【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
【0030】
各種特性の測定は以下のようにして行った。
(容量)
恒温乾燥器を用い、100℃の空気中で5分間固体電解コンデンサ素子を乾燥させた。その直後にLCR測定器に配線された導線をコンデンサ素子の電極層とコンデンサ素子に植立したリード線に当てた。バイアス電圧2.5Vにて、120Hzにおける容量を、アジレント社製LCR測定器で測定した。無作為に選んだコンデンサ素子40個の測定値の平均値を算出した。
【0031】
(漏れ電流)
コンデンサ素子に室温下で2.5Vを印加した。電圧印加開始から30秒経過時に、電源のプラス端子からコンデンサ素子の陽極リード線、コンデンサ素子の電極層、さらに電源のマイナス端子に亘る回路の電流値(漏れ電流)を測定した。無作為に選んだコンデンサ素子40個の測定値の平均値を算出した。
【0032】
(元素分析)
ICP発光分析によって陽極体中の元素含有量を決定した。また、酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)を用いて陽極体中の窒素量と酸素量をそれぞれ熱伝導度法と赤外吸収法により決定した。無作為に選択した陽極体2個の平均値を算出した。
【0033】
(粒子径)
マイクロトラック社製 HRA 9320−X100を用い、レーザー回折散乱法で粒度分布を測定し、体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D50)を求めた。
【0034】
(表面抵抗率)
カーボンペーストをドクターブレード法でガラス基板上に厚さ500μmの条件で塗膜し、105℃の空気中で120時間乾燥硬化させて単層膜を作製した。その膜の表面抵抗率を測定した。
【0035】
製造例1
50%粒子径0.6μmのタングステン粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Aを作製した。
【0036】
製造例2
50%粒子径0.6μmのタングステン粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻す途中の150℃時に1000体積ppmの酸素を含んだ窒素ガスを導入した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Bを作製した。
【0037】
製造例3
50%粒子径0.6μmのタングステン粉にケイ素を添加して混合した。該混合粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Cを作製した。
【0038】
製造例4
50%粒子径0.6μmのタングステン粉にケイ素を加えて混合した。この混合粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻す途中の150℃時に1000体積ppmの酸素を含んだ窒素ガスを導入した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Dを作製した。
【0039】
実施例1
カーボン粉とセルロース樹脂を含むペースト(商品名バニーハイトT−602、日本黒鉛社製、固形分27質量部の内訳が黒鉛90質量%、カーボンブラック7質量%およびセルロース樹脂3質量%であり、残り73質量部が水からなる。)を用意した。
過硫酸アンモニウム3gを水50mlに溶かして過硫酸アンモニウム水溶液を調製した。前記ペースト370gと、該ペースト中の固形分100質量部に対して過硫酸アンモニウムが3質量部となる量の過硫酸アンモニウム水溶液とを混合してカーボンペーストA1を得た。カーボンペーストA1の表面抵抗率は5±2Ω/sqであった。
【0040】
〔焼結体の作製〕
造粒粉Aを圧し固めて成形体を作製した。成形の際に0.29mmφのタンタル線(リード線)を植立した。成形体を真空焼成炉に入れ、1550℃にて20分間焼成して、1.0mm×1.5mm×4.5mmの焼結体(1.0mm×1.5mm面にリード線が植立)を500個作製した。リード線を除いた質量は62±2mgであった。得られた陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。
【0041】
〔誘電体層の形成(化成処理)〕
i)電解酸化
1質量%硝酸水溶液を化成液として用意した。化成液をステンレス製容器に入れた。焼結体を化成液に焼結体全体が浸かる位置まで浸漬した。リード線を陽極に、容器を陰極に接続し、液温20℃の化成液において15Vの電圧を8時間印加した。
ii)水洗浄−乾燥
次いで、純水で洗浄して焼結体細孔中の化成液を除去した。その後エタノールに漬けて攪拌することにより表面(細孔内の表面も含む。)に付着した水のほとんどを除去した。エタノールから引き上げ、190℃にて30分間乾燥させた。焼結体表面が誘電体層に化成された。
【0042】
〔半導体層の積層〕
i)浸漬工程
誘電体層が形成された焼結体を、10質量%のエチレンジオキシチオフェン(以下EDOTと略す。)エタノール溶液に浸漬し、引き上げて室温で乾燥した。次いで焼結体を10質量%のトルエンスルホン酸鉄水溶液に浸漬し、引き上げて60℃で10分間反応させた。この一連の操作を3回繰り返して処理体を得た。
【0043】
ii)電解重合工程
処理体を10質量%EDOTエタノール溶液に浸漬した。該エタノール溶液から引き上げた。引き続き、ステンレス(SUS303)製容器に貯留された液温20℃の重合液に前記陽極リードが浸からない位置まで浸漬し、1個当たり60μAで60分間電解重合した。なお、重合液は、水70質量部とエチレングリコール30質量部とからなる溶剤に、過飽和のEDOTおよび3質量%のアントラキノンスルホン酸を溶解させたものである。電解重合後、重合液から引き上げ、純水による洗浄およびエタノールによる洗浄を行い、次いで80℃で乾燥させた。誘電体層の表面上に導電性高分子からなる半導体層が積層された。
【0044】
iii)後化成工程
1質量%硝酸水溶液を化成液として用意した。半導体層が形成された処理体を、化成液に浸漬した。液温20℃の化成液において9Vの電圧を15分間印加した。化成液から引き上げ、純水による洗浄およびエタノールによる洗浄を行い、次いで乾燥させた。
【0045】
その後、上述の浸漬工程−電解重合工程−後化成工程をさらに5回(合計6回)繰り返し行った。なお、第2回目〜第3回目の電解重合は1個当たり70μAの条件にて行った。第4回目〜第6回目の電解重合は1個当たり80μAの条件に行った。
【0046】
〔電極層の積層〕
半導体層が形成された処理体の所定部分にカーボンペーストA1を付着させ、恒温乾燥器を用いて105℃の空気中で30分間乾燥させてカーボン層を形成した。カーボン層の上に銀ペーストを塗布し乾燥させて銀層を形成した。このようにして固体電解コンデンサ素子を128個作製した。
【0047】
得られた固体電解コンデンサ素子の容量および漏れ電流(表中、初期LCと表記する。)を測定した。
固体電解コンデンサ素子を温度23℃、湿度40%の空気中で30日間放置した。その後、再び漏れ電流(表中、放置後LCと表記する。)を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例2〜7
過硫酸アンモニウムの量を表1に記載の量に変えた以外は実施例1と同じ方法で、カーボンペーストA2〜A7を得た。カーボンペーストA2〜A7の表面抵抗率はいずれも5±2Ω/sqであった。
カーボンペーストA1をカーボンペーストA2〜A7に変えた以外は実施例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表1に示す。
【0049】
比較例1〜3
過硫酸アンモニウムの量を表1に記載の量に変えた以外は実施例1と同じ方法で、カーボンペーストA8〜A10を得た。カーボンペーストA8およびA9の表面抵抗率はいずれも5±2Ω/sqであった。カーボンペーストA10の表面抵抗率は15Ω/sq超であった。
カーボンペーストA1をカーボンペーストA8〜A9に変えた以外は実施例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表1に示す。
なお、表面抵抗率の高いカーボンペーストA10を用いると120kHzにおけるESR(等価直列抵抗)が増大することは明らかなのでコンデンサ素子の作製を行わなかった。
【0050】
実施例8
造粒粉Aを造粒粉Bに変えた以外は実施例3と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体には酸素が1450質量ppm、窒素が630質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。結果を表1に示す。
【0051】
比較例4
造粒粉Aを造粒粉Bに変えた以外は比較例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体には酸素が1450質量ppm、窒素が630質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例9
実施例1で用いたペースト(バニーハイトT−602)中のセルロース樹脂をアクリル樹脂に置き換えて作製した、カーボン粉とアクリル樹脂を含むペーストを用意した。該ペーストは、固形分27質量部の内訳が黒鉛88質量%、カーボンブラック9質量%およびアクリル樹脂3質量%であり、残り73質量部が水からなるものである。
過硫酸カリウム3gをエタノール5mlと水45mlとからなる混合溶媒に溶かして過硫酸カリウム溶液を調製した。前記ペースト370gと、該ペースト中の固形分100質量部に対して過硫酸カリウムが3質量部となる量の過硫酸カリウム溶液とを混合してカーボンペーストB1を得た。カーボンペーストB1の表面抵抗率は7±2Ω/sqであった。
造粒粉Aを造粒粉Cに変え且つカーボンペーストA1をカーボンペーストB1に変えた以外は実施例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体にはケイ素が965質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。結果を表2に示す。
【0054】
実施例10〜15
過硫酸カリウムの量を表2に記載の量に変えた以外は実施例9と同じ方法で、カーボンペーストB2〜B7を得た。カーボンペーストB2〜B7の表面抵抗率はいずれも7±2Ω/sqであった。
カーボンペーストB1をカーボンペーストB2〜B7に変えた以外は実施例9と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表2に示す。
【0055】
比較例5〜7
過硫酸カリウムの量を表2に記載の量に変えた以外は実施例9と同じ方法で、カーボンペーストB8〜B10を得た。カーボンペーストB8およびB9の表面抵抗率は7±2Ω/sqであった。
カーボンペーストB1をカーボンペーストB8〜B9に変えた以外は実施例9と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表2に示す。
カーボンペーストB10の表面抵抗率は24Ω/sq超であった。表面抵抗率の高いカーボンペーストB10を用いると120kHzにおけるESR(等価直列抵抗)が増大することは明らかなのでコンデンサ素子の作製を行わなかった。
【0056】
実施例16
造粒粉Cを造粒粉Dに変えた以外は実施例11と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体にはケイ素が965質量ppm、酸素が1680質量ppm、窒素が710質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が、1000質量ppm以下であった。結果を表2に示す。
【0057】
比較例8
造粒粉Cを造粒粉Dに変えた以外は比較例5と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体にはケイ素が965質量ppm、酸素が1680質量ppm、窒素が710質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が、1000質量ppm以下であった。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表1および表2に示すとおり、カーボン粉と樹脂との合計量100質量部に対して酸素放出機能を有する酸化剤3〜30質量部を含有するカーボンペーストを用いて得られる固体電解コンデンサ素子(実施例)は、封止せずに長期間放置している間における漏れ電流の上昇量が小さい。