(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5731915
(24)【登録日】2015年4月17日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】タービン用ロータおよびその製造方法ならびにNi基超合金材と鋼材の接合方法および構造
(51)【国際特許分類】
F02C 7/00 20060101AFI20150521BHJP
F01D 5/06 20060101ALI20150521BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20150521BHJP
B23K 15/00 20060101ALI20150521BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
F02C7/00 D
F01D5/06
F02C7/00 C
F01D25/00 L
F01D25/00 X
B23K15/00 506
B23K15/00 505
B23K15/00 501A
B23K31/00 B
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-138745(P2011-138745)
(22)【出願日】2011年6月22日
(65)【公開番号】特開2013-7282(P2013-7282A)
(43)【公開日】2013年1月10日
【審査請求日】2014年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 右典
(72)【発明者】
【氏名】岡内 宏憲
(72)【発明者】
【氏名】古賀 信次
(72)【発明者】
【氏名】兵江 猛宏
(72)【発明者】
【氏名】武田 佑介
【審査官】
寺町 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−121023(JP,A)
【文献】
特開2010−65547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/00
F01D 25/00
F01D 5/06
B23K 15/00−10
B23K 101/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶体化処理された析出硬化型Ni基超合金より成る第1のロータディスクと固溶強化型Ni基超合金より成る中間材とを電子ビーム溶接により接合するステップと、
前記第1のロータディスクと前記中間材の接合体について、前記析出硬化型Ni基超合金を時効硬化させるために適した第1の温度で時効硬化処理を行うステップと、
前記中間材と耐熱性を有する鋼より成る第2のロータディスクとを電子ビーム溶接により接合するステップと、
前記第1のロータディスクと前記中間材と前記第2のロータディスクの接合体について、前記鋼を焼なますために適した第2の温度で焼なまし処理を行うステップとを含む、
タービン用ロータの製造方法。
【請求項2】
前記固溶強化型Ni基超合金がインコネル625(IN625)である、請求項1に記載のタービン用ロータの製造方法〔インコネル=INは登録商標、以下では省略〕。
【請求項3】
前記析出硬化型Ni基超合金がインコネル718(IN718)であり、前記第1の温度が710〜726℃の範囲の温度である、請求項1または2に記載のタービン用ロータの製造方法。
【請求項4】
前記鋼が12%Cr鋼であり、前記第2の温度が570〜590℃の範囲の温度である、請求項1から3のいずれか一項に記載のタービン用ロータの製造方法。
【請求項5】
複数のロータディスクが軸方向に結合されて成るタービン用ロータであって、
析出硬化型Ni基超合金より成る第1のロータディスクと耐熱性を有する鋼より成る第2のロータディスクとの隣接する2枚のロータディスクを含み、
前記第1のロータディスクと固溶強化型Ni基超合金より成る中間材とが電子ビーム溶接により接合されており、且つ、前記第2のロータディスクと前記中間材とが電子ビーム溶接により接合されている、タービン用ロータ。
【請求項6】
前記固溶強化型Ni基超合金がインコネル625(IN625)である、請求項5に記載のタービン用ロータ。
【請求項7】
前記析出硬化型Ni基超合金がインコネル718(IN718)である、請求項5又は6に記載のタービン用ロータ。
【請求項8】
前記鋼が12%Cr鋼である、請求項5から7のいずれか一項に記載のタービン用ロータ。
【請求項9】
溶体化処理された析出硬化型Ni基超合金から成る第1材と耐熱性を有する鋼から成る第2材の接合方法であって、
前記第1材と固溶強化型Ni基超合金から成る中間材とを電子ビーム溶接により接合するステップと、
前記第1材と前記中間材の接合体について、前記第1材を時効硬化させるために適した第1の温度で時効硬化処理を行うステップと、
前記中間材と前記第2材とを電子ビーム溶接により接合するステップと、
前記第1材と前記中間材と前記第2材の接合体について、前記第2材を焼なますために適した第2の温度で焼なまし処理を行うステップとを含む、
Ni基超合金材と鋼材の接合方法。
【請求項10】
前記固溶強化型Ni基超合金がインコネル625(IN625)である、請求項9に記載のNi基超合金材と鋼材の接合方法。
【請求項11】
前記析出硬化型Ni基超合金がインコネル718(IN718)であり、前記第1の温度が710〜726℃の範囲の温度である、請求項9または10に記載のNi基超合金材と鋼材の接合方法。
【請求項12】
前記鋼が12%Cr鋼であり、前記第2の温度が570〜590℃の範囲の温度である、請求項9から11のいずれか一項に記載のNi基超合金材と鋼材の接合方法。
【請求項13】
析出硬化型Ni基超合金から成る第1材と耐熱性を有する鋼から成る第2材の接合構造であって、
前記第1材と固溶強化型Ni基超合金から成る中間材が電子ビーム溶接により接合されており、且つ、前記第2材と前記中間材が電子ビーム溶接により接合されている、Ni基超合金材と鋼材の接合構造。
【請求項14】
前記固溶強化型Ni基超合金がインコネル625(IN625)である、請求項13に記載のNi基超合金材と鋼材の接合構造。
【請求項15】
前記析出硬化型Ni基超合金がインコネル718(IN718)である、請求項13又は14に記載のNi基超合金材と鋼材の接合構造。
【請求項16】
前記鋼が12%Cr鋼である、請求項13から15のいずれか一項に記載のNi基超合金材と鋼材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンエンジンや蒸気タービンエンジン等に用いられる耐熱性を有するタービン用ロータに関し、詳細には、タービン用ロータを構成しているNi基超合金材と鋼材とを接合するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンや蒸気タービンエンジンにおいて、燃焼温度或いは主蒸気温度をより高温化することがタービンエンジンの効率を向上させるために有効である。燃焼温度或いは主蒸気温度をより高温化すればタービンの高温部品の温度もより高くなるため、これらの高温部品により高い耐熱性が要求される。このような高温部品には、例えば、圧縮機ロータやタービンロータ等のタービン用ロータがある。タービン用ロータには高温に曝される領域とこれより低い温度に曝される領域とが存在する。そこで、製造コストを抑えるために、所定温度を超えて高温となる部位がNi(=ニッケル)基超合金で構成され、それよりも低い温度となる部位が比較的安価な鋼で構成されたタービン用ロータがある。このようなタービン用ロータの製造において、Ni基超合金材と鋼材を結合するために溶接が行われるが、Ni基超合金は鋼との結合で好ましくない機械的特性を生じさせる付加的な元素を含有している。そこで、特許文献1,2では、Ni基超合金材と鋼材を直接的に溶接せずにこれらの間に中間層を介在させて溶接することが提案されている。
【0003】
特許文献1では、低合金鋼から成る第1の部分と、Ni基超合金から成る第2の部分とを接合するために、第2の部分の接合面に付加的な元素(例えば、Nb(=ニオブ))の割合が内部から外部に向かって漸次減少する中間層を披着させたうえで、第1の部分を溶接する手法が記載されている。ここで、第2の部分を構成するNi基超合金としてIN625〔IN=インコネルは登録商標、以下では省略〕が用いられ、中間層としてIN617が用いられている。中間層は、複数の個別層がMAG(Metal Active Gas welding)溶接またはTIG(Tungsten Inert Gas welding)溶接により互いに結合されたものである。
【0004】
また、特許文献2では、Ni基超合金から成る第1のロータディスクと、鋼から成る第2のロータディスクの間に、両ロータディスクと溶接されるロータリングを介挿することが記載されている。ここで、第1のロータディスクはワスパロイ〔ワスパロイは登録商標〕から成り、第2のロータディスクは10%Cr(=クロム)鋼から成る。また、ロータリングは、10%Cr鋼から成る第1のロータリングと、溶体化処理されたNi基超合金(IN617)から成る第2のロータリングとが溶接されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−307169号公報
【特許文献2】特開2005−121023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の中間層および特許文献2のロータリングは、異なる組成の複数の部材から成り、これらの部材がMAG溶接またはTIG溶接等のアーク溶接により接合されている。アーク溶接では溶接の過程で母材が多く溶解することからワークの接合部分の変形が大きい。このため、溶接後に切削等の機械加工が必要となってしまい、加工量が増加する。
【0007】
また、Ni基超合金材と鋼材(例えば、フェライト鋼)を溶接する場合、一般に、焼入れおよび焼戻し処理を行った状態の鋼材と、溶体化処理を行った状態のNi基超合金材とが溶接される。溶接後に、Ni基超合金部分の延性と靭性を確保するために700℃を越える温度で時効硬化処理を行う必要があるが、鋼部分がこの温度まで上昇すると強度特性が著しく劣化してしまう。一方で、鋼部分の強度特性の劣化を抑制するために、700℃以下で時効硬化処理と残留応力緩和処理とを行うと、Ni基超合金部分は優れた延性と靭性を備えることができない。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、Ni基超合金部分と鋼部分とを有するタービン用ロータおよびその製造方法であって、Ni基超合金部分と鋼部分との結合部分がタービン用ロータとして十分な強度特性を備え、これに加えて結合部分の変形が機械加工による後処理が不要な程度に小さいものを提供することを目的とする。また、本発明は、上記タービン用ロータのために好適な、Ni基超合金材と鋼材の接合方法および構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るタービン用ロータの製造方法は、
溶体化処理された析出硬化型Ni基超合金より成る第1のロータディスクと固溶強化型Ni基超合金より成る中間材とを電子ビーム溶接により接合するステップと、前記第1のロータディスクと前記中間材の接合体について、前記析出硬化型Ni基超合金を時効硬化させるために適した第1の温度で時効硬化処理を行うステップと、前記中間材と耐熱性を有する鋼より成る第2のロータディスクとを電子ビーム溶接により接合するステップと、前記第1のロータディスクと前記中間材と前記第2のロータディスクの接合体について、前記鋼を焼なますために適した第2の温度で焼なまし処理を行うステップとを含むものである。
【0010】
また、本発明に係るタービン用ロータは、複数のロータディスクが軸方向に結合されて成るタービン用ロータであって、
溶体化処理された析出硬化型Ni基超合金より成る第1のロータディスクと耐熱性を有する鋼より成る第2のロータディスクとの隣接する2枚のロータディスクを含み、
前記第1のロータディスクと固溶強化型Ni基超合金より成る中間材とが電子ビーム溶接により接合されており、且つ、前記第2のロータディスクと前記中間材とが電子ビーム溶接により接合されているものである。
【0011】
上記タービン用ロータの製造方法又はタービン用ロータによれば、タービン用ロータは鋼材から成る耐低温部分と、それよりも高温に耐えうる析出硬化型Ni基超合金から成る耐高温部分とを備えることができる。そして、タービン用ロータを構成する析出硬化型Ni基超合金材(第1のロータディスク)と鋼材(第2のロータディスク)とが固溶強化型Ni基超合金から成る中間材を介して結合されることにより、鋼部分と析出硬化型Ni基超合金部分に対し各々に適した熱処理を行うことが可能となる。つまり、析出硬化型Ni基超合金材と中間材が接合された状態で、その析出硬化型Ni基超合金部分に必要な強度特性を備えるための時効硬化処理を施すことが可能となる。さらに、析出硬化型Ni基超合金材と中間材と鋼材が接合された状態で、その鋼部分の焼なまし処理と残留応力緩和処理を施すことが可能となる。よって、タービン用ロータは、耐高温部分と耐低温部分との結合部分においてタービン用ロータとして十分な強度特性を備えることが可能となる。また、析出硬化型Ni基超合金材(第1のロータディスク)と中間材、中間材と鋼材(第2のロータディスク)のそれぞれは電子ビーム溶接で接合されるので、接合部分の変形を機械加工による後処理が不要な程度に小さく抑えることができ、タービン用ロータ製造時の加工量の増加を抑制することができる。特に、中間材と鋼材とが電子ビーム溶接で接合されることによって、これらの接合界面に脆弱相となる金属間化合物が生じないか生じても僅かであり、中間材と鋼材との接合部分の強度特性の低下を抑えることができる。
【0012】
本発明に係るNi基超合金材と鋼材の接合方法は、析出硬化型Ni基超合金から成る第1材と耐熱性を有する鋼から成る第2材の接合方法であって、
前記第1材と固溶強化型Ni基超合金から成る中間材とを電子ビーム溶接により接合するステップと、前記第1材と前記中間材の接合体について、前記第1材を時効硬化させるために適した第1の温度で時効硬化処理を行うステップと、前記中間材と前記第2材とを電子ビーム溶接により接合するステップと、前記第1材と前記中間材と前記第2材の接合体について、前記第2材を焼なますために適した第2の温度で焼なまし処理を行うステップとを含むものである。
【0013】
また、本発明に係るNi基超合金材と鋼材の接合構造は、析出硬化型Ni基超合金から成る第1材と耐熱性を有する鋼から成る第2材の接合構造であって、
前記第1材と固溶強化型Ni基超合金から成る中間材が電子ビーム溶接により接合されており、且つ、前記第2材と前記中間材が電子ビーム溶接により接合されているものである。
【0014】
上記Ni基超合金材と鋼材の接合方法又は構造によれば、析出硬化型Ni基超合金から成る第1材と耐熱性を有する鋼から成る第2材とが、固溶強化型Ni基超合金から成る中間材を介して結合されることにより、第1材と第2材に対し各々に適した熱処理を行うことが可能となる。つまり、第1材と中間材が接合された状態で、その析出硬化型Ni基超合金部分に必要な強度特性を備えるための時効硬化処理を施すことが可能となる。さらに、第1材と中間材と第2材が接合された状態で、残留応力緩和処理と鋼部分の焼なまし処理とを施すことが可能となる。よって、Ni基超合金材と鋼材の接合構造は、第1材と第2材の接合部分において十分な強度特性を備えることが可能となる。また、第1材と中間材、中間材と第2材のそれぞれは電子ビーム溶接で接合されるので、接合部分の変形を機械加工による後処理が不要な程度に小さく抑えることができ、加工量の増加を抑制することができる。特に、中間材と第2材とが電子ビーム溶接で接合されることによって、これらの接合界面に脆弱相となる金属間化合物が生じないか生じても僅かであり、中間材と第2材との接合部分の強度特性の低下を抑えることができる。
【0015】
上記において、前記固溶強化型Ni基超合金がインコネル625(IN625)であることがよい。
【0016】
上記において、前記析出硬化型Ni基超合金がインコネル718(IN718)であることがよい。この場合、上記第1の温度が710〜726℃の範囲の温度であることがよい。
【0017】
上記において、前記鋼が12%Cr鋼であることがよい。この場合、上記第2の温度が570〜590℃の範囲の温度であることがよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、中間材を介して結合された析出硬化型Ni基超合金材(第1のロータディスク)と鋼材(第2のロータディスク)に対し、それぞれに適した熱処理を行うことが可能となる。よって、析出硬化型Ni基超合金材と鋼材との接合部分に十分な強度特性を備えることが可能となる。また、析出硬化型Ni基超合金材と中間材、中間材と鋼材がそれぞれ電子ビーム溶接により接合されるため、接合部分の変形が機械加工による後処理が不要な程度に小さいものとなり、加工量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る圧縮機ロータを備えたガスタービンエンジンの部分破断側面図である。
【
図2】圧縮機ロータの構成要素を示す断面図である。
【
図3】中間材を介して結合される耐高温側ロータディスクと耐低温側ロータディスクを説明する断面図である。
【
図4】耐高温側ロータディスクと耐低温側ロータディスクを結合する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】耐高温側ロータディスクと中間材を接合する様子を示す上半分断面図である。
【
図6】中間材と耐低温側ロータディスクを接合する様子を示す上半分断面図である。
【
図7】耐高温側ロータディスクと耐低温側ロータディスクが中間材を介して結合された様子を示す上半分断面図である。
【
図8】IN625材を介して結合されたIN718材とFV535材の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明に係るNi基超合金材と鋼材の接合方法および接合構造を、ガスタービンエンジン(以下、単に「ガスタービン」という)に備えられた圧縮機ロータ11に適用させた実施の形態を説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0021】
まず、本実施形態に係る圧縮機ロータを備えたガスタービン1の概略構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る圧縮機ロータを備えたガスタービンエンジンの部分破断側面図である。同図に示すように、ガスタービン1は軸心C方向に延びる筒状のハウジング15と、ハウジング15に内装された遠心型又は軸流型の回転式圧縮機3、燃焼器5、および、遠心型又は軸流型のタービン7とを備えている。本実施形態に係るガスタービン1は複数の燃焼器5を備えており、これらの燃焼器5はガスタービン1の周方向に沿って等間隔に配置されている。圧縮機3、燃焼器5およびタービン7は、ガスタービン1の軸心Cを中心として同軸上に順に並んでいる。以下では、ガスタービン1の軸心Cが延びる方向を「軸方向」と呼び、軸方向において圧縮機3がある側を「前側L
F」と呼び、タービン7がある側を「後側L
B」と呼ぶことがある。
【0022】
本実施形態に係る圧縮機3は軸流型のものである。この圧縮機3は、ガスタービン1の回転体の前段を構成する圧縮機ロータ11を、ハウジング15内の前側L
Fに備えている。圧縮機ロータ11の後側L
Bには連設部12が相対回転不能に連結されている。圧縮機ロータ11の外周面には多数の動翼13が設けられており、ハウジング15の前側L
Fの内周には多数の静翼17が設けられている。また、ハウジング15の前側L
F端の内周側には筒状のカウル20が設けられており、ハウジング15の前側L
F端の外周側には吸気筒19が設けられている。
【0023】
本実施形態に係るタービン7は軸流型のものである。このタービン7は、ガスタービン1の回転体の後段を構成するタービンロータ33と、タービンロータ33を覆うタービンケーシング35とを備えている。タービンケーシング35の内周には軸方向へ複数段のタービン静翼37が設けられている。タービンロータ33には、各段のタービン静翼37と軸方向に交互に並ぶように、軸方向へ複数段のタービン動翼39が設けられている。
【0024】
圧縮機3の圧縮機ロータ11と、タービン7のタービンロータ33は、連設部12を介して軸方向に連結されている。そして、このように一体化されたガスタービン1の回転体は、軸受43,47を介してハウジング15に回転自在に支持されている。
【0025】
上記構成のガスタービン1において、圧縮機3は外部から導入した燃焼用空気99を圧縮して燃焼器5に送り込み、燃料98を燃焼器5に吹き込んで燃焼させる。詳細には、圧縮機3の圧縮機ロータ11が回転すると、動翼13と静翼17の作用により、吸気筒19からハウジング15内周面とカウル20外周面との間を通ってハウジング15内に燃焼用空気99が吸入され、吸入された燃焼用空気99が圧縮される。圧縮された燃焼用空気99は、圧縮機3と燃焼器5の間に設けられたディフューザ21を介して燃焼器5へ送られる。燃焼器5では、圧縮された燃焼用空気99と燃焼器5内に噴射された燃料98とが混合されて燃焼し、高温高圧の燃焼ガスを発生させる。この燃焼ガスは、タービンノズルからタービン7内に流入し、タービン7のタービンロータ33を回転させる。タービン7の軸は圧縮機3と直結しているので、タービン7から圧縮機3へ圧縮動力が伝わることにより、ガスタービン1は運転を持続する。
【0026】
ここで、上記構成のガスタービン1が備える圧縮機ロータ11について詳細に説明する。
図1に示すように、圧縮機ロータ11のうち後側L
Bは、燃焼器5に近く且つ圧縮された燃焼用空気99と接触するため、高温に曝される領域となる。圧縮機ロータ11の前側L
Fは、圧縮機ロータ11の後側L
Bよりも低い温度に曝される領域である。以下では、圧縮機ロータ11のうち、高温に曝される領域を「高温領域」ともいい、それよりも低い温度に曝される領域を「低温領域」ともいう。なお、高温領域は圧縮機ロータ11のうち300℃を越える高温となる部位とし、低温領域は圧縮機ロータ11のうち300℃以下となる部位とする。
【0027】
図2は圧縮機ロータ11の構成要素を示す断面図である。
図2に示すように、圧縮機ロータ11は複数のロータディスク25で構成されており、これらのロータディスク25が軸方向に結合されて成る。各ロータディスク25は中空の円盤状を有し、その外周には動翼13が植設される凹部23が形成されている。圧縮機ロータ11を構成する複数のロータディスク25のうち、高温領域のロータディスク(以下、「耐高温側ロータディスク25H」という)は高温強度を有する材料である析出硬化型のNi基超合金で構成されている。ここでは、析出硬化型のNi基超合金としてインコネル718(IN718)を採用している。一方、圧縮機ロータ11を構成する複数のロータディスク25のうち、低温領域のロータディスク(以下、「耐低温側ロータディスク25L」という)は比較的安価な鋼材で構成されている。ここでは、鋼材としてステンレス鋼を用いており、その中でも高温強度に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼である12%Cr鋼(例えば、FV535)を採用している。
【0028】
圧縮機ロータ11において、耐高温側ロータディスク25H同士、すなわち、Ni基超合金材同士は、電子ビーム溶接(EBW:Electronic Beam Welding)又はアーク溶接により相互に接合されている。また、圧縮機ロータ11において、耐低温側ロータディスク25L同士、すなわち、鋼材同士は、電子ビーム溶接又はアーク溶接により相互に接合されている。そして、圧縮機ロータ11において、隣接する耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25L、すなわち、Ni基超合金材と鋼材は中間材26(
図3、参照)を介して結合されている。
【0029】
図3は中間材26を介して結合される耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25Lを説明する断面図である。同図に示すように、耐高温側ロータディスク25H(Ni基超合金材)と中間材26とが電子ビーム溶接で接合され、中間材26と耐低温側ロータディスク25L(鋼材)が電子ビーム溶接で接合される。中間材26は、固溶強化型のNi基超合金材である。ここでは、固溶強化型のNi基超合金としてインコネル625(IN625)を採用している。IN625は、Ni−Cr地にMo(=モリブデン)とNbが固溶することにより強化されており、高温強度に優れている。
【0030】
次の表1に、本実施の形態に係るロータディスク25(耐高温側ロータディスク25H,耐低温側ロータディスク25L)の材料(析出硬化型Ni基超合金,鋼)と、中間材26の材料(固溶強化型Ni基超合金)の化学組成を示す。
【0032】
続いて、
図4〜7を参照しつつ、圧縮機ロータ11の製造方法について説明する。
図4は耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25Lを結合する処理の流れを示すフローチャートであり、
図5は耐高温側ロータディスク25Hと中間材26を接合する様子を示す上半分断面図であり、
図6は中間材26と耐低温側ロータディスク25Lを接合する様子を示す上半分断面図であり、
図7は耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25Lが中間材26を介して結合された様子を示す上半分断面図である。以下では、圧縮機ロータ11の製造工程のうち、耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25Lを結合してロータディスク結合体27を製造する工程について詳細に説明する。この説明には、析出硬化型Ni基超合金材と鋼材の接合方法が含まれる。
【0033】
まず、
図5に示すように、耐高温側ロータディスク25Hと中間材26、すなわち、析出硬化型Ni基超合金材と中間材26とを突き合わせて、溶加材を用いずに電子ビーム溶接により直接的に接合する(ステップS1)。このように耐高温側ロータディスク25Hと中間材26が接合されて成る接合体を「一次ワークW
1」と呼ぶこととする。なお、耐高温側ロータディスク25Hは、中間材26と接合される前に、析出硬化相が固溶する固溶温度以上で溶体化処理が施されている。電子ビーム溶接は、アーク溶接と比較して、母材の溶解量が少なく且つ接合部分の歪みが少ない加工が可能である。また、電子ビーム溶接は真空中で加工が行われるため、安定した溶接品質を保つことができる。したがって、一次ワークW
1において耐高温側ロータディスク25Hと中間材26の接合界面の変形や歪みは小さく、接合加工後に切削加工等の後処理をする必要がない。
【0034】
次に、一次ワークW
1に対し時効硬化処理を行う(ステップS2)。このように、時効硬化処理された一次ワークW
1を「二次ワークW
2」と呼ぶこととする。この時効硬化処理では、溶体化処理された耐高温側ロータディスク25H、すなわち、析出硬化型Ni基超合金材の硬さおよび強さ(延性および靭性)を増進させるために適切な第1の温度で、一次ワークW
1を均熱保持する。ここで、「第1の温度」とは、耐高温側ロータディスク25Hを構成している析出硬化型Ni基超合金を時効硬化させるために適切な温度である。本実施の形態に係る耐高温側ロータディスク25Hを構成している析出硬化型Ni基超合金はIN718であるので、第1の温度は710〜726℃の範囲の温度であり、最も望ましくは718℃である。
【0035】
一次ワークW
1に対し上記時効硬化処理を行うことにより、耐高温側ロータディスク25Hを構成している析出硬化型Ni基超合金(IN718)の母材中に、強化相となる微細な析出相(Ni
3Nb−γ”相;ガンマツープライム相)が析出し、析出硬化型Ni基超合金の強度が上昇する。なお、析出硬化型Ni基超合金材と中間材の溶接時に析出相(γ”相)が存在すると割れが発生し溶接性を著しく損ねてしまうことから、耐高温側ロータディスク25Hと中間材26の溶接後に時効硬化処理を行わねばならない。
【0036】
続いて、
図6に示すように、二次ワークW
2の中間材26と耐低温側ロータディスク25L、すなわち、中間材26と鋼材とを突き合わせて、溶加材を用いずに電子ビーム溶接により直接的に接合する(ステップS3)。
図7に示すように、二次ワークW
2と耐低温側ロータディスク25Lが接合されて成る接合体を「三次ワークW
3」と呼ぶこととする。なお、耐低温側ロータディスク25Lは、中間材26と接合される前に焼入れ処理が施されている。中間材26と耐低温側ロータディスク25Lの接合が電子ビーム溶接により行われるため、三次ワークW
3において耐低温側ロータディスク25Lと中間材26の接合界面の変形が小さく、接合加工後に切削加工等の後処理をする必要がない。
【0037】
最後に、三次ワークW
3に対し焼なまし処理を行う(ステップS4)。このように、焼なまし処理された三次ワークW
3を「ロータディスク結合体27」と呼ぶこととする。この焼なまし処理では、三次ワークW
3を適切な第2の温度に加熱及び均熱した後、室温に戻ったときに、平衡に近い組織状態になるような条件で冷却する。ここで、「第2の温度」とは、耐低温側ロータディスク25Lを構成している鋼材の適切な焼なまし温度である。本実施の形態に係る耐低温側ロータディスク25Lを構成している鋼材はFV535であるので、第2の温度は570〜590℃の範囲の温度であり、最も望ましくは580℃である。
【0038】
三次ワークW
3に対し上記焼なまし処理を行うことにより、耐高温側ロータディスク25Hと中間材26、および、中間材26と耐低温側ロータディスク25Lの各接合部において電子ビーム溶接時の残留応力が低減する。したがって、上記焼なまし処理により、三次ワークW
3に対し残留応力緩和処理(SR処理;Stress Relief heat treatment)が施されることとなる。これに加えて、上記焼なまし処理により、三次ワークW
3の鋼材において溶接により影響を受けた部位、すなわち、溶接時に溶けた部位が再加熱されて、硬化組織に焼戻しされる。よって、上記焼なまし処理により、三次ワークW
3の鋼材、特に、鋼材の溶接により影響を受けた部位の強度特性の改善が図られる。
【0039】
上記ステップS1〜4の処理により、耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25Lとが中間材26を介して結合されたロータディスク結合体27を得ることができる。このロータディスク結合体27の耐高温側ロータディスク25H側の端面は、他の耐高温側ロータディスク25HとステップS1の前又は後の段階で電子ビーム溶接又はアーク溶接により接合される。一方、ロータディスク結合体27の耐低温側ロータディスク25L側の端面は、他の耐低温側ロータディスク25LとステップS3の前又は後の段階で電子ビーム溶接又はアーク溶接により接合される。このようにして、複数のロータディスク25が順次接合されることにより圧縮機ロータ11が製造される。
【0040】
図8は、上記ステップ1〜4と同様の処理によりIN625材(中間材)を介して結合されたIN718材(析出硬化型Ni基超合金材)とFV535材(鋼材)の断面写真である。同図から、IN718材とIN625材とが、溶加材を用いない電子ビーム溶接によって、双方の接合界面の材料が直接的に溶け合って接合されていることがわかる。また、IN625材とFV535材とが、溶加材を用いない電子ビーム溶接によって、双方の接合界面の材料が直接的に溶け合って接合されていることがわかる。そして、IN718材とIN625材との接合部、IN625材とFV535材との接合部の双方において、接合加工後の歪みや変形が小さいことがわかる。
【0041】
なお、IN625材とFV535材をアーク溶接で接合すると、これらの接合界面に脆弱相となる金属間化合物が生じることが一般に知られている。これに対し、上記ステップ1〜4と同様の処理によりIN625材(中間材)を介してIN718材(析出硬化型Ni基超合金材)とFV535材(鋼材)とを結合すれば、FV535材とIN625材との接合界面に脆弱相となる金属間化合物が生じないか生じても接合強度に影響を与えない程度に僅かであることが、顕微鏡観察により確認された。このように、FV535材とIN625材を電子ビーム溶接で接合すると、アーク溶接で接合する場合と比較して接合加工時に接合界面で溶解する材料の量が著しく少なくなるため、脆弱相となる金属間化合物が生じることを抑制できるとともに、接合界面の歪みや変形を抑制することができる。
【0042】
以上の通り、上記圧縮機ロータ11の製造方法によれば、圧縮機ロータ11は鋼から成る耐低温側ロータディスク25Lが接合された耐低温部分と、それよりも高温に耐えうる析出硬化型Ni基超合金から成る耐高温側ロータディスク25Hが接合された耐高温部分とを備えている。そして、耐高温側ロータディスク25Hと耐低温側ロータディスク25Lとが固溶強化型Ni基超合金から成る中間材26を介して結合されることにより、その鋼部分とその析出硬化型Ni基超合金部分に対し各々に適した熱処理を行うことが可能となっている。つまり、耐高温側ロータディスク25Hと中間材26が接合された状態で、その析出硬化型Ni基超合金部分に必要な強度特性を備えるための時効硬化処理を施すことができる。さらに、耐高温側ロータディスク25Hと中間材26と耐低温側ロータディスク25Lが接合された状態で、残留応力緩和処理と鋼部分の焼なまし処理とを施すことができる。よって、圧縮機ロータ11は、耐高温部分と耐低温部分との結合部分において、ガスタービン1が備える高温部品として十分な強度特性を備えることができる。
【0043】
さらに、上記圧縮機ロータ11の製造方法によれば、耐高温側ロータディスク25Hと中間材26、中間材26と耐低温側ロータディスク25Lのそれぞれは電子ビーム溶接で接合されるので、これらの接合部分の変形を機械加工による後処理が不要な程度に小さく抑えることができる。よって、圧縮機ロータ11製造時の加工量の増加を抑制することができる。特に、中間材26と耐低温側ロータディスク25Lとが電子ビーム溶接で接合されることによって、これらの接合界面に脆弱相となる金属間化合物が生じないか生じても僅かであり、中間材26と耐低温側ロータディスク25Lとの接合部分の強度特性の低下を抑えることができる。
【0044】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能である。
【0045】
例えば、上記実施の形態では、析出硬化型Ni基超合金としてIN718を用いているが、これに限定されず他の析出硬化型Ni基超合金であってもよい。
【0046】
また、例えば、上記実施の形態では、鋼として12Cr鋼を用いているが、これに限定されず、タービン用ロータの使用温度範囲に適した他の耐熱鋼であってもよい。例えば、2.5Cr鋼や9Cr鋼等の低合金鋼や、Crの含有量が12%より多いステンレス鋼であってもよい。
【0047】
なお、上記実施の形態では、本発明をガスタービンエンジンが具備する圧縮機ロータに適用させて説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、航空機用、船舶用、陸上車両用、陸上設置型の発電用のそれぞれでエンジンとして使用されるタービンエンジンにおいて、当該タービンエンジンが具備するタービン用ロータに広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、航空機用、船舶用、陸上車両用、陸上設置型の発電用のそれぞれでエンジンとして使用されるタービンエンジンが具備する、優れた耐熱性を有するロータを製造するために有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 ガスタービンエンジン
3 圧縮機
5 燃焼器
7 タービン
11 圧縮機ロータ
25 ロータディスク
25H 耐高温側ロータディスク
25L 耐低温側ロータディスク
26 中間材
27 ロータディスク結合体
33 タービンロータ