(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5731706
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】溶鋼の取鍋真空精錬装置
(51)【国際特許分類】
C21C 7/10 20060101AFI20150521BHJP
【FI】
C21C7/10 P
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-250531(P2014-250531)
(22)【出願日】2014年12月11日
【審査請求日】2015年1月15日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 榮子
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
【審査官】
本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−277712(JP,A)
【文献】
特開平02−101108(JP,A)
【文献】
特開2012−255210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未精錬溶鋼を保持した取鍋を真空タンクに内置して真空精錬する装置において、真空タンクは排気孔を持つ球面底円筒状の真空タンク本体と球面蓋円筒状の真空カバーとから成り、該真空タンク本体上端と該真空カバー下端にはそれぞれパッキンを介して対面接触してタンク内を気密にする真空フランジを持ち、該真空タンク本体の内径及び該真空カバーの内径をそれぞれ取鍋トラニオン両端間長さよりも小さくするとともに該真空タンク本体又は該真空カバーのどちらか又は両方にまたがって外接したトラニオン格納室を設けることによって取鍋を内置可能とし且つ排気空間容積を単純円筒真空タンクとした場合の排気空間容積よりも削減することを特徴とする溶鋼の真空精錬用真空タンク。
【請求項2】
未精錬溶鋼を保持した取鍋を単純円筒真空タンクに内置して真空精錬する装置において、該真空タンクの内部空間に充填材を付設して、真空タンク本体及び真空カバーの形状を請求項1に記載した形状に近似させることにより排気空間容積を削減することを特徴とする溶鋼の真空精錬用真空タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶鋼の取鍋真空精錬における精錬装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を高度に仕上げ精錬する場合、例えばH,N等の脱ガスを施したり極低不純物鋼を製造する場合等、多くは真空処理が適用される。
処理方法は種々あって、製造鋼種や要求品質に対応して適用方法が選択される。例えば国内の量産特殊鋼工場では取鍋中の溶鋼を真空容器に吸引し循環させて処理するRH法とその改良型が多用されている。本方法の利点の一つは、真空精錬装置を設置するに際して従来の取鍋がそのまま使用することができることである。
【0003】
取鍋自体を真空容器にする方法(
図5)もいくつかある。特許文献1に例示されるように気密取鍋20の上部と下部に真空カバー21,22を設けて溶鋼を真空に曝す。
当該方法では溶鋼の上層部全体が反応領域になること、吹き込みガス量に依存し撹拌力が増大すること、排気空間容積が小さく減圧が早いことからRH法よりも処理能率が大きく且つRH法のような特殊耐火物も不要という利点がある。
他方、真空を形成するための気密取鍋、上下の真空フランジ及び充分なフリーボード(取鍋の余裕高さ)を持つ特殊な取鍋が不可欠であり、取鍋高さの拡大のため製鋼工場の上下スペースに困難な問題が生ずる。該フリーボードは溶鋼の真空処理に起因する液面上昇による溢出を防止する。
【0004】
海外では真空タンク方式(
図4)が一般的である。溶解炉から取鍋に未精錬溶鋼を受け、該取鍋を真空タンクに内置し、真空カバーによって該タンクを密封し、通気性耐火物を介して溶鋼中に精錬ガスを吹き込みながらタンク内を真空に排気する。
前記方法と同様の効果が得られるが、問題は大きなタンクに取鍋を内置するので排気空間容積が前記方法と比較して著しく過大になることである。そのため所望真空度に達する時間が遅延(通常10分以上)し、製鋼作業能率が低下する。作業能率の低下はさらに耐火物の消耗やエネルギーの損失を誘発する。当問題は排気装置の大幅な能力拡大により改善されるが新たに設備費用と操業費用が問題となる。
【0005】
上記方法においてなぜタンク寸法が大きくなるか説明する。取鍋は通常取鍋専用吊り具を介してクレーンにより運搬される。取鍋には吊り具のフックを懸けるトラニオンが設けられている。両トラニオンの先端間の長さLは取鍋外径よりもかなり大きい。タンク内径は少なくともLよりも大きくしなければならない。また内置後吊り具をトラニオンから外して待避させるため吊り具下端のフック部の作業域を確保しなければならない。クレーン作業は手動操作であってある程度のスペース余裕が必要である。そのためタンク内径はさらに大きくしなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】公開特許公報2004−115823
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶鋼の真空取鍋精錬において真空タンク方式で処理する場合、排気空間容積が過大になる。その結果所望真空度に排気する時間が遅延し精錬作業能率を低下させコストの増加を招いている。排気能力を増強して対処しようとすると設備費、運転費が増加する。
本願発明は当該問題の軽減を解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決に当たり、真空タンクの構造として内置された取鍋の取鍋トラニオン周辺部のみは必要最少の空間を確保するが、当該部の上下及び周辺は極力縮小すると言う単純な策により排気空間容積の縮小を通して必要排気能力の削減、精錬作業能率の向上を図る。
【0009】
第1の発明は、未精錬溶鋼を保持した取鍋を真空タンクに内置して真空精錬する装置において、真空タンクは排気孔を持つ球面底円筒状の真空タンク本体と球面蓋円筒状の真空カバーとから成り、該真空タンク本体上端と該真空カバー下端にはそれぞれパッキンを介して対面接触してタンク内を気密にする真空フランジを持ち、該真空タンク本体の内径及び該真空カバーの内径をそれぞれ取鍋トラニオン両端間長さよりも小さくするとともに該真空タンク本体又は該真空カバーのどちらか又は両方にまたがって外接したトラニオン格納室を設けることによって取鍋を内置可能とし且つ排気空間容積を単純円筒真空タンクよりも削減することを特徴とする溶鋼の真空精錬用真空タンクである。
【0010】
第2の発明は、未精錬溶鋼を保持した取鍋を単純円筒型の真空タンクに内置して真空精錬する装置において、該真空タンクの内部形状を該真空タンクの内壁に充填材を付設して第1発明に記載した真空タンク本体及び真空カバーの形状に近似して形成することにより排気空間容積を削減することを特徴とする溶鋼の真空精錬用真空タンクである。
【0011】
ここで述語の定義として、単純円筒真空タンクとは外形が
図4に例示されるように直立する円筒の上下が球面で覆われタンク内が真空に排気可能なタンクとする。
取鍋トラニオン両端間長さとは
図1においてLで示される。
【発明の効果】
【0012】
真空タンク本体と真空カバーの内径がそれぞれ従来の単純円筒タンクよりも小さくなるのでタンク内容積が減少する。溶鋼を保持した取鍋を内置した場合の実排気空間の容積は半減以下も可能になって排気に要する時間が減少する。その結果精錬時間が短縮され、耐火物の耐久が向上し、又溶鋼の熱損が減少して省エネルギーにも寄与する。
精錬能率よりも設備費・運転費をある程度優先する場合には、排気容積の削減により排気系の設備能力(例:真空ポンプ台数)を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の真空タンクに取鍋を内置した状態を正面から見た縦断面図である。
【
図2】本発明の真空タンクの本体に取鍋を内置した状態を上から見た図である。
【
図3】本発明のトラニオン格納室とフック作業範囲を説明する図である。
【
図4】従来の単純円筒真空タンクに取鍋を内置した状態を示す。
【
図5】取鍋自体を真空タンクの一部とする気密取鍋方式の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に従い、初めに真空精錬作業の概略を述べる。真空タンクは真空タンク本体3と真空カバー4とから成る。未精錬溶鋼1を保持した有底円筒状の取鍋2(斜線部は耐火物)を真空タンク本体3に内置し、真空カバー4で覆った後(駆動装置は図示せず)排気孔5から排気手段(図示せず)によって排気して真空タンク内を減圧する。同時に溶鋼内には通気性耐火物6を介して精錬ガスを吹き込む。溶鋼1は沸騰し脱ガス等諸反応が進行する。真空カバー4は耐火物防熱板7により沸騰面の強烈な放射から守られている。
減圧の進行が遅いと精錬の進行も遅れる。減圧の進行は主に排気空間容積と排気能力との比に依存する。本発明の要点は該排気空間容積を削減して効率的に減圧することにある。
【0015】
真空タンク本体3の形状は球面底を持つ円筒状であり、真空カバー4も上下逆の同様の形状を持つ。該真空タンク本体3の上端と該真空カバー4の下端にはパッキン8を介してそれぞれ対面接触(厳密にはフランジ面は接触せずパッキンが接触)してタンク内を気密にする真空フランジ9,9’を設ける。
該真空タンク本体3の内径は取鍋2の取鍋トラニオン10,10’の両端間長さL(図示)よりも小さくし、取鍋2の外径よりも大きくし、取鍋2の下部が該真空タンクに挿入される大きさとする。
該真空タンク3の真空フランジ9の高さは該トラニオン10,10’の頂部よりも高く且つ取鍋2の上端よりも低い。
【0016】
該真空タンク本体3の上部には内側と上側が開口した必要最少容積の箱状の取鍋トラニオン格納室11,11’を設ける。必要最少とは取鍋トラニオン10,10’を包囲し且つ取鍋吊り具12の着脱に伴うフック13の作業範囲を含んで縦、横、高さを最少にしたものである。
前記真空フランジ9は該格納室11,11’の上端を包囲し、真空フランジ9’は該格納室11,11’の上面を閉鎖している。
図2は真空タンク本体3に取鍋2を内置した状態を上から見た図である。真空フランジ9,9’の外周形状は長円状にするとパッキン8の収まりが良い。該パッキン8はどちら側に取り付けても良い。
図3は真空タンク本体3に設けられたトラニオン格納室11の位置とフック13の作業範囲を説明する図である。トラニオン格納室11の縦の寸法はトラニオン径の約2倍、横は約4倍あれば良い。
【0017】
真空タンク本体3と同様に、真空カバー4の内径は取鍋トラニオン10,10’の両端間長さLよりも小さく、当然取鍋2の外径よりも大きく、取鍋2の上部が包囲される大きさである。該真空カバー4の高さは取鍋2と防熱板7を覆う必要最少がよい。
本願発明の
図1に示す真空タンクの形状と
図4に示す単純円筒タンクの従来の真空タンクの形状を比較すると本願発明は内径が縮小したタンクの2カ所にトラニオン格納室を付設したものになっていて、排気容積の縮小は歴然である。
【0018】
真空ポンプ又はスチームエジェクター等の排気手段の駆動によりタンク内は減圧するが、減圧速度に対する要因には、タンク内実効排気容積W(m
3)、排気能力w(m
3/h)、ガス吹き込み量u(m
3/h)、ガス発生量v(m
3/h)、リーク量s(m
3/h)及び排気装置の到達真空度Pe(Pa)がある。
減圧の進行を見る概算には下記式が使用される。
P=Po×exp(−w/W×t)
P:タンク内圧力(Pa) Po:初期圧力(Pa) t:時間(h)
圧力は指数関数的に減衰する。式からタンク容積が半減すると所期真空度への到達時間が半減することが解る。排気能力を倍増すると同様に必要時間は半減すると解る。
【0019】
精錬時間は減圧時間とその後の真空維持時間との和であり減圧時間の短縮が精錬作業能率には直結しない。しかし化学反応速度が大きい精練方法では相対的に維持時間が短く、精錬作業能率に対する減圧時間の短縮効果は大きい。
【0020】
以上はトラニオン格納室11を真空タンク本体3に設けた場合を記したが、トラニオン格納室11を真空カバー4に設けることも可能である。真空フランジ9,9’の位置はトラニオン格納室の下面になる。構造は多少変わり、カバーの昇降距離が増加するが同様の冶金効果が得られる。
トラニオン格納室を真空タンク本体と真空カバーにまたがって設けることも可能である。
真空フランジ9,9’の位置はトラニオン格納室の上下中間近辺になる。
【0021】
排気孔5を真空タンク本体3に設けた理由は排気管が固定されて簡素になるからである。
真空カバー側に設けると排気管はカバーの昇降に追随させなければならない。
【0022】
既存の単純円筒真空タンクを本願発明の真空タンクの形状に改造することは比較的簡単である。具体的にはタンク内、カバー内で無益な空間を充填材で埋めるのが手っ取り早い。埋めることによりトラニオン格納室が形成されるが、通常フランジ高さは取鍋の上端近傍にあるので格納室は上方に延長する必要がある。本作業により排気空間容積が削減され、減圧時間が短縮され、精錬能率が向上する。
充填材として煉瓦、不定形耐火物、コンクリート、キャスタブル、石膏等が使用可能である。
【実施例】
【0023】
公称容量100Tの取鍋に本発明の真空処理装置を適用する場合の真空タンクの仕様を従来の単純円筒タンク式及び気密取鍋式と比較して表1にまとめる。取鍋の主な仕様は以下である。
公称容量 100T
全高さ 4.3m
全深さ 3.4m
フリーボード 0.8m
溶鋼深さ 2.6m
外径 3.3m
トラニオン長さ 0.8m
トラニオン両端間長さL 4.8m
体積(含溶鋼) 30.1m
3
表から排気容積は本発明により従来の単純円筒タンク式の約40%に削減することができる。又気密取鍋式の約2倍まで接近することができる。
【0024】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0025】
本願発明の真空精錬用の真空タンクは従来の真空タンクと容易に代替可能である。既存の単純円筒タンク式精錬装置を本発明にように改造することも容易である。
【符号の説明】
【0026】
1: 溶鋼 2:取鍋 3:真空タンク本体 4:真空カバー 5:排気孔 6:通気性耐火物 7:耐火物防熱板 8:パッキン 9,9’:真空フランジ 10,10’取鍋トラニオン 11,11’:トラニオン格納室 12:吊り具 13:フック 20:気密取鍋 21:上部真空カバー 22:下部真空カバー
【要約】
【課題】 溶鋼の真空取鍋精錬において真空タンク方式で処理する場合、タンク内径は取鍋トラニオン両端間長さLよりも大きく排気空間容積が過大である。
【解決手段】 真空タンク本体と真空カバーとから成る真空タンクにおいてそれぞれ上下逆向きに円筒部と球面部と真空フランジとで構成し、フランジ部で対面封鎖する。円筒部の内径をそれぞれ取鍋トラニオン両端間長さLよりも小さくする。他方真空タンク本体又は真空カバー又は両方にまたがって両トラニオンを格納する格納室を外接させて取鍋を真空タンクに内置可能とする。排気空間容積を半減以下にすることが可能となり、減圧に要する時間が半減以下となり精錬作業能率が向上する。耐火物の耐久、省エネルギーが期待される。
【選択図】
図1