【実施例】
【0033】
材料および方法
被験者または患者試料、細胞培養、および5−アザ−シチジン(5−azaC)処理
肝癌細胞株HepG2、HuH7、J7、Hep3B、MahlavuおよびSK−Hep−1を、加湿した5%CO
2インキュベーターにおいて37℃にてダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)でインキュベートした。処理を行う24時間前に、HuH7細胞(1×10
5細胞/ウェル)およびその他の肝癌細胞(3×10
5細胞/ウェル)を6ウェルプレート中に播種した。細胞を5μMの5−azaC(Sigma社製)で3日間処理した。培地を24時間ごとに5−azaCを含む新鮮な培地に交換した。腫瘍組織および隣接する正常組織を含む42対のHCC臨床試料、41個の血漿試料、8個の肝硬変血漿および10個の健常な試料をChi Meiメディカルセンター(台湾、台南)から入手した。重亜硫酸シークエンシングおよびDNAメチル化特異的PCR(MSP)に用いる正常な成人の肝ゲノムDNA(対照)はUS Biological社から購入した。CpGenome ユニバーサルメチル化DNA(CpGenome Universal Methylated DNA)をChemicon社から購入し、MSPの陽性対照群とした。
【0034】
COBRA(Combined Bisulfite Restriction Analysis)および重亜硫酸シークエンシング
EZ DNAメチル化キット(Zymo Research社製)を用いてHCC臨床試料、肝癌細胞および成人の正常肝臓からのゲノムDNA(1μg)を重亜硫酸変換し(bisulfite−converted)、PCR増幅に用いた。COBRAにおいて、PCR産物を60℃にてDNAメチル化感受性(methylation−sensitive)エンドヌクレアーゼBstUIで一晩消化した。消化されたDNA断片を1.5%(w/v)エチジウムブロマイド染色アガロースゲル上で可視化した。重亜硫酸シークエンシングに用いるPCR産物は、CloneJET PCRクローニングキット(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてpJET1.2/bluntクローニングベクター中にクローニングした。大腸菌の形質転換の後、ABIシークエンシングシステム(Applied Biosystems社製)を用いて約10個のクローンを選び、シークエンシングを行った。
【0035】
リアルタイム定量的DNAメチル化解析
サイバーグリーン(SYBR green)を用い蛍光ベースのリアルタイムDNAメチル化特異的PCR(qMSP)によって上記の重亜硫酸変換したDNAを増幅した。各反応液は、1×PCRバッファー、0.25mMのdNTP、0.25μMのフォワードプライマーおよび0.25μMのリバースプライマー、1.5UのFastStart Taq DNAポリメラーゼ(Roche社製)、ならびに1μLのサイバーグリーン(Cambrex社製)を、全量20μLとし、1000倍に希釈してなるものとした。ABI Prism7000シークエンス検出システムにて、94℃で7分、続いて94℃で30秒、62℃で30秒および72℃で30秒を40サイクルという熱サイクル条件で増幅を行った。上述の記載に基づき、次の式により、β−アクチンとmir−129−2の間のCt値の差からDNAメチル化レベルを算出した。
【0036】
2
[Ct(β-actin)-Ct(miR-129-2)]×100 (組織試料の場合)
または
2
[Ct(β-actin)-Ct(miR-129-2)] ×1000(血漿試料の場合)
【0037】
リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)
TRIzol試薬(Invitrogen社製)を用いて肝癌細胞およびHCC臨床試料の全RNAを抽出した。メーカーの使用説明書に従い、Superscript III逆転写酵素(Invitrogen社製)でcDNAの合成を行った。SYBR Green PCR master mix(Applied Biosystems社製)を用いABI Prism 7000シークエンス検出システム上でリアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を行った。成熟miRNAの発現の解析では、TaqMan miRNAアッセイシステム(Applied Biosystems社製)をメーカーの使用説明書どおりに使用した。ΔΔCt法により相対発現量を解析し、U6およびRNU44を内在対照(internal control)として用いた。
【0038】
コロニー形成
HuH7およびJ7細胞を96−ウェルプレート上に2×10
4細胞/ウェルの密度で播種した。メーカーの使用説明書に従って、mir−129−2前駆体を持つ組み換えレンチウィルスまたは対照レンチウィルスを細胞に感染させた。感染24時間後、細胞を0.7%トップアガーと混合し、各ウェルが1%ボトムアガーを含む6−ウェルプレートに移した。ピューロマイシン5μg/mlで4週間、トランスフェクタントを選別した。PBSでコロニーを洗浄し、無水メタノール(absolute methanol)で固定し、クリスタルバイオレット溶液(0.5%)で1時間染色した。
【0039】
[実施例1]DNAメチル化により調節された潜在性のある(potential)miRNAの確認
配列番号4および5に記載される塩基配列を含むプライマー対を用いたCOBRAにより、正常肝組織および細胞(HH)と6種のHCC細胞(HepG2、HuH7、J7、Hep3B、MahlavuおよびSK−Hep1)におけるmir−129−2のDNAメチル化状態を確認した。
図1に示される結果は、6種のHCC細胞においてmir−129−2はDNAメチル化されていたが、正常肝組織および細胞においてはDNAメチル化されていないことを示した。
【0040】
さらに重亜硫酸シークエンシングを用いてHCCおよび正常肝細胞におけるmir−129−2のDNAメチル化状態を調べた。全部で33個のCpG部位を調べた。2種類の正常肝細胞(HH)および、正常肝組織における各10個の異なるクローンを観察した結果、総じて、正常肝細胞(HH)および組織の両方に低DNAメチル化が観察された(
図2A〜2B)。正常肝組織NL−1663およびNL−4149、ならびに正常肝細胞HHにおけるmir−129−2のDNAメチル化率はそれぞれ2.1%および3.3%、ならびに0.6%であった。これに対し、HCC細胞HepG2、HuH7、J7、Hep3B、MahlavuおよびSK−Hep1におけるDNAメチル化率を各細胞株の各10個の異なるクローンを観察した結果はそれぞれ64.5%、58.8%、71.5%、79.7%、72.7%および94.5%であった(
図2C〜2F)。これら結果から、正常肝細胞に比べ、HCC細胞においてmir−129−2の高度DNAメチル化は頻繁に生じる現象であることが示された。
【0041】
[実施例2]DNAメチル化が調節するHCC細胞におけるmiR−129−2の発現
miR−129−2の発現がDNAメチル化によって調節されたかを評価するため、定量的逆転写PCRにより正常肝細胞とHCC細胞のmiR−129−2の発現量を調べた。正常肝細胞、HHに比べ、HCC細胞の全てにおいてmiR−129−2の発現は減少した(
図3A)。同様に、HCC組織試料におけるmiR−129−2の発現量は、正常肝試料プールにおけるそれよりも16倍低かった(
図3B)。さらに、DNAメチルトランスフェラーゼの阻害因子である5−アザ−シチジンの処理後では、未処理の細胞に比べHuH7細胞において2.5倍、J7細胞において16倍と、miR−129−2の発現量が著しく増加した(
図3C)。これらの結果は、DNAメチル化がmiR−129−2の発現を調節し、かつHCC細胞におけるmiR−129−2の発現の低下をもたらすことを示唆した。
【0042】
[実施例3]HCCにおいて腫瘍抑制miRNAとして機能するmiR−129−2
HCCにおけるmiR−129−2の機能を評価するため、先ず、miR−129−2前駆体をコードする遺伝子を持つレンチウィルス(lenti−mir−129−2)の感染によってmiR−129−2を発現するHCC細胞を作製した。Taqmanアッセイを用い、lenti−mir−129−2に感染したHCC細胞中の成熟miR−129−2の発現を確認した。HuH7細胞において、lenti−mir−129−2の感染は、強制発現したmiR−129−2が、細胞内で分解され産生されるmiR−129−2−5p(配列番号2に記載されるDNA配列に対応するRNA塩基配列を有するmiRNA)およびmiR−129−2−3p(配列番号3に記載されるDNA配列に対応するRNA塩基配列を有するmiRNA)を対照感染細胞に比べてそれぞれ約2000倍および1000倍過剰発現させた(
図4A〜4B)。同様に、lenti−mir−129−2に感染したJ7細胞は、対照感染細胞に比べ、miR−129−2−5pが約500倍以上、miR−129−2−3pが1000倍以上発現した。miR−129−2はHCC細胞の足場非依存性増殖(anchorage−independent growth)を低下させる能力を備えることが分かった。対照感染細胞と対比して、miR−129−2を発現するJ7に観察された細胞コロニーはわずか3分の1であった(
図4C)。同じように、対照レンチウィルスに感染したHuH7では、ウェルにつき平均で47個のコロニーがあった(
図4D)。これに対し、対照miRNAを発現するHuH7にはコロニーはほとんど検出されなかった。これらの結果から、miR−129−2がHCCにおいて腫瘍抑制miRNAとして機能し得るということが示された。
【0043】
[実施例4]HCC臨床試料におけるmir−129−2の高度DNAメチル化およびダウンレギュレーション
臨床試料におけるmir−129−2のDNAメチル化状態を評価するため、配列番号4および5に記載される塩基配列を含むプライマー対を用いたCOBRAを用いて42対のHCC腫瘍および隣接する正常組織を解析した(
図5A)。42のうち30(〜71%)のHCC組織がmir−129−2の高度DNAメチル化を示した(
図5B)。これに対し、mir−129−2の高度DNAメチル化は、1の隣接する正常組織のみで観察されただけだった。DNAメチル化レベルをさらに定量化するべく、配列番号8および9に記載される塩基配列を含むプライマー対を用いた定量的DNAメチル化特異的PCRを行った。3例(患者番号1111、2000および2756)を除き、隣接する正常組織に対比して、ほぼ全ての臨床試料がHCC組織においてより高いmir−129−2のDNAメチル化レベルを示した(
図5C〜5D)。加えて、q−MSPの結果とCOBRAの結果は有意に相関していた。これらの結果がHCC臨床試料においてmir−129−2が高度DNAメチル化されたことを示しており、HCC細胞における結果と一致するものであった。
【0044】
また、miR−129−2の発現がDNAメチル化によって下方制御されたかを確認するため、qRT−PCRを行った。qRT−PCRにおいてmir−129−2に用いるプライマー対は、配列番号6および7に記載される塩基配列を含むプライマー対を用いた。隣接する正常組織に比べ、42個のHCC臨床試料のうち29個(〜69%)のHCC試料でmiR−129−2の発現が抑えられた(
図6A〜6B)。
【0045】
これらの結果は、HCC試料においてmir−129−2は高度DNAメチル化および下方制御されたが、隣接する正常組織ではこれらが生じなかったことを示し、このことは、miR−129−2の差次的発現(differential expression)および/またはDNAメチル化レベルがHCC診断のためのマーカーおよび被験者の将来肝癌が発生する率を測定するためのマーカーとなり得ることを表している。
【0046】
[実施例5]HCC血漿試料におけるmir−129−2のDNAメチル化レベル
41個のHCC血漿試料、8個の肝硬変血漿試料および10個の健常な血漿試料をChi Mei メディカルセンター(台湾、台南)から入手した。これらの試料に対して配列番号8および9に記載される塩基配列を含むプライマー対を用いた定量的DNAメチル化特異的PCR、q−MSPを行いmir−129−2のDNAメチル化レベルを確認した。41個のHCC血漿試料のうち37個(90%)においてDNAメチル化レベルが0.1を超えていた(
図7A)。これに対し、血漿試料において0.05を超えるmir−129−2のDNAメチル化レベルが検出された健康なドナーは1人もおらず、かつ2個の肝硬変血漿試料のみで0.1を超えただけであった(
図7A)。さらなる統計的解析のために、DNAメチル化レベルをlog2値に変換した。統計的解析により、健常な血漿または肝硬変血漿に比して、HCC血漿のmir−129−2DNAメチル化レベルは有意に高いことが分かった(P<0.01)(
図7B)。ROC(受信者動作特性曲線)解析を用い、mir−129−2DNAメチル化レベルの感度、特異度、AUC(曲線下面積)およびカットオフ値を決定した。カットオフ値−2.36でHCCを健康な者および肝硬変と分けることができ、感度および特異度はそれぞれ88%および100%であった(AUC=0.92、SE=0.039、95% CI=0.843-0.997、P<0.001)(
図7C)。ROC解析から、HCC診断におけるmir−129−2DNAメチル化の利用の正確度が高いということが明らかとなった。
【0047】
当業者には、開示した実施形態に様々な変更および修飾を加えられるということが明らかであろう。明細書および実施例は単なる例示であると見なされ、本発明の真の範囲は以下の特許請求の範囲およびその同等物により示されることが意図されている。