(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動コアの前記固定コア側の端面、および前記固定コアの前記可動コア側の端面のエロ−ジョンを低減可能であり、かつ、前記可動コアと前記固定コアとの磁気吸引力が維持されるように、前記ファイナルギャップの容積を設定したことを特徴とする請求項5に記載の高圧ポンプ。
前記ニードルガイドの前記連通孔は、前記コイルへ断続的に通電したとき、前記拡径部と前記ニードルガイドとの当接によるノイズバイブレーションを低減可能な開口断面積に設定されることを特徴とする請求項5または6のいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、第1実施形態は請求項7−15に対応するものであり、第2実施形態は請求項1−6に対応するものである。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を
図1〜
図14に示す。第1実施形態の高圧ポンプ1は、内燃機関に燃料を供給する燃料供給系統に設けられる。燃料タンクから汲み上げられた燃料は、高圧ポンプ1により加圧され、デリバリパイプに蓄圧される。そしてデリバリパイプに接続するインジェクタから内燃機関の各気筒に噴射供給される。
【0008】
(高圧ポンプ及び電磁弁の構成)
図1に示すように、高圧ポンプ1は、ポンプボディ40、プランジャ42、ダンパ室50、電磁弁10及び吐出弁部60などを備えている。
ポンプボディ40には、円筒状のシリンダ41が設けられている。シリンダ41には、プランジャ42が軸方向に往復移動可能に収容されている。プランジャ42のポンプボディ40から突出した端部に設けられるスプリング座43と、プランジャ42の外周のオイルシール44を保持するオイルシールホルダ45との間にスプリング46が設けられている。このスプリング46により、プランジャ42は図示しないエンジンのカムシャフト側へ付勢される。そのため、プランジャ42は、カムシャフトのカムプロファイルに従い軸方向に往復移動する。プランジャ42の往復移動により、ポンプ室47の容積が変化することで燃料が吸入、加圧される。
【0009】
次に、ダンパ室50について説明する。
ポンプボディ40には、シリンダ41の反対側に突出する筒状の筒部51が設けられている。筒部51に有底筒状のカバー52が被さることで、ダンパ室50が形成される。
ダンパ室50には、パルセーションダンパ53、支持部材54及び波ばね55が収容されている。
パルセーションダンパ53は、2枚の金属ダイアフラムから構成され、内部に所定圧の気体が密封されている。パルセーションダンパ53は、2枚の金属ダイアフラムがダンパ室50の圧力変化に応じて弾性変形することで、ダンパ室50の燃圧脈動を低減する。
【0010】
ダンパ室50は、図示しない燃料通路を通じて図示しない燃料導入口と連通している。この燃料導入口には図示しない燃料タンクから燃料が供給される。そのため、ダンパ室50は、燃料導入口から燃料タンクの燃料が供給される。
【0011】
続いて、電磁弁10について説明する。
図2または
図3に示すように、電磁弁10は、ポンプ室47とダンパ室50とを連通する供給通路48に設けられ、供給通路48の開放および遮断を制御する。電磁弁10は、固定コア11、可動コア12、コイル13、付勢手段としての第2スプリング14、コアハウジング15、ニードルガイド16などを備えている。
【0012】
ポンプボディ40には、シリンダ41の中心軸と略垂直に凹部49が設けられている。凹部49の開口をコアハウジング15が覆うことで、ダンパ室50からポンプ室47までの供給通路48が区画される。
【0013】
ストッパ17、弁座部材18、筒部材19は、供給通路48の内壁にポンプ室側からこの順で設けられている。
ストッパ17は、有底筒状に形成され、その内側に吸入弁20を往復移動可能に収容すると共に、吸入弁20のポンプ室側(開弁方向)の移動を規制する。
ストッパ17の底と吸入弁20との間には第1スプリング21が設けられている。第1スプリング21は、吸入弁20を弁座側(閉弁方向)へ付勢している。なお、ストッパ17は、燃料を流通可能な孔22を有している。
【0014】
弁座部材18は、ポンプ室側に吸入弁20が着座および離座可能な環状の弁座23を有している。吸入弁20が弁座23に着座することで供給通路48が閉塞され、吸入弁20が弁座23から離座することで供給通路48が開放される。
筒部材19は、供給通路48の内壁に設けられためねじ481に螺合している。これにより、供給通路内に、ストッパ17、弁座部材18および筒部材19が固定される。
【0015】
コアハウジング15の内側にニードルガイド16が固定されている。ニードルガイド16は、可動コア12を収容する可動コア室24と、供給通路48とを仕切っている。ニードルガイド16は、可動コア室24と供給通路48とを連通する1個の連通孔25を有する。
連通孔25は、大径孔251、及びその大径孔251よりも内径の小さい小径孔252から構成されている。大径孔251はニードルガイド16の可動コア室側に設けられ、小径孔252はニードルガイド16の弁座側に設けられている。
第1実施形態において、小径孔252は、内径が1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下の円筒状である。すなわち、小径孔252の開口断面積は、0.36πmm
2以下であり、好ましくは0.25πmm
2以下である。
ニードルガイド16は、ニードル26を軸方向に移動可能に支持している。
【0016】
ニードル26は、一端が可動コア12に固定され、他端が吸入弁20に当接可能である。
ニードル26には、ニードルガイド16よりも弁座側でニードル26の外壁から径外方向に延びる拡径部27が設けられている。ニードル26が固定コア側に移動するとき、拡径部27とニードルガイド16とが当接する。
また、ニードル26には、供給通路内でニードル26の外壁から径外方向に延びるフランジ28が設けられている。このフランジ28とニードルガイド16との間に第2スプリング14が設けられている。第2スプリング14は、第1スプリング21よりも強い力で、ニードル26をポンプ室側に付勢している。すなわち、第2スプリング14は、ニードル26が固定された可動コア12を、固定コア11から離れる方向へ付勢している。
【0017】
可動コア12は、磁性体から形成され、コアハウジング15の内側に設けられた可動コア室24に収容される。可動コア12は、軸方向に往復移動可能である。可動コア12は、移動方向に通じる複数の呼吸孔29を有する。第1実施形態において、可動コア12の外径は9.7mmである。ニードル26の外径は3.0mmである。ただし、可動コア12の外径およびニードル26の外径は、これに限らず、磁気吸引力または高圧ポンプの体格など、種々の要因によって設定される。
【0018】
固定コア11は、磁性体から形成され、コアハウジング15と非磁性体からなる環状部111を挟んで設けられる。ニードル26が固定コア側に移動して拡径部27とニードルガイド16とが当接するとき、固定コア11と可動コア12との間には僅かな空間が設けられる。このときの空間をファイナルギャップと称する。
第1実施形態において、ファイナルギャップにおける固定コア11と可動コア12と距離は、0.08〜0.16mmである。すなわち、可動コア12の外径が9.7mmのとき、ファイナルギャップの容積は、1.8818π〜3.7636πmm
3である。ただし、ファイナルギャップの容積は、これに限られない。
【0019】
固定コア11の径外側にコネクタ30が設けられている。コネクタ30は、有底筒状のヨーク31により保持されている。ヨーク31は、コアハウジング15に固定されている。
コネクタ30の内側に設けられたボビン32にコイル13が巻回されている。コネクタ30の端子33を通じてコイル13に通電されると、コイル13は磁界を発生する。
【0020】
コイル13に通電していないとき、可動コア12と固定コア11とは、第2スプリング14の弾性力により互いに離れている。ニードル26は、ポンプ室側へ移動し、ニードル26の端面が吸入弁20を押圧することで吸入弁20が開弁する。
コイル13に通電されると、固定コア11、可動コア12、ヨーク31及びコアハウジング15によって形成される磁気回路に磁束が流れ、可動コア12が第2スプリング14の弾性力に抗し、固定コア11側に磁気吸引される。これにより、ニードル26は、吸入弁20に対する押圧力を解除する。
【0021】
次に吐出弁部60について説明する。
図1に示すように、吐出弁部60は、吐出弁61、規制部材62、スプリング63などから構成されている。
ポンプボディ40には、シリンダ41の中心軸と略垂直に吐出通路64が形成されている。吐出弁61は、吐出通路64に往復移動可能に収容されている。吐出弁61は、弁座65に着座又は離座することで、吐出通路64を開閉する。
吐出弁61の燃料吐出口66側に設けられた規制部材62は、吐出弁61の燃料吐出口66側への移動を規制する。
スプリング63は、一端が規制部材62に当接し、他端が吐出弁61に当接し、吐出弁61を弁座側へ付勢している。
【0022】
ポンプ室47の燃料の圧力が上昇し、ポンプ室側の燃料から吐出弁61が受ける力がスプリング63の弾性力と弁座65の下流側の燃料から受ける力との和よりも大きくなると、吐出弁61は弁座65から離座する。これにより、燃料吐出口66から燃料が吐出される。
一方、ポンプ室47の燃料の圧力が低下し、ポンプ室側の燃料から吐出弁61が受ける力がスプリング63の弾性力と弁座65の下流側の燃料から受ける力との和よりも小さくなると、吐出弁61は弁座65に着座する。これにより、弁座65の下流側の燃料がポンプ室47へ逆流することが防がれる。
【0023】
(高圧ポンプの作動)
次に高圧ポンプ1の作動について説明する。
なお、ここでの説明は、コイル13への通電から可動コア12、ニードル26または吸入弁20が動作するまでの時間遅れを考慮しないものとする。
(1)吸入行程
カムシャフトの回転により、プランジャ42が上死点から下死点に向かって下降すると、ポンプ室47の容積が増加し、燃料が減圧される。吐出弁61は弁座65に着座し、吐出通路64を閉塞する。
一方、吸入弁20は、ポンプ室47と供給通路48との差圧により、第1スプリング21の付勢力に抗してポンプ室側へ移動し、開弁状態となる。このとき、コイル13への通電は停止されているので、可動コア12と一体のニードル26は、第2スプリング14の付勢力によりポンプ室側へ移動し、吸入弁20をポンプ室側へ押圧する。そのため、吸入弁20は開弁状態を維持する。これにより、ダンパ室50から供給通路48を経由し、ポンプ室47に燃料が吸入される。
【0024】
(2)調量行程
カムシャフトの回転により、プランジャ42が下死点から上死点に向かって上昇すると、ポンプ室47の容積が減少する。このとき、所定の時期まではコイル13への通電が停止されているので、第2スプリング14の付勢力によりニードル26と吸入弁20は開弁位置にある。これにより、供給通路48は開放された状態が維持される。このため、一度ポンプ室47に吸入された低圧燃料が、供給通路48を経由し、ダンパ室50へ戻される。したがって、ポンプ室47の圧力は上昇しない。
【0025】
(3)加圧行程
プランジャ42が下死点から上死点に向かって上昇する途中の所定の時刻に、コイル13へ通電される。するとコイル13に発生する磁界により、固定コア11と可動コア12との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が第2スプリング14の弾性力と第1スプリング21の弾性力との差よりも大きくなると、可動コア12とニードル26は固定コア側へ移動する。これにより、吸入弁20に対するニードル26の押圧力が解除される。吸入弁20は、第1スプリング21の弾性力、及びポンプ室47からダンパ室側へ排出される低圧燃料の流れによって生ずる力により、弁座側へ移動する。したがって、吸入弁20は弁座23に着座し、供給通路48が閉塞される。
【0026】
吸入弁20が弁座23に着座した時から、ポンプ室47の燃料圧力は、プランジャ42の上死点に向かう上昇と共に高くなる。ポンプ室47の燃料圧力が吐出弁61に作用する力が、吐出通路64の燃料圧力が吐出弁61に作用する力およびスプリング63の付勢力よりも大きくなると、吐出弁61が開弁する。これにより、ポンプ室47で加圧された高圧燃料は吐出通路64を経由して燃料吐出口66から吐出する。
なお、加圧行程の途中でコイル13への通電が停止される。ポンプ室47の燃料圧力が吸入弁20に作用する力は、第2スプリング14の付勢力よりも大きいので、吸入弁20は閉弁状態を維持する。
高圧ポンプ1は、(1)から(3)の行程を繰り返し、内燃機関に必要な量の燃料を加圧して吐出する。
【0027】
(エロ−ジョンの低減)
次に、固定コア11と可動コア12との間のファイナルギャップのストレス状態について説明する。ストレス状態とは、キャビテーションにより生じるエロ−ジョンによって、可動12コアの固定コア側の端面、または固定コア11の可動コア側の端面が受けるストレスの状態をいうものとする。このストレスの状態は、キャビテーションの気泡崩壊強度が大きいほど大きいといえる。
気泡崩壊強度は、ボイド率と、それを潰す力との積であらわされる。ボイド率とは、ギャップの容積に対するギャップの気泡量の占める割合である。潰す力とは、流体加速度である。
すなわち、 (気泡崩壊強度)=(ボイド率(%))×(流体加速度(mm/s
2)) である。
【0028】
気泡量は、固定コア11と可動コア12との間のギャップの圧力変動が大きいほど増加する。
ギャップの圧力変動は、下記の式(1)によりあらわされる。
ΔP=(ΔV/Vo)×E ・・・式(1)
但し、ΔP:ギャップの圧力変動
ΔV:可動コアが固定コア側に移動したときのギャップの容積の変化量の絶対値
Vo:可動コアと固定コアとが最も離れたときのギャップの容積
E :ギャップに流れる液体の体積弾性率
この場合、ΔPが大きくなるほど、ギャップの気泡量が増大する。
【0029】
ここで、
図15に比較例の高圧ポンプ2を示す。比較例の高圧ポンプ2は、コイル13に通電した時、固定コア11と可動コア12とが当接する所謂「ソリッドギャップ式」である。なお、比較例の高圧ポンプ2において上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付している。
比較例の高圧ポンプ2は、吸入弁20とニードル26とが弁ボディ3の内側で分離している。比較例のニードル26には、第1実施形態の拡径部27が設けられていない。そのため、比較例の高圧ポンプ2では、コイル13に通電すると、固定コア11と可動コア12とが当接する。したがって、比較例の高圧ポンプ2は、固定コア11と可動コア12との間の圧力変動が大きくなり、ボイド率の増加と共に気泡崩壊強度が大きくなる。その結果、可動コア12の固定コア側の端面、及び固定コア11の可動コア側の端面に加わるストレスが大きくなる。
これに対し、第1実施形態の電磁弁10は、固定コア11と可動コア12とが当接することのない所謂「エアギャップ式」であるので、固定コア11と可動コア12との間の圧力変動が小さくなり、ボイド率が減少すると共に気泡崩壊強度が小さくなる。
【0030】
続いて、第1実施形態の電磁弁10における可動コアと固定コアのギャップのストレス状態について、
図4の解析データに基づいて説明する。
図4(A)は、ニードルの挙動を示す。なお、第1実施形態においてニードルと可動コアとは一体で動作する。カム角度が270(deg)を過ぎてから可動コアは固定コア側へ磁気吸引され、これとともにニードルも固定コア側へ移動する。カム角度290(deg)で拡径部27とニードルガイドとが当接し、ニードルは固定コア側へ最も近づく。その後、カム角度310〜330(deg)の間でコイルへの通電がオフされるので、ニードルは僅かにポンプ室側へ移動する。そしてカム角度330〜350(deg)の間で吸入弁が弁座から離座すると共に、ニードルは吸入弁と共にポンプ室側へ移動する。
【0031】
図4(B)は、可動コアと固定コアとのギャップのボイド率を示す。
ボイド率は、カム角度が290〜350(deg)の間、ニードルが固定コア側に移動している間に大きく変化し、増加および減少を繰り返している。
図4(C)は、可動コアの呼吸孔を流れる燃料の流体加速度を示す。
流体加速度は、ニードルが固定コア側へ最も近づくカム角度290(deg)で大きくなり、また、コイルへの通電がオフされるカム角度310〜330(deg)の間で大きくなる。
【0032】
図4(D)は、可動コアと固定コアのギャップの気泡崩壊強度を示す。
気泡崩壊強度は、ボイド率と流体加速度とが共に大きくなるカム角度290(deg)で最も大きくなる。また、気泡崩壊強度は、カム角度290(deg)のときよりも現象が小さいが、ボイド率と流体加速度とが共に大きくなるカム角度310〜330の間でも大きくなっている。
図4の結果から、可動コアと固定コアのギャップの気泡崩壊強度は、ボイド率と流体加速度とが共に大きくなるときに最も大きくなることが明らかとなった。
【0033】
次に、ファイナルギャップ量(可動コアが固定コアに最も近づいたときの可動コアと固定コアの間の距離)と、ファイナルギャップの気泡崩壊強度との関係について、
図5の解析データに基づいて説明する。
気泡崩壊強度の目標値を200未満とした場合、ファイナルギャップ量を0.8mm以上としたときにそれを達成することができる。ただし、ファイナルギャップ量を0.16mm以上とすると、可動コアと固定コアとの磁気吸引力が弱くなることが懸念される。そのため、ファイナルギャップ量は0.08〜0.16mmに設定される。このとき、可動コアの外径が例えば9.7mmのとき、ファイナルギャップの容積は、1.8818π〜3.7636πmm
3である。ただし、可動コアの外径は、これに限られない。
【0034】
次に、ニードルガイドの連通孔の断面積と、ファイナルギャップの気泡崩壊強度との関係について、
図6の解析データに基づいて説明する。
図6の実線Aは、可動コアに内径1mmの呼吸孔が4個設けられており、その呼吸孔の断面積の合計が約3.14mm
2の場合のグラフである。
図6の実線Bは、可動コアに内径1mmの呼吸孔が6個設けられており、その呼吸孔の断面積の合計が約4.71mm
2の場合のグラフである。
これらの結果から、気泡崩壊強度の目標値を200未満とした場合、可動コアの呼吸孔の断面積の合計が約4.71mm
2であり、かつ、ニードルガイドの連通孔の断面積が0.36πmm
2(約1.13mm
2)以下としたときにその目標を達成することが可能である。なお、ニードルガイドの連通孔の断面積が0.36πmm
2以下とは、ニードルガイドに内径が1.2mm以下の連通孔が1個のみ設けられたものである。
一方、可動コアの呼吸孔の断面積を大きくすると気泡崩壊強度は小さくなるが、ニードルガイドの連通孔の断面積の変化に比べて、その効果は小さいということが明らかとなった。
【0035】
図7に、第1実施形態の構成において、ニードルガイドの連通孔の個数を変え、所定時間高圧ポンプ1を運転したときの可動コアの固定コア側の端面の状態を示す。
図7(A)は、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を1個のみ設けたときの状態である。
図7(B)は、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を3個設けたときの状態である。
この実験は、燃料圧力:20MPa、 燃料:ガソリン、 カム山:4山4mm、 回転数3500rpm、 高圧ポンプ吐出量:Full、 時間180H(3.7×10
8回)、 ファイナルギャップ0.1mm、 可動コアの呼吸孔:6個(合計4.71mm
2) の条件において行ったものである。
この実験結果より、第1実施形態の所謂「エアギャップ式」の電磁弁10を備えた高圧ポンプ1において、ニードルガイドの連通孔の断面積を小さくすると、可動コアの固定コア側端面のエロ−ジョンが抑制されることが明らかとなった。
【0036】
(ノイズバイブレーションの低減)
次に、高圧ポンプのノイズバイブレーションについて説明する。
図8に、第1実施形態の高圧ポンプから発生する音、及び比較例の高圧ポンプから発生する音の周波数特性を示す。上述の通り、第1実施形態の高圧ポンプは、所謂「エアギャップ式」であり、比較例の高圧ポンプは、所謂「ソリッドギャップ式」である。
なお、
図8、
図10〜
図13に示す第1実施形態の高圧ポンプとしては、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を3個設けたものを使用した。
一方、比較例の高圧ポンプは、
図15に示した電磁弁を用いた高圧ポンプである。
図8では、第1実施形態の高圧ポンプから発生する音の周波数特性を破線Cに示し、比較例の高圧ポンプから発生する音の周波数特性を実線Dに示す。
第1実施形態の高圧ポンプは、比較例の高圧ポンプと比較して、3〜5kHz付近の周波数と、7〜9kHz付近の周波数が高いことが明らかとなった。
【0037】
次に、コイルに通電した時に生じる吸入弁の閉弁音の解析結果について、比較例の高圧ポンプの音圧レベルを
図9に示し、第1実施形態の高圧ポンプの音圧レベルを
図10に示す。
この結果、比較例の高圧ポンプの音圧レベルは
図9の矢印Eに示すように減衰が早く、第1実施形態の高圧ポンプの音圧レベルは
図10の矢印Fに示すように減衰が遅いことが明らかとなった。
【0038】
図9および
図10の衝突域(0.010〜0.012sec)の周波数特性を
図11に示す。
図11では、第1実施形態の高圧ポンプの衝突域での周波数特性を破線Gに示し、比較例の高圧ポンプの衝突域での周波数特性を破線Hに示す。
この結果、衝突域において、比較例の高圧ポンプの周波数特性と、第1実施形態の高圧ポンプの周波数特性に大きな違いは見られなかった。
【0039】
図9および
図10の減衰域(0.012〜0.018sec)の周波数特性を
図12に示す。
図12では、第1実施形態の高圧ポンプの周波数特性を破線Iに示し、比較例の高圧ポンプの周波数特性を破線Jに示す。
この結果、減衰域において、第1実施形態の高圧ポンプは、比較例の高圧ポンプと比較して、3〜5kHz付近の周波数、及び、7〜9kHz付近の周波数が高いことが明らかとなった。この結果、
図8の解析結果で示された、比較例の高圧ポンプと比較した場合の第1実施形態の高圧ポンプの周波数特性の悪化は、吸入弁の閉弁音のうち、減衰域(0.012〜0.018sec)の周波数特性の悪化が原因であることが明らかとなった。
【0040】
図13では、第1実施形態の高圧ポンプにおいて、ニードルガイドの連通孔の断面積を変えたときの周波数特性を示す。
第1実施形態の高圧ポンプにおいて、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を3個設けたときの閉弁音の減衰域(0.012〜0.018sec)の周波数特性を破線Kに示す。この破線Kは、
図12に示した第1実施形態の高圧ポンプの閉弁音の減衰域の周波数特性を示した破線Iと同一のものである。
第1実施形態の高圧ポンプにおいて、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を1個のみ設けたときの閉弁音の減衰域(0.012〜0.018sec)の周波数特性を破線Lに示す。
この結果、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を1個のみ設けた場合、3〜5kHz付近の周波数と、6〜9kHz付近の周波数が低減することが明らかとなった。
【0041】
図14では、第1実施形態の高圧ポンプのニードルガイドに連通孔を1個のみ設けた場合において、その1個の連通孔の断面積を変えたときに生じるノイズバイブレーションの0〜10kHzの周波数におけるオーバーオール値を示す。
ノイズバイブレーションのオーバーオール値の目標値をTとすると、ニードルガイドに内径1.2mmの連通孔を1個のみ設けた場合、その目標値以下とすることが可能であることが明らかとなった。また、好ましくは、ニードルガイドに内径1.0mm以下の連通孔を1個のみ設けた場合、さらにノイズバイブレーションのオーバーオール値が低下することが明らかとなった。
【0042】
(第1実施形態の作用効果)
第1実施形態は、以下の作用効果を奏する。
(1)第1実施形態では、可動コア12または固定コア11の端面のエロ−ジョンを低減可能なようにニードルガイド16の有する連通孔25の開口断面積を設定している。具体的に、連通孔25の開口断面積は、0よりも大きく、0.36πmm
2以下である。すなわち、連通孔25の開口断面積は、可動コア12の断面積からニードル26の断面積を除いた面積に対し、0%より大きく、1.69%以下である(小数点以下3桁を四捨五入した)。
これにより、弁座23が設けられた供給通路48からニードルガイド16の連通孔25を通り、可動コア12が収容される可動コア室24へ流入する燃料の流体加速度が低減される。そのため、可動コア室24から可動コア12の呼吸孔29を通り、可動コア12と固定コア11とのギャップへ流入する燃料の流体加速度が低減される。したがって、可動コア12と固定コア11とのギャップの気泡崩壊強度が小さくなるので、可動コア12の固定コア側の端面、および固定コア11の可動コア側の端面に生じるエロ−ジョンを抑制することができる。その結果、長期間の使用による可動コア12と固定コア11との磁気吸引力の低下が抑制され、高圧ポンプ1の吐出効率を維持することができる。
【0043】
(2)第1実施形態では、可動コア12が固定コア側に磁気吸引されたとき、ニードル26の外壁に設けられた拡径部27とニードルガイド16とが当接し、可動コア12と固定コア11との間にファイナルギャップが設けられる。これにより、ファイナルギャップの燃料に存在する気泡が崩壊することを抑制することができる。
【0044】
(3)第1実施形態では、可動コア12の固定コア側の端面、および固定コア11の可動コア側の端面のエロ−ジョンを低減可能、かつ、可動コア12と固定コア11との磁気吸引力が維持されるように、可動コア12と固定コア11とのファイナルギャップの容積が設定される。具体的に、ファイナルギャップにおける可動コア12と固定コア11との距離は、0.08〜0.16mmである。可動コア12の外径が例えば9.7mmのとき、ファイナルギャップの容積は、1.8818π〜3.7636πmm
3である。なお、可動コア12の外径は、これに限られない。
これにより、可動コア12の固定コア側の端面に生じるエロ−ジョンを抑制することができる。
【0045】
(4)第1実施形態では、コイル13へ断続的に通電したとき、拡径部27とニードルガイド16との当接によるノイズバイブレーションを低減可能なようにニードルガイド16の連通孔25の開口断面積を設定している。具体的に、連通孔25の開口断面積は、0.36πmm
2以下であり、好ましくは、0.25πmm
2以下である。
これにより、コイル通電時に拡径部27とニードルガイド16とが当接するときに生じる所定周波数の音を低減することが可能になる。そのため、電磁弁10のノイズバイブレーションを低減することができる。
【0046】
(5)第1実施形態では、ニードルガイド16は、1個のみの円筒状の連通孔25を有し、その内径は1.2mm以下、好ましくは1.0mm以下である。
これにより、可動コア12の固定コア側の端面、および固定コア11の可動コア側の端面に生じるエロ−ジョンを抑制するとともに、電磁弁10のノイズバイブレーションを低減することができる。
【0047】
(6)第1実施形態では、第2スプリング14は、ニードル26の外壁に設けられたフランジ28と、ニードルガイド16との間に設けられる。
例えば比較例の高圧ポンプ2のように、可動コア12と固定コア11との間に第2スプリング14を収容可能なスプリング収容室4を形成し、そこに第2スプリング14を設けた場合、スプリング収容室4の内壁にエロ−ジョンが発生するおそれがある。
そこで、第1実施形態では、第2スプリング14を供給通路48に設けることで、エロ−ジョンの発生を防ぐことができる。
【0048】
(7)第1実施形態では、ニードルガイド16の連通孔25は、大径孔251、及びその大径孔251よりも内径の小さい小径孔252から構成される。
一般に、小径の孔は精密加工が必要となるので、製造コストが高くなることが懸念される。そこで、連通孔25を大径孔251及び小径孔252から構成することで、ニードルガイド16に対する小径孔252の長さが短くなり、製造コストを低減することができる。
【0049】
(8)第1実施形態では、大径孔251はニードルガイド16の可動コア側に設けられ、小径孔252はニードルガイド16の弁座側に設けられる。
これにより、連通孔25を設けることによるニードルガイド16の弁座側の面積の減少を防ぎ、第2スプリング14とニードルガイド16とを確実に当接させることが可能になる。したがって、第2スプリング14の傾きなどを防ぐことができる。
【0050】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を
図16〜
図20に示す。第2実施形態において、上述した第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第2実施形態の高圧ポンプの構成)
第2実施形態の高圧ポンプも、第1実施形態と同様、可動コア12と固定コア11とが当接することのない所謂「エアギャップ式」である。また、第2実施形態の可動コア12の外径は9.57mmであり、ニードル26の外径は3.3mmである。
【0051】
まず、吸入弁20とストッパ17の構成について、
図16を参照して詳細に説明する。
吸入弁20は、弁本体201および第1案内部202を有する。
吸入弁20の弁本体201は、円板状に形成され、弁座部材18の弁座23に着座および離座可能である。吸入弁20は、弁本体201の反弁座側の端面が、ストッパ17の当接部171に当接する。これにより、吸入弁20は、開弁方向の移動を制限される。
【0052】
吸入弁20の第1案内部202は、弁本体201から反弁座側へ筒状に延びている。第1案内部202の外周面は、ストッパ17の第2案内部172の内周面と摺接する。吸入弁20は、その第1案内部202がストッパ17の第2案内部172に案内されることにより、弁座23からの脱落または傾きが防がれ、弁座23に確実に着座または離座することが可能になる。
【0053】
ストッパ17は、当接部171、第2案内部172、固定部173、孔22を有する。
ストッパ17の当接部171は、円板状に形成され、弁本体201の反弁座側の端面に当接する。
ストッパ17の第2案内部172は、当接部171から反弁座側へ筒状に延び、吸入弁20の第1案内部202の外周面と摺接する。
ストッパ17の固定部173は、当接部171から径外方向に延びて供給通路48の内壁に固定される。この固定部173は、ポンプ室47をプランジャ側のプランジャ室121と弁座側の弁座室122とに仕切っている。
【0054】
ストッパ17の固定部173には、板厚方向に通じる複数の孔22が設けられる。孔22は、固定部173の周方向に例えば等間隔で12個設けられ、プランジャ室121と弁座室122とを連通する。
ストッパ17の第2案内部172の内壁には、軸溝部70が周方向に例えば4個設けられている。
ストッパ17の当接部171の弁本体側の端面には、径溝部71が設けられている。径溝部71は、当接部171の周方向に例えば4個設けられている。径溝部71は、軸溝部70と孔22とを接続するように設けられている。
【0055】
吸入弁20とストッパ17との間には、第1スプリング21が収容されたバルブ室200が形成される。ポンプ室47とバルブ室200とは、上述した径溝部71、軸溝部70、及び第1案内部202と第2案内部172とのクリアランスによって連通している。
第2実施形態の「径溝部71」と「軸溝部70」は、特許請求の範囲に記載の「バルブ室とポンプ室とを連通する通路」に相当する。
ここで、4本の径溝部71の流路断面積を合せた面積は、第1案内部202と第2案内部172とのクリアランスの流路断面積と4本の軸溝部70の流路断面積とを合わせた面積よりも小さい。
そのため、吸入弁20が開弁状態のとき、バルブ室200とポンプ室47との間を流れる燃料の流量は、4本の径溝部71の流路断面積を合せた面積によって定まる。したがって、径溝部71の流路断面積を小さくすることで、高圧ポンプの調量行程時においてバルブ室200への燃料の流入が絞られるので、バルブ室200の燃料圧力の上昇が抑制され、自閉限界回転数を高くすることが可能になる。なお、自閉限界回転数とは、高圧ポンプの調量行程時において、バルブ室200の燃料圧力、またはポンプ室47から供給通路48へ流れる燃料の動圧などにより、吸入弁20が閉弁する現象が発生する時のカムシャフトの回転数をいう。
【0056】
一方、吸入弁20が閉弁状態のとき、弁本体201の反弁座側の端面とストッパ17の当接部171との間は全周で開いているので、バルブ室200からポンプ室47へ流れる燃料の流量は、第1案内部202と第2案内部172とのクリアランスの流路断面積と4本の軸溝部70の流路断面積とを合わせた面積によって定まる。したがって、軸溝部70の流路断面積を大きくすることで、高圧ポンプの吸入行程時においてバルブ室200からポンプ室47に燃料が流れるので、バルブ室200の燃料が流体抵抗となることなく、燃料の吸入効率を高めることができる。すなわち、第2実施形態の高圧ポンプは、第1実施形態の高圧ポンプよりも吸入効率が高いので、燃料吐出量が増加する。
【0057】
(連通孔の開口断面積)
次に、ニードルガイド16の有する連通孔25の開口断面積について説明する。
第2実施形態の高圧ポンプでは、コイル13への通電時期と燃料吐出量との関係が維持されるように、ニードルガイド16の有する連通孔25の開口断面積が調節される。
図17は、第2実施形態の高圧ポンプにおいて、ニードルガイド16の連通孔25の内径を変えたときのコイル13への通電時期と燃料吐出量との関係を示すものである。なお、以下の説明において、連通孔25の内径とは、連通孔25の小径孔252の内径をいうものとする。
図17では、連通孔25の内径が0.4mmの場合の波形を破線Sに示し、内径が0.5mmの場合の波形を実線Tに示し、内径が0.6mmの場合の波形を一点鎖線Uに示し、内径が0.9mmの場合の波形を二点鎖線Vに示す。
【0058】
一般に、高圧ポンプは、調量行程時にニードル26が吸入弁20を押圧する力を解除すると、吸入弁20が弁座23に着座し、吐出行程が開始される。そのため、コイル13への通電時刻を遅くするに従い、吐出行程の開始時刻が遅くなり、燃料吐出量が減少する。高圧ポンプの燃料吐出量の制御を行うためには、その関係が維持されることが好ましい。
しかしながら、一点鎖線Uと二点鎖線Vでは、コイル13への通電時刻がBTDCθ1〜θ2の間で、コイル13への通電時刻を遅くするに従い燃料吐出量が増加する関係が生じており、その波形にこぶが生じている。
一方、破線Sと実線Tでは、コイル13への通電時刻を遅くするに従い燃料吐出量が減少する関係が維持されている。
【0059】
図18は、
図17のXVIII部分の拡大図であり、ニードルガイド16の連通孔25の内径が0.9mmの場合の波形Vと、連通孔25の内径が0.4mmの場合の波形Sのみを示すものである。
コイル13への通電時期がBTDC70〜θ1の間では、波形Vと波形Sのいずれも、コイル13への通電時刻を遅くするに従い燃料吐出量が減少する関係が維持されている。
コイル13への通電時期がBTDCθ1〜θ2の間では、波形Vにおいて、コイル13への通電時刻を遅くするに従い燃料吐出量が減少する関係が維持されていない。その理由を、
図19を参照して説明する。なお、以下、
図19を参照した説明において、
図19(a)、
図19(b)、
図19(c)を、単に(a)、(b)、(c)ということとする。
【0060】
(a)はカムシャフトの有するカムのリフト量を示すものである。
(b)はコイル13への通電時期を示すタイムチャートであり、BTDCθ2にコイル13への通電をONした場合を示すものである。
(c)は、コイル13への通電時期がBTDCθ2の場合において、ニードル26の挙動を示すものである。実線Wは、ニードルガイド16の連通孔25の内径が0.9mmの場合のニードル26の挙動を示す。破線Xは、連通孔25の内径が0.4mmの場合のニードル26の挙動を示す。
【0061】
先ず、実線Wに基づき、ニードルガイド16の連通孔25の内径が0.9mmの場合のニードル26の挙動を説明する。
時刻t1では、可動コア12が固定コア側へ磁気吸引され、ニードル26は固定コア側に位置している。このとき、(a)に示すように、カムリフトの上昇によりプランジャ42が上昇しており、高圧ポンプは吐出行程を開始する。
時刻t2で通電がOFFされると、磁気吸引力が消滅し、時刻t3以降、ニードル26はポンプ室側に移動して吸入弁20に当接する。なお、時刻t2から時刻t3までの時間は、通電OFFからニードル26が挙動するまでの時間遅れである。
時刻t4以降、カムリフトの下降によりプランジャ42が下降し、ポンプ室47が減圧される。そのため、吸入弁20とニードル26がポンプ室側へ移動する。
ニードルガイド16の連通孔25の内径が大きいと、可動コア室24と供給通路48との間を流れる燃料の流体抵抗が小さくなる。そのため、実線Wの場合、時刻t6で一旦ポンプ室側に移動したニードル26は、可動コア12と共に固定コア側へバウンスを開始する。時刻t7において、ニードル26は、最大ニードルリフト量の半分近くまでバウンスする。
時刻t8以降、カムリフトの上昇により、プランジャ42が上昇し、調量行程が開始される。
BTDCθ2、即ち、時刻t5でコイル13に通電がONされると、一定の時間遅れの後、可動コア12に磁気吸引力が作用する。その時、時刻t9では、ニードル26はポンプ室側に移動する途中、すなわちバウンスしている最中に固定コア側へ移動を開始する。そのため、ニードル26は、時刻t10で固定コア側に位置する。これにより、燃料吐出行程が開始される。
【0062】
次に、破線Xに基づき、ニードルガイド16の連通孔25の内径が0.4mmの場合のニードル26の挙動を説明する。
時刻t11において、ニードル26は固定コア側に位置する。これ以降、高圧ポンプは吐出行程を開始する。
時刻t2で通電がOFFされると、磁気吸引力が消滅し、時刻t3以降、ニードル26はポンプ室側に移動して吸入弁20に当接する。
カムリフトの下降によりポンプ室47が減圧されると、時刻t4以降、吸入弁20とニードル26がポンプ室側へ移動する。
ニードルガイド16の連通孔25の内径が小さいと、可動コア室24と供給通路48との間を流れる燃料の流体抵抗が大きくなる。そのため、破線Xの場合、時刻t12でポンプ室側に移動したニードル26は、固定コア側へバウンスするバウンス量が小さいものとなる。ニードル26は、時刻t13において、僅かにバウンスし、その後、ポンプ室側に位置し続ける。
時刻t8以降、カムリフトの上昇により、プランジャ42が上昇し、調量行程が開始される。
BTDCθ2、即ち、時刻t5でコイル13に通電がONされると、一定の時間遅れの後、可動コア12に磁気吸引力が作用する。すると、時刻t14以降、ニードル26は固定コア側へ移動を開始し、時刻t15で固定コア側に位置する。これにより、燃料吐出行程が開始される。
【0063】
以上
図19を参照して説明したように、ニードルガイド16の連通孔25の内径が0.9mmの場合、一旦ポンプ室側に移動したニードル26は、可動コア12と共に固定コア側へ大きくバウンスする。そのため、BTDCθ2で通電がONになると、一定の時間遅れの後、可動コア12に磁気吸引力が作用し、ニードル26はバウンスしている最中に固定コア側へ移動を開始する。したがって、燃料吐出行程の開始時刻が意図した時刻よりも早くなり、燃料吐出量が増加する。
一方、ニードルガイド16の連通孔25の内径が0.4mmの場合、ポンプ室側に移動したニードル26は、僅かにバウンスし、その後、ポンプ室側に位置し続ける。そのため、BTDCθ2で通電がONになり、一定の時間遅れの後、可動コア12に磁気吸引力が作用すると、ニードル26はポンプ室側から固定コア側へ移動を開始する。したがって、正常な時刻に燃料吐出行程が開始されるので、燃料吐出量が増加することはない。
【0064】
続いて、
図20では、連通孔25の開口断面積(mm
2)と吸入弁20の閉弁応答時間(ms)との関係を示す。
連通孔25の開口断面積を小さくすると、可動コア室24と供給通路48との間を流れる燃料の流体抵抗が大きくなるので、コイル13への通電ONからニードル26が移動を開始する時間遅れが大きくなる。
カムシャフトの回転数が例えば4000rpmのとき、閉弁応答時間が2.2ms以上になると、燃料ポンプの制御が困難になる。また、連通孔25の内径がφ0.4mmよりも小さいと、切削加工により連通孔25を形成することが困難になる。そのため、連通孔25の内径はφ0.4mm以上とする。
また、上記の
図17で示したように、連通孔25の内径がφ0.5mm以下のとき、コイル13への通電時刻を遅くするに従い、燃料吐出量が減少する関係が維持される。したがって、連通孔25の内径はφ0.4〜0.5mmであることが好ましい。
このとき、連通孔25の開口断面積は、可動コア12の断面積からニードル26の断面積を除いた面積に対し、0.20〜0.31%である(小数点以下3桁を四捨五入した)。
【0065】
第2実施形態では、次の作用効果を奏する。
(1)第2実施形態では、コイル13への通電時刻を遅くするに従い、調量行程から吐出行程が始まる時刻が遅くなり燃料吐出量が減少するという関係が維持される範囲にニードルガイド16の有する連通孔25の内径を設定している。第2実施形態の高圧ポンプは、連通孔25の内径を0.5mm以下とする。すなわち、可動コア12の断面積からニードル26の断面積を除いた面積に対し、連通孔25の開口断面積は、0より大きく、0.31%以下である。
これにより、吸入行程の際、第2スプリング14の付勢力によりニードル26が吸入弁20をストッパ側へ押圧した後、可動コア12とニードル26とが固定コア側へバウンスすることが抑制される。したがって、コイル13への通電時刻と燃料吐出量との関係が維持され、高圧ポンプの燃料吐出量を正確に制御することができる。
【0066】
(2)第2実施形態では、可動コア12の断面積からニードル26の断面積を除いた面積に対し、連通孔25の開口断面積を、0.20%以上とする。これにより、吸入弁20の閉弁応答時間が短くなり、カムシャフトが高回転のとき、高圧ポンプを制御することが可能になる。
(3)また、第2実施形態では、連通孔25の開口断面積を0.4mm以上とする。これにより、ニードルガイド16の連通孔25を例えば放電加工などで形成することなく、切削加工により形成することが可能になり、製造コストを低減することができる。
【0067】
(4)第2実施形態では、ストッパ17の当接部171に設けた径溝部71、及び、ストッパ17の第2案内部172に設けた軸溝部70により、ポンプ室47とバルブ室200とを連通している。径溝部71の流路断面積は、軸溝部70の流路断面積よりも小さい。
これにより、高圧ポンプの吸入行程開始直後、吸入弁20が閉弁状態から開弁状態へ移動を開始するとき、バルブ室200からポンプ室47へ燃料が流れるので、バルブ室200の燃料が流体抵抗となることなく、吸入弁20の開弁速度が速くなる。この結果、供給通路48からポンプ室47への燃料の吸入効率を高めることができる。
一方、高圧ポンプの調量行程時、ポンプ室47からバルブ室200に流入する燃料が絞られるので、バルブ室200の燃料圧力の上昇が抑制され、自閉限界回転数を高くすることが可能になる。
したがって、高圧ポンプは、吸入効率の向上と自閉限界回転数の向上とを両立し、プランジャ42の往復移動速度が速くなる内燃機関の高回転時に、高圧ポンプの燃料吐出量を確実に制御することができる。
【0068】
(他の実施形態)
上述した実施形態では、高圧ポンプの電磁弁10は、コイル13に通電していないとき、可動コア12が吸入弁20を開弁するノーマリーオープン弁として説明した。これに対し、他の実施形態では、高圧ポンプの電磁弁は、コイルに通電していないとき、可動コアが吸入弁を閉弁するノーマリークローズ弁としてもよい。
上述した実施形態では、吸入弁20とニードル26とを別体で構成した。これに対し、他の実施形態では、吸入弁とニードルとを一体で構成してもよい。
上述した第2実施形態では、ストッパの当接部に径溝部を設け、ストッパの第2案内部に軸溝部を設けた。これに対し、他の実施形態では、吸入弁の反弁座側の端面またはストッパの当接部に径溝部を設け、吸入弁の第1案内部の外壁に軸溝部を設けてもよい。また、第1案内部と第2案内部との摺動箇所にオリフィスを設けてもよい。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。