(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レーザを発生させるレーザ発振器と当該レーザ発振器からのレーザの強度を増減させるレーザシャッタと当該レーザシャッタからのレーザを走査するガルバノスキャナとを用いて溝の加工を行うレーザ加工方法において、前記ガルバノスキャナを制御する制御系と前記レーザシャッタを制御する制御系への共通の指令を上位から受取ってそれぞれへの角度指令パターンを発生し、前記レーザシャッタを制御する制御系側では、前記角度指令パターンを前記ガルバノスキャナを制御する制御系の周波数応答モデルを成すものであって周波数伝達関数を有するデジタルフィルタに入力し当該デジタルフィルタの出力に基いて前記レーザシャッタを制御し、前記ガルバノスキャナを制御する制御系側では、前記角度指令パターンを前記デジタルフィルタへの角度指令パターンの入力よりも遅れて受入れることにより、前記レーザシャッタの開きレベルを制御する信号を実際の加工速度と時間的に一致して変化させるようにしたことを特徴とするレーザ加工方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1(a)】本発明の一実施形態によるレーザ加工装置の基本的な構成の概要を示すブロック図である。
【
図1(b)】
図1(a)に示すガルバノスキャナの従来の制御機構を示すブロック図である。
【
図2(a)】
図1(a)、
図1(b)に示して説明したレーザ加工装置による加工方法を説明するタイミングチャートである。
【
図2(b)】
図2(a)に示して説明したレーザ加工装置による加工方法を用いて加工されたワークの平面図である。
【
図3】
図1(a)に示したレーザ加工装置にX角度応答からシャッタ信号を生成し生成されたシャッタ信号を用いてシャッタ開きレベルを制御する制御系を加えた本発明の比較例の構成を示すブロック図である。
【
図4(a)】
図3に示して説明したシャッタ信号を制御した場合のレーザ加工方法を説明するタイミングチャートである。
【
図4(b)】
図3に示して説明したシャッタ信号を制御した場合のレーザ加工方法を用いて加工されたワークの平面図である。
【
図5】
図3に示したレーザ加工装置にガルバノスキャナの制御のための角度指令パターンをレーザシャッタの制御のための角度指令パターンに対して遅延させる制御系を加えた本発明の実施形態の構成を示すブロック図である。
【
図6(a)】
本発明の実施形態によるレーザ加工方法を説明するタイミングチャートである。
【
図6(b)】
図6(a)により説明したレーザ加工方法を用いて加工されたワークの平面図である。
【
図7】デジタルフィルタの周波数伝達関数を求めるためのブロック図である。
【
図8】デジタルフィルタの周波数伝達関数を求める処理の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明によるレーザ加工方法及び加工装置の実施形態を図面により詳細に説明する。
【0010】
図1(a)は本発明の一実施形態によるレーザ加工装置の基本的な構成の概要を示すブロック図である。
図1(a)に示すレーザ加工装置は、階層的な制御構造を有する数値制御(NC)装置であり、プリント基板等のワーク152のCAM(Computer Aided Manufacturing)データに基づき、高い加工スループットを実現するように加工順番が最適化され、穴位置座標が加工される順番で加工プログラムに記述されているものである。
【0011】
図1(a)に示すレーザ加工装置は、加工プログラム中の穴位置座標を座標変換して時系列的な角度指令データ(以下、「角度指令パターン」という)を生成する数値制御装置160と、レーザ光10を発生させるためのレーザ発振器130と、レーザ発振器130から照射されたレーザ光10の照射光量を調整するレーザシャッタ140と、レーザ光10を反射させfθレンズ11を介してプリント基板等のワーク152へ前記レーザ光10を照射させるガルバノミラー107、該ガルバノミラー107の角度を検出するためのロータリエンコーダ106及びガルバノミラー107を駆動するためのロータリアクチュエータ105により構成されるガルバノスキャナ171と、ガルバノミラー117、ガルバノミラー117の角度を検出するためのロータリエンコーダ116及びガルバノミラー117を駆動するためのロータリアクチュエータ115により構成されるガルバノスキャナ172と、レーザシャッタ140及びガルバノスキャナ171、172を制御する制御部であるデジタルサーボコントローラ110と、ワーク152を位置決めするためのXYテーブル151とを備えて構成されている。
【0012】
そして、このレーザ加工装置は、数値制御装置160が、レーザ発振器130、XYテーブル151、デジタルサーボコントローラ110の同期をとることにより高速高精度のレーザ加工を行うことができる。また、デジタルサーボコントローラ110は、図示していないが、マイクロ・プロセッサを用いたデジタル制御ファームウェアにより実現され、後述する積分補償器101、比例補償器102、デジタルフィルタ112、遅延器113、変調器129に関する演算は前記マイクロ・プロセッサが実行するプログラムの一部に記述されている。
【0013】
前述において、
図1(a)に示すレーザ加工装置は、ガルバノスキャナ171によりレーザ光10をX方向(紙面に対して左右方向)に制御して走査し、ガルバノスキャナ172によりレーザ光10をY方向(紙面に対して垂直方向)に制御して走査することにより2次元スキャンを実現し、ワーク152に対する加工を行うことができる。
【0014】
図1(b)は
図1(a)に示すガルバノスキャナ171の
従来の制御機構を示すブロック図である。なお、図示しないが、
図1(b)に示す制御機構は、ガルバノスキャナ172の制御機構をも備えており、後述と同様に動作する。
【0015】
図1(b)に示すように、上位コントローラである数値制御装置160からデジタルサーボコントローラ110へ入力されるX方向の角度指令パターンであるX指令211は、インタフェース111(以下、I/Fという)を介してガルバノスキャナ171を制御するフィードバック制御系114へ入力される。フィードバック制御系114は、積分補償器101及び比例補償器102と、デジタルデータをアナログデータに変換するDAコンバータ(以下、DACという)103と、DAC103によりで変換されたアナログ信号を用いて電流を制御する電流制御回路104と、電流制御回路104からの電流により制御されるガルバノスキャナ171とから構成されている。
【0016】
図2(a)は
図1(a)、
図1(b)に示して説明したレーザ加工装置による加工方法を説明するタイミングチャート、
図2(b)は
図2(a)に示して説明したレーザ加工装置による加工方法を用いて加工されたワークの平面図である。
【0017】
図2(a)に示しているレーザ加工方法を説明するタイミングチャートの例は、ワーク152上でレーザ光をX方向に等速でスキャンさせた後、Y方向に等速でスキャンさせてワーク152をL字形にレーザ加工した場合の例であり、時間軸にT1として示している時間が、レーザ光のスキャン方向をX方向からY方向への折れ曲がり時点の時間を示している。
【0018】
そして、
図2(a)には、ガルバノスキャナ171のロータリアクチュエータを制御するためのX方向の角度指令パターンであるX指令211(実線)、ガルバノスキャナ172のロータリアクチュエータを制御するためのY方向の角度指令パターンであるY指令212(実線)、実際に加工されるX方向の位置を仮想的に表わしたX方向実加工位置213(鎖線)、実際に加工されるY方向の位置が仮想的に表されたY方向実加工位置214(鎖線)、X指令211に対するロータリエンコーダ106の角度検出データであるX角度応答221(点線)、Y指令212に対するロータリエンコーダ116の角度検出データであるY角度応答222(点線)、X指令211及びY指令212からのそれぞれの速度が合成されたXY指令合成速度231(実線)、X方向実加工位置213及びY方向実加工位置214のそれぞれの速度が合成されたXY実加工合成速度233(鎖線)、X角度応答221及びY角度応答222から算出されたそれぞれの速度が合成されたXY角度応答速度合成信号232(点線)、レーザ発振器130のレーザ出力信号241、レーザ光10の照射強度を調整するレーザシャッタ140のシャッタ開きレベルを制御するシャッタ信号251、ワークの加工レベル(レーザ光の照射エネルギー)261のそれぞれが示されている。
【0019】
前述したような加工方法を行った場合、レーザ光10のスキャン開始時、X方向からY方向への折れ曲がり時点、及び、スキャン終了時にサーボ系の遅れによるレーザ光10のスキャン速度の低下が発生し、ワークへのレーザ光の照射エネルギー密度が高まることになる。この結果、
図2(b)に示しているように、スキャン開始点Sから折れ曲がり点Mを経由してスキャン終了点EまでL字形にレーザ加工するように角度指令パターンをデジタルサーボコントローラ110へ入力した場合、レーザ光10のスキャン開始点S、折れ曲がり点M、スキャン終了点E付近ではワークが強く加工され、加工溝幅、深さが不均一となってしまう。なお、
図2(b)において、実線はX指令211及びY指令212が仮想的に表された軌跡271、点線はX角度応答221及びY角度応答222が仮想的に表された軌跡272、鎖線はレーザ加工された加工パターン273をそれぞれ示している。
【0020】
前述したようなレーザ光10のスキャン開始点S、折れ曲がり点M、スキャン終了点E付近でワークが強く加工され、加工溝幅、深さが不均一となってしまうようなことを回避するために、本発明の
比較例では、加工点への照射エネルギー密度が一定になるように、X角度応答221、Y角度応答222からシャッタ信号251を生成し、生成したシャッタ信号251を用いてシャッタ開きレベルを制御することにより、ワークへのレーザ光の照射エネルギー密度が均一になるようにし
た場合を示す。
【0021】
図3は
図1(a)に示したレーザ加工装置にX角度応答221
から生成されたシャッタ信号251を用いてシャッタ開きレベルを制御する制御系を加えた本発明の比較例の構成を示すブロック図であり、次に、これについて説明する。なお、
図1(b)に示している構成要素と同一のものについては説明を省略する。
【0022】
図3において、ガルバノスキャナ171からのX角度応答221及び図示していないガルバノスキャナ172からのY角度応答222から算出されたXY角度応答合成速度232は、変調器129へ入力されて変調器129を介してシャッタ信号251として生成され、生成されたシャッタ信号251がレーザシャッタ140へ入力される。レーザシャッタ140は、例えば、音響光学素子で構成され、入射したレーザビームの回折効率を制御することによって出射する0次光のビームエネルギー強度を変化させる。シャッタ信号251は、XY角度応答合成速度232が一定(等速状態)になったときにシャッタ開きレベルが最大値となるように加工に先立って予め設定され、例えば、12ビットのデジタルデータとして生成される。
【0023】
図4(a)は
図3に示して説明したシャッタ信号251を制御した場合のレーザ加工方法を説明するタイミングチャート、
図4(b)は
図3に示して説明したシャッタ信号251を制御した場合のレーザ加工方法を用いて加工されたワークの平面図である。なお、
図2(a)及び
図2(b)と同一の符号を付したものについては説明を省略する。
【0024】
図4(a)に示すシャッタ信号251を制御した場合のレーザ加工方法の例は、シャッタ開きレベルを調整して加工溝幅、加工深さが均等になるようにしているが、この例の場合、ロータリエンコーダが検出したX角度応答221及びY角度応答222がデジタルサーボコントローラ110へ入力されてからデータ化されるまでに時間を要し、XY角度応答合成速度232の算出が遅れるため、シャッタ信号251が実際の加工に対して遅延することになる。この結果、
図4(b)に示しているように、スキャン開始点Sから折れ曲がり点Mを経由してスキャン終了点EまでL字形にレーザ加工するように角度指令パターンをデジタルサーボコントローラ110へ入力した場合、レーザ光10のスキャン開始点S、折れ曲がり点M、スキャン終了点E付近ではワークが強く加工され、
図2(b)により説明した例ほどではないが加工溝幅、深さが不均一となって、ワーク152の加工品質が低下してしまうことになる。
【0025】
図4(a)により説明した方法での前述したようなレーザ光10のスキャン開始点S、折れ曲がり点M、スキャン終了点E付近でワークが強く加工され、加工溝幅、深さが不均一となってしまうようなことを回避するために、本発明
の実施形態では、さらに、ガルバノスキャナの制御のための角度指令パターンをレーザシャッタの制御のための角度指令パターンに対して遅延させることとしている。
【0026】
図5は
図3に示したレーザ加工装置にガルバノスキャナの制御のための角度指令パターンをレーザシャッタの制御のための角度指令パターンに対して遅延させる制御系を加えた本発明
の実施形態の構成を示すブロック図であり、次に、これについて説明する。なお、
図3に示している構成要素と同一のものについては説明を省略する。
【0027】
図5において、
112は、後述する工程で求められる周波数伝達関数G(jω)を持ち、入力される様々な角度指令パターンに対して実際のフィードバック制御系114と同様の角度応答を出力するフィードバック制御系114の周波数応答モデルを成すデジタルフィルタである。113は、デジタルフィルタ112へ入力される角度指令パターンよりもフィードバック制御系114へ入力する角度指令パターンを時間Tだけ遅らせる遅延器である。時間Tは、角度指令パターンと角度検出データとの時間差を最大遅延時間として、遅延時間ゼロから最大遅延時間までフィードバック制御系114への角度指令パターンの入力をデジタルフィルタ112への角度指令パターンの入力より遅延させて加工を行なった実験データの内で最も加工レベルが均一であった時間が設定される。数値制御装置160からデジタルサーボコントローラ110へ入力されたX指令211は、インタフェース111を介してデジタルフィルタ112と遅延器113のそれぞれに入力される。デジタルフィルタ112からの出力であるX指令出力501は、変調器129へ入力され、変調器129で生成されたシャッタ信号251によりレーザシャッタ140のシャッタ開きレベルが調整される。このように、シャッタ開きレベルを調整してレーザビームのパルス高さを増減させることによりレーザビームエネルギーを増減させることができる。
【0028】
図7はデジタルフィルタ112の周波数伝達関数を求めるためのブロック図であり、次に、これについて説明する。なお、
図1(b)及び
図3に示している構成要素と同一のものについては説明を省略する。
【0029】
図7において、所定の周波数範囲(例えば、500Hz〜30kHz)のX指令211は、一定間隔(例えば、180Hz)で可変させられてデジタルサーボコントローラ110へ入力される。入力されたX指令211は、フィードバック制御系114へ入力されると共に、デジタルサーボコントローラ110内に設けられた半導体メモリで構成された記憶部701へ入力されて保存される。そして、フィードバック制御系114へ入力されたX指令211は、積分補償器101、DAC103、電流制御回路104を介してガルバノスキャナ171へ入力され、ロータリアクチュエータ105の動きに対応して検出されたロータリエンコーダ106からのX角度応答221が記憶部701へ保存されると共に、積分補償器101にフィードバックされ、また、比例補償器102を介して積分補償器101の出力に加えられる。
【0030】
その後、マイクロ・プロセッサからなる演算部702は、記憶部701に保存されたX指令211とX角度応答221とからX指令211とX角度応答221の振幅比及び位相差を算出する。この工程は、前述した周波数範囲で繰り返えされ、可変させた前記周波数範囲における振幅比|G(jω)|と位相差∠G(jω)とを算出し、式(1)から周波数伝達関数G(jω)を求める。
【0031】
G(jω)=|G(jω)|e
j∠G(jω) …………(1)
図8はデジタルフィルタ112の周波数伝達関数を求める演算部702での処理動作を説明するフローチャートであり、次に、これについて説明する。
【0032】
(1)処理が開始されると、まず、入力する波形番号nに初期値1を入力し、第n番目の波形(ここでは、第1番目の波形)の角度指令パターンであるX指令211をフィードバック制御系114及び記憶部701へ入力する(ステップS801、S802)。
【0033】
(2)次に、ガルバノスキャナ171のロータリエンコーダ106からのX角度応答221を記憶部701に保存した後、演算部702は、保存されたX指令211とX角度応答221とから振幅比及び位相差を算出し、算出した振幅比及び位相差を記憶部701に記憶する(ステップS803〜S806)。
【0034】
(3)前述までで処理をした波形番号nが最終波形番号Nより大きいか否かを比較判定し、波形番号nが最終波形番号N以下であった場合、波形番号nに1を加え、その波形番号に対するステップS802からの処理を繰り返す(ステップS807、S808)。
【0035】
(4)ステップS807の判定で、処理をした波形番号nが最終波形番号Nより大きかった場合、演算部702は、記憶部701に保存された振幅比及び位相差から周波数伝達関数G(jω)を前述した式(1)用いて求め、求めた周波数伝達関数G(jω)を記憶部701に保存して、ここでの処理を終了する(ステップS809)。
【0036】
前述で説明した処理は、第1番目〜第N番目までの角度指令パターンの入力毎に振幅比と位相差とを演算しているが、第1番目〜第N番目までの角度指令パターンを連続して1度に入力してもよい。この場合、複数回行われていた振幅比及び位相差の演算や記憶部への保存をそれぞれ1回にすることができ、周波数伝達関数導出の時間を短縮することができる。
【0037】
図6(a)は
本発明の実施形態によるレーザ加工方法を説明するタイミングチャート、
図6(b)は
図6(a)により説明したレーザ加工方法を用いて加工されたワークの平面図である。なお、
図4(a)及び
図4(b)と同一の符号を付したものについては説明を省略する。
【0038】
図6(a)に示す本発明の実施形態によるレーザ加工方法では、X指令211(実線)及びY指令212(実線)が、図4(a)で説明した例に比べて時間Tだけ遅延し、これにより、X指令出力501(点線)とX方向実加工位置213(鎖線)とを時間的に一致させることができ、また、Y指令出力502(点線)とY方向実加工位置214(鎖線)とを時間的に一致させることができるため、XY実加工合成速度233(鎖線)と、X指令出力501及びY指令出力502から算出されたそれぞれの速度を合成したXY指令出力合成速度503(実線)とを時間的に一致させることができる。
【0039】
この結果、
図6(a)により説明したレーザ加工方法によれば、
シャッタ信号251をXY実加工合成速度233(鎖線)と時間的に一致させることができるので、
図6(b)に示しているように、レーザ光10のスキャン開始点S、折れ曲がり点M、スキャン終了点E付近で加工溝幅、深さを、
図4(b)により説明した例よりもさらに均一とすることができ、加工品質を向上させることができる。