特許第5731719号(P5731719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731719カーボンペーストおよび固体電解コンデンサ素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731719
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】カーボンペーストおよび固体電解コンデンサ素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/04 20060101AFI20150521BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20150521BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   H01G9/05 G
   H01G9/24 C
   H01B1/24 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-551835(P2014-551835)
(86)(22)【出願日】2013年9月24日
(86)【国際出願番号】JP2013005648
(87)【国際公開番号】WO2014091647
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2015年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-270032(P2012-270032)
(32)【優先日】2012年12月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正二
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−166715(JP,A)
【文献】 特開2007−116028(JP,A)
【文献】 特表2002−524868(JP,A)
【文献】 特開平05−081922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/04
H01B 1/24
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粉と樹脂と溶媒と酸素放出機能を有する過硫酸化合物とを含有するカーボンペーストであって、
過硫酸化合物の量がカーボン粉と樹脂との合計量100質量部に対して3〜30質量部である、カーボンペースト。
【請求項2】
溶媒が水を80質量%以上含むものである請求項に記載のカーボンペースト。
【請求項3】
陽極体と、
陽極体表面を化成して成る誘電体層と、
誘電体層上に積層して成る半導体層と
半導体層上において請求項1または2に記載のカーボンペーストを乾燥硬化して成るカーボン層と
を少なくとも有する固体電解コンデンサ素子。
【請求項4】
陽極体がタングステン粉の焼結体である請求項に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項5】
弁作用金属粉を焼結させて陽極体を得、
該陽極体の表面を電解酸化して誘電体層に化成し、
該誘電体層の上に電解重合によって導電性重合体からなる半導体層を形成し、
半導体層の上に請求項1または2に記載のカーボンペーストを付着させ乾燥硬化させることによってカーボン層を形成する
ことを含む固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンペーストおよび固体電解コンデンサ素子に関する。より詳細に、本発明は、封止せずに長期間放置している間における漏れ電流の上昇が小さい固体電解コンデンサ素子およびそれを得るためのカーボンペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサ素子は、例えば、タンタル、ニオブ、タングステンなどの弁作用金属粉の焼結体をリン酸などの電解質水溶液中で電解酸化して該焼結体表面を金属酸化物からなる誘電体層に化成し、該誘電体層の上に電解重合によって半導体層を形成し、さらに半導体層の上にカーボン層を形成することによって得られる。カーボン層は、通常、カーボンペーストによって作製される。カーボンペーストとして、例えば、特許文献1にはカテコールまたはピロガロールとカーボン粒子とからなるペーストが開示されている。特許文献2には、カーボンとスルホン酸基を有する芳香族化合物とを混合してなるカーボン水溶液またはカーボンペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−284182号公報
【特許文献2】特開2008−027998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体電解コンデンサ素子を樹脂等で封止することによって固体電解コンデンサが作製される。固体電解コンデンサ素子を樹脂などで封止せずにそのまま放置しておくと、漏れ電流(以下、LCと略すことがある。)が上昇することがある。固体電解コンデンサ素子を樹脂封止した後に、エージング等の修復処理を行うと、LCをある程度下げることができる。しかし、LCが大幅に高くなってしまうと修復処理を行ってもLCを所定の値以下にすることが困難になる。
【0005】
また、固体電解コンデンサ素子の製造工程の完了から樹脂封止工程の開始までの時間が製造ロット毎に相違する場合がある。その場合には、固体電解コンデンサ素子の放置時間の相違によって固体電解コンデンサのLCにばらつきが生じることがある。とりわけ、タングステンを主成分とする陽極体から作製した固体電解コンデンサにおいては放置時間の相違によるLCのばらつきの大きさが顕著である。
【0006】
本発明の目的は、封止せずに長期間放置している間における漏れ電流の上昇が小さい固体電解コンデンサ素子およびそれを得るためのカーボンペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、以下の態様を包含する発明を完成するに至った。
【0008】
〔1〕 カーボン粉と樹脂と溶媒と酸素放出機能を有する酸化剤とを含有するカーボンペーストであって、
該酸化剤の量がカーボン粉と樹脂との合計量100質量部に対して3〜30質量部である、カーボンペースト。
〔2〕 酸化剤が、マンガン(VII)化合物、クロム(VI)化合物、ハロゲン酸化合物、過硫酸化合物および有機過酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つである、〔1〕に記載のカーボンペースト。
〔3〕 酸化剤が、過硫酸化合物である、〔1〕に記載のカーボンペースト。
〔4〕 溶媒が水を80質量%以上含むものである、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載のカーボンペースト。
【0009】
〔5〕 陽極体と、
陽極体表面を化成して成る誘電体層と、
誘電体層上に積層して成る半導体層と
半導体層上において〔1〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載のカーボンペーストを乾燥硬化して成るカーボン層と
を少なくとも有する固体電解コンデンサ素子。
〔6〕 陽極体がタングステン粉の焼結体である〔5〕に記載の固体電解コンデンサ素子。
【0010】
〔7〕 弁作用金属粉を焼結させて陽極体を得、
該陽極体の表面を電解酸化して誘電体層に化成し、
該誘電体層の上に電解重合によって導電性重合体からなる半導体層を形成し、
半導体層の上に〔1〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載のカーボンペーストを付着させ乾燥硬化させることによってカーボン層を形成する
ことを含む固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカーボンペーストを用いて半導体層の上にカーボン層を形成すると、封止せずに長期間放置している間における漏れ電流の上昇が小さい固体電解コンデンサ素子を得ることができる。また、そのような固体電解コンデンサ素子を用いることによって固体電解コンデンサの製造ロット間の漏れ電流のバラツキが小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るカーボンペーストは、カーボン粉と樹脂と酸化剤とを少なくとも含有するものである。溶媒は樹脂などの性状に応じて適宜含有させることができる。
本発明のカーボンペーストに用いられるカーボン粉としては、導電性カーボン粉が挙げられる。導電性カーボン粉としては、黒鉛粉とカーボンブラックとを適切な比率で配合してなるものが好ましく用いられる。黒鉛粉の種類や粒度分布、およびカーボンブラックの種類や粒度分布は、カーボンペーストが使用される固体電解コンデンサの用途によって適宜設定される。カーボン粉には、カーボンナノチューブ、フラーレンまたは針状カーボンをさらに配合することができる。
【0013】
本発明のカーボンペーストに用いられる樹脂としては、セルロース、アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチレンオキシド樹脂、カルボキシビニル樹脂、ヒドロキシセルロース樹脂、変性アルキッド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性アミドイミド樹脂、及びこれらの誘導体などの親水性樹脂が挙げられる。樹脂が液体の場合には溶媒をペーストに含有させる必要はないが、ペースト粘度の調整などのために溶媒を使用してもよい。樹脂が固体の場合には樹脂を溶媒に溶解または分散させることが好ましい。これら樹脂のうち、扱いやすさの点から、セルロース系高分子やアクリル系高分子が好ましい。
【0014】
本発明に用いられる溶媒としては、水系溶媒と、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどの非水系溶媒とがある。本発明に用いられる溶媒としては、酸素を放出する機能を有する酸化剤を溶解させるものが好ましい。一般に酸素を放出する機能を有する酸化剤は水系溶媒に溶解しやすいという観点から、水を80質量%以上含む溶媒が好ましく、水を90質量%以上含む溶媒がより好ましく、水を95質量%以上含む溶媒がさらに好ましい。なお、水を80質量%以上含む溶媒を含有してなるペーストを、水溶性カーボンペーストと呼ぶことがある。
【0015】
本発明のカーボンペーストに用いられる酸化剤は、酸素を放出する機能を有するものである。酸素を放出する機能を有する酸化剤としては、マンガン(VII)化合物、クロム(VI)化合物、ハロゲン酸化合物、過硫酸化合物および有機過酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つが好ましい。具体的には、過マンガン酸塩などのマンガン(VII)化合物;三酸化クロム、クロム酸塩、二クロム酸塩などのクロム(VI)化合物;過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸およびそれらの塩などのハロゲン酸化合物;過酢酸、過安息香酸およびそれらの塩や誘導体などの有機酸過酸化物;過硫酸およびその塩などの過硫酸化合物が挙げられる。これらのうち、扱い易さと酸化剤としての安定性、水易溶性の観点から、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸水素カリウム等の過硫酸化合物が好ましい。これらの酸化剤は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
酸化剤の量は、カーボン粉と樹脂との合計量100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、より好ましくは5〜20質量部である。酸化剤の量が少なすぎると、封止せずに数日から数十日の期間放置している間におけるLCの上昇を抑制する効果が低下する傾向がある。酸化剤の量が多すぎるとカーボンペーストの硬化物の導電性が低下する傾向がある。
【0017】
本発明のカーボンペーストには、分散改善剤、pH調整剤、硬化剤等の副成分がさらに含まれていてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態に係る固体電解コンデンサ素子は、陽極体と、陽極体表面を化成して成る誘電体層と、誘電体層上に積層して成る半導体層と、半導体層上に積層して成るカーボン層とを少なくとも有するものである。
【0019】
陽極体は弁作用金属またはそれの導電性酸化物から製造される。弁作用金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、タングステンなどが挙げられる。誘電体層の面積を増やすために、陽極体は多孔質であることが好ましい。多孔質な陽極体は、例えば、弁作用金属またはその導電性酸化物からなる原料粉を焼結させることによって得ることができる。原料粉は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D50)が、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.1〜0.7μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmである。原料粉は、造粒粉であってもよい。造粒粉は、例えば、未造粒の弁作用金属またはそれの導電性酸化物からなる原料粉を焼結・粉砕するなどして製造することができる。また、造粒粉は、一旦製造した造粒粉を、再度、焼結・粉砕するなどして製造してもよい。該造粒粉は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D50)が、好ましくは20〜200μm、より好ましくは26〜180μmである。
【0020】
弁作用金属粉、特にタングステン粉は、ケイ素、ホウ素、リン、酸素および/または窒素を含有するものが好ましい。これら元素を金属粉に含有させる方法は特に制限されない。例えば、タングステン原末から造粒粉を製造する際にケイ素粉などのケイ素源、ホウ酸などのホウ素源、リン酸などのリン源、酸素ガスなどの酸素源および/または窒素ガスなどの窒素源を添加または導入することによる方法が挙げられる。
【0021】
焼結体は、原料粉を圧し固めて成形体を得、それを炉において焼成することによって得られる。加圧成形を容易にするためにバインダーを原料粉に混ぜてもよい。所望の成形密度等になるように粉量や成形装置などの諸条件を適宜設定することができる。原料粉を圧し固める際に、陽極体の端子とするために陽極リード線を成形体に埋設し植立させることができる。陽極リード線としてはタングステン、タンタル、ニオブ等の金属線材などを用いることができる。また、焼結体に後から陽極リード線を溶接して接続することもできる。金属線材の代わりに金属板や金属箔を焼結体に植立または接続してもよい。
【0022】
化成処理は公知の手順に従って行うことができる。化成処理は、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、シュウ酸、アジピン酸などの電解質と、必要に応じて過酸化水素やオゾンなどの酸素供給剤とが溶解してなる電解液に陽極体を浸し、これに電圧を印加することによって行う。電圧は、陽極体(陽極)と対電極(陰極)との間に印加する。陽極体への通電は植立させた陽極リード線を通じて行うことができる。化成処理は複数回繰り返し行ってもよい。この電圧印加によって焼結体表面を誘電体層に化成することができる。
【0023】
化成処理の後、焼結体を純水で洗浄する。この洗浄によって化成液をできるだけ除去する。純水洗浄の後、高温乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥は水の沸点以上の温度、好ましくは160℃以上で行う。乾燥時の温度の上限は好ましくは250℃である。より好ましい乾燥は、先ず105℃以上160℃未満の温度で行い、次いで160℃以上230℃以下の温度で行う。このような温度で乾燥を行うと、低周波域と高周波域における容量が10〜15%程度上昇する。乾燥の時間は、誘電体層の安定性が維持できる範囲であれば特に制限されず、好ましくは10分間〜2時間、より好ましくは20分間〜60分間である。乾燥の後に、化成処理を再度行ってもよい。再化成処理は、1回目の化成処理と同じ条件にて行うことができる。再化成処理の後は、上記と同様に、純水洗浄、および乾燥を行うことができる。
【0024】
次いで誘電体層の上に半導体層を形成する。半導体層は従来の固体電解コンデンサ素子に用いられているものが制限なく使用できる。半導体には、無機半導体と有機半導体とがある。無機半導体としては、二酸化モリブデン、二酸化タングステン、二酸化鉛または二酸化マンガン等が挙げられる。有機半導体としては、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯塩またはポリピロールまたはそれの誘導体、ポリチオフェンまたはそれの誘導体(例えば、3,4−エチレンジオキシチオフェンの重合体)、ポリスルファイドまたはそれの誘導体、ポリフランまたはそれの誘導体、ポリアニリンまたはそれの誘導体などの導電性高分子等が挙げられる。該導電性高分子は、例えば、電解重合によって得ることができる。
【0025】
前記半導体層上にカーボン層を形成する。カーボン層は、前述した本発明に係るカーボンペーストを乾燥硬化させて成るものである。カーボン層は、半導体層上の所定部分にカーボンペーストを付着させ、その後、乾燥硬化させることによって形成できる。
カーボンペーストの付着は、陽極体の形状に応じて種々の方法によって行うことができる。具体的に、カーボンペースト浴に半導体層が形成された陽極体を浸漬することによって、または基材に付着させたカーボンペーストを半導体層上に転写することによって、カーボンペーストを半導体層上に付着させることができる。本発明に係るカーボンペーストは、固液2層に分離することがあるので、付着させる前に十分攪拌混合することが好ましい。このようにすることにより、半導体層上に形成されるカーボン層中の酸化剤の濃度分布を均一にすることができる。
【0026】
付着させたカーボンペーストの乾燥は、溶媒の沸点以上の温度、好ましくは100℃以上で行う。乾燥時の温度の上限は好ましくは160℃である。より好ましい乾燥は、105℃以上150℃未満の温度で行う。このような温度で乾燥を行うと、適切に溶媒を除去できるとともに均質なカーボン層を形成することができる。乾燥の時間は、溶媒を除去できる範囲であれば特に制限されず、好ましくは5分間〜2時間、より好ましくは15分間〜30分間である。乾燥は、大気中で行っても良いし、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの気流中で行っても良い。10kPa程度までの減圧下で行うことによって、より低い温度でまたはより短い時間で乾燥を終わらせることができる。工業的に大量生産することを考えるとコストの点から空気中大気圧で行うことが好ましい。乾燥の後に、化成処理を再度行ってもよい。再化成処理は、1回目の化成処理と同じ条件にて行うことができる。再化成処理の後は、上記と同様に、純水洗浄、および乾燥を行うことができる。乾燥硬化条件は上記条件を組み合わせて適宜設定することができる。
【0027】
さらに、カーボン層の上に必要に応じて金属層を形成することができる。金属層は、例えば銀などの導電性金属のペーストを付着させることによって、または導電性金属をメッキすることによって形成することができる。以上のようにして形成されたカーボン層、またはカーボン層および金属層を電極層と呼ぶ。
このようにして固体電解コンデンサ素子を得ることができる。
【0028】
上記電極層に陰極リードが電気的に接続され、該陰極リードの一部が電解コンデンサの外装の外部に露出して陰極外部端子となる。一方、陽極体には、陽極リード線を介して陽極リードが電気的に接続され、該陽極リードの一部が電解コンデンサの外装の外部に露出して陽極外部端子となる。陰極リードおよび陽極リードの取り付けには通常のリードフレームを用いることができる。次いで、樹脂等による封止によって外装を形成して固体電解コンデンサを得ることができる。このようにして作成された固体電解コンデンサは、所望によりエージング処理を行うことができる。得られた固体電解コンデンサは、各種電気回路または電子回路に装着し、使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
【0030】
各種特性の測定は以下のようにして行った。
(容量)
恒温乾燥器を用い、100℃の空気中で5分間固体電解コンデンサ素子を乾燥させた。その直後にLCR測定器に配線された導線をコンデンサ素子の電極層とコンデンサ素子に植立したリード線に当てた。バイアス電圧2.5Vにて、120Hzにおける容量を、アジレント社製LCR測定器で測定した。無作為に選んだコンデンサ素子40個の測定値の平均値を算出した。
【0031】
(漏れ電流)
コンデンサ素子に室温下で2.5Vを印加した。電圧印加開始から30秒経過時に、電源のプラス端子からコンデンサ素子の陽極リード線、コンデンサ素子の電極層、さらに電源のマイナス端子に亘る回路の電流値(漏れ電流)を測定した。無作為に選んだコンデンサ素子40個の測定値の平均値を算出した。
【0032】
(元素分析)
ICP発光分析によって陽極体中の元素含有量を決定した。また、酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)を用いて陽極体中の窒素量と酸素量をそれぞれ熱伝導度法と赤外吸収法により決定した。無作為に選択した陽極体2個の平均値を算出した。
【0033】
(粒子径)
マイクロトラック社製 HRA 9320−X100を用い、レーザー回折散乱法で粒度分布を測定し、体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D50)を求めた。
【0034】
(表面抵抗率)
カーボンペーストをドクターブレード法でガラス基板上に厚さ500μmの条件で塗膜し、105℃の空気中で120時間乾燥硬化させて単層膜を作製した。その膜の表面抵抗率を測定した。
【0035】
製造例1
50%粒子径0.6μmのタングステン粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Aを作製した。
【0036】
製造例2
50%粒子径0.6μmのタングステン粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻す途中の150℃時に1000体積ppmの酸素を含んだ窒素ガスを導入した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Bを作製した。
【0037】
製造例3
50%粒子径0.6μmのタングステン粉にケイ素を添加して混合した。該混合粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Cを作製した。
【0038】
製造例4
50%粒子径0.6μmのタングステン粉にケイ素を加えて混合した。この混合粉を真空下に1460℃で30分間加熱した。室温に戻す途中の150℃時に1000体積ppmの酸素を含んだ窒素ガスを導入した。室温に戻し、得られた塊状物をハンマーミルで解砕して50%粒子径112μm(粒度分布範囲26〜180μm)の造粒粉Dを作製した。
【0039】
実施例1
カーボン粉とセルロース樹脂を含むペースト(商品名バニーハイトT−602、日本黒鉛社製、固形分27質量部の内訳が黒鉛90質量%、カーボンブラック7質量%およびセルロース樹脂3質量%であり、残り73質量部が水からなる。)を用意した。
過硫酸アンモニウム3gを水50mlに溶かして過硫酸アンモニウム水溶液を調製した。前記ペースト370gと、該ペースト中の固形分100質量部に対して過硫酸アンモニウムが3質量部となる量の過硫酸アンモニウム水溶液とを混合してカーボンペーストA1を得た。カーボンペーストA1の表面抵抗率は5±2Ω/sqであった。
【0040】
〔焼結体の作製〕
造粒粉Aを圧し固めて成形体を作製した。成形の際に0.29mmφのタンタル線(リード線)を植立した。成形体を真空焼成炉に入れ、1550℃にて20分間焼成して、1.0mm×1.5mm×4.5mmの焼結体(1.0mm×1.5mm面にリード線が植立)を500個作製した。リード線を除いた質量は62±2mgであった。得られた陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。
【0041】
〔誘電体層の形成(化成処理)〕
i)電解酸化
1質量%硝酸水溶液を化成液として用意した。化成液をステンレス製容器に入れた。焼結体を化成液に焼結体全体が浸かる位置まで浸漬した。リード線を陽極に、容器を陰極に接続し、液温20℃の化成液において15Vの電圧を8時間印加した。
ii)水洗浄−乾燥
次いで、純水で洗浄して焼結体細孔中の化成液を除去した。その後エタノールに漬けて攪拌することにより表面(細孔内の表面も含む。)に付着した水のほとんどを除去した。エタノールから引き上げ、190℃にて30分間乾燥させた。焼結体表面が誘電体層に化成された。
【0042】
〔半導体層の積層〕
i)浸漬工程
誘電体層が形成された焼結体を、10質量%のエチレンジオキシチオフェン(以下EDOTと略す。)エタノール溶液に浸漬し、引き上げて室温で乾燥した。次いで焼結体を10質量%のトルエンスルホン酸鉄水溶液に浸漬し、引き上げて60℃で10分間反応させた。この一連の操作を3回繰り返して処理体を得た。
【0043】
ii)電解重合工程
処理体を10質量%EDOTエタノール溶液に浸漬した。該エタノール溶液から引き上げた。引き続き、ステンレス(SUS303)製容器に貯留された液温20℃の重合液に前記陽極リードが浸からない位置まで浸漬し、1個当たり60μAで60分間電解重合した。なお、重合液は、水70質量部とエチレングリコール30質量部とからなる溶剤に、過飽和のEDOTおよび3質量%のアントラキノンスルホン酸を溶解させたものである。電解重合後、重合液から引き上げ、純水による洗浄およびエタノールによる洗浄を行い、次いで80℃で乾燥させた。誘電体層の表面上に導電性高分子からなる半導体層が積層された。
【0044】
iii)後化成工程
1質量%硝酸水溶液を化成液として用意した。半導体層が形成された処理体を、化成液に浸漬した。液温20℃の化成液において9Vの電圧を15分間印加した。化成液から引き上げ、純水による洗浄およびエタノールによる洗浄を行い、次いで乾燥させた。
【0045】
その後、上述の浸漬工程−電解重合工程−後化成工程をさらに5回(合計6回)繰り返し行った。なお、第2回目〜第3回目の電解重合は1個当たり70μAの条件にて行った。第4回目〜第6回目の電解重合は1個当たり80μAの条件に行った。
【0046】
〔電極層の積層〕
半導体層が形成された処理体の所定部分にカーボンペーストA1を付着させ、恒温乾燥器を用いて105℃の空気中で30分間乾燥させてカーボン層を形成した。カーボン層の上に銀ペーストを塗布し乾燥させて銀層を形成した。このようにして固体電解コンデンサ素子を128個作製した。
【0047】
得られた固体電解コンデンサ素子の容量および漏れ電流(表中、初期LCと表記する。)を測定した。
固体電解コンデンサ素子を温度23℃、湿度40%の空気中で30日間放置した。その後、再び漏れ電流(表中、放置後LCと表記する。)を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
実施例2〜7
過硫酸アンモニウムの量を表1に記載の量に変えた以外は実施例1と同じ方法で、カーボンペーストA2〜A7を得た。カーボンペーストA2〜A7の表面抵抗率はいずれも5±2Ω/sqであった。
カーボンペーストA1をカーボンペーストA2〜A7に変えた以外は実施例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表1に示す。
【0049】
比較例1〜3
過硫酸アンモニウムの量を表1に記載の量に変えた以外は実施例1と同じ方法で、カーボンペーストA8〜A10を得た。カーボンペーストA8およびA9の表面抵抗率はいずれも5±2Ω/sqであった。カーボンペーストA10の表面抵抗率は15Ω/sq超であった。
カーボンペーストA1をカーボンペーストA8〜A9に変えた以外は実施例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表1に示す。
なお、表面抵抗率の高いカーボンペーストA10を用いると120kHzにおけるESR(等価直列抵抗)が増大することは明らかなのでコンデンサ素子の作製を行わなかった。
【0050】
実施例8
造粒粉Aを造粒粉Bに変えた以外は実施例3と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体には酸素が1450質量ppm、窒素が630質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。結果を表1に示す。
【0051】
比較例4
造粒粉Aを造粒粉Bに変えた以外は比較例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体には酸素が1450質量ppm、窒素が630質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
実施例9
実施例1で用いたペースト(バニーハイトT−602)中のセルロース樹脂をアクリル樹脂に置き換えて作製した、カーボン粉とアクリル樹脂を含むペーストを用意した。該ペーストは、固形分27質量部の内訳が黒鉛88質量%、カーボンブラック9質量%およびアクリル樹脂3質量%であり、残り73質量部が水からなるものである。
過硫酸カリウム3gをエタノール5mlと水45mlとからなる混合溶媒に溶かして過硫酸カリウム溶液を調製した。前記ペースト370gと、該ペースト中の固形分100質量部に対して過硫酸カリウムが3質量部となる量の過硫酸カリウム溶液とを混合してカーボンペーストB1を得た。カーボンペーストB1の表面抵抗率は7±2Ω/sqであった。
造粒粉Aを造粒粉Cに変え且つカーボンペーストA1をカーボンペーストB1に変えた以外は実施例1と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体にはケイ素が965質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が1000質量ppm以下であった。結果を表2に示す。
【0054】
実施例10〜15
過硫酸カリウムの量を表2に記載の量に変えた以外は実施例9と同じ方法で、カーボンペーストB2〜B7を得た。カーボンペーストB2〜B7の表面抵抗率はいずれも7±2Ω/sqであった。
カーボンペーストB1をカーボンペーストB2〜B7に変えた以外は実施例9と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表2に示す。
【0055】
比較例5〜7
過硫酸カリウムの量を表2に記載の量に変えた以外は実施例9と同じ方法で、カーボンペーストB8〜B10を得た。カーボンペーストB8およびB9の表面抵抗率は7±2Ω/sqであった。
カーボンペーストB1をカーボンペーストB8〜B9に変えた以外は実施例9と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。結果を表2に示す。
カーボンペーストB10の表面抵抗率は24Ω/sq超であった。表面抵抗率の高いカーボンペーストB10を用いると120kHzにおけるESR(等価直列抵抗)が増大することは明らかなのでコンデンサ素子の作製を行わなかった。
【0056】
実施例16
造粒粉Cを造粒粉Dに変えた以外は実施例11と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体にはケイ素が965質量ppm、酸素が1680質量ppm、窒素が710質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が、1000質量ppm以下であった。結果を表2に示す。
【0057】
比較例8
造粒粉Cを造粒粉Dに変えた以外は比較例5と同じ方法で固体電解コンデンサ素子を作製し、容量、初期LC、および放置後LCを測定した。陽極体にはケイ素が965質量ppm、酸素が1680質量ppm、窒素が710質量ppm含まれていた。また、陽極体は、不純物元素(タングステン、酸素、窒素、ホウ素、リンおよびケイ素を除いた他の元素)の総量が、1000質量ppm以下であった。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表1および表2に示すとおり、カーボン粉と樹脂との合計量100質量部に対して酸素放出機能を有する酸化剤3〜30質量部を含有するカーボンペーストを用いて得られる固体電解コンデンサ素子(実施例)は、封止せずに長期間放置している間における漏れ電流の上昇量が小さい。