(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731463
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】サーボ軸の反転位置の表示機能を備えた数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4062 20060101AFI20150521BHJP
G05B 19/4063 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
G05B19/4062
G05B19/4063 L
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-225003(P2012-225003)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-78102(P2014-78102A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2013年11月25日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】手塚 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小川 肇
【審査官】
松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−165066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御装置によって制御される少なくとも1つの回転軸を含む複数のサーボ軸を備えた工作機械の工具先端点の軌跡を表示する工具軌跡表示装置であって、
少なくとも1つの前記サーボ軸の位置情報を、前記サーボ軸の位置を測定する位置検出器から取得する位置情報取得部と、
前記サーボ軸の速度情報を、前記位置情報取得部が取得した位置情報を用いて算出し又は前記サーボ軸の速度を測定する速度検出器から取得する速度情報取得部と、
前記サーボ軸の前記位置情報と前記工作機械の機械構成の情報から、工具先端点の座標値を算出する工具座標算出部と、
前記サーボ軸の前記速度情報と前記工具先端点の座標値から、少なくとも1つのサーボ軸の速度の極性が変化する反転位置を算出する反転位置算出部と、
前記工具先端点の座標値に基づいて工具先端点の軌跡を表示するとともに、前記工具先端点の軌跡上に前記サーボ軸の前記反転位置を表示する表示部と、
を備え、
前記複数のサーボ軸は重力軸を含み、前記表示部は、サーボ軸の速度の極性が正から負へ変化する反転位置と、負から正へ変化する反転位置とを、互いに異なる表示属性で表示する、工具軌跡表示装置。
【請求項2】
前記表示部は、複数のサーボ軸の反転位置を前記工具先端点の軌跡上に同時に表示する、請求項1に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項3】
前記表示部は、サーボ軸の速度の極性に基づいて前記工具先端点の軌跡の表示属性を変更する、請求項1又は2に記載の工具軌跡表示装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記反転位置を指し示す矢印、記号又は文字を表示する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の工具軌跡表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ軸の反転位置を表示する機能を備えた数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、複数のサーボ軸による補間動作により加工を行う工作機械では、各サーボ軸の極性(符号)が反転する反転位置では、指令形状と加工形状との形状誤差が大きくなることが多い。この原因としては、機械的なガタ(例えばボールネジにおけるバックラッシ)や、摩擦の方向が変化することによるサーボの応答性の遅れによるものが挙げられるが、各軸の位置や加速度の補正、さらにゲイン調整等のサーボ調整を行うことで形状誤差を小さくすることができる。
【0003】
例えば特許文献1には、X、Y、Zの3軸微小線分で加工物を加工するNCデータの工具軌跡を微小線分あるいは微小線分の端点の集合として表示する方法が開示されており、より具体的には、特定軸に対する各微小線分の傾き(正負あるいは0)を判定し、その結果に応じて微小線分の表示属性を変更して、工具軌跡を表示することで、工具軌跡の凹凸等を容易に判別することができる、とされている。
【0004】
また特許文献2には、複数の駆動軸の各々の各時刻における座標値から工具中心点の座標を算出し、該工具中心点と実加工点とを結ぶ工具径補正ベクトルを求めることにより、実加工点の座標を算出してその軌跡を表示する数値制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−021954号公報
【特許文献2】特開2011−170584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、直線軸のみで構成される工作機械の場合には、各サーボ軸の反転位置と加工形状との対応付けは容易であるが、回転軸が含まれる5軸加工機等の場合には、各サーボ軸の反転位置と加工形状との対応付けが容易ではなかった。そのため、形状誤差がサーボ軸の反転動作によるものか、あるいはその他の原因によるものかを正確に区別することができず、適切なサーボ調整を行うことが困難であった。
【0007】
例えば特許文献1では、CAD/CAMで作成されたNCデータをもとに工具軌跡を表示するものであり、NCの指令軌跡と工具先端点の実軌跡を表示するものではないため、適切なサーボ調整を行うことができないと解される。また、回転軸を含む2軸以上の構成の場合、工具先端点の座標をX、Y、Zの直線3軸の座標系で表すには、座標変換を行う必要がある。座標変換後のX、Y、Zの成分は、それぞれ複数の変数が関与しているため、X、Y、Zの特定の軸に対する3軸微小線分の傾きから各軸の反転位置を知ることはできない。
【0008】
また特許文献2では、工具径補正ベクトルを考慮することで実加工点の軌跡を表示することができるが、工具軌跡上に各軸の反転位置を表示するものではない。そのため、形状誤差がサーボ軸の極性の変化によるものか、あるいはその他の原因によるものかを正確に区別することは困難である。
【0009】
そこで本発明は、サーボ軸の速度の反転位置を工具軌跡上に表示できるようにした工具軌跡表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、数値制御装置によって制御される少なくとも1つの回転軸を含む複数のサーボ軸を備えた工作機械の工具先端点の軌跡を表示する工具軌跡表示装置であって、少なくとも1つの前記サーボ軸の位置情報を取得する位置情報取得部と、前記サーボ軸の速度情報を取得する速度情報取得部と、前記サーボ軸の前記位置情報と前記工作機械の機械構成の情報から、工具先端点の座標値を算出する工具座標算出部と、前記サーボ軸の前記速度情報と前記工具先端点の座標値から、少なくとも1つのサーボ軸の速度の極性が変化する反転位置を算出する反転位置算出部と、前記工具先端点の座標値に基づいて工具先端点の軌跡を表示するとともに、前記工具先端点の軌跡上に前記サーボ軸の前記反転位置を表示する表示部と、を備える、工具軌跡表示装置を提供する。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記表示部は、複数のサーボ軸の反転位置を前記工具先端点の軌跡上に同時に表示する、工具軌跡表示装置を提供する。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記表示部は、サーボ軸の速度の極性が正から負へ変化する反転位置と、負から正へ変化する反転位置とを、互いに異なる形状のマークで表示する、工具軌跡表示装置を提供する。
【0013】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記表示部は、サーボ軸の速度の極性に基づいて前記工具先端点の軌跡の表示属性を変更する、工具軌跡表示装置を提供する。
【0014】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記表示部は、前記反転位置を指し示す矢印、記号又は文字を表示する、工具軌跡表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各サーボ軸の速度情報をもとに、各サーボ軸の速度波形の極性が変化する反転位置を工具軌跡上に表示することにより、工具軌跡上の位置と各サーボ軸の反転位置との関連付けが容易となり、効果的にサーボ調整を行うことができるようになる。
【0016】
複数のサーボ軸の反転位置を前記工具先端点の軌跡上に同時に表示することにより、工具軌跡の誤差の主因がいずれのサーボ軸にあるかを容易に視覚的に把握できるようになる。
【0017】
サーボ軸の速度の極性が正から負へ変化する反転位置と、負から正へ変化する反転位置とを、互いに異なる形状のマークで表示することによりサーボ軸の動作をより的確に把握することが可能となる。
【0018】
工具軌跡の表示属性を適宜変更したり、反転位置を矢印や文字で指示したりすることにより、反転位置をより容易に視認できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る工具軌跡表示装置を含むシステム構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明が適用可能な工作機械の一例である5軸加工機の外観斜視図である。
【
図3】本発明の工具軌跡表示装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】工具先端点の軌跡と軸速度との関係を示す図である。
【
図5】複数のサーボ軸の反転位置を同時に軌跡上に表示した例を示す図である。
【
図6】サーボ軸の速度の極性が正から負へ反転する反転位置と、負から正へ反転する反転位置とでマークの形状を変えた例を示す図である。
【
図7】サーボ軸の速度の極性に基づいて工具先端点の軌跡の表示属性を変更した例を示す図である。
【
図8】サーボ軸の速度の反転位置をマーカー、矢印及び文字で強調して表示した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る工具軌跡表示装置を含むシステム構成例を示す図である。工作機械(機構部)10は、少なくとも1つの回転軸を含む複数(図示例では5つ)のサーボ軸(駆動軸)12を有し、サーボ軸12の各々は、予め定めた位置指令に基づいて数値制御装置(CNC)14によって制御される。工具軌跡表示装置16は、少なくとも1つのサーボ軸12の位置情報及び速度情報を数値制御装置14からそれぞれ取得する位置情報取得部18及び速度情報取得部20と、取得したサーボ軸12の位置情報及び工作機械10の機械構成の各部の寸法等の情報から、工作機械の工具の先端点(工具先端点)の座標値を算出する工具座標算出部22と、取得したサーボ軸12の速度情報及び工具先端点の座標値から、工具先端点の速度の極性(符号)が反転する反転位置を算出する反転位置算出部24と、工具先端点の座標値に基づいて工具先端点の軌跡を表示するとともに、当該軌跡上にサーボ軸12の反転位置を表示する表示部26とを有する。
【0021】
なお位置情報取得部18及び速度情報取得部20はそれぞれ、位置情報及び速度情報を数値制御装置14から取得してもよいが、各サーボ軸12の位置及び速度を測定するエンコーダ等の位置検出器及び速度検出器(図示せず)から取得してもよい。また速度情報取得部20は、位置情報取得部18が取得した位置情報を用いて算出したものを速度情報として取得してもよい。
【0022】
図2は、本発明が適用可能な工作機械の一例として5軸加工機30を概略図示した図である。5軸加工機30は、互いに直交する3つの直線軸(X軸、Y軸及びZ軸)と、互いに直交する2つの回転軸(A軸及びB軸)とを有する工具ヘッド回転型の加工機であり、工具32によってテーブル34上のワーク(図示せず)を加工するように構成されている。
【0023】
次に
図3のフローチャートを参照しつつ、
図2の5軸加工機30を用いた場合の工具軌跡表示装置16の処理・作用について説明する。先ずステップS1において、位置情報取得部18が、複数のサーボ軸12を制御する数値制御装置14から、各サーボ軸の位置情報を取得する。この位置情報には、数値制御装置14から各サーボ軸12に送られる位置指令、及び該位置指令に従って駆動された各サーボ軸12の実位置が含まれる。
【0024】
次にステップS2において、速度情報取得部20が、数値制御装置14から各サーボ軸12の速度情報を取得する。この速度情報には、数値制御装置14から各サーボ軸12に送られる速度指令、該速度指令に従って駆動された各サーボ軸12の実速度、及び各サーボ軸12の位置情報から算出された速度が含まれる。
【0025】
次にステップS3において、工具座標算出部22が、位置情報及び工作機械の機械構成の情報から、工具先端点の座標を算出する。例えば、
図2に示した5軸加工機30の場合、時刻tにおけるX,Y,Z,A及びBの5軸の座標をそれぞれx(t),y(t),z(t),a(t)及びb(t)とし、2つの回転軸(A,B)のそれぞれ回転中心となる2つの軸線の交点をMとすると、被加工物に固定された座標系を考慮して原点を適当に設定すれば、点Mの座標は(x(t),y(t),z(t))となる。
【0026】
ここで点Mから工具先端点までの長さをLとし、工具が真下を向いた位置をA,B軸の基準位置(原点)とすると、工具先端点の座標(PosX、PosY,posZ)は以下の式から算出される。
PosX = x(t) + L×cos(a(t))×sin(b(t))
PosY = y(t) + L×sin(a(t))
PosZ = z(t) − L×cos(a(t))×cos(b(t))
【0027】
次にステップS4において、反転位置算出部24が、サーボ軸12の極性(速度の符号)が反転するときの工具先端点の位置を算出する。ここで極性が反転する位置(反転位置)とは、
図4に例示した軌跡36上の位置38のように、各軸の速度が正(+)→0→負(−)と変化するか、あるいは負(−)→0→正(+)と変化する位置を意味する。
【0028】
最後にステップS5では、表示部26が、工具先端点の座標値に基づいて工具先端点の軌跡を表示するとともに、該軌跡上にサーボ軸の反転位置を表示する。
図4の例では、工具先端点の軌跡36上に、A軸の速度が正から負に反転する反転位置38を、略円形のマークで表示している。
【0029】
以下、表示部26が表示する軌跡及び反転位置の種々の形態について、
図5〜
図8を参照しつつ説明する。先ず
図5は、工具先端点の軌跡上に、複数のサーボ軸の反転位置を同時に表示した例を示す図である。
図5の例では、工具先端点の軌跡40上に、X軸の速度の反転位置42と、B軸の反転位置44とを表示しており、いずれの軸の反転位置かが識別しやすいように反転位置を示すマークの形状を軸毎に変えて表示している。さらに
図5の例では、通常の加工では工具が往復動等によって被加工物に対して徐々に切れ込んでいくことを考慮し、工具先端点の軌跡が少しずつシフトしている状態も示している。このようにすれば、被加工物の最終的な加工形状に誤差が生じた場合、主としていずれのサーボ軸の反転時に当該誤差が生じているかを視覚的に容易に確認することができる。
【0030】
図6は、サーボ軸の速度の極性が正から負へ反転する反転位置と、負から正へ反転する反転位置とが識別可能となるように、両反転位置を示すマークの形状を異なるようにした例を示す図である。具体的には、
図6に示す工具先端点の軌跡46において、サーボ軸の速度の極性が正から負へ反転する反転位置を円形のマーク48で示し、負から正へ反転する反転位置を矩形のマーク50で示している。このようにすれば、例えば重力軸の場合、上昇から下降に転じているのかその逆であるかが容易に確認できるので、被加工物の形状誤差に及ぼす重力の影響を評価することが可能となる。
【0031】
図7は、サーボ軸の速度の極性に基づいて(すなわち反転位置の前後で)、工具先端点の軌跡の表示属性を変更した例を示しており、
図7(a)は線種を変更した例、
図7(b)は線の太さを変更した例を示している。具体的には、
図7(a)ではあるサーボ軸の速度が負のときを実線52、正のときを破線54で示しており、
図7(b)ではあるサーボ軸の速度が負のときを太線56、正のときを細線58で示している。このようにすれば、軸速度の反転位置を容易に識別できるようになる。
【0032】
なお図示していないが、表示属性を変更する他の例として、サーボ軸の速度の正負によって軌跡の表示色を変更することも可能である。例えば工具先端点の軌跡を、軸速度が負のときは赤色、正のときは青色で表示することにより、軸速度の反転位置を容易に識別できるようになる。
【0033】
図8は、サーボ軸の速度の反転位置を強調して表示する例を示している。具体的には、
図8(a)は軌跡60上の反転位置を円形や矩形のマーカー62で表示した例を示し、
図8(b)は反転位置を矢印64で指し示した例を示し、
図8(c)は矢印の代わりに或いは矢印に加え、反転位置を記号や文字66で表示した例を示している。いずれの形態でも、軸速度の反転位置を容易に識別することができる。
【0034】
なお
図5〜
図8に示した実施形態は適宜組み合わせることも可能である。例えば、反転位置をマーカーや矢印で示しつつ、速度の極性に応じて軌跡の表示属性(表示色や線種等)を変更することも可能である。
【0035】
本発明に係る工具軌跡表示装置によれば、例えば被加工物において加工後の形状誤差の大きい部位と、ある軸の反転位置との間に相関がある場合、当該軸のバックラッシ(機械的ながたつき)や反転遅れを補正する調整等により、加工精度を改善することが可能となる。直線軸のみで構成される加工機の場合には、各サーボ軸の反転位置と加工形状との対応付けは比較的容易であるが、本実施形態に係る5軸加工機ように、回転軸が含まれかつ軸数が多い加工機では、各サーボ軸の反転位置と加工形状との関連付けが困難である。本発明によれば、このような場合でも調整の必要なサーボ軸を容易に特定することが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
10 工作機械
12 サーボ軸
14 数値制御装置
16 工具軌跡表示装置
18 位置情報取得部
20 速度情報取得部
22 工具座標算出部
24 反転位置算出部
26 表示部
30 5軸加工機