(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731492
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】蒸着コーティングを用いて製造された疎水性材料及びその応用
(51)【国際特許分類】
C04B 41/64 20060101AFI20150521BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
C04B41/64
C09K3/18 104
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-514954(P2012-514954)
(86)(22)【出願日】2010年3月17日
(65)【公表番号】特表2012-529420(P2012-529420A)
(43)【公表日】2012年11月22日
(86)【国際出願番号】US2010027693
(87)【国際公開番号】WO2010144167
(87)【国際公開日】20101216
【審査請求日】2013年3月14日
(31)【優先権主張番号】12/480,598
(32)【優先日】2009年6月8日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511297719
【氏名又は名称】イノバナノ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100060690
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 秀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100070002
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(72)【発明者】
【氏名】ユアン、ジカン
(72)【発明者】
【氏名】ドン、ヘ
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−131827(JP,A)
【文献】
特開2005−089230(JP,A)
【文献】
特表2002−507146(JP,A)
【文献】
特表昭63−502425(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1657645(CN,A)
【文献】
特表2001−510877(JP,A)
【文献】
特開昭61−268763(JP,A)
【文献】
米国特許第5035804(US,A)
【文献】
米国特許第3696051(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0138645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−28/36,33/00,38/00−38/10,40/00−40/06,41/00−41/91
C09C 3/10−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性材料の製造方法において、
パーライト又はバーミキュライトを含む多孔質天然鉱物を準備する工程と、
ポリシロキサンの加硫処理された網状構造を含むシリコーン系材料を準備する工程と、
前記シリコーン系材料を密閉容器内で加熱して前記シリコーン系材料の蒸気分子を放出させる工程と、
前記シリコーン系材料の前記蒸気分子を堆積させることにより前記天然鉱物の表面上に疎水性材料の層を形成する工程と、を含み、
前記製造方法が、触媒又は硬化剤の非存在下で行われ、
前記シリコーン系材料を加熱する工程が架橋反応を引き起こし、
前記シリコーン系材料を加熱する工程が切断反応を引き起こす
ことを特徴とする疎水性材料の製造方法。
【請求項2】
前記シリコーン系材料は、次の天然鉱物へのコーティングに再使用することができ、前記シリコーン系材料が再生シリコーンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の疎水性材料の製造方法。
【請求項3】
前記シリコーン系材料を加熱する工程が、100℃以上400℃以下の所定温度に加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の疎水性材料の製造方法。
【請求項4】
前記シリコーン系材料を加熱する工程が、蒸着時の圧力が0.5気圧以上2気圧以下となるよう加熱することを特徴とする請求項3に記載の疎水性材料の製造方法。
【請求項5】
前記パーライト又はバーミキュライトを含む天然鉱物を準備する工程が、
前記パーライト又はバーミキュライトを含む天然鉱物を加熱炉内で760℃以上980℃以下の温度に加熱して膨張させる工程と、
膨張した前記天然鉱物を空気圧でサイクロン分級機に運ぶ工程と、
分級された前記天然鉱物を収集装置で収集する工程と、
前記分級された天然鉱物を100℃以上400℃以下の温度に冷却する工程と、を含む
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の疎水性材料の製造方法。
【請求項6】
前記蒸気分子を堆積させる工程が、物理的蒸着、化学的蒸着及びプラズマ蒸着のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の疎水性材料の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質天然鉱物が、軽石、珪藻岩、ベントナイト及びゼオライトのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の疎水性材料の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質天然鉱物が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ケイ酸塩、アルミン酸塩及び炭酸塩のうちの少なくとも一つから構成されることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の疎水性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年6月8日に出願された「蒸着コーティングを用いて製造された疎水性材料及びその応用」と称された米国仮出願番号12/480,598の利益を主張する。
【0002】
本発明は、疎水性及び親油性を有する材料の製造に関し、特に、種々の多孔質天然材料に蒸着コーティングを施して該天然材料の表面特性を変えることにより撥水性及び水から油を選択的に吸収する性質を与える技術に関する。
【背景技術】
【0003】
材料にコーティングを施して撥水性又は防水性を持たせる技術は様々な産業分野で用いられている。例えば、米国特許第4,225,489号、5,348,760号、5,964,934号及び6,268,423号には、建設材料に耐水性を持たせるために、シリコーン重合体、高分子シロキサン、反応性シラン単量体、シリコネート(siliconate)及び他の有機性ケイ素含有材料などを含む様々なシリコーン化合物で建設材料をコーティングする方法が開示されている。米国特許第2,040,818号、3,382,170号、4,175,159号及び5,302,570号には、パーライト、バーミキュライト又は珪藻岩を、油吸収剤としてのシリコーンでコーティングする方法がさらに開示されている。米国特許第2,040,818号、3,382,170号、4,175,159号、4,255,489号、5,302,570号、5,348,760号、5,964,934号及び6,268,423号に開示された内容は参照することにより本出願に盛り込まれる。
【0004】
上記した参考文献に開示されたコーティング法に共通する特徴はウェットコーティング法を用いることであり、この方法は、液体溶媒を用いてシリコーン化合物を溶解し又は薄めて混合溶液又はエマルションを標的鉱物の上に噴射する。その後、濡れた鉱物を所定の温度で乾燥させる。シリコーン化合物エマルションは市販されている製品から入手可能であり、例えばDow Corning 36 346, 39もしくは349エマルション、Union Carbide L45エマルション又はGeneral Electric SM 62もしくは2163エマルションなどがある。一般的に、ウェットコーティング法では消費されるシリコーン化合物の重量は標的鉱物の数パーセントである。つまり、1トンのパーライトなどの多孔質鉱物をコーティングして所望の結果を得るには、約5から40キログラムのシリコーン化合物が必要となる。米国特許第4,175,159号に記載されるように、もし使用されるシリコーン化合物の量が少ないと表面の一部がコーティングされない可能性があるので撥水効果が弱まる。
【0005】
ウェットコーティング法のもう一つの欠点は、米国特許第4,175,159号に記載されるような最適処理を用いた場合であっても、シリコーン処理された多孔質天然鉱物の製造ではウェットコーティング法により生成されたシリコーン層の厚さは通常数マイクロメータの範囲であり原材料の多くが無駄になるので、シリコーン化合物のコストは全コストの大きな割合を占める。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、多孔質天然鉱物にシリコーンをコーティングする方法であって、シリコーン化合物の消費量が比較的少なくかつ大規模な製造にも有用な方法を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、多孔質天然鉱物にシリコーンをコーティングする方法であって、シリコーンゴム製金型、パイプ、板などの再生シリコーン材料が使用できる方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、コーティング処理をパーライト又はバーミキュライトの熱膨張と統合することにより、可能な限り少ないエネルギーを用いる方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、多孔質天然粒子の主表面及びサブ表面の両方の上に均一なシリコーン層を形成することにより粒子が潰れても疎水性及び親油性の属性が維持されるようにする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、疎水性材料の蒸着コーティングの方法及び作成された材料を使用する応用に関する。一実施形態において、疎水性材料を作成する方法は、天然鉱物を準備し、シリコーン系材料を準備し、前記シリコーン系材料を加熱して前記シリコーン系材料の蒸気分子を放出させ、前記シリコーン系材料の前記蒸気分子を堆積させて前記天然鉱物の表面上にシリコーン系材料の層を形成することを含む。この実施形態において、前記シリコーン系材料は再生シリコーンゴムであり次の天然鉱物へのコーティングに再使用することができる。
【0011】
別の実施形態において、水から油を除去する方法は、天然鉱物の上にシリコーン系材料を蒸着コーティングすることにより得られた疎水性及び親油性を有する材料を、除去されるべき油を含む水体に与え、 前記疎水性及び親油性を有する材料を用いて油を吸収し、油にまみれた疎水性及び親油性を有する材料を前記水体から除去することを含む。この方法は、レストランのろ過装置、都市水処理プラント又は石油精製プラントに用いてもよい。
【0012】
別の実施形態において、疎水性材料は天然鉱物とシリコーン系材料とを含み、蒸着処理を用いて前記シリコーン系材料を前記天然鉱物の上にコーティングすることにより前記天然鉱物の表面上に疎水性材料の層が形成されている。前記天然鉱物の表面は内表面及び外表面を有し、前記疎水性材料の層は20ナノメータより小さい。前記シリコーン系材料はポリシロキサン(polymerized siloxane)を含み、ポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)及びPDMSの加硫処理された網状構造のうちの少なくとも一つを含む。
【0013】
別の実施形態において、天然鉱物の上にシリコーン系材料を蒸着コーティングして得られた疎水性材料で作られた建設材料である。前記建設材料は、軽量かつ防火性を有するコンクリート、石こう、モルタル、タイル、低密度軽量コンクリートブロック、吸音石こうボード及びバラ詰め断熱材のうちの少なくとも一つを含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
シリコーン系材料の蒸着コーティングによる疎水性材料の製造方法及びその使用の応用を提供する。以下の記載は、当業者が本発明を製造及び使用できるように記載している。特定の実施形態及び応用に関する記載は単なる一例である。本明細書に記載された実施例の種々の変形及び組み合わせは、当業者にとって直ぐに明らかとなる。また本明細書に記載された一般的な原理は、本発明の範囲内で他の例及び応用に適用可能である。したがって、本発明は記載及び図示された実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理及び特徴と一致する最も広い範囲に基づくものである。
【0015】
地球には、軽石、珪藻岩、ベントナイト、ゼオライト、膨張パーライト及びバーミキュライトなどの多孔質天然鉱物の資源が豊富に存在する。天然鉱物の孔は、特定の自然環境又は特定の人工的条件下で形成される。例えば軽石は、過熱され高い圧力をかけられた溶岩が火山から激しく噴き出し又は水と接した際に減圧によって生じた気泡が同時に冷却されて凝固することにより形成される。珪藻土としても知られる珪藻岩は、硬い殻をもつ藻である珪藻が化石化した残骸である。膨張パーライトは、原料のパーライト鉱石が850−900℃に加熱された時に構造内にトラップされた水分が急激に蒸発することで原料が元の体積の何倍にも膨張したものであり、体積の約90%がトラップされた気泡である。孔のサイズは、例えばゼオライトではナノメータの規模から様々であり、軽石やパーライトなどではマイクロメータからミリメータの規模にもなる。一般的に、これらの多孔質鉱物の密度は水に比べてかなり低い。例えば、膨張パーライトのかさ密度は0.03g/cm
3という低さにもなり得る。表面積は0.1m
2/gから100m
2/gに及ぶ。多孔質天然鉱物は一般的に複数のアモルファス要素、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭酸塩及び他の金属酸化物から構成され、これらは1000℃の温度まで物理的及び化学的に安定している。
【0016】
本発明の実施形態に係るシリコーン処理された多孔質天然鉱物は、入手可能性、比較的低いコスト及びそのユニークな特徴から、建設材料、ろ過媒体及び吸収媒体など多くの産業で応用することができる。例えば、軽石及び膨張パーライトは低密度でかつ熱的に安定であることから、軽量かつ防火性を有するコンクリート、石こう、モルタル、天井タイル又は低密度軽量コンクリートブロック、吸音石こうボードなどの製造に用いることができる。多孔質構造を有することによりパーライト及びバーミキュライトは非常に良好な断熱材料となり、ガラス繊維のように時間とともに性能が低下することはない。しかしながら、これらの応用においては、撥水性を持たせるために材料表面に疎水性コーティングを施す必要がある。本発明の実施形態に係るコーティング法は、表面の特性を親水性から疎水性に変える。さらに、改良された表面は親油性を有していてもよく、これによりコーティングされた多孔質鉱物は油選択吸収剤又はフィルタ媒体として機能する。
【0017】
以下に、経済的で環境に優しい蒸着コーティング技法を記載する。この技法により、多孔質天然鉱物などのさまざまな材料の表面の特性が親水性から疎水性及び親油性に改良される。本発明の実施形態によれば、シリコーン重合体は、極端環境状態へのより良い耐性を長期間提供することができる。適切な形成により、シリコーンの化学的、電気的及び機械的特性は−50℃から250℃の温度でほぼ変化せず維持される。これらの耐久性に優れた重合体は紫外線又はオゾンの影響を受けず、さらに長期間の加速劣化装置での試験にも成功した。シリコーンは可燃性が低いので炎を支持又は大きくすることなく、燃焼毒性を有する副産物を生成することもない。シリコーンは酸、塩基、溶媒、化学物質、油及び水への耐性を有する。さらにシリコーンは環境に対して安全であることが知られている。シリコーン廃棄物は埋立地に廃棄されても最終的にSiO
2、CO
2及びH
2Oに分解される。これらの全ての特性により、シリコーンは疎水性及び親油性の応用において良い候補となる。
【0018】
本発明の実施形態によれば、蒸着法を使用することにより数ナノメータの薄いコーティング層を作成することができ、その結果コーティング工程でのシリコーン消費量が大きく減少する。さらに蒸着法により標的材料上に堆積されるシリコーン膜の量及び位置の制御が改善される。
【0019】
本発明の実施形態によれば、疎水性材料が所定温度で解放されるよう硬化シリコーンゴムを出発材料として用いてもよく、これにより触媒又は硬化剤を必要とせずに多孔質天然鉱物をコーティングすることができる。硬化シリコーンゴムは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのポリシロキサンの加硫処理された網状構造から構成されている。PDMSの重要な性質の一つは熱安定性が高いことである。PDMSの蒸気圧は25℃で10
-3mmHgよりも低い。硬化シリコーンゴムが例えば100℃から400℃の昇温で加熱されると、架橋及び切断の両方が同時に起こる。架橋反応は分子量が大きな鎖を生成する。切断反応は分子量が小さな鎖を生成する。
【0020】
重合触媒、硬化剤又は金属酸化物の残留物が存在することにより、架橋及び切断の割合が変化する可能性がある。これらの反応の相対的な重要度は用いられる材料及び環境状態によって異なる。これらの場合、短鎖ポリシロキサン又は環状シロキサンの形の揮発性シリコーン分子が蒸発する。主に二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ケイ酸塩、アルミン酸塩及び他の金属酸化物により構成される多孔質天然材料が蒸気中に存在するとき、ポリシロキサン及び環状シロキサン分子が鉱物粒子の表面に対して高い親和性を有し、主に金属−酸素結合又はケイ素−酸素結合又は炭素−酸素結合を有する。ポリシロキサンの蒸気分子及び環状シロキサンは、さらに拡散工程を介して連結孔に入る。したがって、シリコーンの共形層が、鉱物粒子の外表面及び孔の内表面の両方に形成される。また、その後架橋反応が促進されて、疎水性シリコーンゴムの薄い層が多孔質天然鉱物粒子の外表面及び内表面の両方にコーティングされる。鉱物の表面上のシリコーンゴム層は自ら孔及び毛細血管壁と配列し、同時に薄いシリコーンゴム層の有極性シロキサン幹鎖が鉱物の有極性表面に引きつけられる。シリコーンゴム層の無極性有機基、例えばメチル基は、鉱物の有極性表面からはじかれて疎水性界面を形成する。鉱物内に二酸化ケイ素が存在すると、構造的に関連する二酸化ケイ素に対するシリコーンゴム層の親和性が、それらの間の化学結合の形成によって強化される。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態において疎水性コーティング材料は硬化シリコーンゴムであり、該硬化シリコーンゴムは市販の二点セットエラストマーキット、例えばDow Corning's Sylgard(登録商標)160又は184シリコーンエラストマーを用いて準備される。二種類の液体要素を容器内で十分に混ぜると、混合物は室温又は加速硬化においては加熱温度で硬化されて、柔軟なエラストマーとなる。1:1から1:10の範囲の様々な重量比の硬化シリコーンゴム及び多孔質天然鉱物が、その後、被覆されたガラス又はアルミニウム容器などの密閉された加熱容器内に入れられ、そして加熱炉内で自動温度制御を用いて100℃から400℃の様々な温度で10分間から90分間の様々な期間加熱される。本明細書の硬化シリコーンゴムは何百回と繰り返し使用可能である。一アプローチにおいて、エラストマーは、各回平均40分で50回使用された後に硬くなる。これは昇温におけるシリコーンゴムの劣化が原因である。しかしながら、コーティング工程への悪影響は観測されなかった。シリコーンゴムの重量損失が繰り返し加熱工程にわたって測定され、各60分間のPDMS分子の蒸発に起因する平均重量損失は0.1%よりも少ないことが分かった。したがって、シリコーンゴムの消費率を0.1%以下に最適化してもよい。つまり、大規模産業製造工程では、蒸着法を用いて1メートルトンの多孔質天然鉱物をコーティングする場合1キログラム以下のシリコーンゴムが消費される。
【0022】
シリコーン蒸着コーティング法を、砂、石、セラミック、粘土、宝石などの他の無孔天然鉱物などに拡張することができる。さらにこの方法は、他の人工材料、例えば天然鉱物と同様の構成要素を有するシリカエーロゲル及びガラスファイバーに対しても使用できる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、シリコーン蒸着コーティング工程をパーライト及びバーミキュライトの膨張工程と統合し、これにより蒸着コーティングのエネルギーコストが減少する又は省かれる。原料のパーライト又はバーミキュライト鉱石は、加熱炉内で760℃から980℃に加熱することにより膨張する。膨張粒子は吸気ファンによって加熱炉の外に引き出され、空気圧によりサイクロン分級機へと運ばれ収集される。空中に漂うパーライト又はバーミキュライト粒子は、気流によって収集機へと運ばれる際に冷却される。サイクロン分級機によって膨張パーライト又はバーミキュライト粒子が気流から分離され、気流は大気中に放出される。温度が200℃から300℃に下がる収集段階において、膨張パーライト又はバーミキュライト粒子は密閉容器内でシリコーンゴムと混ざり、これにより多孔質パーライト又はバーミキュライト粒子の外表面及び内表面上にシリコーンゴム層が形成される。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態において、蒸着法を用いて多孔質鉱物粒子上に形成されたシリコーン層の厚さは1nmから3nmである。コーティングされたシリコーン層により増加した重さは0.1%よりも少ない。粒子のサイズは0.01umから10cmの間でさまざまであってもよく、多孔質鉱物粒子の孔のサイズは1nmから1cmの間でさまざまであってもよく、多孔質鉱物の表面積は0.1m
2/gから100m
2/gの間でさまざまであってもよく、多孔質鉱物のかさ密度は0.02g/cm
3から2g/cm
3の間でさまざまであってもよい。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、蒸着法による軽石又は膨張パーライトなどのシリコーンでコーティングされた多孔質の粗い鉱物粒子を、外力により粉砕してもよい。粉砕及びすりつぶしにより得られたより小さな粒子及び微粉末は、疎水性及び親油性の性質を保っている。これは、孔間の壁が非常に薄いので、シリコーン層が鉱物粒子の外表面及び孔の内表面の両方に形成されているためである。粗い粒子を粉砕することにより、疎水性を有するサブ表面が露出する。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、表面積が0.1m
2/gから100m
2/gの間でさまざまである微細な鉱物、粘土又はセラミック粉末にシリコーンゴムを蒸着させてもよく、これにより凝集が防止されるあるいは吸収性が有極性分子から無極性分子に変わる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態において、軽石にシリコーンゴムを蒸着させて長時間浮き続けるようにしてもよい。
【0028】
従来のウェットコーティング法と比べた際の本発明の利点の一つは、蒸着コーティング法は鉱物粒子の元の多孔率を維持するということである。ウェットコーティング法では、粘液によって一部の孔の入口が塞がれ吸収力が低下する可能性がある。
【0029】
開示された蒸着コーティング法を用いることにより、撥水特性を有するさまざまな鉱物を生成す0ることができ、これらは軽量かつ防火性を有するコンクリート、石こう、モルタル、天井タイル、低密度軽量コンクリートブロック、吸音石こうボード又はバラ詰め断熱材などの種々の建設材料に適している。
【0030】
さらに、開示された蒸着コーティング法を用いることにより、ガソリンなどの無極性分子への親和性が水などの有極性分子への親和力よりもかなり強い表面特性を有する様々な材料を生成することができる。表面積、密度、形状(バルク若しくは粉末又は特定の形状に仕上げられたもの)は、種々の水浄化応用に適するよう様々である。本発明のいくつかの実施形態によれば、本明細書に記載された蒸着法に基づいて疎水性材でコーティングされた天然鉱物からなる粒子層に、油を含んだ水流を通過させてもよい。別のアプローチでは、疎水性材でコーティングされた鉱物からなるカートリッジに油を含んだ水流を通過させてもよく、これにより油乳剤が粒子層又はカートリッジでろ過される。これらの応用例は、レストランのろ過装置、水処理プラント又は石油精製プラントにおいて有用である。油は原油、ガソリン、ディーゼル、灯油、植物油、動物油などを含むがこれらに限定されない。粒子層及びカートリッジは任意の形及び形状を有していてもよい。粒子層及びカートリッジに用いられるコーティングされた材料の量は、水流の流量、水流中の油の割合及びろ過媒体の交換間の期間に依存する。
【0031】
さらに、開示された蒸着コーティング法を用いることにより、種々の材料(天然鉱物)の表面特性を変えることができ、これにより水面の大量及び微量な油を取り除くことができる材料が得られる。該方法は低コストでかつ処理能力が高く、さらに使用される材料は環境に優しい。いくつかの実施形態において、本開示に記載の蒸着法によって疎水性材料でコーティングされたパーライト又はバーミキュライト粒子を、油浄化応用に用いてもよい。そのような油浄化応用の一例は、原油、ガソリン、ディーゼル、灯油などの油の漏れ又は流出によって汚染された海の表面の処理である。コーティングされたパーライト又はバーミキュライト粒子をバラバラの状態で又は織物袋に入れて汚染された水の上に拡散させてもよい。コーティングされたパーライト又はバーミキュライト粒子は流出した油を吸収して水に浮かび、回収される。一キログラムのコーティングされたパーライト又はバーミキュライト粒子は、最大十キログラムの油を処理することができる。他の応用において、本発明により製造されたコーティングされた軽石粉末を、漏れ油又は流出油により汚染された水面に拡散させて用いてもよい。軽石粉末は油を吸収し、凝集して大きな塊となった後、水の底に沈んで環境に無害となる。
【0032】
本発明の実施形態によれば、疎水性及び親油性を有するコーティングされた天然鉱物及び吸収された油をリサイクルすることができる。一アプローチにおいて、疎水性及び親油性コーティングされた天然鉱物がガソリン又はディーゼルなどの揮発性油を吸収した場合は、化合物を、吸収された油(例えばガソリン)の沸点まで加熱することにより、吸収された油を蒸発させて収集してもよい。疎水性及び親油性を有するコーティングされた天然鉱物は、その後乾燥され、再使用される。別のアプローチにおいて、疎水性及び親油性を有するコーティングされた天然鉱物が植物油又は動物油などの非揮発性油を吸収した場合は、化合物をエタノールなどの有機溶媒と混ぜてもよい。この場合、天然鉱物の表面において、疎水性及び親油性のコーティング層に対するエタノール分子の親和性の方が、疎水性及び親油性のコーティング層に対する植物油又は動物油分子の親和性よりも強いので、吸収された植物油又は動物油が解放される。天然鉱物は加熱されてエタノールを解放した後、乾燥され、再使用される。
【0033】
例1
約十グラム(10g)のDow Corning's Sylgard(登録商標)184パートA及び1gのパートBをビニール製容器内で混ぜ、硬化するまで室温に約48時間放置した。硬化シリコーンゴムはビニール製容器から取り除かれ、各々約1gの重さの小さな片に切断される。その後、硬化シリコーンゴム1g及び粒径が3mmから6mmの膨張パーライト1gを、カバーされたガラス板の中に入れ、これを加熱炉内でデジタルサーモメータを用いて約250℃で、約10分間加熱してサンプルAを作成し、約30分間加熱してサンプルBを作成し、約60分間加熱してサンプルCを作成する。三つのサンプルは、約100mlの水道水中に約5分間沈められ、水から取り出される。水に沈められる前及び水から取り出された後にサンプルの重さを測定し、増加した重さがサンプルに保持された水を示す。サンプルAは約20%増加し、サンプルB及びCは約5%増加したことが観測された。同じセットの実験において別の回では増加した重さがわずかに変化した。
【0034】
次に、サンプルA、B及びCのパーライト粒子を粉砕して再び水中に入れた。サンプルAにおいて一部の粉末が水中に沈み、一方でサンプルB又はCにおいてはそのような現象はみられなかった。
【0035】
この例は、蒸気コーティングを特定の時間、この場合30分より短い時間施した時に、撥水能力が最大に達したことを示す。
【0036】
例2
例1で作成された硬化シリコーンゴムを用いる。1gのPDMS及びさまざまな量の膨張パーライトをカバーされたガラス容器にそれぞれ入れ、約250℃で約30分間加熱した。サンプルAは1gのパーライトを有する。サンプルBは2gのパーライトを有し、サンプルCは5gのパーライトを有する。コーティングされたパーライトA、B及びCの間で水分保持能力に大きな差はみられなかった。
【0037】
この例は、シリコーンゴム及びパーライト間の重量比がコーティング効果に影響を及ぼさないことを示す。
【0038】
例3
例1で作成された硬化シリコーンゴムを用いる。約1gのPDMS及び1gの膨張パーライトをカバーされたガラス容器にそれぞれ入れ、異なる温度で約30分間加熱した。サンプルAは100℃で加熱した。サンプルBは150℃で加熱した。サンプルCは200℃で加熱した。サンプルDは250℃で加熱した。サンプルEは300℃で加熱した。サンプルFは350℃で加熱した。サンプルGは400℃で加熱した。7つのサンプルを、約100mlの水道水に5分間沈め、水から取り出した。サンプルの重さを水に沈められる前と水から取り出した後で測定し、増加した重さがサンプルに保持された水を示す。サンプルAは約250%増加し、サンプルBは約210%増加し、サンプルCは約130%増加し、サンプルD,E、F及びGは約5%から10%増加した。さらに、サンプルE及びFで用いられたPDMSは30分後に摩耗の兆候を示し、サンプルGに用いられたPDMSはすぐに摩滅した。
【0039】
この例は、この例で用いたPDMS(Dow Corning's Sylgard(登録商標)184)において、約250℃以上の温度で最大撥水能力が達成されたことを示す。しかしながら、温度が高すぎるとPDMSの再使用の可能性が小さくなる。最適温度は他のシリコーンゴム材料で異なる。
【0040】
例4
例1で製造された硬化シリコーンゴム及び細かくすり潰された珪藻土粉末を用いる。硬化シリコーンゴム及びすり潰された珪藻土粉末を約250℃で30分間加熱する。コーティングされた珪藻土粉末を100mlの水道水に入れ、かき混ぜた。コーティングされた粉末と水の混合は目視で確認されなかった。コーティングされた粉末を水面に約一カ月放置した後も、粉末と水の混合は観測されなかった。
【0041】
比較として、コーティングされてない珪藻土粉末を水の上に入れると、直ぐに水の底に沈んだ。
【0042】
この例は、蒸着コーティングが、粘土などの天然鉱物の微細粉末を防水加工する効果的な方法であることを示す。
【0043】
例5
この例では、コーティングされた膨張パーライトの油吸収性を実証する。水道水10mlと植物油0.5mlを24mlのガラス製薬瓶の中で混ぜて油−水エマルションを作成する。目視による効果の観測を容易にするために油を青色溶剤で染める。薬瓶を30秒間力強く振る。その後、エマルションの表面に例2で作成されたコーティングされた膨張パーライト粒子を0.2g入れる。再び薬瓶を30秒間振る。ほとんどの油がシリコーンでコーティングされた膨張パーライトにより吸収され、目視で確認したところ水中に青色の痕跡はなかった。油にまみれた膨張パーライトは依然として水面上に浮いていた。
【0044】
比較として、コーティングされていない膨張パーライトを用いた結果、パーライトは油を全く吸収しなかったことが観測され、理由として、水が存在することと、水分子とコーティングされていないパーライト表面との親和性が油とコーティングされていないパーライト表面との親和性よりも強いことが挙げられる。
【0045】
植物油の代わりにガソリンを使用して同様の実験を行った。同様の結果が観測された。
【0046】
例6
コーティングされたパーライトの代わりにシリコーンでコーティングされた軽石粉末を使用する以外は、例5と同じである。軽石粉末はほとんどの油を吸収し、凝集して大きな塊となり、水の底に沈んだ。
【0047】
植物油の代わりにガソリンを使用して同様の実験を行った。同様の結果が観測された。
【0048】
例5及び例6は、流出した石油を海から除去するための効果的な方法を示す。その方法の一つは、シリコーンゴムでコーティングされたパーライトを使用して流出油を選択的に吸収し、その後、油にまみれたパーライトを除去する。別の方法ではシリコーンゴムでコーティングされた軽石粉末を使用する。油にまみれた軽石粉末は海の底に沈む。
【0049】
例7
例5の油にまみれたパーライト粒子を水から取り除き、室温で乾燥した後、99.9%エタノール10mlが入った薬瓶の中に入れる。パーライトから油が解放されてエタノールの底に沈んだ。パーライト粒子はその後エタノールから除去し、60℃で乾燥した。得られたパーライトは依然として疎水性及び親油性の特徴を示した。
【0050】
この例は、吸収された油をリサイクルするとともにシリコーンコーティングされた材料を再使用する方法を示す。
【0051】
例8
例2で作成されたシリコーンゴムでコーティングされたパーライト粒子二グラム(2g)を、直径5cmのこし器に入れ、コレクタをこし器の下に置いた。例5で作成された油−水エマルションをコーティングされたパーライトの上に注いだ。こし器の下のコレクタにより収集された水には、油の痕跡は目視で確認されなかった。
【0052】
この例は、油又はガソリン、ディーゼルなどの他の炭化水素をろ過により水から除去する方法を提供する。
【0053】
当業者は開示された実施形態の考えられる多くの変更及び組み合わせの使用が、同じ基本的メカニズム及び方法論を採用するのと同時に可能であると認識する。説明を目的とする本明細書は特定の実施形態を参照して記載されている。しかしながら、上記した描写的議論は本発明を開示された形に正確に一致させる又は限定することを意図していない。上記した教示内容に基づき多くの変更及びバリエーションが可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実際の応用を説明するために選択及び記載され、これにより、当事者は本発明及び種々の変更がなされた実施形態を特定の考えられる使用に合わせて最適利用することができる。