(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731558
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用タングステン細粉
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20150521BHJP
H01G 9/052 20060101ALI20150521BHJP
B22F 1/02 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
B22F1/00 P
H01G9/05 K
B22F1/00 A
!B22F1/02 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-46891(P2013-46891)
(22)【出願日】2013年3月8日
(62)【分割の表示】特願2012-548166(P2012-548166)の分割
【原出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-151755(P2013-151755A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2015年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-250155(P2011-250155)
(32)【優先日】2011年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正二
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−325448(JP,A)
【文献】
特開2003−272959(JP,A)
【文献】
特開2006−299385(JP,A)
【文献】
特開昭52−11752(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/086272(WO,A1)
【文献】
特許第5222437(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 9/04
H01G 9/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.4〜0.5μmであり、かつ平均粒子径d(μm)と真密度M(g/cm3)とBET比表面積S(m2/g)との積(dMS)の値が5.4〜5.8の範囲内であるタングステン粉。
【請求項2】
酸化剤を含有する水溶液中にタングステン粉を分散することにより、タングステン粉の粒子表面に酸化膜を形成させ、前記酸化膜をアルカリ水溶液で除去する工程を含む方法により製造されるものである請求項1に記載のタングステン粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン細粉の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、タングステン粉を電解コンデンサ用として有用な、より細かな粒径を有するタングステン粉に加工する方法、及びタングステン細粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器の形状の小型化、高速化、軽量化に伴い、これらの電子機器に使用されるコンデンサは、より小型で軽く、より大きな容量、より低いESR(等価直列抵抗)が求められている。
このようなコンデンサとしては、陽極酸化が可能なタンタルなどの弁作用金属粉末の焼結体からなるコンデンサの陽極体を陽極酸化して、その表面にこれらの金属酸化物からなる誘電体層を形成した電解コンデンサが提案されている。
【0003】
弁作用金属としてタングステンを用い、タングステン粉の焼結体を陽極体とする電解コンデンサは、同一粒径のタンタル粉を用いた同体積の陽極体を同電圧で電解化成して得られる電解コンデンサに比較して、大きな容量を得ることができるが、漏れ電流(LC)が大きく電解コンデンサとして実用に供されなかった。このことを改良するために、タングステンと他の金属との合金を用いたコンデンサが検討されているが漏れ電流は幾分改良されるものの十分ではなかった(特開2004−349658号公報(US6876083;特許文献1))。
【0004】
特許文献2(特開2003−272959号公報)には、WO
3、W
2N、WN
2から選択される誘電体層が形成されたタングステン箔の電極を用いたコンデンサが開示されているが、前記漏れ電流について解決したものではない。
また、特許文献3(国際公開第2004/055843号パンフレット(US7154743))には、タンタル、ニオブ、チタン、タングステンから選択される陽極を用いた電解コンデンサを開示しているが、明細書中にタングステンを用いた具体例の記載はない。
【0005】
タングステン粉を成形後、焼結した電解コンデンサ用陽極体では、同一体積であれば、通常、タングステン粉の粒径が小さなほど容量の大きな陽極体を作製することができるので、原料タングステン粉の粒径は小さいほど好ましいが、市販のタングステン粉の平均粒径は0.5〜20μm程度である。
【0006】
タングステン粉は、タングステンの酸化物、ハロゲン化物、アンモニウム塩等を原料として水素などの還元剤で処理して作製できる。ただし、還元速度を速くすると複合酸化物が生成する等の問題がある。そのため、より細かい粉体を作製するためには還元速度を遅くしなければならず、生産効率が低下しコスト高となる。また、高価な制御装置を有する煩雑な工程によって作製する必要があり、さらに水素ガスのような爆発範囲が広い材料を扱わねばならないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−349658号公報
【特許文献2】特開2003−272959号公報
【特許文献3】国際公開第2004/055843号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、タングステンを陽極体とするコンデンサ(以下、タングステンコンデンサ)の原料となる粒径のより小さいタングステン粉末を得るタングステン粉の加工方法、及びその方法を用いたタングステン細粉の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意検討した結果、現在入手できるタングステン粉の表面を化学的に酸化することにより、タングステンコンデンサ用としてより好適なタングステン細粉が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記のタングステン粉に関する。
【0010】
[1]平均粒子径が0.05〜0.5μmであり、かつ平均粒子径d(μm)と真密度M(g/cm
3)とBET比表面積S(m
2/g)との積(dMS)の値が6±0.8の範囲内であるタングステン粉。
[2]平均粒子径が0.4〜0.5μmであり、かつ平均粒子径d(μm)と真密度M(g/cm
3)とBET比表面積S(m
2/g)との積(dMS)の値が5.4〜5.8の範囲内である前項1に記載のタングステン粉。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、現在市販されているタングステン粉、あるいは公知の方法で製造できるタングステン粉を原料とし、これら原料粉より細かな粒径を有するタングステン粉を製造することができる。また、本発明で得られるタングステン粉の粒子は、原料タングステン粉の粒子より球形に近い形状になる。
本発明により得られるタングステン粉は、細かな粒径を有するので得られるコンデンサの容量が大きくなる。また、粒子形状がより球形に近くなるので、タングステン粉の流動性が良好となる。そのため、後記する造粒粉作製時等の工程で粉体の取扱いが容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[原料タングステン粉]
本発明で細粉化の対象となる原料タングステン粉は、平均粒径が0.1〜10μmの範囲のものが好ましい。
原料タングステン粉を得る方法としては、市販品の他、公知の方法により製造されるもの、例えば、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で粉砕する方法、あるいはタングステン酸やハロゲン化タングステンを水素やナトリウム等で還元する方法等を適宜選択することによって得ることができる。また、タングステン含有鉱物から直接または複数の工程を経て、還元条件を選択することによって得てもよい。
ただし、これらの方法では粒子径の小さい原料タングステン粉を得ることが難しいので、本発明の方法を適用して得た細粒のタングステン粉を原料タングステン粉として用いてもよく、この場合、さらに粒子径の小さいタングステン粉が得られる。このように、本発明の方法の適用を繰り返すと、例えば、平均粒径0.05μm以下のタングステン粉を得ることもできる。
【0013】
ただし、陽極酸化により誘電体層を形成する場合、コンデンサに好ましく利用できる粉体の粒径には下限がある。コンデンサに用いるタングステン粉の粒径の下限値は、形成しようとする誘電体層の厚みの2倍以上である。例えば、定格電圧が2Vの場合、0.05μm以上である。このような粒径未満であると、陽極酸化をしたときに、導電性のタングステン部分が十分残らず、電解コンデンサの陽極を構成することが困難となる。
特に高容量のコンデンサに用いる場合、タングステン粉の粒子径を0.05〜0.5μmとすることが好ましく、0.1〜0.4μmとすることがさらに好ましい。
なお、本発明の方法で使用される原料タングステン粉は、不純物を、コンデンサ特性が劣化しない範囲で含んでもよく、あるいはコンデンサ特性の改良のために含むように加工されたものでもよい。ただし、後述するケイ化、窒化、炭化、あるいはホウ化処理等の粒子表面の加工は、本発明を適用した後の工程で行うことが好ましい。
【0014】
[タングステン粉の細粉化]
本発明では、原料タングステン粉を構成する粒子の表面を化学的に酸化し、表面の酸化膜を除去する加工法によりタングステン細粉を製造する。
酸化方法:
原料のタングステン粉を、酸化剤水溶液中に分散させ、所定時間保持することにより表面を酸化する。良好な分散状態を保ち、表面を早く酸化させるために、ホモジナイザー等の強い撹拌ができる装置を使用することが好ましい。また、高温で酸化させると早く酸化が進む。
【0015】
酸化剤としては、タングステンに酸素を供給するため、酸素を含む化合物が好ましく、例えば、過マンガン酸塩などのマンガン(VII)化合物;三酸化クロム、クロム酸塩、二クロム酸塩などのクロム(VI)化合物;過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸及びそれらの塩などのハロゲン酸化合物;過酸化水素、過酸化ジエチル、過酸化ナトリウム、過酸化リチウム等の過酸化物;過酢酸、過硫酸塩等のペルオキソ酸及びその塩などが挙げられる。特に、扱い易さと酸化剤としての安定性、水易溶性の面から過酸化水素及び過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0016】
水溶液中の酸化剤濃度は、1%程度から酸化剤の飽和溶解度となる範囲である。酸化剤濃度は予備的な実験により適宜決められる。
酸化時間は1時間〜1000時間、好ましくは1時間〜100時間であり、酸化温度は20℃〜溶液の沸点の温度、好ましくは50℃〜溶液の沸点温度である。
なお、本発明の各工程で用いる溶媒は、粉体の分散性やデカンテーションにかかる時間などから、水だけでなく、水溶性有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール等)との混合水溶液を選択してもよい。
酸化反応後、タングステン粉末を酸化反応溶液からデカンテーションなどの操作で分取し、溶媒に投入、撹拌、静置、デカンテーションの一連の操作を繰り返して洗浄する。この状態のタングステン粉は原料の黒色から黄色がかった青色に変色しており、表面が酸化されたことが目視でも確認できる。
【0017】
酸化膜の除去:
上記で得られた表面が酸化されたタングステン粉の酸化膜をアルカリ水溶液で処理し、少なくとも化学的に除去する。好ましくは、ホモジナイザーなどの強い撹拌ができる装置により、タングステン粒子表面に生成した生成物を機械的にも除去しながら前記撹拌を行う。
アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水等が用いられ、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましい。
具体的には、表面が酸化されたタングステン粉をアルカリ水溶液中で撹拌をするなどして分散させる。撹拌した後に静置し、デカンテーションでアルカリ水溶液を除去した後に、水等の溶媒を投入し、撹拌した後に静置し、デカンテーションする一連の操作を数回繰り返す。これらの操作によりタングステン粒子表面に形成された酸化物は除去される。その後、真空乾燥機中、減圧下(例えば10
4〜10
2Pa)で50〜180℃の温度で乾燥し、室温まで冷却する。次に、発火しないように徐々に空気を入れ、空気中に取り出すことにより、原料タングステン粉に比べて粒径が小さいタングステン粉を得ることができる。
【0018】
本発明の方法によれば、原料タングステン粉の粒子形状が特に異方性の高いものでない限り、ほぼ球状のタングステン粒子を得ることもできる。球形であることは得られたタングステン粉の平均粒子径(d)(μm)と真密度(M)(g/cm
3)とBET比表面積(S)(m
2/g)の値が下記の式を満たすことで確認できる。
【数1】
すなわち、得られたタングステン粉の平均粒子径d(μm)と真密度M(g/cm
3)とBET比表面積S(m
2/g)の積(d×S×M)(dSMと略記)の値が6の値に近ければ得られたタングステン粉はほぼ球形であると言える。本発明により得られるタングステン粉のdMSの値は、通常6±0.8の範囲内となる。さらに、本発明の方法を適用して得たタングステン粉を原料タングステン粉として用い、さらに真球に近い粒子からなるタングステン粉を得ることもできる。
【0019】
球形に近い粒子の表面に形成される誘電体層は、ほぼ一様な曲率を有し、応力が集中しやすい
大きな曲率で屈曲する部分が無いので劣化が少ない。その結果、LC特性がより良好なコンデンサが得られる。
【0020】
本発明の方法で製造されたタングステン粉は、これを直接焼結して焼結体としてもよいが、あるいは、10〜300μm程度の顆粒に造粒した粉を焼結して焼結体としてもよい。造粒した方が取扱いがしやすく、ESRを低く抑えやすい。
さらに、本発明の方法で製造されたタングステン粉に、ケイ化、窒化、炭化、あるいはホウ化処理をして、タングステン粒子表面の一部にケイ化タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、及びホウ化タングステンから選択される少なくとも1つを含有するタングステン粉としてもよい。また、これら処理を造粒粉あるいは焼結体となった段階で適用することもできる。この焼結体を一方の電極(陽極)とし、対電極(陰極)との間に介在する誘電体とにより電解コンデンサが作製される。
【実施例】
【0021】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、下記の記載により本発明は何ら限定されるものではない。
本発明において、粒子径と比表面積と真密度は以下の方法で測定した。
粒子径は、マイクロトラック社製HRA9320−X100を用い、粒度分布をレーザー回折散乱法で測定し、その累積体積%が、50体積%に相当する粒径値(D
50;μm)を平均粒子径(d)とした。なお、この測定法は2次粒子径の測定法ではあるが、タングステン粉の分散性はある程度良好なので、測定結果は1次粒子径に近い値が得られる。そのため、測定結果を実質的に1次粒子径とみなして、前述の式(1)に適用し、粒子形状を判断してもよい。
比表面積(S;m
2/g)は、NOVA2000E(SYSMEX社)を用いBET法で測定した。
真密度(M;g/cm
3)は、ピクノメーター法(20℃)で測定した。
【0022】
実施例1:
タングステン酸アンモニウムを水素還元して得た平均粒径1μmのタングステン粉200gを5質量%の過硫酸アンモニウムが溶解した蒸留水500mLに投入し、(株)マイクロテック・ニチオン社製のホモジナイザーNS−51を用い、50℃で24時間撹拌した。その間、蒸発する水を補給し続けた。室温で17時間放置して粉を沈降させた後に液をデカンテーションで除去し、さらに200mLの蒸留水を加えてホモジナイザーで5分撹拌し、5時間放置後、液をデカンテーションにて除去した。この蒸留水の投入、撹拌、静置、デカンテーションの一連の操作を4回繰り返した。この状態のタングステン粉は黒色から黄色がかった青色に変色し、表面が酸化されたことが分かった。次に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を100mL加え、ホモジナイザーで1時間撹拌した。前記したように、静置、デカンテーションで液を除去した後に、蒸留水投入、撹拌、静置、デカンテーションの一連の操作を4回繰り返した。この状態のタングステン粉は黒色で粒子表面に形成された酸化物は除去されていた。その後、粉の一部を真空乾燥機(約10
3Pa,50℃)に移し乾燥後、室温に戻した。次に、発火しないように徐々に空気を入れ、空気中に取り出した。作製した粉は、平均粒径(d)0.5μm、比表面積(S)0.6m
2/g、真密度(M)19.3g/cm
3であった。得られたタングステン粉の平均粒径、比表面積、及び真密度の積(dMS)は5.8であった。dMSの値が6±0.2の範囲内であったことから得られた粉の粒子はかなり球に近い形状であることが確認された。
【0023】
実施例2:
実施例1で最初に投入する蒸留水500mLを、エタノール100mLと蒸留水400mLとし、溶解している過硫酸アンモニウムの濃度を3質量%とし、さらに、デカンテーションまでの沈降時間を24時間にした以外は実施例1と同様にしてタングステン粉を得た。最初の液にエタノールを加えることにより初期のタングステン粉の分散性が良くなり、表面の酸化が進みやすくなった。作製した粉は、平均粒径(d)0.4μm、比表面積(S)0.7m
2/g、真密度(M)19.3g/cm
3であった。得られたタングステン粉の平均粒径、比表面積、及び真密度の積(dMS)は5.4であった。dMSの値が6±0.6の範囲内であったことから、得られた粉の粒子はほぼ球状であることが確認された。