(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731603
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】高汚染メチレンジアニリンの水素化方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/72 20060101AFI20150521BHJP
C07C 211/36 20060101ALI20150521BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20150521BHJP
【FI】
C07C209/72
C07C211/36
!C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-189210(P2013-189210)
(22)【出願日】2013年9月12日
(62)【分割の表示】特願2009-297696(P2009-297696)の分割
【原出願日】2005年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-24851(P2014-24851A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年10月10日
(31)【優先権主張番号】10/848766
(32)【優先日】2004年5月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591035368
【氏名又は名称】エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】ハオ ディン
(72)【発明者】
【氏名】ギャミニ アナンダ ベデイジ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム アール.マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ビプル ピー.ドラキア
【審査官】
岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−314767(JP,A)
【文献】
特開平02−006441(JP,A)
【文献】
特許第5426362(JP,B2)
【文献】
特開昭62−228044(JP,A)
【文献】
特開平02−006440(JP,A)
【文献】
特開平02−290834(JP,A)
【文献】
特開平07−080305(JP,A)
【文献】
特開平11−047597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/72
C07C 211/36
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で、メチレンジアニリンと水素を接触させることにより、メチレンジアニリンをその環水素化対象物へ接触水素化させる方法であって、
少なくとも40質量%の多環オリゴマー不純物と、0.2〜0.6質量%のホルムアミド副生成物とを有するメチレンジアニリン原料を、アルミン酸リチウム担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒系の存在下で水素化するステップ、
ここで、前記触媒系において、ルテニウムに対するロジウムの質量比が、ルテニウム1質量部に対してロジウムが6〜15質量部である、
を含む、前記方法。
【請求項2】
アルミン酸リチウム担体に対するロジウムの質量が、アルミン酸リチウム担体と金属との和100質量部に対し、2〜8質量部であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルミン酸リチウム担体に対するルテニウムの質量が、アルミン酸リチウム担体100質量部に対し2〜8質量部であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒系が、アルミン酸リチウム上のロジウムおよびアルミン酸リチウム上のルテニウムの物理的混合物であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記メチレンジアニリン原料がMDA(メチレンジアニリン)−50およびMDA(メチレンジアニリン)−60からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
水素圧が1.38〜27.54MPaゲージ圧であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
担体上に担持された第VI族および第VIII族金属を用いた芳香族アミンの環水素化が良く知られている。水素化プロセスの2態様には問題がある。第一に、芳香族アミン基質中の汚染物が触媒毒となる場合があり、触媒活性と触媒寿命に不利な影響を与える。第二に触媒の損耗が起こる場合があり、それによって触媒を損失する結果となり、そして触媒ろ過装置が詰まることとなる。
【背景技術】
【0002】
メチレンジアニリンを含む芳香族アミンの水素化の各種方法について説明する代表的な特許は、以下の通りである。
【0003】
米国特許第2606925号明細書および米国特許第2606927号明細書では、ニトロ芳香族アミンおよび芳香族アミンの水素化が開示されている。米国特許2606925号明細書では触媒としてルテニウムオキサイドの使用が開示されているのに対し、米国特許2606927号明細書ではアルミナ上でのコバルトの使用が開示されている。
【0004】
米国特許第3636108号明細書および米国特許第3697449号明細書では、アルカリ金属で調整されたルテニウム触媒を使用して、PACMと称される化合物を生成するための芳香族化合物の水素化、特に、4,4’−メチレンジアニリンの水素化が開示されている。触媒はナトリウムまたはカリウムの重炭酸塩、水酸化物または同種のものの水溶液から、担体上にルテニウム化合物を堆積することで作る。炭酸カルシウム、希土類の酸化物、アルミナ、硫酸バリウム、珪藻土および同種のものの広範な種類の担体が、担体の候補として開示されている。米国特許3697449号明細書には、水酸化リチウムを用いる、担持されたルテニウム触媒の、その場でアルカリ調整する方法が開示されている。
【0005】
米国特許第3959376号明細書には、メチレンジアニリン原料の水素化によってメチレン架橋されたポリシクロヘキシルポリアミン異性体混合物の製造方法が開示されている。特許権者は25%以上のメチレンジアミン異性体を含む原料混合物、すなわち、平均2.0〜3.3量体の原料を、最初にニッケルの存在下で水素化を実施することからなる前処理を行い、続いてルテニウムにより水素化を行う場合に、使用することができることを報告している。
【0006】
米国特許第3959374号明細書では、微量の不純物やオリゴマーを含むメチレン架橋されたポリフェニルアミン原料の直接水素化方法が開示されている。これらの不純物およびオリゴマーを含む粗MDA(メチレンジアニリン)原料を、ルテニウム触媒下での水素化に先立って、はじめにニッケル触媒の存在下で水素化する。
【0007】
米国特許第4754070号明細書では、触媒毒となる不純物によって汚染されたメチレンジアニリンの水素化の改良方法が開示されている。ロジウムおよびルテニウムを含む触媒が、粗メチレンジアニリン(MDA−85)、すなわち、オリゴマーが最大で約15〜20%を含むメチレンジアニリンの水素化に効果があることが見出された。水酸化リチウムアクチベーションの添加によるアルカリ調整によって、混合触媒に影響を与えることが示された。ロジウム/ルテニウム触媒に適した担体として、アルミナ、炭酸塩等が含まれる。
【0008】
米国特許第5545756号明細書では、チタニア担体上に担持されたロジウム触媒を用いることによって、単核または多核の芳香族アミンを水素化する方法が開示されている。チタニア担体例としてTiAl
2O
5、TiSiO
4、およびTiSrO
3が含まれる。チタニア担体によって、粗メチレンジアニリンの水素化における活性金属として、ロジウム単体の使用が可能となった。チタニアに担持されたロジウムとアルミナ上のルテニウムの併用もまた、触媒として適している。水酸化リチウムの添加によって、活性が高くなる結果となる。
【0009】
米国特許第6184416号明細書では、アルミン酸リチウム担体に担持されたロジウムおよびルテニウムを含む触媒を用いることによって、メチレンジアニリンおよび他の芳香族アミンを水素化する方法が開示されている。メチレンジアニリンと、最大15〜20%のオリゴマーを含む原料であるMDA−85と呼ばれる不純物含有メチレンジアニリン原料との水素化が記載されている。オリゴマーは、3または4または5個の環を有する生成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2606925号明細書
【特許文献2】米国特許第2606927号明細書
【特許文献3】米国特許第3636108号明細書
【特許文献4】米国特許第3697449号明細書
【特許文献5】米国特許第3959376号明細書
【特許文献6】米国特許第3959374号明細書
【特許文献7】米国特許第4754070号明細書
【特許文献8】米国特許第5545756号明細書
【特許文献9】米国特許第6184416号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般的にMDA−50およびMDA−60と呼ばれる多量の不純物を含むメチレンジアニリン原料の接触水素化方法に関する。
この方法は、少なくとも40質量%の多環オリゴマー含有率のメチレンジアニリンの水素化方法であって、以下のものを含む:
環水素化に有利な条件の下で、アルミン酸リチウム担体に担持されたロジウム/ルテニウム含有触媒系の存在下で水素とこの原料を接触させること。
【0012】
以下は、指定された条件下で、この触媒を使用することによって得られる利点について示したものである。
・多量のオリゴマーやホルムアミド副生物によって高汚染された低価格メチレンジアニリン原料を水素化できること
・長期にわたり低価格原料の水素化に使用された触媒を再利用できること
・高い耐損耗性によって、触媒の損失および製品の汚染を最小限にできること、そして
・高い反応速度によって、高生産量を達成できること
【発明を実施するための形態】
【0013】
メチレンジアニリンはニトロベンゼンから誘導され、その場合、ニッケルまたはコバルト触媒を使用した接触水素化によって、はじめにニトロ基をアミンへ転換する。その反応生成物を抽出し、アニリンを回収する。メチレンジアニリンはホルムアルデヒドと上記アニリンを、酸性触媒の存在下に反応させ、MDA−50やMDA−60と呼ばれる生成物を生ずる。アニリンとホルムアルデヒドの縮合によって生成したメチレンジアニリンには、かなり多く
の3環、4環、5環の多環オリゴマーが含まれる。当初は2環のメチレンジアニリン生成物ができるが、アニリンと比較して反応生成物中のメチレンジアニリン濃度が増すに連れて、ホルムアルデヒドはメチレンジアニリンと反応し、それによってオリゴマーが鎖長を伸ばすこととなる。反応が化学量論的にコントロールされている場合でも、約40〜50%の反応生成物は多環オリゴマーの形をとっている。また、高い濃度のホルムアミド副生成物が反応生成物中に存在し、環水素化触媒の触媒毒となる。
【0014】
従来、環水素化に適したメチレンジアニリン原料の合成においては、MDA−50およびMDA−60反応生成物を抽出して2環化合物を生成するか、または、反応の化学量論性を、オリゴマー形成物を除去するか若しくは最小にするように制御していた。その後、アルミナ担体上に担持されたロジウムおよびルテニウムの共触媒の使用を経て、そしてその後、アルミン酸リチウムを使用することによって、粗メチレンジアニリン原料の水素化においては少量のオリゴマーやホルムアミド副生成物は許容できることが見出された。この原料はMDA−85と呼ばれ、15〜20質量%の多環オリゴマー基を含んでいる。
【0015】
要約すると、約20%未満のオリゴマー含有量、および、ホルムアミド副生物の形をした低濃度の触媒毒を含むメチレンジアニリン原料が生成することと、これらの処理された原料を水素化に使用することとは一般的な方法である。触媒毒に高濃度で汚染された原料を、水素化の実施に先立って抽出するか、または触媒毒および活性金属触媒の作用を阻害する微量の不純物を分解するための前処理法が発達してきている。
【0016】
驚くべきことに、アルミン酸リチウム担体に担持されたロジウム/ルテニウム混合触媒を用いることにより、約85〜90%の2環生成物および約20%未満のオリゴマー基(MDA−85)を有するメチレンジアニリン原料の水素化方法を、他の触媒に対する非常に高濃度の触媒の不純物はもちろん、MDA−85中の多環オリゴマー濃度の2〜3倍の不純物を有するメチレンジアニリン原料に対し、効果的に拡張出来ることが見出された。例えば、MDA−85中のホルムアミド副生成物は100ppm未満であるが、それに対し、高オリゴマー原料中のホルムアミド副生成物は少なくとも0.2質量%、多い場合には0.6質量%存在する場合がある。
【0017】
ここで使用されるメチレンジアニリン原料は一般的にMDA−50およびMDA−60と呼ばれ、2環メチレンジアニリン含有率は、それぞれ、約50質量%および60質量%である。これらの原料には非常に高濃度のオリゴマー不純物が含まれている、すなわち、少なくとも40質量%、そして一般的には少なくとも50質量%の多環オリゴマーが含まれている。これらのメチレンジアニリン原料は、オリゴマー不純物および触媒毒が多すぎるため、好ましい収率および触媒寿命の予想を伴う、メチレン架橋ポリシクロヘキシルポリアミンへの転換は可能でないと考えられていた。
【0018】
実質的な純メチレンジアニリンおよび少量のオリゴマーで汚染された粗原料(MDA−85)を比較してみると、ロジウム単体を使用するのに対し、この触媒系はアルミン酸リチウムに担持されたロジウムおよびルテニウム金属を含む。アルミン酸リチウムに担持されたロジウムは、それ自体では、MDA−85を水素化する触媒として適している、しかし、それ自体ではMDA−50の様な高オリゴマー原料を水素化する触媒としては適していない。
【0019】
上述のように、この触媒系はロジウムおよびルテニウムを含む。典型的には、両金属とも共通の担体の上に存在することが可能であるが、この触媒系では両成分の物理的混合物を含んでいる。このロジウムは金属としての質量を基準として、担体と金属との和100質量部に対し0.1〜25質量部供給するのに充分な量で存在し、好ましくは、担体と金属との和100質量部に対し2〜8質量部存在する。ルテニウムはロジウムと同等量が担体に添加される。この触媒系はロジウムのルテニウムに対する質量比が、ルテニウム1質量部に対し、ロジウムが約1〜20質量部であることから構成される。好ましくは、この触媒系はアルミン酸リチウム担体上のルテニウム質量部に対しロジウムが6〜15質量部から成る。
【0020】
ロジウムおよびルテニウムは、初期から濡らしておくか、あるいは、水中で塩基の存在下で共沈させることによって担体に添加する。好ましい塩基はLiOH、Li
2CO
3、またはNa
2CO
3である。ロジウムおよびアルミン酸リチウム担体を含む触媒系は乾燥され、そして400℃未満の温度で加熱される。
【0021】
ロジウムおよびルテニウム金属のための担体として、スピネルLiAl
5O
8が挙げられる。この担体は通常、溶液法によって、すなわち水溶性リチウム塩を溶液でアルミナと混合し、続いて乾燥し、そして、典型的には空気中でか焼することによって作る。か焼は500℃〜1500℃の範囲の温度で実施する。LiAl
5O
8組成を確保するため、700℃〜1000℃でか焼することが好ましい。か焼は、典型的には少なくとも5時間必要であり、一般的には10〜25時間必要である。アルミン酸リチウム担体を製造するには、リチウム塩の濃度を、リチウム/アルミニウムの原子比がアルミニウム5原子に対しリチウムが0.2〜1.5原子となるように制御する。
【0022】
アルミン酸リチウム担体は、リチウム塩およびアルミナ間の固相反応でも製造することが出来る。溶液法と同様に混合物を乾燥し、そしてその後、本質的に同じ高温で長時間に渡りか焼する。リチウム塩にはLiCl、LiBr、LiF、Li
2O、Li
2SO
4、LiNO
3、LiOH、Li
2CO
3、CH
3COOLi、およびHCOOLiが含まれ、好ましくはLi
2CO
3、LiNO
3、およびCH
3COOLiが与えられる。アルミナ源は、カイ−アルミナ、ガンマ−アルミナ、イータ−アルミナ、カッパー−アルミナ、デルタ−アルミナ、シーター−アルミナ、およびアルファ−アルミナとなることができる。経済的観点から、ギブサイト、ベーマイト、バイヤライト、ダイアスポアのような低コストのアルミナ前駆体もまた使用することが出来る。
【0023】
触媒のアルカリ調整(moderation)は、好ましい実施の態様である。しかし、アルミン酸リチウム担体は、そのような高濃度のオリゴマー基を有する原料を用いる場合でも、アルカリ金属水酸化物による調整は必要でない。限定的な量のアルカリ金属水酸化物、例えば、0.1〜15%(好ましくは、触媒金属に基づいて0.5%以下)の水酸化リチウムを、水素化選択性を有効に制御するために使用しても良い。
【0024】
従来法同様、メチレンジアニリンの水素化を液相条件下にて実施する。液相条件は、典型的には、溶媒の存在下で水素化をすることによって維持する。当該技術分野で知られているように、溶媒なしで反応を実施することは可能であるが、溶媒を使用した場合に、プロセスはより簡単になる。芳香族アミンの水素化を実施するのに好適な典型的な溶媒には、シクロヘキサン、ヘキサン、およびシクロオクタンの様な飽和脂肪族炭化水素および脂環式炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノールの様な低分子量アルコール;そして、n−プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、アミルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、およびジシクロヘキシルエーテルの様な脂環式炭化水素エーテルが含まれる。テトラヒドロフランは好ましい溶媒である。
【0025】
溶媒を使用する場合には、反応に持ち込まれる芳香族アミンに基づいて50質量%の低濃度で使用することができ、そして典型的には、溶媒は出発化合物に対し約75〜200質量%の濃度で使用される。ある条件下では、使用される芳香族アミンに対し1000〜2000質量%の多量の溶媒が使用される。
【0026】
反応温度の範囲は130℃〜210℃であり、好ましくは170〜200℃である。反応圧力は、3.44〜27.54MPaゲージ水素圧(500〜4000psig)であり、好ましくは4.82〜6.54MPaゲージ圧(700〜950psig)である。反応時間は粗MDA中の不純物量によって決まり様々であるが、1時間から数日の範囲である。触媒濃度は水素化される原料に対し0.5〜5質量%の範囲にわたることができる。
【実施例】
【0027】
以下の実施例は、本発明の様々な態様の例示を意図したものであり、そして明記しない限り、すべての部および百分率は質量部または質量%である。
【0028】
[一般的手順原料]
MDA−60原料を、長さ25mで膜厚0.17μmのHP5カラムを用い、GCの面積百分率法により解析した。
【0029】
評価のため使用した粗MDA−60の典型的なサンプルは、面積百分率を基準として、61.3%の2環メチレンジアニリン、27.6%の3環メチレン架橋ポリフェニルアミン、および10.5%の4環(およびそれ以上の)メチレン架橋ポリフェニルアミンを含んでいた。上記メチレンジアニリンおよびオリゴマーに加え、0.6%(0.2%のMDA−ホルムアミドを含む)の少量の3環または4環のメチレン架橋ポリフェニルアミンホルムアミドが存在していた。
【0030】
[手順]
水素化反応を0.5μmの触媒/生成物分離用内部フィルターを備えた標準的な1LのParr製撹拌反応器内で実施した。
【0031】
[例1 アルミン酸リチウム上でRh/Ruを用いたMDA−
60の水素化]
アルミン酸リチウム担体上の4質量%のロジウム(3.4g)およびアルミン酸リチウム上の5質量%のルテニウム(0.45g)の物理的混合物から成る触媒系を、200gのテトラヒドロフランとともに反応器に充填した。15%の水酸化リチウムの一水和物溶液0.7gを添加し、そして触媒金属は190℃、4時間、5.85MPaゲージ水素圧(850psig)下で、1000rpmで攪拌することにより還元された。テトラヒドロフランを濾出し、そして約65%の2環MDAを含むMDA−60原料400gのTHF溶液を反応器に取り込んだ。MDAは水素の取り込みがなくなるまで、185℃、5.51MPaゲージ水素圧(800psig)、1500rpmで攪拌して水素化した。
【0032】
反応が完了した後、内容物を除去し、そして触媒を洗浄し、反応器に再充填した。不純物が触媒寿命に与える影響を決定するため5回使用した。
【0033】
誘導時間を、反応時間とは別に記録した。それは環水素化に関連した水素の取り込みがほとんどない時間を意味している。誘導時間および反応時間に分けた記録は、MDA−60原料中に存在するような高濃度のオリゴマーおよびホルムアミド不純物をそれぞれの触媒系が克服できるか否かの重要な指標として役に立つ。
【0034】
GC解析を基準として、MDAの水素化により、部分的および完全に脱アミノ化したPACM{ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)}、PACM、メチレン架橋ポリシクロヘキシルアルコール、N−メチル化メチレン架橋ポリシクロヘキシルアミン、3および4環のメチレン架橋シクロヘキシルアミン、並びにPACM2級アミンが生成した。
【0035】
[比較例2 アルミナ上のRh/Ruを用いたMDA−
60の水素化]
例1に対する比較実験を、アルミナ上のロジウムおよびルテニウム触媒を用いて実施した。この触媒は市販の触媒であり、ルテニウム量は等量であるがロジウム含有率が若干高く、粗メチレンジアニリン、すなわち、MDA−85の水素化に適している。実験は、触媒が4%のアルミナ上のロジウム(4.5g)および5%のアルミナ上のルテニウム(0.45g)の混合物からなること以外は、以下のように同じ手順および同じ反応条件を用い実施された。例1および比較例2を比較した結果を表1および表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表2と比較して、表1ではこの方法で非常に短い誘導時間および反応時間が得られていることに留意されたい。例えば、例1の触媒系の2回目の使用は、アルミナ上のロジウム/ルテニウム触媒の1回目のそれに対し、誘導時間および反応時間の合計は短かった。その上、収率は約
5%高かった。
【0039】
また、このデータは、アルミナ上に担持されたロジウム/ルテニウム触媒の場合の50.7%と比較して、アルミン酸リチウムに担持されたロジウム/ルテニウム触媒を3回使用したPACMの平均収率は58.8%であることを示している。アルミナに担持されたロジウム/ルテニウムの平均収率(3回使用の平均収率が50.7%)より、5回使用の収率は約5%高かった。しかし、触媒の母体であるアルミン酸リチウムの活性および堅牢性は非常に良く、誘導時間/反応時間の短さおよび高い再利用回数によって示される。
【0040】
[比較例3 抽出したMDAの水素化]
比較例2の手順に従って、抽出したMDA原料を用いて比較実験を行った。アルミン酸リチウムに担持された触媒およびアルミナに担持された触媒を使用した。表3に結果を示す。
【0041】
【表3】
【0042】
この結果は、金属がアルミン酸リチウムに担持されている場合であっても、またはアルミナに担持されている場合であっても、活性および誘導時間の点から見たとき、抽出したMDAの水素化における触媒能に関しては、実質的な差がないことを示している。一方、例1は、アルミン酸リチウム担体が高オリゴマー原料すなわちMDA−60を水素化する場合に、触媒能に予想外の差を与えることを示している。
【0043】
この比較結果は、触媒を担持するアルミナおよびアルミン酸リチウム間の活性/選択性にはほとんど差がなく、オリゴマーフリー(抽出)MDAを水素化することを明確に示していることに留意されたい。
【0044】
これら2つの触媒の活性の違いは、表1および表2で実証された様に、MDA−60の水素化に関する誘導時間および反応時間に示されており、予想外であった。
【0045】
[例4 ルテニウム/アルミン酸リチウム触媒にて前処理されたMDA−60の水素化]
この例は2ステップ反応を示しており、すなわち、はじめにMDA−60原料をルテニウム/アルミン酸リチウム触媒により前処理し、そして、前処理された原料をロジウム/アルミン酸リチウムおよびルテニウム/アルミン酸リチウムの物理的混合物からなる例1の触媒系の存在下で水素化する。
【0046】
さらに具体的には、ステップ1の前処理はTHFに溶解したMDA−60原料(65/35,w/w)を用いて実施した。500gの原料を1.0gのルテニウム(5%)/アルミン酸リチウムの存在下で、185℃および水素圧5.51MPaゲージ水素圧(800psig)で100分間攪拌した。そして、前処理した原料をステップ2の原料として使用した。
【0047】
ステップ2:前処理したMDA原料の水素化を、ロジウム(4%)/アルミン酸リチウム(4.3g)およびルテニウム/アルミン酸リチウム(0.48g)からなる触媒を用いて実施した。
【0048】
反応温度は185℃であり、水素圧は5.51PMaゲージ圧(800psig)であった。同じ触媒を5回連続使用した結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
これらの結果は、高濃度のオリゴマーおよび触媒毒を含むMDA原料の環水素化において、ロジウム/ルテニウム触媒を担持するアルミン酸リチウム触媒系の予想外の堅牢性を実証していることに留意されたい。この2ステップ法により触媒寿命はより長くなり、かつ収率がより高くなることが可能である。そして、また、原料中の触媒毒に対する優れた触媒安定性が5回の使用を通して観察された。