(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エレメント間欠部(204、304)を複数有するファスナーチェーン(203、306、401)を準備する工程Aと、各エレメント間欠部(204、304)に開離嵌挿具(106)を取着する工程Bと、工程Bの前又は後に各エレメント間欠部(204、304)に硬化型接着剤(205、308、402)を含浸させる工程Cと、工程Cによってエレメント間欠部に含浸した硬化型接着剤(205、308、402)を硬化させる工程Dとを含み、工程Cは連続的に搬送されるファスナーチェーン(203、306、401)の搬送方向に対して交差する方向から順次マスキング部材(201、305)を供給してファスナーチェーン(203、306、401)にマスキングを行った状態で実施する開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法。
マスキング部材(201)は中心軸を回転軸として一定時間毎に順次回転する多角形あるいは円形の筒状の部材であり、当該部材(201)は側面に開口部(202)が形成されており、工程Cにおいてファスナーチェーン(203)はエレメント間欠部(204)が当該側面の内側を通過するように当該部材の一方の底面から他方の底面へ向かう方向に搬送され、マスキングはエレメント間欠部(204)が当該側面を通過する際に当該側面に形成された開口部(202)に向かって外側から前記接着剤(205)を供給することにより実施する請求項1又は2記載の開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法。
ファスナーチェーン(203)の搬送に伴ってエレメント間欠部(204)が送られる毎に、マスキング部材(201)が回転することによって、マスキングが順次異なる開口部(202)を用いて実施される請求項3記載の開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法。
マスキング部材(201)の各開口部(202)は、マスキングが終了してから次のマスキングまでの間に、開口部(202)の周辺に付着した接着剤(205)が除去される請求項3又は4記載の開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法。
マスキング部材(305)は巻き出し部(301)及び巻き取り部(302)を有する巻き出し・巻き取り装置(300)によって順次繰り出されるマスキングのための開口部(303)が形成されたマスキングテープであり、工程Cにおいてファスナーチェーン(306)はエレメント間欠部(304)が巻き出し部(301)及び巻き取り部(302)の間を移動するマスキングテープの下側を通過するように搬送される請求項1又は2記載の開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ファスナーテープの補強を合成樹脂液や繊維硬化剤の含浸及び硬化によって達成すべきことを開示した先行技術文献は存在するが、これらの文献には使用すべき合成樹脂液や補強工程の最適化が十分に行われておらず、特に補強部のほつれによって製品性能が損なわれたり、合成樹脂液をファスナーテープに含浸させる際ににじみが生じたりして美観を損なうなど改善の余地があった。そこで、本発明は補強テープを使用することなく開離嵌挿具の取着部分の補強力を高め、美観も保持できる開離嵌挿具付きファスナーチェーンを提供することを課題の一つとする。また、本発明は、当該ファスナーチェーンの製造方法を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、最適な目ずれ強度を見出すことによって、補強部のほつれを改善した。また、特定範囲の粘度をもつ硬化型接着剤をファスナーテープにおける開離嵌挿具の取着部分に含浸させ、次いで硬化させることが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は一側面において、一対のファスナーテープと、当該ファスナーテープの対向する両側縁に取着されたファスナーエレメント列と、当該エレメント列に連接してファスナーテープの端部に取着された開離嵌挿具とを備えた開離嵌挿具付きファスナーチェーンであって、当該ファスナーチェーンはファスナーテープの少なくとも開離嵌挿具の取着部位において硬化型接着剤が含浸硬化した補強部を有し、補強部の目ずれ強度が100N以上である開離嵌挿具付きファスナーチェーンである。
【0009】
本発明に係る開離嵌挿具付きファスナーチェーンの一実施形態においては、硬化型接着剤はファスナーテープへの含浸時の粘度が100〜2000mPa・Sである。
【0010】
本発明に係る開離嵌挿具付きファスナーチェーンの別の一実施形態においては、硬化型接着剤は2液硬化型接着剤である。
【0011】
本発明に係る開離嵌挿具付きファスナーチェーンの更に別の一実施形態においては、補強部に存在する硬化型接着剤のファスナーテープ1m
2当たりの重量が50〜300g(乾燥重量)である。
【0012】
本発明は別の一側面において、エレメント間欠部を複数有するファスナーチェーンを準備する工程Aと、各エレメント間欠部に開離嵌挿具を取着する工程Bと、工程Bの前又は後に各エレメント間欠部に硬化型接着剤を含浸させる工程Cと、工程Cによってエレメント間欠部に含浸した硬化型接着剤を硬化させる工程Dとを含む開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法である。
【0013】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の一実施形態においては、工程Cにおける硬化型接着剤の粘度が100〜2000mPa・Sである。
【0014】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の別の一実施形態においては、工程Cは連続的に搬送されるファスナーチェーンの搬送方向に対して交差する方向から順次マスキング部材を供給してファスナーチェーンにマスキングを行った状態で実施する。
【0015】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、マスキング部材は中心軸を回転軸として一定時間毎に順次回転する多角形あるいは円形の筒状の部材であり、当該部材は側面に開口部が形成されており、工程Cにおいてファスナーチェーンはエレメント間欠部が当該側面の内側を通過するように当該部材の一方の底面から他方の底面へ向かう方向に搬送され、マスキングはエレメント間欠部が当該側面を通過する際に当該側面に形成された開口部に向かって外側から前記接着剤を供給することにより実施する。
【0016】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、ファスナーチェーンの搬送に伴ってエレメント間欠部が送られる毎に、マスキング部材が回転することによって、マスキングが順次異なる開口部を用いて実施される。
【0017】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、マスキング部材の各開口部は、マスキングが終了してから次のマスキングまでの間に、開口部の周辺に付着した接着剤が除去される。
【0018】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、マスキング部材は巻き出し部及び巻き取り部を有する巻き出し・巻き取り装置によって順次繰り出されるマスキングのための開口部が形成されたマスキングテープであり、工程Cにおいてファスナーチェーンはエレメント間欠部が巻き出し部及び巻き取り部の間を移動するマスキングテープの下側を通過するように搬送される。
【0019】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、硬化型接着剤は2液硬化型接着剤である。
【0020】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、工程Cは予め加温したファスナーチェーンに対して行う。
【0021】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、工程Cの後に加熱プレスをファスナーチェーンに対して行う。
【0022】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法の更に別の一実施形態においては、エレメント間欠部に含浸させる硬化型接着剤のファスナーテープ1m
2当たりの重量が50〜300g(乾燥重量)である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、補強テープを使用することなく開離嵌挿具の取着部分の補強力を高め、美観も保持できる開離嵌挿具付きファスナーチェーンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<1.開離嵌挿具付きファスナーチェーン>
以下、本発明の開離嵌挿具付きファスナーチェーンについて、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明においては、スライダーの摺動方向を上下方向とし、スライダーがエレメント列を噛合させるように摺動する向きを上方とし、エレメント列を分離させるように摺動する向きを下方とする。
【0026】
図1は、本発明に係る開離嵌挿具付きファスナーチェーン101にスライダー102を取り付けて得られるスライドファスナー100の正面図である。開離嵌挿具付きファスナーチェーン101はファスナーテープ103、ファスナーエレメント104の列、上止具105、開離嵌挿具106によって構成されている。ファスナーテープ103の下端部及び上端部にはそれぞれ補強部107a及び107bが設けられている。ファスナーテープ103は対になっており、各ファスナーテープ103にファスナーエレメント104の列が取り付けられた状態のものをファスナーストリンガーと呼ぶ。
【0027】
各ファスナーテープ103は、合成繊維又は天然繊維により織成又は編成されており、その長手方向の端縁に沿って、スライダー102によって噛合又は分離可能な複数のファスナーエレメント104から構成されるファスナーエレメント104の列が取り付けられている。エレメント104の種類に制限はなく、従来公知なもの、例えば、金属製エレメント及びテープに射出成型された樹脂製エレメントに代表される単独エレメント、並びにコイル状の樹脂製エレメントに代表される連続エレメントの何れでもよい。スライダー102はファスナーエレメント104の列を内部に嵌挿しながら摺動することで、ファスナーエレメント104の列を噛合又は分離することができる。上止具105はスライダーの上方への脱落防止のための部品であり、ファスナーエレメント104の列の上端に連接してファスナーテープの端縁に加締めあるいは射出成形によって固定されている。
【0028】
ファスナーエレメント104の列の下端に連接して開離嵌挿具106がファスナーテープ103の下端部に取着されている。開離嵌挿具106は例えば特開平6−189811号公報や特開平6−245806号公報に記載されているようにそれ自体公知であり、当業者に知られた任意の開離嵌挿具を使用すればよい。一般には、開離嵌挿具106は箱棒106a、蝶棒106b及び箱体106cで構成される。箱棒106a及び蝶棒106bはファスナーテープ103の端縁に、互いに向き合うように装着される。箱体106cは箱棒106aの下端から嵌挿されて箱棒106aに係止固定される。箱体106cは蝶棒106bを挿入するための挿入穴(図示せず)を有しており、箱体106cへの蝶棒106bの挿抜によって、ファスナーチェーンの下端部の連結及び分離を行うことができる。なお、ここでは、箱棒106aと箱体106cを別体に成形し、両者を係止固定する態様について記述したが、箱棒106aと箱体106cは一体成形することも可能である。
【0029】
本実施形態においては、スライドファスナーの下端部にのみ開離嵌挿具が取着しているが、本発明に係る別の実施形態においては、例えば特開2005−245859号公報に記載されているように、箱棒及び蝶棒からなる逆開き具を開離嵌挿具として使用し、2個のスライダーを尻合わせに配置することにより、逆開きを可能としたスライドファスナーとすることもできる。
【0030】
ファスナーテープ103のうち、開離嵌挿具106の取着部位に硬化型接着剤が含浸硬化した補強部107aが設けられている。更に、本実施形態では、開離嵌挿具106の取着部位のみならず、開離嵌挿具106の上端からファスナーテープ103の下端までファスナーテープ103の幅全体にわたって補強部107aが設けられている。このように、ファスナーテープ103の幅全体にわたって補強部107aを設けることでファスナーテープ103に対する高い補強効果が得られる。補強部107aの上端は、開離嵌挿具106の上端と一致させる必要はない。開離嵌挿具106の上端を超えてエレメント104の列にまで及んでも構わないし、開離嵌挿具106の上端に届かなくても構わない。但し、補強部の範囲が過度にエレメント列まで延びるとファスナーのスムーズな開閉動作に支障が生じる一方で、上下方向に短すぎると所望の強度が得られないので、補強部107aの上下方向の典型的な範囲はファスナーテープ103の下端から上方に5〜100mmである。
【0031】
その他、ファスナーテープ103の上端部にも補強部107bを設けることができる。これにより、ファスナーテープ103の上端部の糸のほつれを防止することができる。
【0032】
硬化型接着剤は、ファスナーテープ103内への含浸後に硬化することでファスナーテープ103を補強する。目ずれ強度が低すぎると、カット面からのほつれが発生しやすくなり、補強部が柔らかくなるので開離嵌挿具の操作性も悪くなる。よって、補強部の目ずれ強度は100N以上とするのが好ましい。ただし、目ずれ強度が大きくなりすぎると、ほつれは改善されるものの補強部が硬くなりすぎ開離嵌挿具の操作性が悪くなってしまう。また補強部が割れたり、縫製が困難となったりする可能性がある。このような観点から、補強部の目ずれ強度は300N以下とするのがより好ましい。
【0033】
本発明における目ずれ強度の測定法について説明する。ファスナーテープにニードルを差し込み、下方への引張荷重を徐々に与えていくと、やがてファスナーテープは荷重に耐えられなくなり、ある時点でニードルを差し込んだ箇所の繊維の目が下方に開く(目ずれ)。このとき、目ずれを起こさずに耐える限界の強度が目ずれ強度である。目が開く瞬間に応力が急激に低下するため、目ずれ強度は応力−歪み曲線から容易に測定できる。
【0034】
次に、本発明における目ずれ強度の具体的な測定条件について説明する。ファスナーチェーンから開離嵌挿具、上止、エレメント列、及びスライダーなどの部品を取り外して2本の分離したファスナーテープ103のみの状態にする。次いで、
図2に示すように、上下方向長さ80mm×幅方向長さ約14mmの大きさとなるようにファスナーテープ103の下端部を切り取り、これを試験片とする。硬化型接着剤が含浸硬化している補強部107aに先端J字状で直径1mmのニードル110(実施例では「Beha78.75B10/3:オルガンン針株式会社製」を使用)をファスナーテープの下端から3mm上方で、且つ、エレメント列が取り付けられていなかった方の端縁から反対の端縁へ向かって3mmの箇所に1本目を差し込み、更に反対の端縁に向かって2本のニードルを3mmの等間隔に差し込み、引っ張り試験機(実施例では「INSTRON.5565:INSTRON社製」を使用)を用いてファスナーテープ上端から下方に30mmの領域を把持し、更に3本のニードルを把持した状態(上下の把持部同士の距離70mm)で下方に200mm/minの速度で引っ張る。
図2中、点線で囲まれた領域が把持部111であり、ここがエアークランパーなどによって把持される。応力−歪み曲線から目ずれが生じるまでの最大応力が得られるので、これを目ずれ強度とする。試験は各ファスナーテープにつき2回の合計4回行い、その平均値を当該ファスナーチェーンについての目ずれ強度とする。
【0035】
硬化型接着剤のファスナーテープへの含浸時の粘度は、所望の目ずれ強度及び美観を得る上で重要である。粘度が小さ過ぎると含浸時ににじみが生じて所定位置に含浸されず、外観を悪くする。また、接着剤成分が溶剤で過度に希釈されているために硬化後にファスナーテープ内に残存する接着剤成分が不十分となって所望の目ずれ強度が得られない。一方で、粘度が大き過ぎるとファスナーテープの内部まで接着剤が含浸されないため、所望の目ずれ強度が得られない。このような観点から、硬化型接着剤のファスナーテープへの含浸時の粘度は100〜2000mPa・Sであるのが好ましく、200〜700mPa・Sであるのがより好ましい。
【0036】
本発明においては、粘度の測定はBM型粘度計(実施例では「東京計器(株)製」を使用)を使用し、付属ロータをNo.2とし、回転数30rpm、温度を25℃に設定した条件で行う。
【0037】
所望の目ずれ強度を得る観点からは、補強部に存在する硬化型接着剤のファスナーテープ1m
2当たりの重量は多い方がよいが、多すぎると補強部が硬くなりすぎることから、50〜300g(乾燥重量)であるのが好ましく、70〜200g(乾燥重量)であるのがより好ましい。
【0038】
補強部は、厚すぎると第1に開離嵌挿具の操作性が悪くなる、第2に補強部の割れが発生する、第3に他の生地に縫製しにくくなるなどの問題が発生する。一方で、薄すぎると第1に開離嵌挿具の操作性が悪くなる。第2に端部のほつれが生じやすくなる。そこで、硬化型接着剤が硬化及び乾燥した後の補強部の厚みは、もとの生地の厚さを100%とすると100〜200%の範囲にあるのが好ましい。
【0039】
使用する硬化型接着剤としては特に制限はなく、公知の任意の硬化型接着剤を使用できる。例えば、1液硬化型接着剤、2液硬化型接着剤、瞬間接着剤、ホットメルト型接着剤、エマルジョン系接着剤、光(紫外線や電子線)硬化型接着剤を使用することができる。中でも、コスト、補強力、加工性、及び品質の観点からは1液硬化型接着剤及び2液硬化型接着剤が好ましい。1液硬化型接着剤は溶剤量が多いために乾燥時間がやや長くなることや、裏面への浸透性が2液硬化型接着剤に比べて若干劣るものの、製品外観、洗濯や乾燥によるほつれ防止、及び目ずれ強度向上に優れた効果を示す。2液硬化型接着剤は洗濯や乾燥によるほつれ防止効果が1液硬化型接着剤に比べて若干劣るものの、製品外観及び目ずれ強度向上に優れた効果を示す。1液型接着剤及び2液型接着剤としては、例えば、ポリウレタン系、エポキシ系、アクリル系が挙げられる。2液型接着剤は典型的には主剤としてポリオール、エステル、エーテル系ポリオール、アクリルを使用することができ、硬化剤として芳香族/脂肪族イソシアネート、エポキシ、メラミン、オキサゾリン、アジリジン及びカルボジイミドなどを使用することができる。目ずれ強度を高める上では、主剤に対する硬化剤の含有量を増やすことが有効である。
【0040】
接着剤の希釈剤としては特に制限はなく、公知の任意の希釈剤を使用すればよいが、一般にはトルエン、アルコール類、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤を使用することで乾燥効率を上げることができる。特に、トルエン、アルコール類、メチルエチルケトンは毒性が少なく、乾燥制御がしやすいので好ましい。希釈剤は、ファスナーテープのエレメント間欠部への含浸塗工時の粘度が上述した範囲となるような量を用いればよい。
【0041】
<2.開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法>
次に、本発明に係る開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0042】
本発明に係る開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法は一実施形態において、エレメント間欠部を複数有するファスナーチェーンを準備する工程Aと、各エレメント間欠部に開離嵌挿具を取着する工程Bと、工程Bの前又は後に各エレメント間欠部に硬化型接着剤を含浸させる工程Cと、工程Cによってエレメント間欠部に含浸した硬化型接着剤を硬化させる工程Dとを含む開離嵌挿具付きファスナーチェーンの製造方法である。
【0043】
工程Aでは、エレメント間欠部を複数有するファスナーチェーンを準備する。これは例えば、一対のファスナーストリンガーをエレメント列同士で噛合させて組み合わせた長尺のファスナーチェーンに対して、開離嵌挿具を取着予定の箇所におけるファスナーエレメントを除去することで形成されるエレメント間欠部を複数形成することで得られる。また、ファスナーテープにエレメントを取着するときに、当初よりエレメントを取り付けない箇所を設けることで、エレメント間欠部を形成してもよい。
【0044】
工程Bでは、各エレメント間欠部に開離嵌挿具を取着する。開離嵌挿具は例えば合成樹脂材あるいは金属を射出成形によって取着したり、また金属板を折曲加工したりすることでテープに加締めることによって取着することができる。工程Bは、補強部を形成した後に実施することができ、補強部を形成する前に実施することも出来る。
【0045】
工程Cでは、各エレメント間欠部に例えば粘度が100〜2000mPa・Sである硬化型接着剤を含浸させる。工程Cは、工程Bの前又は後に行うことができる。工程Cは連続的に搬送されるファスナーチェーンの搬送方向に対して交差する方向から順次マスキング部材を供給してファスナーチェーンにマスキングを行った状態で実施することができる。これによって、硬化型接着剤のエレメント間欠部への含浸を連続的に行えるようになると共に、所望の領域を正確に含浸させることができる。
【0046】
マスキング部材は例えば、
図3に示すような、中心軸を回転軸として一定時間毎に順次回転する多角筒状の部材201とすることができる。
図3では、マスキング部材は8角形状であるがこれに限られるものではない。当該部材201は側面に開口部202が形成されており、工程Cにおいてファスナーチェーン203はエレメント間欠部204が当該側面の内側を通過するように当該部材の一方の底面から他方の底面へ向かう方向(図の矢印の方向)に搬送され、マスキングはエレメント間欠部204が当該側面を通過する際に当該側面に形成された開口部202に向かって外側からディスペンサー208によって前記接着剤205を供給することにより実施する。
図4は、本実施形態における多角筒状の部材201の開口部202を拡大した図であり、ここでは開口部202は長方形状であるが、開口部の形状はマスキングすべき箇所がマスキングされ、接着剤を含浸させるべき箇所に接着剤が供給される限り、特に制限はない。つまり、
図3では一つの多角形状の筒体に複数の開口部202を設けたマスキング部材について説明しているが、例えば対となる多角形状の筒体をファスナーチェーンの搬送方向前後に間隔を開けて配置し、その対の筒体を同期しながら回転させることで、各筒体の間を開口部として利用することができる。また、マスキング部材は多角形状の筒体ではなく円形状の筒体にすることもできる。
【0047】
マスキング部材201は、複数(例えば2〜4)のエレメント間欠部204に対してマスキングを実施した後に回転して、近接する側面にある開口部202を次の含浸操作に使用するように回転することができる。また、ファスナーチェーン203の搬送に伴ってエレメント間欠部204が送られてくる毎に、マスキング部材が回転することによって、マスキングが順次異なる開口部202を用いて実施されるようにしてもよい。
【0048】
マスキングが終了してから次のマスキングまでの間に、開口部202の周辺に付着した接着剤205が除去されるのが好ましい。マスキングの繰り返しによって開口部202の周辺には余分な接着剤205が堆積し、これがファスナーテープの不必要な箇所に付着するおそれがあるからである。接着剤の除去方法としては、ブロアによる風の力で接着剤を飛ばすこと、バキュームによって接着剤を吸引すること、有機溶剤などの洗浄液の入った洗浄槽206に浸漬させること、洗浄液を噴霧すること、スクレーパー、刷毛又はブラシなどの拭き取り具207を用いて拭き取る方法が挙げられる。これらの操作を複数組み合わせることも可能であり、マスキング材の回転に伴って順次異なる接着剤の除去工程が実施されるようにすることも可能である。
【0049】
別法として、マスキング部材は例えば、
図5に示すような、巻き出し部301及び巻き取り部302を有する巻き出し・巻き取り装置300によって順次繰り出されるマスキングのための開口部303が形成されたマスキングテープ305であり、工程Cにおいてファスナーチェーン306はエレメント間欠部304が巻き出し部及び巻き取り部の間を移動するマスキングテープ305の下側を通過するように図の矢印の方向に搬送される。マスキングはエレメント間欠部304が開口部303の下を通過する際に開口部303に向かって上方からディスペンサー307によって前記接着剤308を供給することにより実施する。
図6は、本実施形態における開口部303を拡大した図であり、ここでは、平行に走行する一対のマスキングテープによって帯状の開口部303を形成しているが、開口部の形状はマスキングすべき箇所がマスキングされ、接着剤を含浸させるべき箇所に接着剤が供給される限り、特に制限はない。例えば、マスキングテープ305は必ずしも一対用意する必要はなく、例えば一つのマスキングテープに複数の開口部を設けてその開口部ごとにファスナーテープに対してマスキングを施してもよい。
【0050】
工程Cは予め加温したファスナーチェーンに対して行うことが好ましい。これによって、エレメント間欠部に含浸した接着剤の乾燥速度を高めることができ、生産性が向上する。加温条件は、高すぎると乾燥が早くファスナーテープに完全に接着剤が浸透しない。一方低すぎると乾燥に時間がかかることから、30〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0051】
工程Cの後、工程Cによってエレメント間欠部に含浸した硬化型接着剤を硬化させる工程Dを実施する。硬化手段は使用する接着剤によって異なるが、例えば加熱、紫外線や電子線などの光照射によって硬化する場合や、空気中の水分と反応することにより硬化する場合もある。2液型接着剤のように、主剤と硬化剤を混合することによって常温で硬化する場合もある。
【0052】
工程Cの後、工程Dの前又は後、或いは工程Dと同時にファスナーチェーンを加熱プレスすることができる。これにより、表面を平滑化したり、接着剤をファスナーテープの内部まで深く含浸したりする効果が得られる。
【0053】
工程Cを実施するためのファスナーチェーンの搬送装置400の一例を
図7に示す。ファスナーチェーンの搬送装置400は塗工部、第一乾燥部、第二乾燥部で構成される。エレメント間欠部を複数有する長尺のファスナーチェーン401は、複数の制御駆動されるフィードローラー(図示せず)によって図中の右方向に搬送されて行き、塗工部で硬化型接着剤402がディスペンサー403によりエレメント間欠部に供給される。接着剤402の供給方法としてはスプレー、タンポ印刷、スクリーン印刷、グラビュア、インクジェット、ロール、ダイなどが挙げられるが、塗工量、塗工幅が制御しやすく、短時間で加工できる点でスプレーが好ましい。特にスプレーの中でも液体を精度良く定量供給するディスペンサーを使用することが好ましい。ディスペンサー403の下方には液貯404が設置されており、上から飛散してくる接着剤402を回収することができるようになっている。塗工部を出たファスナーチェーン401は第一乾燥部の乾燥機405内で乾燥を受ける。第一乾燥部は可動式となっており、必要な乾燥量を設定することで搬送方向に前後動作する。その後、収納ボックス406に収容されるが、必要に応じて、第二乾燥部の乾燥機407で更なる乾燥を受けることもできる。硬化型接着剤は通常、第一乾燥部及び必要に応じて第二乾燥機において硬化するが、光硬化型接着剤など硬化のために特定の手段が必要な接着剤においては、硬化のための工程を別途設けることができる。塗工部、第一乾燥部、第二乾燥部にはファンなどの排気設備408が設置されている。
【0054】
このようにして補強部を形成した後、補強部の下端部でファスナーテープをカッティングし、開離嵌挿具の取着、上止めの取付け、及びスライダーの取付けなどの仕上げ工程を適宜行うことでスライドファスナーを完成することができる。仕上げ工程を補強部の形成前に実施することも可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0056】
<各種特性の測定方法>
実施例及び比較例における評価項目である製品外観(にじみ、裏面浸透性)、工業用洗濯・乾燥後の白濁及びほつれはそれぞれ以下の基準で評価した。(1)及び(2)は塗工後(含浸及び乾燥後)の外観検査、(3)及び(4)は工業洗濯・乾燥後の外観検査によって評価した。
(1)にじみ
◎:にじみなし(塗工エッジが直線)
○:エッジ部が若干波状、完全に直線ではない
××:目標とする塗工幅をオーバー、エッジが波状
(2)裏面浸透性
◎:裏面の含浸部が表面(塗工側)と同等面濡れており、表裏の色合いが同じ
○:裏面の含浸部の色が表面より若干薄い箇所がある
×:裏面に濡れていない箇所がある
××:裏面が全く濡れていない
(3)白濁
◎:全くなし
○:僅かに(面積の1/6未満)有り
△:少々(1/6以上1/4未満)有り
×:やや(1/4以上1/3未満)有り
××:かなり(1/3以上)有り
(4)ほつれ
◎:全くなし
○:毛羽立ち
△:緯糸1本ほつれ(抜け)
×:緯糸2〜3本ほつれ(抜け)
××:緯糸4本以上ほつれ(抜け)
【0057】
目ずれ強度は先述した測定方法により測定した。引っ張り試験機としてINSTRON.5565:INSTRON社製を使用した。
【0058】
接着剤の粘度は東京計器(株)製のBM型粘度計を利用し、温度25℃、2号ロータ、回転数30rpmの条件で測定した。
【0059】
<実施例1A>
固形分質量比でエステル系ウレタンポリオール(日本合成化学工業製)/ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI、商品名:コロネートHL 日本ポリウレタンエ業)=86/14を混合攪拌し、希釈剤としてトルエンを用い、上記2種の樹脂/希釈剤の質量比が62/38になるように希釈して粘度250mPa・s(25℃)の2液硬化型接着剤溶液を調製した。
【0060】
一方で、ポリエステル製で、糸の太さが330Tのテープを織製した幅約14mm、テープ厚約0.53mmの長尺のファスナーテープを準備し、次いで、エレメント間欠部当たりの長さが30mmとなるようにファスナーテープにエレメントを取り付け、それを一対作製しファスナーチェーンを用意した。
【0061】
得られたエレメント間欠部付きのファスナーチェーンを搬送装置によって連続して供給し、開口部の面積が30mm×12mmの長方形状であるマスキング材を利用して、エレメント間欠部に塗工量170g/m
2(乾燥重量)でスプレー式ディスペンサー(商品名:781−SS−46F EDF社)を介して前記2液硬化型接着剤の溶液を含浸塗工した。塗工条件は霧化用エアー圧0.035MPa、クリアランス10mmとした。
【0062】
次に90℃×5秒で乾燥後、55℃×1日熟成して接着剤を硬化させ、補強部を形成した。補強部の厚みは0.7mmであった。その後、補強部を押し切り刃でカッティングし、補強部に開離嵌挿具を射出成形により取着して、開離嵌挿具付きファスナーチェーンとした。
【0063】
<実施例1B>
エレメント間欠部に対する塗工量を170g/m
2(乾燥重量)とした他は実施例1Aと同様の手順で、開離嵌挿具付きファスナーチェーンを作製した。
【0064】
<実施例2>
実施例1と同じ2種の樹脂及び希釈剤を使用して、2種の樹脂/希釈剤の質量比が72/28になるように希釈して粘度500mPa・s(25℃)の2液硬化型接着剤溶液を調製した。その後、ディスペンサーの霧化用エアー圧を0.07MPaに増圧した他は実施例1に準拠して開離嵌挿具付きファスナーチェーンを作製した。補強部の厚みは1.1mmであった。
【0065】
<実施例3>
ポリカーボネート系ポリウレタン(NE8811、大日精化工業製)に希釈剤としてトルエン/イソプロピルアルコール(IPA)=50/50(質量比)の混合溶剤を用い、樹脂/希釈剤の質量比が24/76になるように希釈して粘度300mPa・S(25℃)の1液型接着剤溶液を調製した。その後、実施例1と同様のエレメント間欠部付きファスナーチェーンを準備し、開口部の面積が30mm×12mmの長方形状であるマスキング材を利用して、塗工量85g/m
2(乾燥重量)でスプレー式ディスペンサー(商品名:781−SS−46F サンエイテック社)を介して前記1液硬化型接着剤の溶液をエレメント間欠部に含浸塗工した。塗工条件は霧化用エアー圧0.035MPa、クリアランス10mmとした。補強部の厚みは0.85mmであった。次に90℃×10秒で乾燥後、実施例1と同様の手順で開離嵌挿具付きファスナーチェーンを得た。
【0066】
<実施例4>
希釈剤としてトルエンを用い、実施例1と同じ2種の樹脂/希釈溶剤の質量比が51/49になるように希釈して粘度100mPa・s(25℃)の2液硬化型接着剤組成物溶液を調製した他は実施例1に準拠し、ファスナー開製品を作製した。
【0067】
<比較例1>
実施例1と同じ2種の樹脂及び希釈剤を使用して、2種の樹脂/希釈剤の質量比が26/74になるように希釈して粘度15mPa・s(25℃)の2液硬化型接着剤溶液を調製した。その後、実施例1と同様の手順で開離嵌挿具付きファスナーチェーンを作製した。補強部の厚みは0.53mmであった。
【0068】
<比較例2>
参考値として上記実施例1〜4及び比較例1で使用したファスナーテープ生地を接着剤未塗工の状態でカット品のホツレ状況の観察、および目ずれ強度の測定を行った。
【0069】
結果を表1に示す。適切な粘度をもつ接着剤を使用した実施例では製品外観が良好で、工業用洗濯・高温乾燥後の白濁やほつれもなく、目ずれ強度も高かった。一方、比較例1では粘度が低すぎたため、にじみ、工業用洗濯・高温乾燥後のほつれ、目ずれ強度が実施例に比べて劣った。また参考値として出した比較例2と各実施例を比較してもいずれも本発明の硬化型樹脂を利用することで実施例1については約20倍、実施例2については約17倍、実施例3については約18倍、実施例4については約14倍といずれも高い目ずれ強度を有していることがわかった。
【0070】
【表1】