特許第5731723号(P5731723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731723セルロースエーテルを含む溶融押出し組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731723
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】セルロースエーテルを含む溶融押出し組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/28 20060101AFI20150521BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20150521BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20150521BHJP
   C08B 11/193 20060101ALI20150521BHJP
   B29C 47/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   C08L1/28
   C08L101/00
   C08K5/00
   C08B11/193
   B29C47/00
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-503688(P2015-503688)
(86)(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公表番号】特表2015-515522(P2015-515522A)
(43)【公表日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】US2013035594
(87)【国際公開番号】WO2013154981
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2014年9月29日
(31)【優先権主張番号】61/622,760
(32)【優先日】2012年4月11日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・エス・グラスマン
(72)【発明者】
【氏名】トゥルー・エル・ロジャーズ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ペーターマン
(72)【発明者】
【氏名】マインオルフ・ブラックハーゲン
(72)【発明者】
【氏名】ローラント・アデン
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−1/32
101/00−101/14
B29C 47/00−47/96
C08B 11/00−11/22
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のセルロースエーテル、b)1種または複数の有効成分およびc)1種または複数の任意の添加剤を含む溶融押出しポリマー組成物であって、前記少なくとも1種のセルロースエーテルは1−4結合により結合した無水グルコース単位を有し、かつ置換基としてのメチルとは異なるメチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意でアルキル基を有し、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは0.05から0.55のMS(ヒドロキシアルキル)を有し、かつ
[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]
(ここでs23は無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された前記無水グルコース単位のモル分率であり、s26は無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された前記無水グルコース単位のモル分率である)
は0.28以下であるように、無水グルコース単位のヒドロキシル基がメチル基で置換されている、溶融押出しポリマー組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のセルロースエーテルはヒドロキシアルキルメチルセルロースである、請求項1に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のセルロースエーテルはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項2に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは、[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]が0.25以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは1.2から2.2のDS(メチル)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項6】
a)およびb)の総重量に基づいて20から99.9パーセントの少なくとも1種のセルロースエーテルa)および0.1から80パーセントの1種または複数の有効成分b)を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項7】
任意で前記少なくとも1種のセルロースエーテルa)の量がポリマーの総重量に基づいて55から100パーセントであるような前記少なくとも1種のセルロースエーテルa)とは異なる1種または複数のポリマーを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種のセルロースエーテルa)および前記1種または複数の有効成分b)の組み合わせた量は、ポリマー組成物の総重量に基づいて少なくとも70パーセントである、請求項1から7のいずれか一項に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項9】
より糸、小球、顆粒、丸薬、錠剤、カプレット、微粒子、カプセルもしくは射出成形のカプセルの充填物の形態または粉末、フィルム、ペースト、クリーム、懸濁液もしくはスラリーの形態である、請求項1から8のいずれか一項に記載の溶融押出しポリマー組成物。
【請求項10】
i)a)少なくとも1種のセルロースエーテル、b)1種または複数の有効成分およびc)1種または複数の任意の添加剤をブレンドするステップ、ならびに
ii)ブレンドを溶融押出しにかけるステップ、
を含む溶融押出しポリマー組成物を生成するためのプロセスであって、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは、1−4結合により結合した無水グルコース単位を有し、かつ置換基としてのメチルとは異なるメチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意でアルキル基を有し、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは、0.05から0.55のMS(ヒドロキシアルキル)を有し、かつ
[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]
(s23は無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された前記無水グルコース単位のモル分率であり、s26は無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された前記無水グルコース単位のモル分率である)
は0.28以下であるように、無水グルコース単位のヒドロキシル基がメチル基で置換されているような前記少なくとも1種のセルロースエーテルである、前記プロセス。
【請求項11】
(iii)溶融押出しされたブレンドを成形、鋳造、切断、粉砕、ビードに球形化、より糸に切断または錠剤化にかけるステップをさらに含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ブレンドを溶融押出しにかけてより糸を生成するステップおよび前記溶融押出しされたより糸をビード、小球、顆粒、錠剤または粉末に細かく砕くステップを含む、請求項10または11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記ブレンドを溶融押出しにかけてフィルムを生成するステップおよび
I)前記溶融押出しフィルムを小片に切断する、あるいは
II)溶融押出しの時または後に前記溶融押出しフィルムを1つまたは複数の他のフィルムを組み合わせて多層フィルムを生成し、任意で前記フィルムを小片に切断する
任意のステップを含む、請求項10または11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記ブレンドを溶融押出しにかけ、前記溶融押出しされたブレンドをピンと接触させてカプセルを製造するステップを含む、請求項10または11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
溶融押出しポリマー組成物を生成するための少なくとも1種のセルロースエーテルの使用であって、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは、1−4結合により結合した無水グルコース単位を有し、かつ置換基としてのメチルとは異なるメチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意でアルキル基を有し、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは、0.05から0.55のMS(ヒドロキシアルキル)を有し、かつ
[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]
(s23は無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された前記無水グルコース単位のモル分率であり、s26は無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された前記無水グルコース単位のモル分率である)
は0.28以下であるように、無水グルコース単位のヒドロキシル基がメチル基で置換されているような、前記少なくとも1種のセルロースエーテルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエーテルを含む溶融押出し組成物およびそれらを生成するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在知られている多くの薬剤は、水への溶解度が低く、そのため剤形の調製には複雑な技術が必要である。水への溶解度が低い薬剤と組み合わせた薬学的に許容可能な水溶性ポリマーの使用に多くの研究が費やされている。水溶性ポリマーの使用は、薬剤の結晶性を低下させ、それによって薬剤の溶解に必要な活性化エネルギーを最小化すること、ならびに薬物分子の周りに親水性の状態を確立し、それによって薬剤自体の溶解度を改善してその生物学的利用能、すなわちその個体による摂取後の体内吸収を増加することを目的としている。しかし、水溶性ポリマーと水への溶解度が低い薬剤とを単純にブレンドすることでは、一般には薬剤の結晶性は低下しない。
【0003】
G.Van den Mooterの「The use of amorphous solid dispersions:A formulation strategy to overcome poor solubility and dissolution rate」、Drug Discov Today:Technol(2011)、doi:10.1016/j.ddtec.2011.10.002は、それらの溶解の速度および程度を改善することにより難溶性薬剤の生物学的利用能を増加する非結晶質の固体分散体の調製を記述している。非結晶質の固体分散体を調製するために最も適用されている2つの製造方法は、噴霧乾燥および熱溶融押出し(hot melt extrusion)であると考えられている。前者のプロセスは、薬剤および担体の一般的な有機溶媒または溶媒の混合物における溶液から開始する。この溶液をノズルを用いて霧化し、続いて溶媒を素早く(ミリ秒単位で)蒸発させる。急速な溶媒蒸発は、固体分散体の非結晶質の状態に寄与する。
【0004】
Dallas B.Warrenら(Journal of Drug Targeting、2010;18(10):704〜731)は、難水溶性の薬剤の吸収を改善するための重合沈殿抑制剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などの水溶性のセルロースエーテルの使用を研究している。
【0005】
S.L.Raghavanら(International Journal of Pharmaceutics 212(2001)213〜221)は、酢酸ヒドロコルチゾン(HA)の結晶化へのヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリエチレングリコール(PEG400)の影響を研究している。
【0006】
あるいは、固体分散体は、熱溶融押出によって生成される。最も一般的な手順においては、粉末ブレンドをホッパーを介して回転スクリューを備えた加熱したバレルに投入し、そこで粉末ブレンドは、軟化または部分的にもしくは完全に溶融した状態で激しく混合され、融液をより糸、フィルム、小球、錠剤またはカプセルとして成形するダイに向けて動かされる。加えられる熱およびせん断力の量、ならびに押出物がダイを離れる時に冷却する速度は、固体分散体の物理的構造に寄与する。フィルムは、錠剤を嚥下することが難しい人のために特に有用である。非結晶質の固体分散体は、薬剤が実質的に非結晶質の、結晶ではない状態で存在する場合に生成され、室温および室内圧力においてこの状態で長時間安定である。
【0007】
国際公開第2011/119289号は、少なくとも層の1つが少なくとも0.125mmの厚さを有し、a)水溶性のポリマー、b)有効成分ならびにc)単糖および二糖類、糖アルコール、低分子量の水溶性ポリマーおよび架橋したカルボキシメチルセルロースの塩から選択される補助剤の溶融押出しポリマー組成物から生成される、単層または多層フィルムを開示している。プロピレングリコールで可塑化(plastizised)したポリエチレンオキシドおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースが実施例において開示されている。
【0008】
国際公開第2011/119289(A2)号は、a)水溶性ポリマー、b)有効成分およびc)任意の添加剤をブレンドするステップならびにブレンドを溶融押出しにかけて押出し融液を生成し、押出し融液をドローダウン比1.5から20で少なくとも0.04mmの厚さのフィルムまで延伸するステップを含む溶融押出しフィルムを生成するためのプロセスを開示している。ポリエチレンオキシドが実施例において開示されている。
【0009】
欧州特許出願第0872233号は、(a)ロビリド(loviride)および(b)1種または複数の薬学的に許容可能な水溶性ポリマーを含む固体分散体を開示している。固体分散体は、成分(a)および(b)ならびに任意の添加剤をブレンドし、ブレンドを加熱して均質な融液を取得し、得られた融液を1つまたは複数のノズルを通して押し進め、融液を固化するまで冷却する、溶融押出しによって生成される。固体分散体生成物は、粒子に挽くまたはすり潰す。粒子は錠剤またはカプセル内に処方する。記載された各種の水溶性ポリマーの中で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、特に約29重量パーセントのメトキシル基および約10重量パーセントのヒドロキシプロポキシル基を含むHPMC 2910が好ましいと考えられている。
【0010】
Geert Verreckら、「Characterization of solid dispersions of itraconazole andhydroxypropylmethylcellulose prepared by melt extrusion, part I」、International Journal of Pharmaceutics 251(2003)、165〜174頁は、40重量パーセントのイトラコナゾールおよび60重量パーセントのHPMCの挽いた溶融押出物配合物は、薬剤の分解生成物または再結晶が無いことにより示されるように6か月を超える期間について化学的および物理的に安定であることを開示している。
【0011】
しかし、市販のヒドロキシプロピルメチルセルロースは、しばしば有効成分を有する固体非結晶質の分散体を容易に形成せず、かつ熱処理ウインドウ(thermal processing window)が狭いことが知られている。熱処理ウインドウは、ポリマーは弛緩状態ではあるがまだ熱分解を開始しない温度領域として定義される。最も知られたヒドロキシプロピルメチルセルロースに関して、分解温度は250℃まで低い一方、ポリマーが硬質から弛緩状態へ転移する温度(ガラス転移温度Tg)は150℃を超える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、セルロースエーテルを含む新規の溶融押出し組成物を見つけることは望ましいであろう。有効成分を有する固体分散体、好ましくは固体非結晶質の分散体を形成し、合理的に広い処理ウインドウにおいて溶融押出しされ得るセルロースエーテルを含む新規の組成物を見つけることは特に望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚いたことに、溶融押出しされるポリマー組成物が、エーテル置換基が特有の分布パターンを持つ少なくとも1種のセルロースエーテルを含む場合は、溶融押出しならびにセルロースエーテルおよび有効成分を含むポリマー組成物の固体分散体の製造は容易になることが分かっている。
【0014】
本発明の一態様は、a)少なくとも1種のセルロースエーテル、b)1種または複数の有効成分およびc)1種または複数の任意の添加剤を含む溶融押出しポリマー組成物であって、前記少なくとも1種のセルロースエーテルは1−4結合により結合した無水グルコース単位を有し、置換基としてのメチルとは異なるメチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意でアルキル基を有し、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは0.05から0.55のMS(ヒドロキシアルキル)を有し、
かつ
[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]
(ここでs23は無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率であり、s26は無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率である)
が0.32以下であるように、
無水グルコース単位のヒドロキシル基がメチル基で置換されている、
溶融押出しポリマー組成物である。
【0015】
本発明の別の態様は、
i)a)少なくとも1種のセルロースエーテル、b)1種または複数の有効成分およびc)1種または複数の任意の添加剤をブレンドするステップ、ならびに
ii)ブレンドを溶融押出しにかけるステップ、
を含む溶融押出しポリマー組成物を生成するためのプロセスであって、
前記少なくとも1種のセルロースエーテルは上述の通りである、プロセスである。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、溶融押出しポリマー組成物を生成するための上記で定義されるような少なくとも1種のセルロースエーテルの使用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
溶融押出しポリマー組成物は、a)1−4結合により結合した無水グルコース単位を有し、かつ置換基としてのメチルとは異なるメチル基、ヒドロキシアルキル基、および任意でアルキル基を有する少なくとも1種のセルロースエーテルを含む。ヒドロキシアルキル基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましくはセルロースエーテルは、1種または2種のヒドロキシアルキル基、より好ましくは1種または複数のヒドロキシ−C1〜3−アルキル基、例えばヒドロキシプロピルおよび/またはヒドロキシエチルを含む。有用な任意のアルキル基は、例えばエチルまたはプロピルであり、エチルが好ましい。
【0018】
好ましい三元のセルロースエーテルは、エチルヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルメチルセルロースまたはヒドロキシエチルヒドロキシプロピルメチルセルロースである。好ましいセルロースエーテルは、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、具体的にはヒドロキシ−C1〜3−アルキルメチルセルロース、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシエチルメチルセルロースである。
【0019】
セルロースエーテルの本質的特徴は、[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]が0.32以下、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.28以下、および最も好ましくは0.25以下、0.23以下、または0.21以下であるような無水グルコース単位上のメチル基のその独特の配置である。典型的には[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]は、0.07以上、より典型的には0.10以上、および最も典型的には0.13以上である。本明細書で使用する場合、記号「*」は、乗算演算子を表す。
【0020】
比s23/s26において、s23は、無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率であり、s26は、無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率である。s23を決定するための「無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率」と言う語は、6位がメチルで置換されていないことを意味し、例えば、非置換のヒドロキシル基でもよく、あるいはヒドロキシアルキル基、メチル化ヒドロキシアルキル基、メチルとは異なるアルキル基またはアルキル化ヒドロキシアルキル基で置換されていてもよい。s26を決定するための「無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率」と言う語は、3位がメチルで置換されていないことを意味し、例えば、非置換のヒドロキシル基でもよく、あるいはヒドロキシアルキル基、メチル化ヒドロキシアルキル基、メチルとは異なるアルキル基またはアルキル化ヒドロキシアルキル基で置換されていてもよい。
【0021】
「ヒドロキシル基がメチル基で置換された」または「ヒドロキシル基がヒドロキシアルキル基で置換された」と言う語は、本明細書で使用する場合、ヒドロキシル基上の水素原子がメチル基またはヒドロキシアルキル基で置き換えられていることを意味する。
【0022】
下式Iは、無水グルコース単位中のヒドロキシル基の番号付けを例示する。式Iは、例示目的のためだけに使われるものであり、本発明のセルロースエーテルを示すものではない(ヒドロキシアルキル基での置換は式Iに示されない)。
【化1】
【0023】
好ましくはセルロースエーテルは、DS(メチル)が1.0から2.5、より好ましくは1.1から2.4、最も好ましくは1.2から2.2、および特には1.6から2.2である。セルロースエーテルのメチル置換度、DS(メチル)は、メチル基で置換されたOH基の無水グルコース単位当たりの平均数である。DS(メチル)を決定するために、「メチル基で置換されたOH基」と言う語は、セルロース主鎖の炭素原子に直接結合するメチル化OH基だけではなく、ヒドロキシアルキル化後に形成されたメチル化OH基も含む。
【0024】
セルロースエーテルは、MS(ヒドロキシアルキル)が0.05から0.55、好ましくは0.07から0.50、より好ましくは0.10から0.45、および最も好ましくは0.15から0.35である。ヒドロキシアルキル置換度は、MS(モル置換)を用いて記述される。MS(ヒドロキシアルキル)は、エーテル結合によって結合するヒドロキシアルキル基の無水グルコース単位のモル当たりの平均数である。ヒドロキシアルキル化の時に、複数の置換基が側鎖となり得る。
【0025】
MS(ヒドロキシアルキル)とDS(メチル)との和は、好ましくは少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも1.9、最も好ましくは最大2.0かつ好ましくは最大2.7、より好ましくは最大2.5である。
【0026】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース中のメトキシル%およびヒドロキシプロポキシル%の定量は、米国薬局方(USP 32)に従って行われる。得られる値は、メトキシル%およびヒドロキシプロポキシル%である。これらは続いてメチル置換基に関する置換度(DS)およびヒドロキシプロピル置換基に関するモル置換(MS)に変換される。変換において塩の残存量が考慮されている。
【0027】
本発明の溶融押出しポリマー組成物中に組み込まれるセルロースエーテルの粘度は、広範囲であってよい。典型的には、2.4から200,000mPa・sの範囲である。ASTM D2363−79(2006年再承認)に従って20℃で2重量%水溶液として測定される好ましい粘度は、2.4から100mPa・s、より好ましくは2.5から50mPa・s、および最も好ましくは3から30mPa・sである。
【0028】
驚いたことに、[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]が0.32以下の上記のセルロースエーテルを含む溶融押出し組成物は、同等のDS(メチル)およびMS(ヒドロキシアルキル)ならびに同等の粘度(粘性)を有するが[s23/s26−0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]が0.32より大きいセルロースエーテルと比較して、有効成分を有する非結晶質の固体分散体を実質的により良く形成し維持し得ることが分かっている。
【0029】
上述のセルロースエーテルを作成する方法は、実施例に詳細に記載される。セルロースエーテルを作成するためのプロセスのいくつかの態様は、より一般的な語で下記に記載される。
【0030】
上述のセルロースエーテルは、
i.セルロースパルプを第1の量のアルカリ化剤で処理するステップ、および
ii.少なくとも1種のメチル化剤をセルロースパルプに加えるステップ
を含む第1段階、それに続く反応混合物の70℃以上の反応温度に加熱するステップならびにその後の
iii.毎分無水グルコース単位のモル当たりアルカリ化剤0.04モル当量未満の速度で、追加量のアルカリ化剤を反応混合物に加えるステップ、および任意でそれぞれの個別の追加段階について、
iv.追加量の少なくとも1種のメチル化剤を反応混合物に追加するステップ、
を含む少なくとも1つの追加段階を含む多段階エーテル化プロセスであって、第1段階におけるアルカリ化剤の追加の前、後または同時に少なくとも1種のヒドロキシアルキル化剤、および任意でメチル化剤とは異なる少なくとも1種のアルキル化剤(alkylation agent)を、セルロースパルプに加えるか、または部分的に反応したセルロースパルプへ、セルロースパルプのエーテル化の進行中に加えるプロセスにより取得し得る。
【0031】
セルロースエーテルを調製するためのセルロース原料は、典型的には綿または木材から得られるセルロースパルプであり、好ましくは木材パルプである。典型的には粉末または削りくずの形態で提供される。
【0032】
上述したプロセスにおいて、セルロースパルプまたはセルロースパルプのヒドロキシアルキルメチルセルロースへの反応の進行時の部分的に反応したセルロースパルプは、1つまたは複数の反応器においてアルカリ化剤で、2つ以上の段階、好ましくは2つまたは3つの段階においてアルカリ化される。アルカリ化剤は、任意の強塩基、例えばアルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム、苛性ソーダまたは石灰あるいは2種以上のこうした強塩基の混合物であってよく、水溶液として用いられる。通常はアルカリ金属水酸化物の水溶液の総重量に基づいてアルカリ金属水酸化物の含有量が好ましくは30から70パーセント、より好ましくは35から60パーセント、最も好ましくは48から52パーセントのアルカリ金属水酸化物の水溶液が用いられる。
【0033】
一実施形態において、ジメチルエーテルなどの有機溶媒が希釈剤および冷却剤として反応器に加えられる。さらに、反応器のヘッドスペースは、酸素触媒によるセルロースエーテル生成物の解重合を制御するために任意で不活性ガス(窒素など)でパージされる。
【0034】
プロセスの第1段階においてセルロースパルプは、第1の量のアルカリ化剤、典型的にはセルロース中の無水グルコース単位のモル当たり1.2から3.5モル当量のアルカリ化剤で処理される。処理は、当技術分野において知られている任意の方法、例えば浴または撹拌槽における浸漬あるいは噴霧により行ってよい。パルプ中のアルカリ化剤の均一な膨潤および分散は、混合および撹拌により達成してよい。第1段階においてアルカリ化剤の水溶液のセルロースパルプへの添加の速度は重要ではない。いくつかのポーション、例えば2から4ポーションで加えるかまたは連続的に加えてよい。通常は15から60分間続く第1段階アルカリ化の間、温度は典型的には45℃以下に維持する。
【0035】
さらに、プロセスの第1段階内で、第1の量のアルカリ化剤の前、後または同時に、好ましくはアルカリ化剤の添加後に塩化メチルまたは硫酸ジメチルなどのメチル化剤をセルロースパルプに加える。メチル化剤は、単一の段階において、セルロースに加えるかまたはセルロースパルプのヒドロキシアルキルメチルセルロースへの反応の進行時に部分的に反応したセルロースパルプへ加えてもよいが、好ましくは2つ以上の段階、より好ましくは2つまたは3つの段階、最も好ましくは2つの段階において加えられる。
【0036】
メチル化剤が単一の段階において加えられる場合は、一般には無水グルコース単位のモル当たり3.5から6.0モルの量のメチル化剤が加えられるが、いずれにしても第1段階において反応混合物を加熱する前に加えられるアルカリ化剤に対して少なくとも等モル量が加えられる。メチル化剤が単一の段階において加えられる場合は、好ましくは毎分無水グルコース単位のモル当たりメチル化剤0.25から1.0モル当量の速度で加えられる。第1段階において用いられるメチル化剤は、任意の従来型の懸濁化剤と予備混合してもよい。この場合、好ましくは懸濁化剤および少なくとも1種のメチル化剤の総重量に基づいて20から50%、より好ましくは30から50%の懸濁化剤を含む混合物が用いられる。
【0037】
一旦セルロースが第1の量のアルカリ化剤で処理され、好ましくはさらに45℃以下の温度で実行されるメチル化剤および見込まれる第1段階のさらなる成分の添加が達成されると、反応混合物は、典型的には30から80分以内に、少なくとも70℃、好ましくは70〜90℃の範囲、より好ましくは70〜80℃の範囲の反応温度まで加熱される。通常は次いでこの反応温度で反応を10から30分間続行させる。
【0038】
続いてプロセスは、追加量のアルカリ化剤の添加、および任意でそれぞれの個別の添加段階について、追加量のメチル化剤の反応混合物への添加を含む、少なくとも1つの添加段階を含む。少なくとも1つの添加段階内で水溶液として加えられる追加のアルカリ化剤の総量は、典型的には無水グルコース単位のモル当たりアルカリ化剤1.0から2.9モル当量の範囲である。好ましくは、第1段階において加えられるアルカリ化剤の量と少なくとも1つの添加段階において加えられるアルカリ化剤全体の量との間のモル当量比は、0.6:1から3.5:1である。少なくとも1つの添加段階においてアルカリ化剤が反応混合物にゆっくり、すなわち無水グルコース単位のモル当たりのアルカリ化剤モル当量が毎分0.04未満、好ましくは0.035未満、より好ましくは0.03未満の速度で加えられることは重要である。第2段階のアルカリ化剤は、一般には55から85℃、好ましくは60から80℃の温度で加えられる。
【0039】
典型的にはメチル化剤は、無水グルコース単位のモル当たり2から6モルの範囲の総量で用いられる。メチル化剤が第1段階においてだけでなく、少なくとも1つの添加の後続の段階、好ましくは1つの添加段階においても加えられる場合、典型的には第1段階において無水グルコース単位のモル当たり2.0から4.0モルの量のメチル化剤および少なくとも1つの添加段階において総量で無水グルコース単位のモル当たり1.5から3.4モルのメチル化剤が加えられる。いずれにしてもメチル化剤は、反応混合物に存在するアルカリ化剤に対して少なくとも等モル量が加えられる。したがって、あるとすれば、第2段階のメチル化剤は、セルロースまたは、セルロースパルプのヒドロキシアルキルメチルセルロースへの反応の進行時に部分的に反応したセルロースパルプが、アルカリ化剤に対して少なくとも等モル当量のメチル化剤と連続的に接触するような方法で、アルカリ化剤の添加の第2および任意で第3段階の前または途中に反応混合物に加えられる。
【0040】
メチル化剤が2つの段階において加えられる場合、第1段階のメチル化剤は、好ましくは毎分無水グルコース単位のモル当たりのメチル化剤が0.25から0.5モル当量の速度で加えられる。単一の段階または第1段階のメチル化剤は、懸濁化剤と予備混合してもよい。この場合は懸濁化剤およびメチル化剤の混合物は、好ましくはメチル化剤および懸濁化剤の総重量に基づいて20から50重量パーセント、より好ましくは30から50重量パーセントの懸濁化剤を含む。
【0041】
メチル化剤が2つの段階において加えられる場合、メチル化剤の第2段階は、一般には反応混合物を約70〜90℃の温度に10から30分間加熱した後に反応混合物に加えられる。第2段階のメチル化剤は、好ましくは毎分無水グルコース単位のモル当たりのメチル化剤が0.25から0.5モル当量の速度で加えられる。メチル化剤が2つの段階において加えられる場合、第1段階のメチル化剤と第2段階のメチル化剤との間のモル比は、一般には0.68:1から1.33:1である。少なくとも1つの添加段階のそれぞれにおけるメチル化剤は、その中に用いられる場合、セルロースがアルカリ化剤に対して少なくとも等モル当量の少なくとも1種のメチル化剤と連続的に接触するような方法で、その段階の追加量のアルカリ化剤の添加より前にまたは途中に反応混合物に加えなければならない。
【0042】
上述の手順の代替法として、メチル化剤およびアルカリ化剤それぞれが2つの段階において加えられる場合、第2段階のメチル化剤は、第2段階のアルカリ化剤の一部が加えられた後に反応混合物に加えられ、その後にアルカリ化剤の次の添加が続いてよい;すなわち、メチル化剤は、その後に第3段階のアルカリ化剤の添加が続く第2段階において加えられる。プロセスのこの実施形態において、第2および第3段階において加えられる無水グルコースのモル当たりのアルカリ化剤の総量は、一般には無水グルコース単位のモル当たり1.0から2.9モルであり、その中で好ましくは40から60パーセントが第2段階において加えられ、60から40パーセントが第3段階において加えられる。好ましくは第3段階において用いられるアルカリ化剤はゆっくり、すなわち、毎分無水グルコース単位のモル当たりアルカリ化剤の0.04モル当量未満の速度で、典型的には0.03モル当量未満の速度で加えられる。第3段階のメチル化剤およびアルカリ化剤は、一般には55から85℃、好ましくは60から80℃の温度で加えられる。
【0043】
1種または複数、好ましくは1種または2種のヒドロキシアルキル化剤、例えば酸化エチレンおよび/または酸化プロピレンも、第1段階において加えられるアルカリ化剤の前、後または同時のいずれかに、セルロースパルプまたは、セルロースパルプのヒドロキシアルキルメチルセルロースへの反応の進行時に部分的に反応したセルロースパルプへ加えられる。単一のヒドロキシアルキル化剤または2種以上、好ましくは1種のみのヒドロキシアルキル化剤を利用してもよい。ヒドロキシアルキル化剤は、一般には無水グルコース単位のモル当たり0.2から2.0モルの量のヒドロキシアルキル化剤が加えられる。ヒドロキシアルキル化剤は、有利には反応混合物を反応温度、すなわち30から70℃、好ましくは20から60℃の温度に加熱する前に加えられる。
【0044】
メチル化剤とは異なる追加のアルキル化剤も、第1段階において加えられるアルカリ化剤の前、後または同時のいずれかに、セルロースパルプに加えてよい。非限定的な例には、塩化エチル、臭化エチルもしくはヨウ化エチル、硫酸ジエチルおよび/または塩化プロピルが含まれる。追加のアルキル化剤は、一般には無水グルコース単位のモル当たり0.5から6モルの量のアルキル化剤が加えられる。アルキル化剤は、有利には反応混合物を反応温度、すなわち20から70℃、好ましくは40から60℃の温度に加熱する前に加えられる。
【0045】
上述の多段階エーテル化の達成後、得られるセルロースエーテルは、典型的にはさらに精製、乾燥および/または粉砕される。通常はセルロースエーテルは、洗浄して塩および他の反応副生成物を除去する。エーテル化反応の副生成物として形成された塩が溶解可能である任意の溶媒を用いてよいが、通常は水が利用される。セルロースエーテルは、反応器中で洗浄してもよいが、好ましくは反応器の下流に位置する別個の洗浄器内で洗浄される。洗浄の前または後に、例えば蒸気への暴露により残留揮発性有機化合物の含有量を減少し、セルロースエーテルを取り除いてもよい。
【0046】
セルロースエーテルは、水分および他の揮発性の化合物の含有量をセルロースエーテル、水および他の揮発性化合物の重量の和に基づいて好ましくは水および他の揮発性化合物が0.5から10.0重量%、より好ましくは0.8から5.0重量%まで減少させるために乾燥させてもよい。乾燥は、トレイ乾燥機、流動層乾燥機、気流乾燥機、撹拌乾燥機または管乾燥機などの従来型の乾燥機を用いて行ってよい。水分および他の揮発性化合物の含有量の減少は、セルロースエーテルが微粒子形状に粉砕されることを可能にする。乾燥したセルロースエーテルは、ボールミル、衝撃式粉砕機、刃物研削盤またはエアスウェプト式インパクトミルなどの当技術分野において知られている任意の適した手段によって所望されるサイズの粒子に粉砕してもよい。必要に応じて、乾燥および粉砕を同時に行ってもよい。
【0047】
セルロースエーテルは、任意で部分的解重合プロセスにかけられる。部分的解重合プロセスは、当技術分野において良く知られており、例えば欧州特許出願第1,141,029号;第210,917号;第1,423,433号;および米国特許第4,316,982号に記載されている。あるいは、部分的解重合は、セルロースエーテルの生成中に、例えば酸素または酸化剤の存在によって達成してもよい。こうした部分的解重合プロセスにおいて、ASTM D2363−79(2006年再承認)に従って20℃で2重量%水溶液で測定される粘度が2.4から100mPa・s、好ましくは2.5から50mPa・sおよびより好ましくは3から30mPa・sであるセルロースエーテルが得られ得る。
【0048】
上記のセルロースエーテルは、上記のセルロースエーテルとは異なる1種または複数のポリマー、好ましくは1種または複数の水溶性ポリマー、例えば1−4結合により結合した無水グルコース単位を有し、かつ置換基としてのメチルとは異なるメチル基、ヒドロキシアルキル基および任意でアルキル基を有するセルロースエーテル以外の1種または複数の多糖;ゼラチン、ポリ(アミノ酸)、例えばポリ(アスパラギン酸)またはポリ(グルタミン酸);ポリ乳酸もしくはこうした重合した酸の塩または重量平均分子量が少なくとも10,000の酸化エチレンのホモ−およびコポリマーなどのポリアルキレンオキシドならびに重合形態の不飽和酸を含むホモ−およびコポリマーもしくはそれらの塩、例えばアクリル酸、メタクリル酸もしくはそれらの塩、不飽和アミド、例えばアクリルアミドからなる群から選択される1種または複数の合成ポリマー;ビニルエステル、ビニルアルコール、酢酸塩、例えば酢酸ビニル;アルキレンイミン、例えばエチレンイミン;オキシエチレンアルキルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルオキサゾリドン、ビニルメチルオキサゾリドン、エチレンスルホン酸、ビニルアミン、ビニルピリジン、エチレン性不飽和硫酸塩またはスルホン酸塩あるいは1種または複数のこれらのポリマーの組み合わせなどとの組み合わせにおいて用いてよい。好ましい種類の水溶性ポリマーは、ポリエチレンオキシド、特には酸化エチレンのホモ−およびコポリマーである。酸化エチレンコポリマーは、一般には少なくとも50モルパーセント、好ましくは少なくとも70モルパーセント、より好ましくは少なくとも85モルパーセントの酸化エチレン単位を含む。最も好ましい酸化エチレンポリマーは、酸化エチレンホモポリマーである。
【0049】
好ましくはエーテル置換基が特有の分布パターンを有する1種または複数の上記のセルロースエーテルは、本発明の溶融押出しポリマー組成物に含まれるポリマーの大部分である。典型的には1種または複数の上記のセルロースエーテルは、ポリマーの総重量に基づいて55から100パーセント、より好ましくは65から100パーセント、最も好ましくは85から100パーセントである。
【0050】
本発明の溶融押出しポリマー組成物中に多種類の有効成分が含まれていてよく、好ましくは生物学的有効成分、特には健康関連の生物学的有効成分、例えばビタミン、ハーブ系およびミネラル系のサプリメント、口腔ケア成分および薬剤であるが、健康に直接関係しない有効成分、例えば風味、色、味のマスキング化合物、美容有効成分、または農業において有効な成分でもよい。化粧用有効成分には、メントール、他の香味料または香料のような口臭消臭(breath freshening)化合物、特に口腔衛生用に用いられる物、ならびに第4級アンモニウム塩基などの歯および口腔洗浄において用いられる活性物が含まれていてよい。香味料の効果は、酒石酸、クエン酸、バニリンなどの調味料を用いて強化してもよい。本発明において使用可能な栄養補給剤の例には、これに限定されないが、数ある中でも特に、植物抽出物、例えばサクラ抽出物、チョウセンニンジン抽出物、トマト抽出物またはベリー抽出物;グルコサミン硫酸塩、ピコリン酸クロム、オオアザミ抽出物、ブドウ種子抽出物、マオウ抽出物、コエンザイムQ10、水溶性ビタミン、例えばビタミンC、ナイアシン、ビタミンB1およびビタミンB12、ならびに脂溶性ビタミン、例えばビタミンA、D、EおよびK、ミネラル、例えばカルシウム、マグネシウムおよび亜鉛が含まれる。
【0051】
有効成分は、組成物のいかなる所与の成分にも可溶性である必要はない。有効成分は、組成物のポリマーマトリクスに溶解、部分的に溶解または懸濁してよい。有効成分は、一般には用いられる溶融押出プロセスの状態の時に安定でなければならない。安定によって、有効成分のかなりの部分が溶融押出プロセスの初めから終わりまで著しく劣化または分解しないであろうことが意味される。
【0052】
本発明の溶融押出しされたポリマー組成物は、上述のような少なくとも1種のセルロースエーテルb)における上述のような1種または複数の有効成分a)の固体分散体を形成する。溶融押出により、少なくとも大部分、より好ましくは少なくとも90重量%、最も好ましくは100%の有効成分が非結晶質の形態でありセルロースエーテル中に分散した、好ましくは固体非結晶質の分散体が生成される。「非結晶質の」と言う語は、本明細書で使用する場合、有効成分が長距離の三次元の並進秩序を有さないことを意味する。固体分散体は、有効成分(1種または複数)a)およびセルロースエーテル(1種または複数)b)の単純なブレンドよりも実質的により均質である。さらに上で記載されているように、当業者は固体分散体はそれらの溶解の速度および程度を改善することにより難溶性薬剤の生物学的利用能を増加するという戦略として利用され得るという一般的指示をしてきた。
【0053】
エーテル置換基が特有の分布パターンを有する上記のセルロースエーテルは、難水溶性薬剤などの難水溶性の有効成分の水溶液における濃度を過飽和レベルに維持し得ることが見出されている。上述のエステル化セルロースエーテルが無い場合よりも、水溶液において難水溶性の有効成分の大幅に高い濃度が維持され得る。水溶液における難水溶性の有効成分の過飽和の程度は、所与の有効成分の物理的安定性および溶出速度などの様々な要因に依存する。Dwayne T.FriesenらはMOLECULAR PHARMACEUTICS VOL.5、NO.6、1003〜1019、2008年において、構造的に異なる範囲の物理化学的特性の化合物を物理的性質のマップTm/Tg比対log P上に分類した。log P値は、化合物の親油性の標準的尺度である。2つの相が互いに平衡状態にある場合に、(2)水相中の薬剤濃度に対する(1)オクタノール相中の薬剤濃度の比の10を底とする対数として定義されるlog Pは、広く認められている疎水性の尺度である。log Pは、実験的に基づいて測定するか、または当技術分野において知られている方法を用いて計算してもよい。計算した値をlog Pのために用いる場合は、log Pを計算するために一般に認められている任意の方法を用いて計算された最高値が使われる。Clog P、Alog PおよびMlog Pなどの計算されたlog P値はしばしば計算法と呼ばれる。log Pは、フラグメント法、例えばCrippenのフラグメント法(27 J.Chem.lnf.Comput.Sci.2 1(1987))、Viswanadhanのフラグメント法(29 J.Chem.lnf.Comput.Sci.163(1989))またはBrotoのフラグメント法(19 Eur.J.Med.Chem.−Chim.Theor.7 1(1984))を用いて概算してもよい。
【数1】
【0054】
高いlog P値を持つ化合物は、極めて疎水性であり、極度に低い水溶性(それらの融点が約100℃を超える場合はしばしば1μg/mL未満)および水中に置かれた場合に湿潤しにくい性質を有する傾向がある。
【0055】
Tmは大気圧における化合物の融解温度、Tgはガラス転移温度である。Dwayne T.Friesenらは、この物理的性質マップTm/Tg比対log P(MOLECULAR PHARMACEUTICS VOL.5、NO.6、2008の1018頁、図14)上のそれらの位置に基づいて化合物を4つのグループに分けている。第1のグループ、グループ1は、相対的に低いTm/Tg比(<1.25K/K)および低から中程度のlog P値(約6未満)の化合物からなり、グループ2の化合物は、やや高いTm/Tg比(1.25〜1.4)および低から中程度のlog P値(約6未満)を有する。グループ3の化合物は、さらにより高いTm/Tg値(1.4より高い)および低から中程度のlog P値(約6未満)を有する。最後に、グループ4の化合物は、高いlog P値(少なくとも約6)を有する。
【0056】
本発明の好ましい態様は、上述のような少なくとも1種のセルロースエーテルと、1.0より大きく1.8まで、好ましくは1.1より大きく1.6まで、より好ましくは1.15から1.5まで、最も好ましくは1.25から1.40のTm/Tg比(ここで融解温度Tmおよびガラス転移温度Tgはそれぞれケルビンである)を有する少なくとも1種の有効成分を含む、溶融押出しポリマー組成物である。有効成分は、好ましくは1より大きく11まで、好ましくは1.5から8、最も好ましくは2から6のlog Pを有する。
【0057】
低溶解性の有効成分は本発明と共に使用するために好ましい部類を代表するものではあるが、有効成分は、本発明からの利益のために低溶解性の有効成分である必要はない。使用の所望の環境において明らかな水溶解性を示す有効成分は、最大1から2mg/mLまで、またはさらには20から40mg/mLにまで達する水溶解性を有していてもよい。有用な低溶解性薬剤は、国際特許出願WO2005/115330号、17〜22頁に記載されている。
【0058】
本発明の溶融押出しポリマー組成物は、1種または複数の任意の添加剤c)、例えば1種または複数の賦形剤、顔料、着色剤、潤滑剤、可塑剤、安定剤、例えば酸化防止剤、スリップ剤および粘着防止剤を含んでいてよい。本発明の溶融押出しポリマー組成物を生成するために利用されるポリマー組成物は、それを熱溶融押出可能にするために可塑剤を含んでいる必要はないが、追加の成分として可塑剤が含まれていてもよい。可塑剤は、熱溶融押出プロセス時のより低い処理温度、押出機のトルクおよび圧力を可能にするために、有効組成物のガラス転移温度または軟化点を下げることができなければならない。可塑剤は、一般にはポリマー溶解物の粘度も減少し、それによって熱溶融押出し時の処理温度および押出機のトルクを下げることを可能にする。有用な可塑剤は、例えば、低分子量のポリアルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量が1000g/molより小さい他のポリエチレングリコールまたは分子量が2000g/molより小さいポリプロピレングリコール、セタノール、トリグリセリド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール(プルロニック)、トリアセチンあるいはクエン酸トリエチルである。しかし、本発明の1つの利点は、本発明の溶融押出しポリマー組成物を調製する場合に、溶融押出しされるポリマー組成物中の1種または複数の潤滑剤または可塑剤あるいは安定剤の量を減少または回避さえしてもよいということである。有効成分は、その構造によっては可塑剤として機能し得る。
【0059】
本発明の溶融押出しポリマー組成物は、セルロースエーテルa)および有効成分b)の総重量に基づいて好ましくは20から99.9パーセント、より好ましくは30から98パーセント、および最も好ましくは60から95パーセントの上述のようなセルロースエーテルa)、ならびに好ましくは0.1から80パーセント、より好ましくは2から70パーセント、および最も好ましくは5から40パーセントの有効成分b)を含む。セルロースエーテルa)と有効成分b)との合計量は、溶融押出しポリマー組成物の総重量に基づいて好ましくは少なくとも70パーセント、より好ましくは少なくとも80パーセント、および最も好ましくは少なくとも90パーセントである。残りの量は、もしあれば、上述のような1種または複数の補助剤c)である。溶融押出しポリマー組成物は、1種または複数のセルロースエーテルa)、1種または複数の有効成分b)および任意で1種または複数の補助剤c)を含んでいてよいが、それらの総量は一般には上述の範囲内である。
【0060】
溶融押出し組成物を生成するためのプロセスは、i)a)上記で定義される少なくとも1種のセルロースエーテル、b)1種または複数の有効成分およびc)1種または複数の任意の添加剤をブレンドするステップ、ならびにii)ブレンドを溶融押出しにかけるステップを含んでいてよい。「溶融押出し」と言う語は、本明細書で使用する場合、射出成形、溶融鋳造および圧縮成形として知られるプロセスを含む。薬剤などの有効成分を含む溶融押出成形組成物のための技術は知られており、Joerg BreitenbachによりMelt extrusion:from process to drug delivery technology、European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 54(2002年)107〜117または欧州特許出願第0872233号に記載されている。
【0061】
本明細書に述べるa)、b)および任意でc)のブレンドは、一般には溶融押出し可能である。本明細書で使用する場合、「溶融押出し可能」と言う語は、溶融押出しされ得る、特には熱溶融押出しされ得る化合物または組成物を指す。熱溶融押出し可能なポリマー組成物は、粉末または顆粒などの粒子状ではない場合には25℃および大気圧で十分に硬質であるが、高められた熱または圧力下、つまり25℃を超える温度または大気圧を超える圧力で変形の能力があるかまたは半液体状態を形成する物である。上述した成分a)、b)および任意でc)は、好ましくは粒子状、より好ましくは粉末化状で混合される。成分a)、b)および任意でc)は、溶融押出しのために利用される機器内にブレンドを供給する前に予備混合してもよい。溶融押出しのために有用な機器、具体的には有用な押出機は、当技術分野において知られている。あるいは、成分a)、b)および任意でc)は、押出機に別々に供給し、加熱するステップの前または途中に機器内でブレンドしてもよい。好ましくは成分a)、b)および任意でc)は、押出機ホッパー内で予備ブレンドされ、そこから押出機内に供給される。本発明の一部の実施形態において押出機内で混合される混合物または成分は液状物質を含んでいてよいが、ドライフィードは本発明の溶融押出しプロセスにおいて有利に用いられる。押出機内に供給された組成物または成分は、組成物またはそれらの少なくとも1種もしくは複数の成分が溶解または軟化して有効成分が全体に分散したブレンドを形成することとなる温度である押出機の加熱された領域を通過する。ブレンドは、溶融押出しを受け、押出機から出される。典型的な押出し溶解温度は、50から210℃、好ましくは70から200℃、より好ましくは90から190℃であり、押出機加熱区域(1つまたは複数)のための設定により決定される。処理中の組成物の有効成分および他の成分の劣化または分解を最小化することとなる運転温度範囲が選択されなければならない。本発明を実践するために用いられる押出機は、好ましくはドライフィードを扱う能力を備え、固体輸送区域、1つまたは複数の加熱区域および押出ダイを有する市販の型式である。特に複数の別個の温度制御可能な加熱区域を所有する押出機は有利である。単一または複数のスクリュー押出機、好ましくは二軸スクリュー押出機は、本発明の溶融押出プロセスにおいて用いてもよい。
【0062】
押出機内で得られる溶融または軟化混合物は、1つまたは複数の出口開口部、例えば1つまたは複数のノズルまたはダイを通って推し進められる。開口部は、例えば正方形、矩形、円形または環状などの当技術分野において知られている任意の形状を有していてよい。溶融または軟化混合物は、次いで1つまたは複数の開口部を有するダイまたは他のこうした要素を通って外に出て、その時に、溶融押出しされたブレンド(この時点で押出物と呼ばれる)は硬化し始める。ダイを出る時に押出物はまだ温かいまたは熱いので、成形、鋳造、切断、粉砕、小球に球形化、より糸状に切断、錠剤化または所望の物理的形状への他の処理が容易になされ得る。
【0063】
溶融押出しポリマー組成物を生成するための本発明のプロセスの一実施形態は、ブレンドを溶融押出しにかけてフィルムを生成するステップを含む。本実施形態に従って、押出物は所望の厚さのフィルムに成形され、好ましくは延伸される。好ましくは溶融押出しされた単層フィルムの形態のフィルムが生成される。溶融押出しポリマー組成物は、フィルムの形態で用いられ得る。あるいは、溶融押出しフィルムは、剤形を生成するために既知の方法で小片に切り分けてもよい。
【0064】
多層フィルムが生成される場合は、溶融押出しフィルムを、多層フィルムを生成するために溶融押出しする時、またはその後に1つまたは複数の他のフィルム層と組み合わせてもよい。溶融押出しフィルムは、まだ温かいもしくは熱い間にまたは冷却した後に1つまたは複数の他のフィルム層と組み合わせてもよい。あるいは、1つまたは複数の層が上述した成分a)、b)および任意でc)を含むポリマー組成物から生成される溶融押出し多層フィルムは、共押出によって生成してもよい。多層フィルムは、剤形を生成するために既知の方法で小片に切り分けてもよい。
【0065】
溶融押出しポリマー組成物を生成するための本発明のプロセスの別の実施形態は、ブレンドを溶融押出にかけてより糸を生成するステップおよび溶融押出しされたより糸をビード、小球、顆粒、錠剤または粉末に細かく砕くステップを含む。
【0066】
粉末状の本発明の溶融押出しポリマー組成物は、任意で補助剤とブレンドしてもよく、剤形、例えば錠剤、丸薬、顆粒、小球、カプレット、微粒子、カプセルの充填物を生成するために、またはペースト、クリーム、懸濁液もしくはスラリー中に用いてもよい。
【0067】
溶融押出しポリマー組成物を生成するための本発明のプロセスの別の実施形態は、ブレンドを溶融押出しにかけるステップおよび溶融押出しされたブレンドをピンと接触させてカプセル、好ましくは射出成形カプセルを製造するステップを含む。好ましい方法は、「コールドピン法(cold−pin method)」である。本方法においてa)上記で定義される少なくとも1種のセルロースエーテル、b)1種または複数の有効成分およびc)1種または複数の任意の添加剤、例えばカラギーナン、ペクチン、ジェランガムまたは別の金属イオン封鎖剤のようなゲル化剤あるいはカリウム、マグネシウム、アンモニウムまたはカルシウムイオンなどのゲル化助剤を含む溶融押出しポリマー組成物は、コールドピンと接触させられる。コールドピン法において、ピンは一般には室温に維持され、融解または少なくとも軟化した溶融押出しポリマー組成物に浸漬される。浸漬ピン上にフィルムが得られ、フィルムはピン上に成形されるカプセルシェルを得るために浸漬ピン上で冷却される。
【0068】
本発明は、本発明の範囲を限定するものとは解釈されない以下の実施例によってさらに例示される。特に言及しない限り、すべての部および百分率は重量による。
【実施例】
【0069】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)中のメトキシル%およびヒドロキシプロポキシル%の定量は、米国薬局方(USP 32)に従って行われる。得られる値は、メトキシル%およびヒドロキシプロポキシル%である。これらは続いてメチル置換基に関する置換度(DS)およびヒドロキシプロピル置換基に関するモル置換(MS)に変換される。変換において塩の残存量が考慮されている。
【0070】
HPMCの粘度は、ASTM D2363−79(2006年再承認)に従って20℃で2重量%の水溶液として測定される。
【0071】
s23/s26の測定
セルロースエーテル中のエーテル置換基の測定は、一般に知られており、例えば、Carbohydrate Research、176(1988)137〜144、Elsevier Science Publishers B.V.、アムステルダム、Bengt Lindberg、Ulf LindquistおよびOlle StenbergによるDISTRIBUTION OF SUBSTITUENTS IN O−ETHYL−O−(2−HYDROXYETHYL)CELLULOSEに記載されている。
【0072】
具体的には、s23/s26の測定は以下のように行われる:
10〜12mgのセルロースエーテルを、約90℃で撹拌下で4.0mLの分析用乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)(Merck(独国、ダルムシュタット)、0.3nm分子篩ビード上で保管)に溶解し、次いで再び室温に冷却する。溶液を室温で一晩撹拌したままにし、完全に可溶化する。セルロースエーテルの可溶化を含む全反応は、4mLのねじ蓋式バイアル中で乾燥窒素雰囲気を用いて行う。可溶化後、溶解したセルロースエーテルを22mLのねじ蓋式バイアルへ移す。無水グルコース単位のヒドロキシル基当たり30倍モル過剰の試薬水酸化ナトリウムおよびヨウ化エチルである、粉末化した水酸化ナトリウム(新しくすり潰したもの、分析グレード、Merck(独国、ダルムシュタット))およびヨウ化エチル(合成用、銀で安定化、Merck−Schuchardt(独国、ホーエンブルン)を加え、溶液を暗所、窒素下で周囲温度で3日間勢いよく撹拌する。第1の試薬追加と比較して3倍量の試薬水酸化ナトリウムおよびヨウ化エチルの添加および室温でさらなる撹拌をさらに2日間することで完全エチル化(perethylation)を繰り返す。反応混合物は任意で、反応の進行時の良好な混合を確実にするためにDMSO最大1.5mLまで希釈してもよい。5mLの5%チオ硫酸ナトリウム水溶液を反応混合物に注ぎ入れ、次いで得られる溶液を4mLのジクロロメタンで3回抽出する。混ぜ合わさった抽出物を2mLの水で3回洗う。有機相を無水硫酸ナトリウム(約1g)で乾燥する。ろ過後、窒素の緩流中で溶媒を除去し、試料をさらなる試料調製まで4℃で保管する。
【0073】
完全エチル化した試料約5mgの加水分解を、100℃で1時間の撹拌下で、1mLの90%の含水ギ酸と共に2mLのねじ蓋式バイアル中で窒素下で行う。窒素の流れの中で35〜40℃で酸を除去し、1mLの2M水性トリフルオロ酢酸と共に不活性窒素雰囲気中で撹拌下で120℃で3時間加水分解を繰り返す。完了後酸を除去し、共蒸留のために約1mLのトルエンを用いて窒素の流れの中で周囲温度で乾燥する。
【0074】
加水分解の残留物を、2Nアンモニア水溶液(新しく調製したもの)中で0.5mLの0.5Mホウ化重水素化ナトリウム(sodium borodeuteride)を用いて室温で撹拌下で3時間減少させる。過剰試薬を約200μLの高濃度酢酸を滴下で追加することにより消失させる。得られる溶液を、窒素の流れの中で約35〜40℃で蒸発乾固し、続いて真空中で室温で15分間乾燥させる。粘性の残留物を、メタノール中の15%酢酸0.5mLに溶解し、室温で蒸発乾固する。これを5回行い、純メタノールで4回繰り返す。最終蒸発後、試料を真空中で室温で一晩乾燥する。
【0075】
減少の残留物を、600μLの無水酢酸および150μLのピリジンで90℃で3時間アセチル化する。試料を冷却後、バイアルをトルエンで満たし、窒素の流れの中で室温で蒸発乾固する。残留物を4mLのジクロロメタンに溶解し、2mLの水に注ぎ入れ、2mLのジクロロメタンで抽出する。抽出を3回繰り返す。混合された抽出物を4mLの水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。乾燥したジクロロメタン抽出物を、続いてGC分析する。GCシステムの感度によっては、抽出物のさらなる希釈が必要であり得る。
【0076】
ガス液体クロマトグラフ(GLC)分析を、J&WキャピラリーカラムDB5、30m、0.25mm ID、0.25μm面層厚を備えたHewlett Packard 5890Aおよび5890AシリーズII型のガスクロマトグラフで1.5バールのヘリウムキャリアガスで運転して実施する。ガスクロマトグラフを、60℃で1分一定に保ち、20℃/分の速度で200℃まで加熱し、4℃/分の速度で250℃までさらに加熱し、20℃/分の速度で310℃までさらに加熱し、ここでさらに10分間一定に保つ温度プロファイルでプログラムする。注入器温度は280℃に設定し、炎イオン化検出器(FID)の温度は300℃に設定する。1μLの試料を、スプリットレスモードで弁時間(valve time)0.5分で注入する。データを取得し、LabSystems Atlasワークステーションで処理する。
【0077】
定量的なモノマー組成物データは、FID検出器を備えたGLCによって測定されるピーク面積から得られる。モノマーのモル感度は、有効炭素数(ECN)の概念に沿って計算されるが、下表に記載のように修正される。有効炭素数(ECN)の概念は、Ackman(R.G.Ackman、J.Gas Chromatogr.、2(1964)173〜179およびR.F.Addison、R.G.Ackman、J.Gas Chromatogr.、6(1968)135〜138)によって記述されており、Sweetら(D.P.Sweet、R.H.Shapiro、P.Albersheim、Carbohyd.Res.、40(1975)217〜225)により、部分的にアルキル化された酢酸アルジトールの定量分析に適用されている。
ECNの計算に用いるためのECN増分:
[表]
【0078】
モノマーの異なるモル感度を補正するために、ピーク面積に2,3,6−Meモノマーに対する感度として定義されるモル感度係数MRFモノマーを乗じる。2,3,6−Meモノマーは、s23/s26の測定において分析される全ての試料中に存在するため、基準として選択される。
MRFモノマー=ECN2,3,6−Me/ECNモノマー
【0079】
モノマーのモル分率は、下式に従って、補正されたピーク面積を補正されたピーク面積の合計で割ることにより計算される:
s23=[(23−Me + 23−Me−6−HAMe + 23−Me−6−HA + 23−Me−6−HAHAMe + 23−Me−6−HAHA]、および
s26=[(26−Me + 26−Me−3−HAMe + 26−Me−3−HA + 26−Me−3−HAHAMe + 26−Me−3−HAHA]
(式中、s23は、下記の条件に合致する無水グルコース単位のモル分率の和であり:
a)無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシ基がメチル基で置換され、6位は置換されていない(=23−Me)、
b)無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシ基がメチル基で置換され、6位はメチル化されたヒドロキシアルキル(=23−Me−6−HAMe)または2個のヒドロキシアルキル基を含むメチル化された側鎖(=23−Me−6−HAHAMe)で置換されている、ならびに
c)無水グルコース単位の2位および3位における2つのヒドロキシ基がメチル基で置換され、6位はヒドロキシアルキル(=23−Me−6−HA)または2個のヒドロキシアルキル基を含む側鎖(=23−Me−6−HAHA)で置換されている;
s26は、下記の条件に合致する無水グルコース単位のモル分率の和である:
a)無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシ基がメチル基で置換され、3位は置換されていない(=26−Me)、
b)無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシ基がメチル基で置換され、3位はメチル化されたヒドロキシアルキル(=26−Me−3−HAMe)または2個のヒドロキシアルキル基を含むメチル化された側鎖(=26−Me−3−HAHAMe)で置換されている、ならびに
c)無水グルコース単位の2位および6位における2つのヒドロキシ基がメチル基で置換され、3位はヒドロキシアルキル(=26−Me−3−HA)または2個のヒドロキシアルキル基を含む側鎖(=26−Me−3−HAHA)で置換されている)。
【0080】
HAMC中の置換基の測定の結果を下表4に記載する。HPMCのヒドロキシアルキル(HA)がヒドロキシプロピル(HP)の場合は、メチル化されたヒドロキシアルキル(HAMe)はメチル化されたヒドロキシプロピル(HPMe)である。
【0081】
実施例1
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、以下の手順に従って生成した。細かく挽いた木材セルロースパルプをジャケット付きの撹拌した反応器に充填した。反応器を排気し窒素でパージして酸素を除去し、次いで再度排気した。反応は2段階で実行した。第1段階において、セルロース中の無水グルコース単位のモル当たり3.0モルの水酸化ナトリウムの量で、50重量パーセントの水酸化ナトリウムの水溶液をセルロース上に噴霧し、温度を40℃に調節した。水酸化ナトリウム水溶液およびセルロースの混合物を40℃で約30分撹拌した後、無水グルコース単位のモル当たり1.5モルのジメチルエーテル、5.0モルの塩化メチルおよび1.6モルの酸化プロピレンを反応器に加えた。次いで反応器の内容物を60分で80℃まで加熱した。80℃に達した後、第1段階の反応を25分間進行させた。
【0082】
次いで反応を20分以内で60℃に冷却した。次いで無水グルコース単位のモル当たり1.00モルの水酸化ナトリウムの量で、50重量パーセントの水酸化ナトリウムの水溶液を60分の時間をかけて加えた。添加の速度は、毎分無水グルコース単位のモル当たり水酸化ナトリウム0.017モルであった。第2段階の添加の完了後、反応器の内容物を20分以内で80℃まで加熱し、次いで温度80℃に120分間維持した。
【0083】
反応後、反応器を通気して約50℃に冷却した。反応器の内容物を取り出して熱水を含む槽に移した。次いで粗製HPMCをギ酸で中和し、塩化物が無いように熱水(AgNO3凝集試験によって評価される)で洗い、室温に冷却し、気流式乾燥器(air−swept drier)内で55℃で乾燥した。次いで材料を、0.5mmスクリーンを用いるAlpine UPZミルを用いて粉砕した。
【0084】
得られる粉末を、既知の方法で粉末のkg当たり最大3.0gのガス状塩化水素で最高85℃の温度で所望の粘度が得られるまで粉末状試料を加熱することにより部分的に解重合した。部分的に解重合したヒドロキシプロピルメチルセルロースを、炭酸水素ナトリウムで中和した。
【0085】
実施例2
反応混合物に加える酸化プロピレンの量が無水グルコース単位のモル当たり1.0モルの酸化プロピレンであったことを除いて、実施例1を繰り返した。
【0086】
得られる粉末を、既知の方法で粉末のkg当たり最大3.0gのガス状塩化水素で最高85℃の温度で所望の粘度が得られるまで粉末状試料を加熱することにより部分的に解重合した。部分的に解重合したヒドロキシプロピルメチルセルロースを、炭酸水素ナトリウムで中和した。
【0087】
比較例A
以下の手順に従って比較例Aのヒドロキシプロピルメチルセルロースを生成した。細かく挽いた木材セルロースパルプをジャケット付きの撹拌した反応器に充填した。反応器を排気し窒素でパージして酸素を除去し、次いで再度排気した。反応は1段階で実行した。セルロース中の無水グルコース単位のモル当たり3.90モルの水酸化ナトリウムの量で、50重量パーセントの水酸化ナトリウムの水溶液をセルロース上に噴霧し、温度を40℃に調節した。水酸化ナトリウム水溶液およびセルロースの混合物を40℃で約20分撹拌した後、無水グルコース単位のモル当たり2.07モルのジメチルエーテル、4.40モルの塩化メチルおよび1.00モルの酸化プロピレンを反応器に加えた。次いで反応器の内容物を80分で80℃まで加熱した。80℃に達した後、第1段階の応を60分間進行させた。反応後、反応器を通気して約50℃に冷却した。反応器の内容物を取り出し、実施例1に記載のようにさらに処理した。
【0088】
得られる粉末を、既知の方法で粉末のkg当たり最大3.0gのガス状塩化水素で最高85℃の温度で所望の粘度が得られるまで粉末状試料を加熱することにより部分的に解重合した。部分的に解重合したヒドロキシプロピルメチルセルロースを、炭酸水素ナトリウムで中和した。
【0089】
実施例1から2および比較例Aのヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の特性を下表2に示す。s23/s26測定の詳細を下表1に示す。
【表1】
【表2】
【0090】
示差走査熱量測定による融点(Tm)降下の測定
ケトプロフェンおよびHPMCのブレンド(60/40w/w)を、材料を物理的に混合することにより調製した。それぞれのブレンドの少量(<5mg)の試料をアルミニウム製皿へ量り入れ密封した。示差走査熱量測定(DSC)実験を変調周波数+/−1℃/分の変調モードで実行した。試料を25℃で5分間平衡にさせ、その後温度を5℃/分の速度で25℃から250℃に上昇させた。融解吸熱のピークで記録され、合計熱流信号において観察された温度を、HPMCとの物理的ブレンドにおけるケトプロフェンの融点として取った。この温度を同様に測定した純粋ケトプロフェンの融点に対して比較し、融点降下を取得した。
【0091】
押出
二軸共回転円錐型噛み合い前進飛行スクリューを利用するHaake MiniLab II小型混練機を用いて押出生成物を生成した。用いたユニットは、最大スクリュー回転数が360rpmであり、再循環チャンバーを有する単一加熱区域からなる400W駆動モータによって駆動した。出口ポートは2mmのより糸ダイを含み、生成した材料は単独のより糸として収集した。表3に押出に用いた条件を要約する。表4に押出の結果を要約する。
【表3】
【表4】
【0092】
示差走査熱量測定による非結晶質の固体分散体の評価
微細な粉末に挽いたそれぞれの押出物の少量(<5mg)の試料を、アルミニウム製皿へ量り入れ密封した。示差走査熱量測定(DSC)実験を変調周波数+/−1℃/分の変調モードで実行した。試料を−25℃で5分間平衡にさせ、その後温度を5℃/分の速度で−25℃から250℃に上昇させた。試料のそれぞれからの逆の熱流信号を、ガラス転移の存在および結晶質のケトプロフェンからの融解信号(melt signal)の証拠について検査した。融解信号が観察されない場合、その系は非結晶質であると見なされる。
【0093】
当業者は、ケトプロフェン単独のTm(表2を参照)と比較して、ケトプロフェンがHPMCとブレンドされた比較例Aにおける薬剤ケトプロフェンの融解温度Tmの著しい降下を、HPMCと薬剤との間の優れた混和性の徴候および非結晶質の固体分散体の形成の成功の早期予測因子と認めている。しかし、比較例Aは(トルクの減少から分かるように)押出プロセス時の改善された混和性を実証した一方で、比較例Aは非結晶質の固体分散体を形成することはできなかった(表4を参照)。驚いたことに、発明のセルロースエーテルの組成物および有効成分は、妥当なトルクおよびダイ圧力下で押出可能であり、同一の処方および処理条件下で非結晶質の固体分散体を生成した。