特許第5731753号(P5731753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5731753モータの駆動回路および駆動方法ならびに冷却装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731753
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】モータの駆動回路および駆動方法ならびに冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/288 20060101AFI20150521BHJP
   H02P 7/29 20060101ALI20150521BHJP
   H02P 1/18 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
   H02P5/168 G
   H02P5/17 G
   H02P5/17 H
   H02P1/18
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2010-21837(P2010-21837)
(22)【出願日】2010年2月3日
(65)【公開番号】特開2010-220462(P2010-220462A)
(43)【公開日】2010年9月30日
【審査請求日】2013年2月1日
(31)【優先権主張番号】特願2009-34574(P2009-34574)
(32)【優先日】2009年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 智文
【審査官】 田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/026319(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/055410(WO,A1)
【文献】 特開2008−263733(JP,A)
【文献】 特開平04−117189(JP,A)
【文献】 特開2000−134971(JP,A)
【文献】 特開2008−193859(JP,A)
【文献】 特開2008−079483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/288
H02P 1/18
H02P 7/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の回転数に応じてパルス幅変調された制御パルス信号を受け、当該制御パルス信号にもとづいてモータを駆動する駆動回路であって、
前記制御パルス信号の周波数と同等かそれよりも高い周波数を有し、停止した前記モータを回転させることができる最小値以上の所定のデューティ比のスタートパルス信号を発生するスタートパルス信号生成部と、
前記スタートパルス信号と前記制御パルス信号の一方を駆動パルス信号として出力する制御部と、
前記駆動パルス信号にもとづき、前記モータをパルス幅変調により駆動する駆動部と、
を備え、
前記制御部は、(i)前記モータの停止状態において、前記制御パルス信号のデューティ比がゼロから非ゼロに遷移したことを契機として前記モータの駆動を開始し、(ii)(ii-1)前記モータの駆動開始に際し、前記制御パルス信号のデューティ比が所定のしきい値より低いとき、前記モータの駆動開始からのあるスタート期間中、前記スタートパルス信号を前記駆動パルス信号として出力し、(ii-2)前記モータの駆動開始に際し、前記制御パルス信号のデューティ比が前記しきい値より高いとき、前記モータの駆動開始からのあるスタート期間中、前記制御パルス信号を前記駆動パルス信号として出力し、(iii)前記スタート期間経過後に、前記制御パルス信号を前記駆動パルス信号として出力することを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
前記スタートパルス信号生成部は、所定の周波数で発振するオシレータであることを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記スタートパルス信号生成部は、前記制御パルス信号のポジティブエッジまたはネガティブエッジの一方のエッジから所定のオン時間、第1レベルをとり、その後、次の前記一方のエッジまでの期間、前記第1レベルと相補的な第2レベルをとるスタートパルス信号を生成することを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記スタート期間は、前記モータの駆動開始から所定時間の経過するまでの期間であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の駆動回路。
【請求項5】
前記スタート期間は、前記モータの駆動開始から、前記モータの回転数が所定値に達するまでの期間であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の駆動回路。
【請求項6】
前記モータが停止した場合に、前記モータへの通電を停止するロック保護回路と、
前記制御パルス信号が前記モータの停止を所定の第1時間以上継続して指示した場合に、前記ロック保護回路を非アクティブとするロック制御部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の駆動回路。
【請求項7】
ファンモータと、
前記ファンモータを駆動する請求項1からのいずれかに記載の駆動回路と、
を備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項8】
パルス幅変調された制御パルス信号にもとづいてモータを駆動する駆動方法であって、
前記制御パルス信号のデューティ比がゼロから非ゼロに遷移したことを契機として前記モータの駆動を開始する第1ステップと、
(i)前記モータの駆動開始に際し、前記制御パルス信号のデューティ比が所定のしきい値より低いとき、前記モータの駆動開始からのあるスタート期間中、前記制御パルス信号の周波数と同等かそれより高い周波数を有し、前記制御パルス信号のデューティ比に依存せず、かつ停止した前記モータを回転させることができる最小値以上の所定のデューティ比で前記モータを駆動し、(ii)前記モータの駆動開始に際し、前記制御パルス信号のデューティ比が前記しきい値より高いとき、前記モータの駆動開始からのあるスタート期間中、前記モータを前記制御パルス信号のデューティ比で駆動する第2ステップと、
前記スタート期間の経過後、前記モータを前記制御パルス信号のデューティ比で駆動する第3ステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記スタートパルス信号にもとづく駆動の有効、無効を指示するセレクト信号を受けるためのセレクト端子をさらに備えることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の駆動回路。
【請求項10】
前記制御部は、
スタンバイ復帰、電源投入、ロック保護からの復帰の少なくともひとつのイベントを契機として、クロックをカウントすることにより、所定の長さのスタート期間を測定するカウンタと、
前記カウンタの出力が前記スタート期間を示すとき、前記スタートパルス信号を選択し、前記カウンタの出力が前記スタート期間以外を示すとき、前記制御パルス信号を選択するセレクタと、
を備え、
前記セレクタは、前記セレクト信号が前記スタートパルス信号にもとづく駆動の無効を指示するとき、前記制御パルス信号を固定的に選択することを特徴とする請求項に記載の駆動回路。
【請求項11】
前記制御部は、
電源端子と前記セレクト端子の間に直列に設けられたPチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)および第1抵抗と、
前記セレクト端子と接地端子の間に設けられた第2抵抗と、
をさらに含み、
前記セレクタは、前記セレクト端子に生ずる電位にもとづき、前記スタートパルス信号にもとづく駆動の有効、無効を判定することを特徴とする請求項10に記載の駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス幅変調(PWM)を利用したモータの駆動技術に関し、特に、起動時の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のパーソナルコンピュータやワークステーションの高速化にともない、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理用LSI(Large Scale Integration)の動作速度は上昇の一途をたどっている。このようなLSIは、その動作速度、すなわちクロック周波数が高くなるにつれて発熱量も大きくなる。LSIからの発熱は、そのLSI自体を熱暴走を誘発したり、あるいは周囲の回路に対して影響を及ぼすという問題がある。したがって、LSIの適切な熱冷却はきわめて重要な技術となっている。
【0003】
LSIを冷却するための技術の一例として、冷却ファンによる空冷式の冷却方法がある。この方法においては、たとえば、LSIの表面に対向して冷却ファンを設置し、冷たい空気を冷却ファンによりLSI表面に吹き付ける。
【0004】
冷却ファンを構成するモータ(ファンモータともいう)を駆動する場合、パルス幅変調によってモータの通電時間(デューティ比)を制御し、モータのトルク、すなわち回転数を制御する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−6405号公報
【特許文献2】特開平10−234130号公報
【特許文献3】特開2008−263733号公報
【特許文献4】特開2006−180608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、かかるPWM方式のモータ駆動回路について検討し、以下の課題を認識するに至った。
図1は、ファンモータの回転数と、デューティ比の関係を示す図である。モータが停止した状態において、デューティ比を0%から100%に向かって増加させていく場合、デューティ比があるしきい値(たとえば15%)より低い領域では、モータが回転を開始するのに足るトルクが得られず、モータの回転数は0となる。デューティ比がしきい値より高い領域では、デューティ比の上昇にともない、回転数も増加する(加速特性(I))。反対にモータが回転した状態において、デューティ比を0%に向かって減少させていく場合、デューティ比が図1の例では9%を下回ると、モータは停止する(ブレーキ特性(II))。
【0007】
停止状態のモータを静かに起動させるためには、低いモータ回転数が得られるように、低いデューティ比で駆動すればよい。しかしながら図1に示すように、デューティ比が低すぎると、トルクが不足してモータが起動しない場合がある。反対に、確実にモータを起動させるためには、高いデューティ比で駆動すればよいが、デューティ比が高すぎるとファンモータの風切り音が大きく鳴りすぎる。特に静音性が求められるノートPCなどでは、ファンモータの音は製品の価値に大きく影響する。
【0008】
かかる事情から従来では、ファンモータを搭載したセットの設計者が、起動時のデューティ比を試行錯誤により変化させる必要があった。こうした問題は、ファンモータに限らず、その他のモータ全般に当てはまる問題である。
【0009】
本発明はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的は、モータを確実に、かつ簡易な制御で起動可能な駆動技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、目標の回転数に応じてパルス幅変調された制御パルス信号を受け、当該制御パルス信号にもとづいてモータを駆動する駆動回路に関する。この駆動回路は、所定のデューティ比のスタートパルス信号を発生するスタートパルス信号生成部と、スタートパルス信号と制御パルス信号の一方を駆動パルス信号として出力する制御部と、駆動パルス信号にもとづき、モータをパルス幅変調により駆動する駆動部と、を備える。制御部は、モータの停止状態において、制御パルス信号のデューティ比がゼロから非ゼロに遷移したことを契機としてモータの駆動を開始し、モータの駆動開始からのあるスタート期間中、スタートパルス信号を駆動パルス信号として出力し、スタート期間経過後に、制御パルス信号を駆動パルス信号として出力する。
【0011】
この態様によると、制御パルス信号のデューティ比が低すぎてモータが起動し始めるトルクに達しない場合であっても、駆動回路の内部で生成されるスタートパルス信号のデューティ比でモータを確実に起動させることができる。
【0012】
制御部は、スタート期間中、制御パルス信号のデューティ比が所定のしきい値より低いとき、スタートパルス信号を駆動パルス信号として出力し、制御パルス信号のデューティ比がしきい値より高いとき、制御パルス信号を駆動パルス信号として出力してもよい。
この態様によると、静音性を犠牲にして、モータを短時間で起動することができ、たとえばファンモータによって対象物を急速に冷却したい場合に有効である。
【0013】
スタートパルス信号生成部は、所定の周波数で発振するオシレータであってもよい。
【0014】
スタートパルス信号生成部は、制御パルス信号のポジティブエッジまたはネガティブエッジの一方のエッジから所定のオン時間、第1レベルをとり、その後、次の一方のエッジまでの期間、第1レベルと相補的な第2レベルをとるスタートパルス信号を生成してもよい。
この場合、制御パルス信号と同期したスタートパルス信号を生成することができ、駆動パルス信号を生成する際の信号処理を簡略化することができる。
【0015】
スタート期間は、モータの駆動開始から所定時間の経過するまでの期間であってもよい。
【0016】
スタート期間は、モータの駆動開始から、モータの回転数が所定値に達するまでの期間であってもよい。
【0017】
スタート期間は、モータの駆動開始から、モータのロータが所定の角度、回転するまでの期間であってもよい。
【0018】
ある態様の駆動回路は、モータが停止した場合に、モータへの通電を停止するロック保護回路と、制御パルス信号がモータの停止を所定の第1時間以上継続して指示した場合に、ロック保護回路を非アクティブとするロック制御部と、をさらに備えてもよい。
この態様によると、ロック制御部は、制御パルス信号がモータの停止を第1時間以上継続して指示した場合に、ロック保護回路を非アクティブとするので、制御パルス信号からの指示によりモータが停止した後の再駆動を迅速化できる。
【0019】
駆動回路は、1つの半導体基板上に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。モータ駆動回路を1つのLSIとして集積化することにより、回路面積を削減することができる。
【0020】
本発明の別の態様は、冷却装置に関する。この冷却装置は、ファンモータと、ファンモータを駆動する上述のいずれかの態様の駆動回路と、を備える。
ファンモータを確実に起動できるため、対象物を好適に冷却することができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、パルス幅変調された制御パルス信号にもとづいてモータを駆動する駆動方法に関する。この方法は、制御パルス信号のデューティ比がゼロから非ゼロに遷移したことを契機としてモータの駆動を開始する第1ステップと、モータの駆動開始からスタート期間中、モータを制御パルス信号のデューティ比に依存しない所定のデューティ比で駆動する第2ステップと、スタート期間の経過後、モータを制御パルス信号のデューティ比で駆動する第3ステップと、を備える。
【0022】
第2ステップにおいて、スタート期間中、制御パルス信号のデューティ比が所定のしきい値より低いとき、モータを所定のデューティ比で駆動し、制御パルス信号のデューティ比がしきい値より高いとき、モータを制御パルス信号のデューティ比で駆動してもよい。
【0023】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を、方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のある態様によれば、モータを確実に、かつ簡易な制御で起動できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ファンモータの回転数と、デューティ比の関係を示す図である。
図2】実施の形態に係るモータ駆動回路を備える冷却システムの構成を示す回路図である。
図3図2のモータ駆動回路の動作を示すタイムチャートである。
図4図2の冷却システムにおける、ファンモータの回転数と制御パルス信号のデューティ比の関係を示す図である。
図5】第1の変形例におけるスタートパルス信号生成部の構成を示す回路図である。
図6】第1の変形例に係るモータ駆動回路の動作を示すタイムチャートである。
図7】スタートアシスト機能の有効・無効を切りかえ可能な制御部の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
本実施の形態は、CPUなどの冷却対象物(単に対象物と称する)を冷却するためのファンモータの駆動回路に関する。図2は、実施の形態に係るモータ駆動回路100を備える冷却システム2の構成を示す回路図である。
【0029】
冷却システム2は、主としてファンモータ4、外部コントローラ6、ホール素子8、モータ駆動回路100、対象物9を含む。
【0030】
ファンモータ4は、単相全波モータであって、対象物9に対向して配置される。対象物9は、ある態様では冷却対象のCPUに接続されたヒートパイプ(ヒートシンク)であり、ある態様では、CPUそのものである。このファンモータ4は、モータ駆動回路100から出力される駆動電圧によりコイル電流、すなわち通電状態が制御されて、その回転が制御される。
【0031】
外部コントローラ6は、冷却システム2全体を制御する。外部コントローラ6はモータ駆動回路100の制御入力端子106に対して、ファンモータ4の目標の回転数に応じてパルス幅変調された制御パルス信号CNT1を出力する。制御パルス信号CNT1のデューティ比は外部デューティ比DREXTとも称する。
【0032】
ホール素子8の第1端子は抵抗R12を介してホールバイアス電圧HBが印加される電源ラインと接続され、その第2端子は抵抗R11を介して接地される。抵抗R12および抵抗R11によって、ホール素子8から出力される信号の振幅が調節される。したがって、後述するヒステリシスコンパレータ31の同相入力範囲によっては、抵抗R11あるいは抵抗R12のいずれか一方あるいは両方が短絡されてもよい。なお、ホールバイアス電圧HBは、モータ駆動回路100のバイアス電圧源42により生成される。
【0033】
ホール素子8は、ファンモータ4のロータの位置に応じてレベルが変化する第1ホール信号VH1、第2ホール信号VH2を出力する。ファンモータ4が回転しているとき、第1ホール信号VH1と第2ホール信号VH2は互いに逆相であって、その周期(周波数)は、ファンモータ4の回転数に応じて変化する正弦波である。
【0034】
モータ駆動回路100は、第1ホール信号VH1、第2ホール信号VH2をそれぞれ、第1入力端子102、第2入力端子104に受ける。モータ駆動回路100は、ホール信号VH1、VH2にもとづいてファンモータ4のロータの位置を検出し、ロータの位置に応じてファンモータ4に与える電圧の極性を反転しながら、制御パルス信号CNT1にもとづいてファンモータ4をPWM駆動する。つまりファンモータ4の両端には、正弦波状の包絡線を有し、かつパルス幅変調されたスイッチング信号が印加される。なおPWM駆動の方法は特に限定されるものではない。
【0035】
つまり冷却システム2において、ファンモータ4の回転数は、外部コントローラ6が生成する制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTに応じて制御され、その結果、対象物9の温度が調節される。
【0036】
以上が冷却システム2の全体の構成である。以下、モータ駆動回路100の構成を説明する。
【0037】
モータ駆動回路100は、駆動部10、制御部14、スタートパルス信号生成部16、保護回路30、スタンバイ制御部40、バイアス電圧源42、起動回路44を備え、ひとつの半導体基板上に集積化されている。
【0038】
駆動部10は、制御部14から出力される駆動パルス信号DRV1を受け、この駆動パルス信号DRV1を利用してファンモータ4をパルス幅変調によって駆動する。
【0039】
たとえば駆動部10は、第1アンプAMP1、第2アンプAMP2を含む。第1アンプAMP1、第2アンプAMP2はそれぞれ、第1ホール信号VH1、第2ホール信号VH2を反転増幅する反転増幅器である。
【0040】
具体的には、第1アンプAMP1は、第1演算増幅器OA1、第1入力抵抗Ri1、第1帰還抵抗Rf1を含む。第1入力抵抗Ri1は、第1入力端子102と第1演算増幅器OA1の反転入力端子の間に設けられる。第1帰還抵抗Rf1は、第1演算増幅器OA1の出力端子と反転入力端子の間に設けられる。第1演算増幅器OA1の非反転入力端子は、第2アンプAMP2側の第2演算増幅器OA2の反転入力端子と接続される。第2アンプAMP2は、第1アンプAMP1と同様に構成される。第1演算増幅器OA1、第2演算増幅器OA2の非反転入力端子には、基準バイアス電圧が入力されてもよい。
【0041】
第1アンプAMP1の出力電圧OUT1は、第1出力端子108を介してファンモータ4の一端に与えられ、第2アンプAMP2の出力電圧OUT2は、第2出力端子110を介してファンモータ4の他端に与えられる。
【0042】
第1アンプAMP1および第2アンプAMP2には、駆動パルス信号DRV1が入力され、それぞれの出力電圧OUT1、OUT2は、駆動パルス信号DRV1と同期して、ホール電圧VH1、VH2に応じた値をとる状態と、両方が同時にローレベルとなる状態(両出力L状態という)と、を交互に繰り返す(PWM駆動)。たとえば第1演算増幅器OA1、第2演算増幅器OA2それぞれの出力段がハイサイドトランジスタとローサイドトランジスタを含むプッシュプル形式で構成される場合、ファンモータ4にはHブリッジ回路が接続されることになる。両出力L状態においては、Hブリッジの2つのローサイドトランジスタがオンされる。両出力L状態を利用すると、一方のローサイドトランジスタのオン抵抗およびボディダイオードの一方と、モータと、他方のトランジスタのチャンネルを含むループ経路で電流を回生させることができるため、消費電力の観点で有利である。
【0043】
両出力L状態に代えて、ハイインピーダンス状態としてもよい。この場合には、ハイインピーダンスとすべき期間において、すべてのHブリッジ回路を構成するトランジスタのすべてがオフすればよい。
【0044】
スタートパルス信号生成部16は、所定のデューティ比(内部デューティ比ともいう)DRINTを有するスタートパルス信号SP1を発生する。内部デューティ比DRINTは、停止したファンモータ4を回転させることができる最小値以上に設定される。より好ましくは、デューティ比DRINTの値は、図1のヒステリシスの分岐点以上に設定することが望ましい。具体的にはファンモータ4が図1に示す入出力特性を有する場合、スタートパルス信号SP1のデューティ比DRINTは、20%以上の値、たとえば50%に設定される。デューティ比DRINT=50%の場合、スタートパルス信号生成部16は所定の周波数で発振するオシレータを用いて構成できる。スタートパルス信号SP1の周波数は、制御パルス信号CNT1の周波数と同等か、それよりも高いことが望ましく、制御パルス信号CNT1の周波数が20k〜30kHzの場合、スタートパルス信号SP1の周波数は数十kHzに設定される。
【0045】
制御部14は、スタートパルス信号SP1と制御パルス信号CNT1の一方を、駆動パルス信号DRV1として出力する。
制御部14は、ファンモータ4の停止状態において、外部コントローラ6からの制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTがゼロから非ゼロに遷移したこと、言い換えればローレベルからハイレベルに遷移したこと、さらに言い換えれば制御パルス信号CNT1のポジティブエッジを契機としてファンモータ4の駆動を開始する。制御部14はファンモータ4の駆動開始からの所定の期間(スタート期間という)Ts中、スタートパルス信号SP1を駆動パルス信号DRV1として出力する。これをスタートアシスト機能と称する。スタート期間Ts経過後において、制御部14は制御パルス信号CNT1を駆動パルス信号DRV1として出力する。
【0046】
スタート期間Tsは、ファンモータ4の駆動開始から所定時間TC1の経過するまでの期間であってもよい。たとえば所定時間TC1は50〜300ms程度である。あるいはスタート期間Tsは、ファンモータ4の駆動開始から、ファンモータ4の回転数が所定値に達するまでの期間であってもよい。
【0047】
あるいはスタート期間Tsは、ファンモータ4の駆動開始から、そのロータが所定の角度、回転するまでの期間であってもよい。ロータが何度回転しているかは、ホール信号VH1、VH2または、FG信号を監視することにより取得できる。たとえば、FG信号のエッジを検出し、ファンモータ4の駆動開始から、エッジが所定数検出されたことを契機として、スタート期間Tsを終了してもよい。
【0048】
スタートパルス信号SP1により実現されるスタートアシスト機能は、有効、無効が外部からの制御信号によって切りかえ可能に構成されることが望ましい。以下、この理由を説明する。
【0049】
モータ駆動回路100は、制御パルス信号CNT1に応じてファンモータ4をPWM駆動するように設計されているが、モータ駆動回路100が使用されるプラットホームによっては、電源PWMと呼ばれる手法が用いられる場合がある。電源PWMとは、モータ駆動回路100の電源端子101に供給される電源電圧Vddをスイッチングし、そのスイッチングのデューティ比によってファンモータ4の回転数を制御する方法である。電源PWMを行う際には、制御パルス信号CNT1は一定レベルとされる。
【0050】
もし電源PWMを行う際に、スタートアシスト機能が有効であると以下の問題が生ずる。すなわち、モータ駆動回路100に対する電源電圧Vddがスイッチングすることにより、スタートパルス信号生成部16が毎周期リセットされ、電源電圧VddのスイッチングごとにスタートパルスSP1が繰り返し発生され、ファンモータ4に供給される。その結果、ファンモータ4の回転数は、電源PWMのデューティ比ではなく、スタートパルスSP1のデューティ比によって支配的に制御され、所望の回転数が得られないという問題がある。
【0051】
かかる事情から、モータ駆動回路100のスタートアシスト機能は、モータ駆動回路100には、スタートアシスト機能の有効、無効を設定するためのセレクト信号SELが入力されるセレクト端子SELを備える。
【0052】
セレクト信号SELが、スタートアシスト機能の許可を指示する場合、上述のようにスタート期間Tsの間、制御部14はスタートパルス信号SP1を出力し、続いて制御パルス信号CNT1を出力する。
これに対してセレクト信号SELが、スタートアシスト機能の禁止を指示する場合、制御部14は、スタート期間Tsであってもスタートパルス信号SP1を選択せずに、第1演算増幅器OA1、第2演算増幅器OA2がオンする一定レベルを有する駆動パルス信号DRVを出力する。
【0053】
図7は、スタートアシスト機能の有効・無効を切りかえ可能な制御部14の構成例を示す回路図である。制御部14は、カウンタ50、セレクタ52、無効化信号生成部54を備える。
【0054】
無効化信号生成部54は、セレクト信号SELを受け、それに応じたレベルの無効化信号S2を発生する。無効化信号生成部54は、電源端子と接地端子の間に直列に接続されたトランジスタ56、抵抗R1、R2を含む。トランジスタ56のゲートには、スタンバイ信号STBが入力される。スタンバイ期間中には、トランジスタ56はオフし、抵抗R1、R2による電力消費を低減する。
【0055】
抵抗R1とR2の接続点は、セレクト端子と接続される。抵抗値は、R1≫R2を満たすように設計される。セレクト端子SELがハイインピーダンスのとき、あるいはハイレベルが印加されるとき、抵抗R1とR2の接続ノードはハイレベルとなり、無効化信号S2はローレベルとなり、スタートアシスト機能は有効となる。反対に、セレクト端子にローレベルが入力されると、無効化信号S2はハイレベルとなり、スタートアシスト機能は無効化される。なお、各信号の論理レベルの割り当ては設計事項であり、限定されない。
【0056】
カウンタ50は、スタンバイ復帰、電源投入、ロック保護からの復帰のいずれかのイベントを契機として、クロックCLKをカウントすることにより、所定の長さのスタート期間Tsを測定する。カウンタ50から出力される制御信号S1は、スタート期間Tsの間アサートされ、その後ネゲートされる。
【0057】
セレクタ52には、制御信号S1と無効化信号S2が入力される。無効化信号S2がネゲート(たとえばローレベル)のとき、セレクタ52は、制御信号S1がアサートされる期間、スタートパルス信号SP1を選択し、制御信号S1がネゲートされる期間、制御パルス信号CNT1を選択する。
【0058】
反対に無効化信号S2がアサート(たとえばハイレベル)のとき、セレクタ52は、制御パルス信号CNT1を固定的に選択する。電源PWMを行う際には、制御パルス信号CNT1は一定値をとるため、駆動パルス信号DRV1は第1演算増幅器OA1、第2演算増幅器OA2をオンさせるレベルをとる。
【0059】
このようにスタートアシスト機能を無効化可能とすることで、モータ駆動回路100を電源PWMを行うプラットホームでも使用することができる。
【0060】
モータ駆動回路100は、ファンモータ4に異物が挟まり、回転が停止した際に、ファンモータ4に大電流が流れるのを防止するロック保護機能を備える。
【0061】
ロック保護機能に加えてモータ駆動回路100は、制御パルス信号CNT1によりファンモータ4の停止が所定時間以上指示された場合、ロック保護機能をキャンセル(非アクティブ化)する機能(クイックスタート機能)を備える。
【0062】
1. ロック保護機能
駆動パルス信号DRV1がハイレベルとローレベルを繰り返しているにもかかわらずファンモータ4の回転が停止したケース、すなわち、異物が挟まるなどの不可抗力によりファンモータ4がロックしたケースにおいて、保護回路30は、駆動部10に対してファンモータ4への通電停止を指示する。これにより、モータコイルへの過電流などが防止される。
【0063】
2. クイックスタート機能
制御パルス信号CNT1が所定時間以上ローレベルを示したケース、すなわち、ファンモータ4を作為的に停止させたケースにおいて、保護回路30は、上述した場合と異なり、駆動部10によるファンモータ4への通電を許可する。これにより、作為的にファンモータ4を停止した後の再起動動作がスムーズになる。
【0064】
保護回路30は、ヒステリシスコンパレータ31、ロック保護回路32と、ロック制御部(クイックスタート回路とも称する)34とを含む。また、TSD(Thermal Shut Down)回路などをさらに含んでもよい。
【0065】
ヒステリシスコンパレータ31は、第1ホール信号VH1と第2ホール信号VH2とを比較し、VH1>VH2のときハイレベル、VH1<VH2のときローレベルとなる方形波信号(FG信号)を出力する。ファンモータ4が回転するとき、FG信号は、ファンモータ4の回転数に応じた周波数を有し、ファンモータ4が停止するときには一定レベルとなる。
【0066】
ロック保護回路32は、後述するイネーブル信号ENがアサート(ハイレベルに遷移)されるときアクティブとなり、ネゲート(ローレベルに遷移)されるとき非アクティブとされる。
【0067】
ロック保護回路32はアクティブである場合、FG信号をモニタするなどしてファンモータ4の回転の有無を検出する。ロック保護回路32は、ファンモータ4の回転停止(ロック)を検出すると、制御部14に対するSTOP信号をアサート(ハイレベルに遷移)する。STOP信号がアサートされると、制御部14は、一定期間τ2、第1アンプAMP1、第2アンプAMP2の出力をハイインピーダンスとし、ファンモータ4への通電を強制的に停止する。
【0068】
通電を停止する期間τ2は、数百ms〜数秒であることが好ましい。STOP信号がアサートされると、制御パルス信号CNT1やスタートパルス信号SP1のデューティ比にかかわらず、ファンモータ4への電流供給が停止される。これにより、ファンモータ4のロック時に過電流が流入することが防止される。なお、ファンモータ4が停止してからロック保護回路32にてその停止が確認されるまでには検証期間が設定されている。検証期間は、たとえば0.5s程度であり、ロック保護回路32の内部構成により適宜決められる。
【0069】
一方、ロック保護回路32は、非アクティブのとき、FG信号の状態にかかわらずSTOP信号をネゲートする。
【0070】
ロック制御部34は、制御パルス信号CNT1が所定時間を超えてローレベルを示した場合、イネーブル信号ENをネゲート(ローレベルに遷移)し、ロック保護回路32を非アクティブとする。所定時間は、制御パルス信号CNT1の周期より十分に長くてもよく、ロック保護回路32にてファンモータ4のロックが確認されるまでの検証期間より短くてもよい。所定時間は、実施の形態においてはたとえば60msに設定される。この60msは、想定される制御パルス信号CNT1の下限周波数におけるオフデューティの期間(ロー期間)をもとに設定した時間である。あるいは、さらに静止摩擦が大きなファンモータを駆動する際には、所定時間は250ms程度とするとよい。
【0071】
ロック制御部34は、カウンタ36と、クロック生成器38とを含む。
クロック生成器38は、所定の周波数のクロックを生成するオシレータである。所定の周波数は、上記の設定された所定時間に合わせて適宜決められる。カウンタ36は、制御パルス信号CNT1がローレベルを示す間、クロック生成器38にて生成したクロックの数をカウントする。すなわちカウンタ36は、制御パルス信号CNT1の立ち下がりエッジにてカウント値がリセットされてカウントを開始し、再度、制御パルス信号CNT1の立ち下がりエッジによりリセットされるまでクロックをカウントする。カウントの結果、制御パルス信号CNT1が上記の所定時間を超えてローレベルを示したことを検知した場合、カウンタ36は、イネーブル信号ENをネゲートする。
【0072】
ロック保護回路32は、イネーブル信号ENがネゲートされると非アクティブとなり、制御部14に出力されるSTOP信号もネゲートされる。このとき、制御パルス信号CNT1はローレベルを連続的に示しているため、STOP信号がネゲートされているにもかかわらず、ファンモータ4は通電されない。
【0073】
また、イネーブル信号ENがネゲートされたことにより非アクティブとされたロック保護回路32は、その後、制御パルス信号CNT1がハイレベルに遷移したときに再度アクティブとなる。
【0074】
スタンバイ制御部40は、イネーブル信号ENを受ける。スタンバイ制御部40は、イネーブル信号ENがネゲートされると、時間測定を開始する。ここで、イネーブル信号ENがネゲートされたことは、制御パルス信号CNT1がファンモータ4の停止を第1時間τ1以上継続して指示したことを意味する。
【0075】
そして、制御パルス信号CNT1がローレベルに固定されている状態において、時間測定開始から所定の第2時間τ2が経過すると、モータ駆動回路100はスタンバイモードに設定され、モータ駆動回路100の少なくとも一部の動作が停止し、省電力化が図られる。
【0076】
スタンバイ制御部40は、制御パルス信号CNT1が(τ1+τ2)の期間連続してローレベルを持続すると、スタンバイ信号STBをアサートし、モータ駆動回路100をスタンバイモードに移行させる。スタンバイ信号STBは、スタンバイモードと通常の動作モードにおいて、異なる処理を実行する回路ブロックや、スタンバイモードにおいてシャットダウンする回路ブロックへと供給される。
【0077】
スタンバイ処理について説明する。
起動回路44は、モータ駆動回路100の基準電圧を生成する電圧源である。スタンバイ制御部40はスタンバイモードにおいて、起動回路44を停止する。基準電圧がシャットダウンすることにより、この基準電圧にもとづいて生成される基準電流が遮断するため、モータ駆動回路100内の各ブロックに対する基準電流の供給が停止し、低消費電力化が図られる。
【0078】
また、モータ駆動回路100は、ホール素子8に対して供給すべきホールバイアス電圧HBを生成するバイアス電圧源42を含む。バイアス電圧源42は、スタンバイ信号STBがハイレベルとなると、シャットダウンしてホール素子8に対するホールバイアス電圧HBの供給を停止する。これにより、ホール素子8、抵抗R11、R12による電力消費が低減される。
【0079】
さらにスタンバイモードにおいては、駆動部10をはじめとする、その他の不要な回路をシャットダウンしてもよい。
【0080】
スタンバイ制御部40は、制御パルス信号CNT1を受ける。スタンバイ制御部40は、スタンバイモードにおいて、制御パルス信号CNT1がファンモータ4の駆動を指示したことを契機として、スタンバイ信号STBをネゲートし(ローレベルに遷移)、モータ駆動回路100をスタンバイモードから通常モードに復帰させる。たとえば、スタンバイ制御部40は、制御パルス信号CNT1のエッジを監視することにより、通常モードへの復帰を行ってもよい。
【0081】
通常モードに復帰すると、起動回路44が起動して基準電圧を生成する。これにより、モータ駆動回路100の各ブロックに電流が供給され、動作を再開する。
【0082】
以上がモータ駆動回路100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0083】
図3は、図2のモータ駆動回路100の動作を示すタイムチャートである。時刻t0以前に、ファンモータ4は停止しており、モータ駆動回路100はスタンバイモードとなっている。
【0084】
時刻t0以降に、外部コントローラ6から非ゼロのデューティ比を有する制御パルス信号CNT1が出力されと、これを契機としてモータ駆動回路100がスタンバイモードから通常モードへと復帰し、ファンモータ4の駆動を開始する。モータ駆動回路100が起動すると、スタートパルス信号生成部16がスタートパルス信号SP1を発生し始める。
【0085】
起動開始からスタート期間Tsの間、制御部14はスタートパルス信号SP1を選択し、駆動パルス信号DRV1として駆動部10へと供給する。スタートパルス信号SP1のデューティ比は、ファンモータ4を停止状態から回転させるのに足る値に設定されているため、ファンモータ4は速やかに回転し始め、その回転数は、スタートパルス信号SP1のデューティ比に応じた回転数に向けて上昇しはじめる。
【0086】
その後、スタート期間Tsの経過後の時刻t1に、制御部14は駆動パルス信号DRV1を、スタートパルス信号SP1から制御パルス信号CNT1に切りかえる。その結果、外部コントローラ6によるファンモータ4の回転数制御が有効となり、ファンモータ4は、外部コントローラ6によって設定された回転数で回転する。
【0087】
以上がモータ駆動回路100の動作である。図2のモータ駆動回路100によれば、外部コントローラ6から出力される制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTが小さい場合であっても、ファンモータ4を確実に回転させることができ、回転し始めた後には、その回転数を制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTに応じた値に設定することができる。
【0088】
つまり、冷却システム2の設計者は、停止したファンモータ4を回転させることが可能な最小デューティ比を意識することなく、ファンモータ4の目標回転数のみを考慮して制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTを設計すればよいため、設計の負担を従来に比べて軽減することができる。
【0089】
図4は、図2の冷却システム2におけるファンモータ4の回転数と、制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTの関係を示す図である。図2のモータ駆動回路100では、スタート期間Tsにおいて、外部デューティ比DREXTにかかわらず、ファンモータ4の駆動デューティ比がIC内部で決めたデューティ比、たとえば50%に設定される。したがって制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTが低い場合には、デューティ比を低下させてブレーキをかけていることと等価となり、図1のブレーキ特性(II)を実現できる。
【0090】
たとえば従来では、ファンモータ4を500rpmで回転させるために、制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTを12%に設定した場合、停止状態のファンモータ4を回転させることができない(図1参照)。これに対して、図2のモータ駆動回路100では、制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTを12%に設定すれば、500rpmでファンモータ4を回転させることができる(図4)。
【0091】
さらに、実施の形態のモータ駆動回路100によれば、ロック制御部34は、制御パルス信号CNT1が所定時間を超えてローレベルを示した場合、ロック保護回路32を非アクティブとするので、制御パルス信号CNT1によるモータの停止と不可抗力によるモータのロックとを区別できる。したがって、モータ駆動回路100は、制御パルス信号CNT1によりファンモータ4の回転を停止した後、その回転を迅速に再開でき、たとえばファンモータ4の停止中にデバイスを急激に冷却する必要が生じた場合などにすばやい冷却効果を得られる。このことは、上述のスタート期間Tsに内部デューティ比DRINTでファンモータ4を駆動することと相まって、対象物9を急速に冷却できることを意味する。
【0092】
次に、実施の形態のさらなる効果について説明する。イネーブル信号ENがローレベルに切りかえられると、スタンバイ制御部40は制御パルス信号CNT1がローレベルの期間を測定し、この時間が第2時間τ2持続すると、スタンバイ信号STBをハイレベルに切りかえ、モータ駆動回路100の各ブロックの動作を停止させる。その結果、モータ駆動回路100の回路電流は、0mA付近まで低下し、低消費電力化が図られる。
【0093】
その後、制御パルス信号CNT1がハイレベルとなると、スタンバイ制御部40はスタンバイ信号STBをローレベルに切りかえ、モータ駆動回路100の各ブロックを動作状態に復帰させる。もし、第2時間τ2経過前に、駆動パルス信号DRV1がハイレベルとなれば、スタンバイモードには移行せずに、ファンモータ4の回転を再開する。なお、カウンタ36の設定次第では、τ2≧0であってもよい。
【0094】
このように、本実施の形態に係るモータ駆動回路100によれば、ファンモータ4の回転が指示されない状態が所定時間(τ1+τ2)持続すると、スタンバイモードに切りかえることにより、従来に比べて回路の消費電流を低下させることができる。さらに、スタンバイモードへの移行は、イネーブル信号ENにもとづいて実行されるため、スタンバイモードへ移行する際には、必ずロック保護回路32の機能が無効化されることが保証される。したがって、その次にファンモータ4の回転の再開が指示されたとき、直ちにスタンバイモードから通常モードに復帰してファンモータ4を回転させることができる。
【0095】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0096】
(第1の変形例)
第1の変形例は、スタートパルス信号生成部16がオシレータではなく、別の構成となっている。図5は、第1の変形例におけるスタートパルス信号生成部16aの構成を示す回路図である。スタートパルス信号生成部16aは、電流源CS1、コンパレータCMP1、RSラッチ、スイッチSW1およびキャパシタC1を含む。キャパシタC1はモータ駆動回路100の外部に設けられ、一端が接地されている。
【0097】
電流源CS1は、アクティブ状態においてキャパシタC1を定電流Icで充電する。スイッチSW1は、RSラッチの反転出力#Q(#は論理反転を示す)がハイレベルとなるとオンとなり、キャパシタC1の電荷を放電する。コンパレータCMP1は、キャパシタC1の電位Vc1を所定のしきい値Vth1と比較し、Vc1>Vth1のときハイレベルとなる比較信号Scを出力する。RSラッチは、比較信号Scのポジティブエッジでリセットされ、制御パルス信号CNT1のネガティブエッジでセットされる。RSラッチの出力Qがハイレベルのとき電流源CS1はアクティブとなる。
【0098】
このスタートパルス信号生成部16aは、制御パルス信号CNT1のポジティブエッジ(またはネガティブエッジ)から所定のオン時間Tonの間、第1レベル(ハイレベル)をとり、その後、次のポジティブエッジまでの期間、第1レベルと相補的な第2レベル(ローレベル)をとるスタートパルス信号SP1を生成する。
【0099】
図6は、第1の変形例に係るモータ駆動回路の動作を示すタイムチャートである。第1の変形例のスタートパルス信号生成部16aを用いると、制御パルス信号CNT1とスタートパルス信号SP1を同期させることができる。またしきい値電圧Vth1を調節することにより、スタートパルス信号SP1のデューティ比DRINTを任意の値に調節できる。
【0100】
また第1の変形例では、制御部14は、スタート期間Tsの間、スタートパルス信号SP1と制御パルス信号CNT1の論理和を駆動パルス信号DRV1として出力してもよい。つまり、第1の変形例によれば、駆動パルス信号DRINTを生成する際の信号処理を簡略化することができる。さらに、キャパシタC1の容量値を調整することによって、周波数とデューティ比を変えることができるため、さまざまなモータに対応できる。
【0101】
(第2の変形例)
第2の変形例において、制御部14は、ファンモータ4の駆動開始からスタート期間Ts中、制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTが所定のしきい値DRTHより低いときのみ、スタートパルス信号SP1を駆動パルス信号DRV1として出力する。制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTがしきい値DRTHより高いとき、制御部14は、制御パルス信号CNT1を駆動パルス信号DRV1として出力する。
【0102】
第2の変形例は、ファンモータ4の停止中に温度が非常に高くなった対象物9を急速に冷却したい場合に有効である。
図2のモータ駆動回路100では、仮に制御パルス信号CNT1のデューティ比DREXTを100%とした場合であっても、スタート期間Tsの間は、ファンモータ4の駆動デューティ比は、強制的にDRINTに制限されるため、ファンモータ4はゆっくり回り始める。これに対して、第2の変形例では、デューティ比DREXTがしきい値DRTHより高い制御パルス信号CNT1を発生することで、スタート期間Ts中であっても、ファンモータ4は制御パルス信号CNT1にもとづいて駆動されるため、ファンモータ4の回転数を急速に上昇させることができる。
【0103】
(その他の変形例)
実施の形態では、駆動部10がファンモータ4の両端に、正弦波の包絡線を有する駆動電圧を印加する場合を説明したが、本発明はそれに限定されない。たとえば特許文献3に記載されるように、Hブリッジ回路を利用してファンモータ4に矩形波(パルス状)の包絡線を有するスイッチング信号を印加して通電時間をPWM制御してもよい。
【0104】
また、実施の形態において、ファンモータ4が単相モータである場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。ファンモータ4は、多相モータであってもよい。
【0105】
また、実施の形態において、ファンモータ4の回転をホール素子8により検出したが、本発明はこれに限定されない。ファンモータ4の回転は、ファンモータ4のコイルに発生する誘起電圧をモニタすることにより検出してもよい。
【0106】
また、実施の形態において、ロック制御部34は、クロック生成器38にて生成したクロックをカウンタ36にて数えることにより制御パルス信号CNT1がローレベルを示す時間をモニタしたが、本発明はこれに限定されない。制御パルス信号CNT1がローレベルを示す時間は、キャパシタと抵抗を用いた時定数回路により測定してもよい。
【0107】
実施の形態において、ロック保護回路32は、FG信号をモニタしたが、本発明はこれに限定されない。ロック保護回路32は、第1ホール信号VH1または第2ホール信号VH2をモニタしてもよく、ファンモータ4のコイルに発生する誘起電圧をモニタしてもよい。
【0108】
実施の形態にもとづき、特定の語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【符号の説明】
【0109】
100…モータ駆動回路、102…第1入力端子、104…第2入力端子、106…制御入力端子、108…第1出力端子、110…第2出力端子、2…冷却システム、4…ファンモータ、6…外部コントローラ、8…ホール素子、9…対象物、10…駆動部、AMP1…第1アンプ、AMP2…第2アンプ、OA1…第1演算増幅器、Ri1…第1入力抵抗、Ri2…第2入力抵抗、Rf1…第1帰還抵抗、Rf2…第2帰還抵抗、OA2…第2演算増幅器、14…制御部、16…スタートパルス信号生成部、30…保護回路、31…ヒステリシスコンパレータ、32…ロック保護回路、34…ロック制御部、36…カウンタ、38…クロック生成器、40…スタンバイ制御部、42…バイアス電圧源、44…起動回路、VH1…第1ホール信号、VH2…第2ホール信号、CNT1…制御パルス信号、SP1…スタートパルス信号、DRV1…駆動パルス信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7