特許第5731606号(P5731606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731606
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】熱膨張性マイクロカプセル
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20150521BHJP
   B01J 13/02 20060101ALI20150521BHJP
   C08J 9/32 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C09K3/00 111B
   B01J13/02
   C08J9/32CER
   C08J9/32CEZ
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-200204(P2013-200204)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-67623(P2015-67623A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2015年2月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000224949
【氏名又は名称】徳山積水工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 博史
(72)【発明者】
【氏名】森田 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 靖子
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−272633(JP,A)
【文献】 特開2011−68825(JP,A)
【文献】 特開2010−229341(JP,A)
【文献】 特開2009−221429(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/052972(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00、
B01J13/02、
C08J9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包されている熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記シェルは、ニトリル系モノマー、及び、ラジカル重合性の二重結合及び水酸基を有する水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体と、
前記水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有し、かつ、ラジカル重合性の二重結合を有しない多官能反応性化合物とを含有し、
前記重合体からなるシェルは、常温時のゲル分率をx、180℃、30分加熱時のゲル分率をyとした場合に、yが50%以上であり、かつ、y/xが1.1以上である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
水酸基と反応する官能基は、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
多官能反応性化合物の含有量は、シェルを構成する重合体全体に対して0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセル及び熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセル、又は、請求項記載の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを用いてなることを特徴とする発泡成形体。
【請求項6】
請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法であって、
水性分散媒体を調製する工程と、
該水性分散媒体中に、ニトリル系モノマー、及び、ラジカル重合性の二重結合及び水酸基を有する水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物と、水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有し、かつ、ラジカル重合性の二重結合を有しない多官能反応性化合物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程と、
上記モノマー組成物を重合させる工程とを有する
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い発泡倍率、高温での耐久性を有しつつ、発泡成形に使用した場合に着色や臭気が生じにくい熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ、発泡成形体及び該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロカプセルは、意匠性付与剤や軽量化剤として幅広い用途に使用されており、発泡インク、壁紙をはじめとした軽量化を目的とした塗料等にも利用されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤が内包されているものが広く知られており、例えば、特許文献1には、低沸点の脂肪族炭化水素等の揮発性膨張剤をモノマーと混合した油性混合液を、油溶性重合触媒とともに分散剤を含有する水系分散媒体中に攪拌しながら添加し懸濁重合を行うことにより、揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この方法によって得られた熱膨張性マイクロカプセルは、80〜130℃程度の比較的低温では、揮発性膨張剤のガス化によって熱膨張させることができるものの、高温又は長時間加熱すると、膨張したマイクロカプセルからガスが抜けることによって発泡倍率が低下するという問題があった。また、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性や強度の問題から、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象が生じ、高温時に潰れてしまうことがあった。
【0004】
一方、特許文献2には、カルボキシル基を含有するモノマーと、カルボキシル基と反応する基を持つモノマーとを重合することにより得られるポリマーをシェルとして用いた熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。このような熱膨張性マイクロカプセルでは、3次元架橋密度が高まることで、発泡後のシェルが非常に薄い状態でも収縮に対して強い抵抗を示し、耐熱性は飛躍的に向上するとしている。
しかしながら、重合時点で強固な3次元架橋が形成されることにより、発泡時の膨張が阻害され、発泡倍率については依然として不充分であった。
また、このような熱膨張性マイクロカプセルを用いて得られる成形体は、主に残留モノマーに起因するカルボキシル基を有する低分子量成分が生じ、この低分子量成分が、基材樹脂の酸化劣化を促進するため、成形体が黄褐色に着色するという問題があった。
また、成形時の加熱によって、残留モノマーが揮発し、酸特有の刺激臭が生じることで、作業環境に重大な悪影響を及ぼしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭42−26524号公報
【特許文献2】国際公開WO99/43758号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い発泡倍率、高温での耐久性を有しつつ、発泡成形に使用した場合に着色や臭気が生じにくい熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ、発泡成形体及び該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包されている熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、ニトリル系モノマー、及び、ラジカル重合性の二重結合及び水酸基を有する水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体と、前記水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有し、かつ、ラジカル重合性の二重結合を有しない多官能反応性化合物とを含有する熱膨張性マイクロカプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、熱膨張性マイクロカプセルにおいて、ニトリル系モノマー及び水酸基を有する水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体と、所定の構造を有する多官能反応性化合物とを含有するシェルを用いることで、高い発泡倍率、高温耐久性を有しつつ、発泡成形時の着色や臭気を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、重合体からなるシェルにコア剤として揮発性膨張剤を内包する構造を有する。このような構造を有することにより、例えば、本発明の熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合して成形することによって、成形時の加熱により上記コア剤がガス状になるとともに上記シェルが軟化して膨張し、発泡成形体等を製造することができる。
【0010】
上記重合体を形成するためのモノマー組成物は、ニトリル系モノマーを含有する。上記モノマー組成物が上記ニトリル系モノマーを含有することにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルは高い耐熱性とガスバリア性とを有する。
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル、又は、これらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0011】
上記モノマー組成物中の上記ニトリル系モノマーの含有量は、好ましい下限が全モノマー成分100重量部に対して50重量部、好ましい上限が99重量部である。上記ニトリル系モノマーの含有量が50重量部未満であると、ガスバリア性が低下することにより、発泡倍率が低下することがあり、99重量部を超えると、カルボキシル基の含有量が不充分となり、加熱発泡時に多官能反応性化合物と結合することによって得られる効果が不充分となることがある。
より好ましい下限は60重量部、より好ましい上限は95重量部である。
【0012】
上記モノマー組成物は、上記ニトリル系モノマーに加えて、上記ラジカル重合性の二重結合及び水酸基を有する水酸基含有モノマーを含有する。
上記水酸基含有モノマーを含有することにより、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、加熱発泡させる際の熱によって、水酸基と後述する多官能反応性化合物とが結合するため、耐熱性や耐久性を更に向上させることが可能となる。
【0013】
上記水酸基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチルアクリレート、ビニルアルコール、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なかでも、水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。また、ラジカル重合性二重結合の数が1の水酸基含有モノマーが好ましい。特に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレートが好ましい。
【0014】
上記モノマー組成物中の上記水酸基含有モノマーの含有量は、好ましい下限が全モノマー成分100重量部に対して0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。上記水酸基含有モノマーの含有量が0.1重量部未満であると、加熱発泡時に多官能反応性化合物と結合することによって得られる効果が不充分となることがあり、20重量部を超えると、シェルのガスバリア性を阻害し、発泡倍率が低下することがある。
より好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は10重量部である。
【0015】
上記モノマー組成物は、上記ニトリル系モノマー、水酸基含有モノマー以外に、上記ニトリル系モノマーと共重合することのできる他のモノマー(以下、単に他のモノマーともいう)を含有してもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、得られる熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができるが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。また、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、等のジビニルモノマー、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート等のトリビニルモノマー、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラビニルモノマー、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のヘキサビニルモノマー等が挙げられる。
これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記モノマー組成物が上記他のモノマーを含有する場合、上記モノマー組成物中の上記他のモノマーの含有量は特に限定されないが、全モノマー成分100重量部に対する好ましい上限が40重量部である。上記他のモノマーの含有量が40重量部を超えると、上記ニトリル系モノマーの含有量が低下して、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、耐熱性及びガスバリア性が低下し、高温において、破裂及び収縮を生じやすく、高発泡倍率で発泡できないことがある。
また、上記他のモノマーのうち、ジビニルモノマー、トリビニルモノマー、テトラビニルモノマー、ヘキサビニルモノマーの合計は、全モノマー成分100重量部に対する好ましい上限は3重量部である。上記ジビニルモノマー、トリビニルモノマー、テトラビニルモノマー、ヘキサビニルモノマーの合計が3重量部を超えると、熱膨張前のシェルポリマーが硬くなりすぎて、膨張することができなくなり、発泡倍率が低下することがある。より好ましい上限は1.5重量部である。
【0017】
上記モノマー組成物は、カルボキシル基を有するモノマーの含有量が全モノマー成分100重量部に対して0.001重量部以下であることが好ましく、特にカルボキシル基を有するモノマーを含有しないことが好ましい。
上記カルボキシル基を有するモノマーを含有することにより、主に、上記カルボキシル基を有するモノマーの残留モノマーが、成形に用いる基材樹脂の酸化劣化を促進するため、成形体を黄褐色に着色させてしまったり、成形時の加熱で残留モノマーが揮発し、酸特有の刺激臭が拡がることで作業環境に悪影響を及ぼしたりすることがある。
【0018】
上記カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。また、これらの塩や無水物等も含まれる。
【0019】
上記モノマー組成物には、重合開始剤を添加することが好ましい。
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化ジアルキルは特に限定されず、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0020】
上記過酸化ジアシルは特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0021】
上記パーオキシエステルは特に限定されず、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0022】
上記パーオキシジカーボネートは特に限定されず、例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0023】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0024】
上記モノマー組成物には、更に、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を添加してもよい。
【0025】
上述のようなモノマー組成物を重合させて得られる重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。上記重量平均分子量が10万未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が低下し、高温において、破裂及び収縮を生じやすく、高発泡倍率で発泡できないことがある。上記重量平均分子量が200万を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡性能が低下することがある。
【0026】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを構成するシェルは、水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有し、かつ、ラジカル重合性の二重結合を有しない多官能反応性化合物を含有する。
上記多官能反応性化合物は、上記モノマー組成物の重合時ではなく、熱膨張性マイクロカプセルの加熱発泡時に硬化するため、発泡時の膨張が阻害されることなく、発泡倍率を高めることができる。
【0027】
上記多官能反応性化合物としては、水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有し、かつ、ラジカル重合性の二重結合を有しない化合物であれば特に限定されない。上記水酸基と反応する官能基を2個以上有することで、多官能反応性化合物の硬化性をより強固なものとすることができる。特に、加熱発泡させる際の熱によって、水酸基と多官能反応性化合物とがより強固に結合し、耐熱性や耐久性を大幅に向上させることが可能となる。
上記水酸基と反応する官能基としては、例えば、エポキシ基、ヒドロキシシリル基、カルボキシル基、イソシアネート基、アミノ基等が挙げられる。なかでも、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基が好ましく、特に好ましくはエポキシ基である。
上記水酸基と反応する官能基としては、同種のものを用いてもよく、2種以上のものを用いてもよい。上記多官能反応性化合物は、ラジカル重合性の二重結合を有しないものである。
上記ラジカル重合性の二重結合を有しないことで、上記ニトリル系モノマー及び水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体の主鎖とは直接結合せず、シェルの柔軟性を高く保つことができる。
従来の方法(例えば、特許文献2等)では、ラジカル重合性の二重結合を有するモノマーを用いることで、シェルのガスバリア性が低下して、発泡倍率が低下する。上記ラジカル重合性の二重結合を有さず、かつ、水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する多官能反応性化合物としては、例えば、エポキシ樹脂、ジアミン、ポリアミン、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、ジイソシアネート、ポリイソシアネート等が挙げられ、その中でもエポキシ樹脂、ジイソシアネート、ポリイソシアネートが特に好ましい。また、エポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が特に好ましい。
上記ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のジイソシアネートや、それらのダイマー、トライマー、ポリマー、それらのフェノール、アルコール、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、オキシム、ジメチルピラゾール、メチルエチルケトンオキシム、カプロラクタム等によるブロックイソシアネート等が好ましい。
【0028】
上記シェルにおける多官能反応性化合物の含有量の好ましい下限は、シェルを構成する重合体全体に対して0.1重量%、好ましい上限は20重量%である。
上記多官能反応性化合物の含有量が0.1重量%未満であると、加熱発泡時に熱硬化特性が現れないことがある。上記多官能反応性化合物の含有量が20重量%を超えると、シェルのガスバリア性が低減し、発泡を阻害することがある。より好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は10重量%である。なお、上記シェルを構成する重合体全体とは、多官能反応性化合物を除いたシェルを構成する重合体全体のことをいう。
【0029】
また、上記多官能反応性化合物と上記水酸基含有モノマーとの比率は、1倍以上(水酸基含有モノマー/多官能反応性化合物≧1)とすることが好ましい。上記範囲とすることで、多官能反応性化合物の未反応部分を低減し、硬化性を発揮することが可能となる。
また、上記多官能反応性化合物と上記水酸基含有モノマーとの組み合わせとしては、特に、エポキシ樹脂と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートから選択される化合物との組み合わせが好ましい。
【0030】
上記重合体からなるシェルは、常温時のゲル分率をx、180℃、30分加熱時のゲル分率をyとした場合に、yが50%以上であり、かつ、y/xが1.1以上であることが好ましい。
上記yが50%以上であると、膨張した際にシェルが収縮したり、破裂したりすることが少なくなるために、耐熱性、耐久性が良好となり、上記y/xが1.1以上であると、常温から膨張開始温度付近でのシェルが柔軟であるために発泡倍率が高くなり、膨張した後のシェルが高強度であるために、耐熱性、耐久性が良好となる。
なお、上記yは60〜90%であることがより好ましく、上記y/xは1.2〜5.0であることがより好ましい。
【0031】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、コア剤として揮発性膨張剤を内包する。
本明細書中、揮発性膨張剤とは、上記シェルの軟化点以下の温度で、ガス状になる物質をいう。
【0032】
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテル、及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルでは、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が10以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0034】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルにおいて、コア剤として用いる揮発性膨張剤の含有量の好ましい下限は10重量%、好ましい上限は25重量%である。
上記シェルの厚みはコア剤の含有量によって変化するが、コア剤の含有量を減らして、シェルが厚くなり過ぎると発泡性能が低下し、コア剤の含有量を多くすると、シェルの強度が低下する。上記コア剤の含有量を10〜25重量%とした場合、熱膨張性マイクロカプセルのへたり防止と発泡性能向上とを両立させることが可能となる。
【0035】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度(Tmax)は特に限定されないが、好ましい下限が200℃である。上記最大発泡温度が200℃未満であると、熱膨張性マイクロカプセルは、耐熱性が低くなり、高温において、破裂及び収縮を生じやすく、高発泡倍率で発泡できないことがある。また、上記最大発泡温度が200℃未満であると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、ペレット製造時の剪断力により発泡が生じてしまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造できないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度は、より好ましい下限が210℃である。
なお、本明細書中、上記最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときの温度を意味する。
【0036】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、発泡開始温度(Ts)の好ましい上限が200℃である。上記発泡開始温度が200℃を超えると特に射出成形の場合、発泡倍率が上がらないことがある。上記発泡開始温度の好ましい下限は130℃、より好ましい上限は180℃である。
【0037】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が10μm、好ましい上限が50μmである。上記体積平均粒子径が10μm未満であると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合して成形する場合に、得られる発泡成形体の気泡が小さすぎ、軽量化が不充分となることがある。上記体積平均粒子径が50μmを超えると、例えば、熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合して成形する場合に、得られる発泡成形体の気泡が大きくなりすぎ、強度等の面で問題となることがある。上記体積平均粒子径は、より好ましい下限が15μm、より好ましい上限が40μmである。
【0038】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法は特に限定されず、例えば、水性分散媒体を調製する工程と、該水性分散媒体中に、ニトリル系モノマー、及び、ラジカル重合性の二重結合及び水酸基を有する水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物と、水酸基と反応する官能基を1分子中に2個以上有し、かつ、ラジカル重合性の二重結合を有しない多官能反応性化合物と、揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程と、上記モノマー組成物を重合させる工程とを行うことにより、ニトリル系モノマー及び水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体と、多官能反応性化合物とを含有するシェルに、コア剤として揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルを得る方法等が挙げられる。このような熱膨張性マイクロカプセルの製造方法もまた本発明の1つである。
【0039】
上記水性分散媒体を調製する工程では、例えば、重合反応容器に、水、分散安定剤、及び、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、上記水性分散媒体には、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0040】
上記分散安定剤は特に限定されず、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0041】
上記補助安定剤は特に限定されず、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、水溶性窒素含有化合物、ポリエチレンオキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
上記水溶性窒素含有化合物は特に限定されず、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート及びポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド及びポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0042】
上記分散安定剤と上記補助安定剤との組み合わせは特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらのなかでは、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましく、該縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、ジエタノールアミンとアジピン酸との縮合生成物、ジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が特に好ましい。
【0043】
上記分散安定剤としてコロイダルシリカを用いる場合、コロイダルシリカの添加量は特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定することができるが、全モノマー成分100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部、更に好ましい下限が2重量部、更に好ましい上限が10重量部である。
また、上記補助安定剤として上記縮合生成物又は上記水溶性窒素含有化合物を用いる場合、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の添加量は特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定することができるが、全モノマー成分100重量部に対する好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0044】
上記水性分散媒体には、上記分散安定剤及び上記補助安定剤に加えて、更に、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。このような無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルを得ることができる。
上記無機塩の添加量は特に限定されないが、全モノマー成分100重量部に対する好ましい上限は100重量部である。
【0045】
上記水性分散媒体は、上記分散安定剤及び上記補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、上記脱イオン水のpHは、使用する分散安定剤及び補助安定剤の種類によって適宜決定することができる。例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを用いる場合には、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHを3〜4に調整し、後述する工程において酸性条件下で重合が行われる。また、上記分散安定剤として水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを用いる場合には、系をアルカリ性に調整し、後述する工程においてアルカリ性条件下で重合が行われる。
【0046】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する際には、次いで、上記水性分散媒体中に、上記モノマー組成物と多官能反応性化合物と上記揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程を行う。
この工程では、上記モノマー組成物と多官能反応性化合物と上記揮発性膨張剤とを別々に上記水性分散媒体に添加して、該水性分散媒体中で上記油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め両者を混合して油性混合液としてから、上記水性分散媒体に添加する。この際、上記油性混合液と上記水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより上記油性混合液を上記水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加してもよい。
なお、上記モノマー組成物中のモノマーを重合するために重合開始剤が用いられるが、上記重合開始剤は、予め上記油性混合液に添加してもよく、上記水性分散媒体と上記油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0047】
上記水性分散媒体中に、上記モノマー組成物と上記揮発性膨張剤とを含有する油性混合液を分散させる工程では、上記水性分散媒体中に上記油性混合液を所定の粒子径で乳化分散させる。
上記乳化分散させる方法は特に限定されず、例えば、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法、ラインミキサー、エレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。なお、上記静止型分散装置には上記水性分散媒体と上記油性混合液とを別々に供給してもよく、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを製造する際には、次いで、上記モノマー組成物を重合させる工程を行う。上記重合する方法は特に限定されず、例えば、加熱することにより上記モノマー組成物を重合させる方法が挙げられる。
このようにして、ニトリル系モノマー及び水酸基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体と、多官能反応性化合物とを含有するシェルに、コア剤として揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルが得られる。得られた熱膨張性マイクロカプセルは、続いて、脱水する工程、乾燥する工程等を経てもよい。
【0049】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの用途は特に限定されず、例えば、本発明の熱膨張性マイクロカプセルをマトリックス樹脂に配合し、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形することにより、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を備えた発泡成形体を製造することができる。本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、高温においても、破裂及び収縮を生じにくく、高発泡倍率で発泡できることから、高温で加熱する工程を有する発泡成形にも好適に適用される。
【0050】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルに、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂を加えたマスターバッチペレットは、射出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により、上記熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることにより、発泡成形体を製造することができる。このような発泡性熱可塑性マスターバッチもまた本発明の1つである。
【0051】
上記熱可塑性樹脂としては、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレン等の一般的な熱可塑性樹脂;ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。また、エチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の熱可塑性エラストマーを使用してもよく、これらの樹脂を併用して使用してもよい。
【0052】
上記熱可塑性樹脂100重量部に熱膨張性マイクロカプセルの添加量は0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部が適量である。また、炭酸水素ナトリウム(重曹)やADCA(アゾ系)等の化学発泡剤と併用することもできる。
【0053】
上記マスターバッチペレットを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂、各種添加剤等の原材料を、同方向2軸押出機等を用いて予め混練する。次いで、所定温度まで加熱し、本発明の熱膨張マイクロカプセル等の発泡剤を添加した後、更に混練することにより得られる混練物を、ペレタイザーにて所望の大きさに切断することによりペレット形状にしてマスターバッチペレットとする方法等が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂や熱膨張性マイクロカプセル等の原材料をバッチ式の混練機で混練した後、造粒機で造粒することによりペレット形状のマスターバッチペレットを製造してもよい。
上記混練機としては、熱膨張性マイクロカプセルを破壊することなく混練できるものであれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等が挙げられる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、高い発泡倍率、高温での耐久性を有しつつ、発泡成形に使用した場合に着色や臭気が生じにくい熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ、発泡成形体及び該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0056】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)25重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.8重量部と、1N塩酸1.8重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、表1に示した配合比のモノマー、多官能反応性化合物、揮発性膨張剤、及び、重合開始剤(2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル 0.8重量部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.6重量部)からなる油性混合物を水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で6時間、80℃で5時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
なお、多官能反応性化合物としては、
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828US:ジャパンエポキシレジン社製、ラジカル重合性二重結合の数:0、水酸基と反応する官能基の数:2)、
アミノフェノール型エポキシ樹脂(jER630:ジャパンエポキシレジン社製、ラジカル重合性二重結合の数:0、水酸基と反応する官能基の数:3)
ジメチルピラゾールブロックイソシアネート(Aqua BI200:Baxenden社製、ラジカル重合性二重結合の数:0、水酸基と反応する官能基の数:3)
を用い、
水酸基含有モノマーとしては、
2−ヒドロキシエチルメタクリレート(ラジカル重合性二重結合の数:1、水酸基の数:1)
2−ヒドロキシブチルメタクリレート(ラジカル重合性二重結合の数:1、水酸基の数:1)
を用い、
その他のモノマーとしては、
1,4−ブタンジオールジアクリレート(ラジカル重合性二重結合の数:2、水酸基の数:0)、
エチレングリコールジメタクリレート(ラジカル重合性二重結合の数:2、水酸基の数:0)、
グリシジルメタクリレート(ラジカル重合性二重結合の数:1、水酸基の数:0)、
を用いた。
【0057】
(評価)
実施例、比較例で得られた熱膨張性マイクロカプセルについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
(1)ゲル分率測定
(常温でのゲル分率)
熱膨張性マイクロカプセル0.5g(a[g])とN,N−ジメチルホルムアミド20.0gをガラス試験管に秤取り、70℃で24時間加熱した。加熱後、遠心分離機で10000rpm、15分間遠心分離し、上澄みを廃棄した。沈殿したゲルを70℃の真空乾燥機で48時間真空乾燥を行い、乾燥したゲル分の重量(b[g])を測定した。次いで、下記式から常温でのゲル分率(x)を算出した。
常温でのゲル分率(x)=(b/a)×100(%)
(180℃30分後のゲル分率)
熱膨張性マイクロカプセルを1.0gアルミカップに秤取り、180℃の熱風オーブンで30分加熱した。加熱したサンプルを0.5g(c[g])とN,N−ジメチルホルムアミド20.0gをガラス試験管に秤取り、70℃で24時間加熱した。加熱後、遠心分離機で10000rpm、15分間遠心分離し、上澄みを廃棄した。沈殿したゲルを70℃の真空乾燥機で48時間真空乾燥を行い、乾燥したゲル分の重量(d[g])を測定した。次いで、下記式から180℃30分後のゲル分率(y)を算出した。
180℃30分後のゲル分率(y)=(d/c)×100(%)
【0059】
(2)発泡倍率
加熱発泡顕微装置(ジャパンハイテック社製)を用い、熱膨張性マイクロカプセルをステージに少量散布し、毎分5℃で加熱を行いながら、280℃まで膨張挙動を観察した。観察画像中の任意の熱膨張性マイクロカプセル5個に対し、5℃毎にノギスを用いて直径φTを測り、各温度の平均直径φT(Ave)を得た。各温度での発泡倍率DT=φT(Ave)/φ30とし、ETが最大になる温度でのETを最大発泡倍率DTmaxとした。
ここでφ30とは30℃における熱膨張性マイクロカプセルの直径のことである。
最大発泡時の発泡倍率が3倍未満であった場合を「×」と、3倍以上5倍未満であった場合を「○」と、5倍以上であった場合を「◎」として評価した。
【0060】
(3)耐熱性
加熱発泡顕微装置(ジャパンハイテック社製)を用い、発泡倍率と同様の条件で膨張挙動を観察し、200℃における発泡倍率D200を測定した。D200が1.5倍未満であった場合を「×」と、1.5倍以上2.0倍未満であった場合を「△」と、2.0倍以上3.0倍未満であった場合を「○」と、3.0倍以上であった場合を「○○」として評価した。
【0061】
(4)耐久性
加熱発泡顕微装置(ジャパンハイテック社製)を用いて、発泡倍率と同様の条件で膨張挙動を観察し、最大発泡倍率の1/2以上を保っている温度幅(ΔT)を測定した。
30℃未満であった場合を「×」と、30℃以上40℃未満であった場合を「△」と、40℃以上50℃未満であった場合を「○」と、50℃以上60℃未満であった場合を「○○」と、60℃以上であった場合を「○○○」として評価した。
【0062】
(5)臭気
得られた熱膨張性マイクロカプセル1.0gを、アルミカップに秤取り、なるべく平坦になるようならした後、180℃に熱した熱風オーブン(エスペック社製、ST−110)で1分間加熱した。加熱後、オーブンの扉を開けた際に、酸臭気を感じた場合を「×」、酸臭気が感じられなかった場合を「○」として評価した。
【0063】
(6)着色
得られた熱膨張性マイクロカプセル1.25gを、軟質塩ビ(PQ92、新第一塩ビ社製)20g、炭酸カルシウム(P−50、白石カルシウム社製)10g、可塑剤(DINP、和光純薬工業社製)20gを遊星式分散装置で攪拌後に得られたペースト状のサンプルを、直径約50mmのアルミカップに5g流し入れ、180℃に熱した熱風オーブンで10分間加熱した。加熱後のサンプルをの外観を目視で観察した。茶褐色になった場合を「×」、黄色になった場合を「△」、薄い黄白色、クリーム色になった場合を「○」、白色になった場合を「○○」、として評価した。
【0064】
(7)斑点
熱膨張性マイクロカプセルを1.25g、軟質塩ビ(PQ92 新第一塩ビ社製)20g、炭酸カルシウム(P−50 白石カルシウム社製)10g、可塑剤(DINP 和光純薬工業社製)20g、顔料(カーボンブラック入りポリエチレンマスターバッチ)0.1gを遊星式分散装置で攪拌後に得られたペースト状のサンプルを、直径約50mmのアルミカップに5g流し入れ、180℃に熱した熱風オーブンで10分加熱した。加熱後のサンプル表面を目視し、白斑点が多数見られた場合を「×」、僅かに見られた、または殆ど見られなかった場合を「○」として評価した。
【0065】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、高い発泡倍率、高温での耐久性を有しつつ、発泡成形に使用した場合に着色や臭気が生じにくい熱膨張性マイクロカプセル、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ、発泡成形体及び該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。