう。例えば、高窒素選択性、陽イオン交換、低シリカ/アルミナ比ゼオライトは空気から酸素を分離するのに用いられるが、これらゼオライトは供給流中の水不純物に極めて影響を受け易い。
【0009】
様々な方法が、供給ガス流から不純物を除去して吸着床の劣化を防護するために、従来のPSAに用いられている。これらは、供給ガスの上流浄化(例えば供給ガス冷却に続けてPSA装置上流の濃縮)または(通常はPSA装置の同一吸着ハウジング内の供給端部に配置する)再生可能防護床上への吸着を含む。防護床は、不純物が主要吸着床に到達する前に、供給流から実質的に全ての不純物を吸着するよう設ける。そして、防護床は通常PSAサイクル中の主要吸着床と同時に再生する。供給流から水不純物を除去するために、通常は乾燥剤を吸着床の供給端部に防護層として用いる。
【0010】
PSA床内の不純物制御のための防護層は、主要吸着プロセスに寄与せず、従ってPSA床に不要な死容積を相当量追加する。好適には吸着床の端部における空虚なスペースはより良い回収のために最小化すべきである。従って、このような防護層の長さおよび内部空所容積を最小化することが望ましいが、それでも供給流中の不純物を効果的に除去しなければならない。従来技術においては、これは通常、防護層中に存在する防護吸着材料の量を最大化し、それでもなお防護層を通過するガスの容認できる流れを可能とすることによって、達成されている。水が主な不純物であるゼオライト吸着剤を採用しているPSA用途において、通常5〜30%の吸着床は、アルミナ、シリカゲル、活性炭素、またはこれらの不純物を含む防護層によって占有される。供給ガスは、ゼオライト吸着層に接触させる前に、0.1〜5ppmの水蒸気含有量となるまでに乾燥させる。
【0011】
従来のPSA装置は、近年開発された、より高速度のサイクルRCPSA装置よりも、供給流中の不純物の存在に影響を受けない。前者は、不純物拡散させるべく比較的長い吸着床を有し、また比較的多量の吸着剤を有し、したがって、若干量が不活性化する場合であっても、総量に対してより小さい比率を示す。さらに、劣化速度は経たサイクル累積数に依存し、従来のPSA装置は所定期間にわたってこのサイクル累積数が少ない。
【0012】
供給流不純物に対するRCPSA装置の予期せぬ影響の受け易さは特許文献4に実験的に指摘されている。RCPSA装置を不純物からおよび特に水から保護するために、様々な方法が特許文献4に記載されている。例えば、主要吸着層と設計が同様な、防護層を、吸着床の供給端部に用いる。この防護層は、概して、薄く、高い表面積を有するものとして開示されており、フローチャネルは質量送給の制約を克服するために狭い液圧半径を有する。防護床の両側にわたる所望の低圧力降下を維持するために狭いフローチャネルの長さを減少することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,968,329号明細書
【特許文献2】米国特許第5,082,473号明細書
【特許文献3】米国特許公開第20020170436号明細書
【特許文献4】米国特許第7,037,358号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、RCPSA装置におけるおよび不純物から吸着床を保護する吸着床に関連する装置および方法の実施形態に関する。特に、本発明は吸着床の供給端部に用いる防護層の設計に関する。このような防護層は、RCPSAサイクルの排気または浄化段階中に吸着床を通じてフローを逆転させるとき、供給ガスから不純物成分(例えば水)を優先的に吸着しそれらを排気する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
防護層性能は、実際には防護吸着剤をあまり用いないかわりに、不純物の吸着により大きい接近(アクセス)性を生ずる構造を用いることによって、改善することができる。
【0016】
本発明吸着床は、PSA、とくにRCPSA装置に使用し、吸着床の供給端部に防護層を有する。防護層は積層シートを備え、このシートは防護吸着剤を有する。より少ない防護吸着剤を防護層に用い、防護層中のチャネル容積または比率はそれに対応して増大する。防護層のチャネル比率は50%以上、通常は50%〜75%の範囲の値となるようにする。ある実施形態においては、防護層のチャネル比率を50%以上で少なくとも75%までも達するようにする。
【0017】
多くのRCPSA用途における共通の不純物は水である。このような用途においては、用いる防護吸着剤は活性アルミナのような乾燥剤または乾燥剤を含むものとする。
【0018】
積層シートは、約5〜200マイクロメートルの範囲における厚さ、および単位メートル体積当たり約5000平方メートル以上の表面積/(防護層体積)比率を有することを特徴とする。
【0019】
さらに防護層の性能を向上させるために、積層シートの表面は、テクスチャード加工を施し、これによって積層シートに表面空所を導入することが望ましい。この表面空所は積層シートに対して20〜50%の範囲の値となるようにする。積層シートは、ワイヤメッシュを用いて形成することができる。シート表面のテクスチャード加工の方法においては、低固形物含有量(つまり「流れやすい」)防護吸着材料のスラリーを用いて適切なワイヤメッシュの表面を覆う。
【0020】
防護層は積層シートおよびスペーサシートを一緒に渦巻き状に巻回することによって形成することができる。このスペーサシートは、ワイヤメッシュを備えるものとする。
【0021】
本発明は、約5サイクル/分以上のサイクル速度で動作するRCPSA装置に適している。
【0022】
実験的方法も開発し、この方法は、防護層の有効性を検査し、およびRCPSA装置の適切な動作パラメータの決定を支援するためのものである。この方法は、RCPSAサイクル実行中に検査床の長さに沿ういくつかの位置において一連のガスサンプリング通口を設けるステップ、および適切なサンプリング機器(例えば水分分析器、ガスクロマトグラフ)を用いてこれらの位置において不純物成分の濃度(含有量)を決定するステップ、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】各吸着床中に吸着剤の防護層を有する渦巻き状に巻回した2個の吸着床を備えるRCPSAシステムの略図である。防護層の有効性を検査するための例示的なサンプリングセンサもあわせて示す。
図2】渦巻き状に巻回したテクスチャード加工した積層シートおよびワイヤメッシュスペーサを備える防護層の線図的断面図である。
図3】サンプルで検査した本発明防護層のための供給端部からの距離に対する水含有量を示す水含有量(ppm)に対する供給口からの距離(インチ)のグラフである。
図4】検査した本発明防護層の1つのサンプルにおける供給量/生成量(F/P:feed/product)比の関数として、供給端部からの距離に対する水含有量を示す水含有量(ppm)に対する供給口からの距離(インチ)のグラフである。
図5】実検査した本発明防護層の1つのサンプルにおけるサイクル速度の関数として、供給端部からの距離に対する水含有量を示す水含有量(ppm)に対する供給口からの距離(インチ)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
他に明示的に定義しない限り、本明細書で用いる全ての技術的および科学的用語は、当業者に共通して理解される意味を有するものとする。
【0025】
RCPSA装置中の防護層性能は、積層シートベースによる吸着層に通常用いるよりも少ない防護吸着剤を用いる、積層シートベース構造を用いることによって改善することができる。改善した防護層は、50%以上のチャネル比率によって特徴付けることができる。
【0026】
図1は、各吸着床(以下「床」と略称する)中の吸着剤の防護層を有する渦巻き状に巻回した2個の床2を備える簡単なRCPSAシステム1の略図を示す。床2はそれぞれ、供給混合ガス中の主要成分を分離するための主要吸着層3、および供給混合ガス中に存在する不純物から主要吸着層を保護するための防護層4、を備える。供給混合ガス5は、供給端部の回転バルブ6から各床2の供給端部に交互に供給する。生成ガス7は、生成端部における回転バルブ8から各ベッド2の生成端部から交互に得る。この簡単なシステムにおいて、排気ガス9を、RCPSAサイクルにおける再生ステップ中に回転バルブ6から床2の供給端部から放出する。図1には、さらに、実験的なRCPSA装置中における防護層の有効性を検査するために用いることができる、例示的サンプリングセンサ10も示す。
【0027】
市場向けの実施形態においては、主要吸着層3は、供給混合ガス中の1つ以上の主要成分を分離するために、実質的には1つ以上の吸着材料を備えることができる。異なる吸着材料は、吸着層3に沿って順次に配置して(すなわち、一連の吸着層として)構成することができる。同様に、防護層4は供給混合ガスから多数の不純物を除去するために、1つ以上の防護材料を備えることができる。やはり、異なる防護材料は防護層4に沿って順次に配置することができる。例えば、ある温度範囲にわたって動作する用途においては、多重防護層を必要とし、これにより、供給混合ガスから1つまたはそれ以上の不純物を除去する。
【0028】
図1のRCPSA装置において、吸着層3は、適切なスペーサシートと一緒に渦巻き状に巻回した適切な吸着剤を含む多孔質積層吸着シートにより構成する。スペーサシートは、ガスが巻回した積層吸着シートの両側に貫流し、また接近(アクセス)できるチャネルを画定するよう、設ける。典型的な積層吸着シートの厚さは5〜200マイクロメートルの範囲とする。スペーサシートによって形成するチャネルの高さまたは間隙は、通常は積層吸着シートの厚さより小さいまたは等しい。
【0029】
本発明の1実施形態においては、防護層4は、やはり適切なスペーサシートと一緒に渦巻き状に巻回した適切な防護吸着剤を含む多孔質積層シートを備える。しかし、本発明の場合、スペーサシートによって画定されるチャネルは、体積の50%以上を占有する。
【0030】
図2は防護層の拡大した線図的断面図を示している。図は、巻回軸線に平行に見た状態を示す。図2には、スペーサシート16によって離隔した積層防護吸着シート15の隣接した2個の巻回部を示す。(巻回部はもちろん湾曲しているが、図2に示す拡大図では確認できないことに留意されたい。)吸着シート15は、防護吸着剤の粒子と、および織成したワイヤ金属メッシュ支持体上に被覆した適切な結合材、とを備える多孔質シートとする。図2は多孔質吸着シート15が画定する包絡線を示す。(この包絡線はシート15内の固体を囲み、孔の開口部を橋架する理論上の表面である。)図2に示したシート15はテクチャード加工したまたは「波状」表面15aを有する。厚さTは、テクスチャード加工表面上の最高値から最低値までを測定した吸着シート15の厚さとする。スペーサシート16は織成したワイヤ金属メッシュとする。図2は、スペーサシート16が画定する包絡線を示す。厚さTはスペーサシート包絡線上の最高値から最低値までを測定したスペーサシート16の厚さとする。吸着シート15は多数の位置においてスペーサシート16に物理的に接触する。しかし、吸着シート15の顕著なテクスチャリングは、表面空所17として図2に示した、2つの包絡線間の比較的大きな間隙スペースを生じる。本明細書において、チャネル比率は「1」から吸着シート分の比率を差し引いたものとして定義し、この場合、吸着シート分の比率は吸着シート15の包絡線内における体積を総防護層体積で除算したものに等しいものとする。図2を参照すると、チャネル比率は(チャネル容積/総容積)とも等しく、チャネル容積は、スペーサメッシュ包絡線内における容積プラス表面空所の容積に等しいものとする。(スペーサメッシュそれ自体内のワイヤが占める比較的小さい体積は依然チャネル容積に含めるものとする。)本発明の防護層4において、チャネル比率を50%以上とし、通常は50%〜75%の範囲における値とする。
【0031】
厚さTおよびTはマイクロメータを用いて容易に測定することができる。表面空所の見積もりは、断面サンプルの光学顕微鏡法によりシートの有効厚さを見積もることによって行うことができる。しかし、好適な方法は液体置換試験に基づくものである。この方法のために、吸着シートの試験サンプルの空所を水のような液体で充填する。この水充填吸着シートを水に対して混和しない第2液体(例えばクロロフルオロカーボン)中に浸漬し、置換された第2液体の体積を決定する。このとき置換された体積は包絡線内の体積である。そして表面間隙は、表面空所を含む体積(つまりTa×シートサンプルの面積)から吸着シート包絡線内における体積(つまり置換された第2液体の体積)を差し引いた差として計算する。
【0032】
防護吸着材料の選択は分離用途に依存する。防護吸着剤としての利用に適切な一般的な材料としては、活性アルミナ、アルミノケイ酸塩ゲル、シリカゲル、ゼオライト(例えばゼオライトYまたは高シリカゼオライト)、活性炭素、分子シーブ(ふるい)炭素、およびこれらの材料の組み合わせがある。材料の組み合わせ、例えば活性アルミナに対して、5Aおよび/または13Xのようなゼオライトを足し合わせたものも一般に用いることができる。水は、PSA用途において共通の不純物であり、水ための適切な防護吸着剤としては、活性アルミナのような乾燥剤がある。
【0033】
RCPSA装置において、防護吸着材料に対する接近(アクセス)性を向上することは、材料の質量を増やすことよりも重要であることが発見された。より大きなチャネル比率設計はより大きな接近性をもたらす。接近性の測定は、防護層の体積に対する表面積の比率(SA/V)である。(この場合、表面積は、吸着粒子自体ではなくシート包絡線の表面積、体積は防護層の体積であり、したがって、防護吸着シートおよびチャネルの双方を含む体積である)。SA/V比率が増加するにつれ、防護吸着シートの厚さは必然的に減少する。図2に示したようなテクスチャード加工シートの包絡線表面積を測定することは困難である。従って、以下の実験例においては、SA/V比率は、防護吸着シートが厚さT を有する平滑なシートであると仮定して決定した。この場合、防護層のSA/Vは単位立方メートル当たり約5000平方メートル以上であった。
【0034】
防護吸着シートの表面のテクスチャリング加工は防護層の接近性および有効性を一層増加させる。加えて、表面空所によって導入された増加チャネル体積は、防護層をわたる圧力降下の抑制およびそれゆえ性能の向上をもたらす。
【0035】
シート表面は、低固形含有物(すなわち、「流動性」または低粘性)スラリーを用いて適切なワイヤメッシュをウェブ被覆することによって、容易にテクスチャード加工することができる。好適には、ワイヤメッシュは織成し、反復パターンを有するものとする。被覆時、スラリーは乾燥前に織成メッシュにおける開口内に沈下し、それによって最終乾燥表面にテクスチャーを導入することができる。テクスチャー(例えば振幅および周期)は、主にスラリー特性(例えば粘性)および織り目パターン(例えば織り目のワイヤ間隔)の関数である。このようにして、約20%〜50%の範囲内の表面空所比率を防護層に容易に導入することができる。
【0036】
防護層4は、RCPSAサイクルにおける供給ステップ中に高速度供給ガスジェットの影響を受けやすく、極めて多数のサイクルにわたり腐食を生ずることに留意されたい。防護層を保護するために、多層有孔プレートまたはメッシュ型フロー分散器/ジェット分裂器(図1には示していない)を、防護層4の上流および近傍に用いて、防護床の流入面を通過するガスフローを再分散させる。例えば、粗金属メッシュ(例えば10メッシュ)および微細金属メッシュ(例えば325メッシュ)の組み合わせを用いることができる。前者は構造的上の支持および粗いジェット分裂/再分散を行い、一方後者は微細なジェット分裂/再分散をもたらす。
【0037】
RCPSA装置は、普通のPSA装置よりも極めて速い、約5サイクル/分以上のサイクル速度で動作する。したがって、防護層を通過するガス速度および単位長さ当たりの圧力降下も、より大きい。高い生成物回収レベルで動作するとき、別の考慮事項としては、適正な防護層性能を得るのに必要である、生成ガス量に対する供給量の比率である。
【0038】
供給量対生成ガス量の比は、サイクルの供給および再生段階中における防護層を両方向に通過するガス量を概算する基準である。比較的高い供給量/生成量比で動作することは、装置が、この観点から望ましくない低い生成収率で動作することを意味する。しかし、これは、比較的多量のガスが、防護層から不純物を脱離(脱着)させるサイクルである再生段階中に、防護層を逆流排出することも意味する。より低い供給量/生成量比は生成収率の観点から好ましいが、不純物の脱離(脱着)を可能にする排出ガスが少ないことを意味し、従って防護層性能にとっては不適切であることを意味する。
【0039】
防護層性能に関して、供給ガスが流れるとき、防護層の供給端部における不純物の目標平衡濃度(含有量)は、下流主要吸着剤における吸着の劣化を最小限にするよう、十分に低いものでなければならない。実用上では一般的に、これは不純物レベルを10ppmv以下、および好適には1ppmv以下に削減しなければならないことを意味する。例えば、ゼオライトにおける水蒸気の場合、長期間のサイクル安定性のために、水レベルは、好適には10ppmv以下、およびより好適には1ppmv以下とする。
【0040】
RCPSA装置内の防護層性能を検査することは普通のPSA装置内よりも困難である。時間の関数として生成流内の不純物濃度を測定するまたはPSA性能を監視することに基づく普通の方法は、誤評価(ミスリード)を招き、また予測ができないことが分かっている。代わりに、PSAサイクルの供給または生成ステップ中に防護層を通過する不純物が急上昇する時点を測定することをベースにした、新しい方法が開発された。
【0041】
この新検査方法は、防護層に沿っておよび防護層内に、並びに防護層と主要吸着層との間における界面間隙にも、ガスサンプリング通口を設置するステップを有する。本明細書に記載した実施形態のサンプリングポート10の適切な配置を、RCPSA装置全体において、図1に示す。しかし、開発目的の検査としては、通常は1つの検査床を用いる試験ステーションで実行することが予期される。検査ステーションは、コンピュータ制御ソレノイドバルブを用いて、検査床に対して流入および流出するガスのシーケンスおよびタイミングを制御し、また手動フロー制御バルブを用いて流量を制御する。さらに、蓄積タンクを使用して、排出ガスを収集し、そして同じ検査床に戻し、多重床PSAサイクルフローをシミュレートする。このような検査ステーションによれば、広範囲のサイクル速度にわたって単独の検査床を用いて多重床PSAサイクル性能の実験的評価を可能とする。
【0042】
検査装置において、内部ガスのごく少量分を抽出して、サイクル中の所望地点における不純物内容を(例えば水分分析器により)分析することができる。サンプリングが供給または生成ステップ中にのみ所望する場合、各サンプリング通口に、高圧力供給ステップ中のみに開くタイミングバルブを備えつけることができる。プリセットしたクラッキング圧を有する圧力逃がしバルブまたは逆止バルブは、PSAサイクルの最高圧力供給ステップ中のみ、ガスサンプリングの有効手段であることを見出した。コンピュータ制御ソレノイドバルブは適切な代替手段である。連続測定のために、各サンプリング通口バルブに接続した微量フロー制御バルブは効果的であり、また微細毛細管の一部は適切な代替手段である。このサンプリング手順は検査床の性能に影響を与えないことを見出した(このことは、サンプリングありおよびなしで周期的安定状態を形成し、実験的誤差内で同一の結果を観測することによって実験的に確認した)。
【0043】
本明細書に記載した材料、方法、および実施形態は例示のみを意図しており、本発明は、記載した特定の材料、方法および実施形態に限定することを意図していない。
【0044】
実験例
実験用の渦巻き状に巻回した3つの積層検査床を、主要吸着剤としてゼオライトを、防護層乾燥剤として活性アルミナを用いて形成した。ゼオライト積層シートは不活性結合剤およびステンレス鋼織成メッシュで補強した。積層シートは中央マンドレル上でステンレス鋼織成メッシュスペーサシートと一緒に渦巻き状に巻回して、主要吸着層を形成した。
防護層は可変表面間隙を有する活性アルミナの防護積層シートにより構成した。これらも不活性結合剤およびステンレス鋼織成メッシュで補強し、ステンレス鋼織成メッシュスペーサシートと一緒に渦巻き状に巻回して、防護層を形成した。各検査床は、1つの実験的防護層およびステンレス鋼格納管内に封止した主要吸着層で構成した。
【0045】
検査床は、実際に動作するRCPSA装置における動作をシミュレートするために用いる、ソレノイドバルブに基づく、コンピュータ制御の単一床検査装置で検査した。使用した検査用の供給ガスは加湿圧縮空気とした。再生のために、床は供給端部から容易に減圧できるようにした。
【0046】
図1につき説明したように、ガスはサイクルの吸着(生成)ステップ中に様々な位置で水含有量検査のためにサンプリングした。(水含有量は再生中には測定しなかった。)サンプリング通口は、床の供給端部から12.7〜50.8mm(0.5〜2.0インチ)の位置(これらは防護層自体の範囲内とした)、供給端部から63.5mm(2.5インチ)の位置(これはAA防護層/ゼオライト層界面の3.175mm(1/8インチ)間隙内とした)、および供給端部から76.2mm(3.0インチ)の位置(ゼオライト層自体の範囲内)、に配置した。0.02ppmv〜1000ppmvの範囲内の測定が可能なアマテック社のモデル(Amatek Model)5800水分分析器を用いて、低含有量測定時の水含有量を連続的に監視した。コサ(Cosa)社のXDT?PM/LPDT湿度・温度トランスミッタを中間水含有量に用いた。バシアラ(Vasiala)社のHPM238またはエレクトロニクス(Elextronics)EE29湿度・温度トランスミッタを用いて最高含有量を測定した。
【0047】
以下の表1は検査した防護層における、所定の重要物理特性を列挙する。防護層中の各乾燥剤は、上述のように、活性アルミナを含む低粘性スラリーを用いてワイヤメッシュ支持体を被覆することによって、準備した。すべてのケースで70番ステンレス鋼織成メッシュ(0.0762mm[0.003インチ]ワイヤで形成した)を用いた。床中の各防護層の長さは、63.5mm(2.5インチ)とした。積層乾燥剤シートおよびスペーサシートの最大厚さはマイクロメータを用いて測定した。乾燥剤の単位体積当たりの総乾燥剤充填量および表面積を決定した。乾燥剤シートの表面空所は以前に記載したアルキメデス法を用いて測定した。この実験では、活性アルミナシートをまず水で飽和させ、間隙スペースを完全に充填した。それから、サンプルを、水に対して非混和性である、ベルトレル(Vertrel)、クロロフルオロカーボン溶液に浸漬し、置換体積を決定する。従ってこの置換体積は乾燥剤積層の表面空所を含まない。表面空所は(図2で規定した測定長さ、幅、およい厚さTに基づく)計算した乾燥剤積層体積およびこの置換体積の差として計算した。表1において、有効乾燥剤シート厚さおよび有効チャネル高さも記載する。有効乾燥剤シート厚さは、実際のテクスチャード加工した乾燥剤シートと同体積を占有する平坦な、非テクチャード加工乾燥剤シートの等価厚さを表す。また、有効チャネル高さは、防護層中の実際のテクスチャード加工乾燥剤シートが等価な平坦、非テクスチャード加工乾燥剤シートによって置換されると考え場合に、存在するチャネルの等価高さを表している。最後に、チャネル比率(有効チャネル高さ/(有効チャネル高さ+有効積層厚さ)に等しい)を記載する。
【0048】
【表1】
【0049】
各検査床は、20cpm,40°C,40,000ppmの供給湿度レベルおよび約7の供給/生成ガス比率のシミュレートRCPSA条件で動作させた。図3は実験例で検査した本発明防護層における供給端からの距離に対する測定した水含有量を示している。これらの実験における防護層は実質的に50%以上のチャネル比率を有し、予想外の高性能を示している。
【0050】
さらなる検査を防護層サンプル1に実行し、供給量/生成量比率を変化させて(F/Pは3.4〜6.8)、性能への影響を示した。図4は、異なる同様な稼働条件下において供給/生成比率の関数としての、供給端からの距離に対する水含有量を示している。図4から分かるように、供給量/生成量比率が3.4において、水蒸気の非許容レベル(31ppmv)がゼオライト吸着層に入った。
【0051】
さらなる検査を防護層サンプル2に実行し、RCPSA装置サイクル速度を変化させて(10〜30cpm)、性能への影響を示した。図5は、異なる同様な稼働条件(F/P比率は常に約7.1とした)下における、サイクル速度の関数としての、供給端部からの距離に対する水含有量を示している。試験サイクル速度の図5のデータにおいて、性能への影響はあまり見られない。サイクル速度が10〜30cpmへ変化したとき、水フロント(前縁)の約6.35mm(約0.25インチ)の(、または防護層長さの約10%の)位置移動が観測された。
【0052】
本発明を好適実施形態の実験例につき説明した。当然のことながら、本発明から逸脱せず、当業者は変更および修正を施すことが可能である。例えば、本発明を、水以外の不純物を含むRCPSA装置用途の防護層に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5