(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731745
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】アンテナ装置およびレーダ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/08 20060101AFI20150521BHJP
H01Q 15/04 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
H01Q21/08
H01Q15/04
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-251052(P2009-251052)
(22)【出願日】2009年10月30日
(65)【公開番号】特開2011-97462(P2011-97462A)
(43)【公開日】2011年5月12日
【審査請求日】2012年5月24日
【審判番号】不服2014-3119(P2014-3119/J1)
【審判請求日】2014年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】肥野 明大
(72)【発明者】
【氏名】厚見 浩史
【合議体】
【審判長】
河口 雅英
【審判官】
山本 章裕
【審判官】
萩原 義則
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−217639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q1/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波放射源と、
前記電磁波の放射の略中心軸方向で、前記電磁波放射源の前方に配置された電磁波整形部と、
を備えたアンテナ装置であって、
前記電磁波整形部は、水平方向に複数のスロットが配列されたスロット列を備え、
当該スロット列は、垂直方向に複数段設けられ、該複数段のスロット列により前記電磁波放射源から放射された電磁波の垂直方向の指向性が整形され、
前記電磁波放射源は、垂直方向に曲面状に電磁波を放射し、
少なくとも1つのスロット列は、前記電磁波放射源と垂直方向に離間した位置に存在し、
各スロット列と前記電磁波放射源との距離は、各スロットで結合して放射される電磁波の位相が揃う距離に設定され、
前記スロット列は、前記電磁波の放射方向に平行な平面に対し、垂直方向に互いに対称な位置に設けられたスロット対を含み、
前記スロット列は、奇数段設けられ、
垂直方向の中心に設けられたスロット列は、前記電磁波放射源の電磁波放射方向に平行な平面上に設けられたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ装置において、
前記垂直方向の中心位置に設けられたスロット列は、各スロットの形状がボウタイ型であることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアンテナ装置において、
前記複数段のスロット列は、それぞれ各スロットの水平方向の位置が、垂直方向に隣接する他のスロット列の各スロット間の水平方向の中心位置に配列されていることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のアンテナ装置において、
少なくとも1つのスロット列は、前記電磁波放射源の水平方向の幅よりも広い箇所にスロットが設けられたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のアンテナ装置において、
前記電磁波放射源は、水平方向の開口面が垂直方向の開口面よりも広いことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のアンテナ装置において、
前記電磁波放射源は、水平に配置された平面ダイポールアンテナであることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項7】
請求項5に記載のアンテナ装置において、
前記電磁波放射源は、水平に配置されたパッチアンテナであることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項8】
請求項5に記載のアンテナ装置において、
前記電磁波放射源は、管軸が水平方向に配置され、複数の電磁波放射源スロットが前方に向かって形成された導波管であることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のアンテナ装置と、
前記アンテナ装置から発射された電磁波に基づくエコー信号を処理する受信回路と、を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のレーダ装置であって、
前記アンテナ装置を水平方向に回転させる駆動装置を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁波を送受信するアンテナ装置および当該アンテナ装置を用いたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ用のアンテナ装置は、金属ホーンを用いて垂直方向に放射される電磁波をビーム状に絞り込んでいる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−73212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、金属ホーンで所望の指向性を得るためには、電磁波放射方向への突出長を長くしたり、開口角を広げたりする必要があり、アンテナ装置全体が大型化する課題があった。
【0005】
そこで、この発明は、装置全体を小型化しながらも垂直方向の指向性を実現したアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアンテナ装置は、電磁波放射源と、前記電磁波の放射の略中心軸方向で、前記電磁波放射源の前方に配置された電磁波整形部と、を備えている。電磁波整形部は、水平方向に複数のスロットが配列されたスロット列を備えている。また、当該スロット列は、垂直方向に複数段設けられたことを特徴とする。
【0007】
電磁波放射源から放射された電磁波は、球面状に広がるが、放射方向(前方)に設けられた複数のスロットと結合し、指向性が整形され、ビーム化される。特に、スロット列が垂直方向に複数段設けられていることにより、電磁波放射源から出力された電磁波は、垂直方向にも指向性が形成され、ビーム化されることになる。電磁波放射源とスロットの距離は、放射する電磁波の波長λと、電磁波放射源および電磁波整形部の断面形状と、によって定まり、例えば、電磁波放射源とスロットを強く結合させるためには、最低限0.3波長分の長さがあればよい。したがって、本発明の構造であれば、従来の金属ホーンと同程度の指向性を実現する場合、当該金属ホーンに比較して電磁波放射方向への突出長が非常に短くてすむ。
【0008】
また、上記本発明において、前記スロット列は、前記電磁波の放射方向に平行な平面に対し、垂直方向に互いに対称な位置に設けられたスロット対を含むことも可能である。例えば2段に配列する場合、電磁波放射源を挟んで上下(垂直)方向に2つのスロット列を平行に配列する。この場合、最終的なビーム形状を、垂直方向に対称な形状とすることができる。
【0009】
なお、奇数段の場合、垂直方向の中心に設けられたスロット列は、前記電磁波放射源の電磁波放射方向に平行な平面上に設けられているものとする。
【0010】
また、当該垂直方向の中心位置に設けられたスロット列は、各スロットの形状をボウタイ型としてもよい。この場合、動作周波数帯域が広がる。
【0011】
さらに、複数段のそれぞれのスロット列において、各スロットの水平方向の位置は、垂直方向に隣接する他のスロット列における各スロット間の水平方向の中心位置に配列されている態様とする。例えば、3段のスロット列である場合、中段の各スロット間の水平方向の中心位置に、上下段の各スロットを配列する。全てのスロットの位相を揃える場合、電磁波放射源に最も近い中段のスロットと当該電磁波放射源との距離を0.3波長分とすると、上下段のスロットは、電磁波放射源との距離を最低限0.8波長分とする必要がある。ここで、上下段の各スロットを中段の各スロットの中心位置に配置することで、各スロットと電磁波放射源との距離を稼ぎ、スロット列間の距離を短くすることができ、垂直方向にも小型化することができる。
【0012】
なお、上記本発明において、少なくとも1つのスロット列は、前記電磁波放射源の水平方向の幅よりも広い箇所にスロットが設けられていてもよい。この場合、電磁波整形部の水平方向の波源の幅は、電磁波放射源の幅よりも広くなり、水平方向の指向性が向上する(同じサイドローブレベルであればビーム幅が絞られる)。
【0013】
電磁波放射源としては、水平方向の開口面が垂直方向の開口面より広いものであればよく、平面ダイポールアンテナ、パッチアンテナ、導波管スロットアレイアンテナ等が用いられる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、アンテナ装置全体を小型化しながらも垂直方向の指向性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】平面ダイポールアンテナの上面図および下面図である。
【
図4】平面ダイポールアンテナと各スロットの位置関係を示す図である。
【
図5】従来の金属ホーンにおける垂直方向の指向性と、本実施形態のアンテナ装置における垂直方向の指向性を示した図である。
【
図6】他の例における電磁波整形部5の正面図である。
【
図7】他の例におけるアンテナ装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1(A)は、本実施形態のアンテナ装置の正面斜視図であり、同図(B)は正面図、同図(C)は同図(B)のA−A断面図、同図(D)は背面斜視図である。
図2は、平面ダイポールアンテナの斜視図、
図3(A)は平面ダイポールアンテナの上面図、
図3(B)は平面ダイポールアンテナの下面図である。
【0017】
なお、本実施形態では、鉛直上方向をX方向、電磁波放射方向をZ方向(正面方向)、X軸に直交し、電磁波放射方向に向かって右側の方向をY方向とする。
【0018】
本実施形態のアンテナ装置は、電磁波整形部1、アンテナ基板2、および給電管3を備えている。アンテナ基板2は、電磁波放射源であり、本実施形態では、一例として平面ダイポールアンテナを示している。平面ダイポールアンテナは、水平方向(Y軸方向)に長い平板形状の誘電体基板20の表面に銅等の薄膜導体からなる配線22がプリントされたものである。アンテナ基板2は、電磁波整形部1の後部下板16に水平に載置され、この後部下板16にネジ止めされており、Y方向の中心位置で給電管3と接続されている。
【0019】
給電管3は、垂直方向(X軸方向)に延びた管形状の電力供給部であり、アンテナ基板2に電力を供給するとともにアンテナ装置全体を支える役目を兼ねている。電磁波整形部1の後部下板16には、給電管3を貫通する貫通孔が設けられており、この貫通孔に給電管3を挿入し、アンテナ基板2と接続することで、電磁波整形部1、アンテナ基板2、および給電管3をアンテナ装置として一体構造とするようになっている。
【0020】
アンテナ基板2の表面には、8つのダイポールアンテナ21が形成されている。ダイポールアンテナ21は、銅等の薄膜導体からなり、Z軸方向に平行な直線を挟んで対称に配置された一対の放射素子21aおよび放射素子21bからなる。放射素子21aは上面側に配置され、放射素子21bは下面側に配置される。なお、ダイポールアンテナ21の数は8つに限るものではない。
【0021】
放射素子21aと放射素子21bは、Y軸方向に長い長方形状に形成されている。放射素子21aのY方向端部と、放射素子21bの−Y方向端部は、誘電体基板20を挟んで対抗している。放射素子21aと放射素子21bのY軸方向の長さは、それぞれ基板内の波長λgの1/4に設定されている。ダイポールアンテナ21間のピッチは、波長λgと等しくし、正面方向へ放射する電磁波の位相が揃うようにしている。
【0022】
配線22は、ダイポールアンテナ21の背面側に形成されている。配線22は、誘電体基板20の上面側に形成された給電ライン23と、誘電体基板20の下面側に形成されたグランド24とからなり、マイクロストリップラインを構成している。
【0023】
給電ライン23は、Y軸方向に延びる幹線23aと、幹線23aから分岐した8つの支線23bとからなる。幹線23aは、誘電体基板20の上面のうち、背面側の領域に形成されている。8つの支線23bは、Y軸方向に沿って等間隔に配置されている。支線23bの先端は、放射素子21aのY方向端部に接続されている。幹線23aのY軸方向中央には、給電部23cが形成されており、給電管3が接続される。なお、幹線23aおよび支線23bは、ダイポールアンテナ21への供給電力を調整するために、線幅が一定ではなく変化している。
【0024】
グランド24は、グランド本体24aと8つの接続線24bとからなる。グランド本体24aは、誘電体基板20の下面のうち、背面側のほぼ半分の領域に形成されている。グランド本体24aは、先端が放射素子21bの−Y側端部に接続されている。
【0025】
上記構造により、各ダイポールアンテナ21が放射する電磁波の電力は、Z軸方向が最大となり、Y軸方向にはゼロとなる。また、後述の反射板(主に上部反射板13および下部反射板17)等により、背面側に放射される電磁波も正面方向へ同位相で向かうため、各ダイポールアンテナ21から放射される電磁波の電力は、正面方向に集中することになる。
【0026】
次に、
図1において、電磁波整形部1は、XZ平面における断面形状が凸字状(背面方向が凸)であり、筒状にアンテナ基板2を覆う構造となっている。すなわち、電磁波整形部1は、それぞれ長方形状の薄い金属板(銅やアルミ等)である正面板10、前部上板12、上部反射板13、後部上板14、背面板15、後部下板16、下部反射板17、および前部下板18からなり、これら複数の金属板で水平方向(Y方向)の両端を除くアンテナ基板2の全てを覆う構造となっている。これら金属板は、溶接や曲げ加工等により、電磁波整形部1として一体構造となっている。なお、本実施形態では、電磁波整形部1の水平方向の両端が開口している例を示しているが、この開口部分も金属板等により閉じるようにしてもよい。
【0027】
図1(C)の断面図に示すように、電磁波整形部1は、アンテナ基板2を挟んで垂直方向にほぼ対称な形状になっている。アンテナ基板2と平行なYZ平面上に配置される前部上板12および前部下板18は、電磁波が電磁波整形部1から漏れ出るのを防止するためのシールドの機能を果たすものである。
【0028】
また、アンテナ基板2と垂直なXY平面上に配置される上部反射板13および下部反射板17は、アンテナ基板2から背面方向に放射された電磁波を正面方向に反射させる反射板の機能を果たすものである。アンテナ基板2の正面方向先端とこれら反射板との距離Z1は、これら反射板で反射して前方に向かう電磁波の位相が、アンテナ基板2から正面方向に放射された電磁波の位相と一致するように設定されている。
【0029】
アンテナ基板2と平行なYZ平面上に配置される後部上板14および後部下板16は、アンテナ基板2を挟むように配置され、ある程度の隙間が形成されている。すなわち、アンテナ基板2と後部上板14との間には、距離X1の隙間が空けられている。この距離X1は、アンテナ基板2の放射する電磁波の波長λに応じて設定する。例えば、距離X1が大きすぎる場合、上部反射板13で反射される電磁波が下部反射板17で反射される電磁波よりも少なくなり、正面方向へ放射される電磁波の垂直方向の対称性がなくなってしまう。特に、距離X1が波長λの1/2より大きくなると上部反射板13で反射される電磁波が非常に少なくなってしまう。したがって、距離X1は、最大でも半波長以下であることが望ましい。また、距離X1をさらに短く(例えば、波長λの1/3以下と)すれば、上記隙間に電磁波が進入しにくくなるため、波長λの1/3以下とすることがより望ましい。なお、距離X1を波長λの1/2〜1/3とする場合、上記隙間に進入した電磁波が、背面板15でも反射するため、アンテナ基板2の先端と背面板15との距離Z2を波長λに応じて設定する。具体的には、背面板15で反射した電磁波の位相が、アンテナ基板2から正面方向に放射された電磁波の位相と一致するように距離Z2を調整する。
【0030】
ただし、上記距離X1が小さすぎる場合、アンテナ基板2と後部上板14との間に発生する電磁界が強くなるため、アンテナ基板2のダイポールアンテナに電力供給が可能な程度(例えば波長λの1/10)の距離X1を確保しておくことが望ましい。つまり、距離X1は、波長λの1/10以上、1/3以下であることが望ましい。
【0031】
なお、後部上板14および背面板15の水平方向の中心位置付近、ならびに後部上板14の水平方向の両端には、アンテナ基板2を後部下板16に固定するネジ止め作業を行うための切り欠き部37が設けられているが、切り欠き部37の水平方向の長さを短く(ダイポールアンテナ21の配列ピッチ以下と)すれば、この切り欠き部37から電磁波が漏れることはほとんどない。
【0032】
次に、電磁波整形部1の主機能部となる正面板10の構造、機能について説明する。正面板10には、垂直方向に3段のスロット列が配置されている。中段に配置されたスロット列は、水平方向に配列された8つのスロット11Bからなり、上段に配置されたスロット列は、水平方向に配列された9つのスロット11Aからなり、下段に配置されたスロット列は、水平方向に配列された9つのスロット11Cからなる。
【0033】
ダイポールアンテナ21から放射された電磁波は、各スロットと結合し、新たな波源を生じる。各スロットで結合して生じる電磁波の位相分布は、各スロットの位置およびダイポールアンテナ21との距離で決まる。また、開口分布(振幅)は、各スロットの水平方向の長さ、および垂直方向の長さで決まる。例えば、本実施形態では、各スロットの開口分布が全て等しくなるように、スロット11Aとスロット11Cは、全て同じ幅(水平方向の長さY2)、高さ(垂直方向の長さX3)とし、スロット11Bは、スロット11Aおよびスロット11Cよりも若干大きくしている。これは、スロット11Bはダイポールアンテナに近いため強く結合し、スロット11Aおよびスロット11Cはダイポールアンテナから遠いため結合が弱まるため、その差を補正するための調整である。スロットの高さは、電磁波の波長λの約1/2とし、垂直方向の中心位置で最大の出力が得られるようにし、全てのスロットにおいて最大出力が得られるようにしている。
【0034】
なお、上段のスロット11Aおよび下段のスロット11Cは、長方形状のスロットであるが、中段のスロット列のスロット11Bは、ボウタイ型のスロットとし、動作周波数帯域を広げる態様としている。また、ボウタイ型スロットとした場合、各スロットの垂直方向の中心位置(スロット幅が最も小さい箇所)で強い電界が発生するため、垂直偏波を抑える効果も得られる。
【0035】
中段のスロット列のスロット11Bは、それぞれ8つのダイポールアンテナ21の真正面に配置されており、
図4(A)に示すように、スロット11Bの配列ピッチY1は、ダイポールアンテナ21の配列ピッチと同一である。各スロット11Bと各ダイポールアンテナ21との距離Z3は、電磁波の波長λによって定まる。具体的には、ダイポールアンテナ21から放射された電磁波が、スロット11Bの位置で強い結合を得るために、距離Z3を波長λの1/4の奇数倍(1/4、3/4…)にすればよい。ただし、スロットで結合する電磁波は、ダイポールアンテナ21から放射された電磁波に加え、上部反射板などで反射されたものが含まれる。つまり、電磁波成形部1の断面形状(
図1(C)参照)に応じて、波長λとは異なった波長となる。したがって、本実施形態では、これらの影響を考慮した値として、ダイポールアンテナ21とスロット11Bの距離Z3を波長λの約0.3倍としている。
【0036】
また、
図4(B)に示すように、上段の各スロット11Aは、中段の各スロット11Bの水平方向の中心位置に配列されている。同様に、下段の各スロット11Cも、中段の各スロット11Bの水平方向の中心位置に配列されている。つまり、各スロットの水平方向の位置は、垂直方向に隣接する他のスロット列における各スロット間の水平方向の中心位置に配列されている態様となっている。上段のスロット11Aの配列ピッチおよび下段のスロット11Cの配列ピッチは、上記と同様ダイポールアンテナ21の配列ピッチと同一である。
【0037】
本実施形態では、全てのスロットの位相を揃える態様とするため、スロット11Bとダイポールアンテナ21との距離を0.3波長分としたとき、スロット11A(およびスロット11C)とダイポールアンテナ21との距離を0.8波長分としている。通常、スロット11Bとダイポールアンテナ21との距離と、スロット11A(およびスロット11C)とダイポールアンテナ21との距離差を波長λの整数倍としたときに位相は揃う。しかし、前述の通り、スロットで結合する電磁波は、上部反射板などで反射されたものを含むため、電磁波成形部1の断面形状に応じて、波長λと異なった波長となる。そのため、これらの影響を考慮した値として、スロット11A(およびスロット11C)とダイポールアンテナ21との距離を約0.8波長分としている。
【0038】
ここで、上下段の各スロット11Aおよびスロット11Cを、中段の各スロット11Bの中心位置に配置することで、ダイポールアンテナ21との距離を稼ぎ、スロット列間の距離X2を短くする態様としている。スロット列間の距離を短くすることで、アンテナ装置全体の垂直方向の大きさを小さくする態様としている。
【0039】
なお、上段のスロット列および下段のスロット列は、アンテナ基板2の幅よりも広い箇所にもスロットが設けられており、本実施形態では、スロットの数をダイポールアンテナ21の数より多い態様としている。これにより、上下段のスロット列で結合して放射される電磁波は、元の電磁波放射源であるアンテナ基板2の幅よりも広い幅で放射されることになり、水平方向の指向性が向上する(同じサイドローブレベルであればビーム幅が絞られる)。
【0040】
次に、
図5(A)は、従来の金属ホーンを備えたアンテナ装置における垂直方向の指向性を示した図であり、
図5(B)は、上記本実施形態の電磁波整形部1を備えたアンテナ装置における垂直方向の指向性を示した図である。いずれも、縦軸は強度(dB)、横軸はアンテナ基板2の設置された平面方向を0度とした垂直方向角度である。
【0041】
同図(A)および同図(B)に示すように、従来の金属ホーンと本実施形態の電磁波整形部1とでは、メインローブのビーム幅は同程度(−3dB幅で約20度)であるが、サイドローブレベルが数dB程度下がっており、垂直方向の指向性は同等以上と言える。金属ホーンでは、垂直方向の位相が揃っていないため、0度から両サイドにかけて、なだらかに強度が低下するが、本実施形態の電磁波整形部1では、各スロット列の位相が全て等しいため、0度から両サイドにかけて、急峻に強度が低下する。したがって、サイドローブレベルが低下すると言える。
【0042】
さらに、上記のように同等以上の指向性を実現した態様において、電磁波整形部1の高さ(X軸方向の長さ)は、金属ホーンに比べて約3/4程度となっており、特に、電磁波放射方向への突出長(Z軸方向の長さ)は、金属ホーンに比べて約1/2程度となっており、アンテナ装置全体としての小型化を実現している。当然、レドームを含めたレーダ装置全体(アンテナ装置から発射された電磁波に基づくエコー信号を処理する受信回路も含む。)の大きさとしては従来の金属ホーンを用いた場合よりも非常に小さくなる。また、アンテナ装置全体が小型化されるため、アンテナ装置を水平方向に回転させる駆動装置の負荷も非常に小さくなる。
【0043】
なお、本実施形態では、各スロットのピッチをダイポールアンテナ21のピッチと同一とし、全てのスロットの位相をダイポールアンテナ21の位相と揃えているため、水平方向の指向性は、アンテナ基板2の指向性に準ずるものとなる。ただし、上述したように、上下段のスロット列については、アンテナ基板2の幅よりも広い幅で電磁波を放射することができるため、水平方向の指向性も従来のアンテナ装置より向上している。
【0044】
以上のように、本実施形態のアンテナ装置は、電磁波放射源は1つであるが、垂直方向に複数段設けられた各スロット列において新たな波源を生じさせる(電磁波が整形される)ため、最終的に放射される電磁波は、垂直方向にも指向性が形成され、ビーム化することができる。また、各スロットの幅や高さを調整することで開口分布に任意の特性を持たせることが可能であるとともに、スロットの位置を調整することで位相分布にも任意の特性を持たせることが可能であり、ビーム形状を自由に制御することができる。特に、上述の実施形態では、開口分布および位相分布を全てのスロットで等しくすることで、垂直方向にビームを絞り込む態様とし、アンテナ装置を小型化することが可能となっている。
【0045】
なお、スロット列の段数は3段に限るものではない。例えば
図6に示す電磁波整形部5(正面板50)のように、中段のスロット列11Bを省略し、2段のスロット列としてもよい。つまり、アンテナ基板2を挟んで、上下方向に対称にスロット列を配置する態様とし、垂直方向のビーム形状を対称とすればよい。なお、奇数段である場合は、垂直方向の中心位置に設けられるスロット列をアンテナ基板2の正面に配置する。偶数段である場合は、奇数段で垂直方向の中心位置に設けられるべきスロット列を省略する配置とする。
【0046】
なお、本実施形態では、電磁波放射源として平面ダイポールアンテナを示したが、アレイ配置されたパッチアンテナや導波管スロットアレイアンテナ等、他の電磁波放射源であってもよい。例えば、導波管スロットアレイアンテナを電磁波放射源として用いる場合、
図7(A)に示すように、導波管7の管軸を水平方向に配置し、狭面側(または広面側)に設けた複数の電磁波放射源スロット71を前方に向かって形成する。この場合、導波管7の各電磁波放射源スロット71の真正面に中段の各スロット11Bが配置されるようにする。
【0047】
また、本実施形態では、電磁波整形部1がアンテナ基板を挟んで垂直方向にほぼ対称な形状になっており、スロット列が垂直方向に対称に設けられた例を示したが、スロット列は、電磁波放射源の電磁波放射方向に平行な面を挟んで垂直方向に対称な位置にスロット列として設けられていればよく、スロット数は対称(同一数)でなくともよい。例えば、
図7(B)に示す正面板80のように、上段のスロットの左右端部を省略し、切り欠き部81としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…電磁波整形部
2…アンテナ基板
3…給電管